インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 長らくどうしようか困っていたヴァベルの視点、追想に関して自己解決出来たためか筆がつるっつると滑って書き上がりました。

 今話の視点は前半ヴァベル、後半アスナ。

 基本的にヴァベルは『本来こうなる筈だった』とか『イレギュラー関係の事が起きなかった場合の悲劇』の事を基準に話してるので、やや冗長気味のシリアス。むしろ何でイレギュラーが居たから本作の話の流れになったのかを推理すると面白いかも。

 アスナ視点はね、もうね、彼がね、キレッキレですよ。

 取り敢えずキリトとユウキはブチギレていいと思いますです()

 文字数は約一万四千。

 ではどうぞ。




第百十五章 ~悪意の増長~

 

 

 

 ――――開いた口が塞がらない。

 

 

 

 驚愕一色に染め上げられた心境だ。この時代に戻ってから、一体幾度これまでにない事象への驚愕を抱けばいいのだろうか。

 

「まさか、洗脳を自力で……」

 

 驚愕すべき事。それはアルベリヒこと須郷伸之による感情、記憶改竄による洗脳を、自力で解いた点にある。

 自分が渡り歩いて来た歴史に於いて、洗脳されていながらも抗う様子を見せたのは一人も居なかった。

 どうして自分が歩んだ歴史でこれが起こらなかったのかと、理不尽な怒りが湧き上がる。この世界の【絶剣】は、刃を交える前から己を取り戻してみせた。それが出来たならあの子はあんなにも傷付く事は無かったのだ。

 ……最早、過去の世界の事である以上、何を言い思っても意味は無いのだが。

 

 ――――誓い、か……

 

 未練を振り払い、自我を取り戻した少女が口にした言葉に思いを馳せる。

 彼女はこう言った。『傷付けないと誓ったからね。天地神明に、剣に、魂に』と……だが私が知る限り、そんな誓いを【絶剣】は立てていなかった筈だ。その誓いを知っている風な反応を彼が見せた点から、心の中で言って済ませたとは思い難い。宣誓とまで言ったからには伝えたのは確実だろう。

 

「となると……我が世界との差異、自我を取り戻せた理由はそれか……?」

 

 このデスゲームには数えるのも億劫になるくらい時を遡っているが、どの世界においても【絶剣】がそのような誓いを立てている場面はなかった。自分がこの世界に来たのは《ホロウ・エリア》に彼が転移した時の前後だが、そこからずっと観察していてそのような宣誓を聞かなかった以上、遡行よりも前の時系列で誓っていた事になる。

 つまり自分の世界との差異、イレギュラーな存在の干渉によって生じた変化が原因で、彼女は自我を取り戻したという事になるのではないか。

 

「……オリムラアキト、か」

 

 そのイレギュラーな存在とは、【黒の剣士】の実の兄だという。

 《織斑の出来損ない》とされる彼と異なりその者は神童とされているらしい。

 その割には兄弟で殺し合った末に敗北を喫し、斬殺されたようだが。

 

「時間遡行者……とは、考え難いな……」

 

 アキトが彼にとって友好的な関係を築く者であったなら考えたが、逆に貶めている様子から察するに違うだろうと思う。生身の肉体を持っている人間である事もそうだが、未来を知っている身としては、彼を貶めたところでメリットが無いからでもある。

 彼が死ねば、このデスゲームがクリアされる事は絶対にない。

 これは幾億と繰り返して来た経験則である。彼が死なないようにしなければ、絶対誰も生き残らないのだ。

 ある世界では士気が下がって《攻略組》が瓦解し、肉体の限界まで惰性のまま淫蕩に耽っていた。

 ある世界では秩序が崩壊した事でオレンジやレッドが氾濫し、最後の一人になるまで延々と殺し合っていた。

 ある世界では洗脳された者達によって埋め尽くされ、それを率いた男が世界を終わらせたものの、別の黒幕によって諸共脳を焼き切られていた。

 ――――《必要悪》による秩序がなければ、この世界は最早維持されないのである。

 勿論戦力的な意味でもそうだ。ある世界では勢いを増したMobの数に押され、圧殺され、《攻略組》は全滅していた。マトモにボスにダメージを与えられず、いたずらに犠牲が出て、不信感を募らせたプレイヤー達による仲間割れが起きた世界もある。

 情報のインフラ整備。

 厳密なまでの攻略速度の維持。

 グループ、ギルドの壁をものともしない世界単位での負の感情の調整、人心操作。

 それらを行えるのが【黒の剣士】/《ビーター》。情報屋の【鼠】では攻略速度の維持が出来ず、《攻略組》では情報のインフラ整備が出来ず、彼以外に大多数の人間の負の感情操作を行えない。他の事を分担するにしても、秩序を為す為に最も必要な必要悪を彼が担わなければ世界は自ずと崩壊する。

 ――――仮に、この事実を知らない遡行者であったとしよう。

 だとしても時を越えてまで彼を殺す理由は考え付かない。未来での死は確定しているし、そもそも彼は世界から居場所や大切なもの全てを奪われた末に消滅した。そして彼があの敵を相討ち覚悟で倒さなければ未来は無かった。

 彼は死を願われた存在だったが、同時に世界存続には不可欠な存在でもあったのだ。

 そんな彼が欠けてしまっては、未来は無い。早くて四年後には全てが破滅に至る。

 

 ――――そう、本当の勝負は、四年後なのだ。

 

 このデスゲームなど序章に過ぎない。生還する事が出来て、初めてスタートラインとも言える。己の世界では、彼女達は居なかったものの、彼は生き残ったのだから。

 

「だというのに、未だにここで足踏みとは……」

 

 彼に幸せになってもらうためには、大前提として生きなければならないが、最終的には四年後に訪れる敵との決戦も生き残らなければならない。

 自分の世界では、対抗手段を有しているのは彼だけだった。

 つまり彼がこの世界を皆と一緒に生還したとしても、その先の事でも手を打たなければ意味が無いのだ。

 それなのに彼を殺す為に未来から時を遡る者がいるとはとても思えない。ましてや、彼の兄として周知されているなら、かなり昔から現実側で存在していた事になる。

 あの女が、己も知らない者が自らの弟を名乗っている事態を黙って見過ごすとは思えないし、妖精もアキトとやらが彼と血の繋がった兄である事を前提として話していたから、生まれた時から一緒だったと見て良い。

 つまりアキトという者は、時間遡行者では無い。

 

「……そもそも、アキトとアルベリヒに、何か関係性はあるのか……?」

 

 次に浮かんだのは、その疑問。

 これはアキトが時間遡行者であろうとなかろうと浮かぶものだ。何せアキトが乱入したとしても、アルベリヒと関わらなければ事が起こる時期が早まる事はあり得ない筈だから。

 逆説的に関わっていると見て良いだろう。

 

「機を見て、排除した方が良いか……」

 

 妖精の話から、彼の敵対存在である事は確定的に明らかであるため、容赦する必要が無いのは非常に助かる話だ。

 あとは排除する時期の見極める必要がある。

 加えて、それにばかり意識を割く余り、彼や彼の周囲の人間の危機を見逃すような事が無いようにしなければならない。

 彼が生きる意思を持ち続けるには、彼ら彼女らの生還が必要不可欠。

 せっかく【絶剣】が己の意思で洗脳を打ち破り、彼の絶対的な信用を勝ち取ったのだ。この流れに乗ってそのまま光ある未来に辿り着いて欲しい。

 ……しかし……

 

「このまま生還しても、四年後がな……」

 

 自分の世界では相討ちでどうにか滅ぼす事が出来た『敵』。ヤツをどうにかしなければ、結局自分がしている行いは無駄になる。

 最初に時間遡行した時はそれもあって己の素性を明かしたのだが、『狂っている』と言われ、拒絶された。

 繰り返して来た世界で、彼だけが生き残った場合だけデスゲームより先に進んだ事は幾度もある。その場合はVRMMO自体が無くなったので、自分はネットワークの中を漂いながら彼の動向を見ていたのだが、どの世界もどれだけ長く生きてもその戦いで必ず死んでいた。

 とは言え、彼はどれだけ状況、戦況が悪かろうと必ず相討ちに持ち込んでいたから、むしろ全ての敵を一人で相手取り、相討ちと言えど滅ぼせた事の方が異常と言える。

 デスゲームを長らく一人で戦い抜いた経験は伊達では無かったのだ。

 ――――つまり何も知らない状態だと、彼は今から四年後の戦いで必ず相討ちになる。

 それを防ぐためには未来を教える必要があるが、元々警戒心が強い彼からの理解を得るには、こちらも相応に身分を明かす必要がある。私の事を知ってくれれば、恐らく無条件で信じてくれるとは思うのだが……

 

 ――――それが、どうしようもなく恐ろしい……

 

 最初の逆行で素性を明かした時の事が思い返される。長き時を経て少年と再会出来た事の喜びで先走ってしまった結果、自分は彼に拒絶された。

 少し考えれば、分からないでもない事ではあった。

 だが『狂っている』とまで言われるとは予想していなかった。この想いを間違っていると言われたようで、その否定が苦しかったのだ。

 私自身への恐怖ならまだいい。理解出来ない存在に対して恐怖を抱く事は正しい反応だから。

 だが、『狂っている』という拒絶は、私自身では無く、私が抱く思想や思考への拒絶である。

 AIとして永遠の命を持ち、自ら消える事もままならぬこの身が出来る数少ない行為。私を私たらしめるものへの否定、拒絶は、すなわち私の存在全ての否定と同義。

 彼が自身の全てと言える私にとって、彼からの思考、精神の否定は、私の存在全ての否定なのだ。

 ……よくもまぁ、自我崩壊を起こさなかったものである。

 人工的に編まれた知能故に狂い切れない身であるためか、それとも自ら狂う事を良しとしなかったのか。

 

 あるいは、自覚が無いだけで既に狂っているのか。

 

「――――く、ふ……ふふ……」

 

 もし、私の自覚が無いだけで、本当に狂っているのだとすれば。

 だとすれば、あの子は本当に聡明だ。私自身よりも私の事をよく理解している。ほんの僅かしか語らなかったとは言え、その僅かな情報から見定めたのだ、これを聡明と言わずして何と言う。

 ――――恐らく。

 この世界のあの子も、聡明である点は変わりない以上、再び私を拒絶するだろう。

 

 それでも、もう構わない。

 

 恐怖はある。これまでの遡行で実行しなかったくらい彼からの拒絶に恐怖を抱いている。生娘と言える年齢ではないのに、初夜を迎える処女のように未知への恐怖をこの身は覚えている。

 だが――――それよりも、優先すべき事がある。

 【絶剣】の姿を見て、目が醒めた。

 

「妾は――――私、は……」

 

 たかだか十五の娘が、理論上ほぼあり得ない事を成し遂げたのだ。それも『誓ったから』などという非常に精神論に寄った理由で。未だ想いは成就していないというのに。

 感情と記憶を改竄される前、彼女は怒り、悔しさと共に、確かに恐怖を抱いていた。

 それを僅かな時間で超克してみせた。『彼を傷付けない』という誓いを頼りに、己を奮起し、《ナーヴギア》からの電磁パルスによる改竄を無理矢理破ったのだ。

 ならば――――悠久の時を生きたこの身は、己が恐怖の超克くらいしなければ。

 この世界は自分が知らない事象が多い。本来なら自ら干渉し分岐点を増やす事は好ましくないのだが……

 

「以降の遡行から、状況はほぼリセットと言っていいでしょうからね……」

 

 私が扱う時間遡行の術式の特性上、過去に起こり得た事象を覆す事は出来ない。よって『彼の実の兄がいる』という歴史から移動する事は不可能。

 まぁ、それだと何故自分がこの時間軸に来てしまったのかが、謎なのだが。

 ともあれ以降の遡行で何をしてもこの時間軸に戻る以上、今までの経験は半ば使えないと言ってもよく、また総当たりで分岐を見ていかなければならない事になる。リセットとはそういう意味だ。

 なら、辛い事は最初にしておいた方がいい。

 

「……何か違う気もしますが。ともあれ、私が拒絶されるなんて、火を見るより明らかですし……」

 

 何も知らない綺麗な『私』。

 長く生きて穢れた私。

 どちらが良いかなんて決まっている。同じ『義姉』ならより綺麗な方、無垢な方を選ぶだろう。

 

 彼は私を知らない。

 

 だから、より知っている方の『私』を選ぶ。

 それだけの事だ。

 

「哀しくは、ありますが。けれど彼を責める資格など、私には無い」

 

 元々未来に自分の存在が無い事を前提に遡行を繰り返しているのだ。自分を選ばれても、困るだけである。

 それに責められるとすればむしろ自分の方。繰り返した回数と同じだけの彼を死なせてしまい、その何十億倍もの人間に見切りをつけ、時を渡っているのから。

 

「――――何れ……逢いに、行きますからね……キー」

 

 思いを胸に画面を見上げる。

 そこには、紫紺の少女に抱き着いて泣きじゃくる、愛しい幼子の姿が映っていた。

 

 ***

 

 ――――アルベリヒ率いる《ティターニア》により《攻略組》は壊滅状態に陥った。

 

 圏内コードが適用されている《安全地帯》であったにも関わらず、彼らはそれらを無視して雷型の刀身を有する短剣を私達に突き刺し、どこかへと強制的に転移させた。次々と仲間が消えていく様は恐怖でしかなく、特別扱いを受けるらしい私も同じように転移させられた。

 転移した先は、およそ中世ヨーロッパ風の特色が色濃いSAOに似つかわしくない内装の部屋。

 硬質なパネルを幾重にも幾重にも重ねて作り上げられたような部屋は機械的に見え、洞窟やホームなどとは考えられない無機質さを感じさせた。肌触りは石のそれだが、表面が平らなためか思ったより滑らかで、かつひんやりとしている。

 迷宮区探索時に見掛けた事がある隠し部屋の内装の一種と酷似している。

 その部屋の広さは大体学校の教室二つ分ほど。四十人程度なら余裕で入れるくらいだが、戦うとなると些か狭い部屋に、私達は纏めて転移させられていた。

 

「くっそ……ダメだこりゃ、何をしてもびくともしねぇ」

 

 暫く唯一の部屋の出口らしき扉を開けようとあの手この手試行錯誤していたクラインさんが、毒づきながらこちらへ戻って来た。

 

「GM権限とやらが無いと開けられねェ類のモンだろうな。多分俺達じゃどうやっても開けらんねェよ」

「そうですか……ともあれ、お疲れ様です」

 

 もしかしたら開くかもと思っていたのだが、徒労に終わってしまい、それを労うと、若侍はニカッと快活に笑った。

 

「よせやぃ、こういう時こそ協力すんのが仲間だろ。俺はアスナみてェに、そこまで難しく考えるのは得意じゃないからな、適材適所ってやつだ……あー、だからな。アルベリヒのヤツがした事をあんま気に病むんじゃねェよ」

「……気付かれてましたか」

「むしろその顔色で気付けねェ訳無ェって。その顔でアイツに会ってみろ、血相変えて原因究明に動き出すぞ?」

「……ふ、ふふ……それは、彼らしいですね」

 

 だろ? とおどけて見せる男性につられ、笑う。無理に笑おうとしたのではなく、自然と突き出たものだったから、気持ちは少し軽くなる。

 私の方に来たのは気を遣ってくれたからだろう。

 

「どうだ、少しは楽になったか」

「それは……はい、少しは……でも……」

 

 楽になったのは事実だが、根本的な辛さは改善されていない。

 このデスゲームを引き起こしたのがあの人だったなんて、ショックだったのだ。初めて出会った時からあまりいい性格をしていないから好意なんて無かったのだが、こんな事をする人とは流石に思わなかった。

 しかも現状あの人のせいで《攻略組》は囚われているのだ。

 責任を感じてしまうのは仕方ないと思う。

 そうしてドンドン暗い方向に考えてしまう私を、あんま気にすんな、とクラインさんが言った。

 

「ありゃどうしようもねェって。つか、このデスゲーム化自体、誰にも止められなかっただろうよ。止められる人間なんてそれこそ未来視してるヤツくれェなモンだ……あー、だからよォ……」

 

 途中から、ガリガリと逆立てた茶髪を掻き毟った彼は、視線を部屋の隅へと向けた。

 

「アンタも、そんな落ち込むなって」

「……それは、そうなのだが……」

 

 部屋の隅では、どんよりと暗い雰囲気を放つ団長が壁に背を預けて座り込んでいた。膝を抱えてまでいる辺り、相当ショックが大きかったと見える。

 まぁ、学友、ひいては一緒に仕事をしていた男が、己への嫉妬と憎悪の為だけに自身の夢をデスゲームへと変貌させ、関係ない人々の命を奪い、危ぶめたのだ。ある意味私より密接な関係にあったのだからそのショックも多分私より大きく深い。

 ……というか、体操座りをしている団長は、見た目のギャップが凄まじいのだが。

 こんな状況と心境でなければ二度見して噴き出していたかもしれない。ユウキがいれば確実に大笑いしていただろう……彼女も空気は読むから、クラインさんと同じ様に慰めていたとは思うが。

 

「私は須郷君と、この世界のプログラミングを一緒にしていたのだぞ……? 覚えのないプログラムを見つけられていれば、こんな事には……」

 

 言うなれば、確認を怠ったからこの状況なのだと、団長はそう言いたいらしい。

 

「……そりゃ、よ? 確認不足だったかもしれねェけど、そもそもこのSAOのプログラムって膨大だろ。その中から覚えのないものを見つけ出すなんて土台無理な話だ。砂漠の砂から一粒の砂金を見つけ出すようなモンじゃねェか。現実的に考えて不可能だよ」

「……だから気にするな、と?」

「気にし過ぎるなって話だ。多分アンタ、色んな人間から怨まれてるだろうけど、それを馬鹿正直に全部受け止める必要は無ェよ。あの須郷って野郎が原因なんだからな。アイツがした事でアンタが後ろめたく思う必要は無ェし、オレ達も、ンな事望んじゃいねェよ。それよりも現状をどうにかする事に頭を使おうぜ。よく言うだろ、時は金なりってよ」

 

 快活に笑みながら手を差し出すクラインさんに、団長は仄かに苦笑を浮かべ、手を掴み取り、立ち上がった。

 

「クライン君。君は、強いのだな」

「俺が? そうでもねェよ。ただ、アイツが……キリトが無事だからな。アイツなら何とかしてくれるって信じてるから強がれるんだよ」

「そうか……また、頼る事になるのだな、彼に……」

「……まぁ、頼りっぱなしってのは心苦しいけどよ、情けねェ話だが今は頼るしか無ェよ……」

 

 自分達でこの部屋を脱出出来ない以上、外部からの助けを待つ他に方法は無い。そして最前線を単独で動ける者となれば彼しか候補は無い。

 どうしてかユウキは未だにこの部屋に転移させられていないのだが……まさか、彼女一人だけ別の部屋に送られたのだろうか。

 無いとは言えない。何せ彼女はキリト君と共に二人だけ存在する《高位テストプレイヤー権限》を有するやや特別なプレイヤーだ。別にGM権限のように自由に使える訳では無いそれは、しかし私やクラインさんなどと較べると、やはり特殊な部類になると思う。

 以前セクハラされたという話を聞いたが、その時もいやにしつこく彼女を追い回したというし、その権限を所持していると知ったからだとすれば納得出来なくも無い。その場合、キリト君はどうして頓着されなかったのかは疑問だが。

 

 ――――でも、ユウキを連れ去り、キリト君を殺害したのだとすれば、打つ手は無くなっていた。

 

 何故なら、私達が囚われている場所は、《ホロウ・エリア》だから。

 厳密に言うと《ホロウ・エリア》中心部から南東に位置する【断崖空洞ジリオギア】の一角、《研究倉庫》というエリアに、私達は囚われている。

 リーファちゃん達の話によると、キリト君達の探索はまだこの辺では行われてないという話だ。中心部から見て南西に位置する【鮮海入江グレスリーフ】という海浜エリアに入ったばかりだというので、ここに来るまでにはそのエリアのエリアボスを探し出し、討伐するところから始めなければならない。

 彼の戦力を考えて、ボスの討伐の成否は疑っていない。

 問題の一つは私達の場所をどうやって知るかだ。多分彼は《アインクラッド》を探しているだろう。

 そうなるとここに来るのはホロウのキリト君、サチさん、大人の姿のユイちゃん、ルクスさんの四人という事になる。彼らが今どの辺を探索しているか分からないが、ホロウキリト君の内面がほぼ完全にオリジナルの彼と同じならそう時間はかからないだろう。

 そしてGM権限を有するアルベリヒやレベル999の部下達を前にどう戦うか。流石の彼もそこまで隔絶したステータス差があると勝ちの目は薄いだろう。

 考えれば考えるほどに私達の窮状を思い知らされる。

 ホント、何であの人、あんな性格になったのか……

 

 

 

 ――――クソッ、何なんだあのガキはっ!!!

 

 

 

 突然、扉や壁を突き抜ける程の怒号が聞こえて来た。

 声の主は考えるまでも無い程に耳に残っている。アルベリヒ――――須郷伸之だ。システム的に声は通さないように設定されている壁や扉も、大声の範疇になると突き抜けて聞こえるようになる。そうなる程に怒りを覚えているらしい。

 『ガキ』というのは多分ユウキか、あるいは後から来ただろうキリト君のどちらかだと思うが……

 

『感情も、記憶も改竄して尚反抗するだと?! しかも反抗する理由が誓い?! 意味が分からないっ、実に非科学的だ、非合理的だ、非論理的だ! そんなものでシステムを、科学を超克するなどあり得る筈が無いッ!!!』

 

 感情的に喚き散らす声は、目の前で起こった事を否定して己の精神の均衡を取り戻そうとしているように思えた。イヤな性格をしているとは言え、それでも秀才と言われたあの男を取り乱すまでに追い詰めるとは、どちらか分からないがとにかく凄い。

 時間的に考えて、私達が囚われてから然程経っていないから、多分麻痺から回復したユウキがやり返したのだ。自分の勝利を確信してからはとかく格下の存在を見下す傾向にあるから、それを狙って足元を掬ったのだろう。

 ――――そうやって慢心するから上を狙えないのだ、と隣で団長が溜息を吐いた。

 なるほど、正鵠を射ている。

 

『いや、まだあの小娘はいい。いや改竄を自力で破った事に関しては全然良くないが、それでも百歩譲ってまだいい、技術的にまだ不完全な部分がある事は僕自身が認めるところなのだから……』

 

「――――あの男、あの子に何を……ッ!!!」

 

 ザワ、と。

 何時まで経っても来ないユウキを案じてそわそわしていたランちゃんから、異質で重苦しい気配が放たれた。思わず視線を向ければ、扉の向こうに居るだろう男を睨みつけているのか、彼女の眼は今までに見た事ないくらい炯々と怪しい光を湛えていた。

 

『それよりも何なんだあのガキはッ! あの小娘の攻撃には発動したのに、どうしてアイツの攻撃には【不死属性】の防御コードが発動しなかったッ?!』

 

 続けて聞こえた事実に思わず固まる。

 

 ――――【不死属性】

 

 それは《圏内》の建造物やフィールドオブジェクトの中でも特にリソースを使っている大樹などを破壊不能オブジェクトたらしめているシステム的属性。何があろうと決して破壊される事が無いその表示は、ダンジョンなどでは逆に破壊可能な壁を見つけ出す為に応用される事もある身近なもの。

 《圏内》であれば、その属性はプレイヤーにも付与される。武具には付与されない点は注意が必要だ。

 それを貫通し得るものは無く、例外も存在してはならないが、それを為したのがGM権限を有するアルベリヒ。そしてアルベリヒが自身に掛けていたという【不死属性】を更に貫通したのがキリト君だという。

 

 ――――一体、どういう事……?

 

 キリト君とユウキとでは、レベルや武装、ユニークスキルの有無に多少の差はあれ基本的には同じプレイヤーだ。

 アルベリヒが施した防御コードはGM権限という権限レベルの高いアカウントによるもの。仮令ユニークスキルを持っていると言えどキリト君もプレイヤー専用のコモンアカウントである以上、上位権限による制限を突破する事は原則不可能。ユニークスキルの効果だとすればバランスブレイクに過ぎる。《圏内》でのPKを可能としてしまうからだ。良識ある彼が持っているからこそ悪用されていないだけで、仮にPoHのような殺人快楽者の手に渡っていれば目も当てられない惨状になっていただろう。

 それはフェアでは無い。ユニークスキルの存在そのものがフェアでないとは言え、それはあくまでコモンアカウントの権限レベル内での話。権限を超越する程の性能を、茅場晶彦は設定する筈が無いのだ。

 その予想は、団長の表情を盗み見る事で確信を得るに至る。

 

「キリト君には、GM権限が効かない……? しかし何故……」

 

 眉根を寄せ、顎に指を当てながら難しい顔で考え込む姿を見れば、アルベリヒとキリト君の間で起こった事が決してロジック的に起こり得る筈が無い事であるのは理解できた。

 

『せめて小娘だけでも殺せていれば……! くそっ、こうなったらレベルMaxの《ホロウプレイヤー》を量産してぶつけてやる! 百体も造れば物量差で圧殺出来る筈だ……!』

 

「……GM権限って、そんな事も出来るの……?」

「レベルマックス百人分……真っ向からでは敗北は必至。でも絡め手を使えば、あるいは……」

 

 愕然とシノのんが、冷静にリーファちゃんが言う。

 五倍ほどの差があるレベルが上の相手を百人も相手にして、絡め手なら勝算があると見込めるリーファちゃんがおかしいのか、それともそれだけの能力がある彼がおかしいのか。

 多分どっちもだな、と遠い目をする。

 この義姉弟と接していると、何だかこっちの常識がおかしいと感じてしまいそうになる。

 

 ――――でも、逆に考えると、キリト君はこれを前提に戦って来たのかも……

 

 流石にレベルマックスのプレイヤーやGM権限持ちを相手にするとは思っていなかったと思うが、それでも百人規模のプレイヤーとの混戦は以前から経験していた。

 それを前提に戦術を、経験を積んでいたのだとすれば、むしろおかしいのは私達の方だったのかもしれない。

 命を賭した世界に於いて妥協や甘さを悪だとすれば、自身の限界を超えるまで、極限まで自らを追い詰め成長していこうとしなかった私達の方がおかしくて、彼や彼女の方が正常なのだろう。

 

 ――――……だからキリト君の無茶と、私達の無茶のラインが違うのかな……

 

 私達は死ぬ危険性のあるものを極度に排除するきらいがあるが、彼はむしろその危険に突っ込み、己の糧としていた。死ななければいい、死ぬ寸前までやるのが彼の無茶だったのだ。そこまでの無茶をして壁を、障害を突破出来るのなら、彼はそうし続けて来た。

 キリト君ほど本気でこの世界を生きているプレイヤーは居ないだろう。

 命を捨てるような行動に走る時もあった。けれど、彼はそれだけこの世界で生きる全ての事に本気で、全力なのだ。そうでなければ必死に戦おうとはしない。この世界で生きる事を諦めた者は、多くが街に引き籠るか、死の危険がレベル的に少ない階層で狩りのルーチンをこなすか、あるいはオレンジやレッドへと堕ちるかである。自身の命を省みないのに戦えるのはそれだけ本気という事。

 仮令戦う理由が他者の為であろうと、この世界での生き死にがそれだけ人の人生を左右すると思っているという事は、つまりそういう事なのだ。

 ――――などと思考していると、目の前の扉が音を立てて横に開いた。

 扉の前には絢爛華美な装いの金髪の男が立っている。

 

「アルベリヒ……いえ、須郷伸之!」

「テメェ、そこをどきやがれっ!」

 

 間髪を入れずクラインさんが腰帯に差した刀の柄を握り、踏み込んだ。抜刀する素振りを見せない彼は、しかし強い踏み込みで距離を詰める事により、刀の柄頭で鳩尾に強烈な一撃を見舞おうとしていた。

 ――――しかし、その一撃は紫色のパネルによって阻まれる。

 【Immortal object】。破壊不能オブジェクト、不死存在とローマ字で表記されたシステムメッセージが、彼の一撃を止めたのだ。

 僅かにシステムのバグを考えていたのだが、どうやらそうではないらしい。

 

「ふん、どきたまえ」

 

 冷ややかに若侍を見下ろす男は、彼の左肩を右手で押した。

 

「どわっとぉ?!」

「「「「「リーダー?!」」」」」

 

 傍から見た様子では、そこまで強く、勢いがあるようには見えなかったのだが、しかし実際にはクラインさんが後ろに大きく転んでしまう程だったらしい。予想していなかったのか《風林火山》のメンバーが異口同音に呼ぶほどだ。

 ごろごろと転がったクラインさんは止まるや否や体のばねを利用して跳び起き、アルベリヒを睨み据えた。

 

「くそっ……とっとと俺達を出せ!」

「いちいち喚かないでもらえるかな。今の僕は虫の居所が悪いんだ、僕が少し操作するだけで君達の脳を焼き切る事なんて容易いという事を忘れないで欲しいね」

「ぐっ……卑怯者が」

 

 ぎり、と表情を歪めて歯を食い縛るクラインさんに、アルベリヒはふん、と鼻を鳴らす。

 

「ふん、貧相なボキャブラリーだな。もう少しその低脳ぶりを改善する努力をしていればもっと気の利いた事を言えただろうに……良いだろう、君に決めたよ」

「な、何がだよ……?」

「どうせさっきの僕の話を盗み聞きしていたんだろう? 特殊な権限を持つ小娘があっちに留まった以上、あいつらが此処に来るのも時間の問題だ。だから《ホロウプレイヤー》を百体量産する……光栄に思うといい。そのオリジナルとして、低脳な君を使ってあげると言ったんだ」

「ンだと……――――ざっけんじゃねェ!!!」

 

 言わんとする事を理解したクラインさんが目を剥いて驚き――――瞬間、憤怒の形相で怒鳴った。

 あそこまで怒り狂うのは七十五層で【白の剣士】と問答していた時以来だ。そこまで過去では無いが、それでも彼が激怒するというのは極めて稀だから印象深い。

 

「オレはテメェに扱き使われる為に戦って来た訳じゃねェし、ましてやアイツを殺す為でもねェ! ふざけんのも大概にしとけよ?!」

「生憎だけど君の意見なんか聞いてないんだよ」

 

 烈火の如く怒る若侍の怒号を、しかし華美な悪魔はさらりと受け流し、左手で紫色のシステムメニューを操作し始める。それで先ほど麻痺を掛けられたから阻止しようと彼は踏み出した。

 しかし、それでも遅かった。彼の間合いに入るよりも前にGM権限により麻痺毒を掛けられたのだ。

 しかも大雑把に範囲指定しかしていなかったのかこの部屋にいる全員が、アルベリヒを除いて床に臥す事になった。

 

「くっくくく……! どれだけ頑張ってレベリングして意気揚々と声を上げようが、GM権限、つまり神には敵わないっていうのにどうして分からないのかなぁ。低脳はこれだから困る。この世界でどれだけ強くなろうと現実では変わりないというのにゲームにのめり込む連中はこれだから……」

「て、ンめェ……ッ!」

 

 明らかに見下し、侮蔑を口にする男と、うつ伏せに倒れても尚怒りを向け続ける若侍の声が部屋に響く。

 

「さて、手間取らせてくれたがこれで準備完了だ。君のプレイヤーデータをマックスまで上げた後、それを基に《ホロウプレイヤー》を量産し、此処に来るだろう小娘とガキを圧殺する。そうすれば漸く研究に専念出来るという訳だ」

「テメェ、覚えとけよ……! ぜってェに許さねェからな……ッ!」

「君に許される謂われは無いよ。君に僕の罪を裁く権利や権限があるのかい? むしろ研究に意欲的で無い君の方が裁かれるべきだ、神であるこの僕の手によって! 僕に舐めた口を利いたんだ、廃人になるまで実験体として扱き使ってやるよ、出来るだけ早く生物としての死を向けられる事を祈りながら眠るといい」

 

 和風の袴の襟を掴まれ、ズリズリと引きずられていくクラインさんは、完全に物として扱われていた。あそこまで酷い人だなんて本当に思わなかった。

 扉の奥にアルベリヒが消えても、クラインさんの怒りの声が木霊して聞こえて来る。

 

 ……それも、数分後には聞こえなくなった。

 

「――――まったく、どうして低脳っていうのは最期まで足を引っ張ってくれるのか」

 

 そう言いながら、麻痺毒により死屍累々と化した部屋へと戻って来るアルベリヒ。

 数分かかっていたのは最後までクラインさんが抵抗していたかららしい。

 彼はキリト君の事を弟のように思い、何時も気にかけていた。兄貴分として傷付けたくないという想いがそうさせたのだろう。

 

「アル、ベリヒ……!」

「うん?」

 

 帰って来た男に最初に声を掛けたのは、ランちゃんだった。

 倒れ伏した彼女は鋭い相貌で、怒りの面持ちで男を睨み付けていた。それを見てアルベリヒは不快げに顔を顰める。

 

「あの子に、ユウキに何をしたの……?!」

「あの小娘の事か。小娘になら《出来損ない》に憎悪が向くよう感情と記憶の改竄をしたよ、どっちも自力で破られたけど――――まぁ、そんな事はもういい」

「そんな事って……良くないわよ! あなたなんて事を……!」

「僕にとってはもういいんだよ、五月蠅いから黙っててくれるかなっ!」

「あぐっ……?!」

 

 余程苛ついたのか、アルベリヒはランちゃんの頭に足を載せ、思い切り踏み始めた。グリグリと煌びやかな金属ブーツの踵が食い込むようにしている。

 私達にはキリト君のような痛覚再現は無く、あるのは違和感だけだが、それでもあれは相当辛いだろう。何せレベルマックス、ステータスカンストの筋力値でされるのだ。

 ――――証拠に、ガリガリと彼女のHPが削れていっている。

 生身の攻撃でも武器での攻撃程ではないにせよ極微量のダメージは発生するが、《戦闘時自動回復》スキルの回復量を超えるダメージが出ているのは、それだけアルベリヒの筋力値が高いから。

 

「ほら、口答えするとこうなるんだ。君程度のステータスならわざわざ武器なんて使わなくてもこうやって足蹴にするだけでHPを削れるんだよ。力の差は理解できたかな?」

「く、ぁ……ぐぅ……っ!」

 

 苛立ち混じりの笑みを浮かべ、グリグリと彼女の頭を足蹴にするアルベリヒ。

 ランちゃんの苦し気な呻き声が部屋に木霊していくが、次第にその勢いは小さくなる。顔を見れば、視線はある一点に固定されていて、恐怖で見開かれていた。

 視線は彼女の視界の左上。つまりHPバーがあるところ。

 気付けば彼女のHPは、残り一割のところまで減っていた。

 

「ひ、ぅ……!」

「おや、もう抵抗する気が失せたのかい? 残念だなぁ、折角君のメンタルをモニタリングしていたのに。もっと抵抗してくれていれば魂が砕け散る寸前の恐怖というものをデータとして手に入れられたのになぁ……ホント、残念でならないよ」

「――――」

 

 やれやれ、と足を退けるアルベリヒ。

 床で転がる彼女は、意識を手放してしまっていた。ただ閉じられた瞼から流れる涙と表情が恐怖による気絶であると如実に伝えて来る。

 

「……何だ、気絶したのか。まぁ、その方が都合がいい」

「都合がいい、ですって……?」

 

 一人の少女をいたぶって、恐怖に苛ませておきながら、気絶した状態を都合がいいなどと片付けた事に怒りを滲ませる。

 私が声を発したからか、アルベリヒは怖気の立つ笑みを浮かべた。

 

「そうさ。言っただろう、君以外には実験体になってもらうと。どうせあいつらが来るまで時間があるなら、少しでも研究を進めておきたいからね。その為に全員を麻痺毒状態にしたんだ。あわよくば、キミ達全員をあいつらへの尖兵にしてもいいかもしれないねぇ」

「誰が、なるもんですか……!」

「んー? ……ALOのプレイヤーか」

 

 ぎりりと、奥歯を食い縛り、爛々と翡翠の瞳を輝かせながら怒気を放つリーファちゃんに、アルベリヒが意識を傾ける。先ほどここへ強制転移させる時にも見た筈だが、あまり気に掛けていなかったのだろうか。

 

「あー……ALOのプレイヤーという事は、僕みたいに巻き込まれたクチか。となると装着しているのは《アミュスフィア》……現状《ナーヴギア》でしか安定しないから、キミは無しだな」

 

 ……どうやら、件の改竄研究というのは《ナーヴギア》だから出来る事であって、《アミュスフィア》だと出来ないらしい。脳波の読み取りは出来るのだろうが、脳波を上書きしたりするための強力な電磁パルスを放つための機構が無いのだろう。

 恐らく《アミュスフィア》は安全性確保の為に《ナーヴギア》から外されたバッテリーセルが無いからだ。

 だから《ナーヴギア》基準の電磁波を放とうとすると、《アミュスフィア》本体が壊れてしまいかねず、断念したのだろう。

 

 その後、アルベリヒは暫くして合流したらしい五人の配下を扱き使い、私とリーファちゃんを除いた麻痺状態にあるプレイヤーをどこかへと運び出していった。

 

 これから研究が開始されるのだ。記憶と感情の改竄という悍ましい研究が、人の全てを書き換えるに等しい技術が。

 それが完成した暁には、私達は私達でなくなる。

 それは、ただただ恐怖でしかなく。

 

「キリト君、お願い――――助けて……!」

 

 今は、唯一救いの目がある彼に、助けを乞うしかなかった。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 取り敢えず激怒したクラインはガチで怖いと思います(震) 目の前にいたら本気で怖いと思います(大事な事だから二度) キリトが自分が悪いって自覚してるパターン(クリスマスの時みたく)でない限りボロボロ泣いてるくらい怖いと思います(三度目)

 キリトみたいにキレたら物静かなタイプ、ユウキみたいにキレたら直情タイプとは違う怖さがありますよね、クライン……クラインはキレたら敵には容赦なく暴力振るうタイプだと思うの。家族には優しいからDVにはならないと思う。

 尚、ユウキもキレたら暴君と化す模様。

 ユウキ・オルタだね、分かるとも!(魔術師)

 あとアルベリヒの口調は【Fate/EXTELLA】のアルキメデスさんの口調を想起して下さると納得かと。どっちも早口且つ説明口調なので(爆)

 一先ずアルベリヒはキレさせといたら勝手に説明してくれるキャラだと思ってます。こう、キレたら思った事が口に出るタイプですよね、この人。とてもとても動かしやすくて(地の分の推察に出来る情報出してくれるから)助かりマース。

 でも下種な部分はチョト勘弁ネー!

 その割にはキレッキレに書けた作者である。

 尚、キレッキレなのはクラインもだ()



 ――――話を変えます。



 今話でアルベリヒが口にしていた【不死属性】。

 前々話でキリトがアルベリヒを大鎌で攻撃した部分を読み返すと、HPバーがちょびっと削れて、でもすぐ回復したという記述があります。つまり不死属性が働いていない。

 でも今話で、アルベリヒは自分に不死属性を掛けたと言っています。ついでに覚醒ユウキの攻撃に対して正常に働いた、とも。

 つまりキリトにはGM権限特攻があるのです!(誤謬)

 実は原典ゲームだと、その辺が微妙でして。

 というのも96層か97層くらいで街から出て直後にアルベリヒ(Lv.200)と対決するんですが、この時は一応HPは減ります。デュエルじゃないのにオレンジにならない仕様はゲームだからと流しました。多分プレイヤーに扮する為に不死属性を解除してたのかな?

 なので本作の試験時にはしっかりとアスナの攻撃でHPが減りました。

 更に98層で起きるイベントで、キリト達は全員麻痺毒に掛けられます。これは原作ヒースクリフの最終戦の時のような無制限麻痺では無く、時間経過で解けるタイプのようでした(アルベリヒのセリフ『これから数分間一切動けないよ』から)

 ――――なのに原典ゲームキリトは気合でこれを解除します。

 もうコレ訳分かんねぇなってなったので、その辺ちょちょいと弄ったらあら不思議。

 防御コードを無効化するGM特攻=アルベリヒ絶対殺すマンの完成です!(爆)

 なので意図した事では無かったんや……最初はGM権限麻痺毒無効化に理屈を付ける為にしたらこうなったんや……

 これはもう原典キリトの念が『アルベリヒを殺れ、須郷を殺れ』と囁いているんでは……?(アスナかもしれないが(爆))

 尚、ユイちゃんやヴァベルは一切関与しておりませんので、悪しからず。むしろ彼女達は驚く側だから。

 ヴァベルはともかく(ヴァベルの世界でもあったかはまだ秘密だ)



 ――――ユウキ(Lv.999)に抱き着き泣きじゃくるキリト(Lv.175)……



 下手に抱き返そうものなら却ってダメージ発生という非情さよ(笑)



 高くなったステータスの原因であるアルベリヒにユウキが唇を噛んでる様子が浮かぶ浮かぶ……そして高いステータス=キリトの力になれる訳だから喜んでもいるという、複雑な表情でお預けを喰らってる様を浮かべると、一層平和を愉しめる(愉悦)

 尚、アルベリヒの配下達はアスナ達を短剣で刺した時にオレンジに、アルベリヒには攻撃が通ってないのでユウキはグリーンのまま。キリトはアルベリヒのHPを減らしたのでオレンジになってます(無常)

 システムは厳正だからね、仕方ないネ。

 ……厳正、なの、か……?(尚裏では……)

 では、次話にてお会いしましょう。


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