インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

102 / 300


 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 最近忙しい上にストックも尽きているのでね、気長にお付き合い下されば幸いです。

 今話の視点はオールリーファ。例の如く全然進んでおりませんが、今話はALO経験組であるリーファだからこそ面目躍如なお話。

 《ⅩⅢ》は想像を具現化する武具。

 ALOはファンタジー感溢れる、SAOからはほぼ排他された魔法の世界。

 ――――つまり、両者のいいとこ取りをすれば、というお話。

 文字数は約一万六千。

 ではどうぞ。





第九十三章 ~魔法戦士~

 

 

「リー姉に力を貸して欲しい事がある」

 

 《ホロウ・エリア》に於ける第二のエリア【浮遊遺跡バステアゲート】探索の二日目となる朝、日課である鍛練を始めようとまだ寝ている皆と夜警の為に起きているユウキさんから離れたところで彼がそう言って来た。

 その様子から真剣さから少なくとも彼にとって重要な事なのだろうと当たりを付けたあたしは、話を聞く為に居住まいを正す。

 

「あたしに出来る事なら。それで、一体何?」

 

 わざわざ《ホロウ・エリア》に居る間に言って来る程だ。昨日の刃竜との遭遇も相俟って、何か対抗策と考えたのだろう。

 その対抗策にはあたしに何かしらの役割が振られているに違いない。

 キリトはその能力の顕著さとSAOでの経験の殆どがソロばかり故にワンマンプレイが目立つが、攻略や《アインクラッド》での立ち振る舞いを聞いた限り、彼は自身側が複数である事を前提とした戦い方の心得というものを持っている。そうでなければレイド戦でのリカバリーを担えない。

 刃竜に関してレベルやステータスの概算値も分からないが、少なくとも一撃でキリトを瀕死に追い込む程の高い攻撃力を有している事は分かる。

 しかも、刃竜は二体居て、恐らく同格。どちらも彼にとっては瀕死級、あたし達にとっては即死級の攻撃を有している事になる。

 そんな敵相手に行き当たりばったりで挑んでも全滅は目に見えている。情報が無いのであればそれは仕方ないが、既に敵の正体や戦法をある程度決定出来るだけの情報を持っている以上、やはり対策の一つや二つは必要だ。

 そして、彼はそれを考え出すだけの智慧と経験がある。

 残念ながらSAOでの戦闘経験に乏しく、更には地上に縛り付けられた状態で相手は空を自由に飛べるという制限下での経験もほぼ無いに等しい以上、あたしはあの刃竜への有効的な作戦が思い浮かばなかった。

 妖精として空を飛べる事が売りのALOも勿論ダンジョン内ではほぼ飛べないに等しい。正確には陽光と月光が無いところでの連続飛行は十分が限度とされているのでその時間内であれば飛べる。魔法の光を当てれば僅かなりとも飛行出来るし、闇妖精インプであれば光無しでも種族特性で僅かな間はデフォルトで飛べる。

 とは言え基本ダンジョン内では徒歩を強制されるので、相手によっては敵は空中に居るというパターンも無くは無かった。それでもやはりダンジョンという閉鎖空間故に、高度はほぼ取られない。更に魔法という遠距離攻撃方法や弓矢というSAOではキリトとシノンさんしか持たない攻撃方法が普遍的にある以上、SAOに較べて対処は容易い。

 SAOに来て魔法を剥奪され、飛行も出来ず、加えて弓矢といった物理的遠距離攻撃手段を持たないあたしでは、考えられる方法は精々《投擲》スキルによる投剣攻撃程度。それも残弾がある以上頭打ちの方が速いのは明確。

 結果、あたしからは刃竜に対する対策を何も言えなかった。そこはほぼ同じ立ち位置にあるユウキさんやルクスさん、レインさん、フィリアさんも同じだ。

 ユイちゃんとサチさんは遠距離攻撃手段を持つためある程度対策を立てる会話に参加していたが、そもそも攻撃手段が限られる以上あまり話は弾まない。出来るとすれば立ち振る舞いや対応程度で、それも刃竜の攻撃が殆ど分からない以上どうしようもない。キリトを一撃で瀕死へ追い込んだ攻撃も正体が分かっていないのだ。

 唯一直に矛を交え、加えて攻撃をその身で体感したキリトだけ、具体的な戦略というものを立てられる。

 そう考えていたから彼から話を振ってくれた事はとても有難かった。しかもボス戦の直前では無く、明らかにボス戦までに余裕がある現状で振ってくれたのは、こちらとしてもシミュレーションを幾度も行えるから助かる。

 ――――と、思っていたのだが。

 

「俺に魔法を教えて欲しいんだ」

「……う、んっ?」

 

 黒尽くめの義弟が発した言葉を受けて、一瞬思考が真っ白になった。

 一拍の間を開けて思考が回り始め、彼が口にした言葉の意味を咀嚼し、飲み下す。だがそれでもそう言った意図を掴めず、困惑は続く。

 この子は一体何をどうして魔法なんて知りたいのだろうかと、額に手を当てて悩む。

 

「えっと……ごめん、ちょっと待って。こっちに来てからあたしは飛行は勿論魔法も使えないのだけど。システム的に認められていない以上はOSSみたいな伝授も出来ないし習得も不可能でしょ? それは分かっていると思うけど、何で魔法なんてものを教えて欲しいの?」

 

 その筈だと確認の意味を込めて問うと、彼はうん、と頷いた。

 

「魔法を知ろうと思ったのは、単純に《ⅩⅢ》を使った戦術の幅を広げたいから。きっかけは……刃竜の攻撃を受けたから」

「刃竜の……?」

 

 《ⅩⅢ》の戦術の幅を広げる為に魔法を知ろうと思った事は十分理解出来る。

 あの武装は装備者の強固なイメージによって武器の召喚や射出の他、属性を用いた攻撃すらも可能としている。

 闘技場で登場した過去の義弟と言えるホロウの攻撃も、とてもでは無いが現実味に欠けるものばかりだった。つまりアレは幻想的なものがある攻撃、すなわち魔法とも考えられるものである。ホロウの前の《殺戮の狂戦士》や《片翼の堕天使》が放っていた火炎弾や隕石群なども正にそうと言える。隕石群は岩に炎を纏わせればいいし、降らせるなら風で纏めて放物線を描くように吹っ飛ばす良い。火炎弾の追尾性も炎自体に対するイメージ力でどうとでも出来るに違いない。

 だから最初の理由は理解も納得も出来た。

 だが、そこに刃竜の攻撃が何故入るかが分からなかった。

 その疑問を察したのか、彼もすぐに話してくれた。

 

「後から振り返って気付いたんだけど、俺が一撃で瀕死に陥ったあの攻撃は見えなかったんだ」

 

 見えていたら嫌でも気付く。しかし彼は攻撃を受けるその時まで攻撃が放たれた事に気付かなかった。それはあたし達も同様である。

 そもそも彼が吹っ飛ばされたのも刃竜レイディーンの咆哮を聞いて存在を知った時に漸く攻撃されたと気付いた。

 SAOに於いて主観的に『見えない』と判断出来る攻撃は多々あれど、客観的にすら不可視の攻撃はまず無い。それはほぼあらゆるプレイヤーやMobとの戦闘経験を持つキリトが出した結論。

 しかし事実としてあの攻撃は、後から現れた刃竜レイディーンによって放たれたものである。

 ならそこには何かしらの理屈があるに違いない。システムは決して矛盾を認めない、だからこそ理屈があり、その理屈が分かれば対処のしようがある。

 そこまで考えた時、次に彼が思い出したのは、最初に現れた刃竜ゾーディアスによる初撃だ。アレは尻尾の大剣を横薙ぎに振るったものだった。

 それから続いて思い至ったのは、自身が持つ六本一対の槍の力《風》と、《狂月剣》によって可能となる斬撃を飛ばすソードスキル《ソニックスラッシュ》。

 彼はそれらから、ひょっとすると刃竜達は尻尾の大剣を振るって織り成された不可視の風の斬撃を飛ばせるのではないかと、そう考えたという。

 それはSAOの常識的に常軌を逸した攻撃だ。流石はボスと言える性能であると彼は感嘆する。

 そして思い出す、《ⅩⅢ》の出自と性能。

 《ⅩⅢ》は闘技場で自身の似姿ホロウを倒して手に入れた特殊な武器。その性能は、あくまで人型のホロウを凶悪なボスにまで押し上げる程に強烈だ。事実として《ⅩⅢ》は新たな持ち主である少年を単騎ながらにボスの蹂躙を可能としている。

 つまりキリトは、その気になればボスとして君臨出来る。刃竜と結果的に同格になれる訳だ。

 プレイヤーの中でも突出したレベルとステータスに加え、ボスが扱っていた武装を十全に使える応用力がある以上、自身は少なくともボスと対等に渡り合える。

 そして《風》を操れる武装がある以上、システム的にも刃竜の攻撃は再現出来るのではと、そう考えたらしい。イメージは一度攻撃をその身に受けている以上固まっているから問題無いし、システム的に『風の刃』そのものに攻撃判定がある事を認められている以上は同じ事を自身がしても同じようにダメージは算出されるに違いない。ソードスキルやボス補正が無いにしても、元々のステータスや武器の攻撃力の高さで補える。

 故に彼は、自力で『風の刃』を放てるようにする事を、刃竜達との戦いまでの目標とした。相手と同じ攻撃が可能になれば対処法も考えられるからだ。

 しかし彼はこの時点で躓く事になる。

 一度攻撃を受けた以上理屈は分かるのだが、《ⅩⅢ》で再現する以上は理屈よりもイメージの方が問題となる。

 だが彼はどちらかと言うと理屈・理論を好む傾向にあり、フワッとしたものを一から考え出す事を苦手としていた。イメージを独自に作り上げる事が苦手だったのだ。

 これは多分幼い頃から文学は勿論、アニメやゲームといったサブカルチャーへ殆ど触れて来なかった事が原因だろう。ゲームでは『風の刃』なんてポピュラーにも程があるのに、それのイメージで躓く時点で明らかだ。

 《ⅩⅢ》の扱いにユイちゃんやシノンさんより長けているのも、実のところリアルで扱っていた武装やISでの運用の仕方にほぼ近いから。その経験を活かしているからこそ即座に物に出来ている。神速移動も空を飛ぶのも、どちらもISを操縦している時の経験があったから。

 しかし『風の刃』は違う。

 それは攻撃を受けただけで実際に出来た事は無いし、視覚的に見える形で見た事も無い。斬撃を飛ばすなら《ソニックスラッシュ》であるし、武器を不可視にするのも槍の穂先に幾重にも纏わせ行った事があるが、風を鋭い斬撃にして飛ばした事は無いのだ。

 地面を焦土に変えられたのは一度受けたからでもあるが、アレは地面の認識を変えるだけで良いから。極論『硬質な床や地面』を『焼け野原』と暗示するだけで良い。それもそれで難しいと思うが。

 反面『風の刃』は、一度作り上げるにもその鋭さから範囲は勿論、飛ばすまでの過程を考る必要があった。そしてキリト個人で『風の刃』に具体的なイメージを持たせ、鋭さや範囲といった細かな部分すらも、毎度考えるのではなく『風の刃』というイメージの中に取り込ませる必要がある。

 分かりやすく言えば、『風の刃』と聞いただけで『ああ、ああいうのか』と思う様にならなければならない。

 目に見える形で『焦土』を識ったから彼は容易く再現出来たが、目に見えなかったからこそ苦戦しているのである。彼は今、それが出来ないでいる状態、すなわちそれぞれが乖離しているのだ。

 ゲームの魔法でありがちな『風の刃』は色が付いているし、効果もハッキリとしているからイメージとして持ちやすいのだが、今回彼が体験したモノは不可視であるからイメージだけで再現し辛いらしい。

 結局問題なのはイメージだ。理屈・理論派な彼がどれだけ一人で考えたところで、イメージというあやふやなモノを固める事は難しいと言わざるを得ない。不可能では無いが、不向きな彼が一人で頑張るのは極めて非効率的と言えよう。

 なら『風の刃』についてのイメージを持っているであろうあたしから話を聞けばいいと思い付いたらしい。

 理由は勿論、あたしが魔法のあるゲームALOに於いて風妖精シルフを選んでいるから。更にALOの話をした際、あたしの戦闘スタイルも話していたからだ。

 あたしはALOではシルフ随一の魔法剣士として知られている。

 リアルで武道に傾倒している以上接近戦も得意だが、ALOにはほぼ回避不可能と言える魔法が存在しているためそれらへの造詣を深めていた。また馴染みのパーティーは殆ど突撃思考の者ばかりで回復・支援役が足りなかったので、そちらも得意になっている。その結果接近戦は勿論、攻撃・回復・支援魔法も万全に使いこなす魔法剣士としてのシルフ《リーファ》が誕生したのである。

 その事を以前話していたため、彼はあたしからALOでの魔法について話を聞き、少しでもイメージを固めようと考えたらしい。

 

「なるほど、魔法について知りたかったのはそういう訳だったのね。確かに魔法としてイメージを固めているあたしから話を聞けばある程度効果もあると思う」

 

 でも、とあたしはそこで眉根を寄せる。

 

「視覚的な情報が無い以上、イメージを固めるのは難しくなる。時間が掛かると思うけど良いの?」

「斬撃を飛ばす点は《ソニックスラッシュ》があるし、不可視の部分は経験があるから、あとはそれらを掛け合わせるだけなんだ……でも……えっと……」

 

 あたしの問いに答えていたキリトは、途中でどう言えば伝わるか悩むように言葉を詰まらせた。

 あたしも急かすつもりは毛頭無いので、一先ず彼の考えが固まるまでの間何をどのように話すべきか思案を始める。

 

 ――――この子の場合、下手に具体的でも抽象的でもダメなのが厄介なのよね……

 

 あたしの伝え方如何によって彼の再現法が変わって来る。

 彼が今求めている『風の刃』は、『飛ぶ斬撃』と『風による不可視』を掛け合わせた謂わば応用技と言えるもの。変な風に伝えると今後の成長の支障になりかねないから慎重に話題を選ばなければならないだろう。

 本来なら、あくまであたしは助言者という立場なので、ここまで気を遣う必要は無いかもしれない。実際自分でも過保護な自覚はある。

 それでも彼が生きる一助となり得るのであれば――そしてそれが基礎の部分であれば尚の事――面倒を見たいと思う。武道の師としても、そして《桐ヶ谷直葉》としても。

 互いに考え込み始めてから暫くして、義弟が顔を上げてこちらを見た。

 

「上手く言えないけど、目に見えないモノで攻撃するっていう感覚がイマイチ分からない。今までの俺は全部物理的に攻撃してばかりいたから」

「ふむ……」

 

 悩んでいた割にはまだ具体性の欠ける言葉だが、確かに義弟の悩みの根幹はそういう事になる。やはりアニメや漫画、ゲームといったサブカルチャーへ触れていない事が想像力を乏しくしてしまっているのだろう。

 加えて初めて触れたゲームもSAOという魔法が廃された世界。

 デスゲームになってからはシステム的な側面の論理への理解を深めたせいで、余計に理屈に合わない現象への理解の難しさを増してしまっている。理論派はオカルトを苦手とするが、彼の場合それは感情面では無く想像面の方が問題だ。

 ケイタとやらの遭遇戦での話を聞いたが、彼は氷の六花を以て攻撃を防いだという。それは氷の固さとその力を持った盾という事物がイメージを固めたのだと思う。加えて物質として視覚的な情報がある事が扱いやすさを助長している。

 しかし風は無形な上に不可視。焦土へ変える為に用いられた炎よりもよっぽど扱い辛いと言えるだろう。飛行や移動で扱われているのはISでの経験があるからこそ。

 経験があるからどうにか出来ていたのであり、未経験の部分になるとてんでダメ。経験は勿論、具体的な理屈、抽象的なイメージがそれぞれ追い付いていないか結び付けられていないから。

 

 ――――あと一押し、といったところなのね……

 

 この子は他者の結果を見て学び、自分なりに解釈して成長する性質を持つ。故に誰にも似ていながら誰とも似ていない結果を叩き出す。

 その性質が今回は災いしていると言えるだろう。自力でイメージを固められないのは中々致命的と言える。一度出来れば後は問題無いが、やはり最初の切っ掛けというものが無い以上難しいらしい。

 《ソニックスラッシュ》の存在と経験で『飛ぶ斬撃』そのものへのイメージはある。

 風を以て武器を隠す事も、扱う事も出来ている。

 問題は飛ぶ斬撃そのものを『風』に置き換える事が出来ていない事。風の圧縮、鋭さを持った空気の断層を作るというイメージを練られていないようだ。

 

 ――――でも……それは少し、妙な気が……

 

 しかしそれは些かおかしい論になる。

 

「……質問があるのだけど、いい?」

「なに?」

「現実に於いても『風の刃』がある事は知ってる? 鎌鼬って呼ばれてるんだけど」

「かまいたち……いや、知らない」

 

 そう答えられて、ああ、知らないなら当然か、と胸の裡に抱いていた疑問に納得する。

 

 かまいたち。

 

 それは妖怪の名前としても知られているが、実際現実に起こり得る自然現象だ。

 理屈として一定の空間内における極度の気圧変化によって発生する。その気圧変化は空気の断層となり、人体に触れると鋭い切り傷を負わせる。

 気付けば見えない刃に斬られているという点が恐れを呼んだ事で妖怪として知られるようになったという話が鎌鼬の由来である。別名風の妖怪だ。

 ちなみにこの現象で出来た切り傷での出血は極端に少ない事で知られる。一説によれば刃物による強引な細胞破壊と異なり空気断層による鎌鼬は切断面が異常に綺麗であるかららしいが、実際のところ本当かは知らない。

 

「そんな事が起こるのか」

「ええ。ちなみにこの鎌鼬は人為的に起こす事が理論上可能よ。剣を振った時に風を切る音が聞こえるでしょ? 剣を振る速度を極限まで高めれば剣の鋭さや対象の硬度に関係無く切断出来るとまで言われているの、それは剣の周囲の空気圧が尋常でない速度で変化して空気の断層を生み、薄く鋭い風の膜を張るから。『鎌鼬』はそういう理屈で出来ているのよ……多分、あの刃竜が放った『風の刃』もね」

 

 魔法を語る筈なのに鎌鼬を例に出して理屈を語ったのは、彼が理論派の頭脳だから。ここまで説明すれば彼は嫌でも剣に纏わせる形で『風の刃』を完成させるだろう。

 問題はそれを飛ばす事だ。

 今語った内容だけでは、彼に出来るのは精々剣戟の威力の底上げとリーチを長くする事だけ。最終目標である『飛ぶ斬撃』には至らない。

 

「今の理屈を聞いたら、キリトも多分刃に風を纏わせられるようになると思う。次はALOでの風魔法を話すわね」

「よろしくお願いします」

「はい、よろしい」

 

 そのために、今度はALOに於ける風魔法について語る。

 リアルと同じように弟子として教授を願う義弟の申し出に気を良くしながら応えた後、あたしは自分が知る限りの風魔法について語った。

 前提として、ALOにもSAOと同じ様に属性が存在している。

 SAOと違って魔法があるALOでは武器による攻撃は純物理属性と呼ばれている。これは斬、突、打、貫の四属性の総称であり、その扱いはSAOとほぼ変わらない。

 そしてあたしが語った風魔法を始めとする魔法系は、魔法属性と俗称されている。あたしはややこしいので使っていないが非物理属性という別の呼び方もある。

 魔法属性は炎、水、風、地、雷、氷、聖、闇の八つ。属性の数だけ魔法も多岐に渡っている。また複数の属性魔法のスキル値を一定以上にする事で習得可能な複合魔法というものもある。

 そして魔法には階級というものが存在する。低い方から順に下級、中級、上級の三つだ。低い方がマナポイントの消費量が少なく効果も低いが発動に必要な詠唱は短く済み、高ければその逆となる。ちなみに複合魔法は現状中級以上でしか確認されていない。

 またそれぞれの階級には用途によっても幾つか魔法が枝分かれしている。例えば追尾性能が高いが単体追尾だったり、追尾性能は低いが弾数は複数だったり、あるいは範囲攻撃だったりなどである。

 無論それぞれ同じ階級だとしても効果によって消費MPや威力が異なっているので十把一絡げには扱えない。

 用途と戦況、己の詠唱速度とMP残量を鑑み、最適な魔法を選択出来る者こそがALOでは重宝されている。またカバー範囲が広く、汎用性に富んでいるなら尚良い。回復魔法を扱えるなら言うに及ばずであろう。

 シルフ随一のプレイヤーと呼ばれるだけありあたしも魔法の造詣は深く、またある理由から、あたしは風以外も含めた魔法で知っている事の全てをキリトに語って聞かせた。

 風以外を教えた事にも理由がある。

 例えば複合魔法。

 ポピュラーなもので言えば炎と水属性の衝突による範囲系超高熱蒸気魔法や炎と風属性の同時発生による範囲系火炎旋風魔法などがある。前者でダメージを引き起こせるかは些か疑問だが、少なくとも後者の火炎旋風は確実にSAOでも再現出来るし、ダメージを見込めるだろう。

 『風の刃』を放ちたいから風魔法を知りたいと言っているとは言え、本当にそれだけしか教えないというのは非常に勿体無い。まだ余裕がある今の内に教えられるだけ教えておいた方が良い。

 水を勢いよく叩き付ければ鉄板を割り砕き、超圧縮して放てば切断させる威力を誇る。それぞれ鉄砲水やウォーターカッターで知られる現象だ。

 土は上から質量で圧し潰したり、あるいは下から打ち上げたり、横から挟み込んで自由を奪ったりも可能だろう。これは氷も同じ。

 だから識る事は全く以て無駄ではない。知識は無駄にならないと言うが、キリトの場合だとその言葉は正に的を射ている。知っていればいる程に想像力を膨らませ戦術の幅を指数関数的に広げる事が出来るからだ。

 要は知識も使い様という事。その汎用性やファンタジー面溢れる魔法は、キリトの《ⅩⅢ》と相性が非常に良いのである。

 ――――という理由もあり、意欲に溢れる弟子に感化された事であたしも久方ぶりに教授の熱意に火が付き、ALOで見て来た様々な魔法、あるいはテレビで見て来たアニメの現実的でない現象について、訥々と休む事無く語った。

 

 *

 

 魔法についての教授で朝の鍛練の時間を費やしたあたし達は、それでもある程度の充足感を得て野営地点へと戻った。既に朝日は上る時間帯だからか全員が目を覚ましていた。

 ユウキさんが作ったサンドイッチとキリトが即席で作ったスープを食べて朝食を終えた後、あたし達は早速探索を開始した。

 この【浮遊遺跡バステアゲート】エリアは《ホロウ・エリア》の北西に位置している。

 そしてあたし達が野営をしていたのは、このエリアに来た時に渡った大橋から見て北にある洞穴を進み、更に北へ突き抜けた最北端の浮遊島の一つ。浮島の一つ一つは最大規模の遺跡と同一と思しき青黒い石材の橋で繋げられており、移動の際にはそれを渡っていく事になる。

 無論、その移動は決して安全なものでは無い。橋で繋がれた浮島の大きさによってはMobが徘徊している事もあるし、それらが橋を渡る事もある。

 そして空を飛ぶ飛竜や鳥人が襲い掛かって来る事もある。実際昨日は洞穴を抜けてからも幾度か遭遇しており、その度にキリトが長弓で、ユイちゃんがエネルギーボウガンで、サチさんが槍の投擲で応戦し、距離を取ったまま迎撃していた。結果どの戦いも無傷で終えている。

 遭遇する度に敵の数は変わっていた。一体の時もあれば一度に五体の時もある。

 

『キュアアアアアッ!』

 

 そして、探索二日目の最初の戦闘は、一体の鳥人種《ハーピー》が相手だった。距離にしてまだ二十メートル近くあるが、《ホロウ・エリア》の敵の探知範囲は異様に広いらしくかなり距離があっても普通に感知されてしまう。

 更に足場の無い空にいて、あたしやユウキさんのような純粋な近接型のプレイヤーにはどうしようもなかった。

 SAOの世界観を考えるとむしろ遠距離攻撃手段を持っている者の方が少ないのでこれが普通なのだが、実際直面すると悔しさはある。命懸けの戦いでは『出来ない方が悪い』のだから。

 

「皆、実験したい事があるから俺一人でアレはやらせてもらえるかな」

 

 非対応のレンジでも備えはしておくべきなので、義弟に鍛えてもらった翠の刀身を持つ長刀を抜いて構えたところで、キリトがそう言って来た。

 一瞬ユウキさん達と視線を通わせる。

 何となく、最終決定はあたしがするべきだと眼で伝えられた気がしたので、近寄って来るハーピーを一瞥してからキリトを見る。

 

「無茶だけはしないでよ」

「了解。ありがとう」

 

 あたし達の意見を総括した言葉を投げると、彼は快活に笑い――――ノーモーションで宙に浮き上がった。

 そのままハーピーの方へ体ごと向き直った彼は、無手のまま橋から飛び出していく。

 

「え、ちょ、何で剣を抜かないのさ」

「多分見ていれば分かると思います」

 

 剣を持たずに飛び掛かる姿を見てユウキさんがやや動揺するも、ユイちゃんがすぐに落ち着かせた。横目で確認すれば心配そうではあるが不安を抱いているようには見えない。恐らく地面を焦土に変えたところを直に見たから、それに近い事をすると経験的に分かっているのだろう。

 その予想は、八割方当たっていると言える。

 

 ――――残りの二割は、攻撃方法にある。

 

 今まで彼がしてきた攻撃行動は、彼自身が言っていたように直接的な物理攻撃手段ばかり。属性の力も『物質的なモノ』に殆ど依存していた。焦土も『地面』に依存するし、『風』や『炎』なども武器に纏わせるように『武器』に依存している。

 『不可視の風の斬撃』のように、彼は無から何かを発生させるイメージを苦手としているのだ。それを補うように物質に纏わせるようイメージしてこれまで乗り切って来た。

 無論それも無駄では無い。

 だが、非効率的ではある。そもそも苦手としている分野でありながら彼が最初に《ⅩⅢ》に見出した運用方法は虚空への武器の召喚、それが出来ているのだから不可能な事では無いのである。

 だからあたしがした事は、魔法の効果やイメージの説明を使ってその苦手を克服させる事。

 一時間弱だけでは克服には至らなかったがそれでも一定の成果は挙げられたとあたしは見ている。

 その成果が、ハーピーに肉薄したキリトの攻撃にあった。

 彼はほぼゼロ距離にまで詰めたところで、ハーピーによる両脚の爪の引っ掻き攻撃を受けた。しかし彼はそれを左腕だけで受け止める。

 喰らったのではなく、止めたのだ。更に言えばダメージもゼロである。

 無論彼は盾を装備していない。装備したところで盾は被ダメージを大幅に低減するだけでノーダメージにはならないから、逆説的に装備していない事になるのだ。

 理由は簡単、ハーピーの爪が彼のアバターに届いていないから。

 爪を阻んでいるのは不可視の壁、空気の断層――――すなわち『風』。今まで攻撃と移動にしか使わなかった『風』を、彼は変幻自在の不可視の盾として運用するようになったのだ。

 竜が吐くブレスに対抗する為に使う、という経験を持っていればもっと早くに使えていたかもしれないが、その経験があったとしても腕を覆う程の盾として使うまでには至らなかっただろう。これもALOに於ける風属性の防御魔法について語ったのが功を奏した結果だ。

 風の刃を飛ばす魔法以外にも語った事が早くも実を結んだのである。

 

「吹き飛べッ!」

 

 両脚の爪を風を纏った左腕に弾かれ隙を晒した鳥人に彼は同じく風を纏わせた右腕で大きく顎を殴り上げた。拳が鳥人の顎を打ち抜くと同時、数十メートル離れたこちらにまで聞こえる程の爆音が響く。右腕に纏わせていた風を一気に拳から先へ爆発させたためだ。現実であれば鼓膜が裂けているに違いない音量だが、仮想世界だからこそ出来る荒業だろう。

 その重い一撃を受けた鳥人は鳥のように甲高い悲鳴を上げて仰け反った。鳥人のHPはその一撃だけで7割削れる。

 

「まだまだぁっ!」

 

 残り体力が3割となった敵に反撃させる暇を与えないよう、キリトは回し蹴りで大きく鳥人を蹴り飛ばす。こちらへ飛んでくる軌道だった。

 数十メートル先からこちらへ吹っ飛んでくる鳥人を見て驚嘆に固まっていたユウキさん達も身構える。

 しかし最初にこちらに辿り着いたのはキリトだった。風を上手く操って行きよりも高速で戻って来たのだ。

 彼の右手には、何時の間にか大刀が握られている。

 

「斬り裂くッ!」

 

 その大刀を、背後に近付いて来る鳥人へ向き直り様に右へ一閃。

 すると鳥人の胴体が上下に分かれた。明らかに刀身の間合いの外にいた鳥人を、《ソニックスラッシュ》のような斬閃も無しに斬ったとなれば、それは不可視の斬撃を飛ばした事に他ならない。どうやら魔法を訊きに来た理由である第一目標は達せられたようだ。

 最終目標はノーモーションでイメージを具現化させる事。

 しかしそれは流石に難しいので、現状はモーション有りで確実に起こせる事を目指していた。まだ回数が少ないから『確実』という部分を満たせているかは分からないが、この分だとそう遠くない内に魔法のイメージを流用した戦闘スタイルを確立させるだろう。

 

 ――――正直、ここまで一気に成長出来るとは思ってなかったんだけど……

 

 魔法の話をしたのは朝の鍛練時間である約一時間弱。その間はずっと話していただけで、実は一度も模擬戦闘をしていない。

 《圏外》という事もあって無手しか出来ない事、またHPの保護が無い状態だとキリトの方が乗り気では無かった事から、基本的な動きの型の復習をしようとしていた。《圏内》に戻った時にすればいいと判断して今日は持ち越したのだ。

 だからキリトは一度も魔法の話を聞いてから実際に使った事が無かった。

 それなのにこの練度。この短時間でここまで巧くなるとは少々予想外である。

 となれば恐らく、これは別の《経験》を流用している。空を飛んだ状態での戦闘はIS操縦時のものに違いない。ALOでの空中戦闘のレベルならトップランクと文句無しに言われる程の滑らかさだった。

 

 ――――現実のISで、どこまであの子は経験しているのだろうか。

 

 彼は一つの事に『馴れる』までかなりの時間を要する。

 あそこまでのレベルへ至らせているとなると生半な時間を要してはいまい。あの子は確かに経験を別の事に活かせるだけの器用さがあるが、その素地を育てるには他の人の何十倍の時間を掛ける必要があるのだ。無論一朝一夕で習得出来る筈も無し。

 あたしがそれを気にするのも、単純に考えて普通あり得ないからだ。

 ISは機械。加えてIS同士の戦闘ともなれば、基本的にIS専用の銃火器や近接武器を用いる事になる。だからISの経験と言うのは基本的に武器を使ったものであると言える筈。

 しかしあの子は、武器を使ってでなく、無手での空中戦闘に馴れていた。

 武道の師をしていて、尚且つALOで空中戦闘を疑似的に経験しているからこそ分かるが、武道に通じていると言ってもいきなり空中でそれが出来る訳では無い。重い一撃を加えるには踏み込みと強い踏ん張りの両方を利かせる必要があるが、空中戦闘ではどちらも出来ず、中々一撃を加えられない。風を操って踏ん張りを利かせるようにしているにしても、あそこまで重い一撃を滑らかに放つ事は初めての状態だとまず不可能。

 それなのにやってみせたのだから気になりもする。

 せめてあの子のISがどんなものか知っていればと、もどかしく思う。武器は知っているが、その装いの正確な状態まであたしは知らない。あの黒コートを纏っている事は知っている。

 普通のISは両手足を機械のそれに包み、巨大な武器を操るものだ。黒コート姿と言ってもそれが当て嵌まらない理由にはならない。そして巨大な機械の手足は重石を付けているようなもの。マトモな体移動は出来ないだろう。PICという慣性制御装置を以て制御しているにしても困難を極める事は明白だ。

 

 ――――思えば、あの子がどこまで経験しているのか、あたしはよく知らなかったっけ。

 

 大まかには現実で過去受けた所業、そしてこの世界での経験を聞き知っているが、実のところ本当に大筋を知っているだけでどんな時にどんな風に戦ったかの詳細は知らない。

 その知らない部分が今の途轍もない成長速度の根幹となっているのかもしれない。

 そうして、あたしは恐ろしさを感じる部分から目を逸らした。そのまま思考を続ければ残酷な何かに思い至りそうだったから。

 

 *

 

 その後、更に彼は近くを飛んでいた四体の鳥人種《ハーピー》を相手に、あたし達の見守りを受けながら『風の刃』その他諸々を実験した。

 

 一体は不可視の飛ぶ斬撃で両断され即死し。

 

 一体は不可視の重圧で地面に叩き付けられ、押し潰され続けて死亡し。

 

 一体は不可視の連打で一方的に攻撃され死亡し。

 

 一体は直径十メートル級の巨大火炎球に呑み込まれ即死した。

 

 以上が、ALOでの魔法やサブカルチャーにありがちな特殊技能や魔法で引き起こされていた現象を、彼が再現した結果である。しかも彼は風で空を飛んでいる状態で全て行っていた。

 不可視の斬撃は剣を振るっていたので、鎌鼬を再現したのだとすぐに分かる。

 しかし、残り三つが問題だった。

 不可視の重圧は、圧縮した風の壁を上から叩き付け、無理矢理押し潰していたというのがタネだった。距離に関係無く一定範囲を纏めて潰すのでエグい攻撃である。

 不可視の連打は、リアルのマシンガンといった銃火器の連射を想定し、剣の切っ先から放っていたらしい。銃火器はISの扱いや研究所で叩き込まれた知識として存在するので、風を弾丸状に圧縮して放てば無形のガトリングガンの完成である。やはりエグい。

 最後の巨大火炎球は、あたしが話した範囲系炎属性上級魔法を参考にしたらしい。しかも原典はホーミングしないのに対し、こちらは彼のイメージによって動かされる事から敵を追尾する上に、着弾して爆発した時に旋風を巻き起こして火炎旋風を疑似的に発生させるコンボもあるため、尚更エグい事になっている。

 しかもあたしの魔法の話を聞いて考え付いた攻撃方法は他にもまだあるらしい。

 

「……子供の想像力、侮れないわね、いやホント……」

 

 確かに、あたしは良かれと思って知り得る限りの事を教えた。

 だがあたしは、精々複合魔法を再現出来ればしめたものと思っていたくらいで、彼が生存出来る可能性を高める事を念頭に置いていた。それがオーバーキルを平然とする程の魔改造になると誰が思うだろうか。最初の一体の時もオーバーキル気味だったが、今度の四体の時はそれに輪を掛けて酷い。

 しかもタチの悪い事に、さっきの攻撃は全て彼の知識とイメージによってなされたもので、更にまだまだ序の口でしかない。何しろ風と炎しか使っていないのだ、残る水、氷、地、雷がどういう形で出るかは最早あたしも全く想像出来ない。

 光と闇属性の力を彼が扱えるか分からないが……

 

 ――――ホロウでの戦いを思い出す限り、光の力はあってもおかしくないけどね……

 

 思い出されるのは瀕死に陥ったキリトが回復結晶を使うのに合わせ使用された回復魔法の光や、高速ダッシュの際に纏っていた光。

 少なくともスキル系では無いようなので、多分《ⅩⅢ》に初期から登録されている武器の何れかに光属性の力があるのではと思う。黄昏結界を作ってからの光弾は正にそうとしか思えない要素だ。

 加えて白黒一対の片刃片手剣を一本の長剣へと合体させてから見せた、影と思しき攻撃。最初は《暗黒剣》のソードスキルかとも思ったが、聞けばそれは《曲刀》限定のスキル。合体剣が片手剣である以上矛盾してしまう。

 だから多分、闇属性の力もあるのだと思う。

 そしてそのカギは恐らく例の片刃片手剣だろう。アレを使っている場面をあたしは一度も見た事無いが、彼も何か理由があって使おうとしないのだと思う。だから光と闇属性について彼も知り得ていないのだろう。

 まぁ、現実的に直接害を齎す属性には思えないから、という理由もある気がするけど。

 

 ――――あるいは《薄明剣》が原因なのかしら……

 

 合体剣を使っている時にこそ本領発揮となるらしい《薄明剣》の効果は、全ての攻撃に敵の防御力無視のバフを付与し、また攻撃威力のダメージを引き上げる事。

 それはIS操縦者の覇者であるブリュンヒルデ《織斑千冬》が使っていた《零落白夜》という力とほぼ同一だ。アレはISのシールドエネルギーを切り裂き、操縦者の体を切り裂こうとするため大幅にエネルギーを喰う絶対防御を強制的に発動させる事で相手を追い込む鬼札と聞いている。

 使用すればHPが減ると言い、防御無視な上に特定武器でなければ真の力を発揮しないと言い、仕様が似過ぎだ。HPをシールドエネルギー、防御無視をエネルギー消滅の特性、特定武器を特定の機体と置き直せばほぼ完全に一致している。

 それがあるから使おうとしないのかもしれない。彼にとって、実姉を最強へ押し上げた技なのだから――――そもそも《零落白夜》の事を知っているのかという疑問もあるが。

 あるいは《狂戦士の腕輪》の効果で《薄明剣》はほぼ要らないスキル扱いになっているからもあるかもしれない。

 

 ――――でも、だとしたらおかしい。

 

 《狂戦士の腕輪》も《薄明剣》も、どちらも恐らく闘技場《個人戦》のクリア報酬だ。どちらも有用とは言えるが、しかし揃ってしまうとHPを削る《薄明剣》は使い心地が悪くなる。

 腕輪も常時防御力3割低下のデバフがあるし、本領を発揮するならソロである必要がある。それを鑑みればパーティープレイの場合だと《薄明剣》は活きるだろう。

 しかしソロである方が結果的に強いとなれば、《薄明剣》の存在意義はかなり薄くなる。

 大体設定する際に別々にする方が良いに決まっている。茅場晶彦ことヒースクリフさんがそこを見落とす筈がない。

 《薄明剣》は茅場晶彦が監修したものだろう。闘技場の報酬として設定していたかは分からないが、あの闘技場という施設を《モンド・グロッソ》のそれに準えているのなら、あそこで《薄明剣》スキルが手に入ったのも頷けない話ではない。最強のプレイヤーが現実で《織斑千冬》が最強と呼ばれる所以となった力を参考にしたスキルを手にするとなれば、中々アジなストーリーと言えよう。それを知っていたからクリア後にスキルの確認を言ったとも考えられる。

 となればおかしいのは腕輪の方。

 ひょっとすると《ⅩⅢ》を含め、あそこで手に入った装備品の類は、茅場晶彦の意志が介在しない――――すなわちデスゲーム化の黒幕が設定したものと言えるかもしれない。

 ホロウというおかしい存在に加え、妙な設定と思える装備品と来れば、あるいは狂戦士と堕天使も攻撃方法から考えて黒幕が突っ込んだものと考えられる。

 今思い返すとヒースクリフさんの問いは少しばかり不自然さがあった。

 スキルの秘匿が常識で、尋ねない事がマナーで暗黙の了解となっているのに、一番にそれを聞くという辺りだ。これは『ユニークスキルを取得する事を知っていたから』と片付けられる。

 しかし、考え方を変えてみると、『装備品が手に入る事は知らなかった』とも言える。装備品であれば名前を教えても性能までは分からないから、まだ尋ねても良い部類には入っている。それを考えれば装備では無くスキルを確認した事にも納得がいくのだ。

 これは『入手した者が第七十五層に達してもソロを貫いている』事を前提としている推察の信憑性がますます増してきた。

 

 ――――気に入らない。

 

 そこまで考え、内心で吐き捨てる。

 今まで必死に頑張って生きて来た義弟の頑張りや得た知識と発想で広げた戦術すら、黒幕の掌の上と思えて来るのはいい気分ではない。

 いや、ハッキリ言おう。胸糞悪い。

 実際誰ともパーティーを組まない方が彼としても戦いやすい点が尚更胸糞悪さを助長させ、加速させる。下手に彼のスタンスを崩すとすぐさま死へ転がり落ちそうな辺りが狡猾さとも思えてしまう。

 考え過ぎであればいいのだが。

 生憎と、あたしの勘は割かし当たる方だ。理屈で考え信憑性を増してしまっているからだろう。

 

 ――――この子が気付かないよう、上手く誘導しないと……

 

 その為にも、《薄明剣》をあまり使われないようにしなければならない。

 武器を出さずとも属性の力は操れる。イメージを固める為に最初は出す必要があっても、それが《薄明剣》の発動条件という訳では無いのだし、腕輪がある限り案外大丈夫な気はするが念には念を入れて気を付けておくべきだろう。

 そう思考しながら、あたしは自身の成長ぶりを誇らしそうにしている義弟の頭を撫でながら、内心で溜息を吐いた。

 

 *

 

 後にユウキさんやユイちゃんから聞いた話だが、あたしもキリトも間に入る余地がないくらい非常に生き生きした様子を見せていらしい。

 

 ――――何時の日か、和人と心の底から純粋な買い物を楽しみたいな……

 

 返事はまだだし、あたし以外を選ぶ可能性だってあるのだから高望みはしない。

 けれどあたしは義理の姉で、この子が巣立つまでは一緒に過ごす間柄。せめてこの子があたしの手を離れるまでに一度くらいは誰に憚る事無く遠出をしたいものだと、細やかな夢を胸に抱いた。

 胸の奥で、小さくも鋭い疼痛を覚えた気がした。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 現段階において、魔法剣士はリーファで、魔法戦士はキリトです。キリトは剣だけでなく槍や斧や弓矢に無手でも戦うので《戦士》としています。

 リーファはシステム的に魔法を使えないが、キリトはイメージさえすれば疑似魔法的なアクションを起こせる。問題は幼さとサブカルチャーの経験の無さが中二的思考を発生させていないという事。それを補っているのは強さ/力を追い求める貪欲な向上心と恐怖心。

 刃竜が不可視の斬撃を見せた事がキリトの強化フラグと気付けた方は居ただろうか(ドヤァ)

 本作のキリトは敵の攻撃から発想を得て成長していくのだ!

 更にリーファという存在そのものがある意味強化フラグだったのだ(ドヤドヤァ) まぁ、現在作中最強の技巧派キャラですし、これは順当かな、と。

 ちなみに本作に初登場した新攻撃の参考は以下の通り。


・顎の打ち上げ、回し蹴り:身長が低いキャラの定番でありアッパー、更に低ジャンプからの回し蹴り攻撃。前者がベジータ、後者がクリリンの定番攻撃。

・魔力障壁(異世界系ラノベ):変幻自在の不可視の盾。防御部分に気合/魔力を集中させて層を厚くする防御法、今話では風を使った。自分を痛め付けない且つ腕は見えるようにして防御膜を張るのは実は物凄く神経を使うんだぜ?(ベジット並み感)

・正拳気弾突き(ドラゴンボールゼノバース2):右腕に纏わせていた風を一気に拳から先へ爆発。ヤムチャ先生に序盤で伝授される気弾技扱いの技で、序盤は何気に活躍する(尚、終盤) 気弾押し付けからの爆発はドラゴンボールでは度々見られる攻撃方法。

・飛び飯綱(るろ剣):不可視の飛ぶ斬撃で両断。鎌鼬を飛ばし、敵を問答無用で切断する凶悪技。理論上ダイアモンドすら切断出来る事から原典では防御不可だが本作ではシステム的な扱いを受けているので防御すればダメージ軽減が可能。
 本作直葉/リーファも、リアルで覚醒したら出来るかも……?(白目)

・エアプレッシャー(テイルズ):不可視の重圧で押し潰し続ける。エア(風)とあるけど原典での属性は地属性。本作だと距離関係無しに視認できる範囲全体が対象になるので、一対多の戦いで超優位。SAOだと妖精王が重力魔法として用いていた。

・キャスギル(F/GO):ガトリングガンの如く不可視の連打で一方的に攻撃。これを武器複数召喚後にすると風の弾丸の豪雨が出来上がる(無慈悲) 原点では蔵から顔を出した魔杖から魔法が繰り出されていたが、今回はそれを風に置き換えた。

・スーパーノヴァ(ドラゴンボール):直径十メートル級の巨大火炎球。原典では一撃で星を破壊出来るらしい。DQシリーズのメラゾーマでも可。

・フレアトルネード(テイルズ):火炎旋風。原典では火属性中級魔術に該当、MP(TP)のコストに反して威力が結構高い。
 リアルでは地震後にマジで起こる自然災害の一つ、対処法はゲーム『壊滅都市』をしよう。


 本編で語られている通り、今話で出たのは火属性一つ、風属性四つ。

 これにまだ水、地、氷、雷、光、闇が残ってるんだぜ……?(震え)

 《ⅩⅢ》万能過ぎィッ!(自業自得)

 ちなみに、今話でキリトは結構強化された感がありますが、実際隙が大き過ぎてリーファどころかユウキやアスナにすら隙を突かれて不発に終わるという大失態に終わる状態なので、対人戦ではあんまり使えなかったりする。

 でも対Mobでは無双出来る(尚、キリトの打倒最終目標はブリュンヒルデ……)

 使いこなすには意識的にイメージするのではなく、無意識の部分にまで刷り込まれる程でなければならないのだ!(超矛盾理論)

 例えるなら原作アンダーワールド編のキリトとか『無意識に体が動いてた』とか言ってる色んな小説の主人公達みたいにね(白目)

 たった十歳でその領域に至る事を生きる道に進む最低条件とされている本作主人公ェ……

 黒
「強くならなきゃ……!」
 パワーアップ&メンタル強化

 義姉・電姉・絶剣・舞姫・黒猫・弓猫・鼠・兎
「守りたい、この笑顔」
 パワーアップ&メンタル狂化(誤字に非ず)

 紅騎士
「(少年少女達がドンドン精神的に壊れていくのを見ながら)胃が痛い」
 メンタルダメージ

 今後も本作をよろしくお願い致します。

 では、次話にてお会いしましょう。


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。