初めまして、朝風(サノヤ)と申します。
pixivなどでいろいろな作品を書いています。
君の名は。良かったです。5回見ました。みんな助かって良かったです…。

今回はさやちんとテッシ-を書きました。あの二人が好きです…

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彼と私の過去と未来

-耳を劈く爆音と爆風、激しい揺れ...壁の如く押し寄せる湖...2013年10月4日午後8時42分、あの星が降った夜...

それが私たちの見た「故郷」の最後の姿だった-

(糸守故郷記念委員会著『糸守-彗星と共に消えた故郷-』序文,2022年,飛騨出版)

 

 

-あなたの『糸守』を教えてください-

Qあなたの当時の年齢や職業を教えてください。

A当時は糸守高校の2年生でした。

 

Q当時はどちらにお住まいでしたか?

A宮守地区です。

 

Q宮守と言えば全域が「壊滅」してしまった地域ですがご家族は?

A幸いみんな無事でした。

 

Q当日は何をしていましたか?

A避難放送まで高校に用事があっていました。

 

Q彗星の事は落下前はどう考えていましたか?

A数日前から夜になると尾を引いて流れる彗星が見えていましたので、これがもっと近くで観れるのだと楽しみにしていました。

 

Q落ちた直後(落下数日)のことを教えてください。

A私たちは校庭より奥にいました。落下の瞬間、爆風で飛ばされできたものがあって、大きなものは無かったのですが、当たって怪我をした人が多かったです。中にはそれが元で亡くなった人もいました。町のお医者さんとかが治療に当たってくれました。私は飛んできたガラスが腕に刺さってしまい、結構血が出ました。私も治療を受けました。

次の日には、陸上自衛隊の救援部隊が到着して、市内で検査を受けました。幸い他には異常がなかったのでそのまま仮避難所になっていた市内の体育館へ行きました。その後、数ヶ月は市内の避難住宅で生活していました。

 

 

 

Qその後はどうしましたか?

A私はあまり覚えていません。ほとんど涙なんか出なくて、家族が言うには呆然として生きていたみたいです。

当時の友人達には随分と助けられました。

ある日、目が覚めたら避難住宅に居て、凄くお腹が減っていました。でも力が入らずに起き上がれなくて、部屋に来た母にお腹が空いたと伝えると大喜びで慌ててお粥を作ってくれました。なぜお粥なのか、もっと食べたいものがあったのにと思いましたが、姉に抱き起こされて口にお粥を運ばれました。その時に初めて身体に繋がれた点滴のチューブと栄養失調で痩せ細って起き上がることさえ出来なくなっていたことに気づきました。お粥を食べて、数日後にはなんとか起き上がれるようになりました。友人達にも連絡が行ったみたいで、みんなでお見舞いに来てくれました。特に中の良かった友人達とは、色々なことを話し合いました。糸守のこと、町のこと、これからのこと...それから声を上げて泣きました。こんなにも涙は出るのかというくらい泣きました。友人達も泣いていました。

 

 

 

それから、私の家族は東京に居た親戚を頼って東京で生活をする事になりました。1月に引越しをして、私も都内で編入する高校を探して、四月から渋谷区の公立学校に編入しました。ほかの友人達も東京で生活をすることになりましたが、みな別々の高校へ行きました。

3年生からの編入で、転校先の高校の人たちは岐阜県から引っ越してきたと言うと事情を察してくれたようでみな仲良くしてくれました。東京の人たちはみんな進んでいて、様々な面で見識が広がったような気がしますが、どうも軽く見えてしまって...

糸守時代の友人達も、東京にいる子にはよく会いました。お互い何をやっているのか、学校はどうかなど...昔から馴染みのある人ばかりで、懐かしさと安らぎのを感じました。そして寂しさも...

糸守時代の後輩は何人か編入先の高校に入っていました。あまり今まで話したことのなかった子にもかなり慕われました。

高校を卒業して大学は東京の私立大学へ入りました。そこには糸守時代の親友がいて、結構大変な生活でしたが充実していました。2年生からは糸守時代からの親しい人と同棲を始めました。彼とは喧嘩もしましたが、概ね順調に進みました。友人にも糸守の人と付き合っている子が多かったです。

大学を出た後、ラジオ局のスタッフとして就職しました。皆いい人...とは言いきれない面もありましたが良くしてもらいましたし、毎年10月4日になると企画を任せてもらったり、ラジオで発言したりする機会もありました。まだその頃は糸守の事はあまり話したくはなかったんですが、企画を考えたり、ラジオで話すうちに、少しずつ整理ができるようになりました。

去年の9月、彼からプロポーズを受けました。あの日から8年、私たちは糸守にいました。高校の跡地で、対岸に見える私たちの住んでいた地域を見て、静かに泣きました。彼も涙を流していました。

この頃にはもうとっくに町は名実ともに無くなっていて、故郷は失われていました。心の中に想い出としてしか残っていません。私は彼のプロポーズを受けることにしました。今はもう結婚していて、東京のアパートで暮らしています。糸守のあの日以降、心から喜びあえるようになったと思います。

生まれてくる子供たちは、どこでも幸せになれると思います。でも、胸を張って「ここが私のふるさと」と言えるところが無いのが、そして東京のようなビルの森の中で育っていかねばならないことが可哀想でなりません。私は、生まれてくる子供たちには自然の中で伸び伸びと育ってほしいと思います。

 

 

 

Q糸守について何か言いたいことはありますか?

A糸守にいた時は、灯台もと暗しで「こんな町、早く出たい」「東京に行きたい」といつも思っていました。でも、失って初めて糸守の良さに気付きました。高校生の自分にもしも会えるのならば「糸守もいい町だよ」と言ってあげたいです。

(宮守地区出身・勅使河原早耶香(旧姓:名取・26歳))

 

 

 

私は夜、電気も付けずに部屋の窓を開けて空を見ていた。空には、糸守ほどでないにしろ星が輝いていた。部屋にはダンボール箱が積んであって、部屋はガランとしていた。

はーっと息を吐き出せば、吐息は白くなって夜空に消えて行く。そんな様子を、私はボーッと見つめていた。すーっと襖が滑る音がして、同時に聞きなれた声が降ってきた。

「なにしとるんや、夜風は身体に障るやろ」

「ちょっとくらい良いに...ケチ」

私はその声の主に若干抗議した。

「...程々にしとき」

いつものように彼は少し呆れたような、しょうがないと言ったような感じで私の行動を追認する。そして、こう言うのだ。

「もう自分ひとりの身体じゃないんやさ。頼むで、さやちん」

そうして、手にしていた袢纏をそっと掛けてくれた。

袢纏の襟を直しながら ありがとう と言うと、彼は...テッシーは少し笑って「星を見るのもええけどな」

 

程々にしないよ

 

とだけ言って襖を閉めて出ていった。襖の隙間からは僅かに暖かい光が漏れていて、リビングでテッシーがいる気配だけがした。きっと寝る前に飲んでいるに違いない。私は

「トイレが近くなるからやめた方がいい」

と常々言っているのだが、彼は応じない。でも、自分勝手では無いのだ。

私も、彼も糸守の人間としては珍しくお酒が好きで、同棲していた頃から予定が合えば晩酌をしていた。特に彼は、それを愉しみに仕事を頑張っていたと言ってもいい。でも、彼は私の中に新しい生命が宿って晩酌に参加出来なくなるとあっさり晩酌を辞めた。「ひとりで飲むのはつまらん」とは彼の言葉だが、彼が実は私が飲みたくなるといけないと率先して酒絶ちをしているのを知っている。最近は仕事で産休を取る...という訳では無いが、職場で頼み込んで遅出早退で私を支えてくれている。慣れない家事に四苦八苦している彼を見ると、きっとこの先も私たちはきっと大丈夫...そんな風に思える。

襖の向こうから、彼が立ち上がる音が聞こえた。僅かに襖を開けて様子を伺えば、彼は冷蔵庫を開けて何やらゴソゴソ...昨日は麦茶だった。今日は...牛乳を取り出した。手際よく砂糖を入れて、レンジに入れる...どうやらホットミルクらしい。彼がこちらを向いて、目が合う私は慌てて隠れる。別に悪いことをしている訳じゃないのに...

襖の向こうから足音がして、スーッと襖が開く、その主は...当然テッシーだ。湯気の立ったマグカップを持っている。

「そんな所で何してるんや」

私は苦笑いをこぼす。彼は特に何を言うでもなく、窓際に座って夜空を見た。その吐息は、私の時と同じように夜空に広がって消えて行く。ああ、私もテッシーも同じ人間で、そして生きているんだ。その事実が、私にはとても嬉しかった。あの日、友人が「彗星が落ちる」「みんな死ぬ」「避難させなきゃ」なんて言わなければこうしてなんでもない夜空を見上げていることも無いのだ。彼女に心の底から感謝するとともに、心が締め付けられる。

気づけば、彼が私を呼んでいる。窓際に行き、どうしたのかと尋ねると、彼は私にマグカップを渡す。

「気持ちが落ち着くで、飲みない。」

ああ、彼は私を大切にしてくれているのだ。

「ありがとう。」

彼はニッコリ笑った。

夜空には澄んだ空気に星が見えて、夜間飛行の飛行機がチカチカと青や赤のランプが点滅していた。

 

そろそろ寝よか

 

彼が窓を閉めながらそう告げた。私も頷いて布団に潜る。彼は横にいて、私の手を握る。少しだけ、震えていたのは寒さのためだけではないだろう。私は色々な想いを込めて手を握り返した。彼の手は大きくて、暖かくて、とても心地いい。そして、ゆっくりと、眠気が私にのしかかる。とろとろとする意識の中に、彼の規則正しい寝息を聞いた気がした。


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