インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

105 / 300


 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 テストが終わっているのに投稿に少し間が開いたのはね、PS4版の《Re:HF》のデータが吹っ飛んでやる気が削がれたからサ。

 再ダウンロードしても無事だった頃のデータを入れ直しても初期化され、Vita版のデータすら読み込まず、セーブしても初期化され続けていたからサ。完全に壊れてるネ。

 おのれアクリア、今頃になってバグとかまったくもって笑えんぞ……!

 ――――それはともかく。

 サブタイの砂上の楼閣が誰の事かは、分かるね? そう、スレイブ戦はもう終わってるんだ(地味に前話のサブタイの数字も除いてるんダゼ)

 今話の視点は前半ヒースクリフ、後半アスナ。

 文字数は約一万八千。

 ではどうぞ。




第九十六章 ~裁定:砂上の楼閣~

 

 

 闇色の弧を描く軌跡で振るわれる黒き魔剣を己が最大の信頼を寄せる十字の剣と盾を以て退け続けて早3分が経った頃、私の集中力はフロアボスとの数時間に及ぶ戦闘に匹敵する程の消耗を強いられていた。

 製作者である自分にとって、自分が所属するスタッフがプログラミングしたボスとの戦いは、最初から答えを知っている状態で試験に臨むようなものであり、そこまで苦難という事は無かった。むしろ己の素性を悟られない程度に上手く指揮し、全滅しないよう手を打つ事の方がよっぽど頭を悩ませていたと言える。

 その背景を踏まえれば、私にとっての鬼門とは正に対人戦の一言に尽きる。

 システムを一から作り上げた身故にプレイヤーに許された権限やソードスキル等は全て網羅しているが、システムが定めたもの以外――――すなわちプレイヤー達の個性というものに関しては、私も初見で未知数なところがある。

 その範例が【黒の剣士】キリト君だ。

 彼は幼さとゲーム経験の少なさに反し――あるいはそれ故か――システムに対する造詣は自分に匹敵する程に至っている。システム外スキルというシステムの枠と枠の隙間を縫うが如き技術を身に着けている点では私以上と言えるだろう。装備やスキルはあくまでシステム的なものでも、それらを総合した能力は彼オリジナルのもの。

 本来のゲームマスターの身として、そして最前線で長らく戦って来た身としても、あそこまでシステムとプレイヤーの個性双方を融合させた者は他に見ていない。

 つまりいくら私がSAOの製作者であり、システムの造詣に深くとも、システムルールに沿って動くプレイヤー個人には決して対応し切れないという事だ。

 システム的にユニークスキル故の攻撃力と防御力を得ている身ではあるが、『対人』という弱点が、私に酷い消耗を強いていた。

 

「はああああああッ!」

「ぐぬ……ッ!」

 

 反撃で振るった剣戟を半歩後退して躱したスレイブは、即座に両手で握る黒剣を振り下ろしてくる。

 闇色に明滅する剣を盾で防ぐが、中心を捉えられていなかったようで衝撃が腕に、体に、足に伝わった。同時に、視界左上に表示されるHPがまた幾分か減る。

 

「ぬんッ!」

 

 幾度目とも知れない剣と盾の衝突後、即座に盾を突き出して体勢を崩そうとする。

 しかし、スレイブはそれを予見していたか既に距離を取っていた。

 

 ――――デュエルが始まっておよそ3分が経過した現在、状況は膠着と言っても良いものとなっていた。

 

 まずこちらの攻撃は全て躱されるか剣で往なされ続けているため、一撃も掠っておらず、相手は未だノーダメージを維持している。キリト君やリーファ君も斯くやの技術には舌を巻く思いだ。

 対して黒の騎士スレイブの剣戟は、急所こそどうにか捌けているもののアバターの端々を掠っているためジリジリと僅かずつ体力を削られている。

 また両手剣使い故のパワーを活かしてか、盾の上から削りダメージを与えて来ている。中心で防げばダメージも仰け反りも無い事を初撃で見切られたらしく、途中で軌道を変えて来るようになり、上手く防げなくなってしまったのだ。

 この状況から、普通なら私がジリ貧でHPの5割を切り、負けているだろう。

 しかし《戦闘時自動回復》スキルの無効化設定をしていないデュエルなので、完全習得している効果により減った端からジワジワと回復している。取得したばかりでは分間2割の回復量だが、完全習得した状態ではフル回復する。3秒おきに判定が入る仕様なのでその度に5%回復するという事だ。割合での回復なので、最大HPが高ければ高いほど効果は大きくなる。

 このスキルの影響で私はまだ負けていなかった。どうにか残り6割を行ったり来たりとしつつ保っているのである。

 我ながらかなり大人げないとは思う。

 というか互いの実力をぶつけ合う本来のデュエルならともかく、これはギルド《ティターニア》メンバーの実力を図る為の試験デュエル。正直ここまで追い詰められた時点でスレイブの実力は十分過ぎる。

 正直さっさと切り上げても良いレベルではあった。

 

「ふぅ……」

「……」

 

 一息入れる事も出来ないほどの猛攻撃をどうにか凌ぎ切った安堵故か、僅かに気を抜いて深く息を吐く。

 黒の騎士はこれを攻撃前の準備と見たか、正眼に構え直された剣を握る手には力が込められた。

 

「うむ、スレイブ君、もう十分だ」

「――――?」

 

 そんな彼に対して結果を言えば、やや小柄な黒き騎士は剣を構えたまま小首を傾げる。

 眼を覆う仮面のようなバイザーで分からないが、仮に目元もしっかり見えていれば、彼は困惑で眉を八の字に寄せていた事だろう。

 

「私のHPを一方的に減らし続けられる時点で、君の実力は最前線で十二分に通用するレベルにある。だからもうデュエルを続行する必要は無い」

「……そういう事ですか」

 

 続けて伝えた言葉に、彼はほっと安堵の息を吐き、剣を下げた。

 どうやら私の最初の言葉は戦闘中の挑発か何かだと考えていたらしい。振り返ってみるとなるほど、そう捉える事も出来なくはない気がした。

 結果が出るまで用心を続ける点は非常に高く評価出来る。

 稀にではあるが、もう戦闘は終わったものだと気を抜いたところで痛いしっぺ返しを見る事例はある。植物系のモンスター等はその例が多い。

 また、トラップなども解除したからと言って気を抜いていい訳では無い。トラップが解除された宝箱も、開けたらそれがフラグになってモンスターが出現するとか、そういうパターンだってあるのだ。

 長らく最前線で戦って来ていれば馴れたものだが、新参ともなるとその辺の教授は時間が掛かる。

 だが本人が最初からその心構えを持っているのであれば危険は少なくなる。彼本人は勿論、彼と共に居るパーティーメンバーもだ。

 情報屋も知らない最近頭角を現した者達というからどんなものかと思っていたが、少なくともこの少年に関してはかなり高評価出来る。実力は勿論、言動に振る舞い、僅かなやり取りから垣間見える心構えも。

 

 ――――時折、キリト君と被ってしまう事が気になるが……

 

 スレイブに関して唯一最大の難点はそこだ。

 ただ本当に似ているだけだ、世界に似ている人は三人いると言うし戦闘スタイル等が彼に近いだけなのだろう――――そう納得出来れば良いのだが、キリト君に関する事だとそうは問屋を下ろせない。

 経験を積み、強くなればなるほど人間は我が強くなってくる。アスナ君やユウキ君などはやや例外ではあるが、ラン君は戦いの経験と自信を支えにして己を強くし、少数精鋭でありながら攻略会議でも意見する程の精神的強さを見せていた。

 それほど『人の過去』や『経験』というものは人間性に影響を与える。

 であれば、システムから絶対的な防御力を得ている私を純粋な技術を以て圧倒し続けた者が、かなりの自負心や自己を表現する事は明白。

 控え目であるにしても、自責感に囚われ自己を押し殺していた頃のキリト君に雰囲気が近いというのは、道理に合わない話になる。

 無論、私とて全てを知り尽くしている訳では無い。私では知り得ず想像も出来ないような過去がスレイブにはあるのかもしれないし、あるいは生来の気質という事も考えられる。最初から疑って掛かるのも些か行き過ぎた話なのだ。

 一先ず頭の片隅に置いておく程度にしておく事が今は一番だろう。

 

「さて。納得してもらえたようだからデュエルを終えたいと思うが、構わないかな?」

「はい――――あ……えっと……」

 

 快く頷いたと思った直後、何かに気付いたように声が上がる。

 スレイブ君は私から視線を切り、デュエルを観戦していた一団の一人――――アルベリヒを窺うように顔を向けた。

 絢爛華美を体現しているが如き装いの男は釈然としていなさそうな面持ちで腕を組んでいたが、特に何も言う素振りを見せない。

 

「……あの、おれがリザインした方が……?」

 

 その沈黙をどう取るべきか迷っている様子だったが、暫くして、おずおずとスレイブ君が申し出て来た。その様子は先ほど《攻略組》随一と名高いタンクを一方的に圧倒した騎士では無く、見た目の年齢よりもやや幼さを感じるものだった。

 《ビーター》/【黒の剣士】として振る舞うキリト君のように、恐らくこちらが素なのだろうなと思考しつつ、私はスレイブ君の問い掛けに首を横に振った。

 

「それには及ばない。私は別段勝率を気にしていないからね」

 

 デュエルの終了方式は《初撃決着》、《半減決着》、《完全決着》それぞれで異なって来るが、HPや時間切れよりも早く合意の下で終えるなら、降参という手段がある。

 降参、リザインなどを大声で宣言すればシステム的に勝敗が着くようになっている。普通の会話程度の大きさだったり、単語で発せられた訳では無いのであれば降参したという認定はされない。

 無論、降参した方が敗北となる。

 彼が気に掛けた事は、デュエルでの勝率。SAOは元々大規模なオンラインゲームであり、闘技場という存在から察せられるように対プレイヤー戦のコンテンツも充実させる予定だった。デュエルでの勝率が高いプレイヤーには限定装備やクエストが発行されるといった隠し要素もあったのだ。

 ある程度ではあるがそれを周知されている現在、勝率というものはそれなりに気に掛けられるものとなっている。それを知っているからこその問い掛けだろう。

 まぁ、スレイブの態度や振る舞いから察するに、目上に当たるこちらを敗北させる訳にはいかないと気を遣ったと見た方が良いだろう。

 自分も一プレイヤーなので勝率が高ければ気分は良いし、出来ればあまり黒星を付けたくはないが、今回は別に良いだろうと思っていた。戦闘過程を鑑みれば明らかに私の敗北だし、勝率は別段最重要要素という訳では無いからだ。デスゲームとなったSAOでデュエルは頻繁に行われるものでは無いから未経験の者などザラに居る、そんな中で数値が高くてもあまり誇れる事では無いのである。

 無論キリト君やユウキ君といった名うての剣士と戦った場合の結果が勝利であればとても誇れる事である。そういう意味ではユウキ君の事を少し羨ましいとも思っている。

 そんな事を考えつつ『リザイン』と大声で宣言し、デュエルを終了させる。

 アスナ君達は私が押し負けていた事に驚嘆の表情を黒の騎士スレイブ――――スレイブ君に向けていた。これまでの戦いで私が押され続けた事などボス戦以外では無かったから余計珍しく映ったのだろう。

 つまりスレイブ君はフロアボスと同等以上のポテンシャルを秘めている事になる。パワータイプの両手剣使いでありながら俊敏な回避能力を併せ持つ彼は、《攻略組》の一員として頼もしい味方になるに違いない。

 問題は……

 

「スレイブ、あともう少しで押し切れていたのに何故リザインした? 《ティターニア》の一番手として相応しいようにと言った事を忘れたか?」

 

 初戦にして目覚ましい戦果を挙げた彼は、彼が『マスター』と称する華美な装いの男性アルベリヒに詰問されていた。

 どうやらアルベリヒはスレイブ君が私を圧倒していた事では満足出来なかったようだ。加えて自らリザインを申し出た事、あのまま続行しなかった事にも不満を覚えていると見える。

 手合わせした感触からして、削りダメージを発生させた彼の筋力値は私を超えている可能性が高いので、攻め続けていれば押し切れると踏んでいたのだろう。

 確かに、彼はやや慎重気味に攻めて来ていた。ボス戦時のキリト君のように斬って斬って斬り続け、相手の攻撃は全て回避か往なすかして隙を作り、その隙を突いてまた攻撃し続けるスタイルであれば、私は為す術も無く敗けていた。

 この結果に落ち着いたのは、私とスレイブ君の相性がまだ良い方だったからだ。

 ――――私は《神聖剣》の効果によって絶対的な防御力を得ており、これによって《攻略組》随一のタンクとして活躍出来ている。攻撃も同じだ。

 逆に言えば、《神聖剣》が無ければ私はあくまで平凡でしかない。

 敵Mobに対する知識や仮想世界での経験、SAOのシステム的造詣というアドバンテージがあるから私は高い確率で敵の攻撃を防御出来ているが、そも、防御主体のスタイルを確立出来ている理由は、HPの減少量と回復量の釣り合いを《神聖剣》が取ってくれているから。高い防御力のお陰で、HPの回復がダメージより多くなっているのである。

 仮に《神聖剣》が無ければダメージが回復量より多くなっているだろうし、反撃の隙を伺おうにも敵の攻撃を防ぐだけで精一杯なのは明白。

 だからと言って、《神聖剣》があるとしてもあくまで『防御』の一点に於いて特化するだけで、反撃に関しては私の裁量と技術に任せられる。

 つまるところ、敵Mobやシステムの知識、造詣が深い私がタンクをしているのは、《神聖剣》の特性を最も使える役割だからだけでなく、キリト君のようなダメージディーラーは出来ないからだ。あまりにも激しい攻撃の前では亀のように固まる事しか出来ないのである。

 反撃を基軸としたスタイルであるのにそれを苦手としているのは、仮想世界に於けるあらゆる行動にはプレイヤー本人の反応速度と、アバターの敏捷値が大いに関わっているから。

 私の反応速度も決して遅い方では無い。

 問題は敏捷値の方にある。《神聖剣》をフルに活用する為には、どうしても筋力値へボーナスポイントを多めに振る必要があったが故に、敏捷値はやや少なめとなっている。キリト君と同程度の振り方ではあるが、それでも圧倒的に差が生まれている辺り、レベル差がある事はそれほど理不尽であるという事の証左であろう。

 ――――何が言いたいかと言うと。

 私はスレイブ君よりまだ僅かにレベルが高いが、スレイブ君は盾で防御した私に削りダメージを発生させられる筋力値を持つ。レベルアップで得られるポイントを、私よりも筋力値へ振っている訳だ。

 すなわち、スレイブ君は私より、敏捷値がやや低い。

 スレイブ君が慎重になっていた理由は、アバターの敏捷性がやや足りず、私の防御を破れない事に気付き、下手に突っ込めば手痛い反撃を喰らうと分かっていたからである。

 これで敏捷値が同格であったなら彼はもっと激しく攻撃していただろうし、私はその対処に手一杯で反撃出来ず、ジリ貧で負けていた。彼のレベルがあと1か2ほど高かったら押し負けていただろうと、そう予想出来るくらいギリギリな戦いだった。

 私のレベルはジャスト100、しかも最前線で長らく戦い続けた事で装備もスキル値も極めて強化されており、またユニークスキル《神聖剣》を習得している。

 対してスレイブ君のレベルは――あくまでアルベリヒの申告では――95。両手剣のユニークスキルはキリト君が所持し続けているからコモンスキルしか持っていない筈。装備はかなり強力なものと分かるが、隔絶してまではいない。

 総合的に見れば私が有利だったのにノーダメージで完封し切った事は、むしろ褒め称えられても良いレベルの結果である。ひょっとすると私の勝率を気に掛けて全力を出していなかったのではと勘繰れる程に彼の実力は群を抜いて高い。

 

「……申し訳、ありません」

 

 マスターの男に怒られた少年はやや肩を落としていた。

 頑張ったのにと落ち込んでいるのか、マスターに叱責された事に落ち込んでいるのか、あるいはそれ以外の心境なのかは、私には分からなかった。

 しかしあれほど頭抜けた戦闘能力で結果を出してその場で合格を受けたのだし、指示を仰がれたのに応えなかったのだから、些か理不尽が過ぎると思う。

 

「謝罪されたところで意味が無いんだよ。こっちは結果を求めて――――」

「あの、アルベリヒさんの試験を始めるので、位置に付いて欲しいのですが」

 

 流石に見ていて気分がいいものでは無いので止めようか悩んでいると、練兵場の一角に移動していたアスナ君が、アルベリヒに冷たい目を向けながら声を掛けた。

 彼女を指名したのはアルベリヒ本人。

 複数人でやるのが通例とは既に説明しているし、私とスレイブ君のが例外であった事は周知の話。スレイブ君の試験が終われば次の試験が始まる事も道理。加えてそれぞれの反省や叱ったりなどは試験が全て終わった後にすればいい話で、試験官を待たせてまでする必要は無い。

 

「女とは、恐ろしいものだな……」

 

 アスナ君は、所謂『マナー』という観点からアルベリヒを責めていたのだ。

 私はアルベリヒを押し留めてスレイブ君を解放しようとしていたが、彼女はそれだけでなく、マスターと呼ばれる男への心象を悪くする手段を取って二人のやり取りを中断させた。僅かな時間ではあるが、装いはともかく言動や振る舞いからしてあまり好まれるものではないからこそ、この手段は痛烈なものとなる。

 それをサラリとやれてしまう辺り、年下の少女と言えどもやはり『女』なのだなと痛感させられる。なまじカリスマ性があるだけそこらの女性より怖いかもしれない。

 

 ――――彼女が男女平等主義で本当に良かった。

 

 何時もの六割増しで冷たさ全開のアスナ君へ、愛想笑いを浮かべ謝罪しながら駆け寄る男を見ながら、切実に彼女の思想に安堵を抱いた。

 

 ***

 

「いや、すみません、お見苦しいところをお見せしてしまって。この失態は試験で返上させて頂きます」

「そうですか……」

 

 へらへらと愛想笑いを浮かべながらの言葉に生返事を返しつつ、腰の剣帯に吊るす鞘から愛用の細剣を抜き払い、手早くデュエル申請を済ませる。

 SAO随一と言える鍛冶師である大親友が鍛え上げた逸品は銀鏡の如き仕上りを空気に晒す。再現された陽光を反射した。

 応じるようにアルベリヒも腰の鞘から細剣を抜き払った。同時にデュエル申請を受諾し、互いの間に空間にパネルが現れる。

 デュエルが開始されるまでの時間内に、私はアルベリヒの武装や構えから少しでも情報を読み取ろうと視線を向けた。

 まず最初に視線が向かったのは、情報からして端的で分かりやすい細剣だ。

 

 ――――アレは、また珍しい形状ね……

 

 男の細剣の刀身を見て、目を眇めながら所感を抱く。

 アルベリヒが持つ《細剣》は、柄は赤紫色に、刀身は血色に染まっていた。

 その色合いだけでも禍々しいが最たるものはその刀身。

 通常、《細剣》とは刺突攻撃を基本とする武器であるが、厳密には二つ区分が存在する。

 一つは《エストック》。これは《笑う棺桶》の幹部の一人赤眼のザザがメイン武器として扱っていたもので、刺突攻撃に特化しており、斬撃は一切不可能な武器カテゴリだ。

 もう一つが私やランちゃんが持つ剣のように、斬撃にも対応可能な武器《レイピア》である。

 私が持つ細剣は珍しい事に先細りにはなっておらず、また片刃があるという特徴的な要素を持つ。刺突だけでなく斬撃にも対応した剣、それがこのリズベット会心の逸品ランベントライト。つまり私の場合はレイピア型という事になる。

 対するアルベリヒは、一見すれば刺突特化のエストックと判断しかけるが、厳密には斬撃にも対応したレイピア型だった。

 見誤りそうになる原因は刀身にある。

 切っ先から見れば刀身は五芒星ならぬ四芒星を描くような形状。各角に刃が付いているという、両刃ならぬ四つ刃の形状をしていた。加えて凶悪な事に切っ先には返しがあり、やはりこれも四芒星の如き形状。

 見た目から言い表すならば、漁業に用いられる銛の穂先を伸ばして刀身にした《細剣》といったところか。

 突いて良し、斬って良し、更に貫いて引き戻す時には返しによるダメージもあるというえげつない仕様の細剣は、これまでで一度も見た事が無かった。

 《長槍》や《短槍》では稀に店頭に並んでいる光景を見たが、それでも戦闘で使用されている光景は一度も見た事が無い。何故なら返しが付いている武器は大抵貫通属性による継続ダメージを主体にしたコンセプトなので、時間当たりのダメージ量が少なく、地味に耐久値が少なめという欠点もあるからだ。

 勿論長期戦であれば有用であると思うが、回復アイテムや武具、精神的な消耗を控える為にも、短期決着が好まれるSAOではほぼ外れ装備に等しい。

 《細剣》で貫通属性が付与されている話はキリト君やリズからも聞いた事無いので、アルベリヒの剣は普通に有用な細剣という可能性もある。貫通属性武器に付き纏うデメリットが無いのであれば、返しがある細剣は刺突を基本とする故に、尋常でないえげつなさを発揮する事請け合いだ。

 

 ――――仮にそうだとすれば、この人、ほんっとーに性格悪いなぁ……

 

 こればかりは流石にアルベリヒも冤罪というか理不尽な話であるが、短い時間ですらその印象を抱かせる振る舞いが悪いのだから、自業自得であろう。

 ちなみにキリト君がしていたら絶賛物だったりする。

 世の中とは不平等と理不尽に溢れているのだ。

 ともあれ、あの細剣はとにかく回避に徹すれば問題はあまり無い。防御だと引きの際にこちらの剣を持っていかれたり、紙一重だと返しの膨らみで見誤ったりする可能性があるので、その二点にだけ注意すれば良い。

 次に目が行ったのは男の構える姿勢だ。

 斬撃にも対応するレイピア型があり、人によっては《体術》や盾、武器防御を含むスタイルを築くとは言え、基本的に《細剣》は刺突攻撃を主軸とする武装。

 自然、武器の構え方も刺突を意識したものになりやすい。

 防御を主軸とする盾持ちは盾を持つ側の半身を前にし、槍持ちすぐ敵を突けるよう前へ突き出して構える。片手剣や曲刀、刀使いなどは斬撃を主軸とする事から、体の横に剣を持って来る場合が多い。

 両手剣使いの場合は黒の騎士スレイブの様に正眼に構える場合があるので一概には言えない。

 これらは全て、ワンアクションで武器に最適な攻撃を行える事を前提とした構えの例だ。

 故に細剣使いの場合、腕を出すだけで刺突を行える構えになる。

 よくあるのはフェンシングのように剣を持つ半身を前にし、剣の切っ先を敵に向けながら胸の前に構える格好だ。左手は突き出した後、反動を活かして体勢を戻す際に使う為、寝かすように浮かす事が多い。この構えは丁度《リニアー》の発動モーションに近いので、細剣使いはこれを基軸とする。偶に勝手にスキルが発動する事を嫌って剣を持っていない半身を前にする人も居る。

 他にあるとすれば《ヴォーパル・ストライク》のように肩に担ぐように構えるパターン。これは強攻撃や突進攻撃の場合が多いのであまりポピュラーとは言えない、肩の動きが大きいので一撃の引き戻しが遅くなるためだ。

 あとは片手で正眼に構える場合。これは片手剣使いであるユウキが基本採択している構えでもあり、体の正中線上に構えておく事で敵の攻撃を逸らしやすく、また刺突攻撃をしやすくしたりする意図がある。

 私は接敵直後だとフェンシング様の構えを取るが、読み合いになるとユウキと同じく正眼に構えるようにしている。ゴーレムのように刺突が極めて効き辛かったりして回避主体の場合は下げている。

 ちなみに現在の構えは読み合いなので正眼。フェンシング様は本気を出せる反面読まれやすいので対人戦では自重を心掛けている。

 

 そんな私と違い、アルベリヒは返しの付いた血色の細剣をフェンシング様に構えた。

 

 右半身を前にし、胸の高さで細剣を構え、切っ先を向けている。

 その姿勢が私の全力である以上警戒心が沸き立つは必定。

 あの構えは刺突に全力を傾ける為、実のところ移動には向かない姿勢である。私が読み合いで正眼の構えをするのも攻撃と回避のどちらも取りやすくする意味が大きい。

 であれば、アルベリヒはおよそ十五メートルの距離を詰めにくい事になるのだが……

 

 ――――スレイブ君の強さを考えると、ね……

 

 彼の強さは《攻略組》でも随一と言えるほどに頭抜けたものがあった。実力としても、そして ステータスとしても。

 彼であれなら、他のメンバーも相応に近いものだと見た方が良い。

 アルベリヒのレベルは、自己申告では98だ。また重甲冑により幾らか削がれているだろうが、細剣使いである以上は敏捷値へも結構な値を振られていると考えて良い。

 《ティターニア》のアタッカーがアルベリヒと先の少年の二人と見ると、前者がスピードアタッカー、後者がパワーアタッカーと言えるので、余計にスピード型と考えられる。私よりもレベルが高い分だけ敏捷値も高いだろう。

 つまり私は、あの構えでもアルベリヒならこの距離を一息で詰められるのではと、危惧していた。

 正直、最初はそこまで強くないだろうと侮っていた。

 だがレベルを聞いて、次に団長を圧倒する実力をスレイブという少年が見せた事で、警戒心を呼び起こされた。

 よくよく考えれば【白の剣士】アキトの時も似たような展開だった。この者達が《攻略組》の面々より強い可能性だって普通に存在する。【白の剣士】のように怪しい点から忌避していて、加えてあの男がキリト君に負けた事実と印象で『自分よりは弱い』と思い込んでいた。

 スレイブ君のお陰で――彼にそのつもりは無かっただろうが――私は弛んだ気持ちに喝を入れ、気を引き締め直していた。

 

 ――――そして、決闘を開始させる電子音が響く。

 

「はぁあッ!」

 

 最初に動いたのはアルベリヒ。練兵場全体に電子音が響いたと同時、彼は土を蹴って距離を詰め始めた。

 だがその速度は、決して速くはない。

 否、むしろ遅過ぎた。

 アスリート選手の速力を見た後に子供の徒競走を見たような、そんな視覚的な違和感を覚える。

 

「っ……?」

 

 どういう事だろうと内心で首を捻りつつ、突き込まれる血色の細剣を横へ弾く。間髪入れず横薙ぎに振るわれたがそれは後退して紙一重で躱す。

 大きく剣を薙いだ男の顔はやや引き攣り気味だった。

 

「ヤァッ!」

 

 何故当たらなかったと疑問を覚えていると感じる表情に何とも言えない違和感を覚えつつ、横に振り切って隙だらけの胴へ刺突を叩き込む。

 手首と体幹の捻りを加えた事で剣速に於いて単発ソードスキルに匹敵し、威力もそれなりのものとなっている正中線への一撃は、狙い過たず男の鳩尾へ吸い込まれる。銀鏡仕上げの刃は煌びやかな甲冑を強かに打った。

 鎧の上からとは言え強烈な衝撃は通るため、アルベリヒは低く呻きながらたたらを踏んだ。

 男の頭上に表示されているゲージは、今の一撃でも端が僅かに削れただけ。数値に表せば9.5割といったところか。

 デフォルト攻撃を当てた部位がダメージカット値の高い部分という事もあってダメージが少ない事は分かっていたが、1割も削れなかった事には素直に驚愕を抱く。プレイヤー同士が戦った場合デフォルト攻撃であろうと一撃で2割前後削れる事は珍しい事では無い、それが仮令防具の上からであってもだ。体の末端を掠っただけで最低でも1割削れると言えば、このダメージ量の少なさがどれほど驚異的かは分かってもらえるだろう。

 《攻略組》でもトップクラスに位置するレベルである私の、全力のデフォルト攻撃を諸に喰らってそれなのだから、それだけアルベリヒの防御力値が高い事を意味する。

 

 ――――この人、本当にレベル98なのかな……もっと高いんじゃ……?

 

 たたらを踏んでいる内に距離を取って、冷静に男を見る。

 アルベリヒが語った《ティターニア》メンバーのレベルやステータス、スキルは、全て彼の自己申告に過ぎない。

 《攻略組》を構成する何れかのギルド、あるいはギルドとして独立しつつボス攻略レイドに参加する場合は最低限レベルとステータスを見せ合う事になっているが、試験デュエルの場合は自己申告で済ませるようにしている。嘘を吐くにしても大体は盛って伝える事が殆どで、そういう場合は大抵試験中に地金を晒す結果に落ち着くので問題になり得ないと判断しているからだ。

 アルベリヒ達の場合は実際のレベルより低い値を伝えて来ている可能性がある。

 別にレベルが高い事は問題ではない。嘘を吐いた事やその意図等に些か思うところはあるが、実際に戦力になってくれるのであれば、どれだけレベルが高くても良いのだから。

 問題なのは、実際の値より低いレベルを伝えて来た意図と、何処でどうやって高レベルに至ったのか。

 レベルがどれだけ高かろうとただ高いだけでは戦力として数えられないし、その思惑も分からないままでは信用を置く事も出来ない。

 【白の剣士】のように《攻略組》を侵す敵である可能性を欠片でも残す訳にはいかないのだ。

 ギルド《ティターニア》は過去の経歴が一切不詳な組織。情報屋ですら知らないとなれば、何を目的に行動しているのか、そして私達の敵になるか否かはしっかり把握しておく必要がある。仲間に迎える行動を取っているのであれば尚の事。

 獅子身中の虫を抱えていられるほど、今も昔も《攻略組》には一片たりとも余裕は無いのだから。

 無論、レベルは実際の値で、彼らが纏う絢爛華美な装備に付与効果があるからステータスが高くなっている可能性もある。さっきの一撃も防具の上からだったから尚更装備の影響は大きい。

 面倒だなぁ、と胸中で溜息を吐く。

 レベルによる素の高さか、あるいは装備による高さなのかを判別する為にも、即決着を着ける訳にもいかなくなってしまった。試験デュエルだからそれは当然なのだが。

 

「い、いや、流石は【閃光】殿、二つ名に相応しい速さでしたね……」

 

 たたらを踏んでいたアルベリヒが再びフェンシング様に構え直しながら、称賛を投げて来た。その声音からは驚嘆の感情を読み取れる。

 それにどうも、と短く堪えつつ、思考を回す。勿論意識はアルベリヒから片時も外さず。

 私が一回、アルベリヒが二回の攻撃を交わしただけなので断定は出来ないが、この男は、少なくとも細剣使いには向かないと思った。

 細剣使いは敏捷性を活かす立ち回りを前提としなければならないが、アルベリヒの行動はそれから逸脱していたのだ。

 細剣使いが突進突きをする場合、仮令攻撃を躱されたとしてもその速力を以て敵の横を通り過ぎ、再び距離を開けてから振り返るという、ヒット&アウェイを基本とする。止まる時に制動が必要で、それが隙となって反撃を喰らうからだ。これは他の武器を使う者達も同様である。

 逆にその場に留まって連撃を仕掛けるのであれば、素早く距離を詰め、反撃を許さない的確さを以て攻撃を仕掛ける。横に動こうが後退しようが一撃たりとも外さない事がこれは前提とされる。

 ――――なので突進突きが外れたからと言って止まるのは論外だし、弾かれて横薙ぎに転換するにしても大振りで振り抜く事もまた論外になる。

 初撃はともかく、剣を振り抜くなど少なくとも細剣使いであってはならない。

 軽量化された武器である細剣は、短剣に勝るリーチと、片手剣に勝る手数を以て、素早い連撃を叩き込んでこそ真価を発揮する。大振りの攻撃をするなら他の剣の方がよっぽど効果的なのである。

 これらの事から、アルベリヒは片手剣や曲刀に向いている人だと思った。

 だからこそ、私はアルベリヒを含む《ティターニア》のメンバーへの疑念を、より一層深いものにする。

 

 そもそもの話、自分のスタイルに合っていない武器で高レベルになるのは、まず不可能だ。

 

 第六十層を超えた頃からモンスターのアルゴリズムには明確な変化が生まれ、技術や戦略といったものをより一層高め、深める必要が生じた。パーティーやレイドに馴れている攻略組ですら一時期戸惑ったのだ、自分に合っていない武器でそれらを突破する事はまず無理である。

 仮に細剣を使い続けて来たなら、リアルでは何ら武道をしていなかった私ですらこのレベルになれたのだから、もう少し巧く使える筈。

 男性と女性という骨格の違いで多少使い勝手は異なって来るだろうが、それでもここはゲームの世界、性差というのはリアルよりも遥かに誤差の範囲内に含まれるだろう。

 仮に纏っている装備が原因でぎこちないのであれば、大量のコルを以て装備を整え、レベルやステータスの低さを補ってゴリ押しでレベリングするという手法があるので、それが原因で技術面が育っていないとも判断出来る。

 高レベルになってから装備を整えたのか。

 強力な装備を整えたから高レベルになったのか。

 

 ――――どっちにせよ、自分のスタイルやビルドを損なう装備選択は減点対象だなぁ……

 

 細剣使いには明らかに不向きな防具の選択、アルベリヒというプレイヤーに細剣は向いていないという特性などは、確実に戦力を削ぐ要因となる。

 これで実力が高ければ助言込みで加入も一考しようと結論を出して、今度はこちらから動く。

 およそ十メートルの距離を一度の踏み込みで詰め切り、勢いを乗せた刺突を突き込む。刃は左肩と腕の鎧の隙間を縫うように入り込み、鈍い音を立てながら貫通。そのまま背中側から切っ先が顔を出した。

 耳元で軽く驚愕の声が聞こえたが、それを無視して即座に腕を引いて剣を引き抜き、間髪を入れず再び剣を突き込む。

 

「はああああああああああッ!」

 

 ほぼゼロ距離の位置から神速を以て連続で刺突を叩き込む。

 剣先は首元、肩、腰、腹、胸などてんでバラバラに、しかしクリティカルポイントを全撃的確に抉り、アルベリヒの体力を端からガリガリと削っていく。一撃のダメージ量は防具の上からでも生身の部分を直接でも特に変わらずで、一撃で1割の半分未満しか削れない。

 しかしそれを手数で補っているため、ゲージはみるみると減っていく。十秒が経った頃には残り6割を切らんとしていた。

 《戦闘時自動回復》スキルの熟練度が高いのか数発削る毎に僅かに回復しているが、それでも神速の連撃という手数の前では焼け石に水。回復スキルなど知った事かと言わんばかりに削れていった。

 

「ぬ、ぐ、ぉわっ?! この……?!」

 

 勿論アルベリヒとて黙って棒立ちになっている訳では無い。ほぼゼロ距離で剣を突き込む私を払い除けようと血色の細剣や空いている左手を振り回す。時折単発から四連撃の中位ソードスキルも放たれる。

 それらをステップを刻んで軽く動いて躱しつつ、私は間断なく連撃を叩き込んでいた。

 キリト君やユウキが相手なら悉くを弾かれて千日手に陥るだろうし、同じ細剣使いであるランちゃんが相手ならステップと攻撃の合間の僅かな隙を突かんと極限まで集中し合って膠着するが、アルベリヒはそういった技術的なやり取りをする素振りを見せない。攻撃する私を払い除けようと手と剣を振り回すばかり。

 その姿に剣士や戦士としての影は無い。ただ飛び回る虫を叩き落とそうと躍起になる人間の姿があった。

 

 ――――レベルとステータスはともかく、この男に技術や経験的な積み重ねは皆無だと分かった。

 

 ――――もう、十分だろう。

 

「――――はぁッ!」

 

 必要な情報は十分手に入ったと判断し、私はこのデュエルを終わらせるべく一瞬長く剣を引き、強烈な刺突を鎧の中心へ叩き込む。

 剣は鎧を強打し、最初の焼き回しの如くアルベリヒはまたたたらを踏んだ。強打によるノックバックが入って隙が生まれる。

 それを見ながら、私は再び剣を引きつつ左半身を前にし、肩に担ぐように細剣を構える。

 すると銀鏡仕上げの刀身から蒼い光が放たれ、直後目にも止まらぬ速さを以て四連続で刺突が放たれた。剣先が胸を中心に喉元、左脇腹、右脇腹、鳩尾へとほぼ同時に叩き込まれる。

 《細剣》の中位ソードスキル、四連撃の《カドラプル・ペイン》だ。発動前後の隙が少なく、高威力でこそ無いものの盾持ちでもない限りほぼ防がれる事も無いという使い勝手のいい技である。特に技後硬直が短いので接近戦では有用だ。

 その四連撃を諸に喰らったアルベリヒのHPは、私の見立て通り丁度ゲージの色がイエローに変わる。

 デュエル終了の合図とリザルトが出現したのは、四連撃の剣圧に耐えられず、アルベリヒが尻餅を突いた時だった。

 

「え、な……」

 

 細剣使いの男は目の前に出現したデュエルのリザルトと私を交互に見て唖然としていた。どうやら自分が負けた事に納得が――――と言うよりは、予想もしていなかった事なのか理解が及んでいないらしい。

 むしろ《攻略組》の幹部クラス相手に勝てると自信を持てる事の方がおかしいのだが。

 

「えっと……アルベリヒさんの試験デュエルは終了したので、他の方々が終了するまで、待っていて下さい。勿論勝敗は加味しません」

 

 最前線で戦い続けているメンバーのトップクラス相手に勝つ事が加入条件だとまず条件を満たせる事の方が少ないので、勝敗は事前に関係しないとは通達している。それでも敗北すると不安になる人も居るので最後の一言を付け加えるのは最早定例となっていた。

 

「え……あ、はい……」

 

 《ティターニア》のリーダーは目を白黒させたまま、生返事を返してくる。

 それを聞いた私は地面に座り込んだままの男から視線を切り、自分と並行して行われていた他の面々の試験デュエルの観戦へと意識を傾けた。

 残る5名の試験が全て終了したのは、それからおよそ3分後の事。

 ちなみに、アルベリヒの試験デュエルに要した時間は40秒だった。

 

 *

 

 《ティターニア》の面々の試験デュエルを全て終了した私達は、試験官の面々と各デュエルを観戦していた面々とが集まり、どうだったかを話し合っていた。

 

「あのスレイブっていう子以外論外でしょう」

 

 集まって最初に弓使いの女性シノンが口にした言葉が、全てだったのだが。

 

「あまりこういう事に明るくない私ですら論外って分かるわよ、技術的な部分が一切無いって。最初からキリトやアスナレベルな人はほぼ居ないとは思っていたけど……何と言うか、基礎的な立ち回りからして出来てない」

 

 シノンはスレイブを除き、ディアベルさんとリンドさんが相手した二人のプレイヤーを観察していたが、どちらも技術的な部分に欠けていて話にならないというのが結論のようだった。

 片手剣か曲刀に盾を持つというオーソドックスな装備の二人を相手したディアベルさん達も、シノンと同意見なのか厳しい面持ちをしていた。

 

「シノンさんの言う通りだと俺も思う。ソードスキルを放つ時かなり手間取っていたからね、何度かファンブルまでしていたよ」

「フェイントにも引っ掛かり過ぎていた。一度当たると盾を翳し続けるけど、動かないから足元ががら空きになる、そっちを突けば今度は攻撃が疎かになる。こっちの武器にばかり目が行っていたし……ハッキリ言って初心者の域を出ないな、アレは。ノーダメージで終わったぞ、俺」

 

 その二人が相手にした人達の所感を口にした。

 ソードスキルのファンブルには幾つか種類がある。

 ソードスキルはシステムに規定されている構えを感知し、システムアシストが加わって驚異的な加速力を得た技の事で、その攻撃の軌道は全て定められている。

 その軌道に沿うように体を自発的に動かす事で威力・剣速を共にブーストするシステム外スキルがある。これに失敗し、システムが動かそうとしている軌道から大きく外れると、ソードスキルは不発に終わり、技後硬直を課されて隙を晒すパターンが一つ。

 ちなみにソードスキルの軌道を外的要因が無理矢理変えた場合でもこれは発生する。

 また、システムがスキルを発動する為の構えを感知する際に剣が光る時、規定された軌道の方向へ剣を動かすとソードスキルが発動するのだが、全く見当違いな方向へ動かしたパターンだ。この場合はスキルを放っていないので技後硬直を課されないものの、意図して放とうとした時には予想外な事態で戸惑って隙を晒してしまう事になる。これも初心者によくある失敗で、多くのスキルが出て来ると混乱する者も少なくない。

 ディアベルさんが相手した人の場合は後者のパターン。つまりその人はソードスキルを発動する構えと動きをしっかり覚えられていなかったという事だ。上位スキルであればともかく、下位や中位スキルですらなった辺りは確かに初心者の域を脱せていないだろう。

 武器の損耗や戦闘効率、精神的な消耗を考えれば、この世界でソードスキルを使わず戦ってくるなどまずあり得ない。だから早い時期から使える下位や中位ソードスキルは自然に放てるようになるくらい馴れやすい部類に入る。単発、多くても四連撃が殆どというのも、それを助長していると言えよう。

 そういった特徴を持つスキルすらマトモに放てないようでは初心者も初心者としか言えない。罷り間違っても中堅とすら言えないレベルである。

 他の面々を相手したクラインさん達にも話を聞いたが、大体似たり寄ったりだったらしい。

 

「そんな人達が何でトップクラスのレベルになってるのかしらね……」

 

 全員の話を聞いて、少なくともスレイブを除いた六人全員が初心者レベルであると判断出来た時、シノのんが眉根を寄せながら疑問を呈する。

 その疑問はこの場に居る面々全員が持っているものだろう。

 しかし問うたところで答えてもらえる筈も無し。道理に合わない以上は訊いたところでマトモな答えが返って来るとも思えない。

 現状これは棚上げしておくしかないだろうと判断し、私達は話し合いを終え、《ティターニア》が屯している場所まで戻った。

 

「あ、結果は出ましたか?」

 

 私達が姿を見せた事にいち早く反応を示したアルベリヒが問うてくる。リーダーの男を初め、後ろに居る面々の誰もが、合格を疑っていない自信ありげな面持ちだ。

 唯一黒尽くめの騎士だけ表情が見えないものの、あまり期待を持っていそうな反応では無い。私達の顔を見て何となく答えを悟っているのか息を吐いていた。

 その息の吐き方は、落胆のそれでは無い。

 どこか安堵を抱いているような、そんな息の吐き方だった。

 

 ――――彼は……不合格である事を、むしろ喜んで……?

 

 あの黒尽くめの少年は《攻略組》に入れないであろう予測を信じ、それに安心を抱いている事になるが、それがどうしてか分からず困惑する。曲がりなりにも試験を受けに来たのだから合格を信じ、それを喜びこそすれ、不合格を喜ぶ事など無いだろうに。

 まさかこのプレイヤーは、アルベリヒ達が私達の害悪になると予想していて、でも止められないでいたという立場なのだろうか……?

 

「アスナさん?」

 

 バイザーで目元が見えない騎士の反応に思考を回していると、結果を今か今かと待っている男性が声を掛けて来た。

 

「あぁ……いえ、すみません。その……大変、申し上げ辛いのですが。第一試験の時点でギルド《ティターニア》は不合格という事に……」

「「「「「――――なっ?!」」」」」

 

 先ほどの思考については一旦横に於いて、口ごもっていた事を、言い辛い事実を告げる為の間であると勘違いさせるべく結果を言う。幸いにもこの意図に気付いた人は居ないようだった。

 無論、合格すると信じていたらしい面々は、一様に驚愕を顕わに固まったのだが。

 スレイブ君だけ驚愕を見せていないのが逆におかしく見えるくらいである。

 

「そ、そんな?! 我々はトップクラスの強さがあるのに、不合格?!」

「皆さんのレベルとステータスは確かに高かったです……ですが、最前線での戦いというのは、ただレベルが高い、装備が強いというだけでは駄目なんです。下位や中位ソードスキルでファンブルしたり、ビルドに合わない防具を選択し特性を殺していたり、また素早い連撃を旨とする武器で大振りの攻撃を続けたり……皆さんには、経験や技術というこれからの階層で重要な部分が欠けていました。連繋能力を見る以前の問題なんです」

「な……」

 

 ハッキリと問題点を告げていくと、二の口が告げないのかまた固まった。

 多分『連繋でカバーするから』と言おうとしたのだろうが、それ以前の問題だと言って封殺したから固まったのだ。

 

「ですから、今回は不合格という事になりました。レベルや装備は十分合格ラインにあるので、経験を積んで、また挑戦して下さい」

「ぐ……分かり、ました」

「くっそ……!」

 

 悔しさを噛み締めていると分かる面持ちでアルベリヒが頷く後ろで、仲間の男が忌々し気な面持ちでそっぽを向いたまま悪態を吐く。

 彼らは少し前とは打って変わったように不機嫌さを見せながら城から立ち去って行った。

 最後、城門から出ていく前に、唯一頭を下げた騎士だけが好印象だった。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 アスナによるアルベリヒ蹂躙でした(笑) 同じ武器でトップになっている彼女に勝てる筈も無し、こてんぱんに伸されるのは予定調和なのだ(愉悦)

 というかアスナって、本作で強化する前から原作でキリトですら見切れ切れない速度らしいし、ねぇ……? 原作ユウキみたく素の反応速度が高くないと勝てないのも当然。

 そして《ティターニア》は原典ゲーム通りに不合格。

 スレイブに関しても悩んだのですが、揃って不合格判定に。ギルドで来てるからね、仕方ないネ(つまりアルベリヒが悪い)

 アルベリヒの報復は何時にしようか悩み中……

 では、次話にてお会いしましょう。


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。