インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 サブタイトルにある通り、兇人=PoHのお話。

 なので視点もオールPoH。

 相変わらずほぼ進行してないですが、ご了承ください。思った以上にPoHのイキイキぶりに筆がキレッキレに滑りました()

 そんな今話の文字数は約一万七千。

 ではどうぞ。



 ――――PoHが笑ってるところは『マジキチスマイル』でイメージ下さい。





第百二十章 ~兇人の喜悦~

 

 

 【断崖空洞ジリオギア】は、外から見ただけでは分からない一面が存在している。

 見たまま分かるのは遺物である事。巨大なクレーターの岩壁に顔を覗かせる洞穴を潜れば、大地の下に作られた広大かつ遺跡が奥深くまで構築されている。ちょっとやそっとでは崩落など起こり得ないくらいしっかりした構造の遺跡はファンタジー色があるとは言え中世感溢れるSAOにはしっくりくるものと言えよう。

 中を徘徊しているのが骸骨剣士や宙を浮く死神、ゴーレム、オーク、グリフォンなど一貫性が無く、共通しているのがモンスターである事を除けば、古代の人間の営みの象徴と言える。

 その遺跡に隠された一面は、最奥に位置する転移石で転移した先に広がる空間だ。

 クレーターの底に渦巻く光の渦を経由して進んだ遺跡の奥は、極めて機械的、かつ近未来的な趣の構築物がズラリと並んでいるのだ。ポリカーボネイト質の緑色の板が層板構造で広大な空間を作っている。それも転移石がある空間だけでなく、三方に伸びる道の先のエリアすらそれで統一されているのだ。

 更に、最初のエリアの三方それぞれに配置されている認証スイッチを起動させる事で進める秘匿エリアは、鮮血色という目にキツイものではあるが、ほぼ同様の構造を板が作り出している。

 この趣の空間は《アインクラッド》の迷宮区や攻略外のダンジョンにも存在したが、これらを見る度に何時も思うのだ。中世ファンタジーの世界観から大きく外れているな、と。乾いた石で作られた板であればまだしも、何故機械的な印象を抱かせる質感の板にしたのかが未だによく分からない。

 

 ――――その奇妙なエリアの一角に、自分達は居た。

 

「……一体いつまで俺をここで待たせるつもりだ。もう二時間だぞ」

 

 部屋の中央で腕を組み、苛立ち紛れに睨んでくる黒尽くめの少年剣士――――キリト。

 かつて依頼で滞在した研究所で過去現在含めてただ一人直接手解きした日本人の少年。その内に秘める本人も自覚していない研ぎ澄まされた殺気と抑圧された感情、それらと反する矛盾した他者を想う精神を持つ稀有な人間。

 その在り方は歪だ。

 

 だが――――あり得ないほど歪だというのに、奇跡的にバランスが取れてしまっている。

 

 それがコイツの興味深いところ。

 少し調べれば分かるくらい《織斑一夏》の境遇は闇に溢れている。自分も大概な人生を送っていると思うが、ある意味自分よりも過酷な人生を歩んできているんじゃないかと思える程、コイツの過去は酷いものだ。正直同情を禁じ得ない。

 自分も肉親に恵まれてはいない方だが、コイツはコイツで別方向で恵まれていない。

 あれだけの事をされれば殺意を覚えるのは当然だが行動に移したとしても何らおかしくない。非難はされるだろうが、一部の人間からは理解を示される程度には酷いものなのだ。正当性があると言ってもいい。

 

 ――――それなのに、よくまぁ、これまで抑えて来たもんだな……

 

 この世界にアイツが居ると知ったのは《ビーター》の話が広まった時だった。背の低いイガイガ頭の日本人がリアルの情報と共に広めていたから必然的に識る事になった。

 最初それを聞いた時は、あのガキが何を考えているのか分からなかった。

 俺が知っている限りでは、ほぼ無感情になるまで絶望に打ちのめされた状態から、生死の狭間を行き交った果てに追い詰められた状態までの間だけ。ハッキリ言って『日常』の姿のアイツは知らない。命のやり取り以外の姿を俺は知らないのだ。

 知っているとすれば、それは、あの実の兄に見捨てられるほぼ直前の姿。

 ……今でも、鮮明に思い出せる。

 

 ――――アキ兄、助けて!

 

 あの時、《オリムライチカ》はそう叫んだ。

 八歳頃なら既に自分はグレて他人に助けを求めようとしなかったから、そこは平和ボケした日本人らしい。年相応と言うべきか。まぁ、今ほどスレてなかった。

 その弟を躊躇なく見捨てた神童とやらにはやや違和感を覚えたが。どんだけ疎ましかったのかと却って呆れる程に清々しい見捨てっぷりに、人の事を言えないにも関わらず中々の屑だと思った。

 事前に集めた情報から《オリムライチカ》の境遇についてはある程度把握していたが、まさか肉親に捨てられる展開になるとは予想していなかった。どの国にも自分の父親みたいなヤツは居るんだなァと変な感心を抱くほど。

 ――――その感心が呼び水となったのか。

 俺の関心は見捨てられた弟の方に向けられた。

 調べれば調べる程に出て来る虐待の数々だが、調べていくにつれて徐々に浮き彫りになっていくものもあった。あまりに幼いガキを虐げる『キッカケ』というものが欠如していたのだ。

 例えばだが。

 誰かを虐げるにあたって、人間は『正当性』というものを無自覚に欲するきらいがある。誰かを責めるにしても、その行動が原因で自分が虐げられる側になるのは嫌だからと、無意識の内に求める言い分だ。犯罪者を悪く言うなら犯した罪について言及するだろう。客観的に見て『悪』と判断される材料を使う事で周囲の人間の意識や評価を操作する事がそれだ。

 人はそれを、印象操作という。

 印象操作が得意なヤツと不得意なヤツがいるが、基本的に社会に出て責任を担う立場になるほど必然的に上達していく部分がある。不祥事やミスをもみ消し、『自分は真っ当である』と周囲にアピールする事などだ。

 どれだけ情報を扱うプロであろうと、些末に過ぎる情報や違和感を集めるというのは難しい話だ。

 だが、あまりに印象操作の回数を重ねると、流石にボロが出て来る。整合性が合わなくなるからだ。本来の評価からあまりに離れ過ぎるせいで帳尻が合わなくなるのである。

 ――――《オリムライチカ》の評判は、正にそれだ。

 あんな幼いガキを責めるなら、必ず何かしら原因となる事件や騒動がある筈だ。情報を扱うヤツならまずそう思考する。

 だが予想外な事にそんな話は一つも無い。それらしい内容――『兄に比べて出来が悪い』や『姉に比べて物分かりが悪い』など――は山ほど出て来る。だが、基となる悪事や不祥事は一切見当たらない。そもそも年齢的にエレメンタリースクールに通ってすらいないヤツがどう動こうと大事件など置きようがないから当然だ。

 

 何だコレは。

 

 依頼を受け、織斑一家について調べていくにつれて浮き彫りになった《オリムライチカ》の評判の違和感。責められるべき基が無いにも関わらず巻き起こっている中傷に、当時同じ依頼を遂行する為に組んでいたチームの連中も首を傾げたものだ。

 もしかするとガキとは思えないくらい悪辣な性格なのか、と作戦立案の中核を担っていた男――見た目は優男でその実残忍な、しかし付き合いが良い妙なヤツ――が予想した。調べた結果、暴行や企てをしたと考えられる事件は一つも無かった。

 あるいは姉の七光りで振る舞っているのか、と自分と共にガキを攫う実働部隊に入っていたガタイの良いアメリカンが予想した。どっちかと言うと七光りは兄の方だな、と作戦後に笑う事になった。

 ひょっとして自分一人じゃ何もできないヤツなのでは、と無線とジャックした監視カメラで指示を出す司令塔役の男が予想した。

 依頼達成後、これで決まりだな、と連中は嗤っていた。賭け事もしていて、多少損をしていたヤツもいた。

 俺も損をした――――爪を隠しているだけじゃねェか、と予想したからだ。

 

 まさかの大当たりだったものだから抱いた興味も膨れ上がった。

 

 研究所に連れて行った時点で依頼は達成していたので、その時のチームメンバーとは解散した。依頼で衝突すれば殺し合うだけの間柄である以上必要以上つるむ必要は無いからだ。

 俺は続けて依頼を受けたからその研究所に残ったが。

 ――――誰も予想出来る筈が無い。

 出来損ないと、そう言われ続けた一桁のガキが、俺ですら生理的に無理な実験――――地獄に等しい修羅場を潜り抜けると誰が思うか。

 だから俺は確信した。コイツには《殺し》の才能がある、と。

 ただ殺す為の技術や覚悟、センスという話では無い。命のやり取りをする事全般への才能だ。要はサバイバルに関するセンスは図抜けていると俺は直感した。

 敵の中でどれが弱く、どれが強く、自分が敵うか否かを見抜く嗅覚は勿論、接近戦での超高速の読み合い、騙し合い、効率的な体の動かし方まで全てアイツは図抜けていた。

 あの研究所に連れ去られたのはアイツだけではない、他にも大勢のガキがいた。そのどれもが身寄りのない捨て子だ。研究所にとってすれば体の良いモルモットであり、ガキ共からすれば間違いなく地獄そのものだっただろう。その中にはストリートチルドレンとしてその日その日を限界まで生き延び、常に他者から奪い、時に殺しに手を染めるようなヤツもいた。

 アイツが研究所に入った時、確かガキの人数は全部で二百人近かった。

 その数も、『性能実験』という名のサバイバルを経る毎に、百五十、百、七十、四十、二十と減っていったが。その『性能実験』も一定周期にしていただけで、実験をしていない間は投薬や改造などの人体実験の方が行われていた。

 ……正直、死体を幾度も見て来た俺ですら直視するのは憚られる光景が多かった。

 その実験を幾度も幾度も経て、『性能実験』を全て生き抜いたのが《オリムライチカ》――――キリトなのだ。

 ISコアを埋め込まれ、白い化け物と化して暴走したあの時奇跡的に生き延びた自分は、まさかアイツが普通の暮らしに戻っているとは予想していなかった。ちょくちょく情報を集めていたが、まさかこのデスゲームで――――最初はただのゲームとして発売される話だったモノで遊べる環境にいるとは思っていなかった。

 実験を経ていく内に無機質に、無感情になり、同い年かやや年上のガキ共を手に掛けていくのに躊躇が無くなっていったアイツが、まさか普通の生活に戻っていた何て誰が予想出来るだろうか。なまじ間近で見ていたから余計驚いた。

 

 ――――だからこそ、より興味を刺激された。

 

 最初は驚いたが、少し情報を集めれば《ビーター》を名乗った経緯について知る事が出来た。その後の行動を見て行く事で《ビーター》を名乗った思惑についても察した。

 

 人間を限りなく怨んでいるであろうアイツが、他者を守る為に動き、戦っている。

 

 これほど面白い事は無いと、そう感想を抱いたのは未だ鮮烈に残っている。

 どこまでそれを維持出来るか、保てるかが見物だと、ちょくちょくちょっかいをかけてもみた。

 結果、その全てを見抜かれ対処された。強化詐欺のロジックを初見で見抜かれ対策まで取られたし、フロントランナー達に潜り込ませていた手下の事も見抜かれ、第五層では亀裂を入れようとしたところを要であるLAの旗を目の前で折られた事で未然に防がれてしまった。

 

 ――――オイ、オイオイオイオイ、マジかよアイツ! すげェじゃねェか!!!

 

 こちらが仕掛けた悪意を全て未然に防いで見せた事は、俺を凄まじく興奮させた。

 

 ――――俺の悪意を悪意で察し、それを正気でマトモに対処するとか、マジで狂ってやがる!!!

 

 毒を以て毒を制す。

 その諺の通り、アイツは自分の内にある昏い感情を基にこちらの手管を予想し、そこから表の人間性でマトモな対応をし、SAOの秩序を保ち続けた。強化詐欺、睡眠PK、ヤり姦PK、おびき寄せ、騙し討ち、それら全てのロジックを解き明かし、注意を喚起したのはアイツなのだ。

 自分を虐げ、剰え殺そうとする誅殺隊の連中をも、アイツは保護対象にしていた。

 ちょっとマトモなヤツなら守ろうとはしないだろうし、『殺そうとしてくるなら殺されても文句は言えない』と言って返り討ちにした時にトドメを刺しても不思議では無い。怖気づくヤツも居るだろうが何度も繰り返されれば流石にキレて殺ってもおかしくない。

 なのに、キリトは――――【黒の剣士】は、オレンジやレッドでも中々殺さなかった。

 アイツがオレンジ達を手に掛け始めたのも去年の年末に《笑う棺桶》を立ち上げる宣言をしたのがキッカケ。大々的に犯罪者ギルドを立ち上げた事で、他の連中が勢いづいて犯罪が横行すると見越したから、アイツはその抑止力になるべく自分の本気度――――手に掛ける事も厭わない覚悟を行動で示した。

 その躊躇の無さに、俺はまた笑みを浮かべた。

 無自覚だが、確実に心の奥底では殺意を抱いていると。アイツが未だ殺戮に走らないのは、このゲームを出来る環境にしたヤツとの繋がり、真っ当な精神が楔になっているのだと、そう分かった。

 

 とは言え、俺自身は別に箍を外させるつもりでは無い。

 

 あくまで俺は、アイツがどうなるかを見たいだけ。アイツの行動に直接関与するつもりは無いし、アイツの意思を曲げるような行動もしないつもりだった。

 殺戮に走るなら愉しい殺し合いに興じれる。

 真っ当な方を進むなら、何時爆発するか、行動と感情の矛盾を愉しむだけ。

 アイツがどうなろうと、俺には好都合でしかないのだ。

 ……まぁ、流石に本当に殺されるとは思わなかったが。

 

 そこまで振り返り、先ほどよりも更に目が据わっているキリトを見る。

 

 ――――ホント……強くなったよな、お前ェ。

 

 それは、殺し合いに関してではない。

 研究所で手解きをしたのは短期間だが、殺し合いに関しては最初からコイツは強かった。容赦がない上にあの手この手でとにかく殺そうとしてくるから始末に負えないというのが正しい。

 だがそれ以外は未熟だった。当然だ、初めて知る事で習熟している方がおかしい。

 あの研究所でコイツが使っていたのはコンバットナイフ。SAOで言えば、丁度《短剣》と同程度のサイズ。殺しの技を活かすなら《短剣》にするのが一番だ。事実俺はそうしている。ソードスキルやシステムアシストの関係で多少扱いが違うとはいえ、経験を活かせるというのはかなりのアドバンテージになる。

 それをコイツは捨てている。

 俺がマトモに扱えるのは《短剣》と、せいぜい《片手剣》や《曲刀》くらいで、それ以外の武器はからきしだ。精々二流がいいところ。一流にはなれないだろう。盾なんて使った事無いから装備する気も起きやしない。

 その点、コイツは違うのだ。二ヶ月のベータテスト期間があったとは言え、《短剣》ではなく《片手剣》を選んだのだ。聞くところによると槍や細剣、曲刀など、数多の武器も扱うという。十数種類に及ぶ武器の数々を使いこなし、最前線で戦い抜いて来たその実績は嘘では無いし、伊達でも無い。それは見ていない俺も理解している。

 だから、強い。

 何でもアリの殺し合いは勿論、素の実力も高まっている。何も知らない時点で強ければ、そりゃ経験を積み、知識を得れば更に強くなるのも当然だ。

 まったく、本当に惜しい(恐い)ヤツだ。

 

 

 

「――――何だ、ジロジロ見て来て」

 

 

 

 そう心の底から思っていると、キリトは顔を顰めて身を引いた。どこか気持ち悪がっているように見えるのはなぜなのか。

 

「ククッ、なぁに、お前さんが《笑う棺桶》に居ねェのがホント惜しいなと思ってたんだよ」

「またそれか……これで五度目だぞ」

「それだけ惜しんでるって事なんだ。喜んどけよ、ここまでお前ェを熱烈に勧誘するのは俺くらいなもんだぞ」

「殺人ギルド首領からの勧誘を喜べるかよ……」

 

 《思い出の丘》で漸くマトモに顔を合わせて以降、俺が死ぬ前までで都合四回はスカウトしている。今回のコレで五回目。

 その五回とも、誘い方は『惜しいなァ』というセリフを入れている。

 俺とキリトが組めば、たった二人でもSAOプレイヤーを全滅させられる確信があるくらい、俺達は相性抜群だと思うのだが、コイツはそれを頑なに否定する。

 こうして相反していれば何れ殺し合える訳だし、どちらに転んだとしても万々歳だから別に構わないが。

 

「ハァ……それで、何時まで待てばいいんだ」

「オイオイ、せっかちなのは嫌われるぜ? もうちっと心に余裕をだなァ……」

 

 

 

「なら俺の心の余裕の為にも今すぐお前を殺しても文句は無いな」

 

 

 

 背中の黒剣の柄に手を掛けつつ、満面の笑みで威圧してくる姿に、降参とばかりに両手を挙げる。

 

「オーケーオーケー、お前ェの殺意は十分伝わったよ。だからちっとはCoolにいこうぜ。日本じゃ『急いては事を仕損じる』って言うんだろ」

「『巧緻より拙速を尊ぶ』とも言うが」

「……前々から思ってたがよ。お前ェ、その歳で案外語彙力あんだな」

 

 理解はするだろうと思っていたが、まさか別の日本語で返されるとは思わなかった。

 確か今十一歳だからログイン時は九歳、その歳でこれほどの言葉を使いこなせるようなもんなのか。日本の学校教育は案外進んでいるのかもしれない。コイツが博学なだけという可能性が高いが。

 そう感心していると、黒の少年がムッとした表情をした。

 

「そっちこそ外国人なのに随分達者じゃないか」

「HA! 人を見た目で判断するのはトーシロだぜ? ……つーか今更過ぎんだろソレ」

「……そうだな」

 

 三年以上前からの知り合いなのだ。研究所では普通に日本語でやり取りしていたから、非常に今更過ぎる感想である。多分諺を使いこなしてる辺りで言ったのだろうが。

 

「――――で、三度目になるけど、何時まで待てばいいんだ」

「もうちっと待て。アイツらが戻ってきてねェからな」

 

 流石に二時間も待たせているから、少しくらい情報開示をする必要があると思い、何を待っているのかを教える。アイツらというのは勿論《笑う棺桶》の面子だ。

 

「……連中も此処に来るのか……」

 

 それを聞き、微妙な面持ち――やや嫌そうな顔――で言う。

 まぁ、アイツらも結構コイツに張り合ってる感があるし、大部分が本気で嫌ってる節がある。善悪はともあれ他人の感情に敏感な部分があるから言語化しなくても分かるのだろう。あれだけ敵意剥き出しにささればそれも当然というか、経緯はどうあれ『殺人』をしたという事は相手から殺意を向けられている事を理解していた事に他ならない訳だが。

 

「何だ、会いたくないのか? アイツらはお前ェに会うのを待ち望んでたぜ?」

「絶対『俺』に復讐する為だろ。復讐してくる相手に会いたい訳があるか」

 

 苦みしばった顔で腕を組み、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向くキリト。

 

「あのケイタにもか?」

「――――」

 

 底意地の悪い問いを投げたるとキリトは息を呑み、黙り込んだ。

 思った通りあの男とコイツの関係はかなりタブーに値するヤツのようだ。アイツは復讐したい一心でいるが、コイツにとっては複雑な心境らしい。純粋に殺意を向けられているのに殺意で返そうとしない辺りがその心境を如実に表している。

 ただ害悪になるだけの存在と判断しているなら悩む事無く殺すだろうに、そうしない。

 たったそれだけの事だが、それ一つでケイタはかなり特別視されているようだ。

 

 ――――それだけ《月夜の黒猫団》とやらの顛末が引っ掛かってるって事か……

 

 傍から見れば、それはケイタに対する罪悪感であり、キリト自身の自責感によるものと見て取れる。サチとかいう女も居たし、未だに関係を持っている以上ケイタを手に掛ける事も下手に出来ない。引っ掛かっている以上、その女との関係も複雑なものである事は明白だからだ。

 

 だが。

 

 それはあくまでマトモな精神をしているヤツの話。

 コイツは在り方こそマトモだが、他者の為に戦う思想も、憎いだろうに抑え続ける精神も矛盾している歪なヤツだ。

 そんな歪なヤツが罪悪感一つで殺意を留めていられるか。

 ――――否、断じて否である。

 俺も事の経緯を細かく聞いた訳ではないが、ケイタの言い分を聞いた限りじゃ完全な逆恨みであるとは判断出来る。つまり理に適っていない言い分な訳だ。

 客観的に物事を見れるコイツがそれを分かっていない筈が無い。もし逆恨みを正当な権利と考えていたなら、セルベンティスでの二度目の対峙で悩んだ末に殺そうとはしないのだ。怒りを受け容れるならあそこでそれに反する行動を取る訳が無い。

 コイツは聖人君子ではない。

 感情が無い機械でもない。

 つまり憎い敵を、殺意を向けて来る連中を殺さない場合には、コイツ自身も気付かない別の思惑が……

 

「……ケイタとケリを着けるべきなのは『俺』じゃない。『俺』よりもっと相応しい人がいるからな……」

 

 そこで、真実に突っ込みかけた俺の思考を引き戻したのは、苦悩に満ちたキリトの声だった。

 

「察するにソイツはサチとかいう女なんだろうが、さっきお前ェが落としたよなァ……もう無理じゃねェか? 幾ら《攻略組》の一員として戦っていようが、あそこの下はレベル150台がウヨウヨ居る。死ぬのは時間の問題だろ」

 

 あそこには何度もホロウを、あるいはこっちに死んで来た連中を落としているが、生きて戻って来たヤツは一人も居ない。俺ですら様子見で覗いただけで済ませたと言えばどれくらいヤバイのかは分かるだろう。

 俺のその指摘に暫く苦い顔で眉根を寄せるキリト。

 

「……オイ、待て」

 

 少しして、何かに気付いたようにこちらを睨め付けて来た。

 

 ――――気付いたか。

 

 そう思い、思わず喉で嗤う。フードで隠れているかもしれないが、見えているなら口の端が歪んだのが見えた事だろう。

 そして、恐らくキリトは俺が嗤ったのを見た。核心を得た面持ちになった途端、眼から自責感といった惑いの霧が晴れ、鮮烈なまでの殺意が宿る。

 ゾクゾクとする程の強烈な殺気が叩き付けられ、更に心が高揚していくのを自覚する。

 

「お前確か生かしたまま閉じ込めるって、そう言った筈だ」

「――――あァ? 俺ンな事言ったっけなァ? つーかアイツらが死んでもお前にとっちゃ好都合な筈だぜ? アイツらが生きてる状態でアップデートが実行されてみろよ、その途端引き離されて、アイツらは《アインクラッド》に戻れなくなっちまうんだからよ」

「ぐ……それは、そうだが……」

 

 実際、俺が言った事は間違いじゃない。

 俺が組み上げ、実行しようとしているアップデートは《ホロウデータ》や《ホロウプレイヤー》を《アインクラッド》に実装し、代わりに《アインクラッド》に居るオリジナルをこっちに移すというもの。オリジナルが浮遊城に戻っても、ホロウデータが存在する限り即座に消滅する定めになる。

 この世界がクリアされた時、現実に生還出来る条件は未だ不鮮明な部分がある。

 頂を極めた者、すなわち第百層ボスにトドメを刺したヤツだけ生還する底意地の悪い設定なのか。

 第百層ボスに挑んだヤツだけ生還出来るのか。

 ボスが討伐された時点で生存判定になっている連中全員が生還するのか。

 あるいは全損判定を喰らって《ホロウ・エリア》に居る連中すらも纏めて生還出来るご都合展開か。

 その辺がハッキリしていないから色々な憶測が飛び交っている訳だが、ともあれこの世界を確実にクリア出来るヤツはコイツだと確信している以上、生還する可能性を取るなら同じ側――――つまり浮遊城に戻っておく必要がある。

 それを前提にすれば、あのサチとかいう女に、ルクスという《笑う棺桶》の下請けプレイヤーもここで死なせておかなければならないのだ。

 

 ――――珍しいな……コイツなら、それくらい分かってそうなもんなんだが。

 

 歯を食い縛り、何かを堪える様を見せるのを見て、内心で首を傾げる。

 見込み違いとは思わない。数少ない情報からでも真実を嗅ぎ当てる嗅覚は、この世界で幾度も張り巡らした画策や暗躍を全て不発にされた事からも本物だと実感している。

 恐らくは、読み違い。

 俺とコイツの間で何かの情報か前提が食い違っている。

 

 ――――立場の違いなんかじゃ読み違わねェ筈だ。

 

 それは確信を持って言える。客観的に物事を判断出来るという事は、他者の視点で多角的に思考出来る事を意味しているからだ。強化詐欺事件以降はほぼ初犯だった事もあり、流石のコイツも後手に回っていたが、第五層でのLAの件はこちらの思考や思惑を理解していなければ出来ない先手だった。

 俺とコイツは在り方に多少の違いはあれど限りなく近い存在にある。だから互いの思考を読み合い、先手と後手が順番で入れ替わっていた。

 俺が動けばアイツは対処して被害を最小限に抑える。その後、俺の次の行動を読んで対策を打ち、俺がそれで足止めを喰らう。

 その足止めをすり抜ける行動への後手で対策を打ち、次の行動はアイツが先手となる。

 そういう関係がこのSAOに居る間ずっと水面下で展開されていたのだ。

 ニュービーとベータテスターとの間に亀裂を入れるようジョニーに指示すれば――指示しなくてもキバオウが勝手にやったのだが――、アイツは《ビーター》としてヘイトを一点に集める事で未然に防いだように。

 《笑う棺桶》を立ち上げオレンジ達を勢いづかせれば、後手で過激なオレンジやレッド達を躊躇なく殺し、抑止力としてこちらの動きを封じて来たり。

 キマッタ覚悟や異常な精神――――一言で言うなら『狂人』でなければ出来ない行動の数々を、コイツは幾度も為して来た。

 今更立場の違いなんかで読み違いなぞ起こす訳が無い。ましてやコイツは俺の思考を読めるのだから尚更だ。

 

 ――――待てよ……互いの思考を、読める……?

 

 そこで、ふと気付く。

 俺はキリトの、キリトは俺の思考を読み、先手と後手の入れ替えを頻繁に繰り返せる程にはお互いを分かり合っている間柄。仮令殺し合う程の敵同士とは言えそれは中々の深さがあると思う。

 それなのにどっちかが読み違いを起こしたとすれば――――恐らくは、俺が何かを勘違いした。

 《ホロウ・エリア》に長く居るのは俺だ。だが《ホロウ・エリア》について調べる際は独力だったのに対し、コイツにはNPCの娘が居た。アレは管理区に関わりのあるNPC、所謂スタッフだろうから、質問に対しある程度は答えていた筈だ。

 ましてや特定のプレイヤーを守ろうと殺気まで向けて来る程の自我を持つNPC。

 そんなヤツが説明を抜かすとは思えない。

 だからこそ、俺の方が何かを読み違えている可能性が高いと判断出来た。ここが《アインクラッド》のままならどちらかは判断できないが、碌に説明がない《ホロウ・エリア》の独自ルールやシステムについてだと、流石にノーレクチャーのこちらが情報的に不利なのだから。

 

 ――――間違えた可能性があるのは……恐らく、《ホロウ・エリア》独自のルール、《ホロウプレイヤー》に関してだろう。

 

 あの女どもの生死について食い違いの可能性が生まれたのだ。アップデートに深く関わる部分である以上、恐らくこれは間違いないと見て良い。

 仮にあの女どもが既に死んだ身なら、コイツが敵意や焦燥を見せる事は無い。

 

 となれば、恐らくコイツは……

 

「――――まさかお前ェ、死んで《ホロウ・エリア》に来た訳じゃねェのか……?」

 

 【黒の剣士】キリトの生死を、俺は《生命の碑》やフレンドリストで確認していない。前者は一度死んだ身だから《アインクラッド》に戻れないから。後者はアイツとフレンドになっている連中が一人もこっちに来ていなくて確認のしようが無いからだ。

 《月夜の黒猫団》のメンバーでフレンドを結んでいたのは、リーダーのケイタと、最初にレクチャーを頼んだ件のサチという女だけだったという。

 ケイタは怒りのまま消してしまったから確認の取り様がない。

 だからあのルクスという娘を脅してまで確認したのだが、それが仇になろうとは思いもしなかった。

 

 ――――よくよく考えりゃ、俺も訊き方が悪かったな……!

 

 《アインクラッド》に一度も戻っていないと聞いただけで死んだものだと判断したのがマズかった。

 最近合流した《アインクラッド解放軍》に潜り込んでいたヤツから七十六層以上の転移門しか使えなくなったという話だけでなく、オレンジカラーで外周部から落ちたという話を聞かされたから余計信じ込んでしまっていた。

 キリトも、あの紅髪の二刀娘と蒼い短剣使いの娘と同じ、転移して来たタイプだったという事。

 あまり当たって欲しくない考えは、段階飛ばしで口にした推察に瞠目した様子から当たっているようだった。

 

 ――――にしてもだ、こんなの予想出来る筈無ェだろ……ッ?!

 

 復帰出来ない条件下で、死ぬしかない時に強制転移で《ホロウ・エリア》に入るとか、誰が分かるか。そう怒鳴りたい気分だ。

 もっと怒鳴りたいのは、このままだと何もかも終わりになるという事。

 俺が組み上げたアップデートは、あの浮遊城にホロウデータを移し、ホロウデータが存在するオリジナルを消去するという極端なもの。あちらで一度死んだ連中全員にメリットがある反面、死んでいない連中は問答無用で消されるからデメリットしかないアップデート。

 それなのに、クリア出来ると確信しているヤツが実は死んでいなかったとなれば、そのアップデートは最早毒でしかない。生還出来るようにする為に組み上げたのに自らそれを閉ざすような事になる。

 

「――――Suck」

 

 口汚く罵る。キリトにではなく、俺自身に向けた罵声。

 実は自身が生きていた事を知られたキリトは、そのタイミングで罵声を挙げられた事に瞠目から訝しむ面持ちになる。やや納得気味なのは、俺が死んでいる身なのに、自身は生きている身だから、それへの怒りを抱いたとでも思ったのだろう。

 怒りは怒りでも、それは俺自身ととんでもないご都合な幸運へ向けたものなのだが。

 

「キリト、予定変更だ」

「生きてると分かったから俺を殺すか」

 

 打てば響くような見事な返しに、思わずヒュウ、と口笛を吹き――――

 

「――――That’s right(御名答)!」

 

 賞賛混じりに肯定すると共に踏み込み、後ろ腰のホルスターに納めていた愛用の短剣【友切包丁】を抜く勢いで左に薙ぐ。

 すると、確かな手応えが手に伝わった。

 

 金属に衝突した衝撃――――剣で防がれた手応えだ。

 

 不意打ちに放った攻撃にキリトは見事に反応し、防いでみせた。こちらの肉厚の刃を見慣れた黒い剣で。

 俺を殺した時に使った剣を未だに使い続けている事には驚くが、それだけ性能が高いという事なのだろうと今は流した。

 

「ククッ、SAOで俺の攻撃を抑え込めたヤツはお前ェくらいなもんだ。俺の思考を簡単に読む事もだが、しっかり防ぐたぁ流石の一言だぜ」

 

 言いながら、押し込むように力を入れる。ギギ、と交錯する互いの刃が軋みを上げ、僅かに黒剣が俺から離れた。

 それを見てか、小柄な剣士の顔が険しさに歪む。

 

「ぐっ……俺と、互角だと……?! PoH、お前、一体こっちで何人殺した……!」

 

 険しい表情で睨みながらの問い掛けに、また口角がつり上がる。やっぱりコイツは他の連中と一味も二味も違う。良い着眼点だ、と褒めてやりたいくらいの洞察力だ。

 SAOでは忌避されているプレイヤーキラーは、本来多人数プレイが前提とされるMMORPGでは普通に存在する、嫌われやすくはあるがプレイスタイルの一つとして確立される程度には普遍的なものなのだ。SAOもベータテストでは横行したらしい。

 勿論PKをすれば、逆にされる可能性が高くなるリスクを孕む。下手すればそのままゲームプレイを続けられなくなる目もある。

 そうなりにくいよう、PKはMob狩りをした場合に比べ、幾らか優遇されている部分が存在する。

 プレイヤーを殺した際、そのプレイヤーが装備していた武具やアイテム――厳密には死亡時点の装備から幾つか――の確定ドロップと、ストレージ内にあるアイテムの確率ランダムドロップ。前者は個数が、後者はドロップ確率に変動が見られる。運が良ければ超レア装備を奪えるし、運が悪ければ素材アイテムしか手に入らない時もあるという訳だ。

 それだけでは実入りが無いと、圧倒的に優遇されているのが経験値。

 通常、Mobを討伐した時に得られる経験値は、LAを取ったプレイヤーの所属パーティーに入る。複数人で組んでいるならヘイトや攻撃頻度、与ダメージ量などの戦闘貢献度に比例して多く分配される仕組みだ。

 PKも基本は同じ。違う点は、取得経験値量。

 PKしたプレイヤーは、殺したプレイヤーの累計経験値の一割を手に入れられる。これまで得た経験値が十万だとすれば、一回殺しただけで一万を一気に得られる訳だ。階層やレベル差倍率によって変動するが、最低でもMob数十体分に相当する。当然殺されたプレイヤーは一割減った経験値の分だけレベルは下がる。

 要するに、チマチマMob狩りをするよりも、プレイヤー一人を殺した方が圧倒的に早くレベルアップ出来る。

 勿論メリットばかりではない。グリーンプレイヤーを攻撃すればオレンジになるし、PKばかりしていれば必然的にオレンジにならざるを得ない部分がある。そうなれば《圏内》の街に入れなくなるから碌に補給が出来なってしまう。

 だが、それを補って余りあるメリットでもある。

 俺が《笑う棺桶》を立ち上げて以降、コイツはオレンジやレッドを殺し回っていた。俺が把握しているだけでも殺した人数は二百は下るまい。《笑う棺桶》掃討戦で俺を含めて四十人近く、次にモルテ達百人近くの他、十以上のオレンジギルドを潰しているのは確定している。

 それだけ殺していれば、奪った経験値も相当なものになっているだろう。

 《攻略組》でソロにも関わらず常にトップでいられたのは、狂っているとしか言えないソロでの戦闘回数や時間の長さだけでなく、殺した人数にも一因がある。

 それを俺もしたというだけの事。

 そのお陰でレベルも今は175だ。ジョニー達とは頻繁に別行動を取って一人でPKに行ってたから、複数で狩りをしてるアイツらとは四十ほどは開きがあるだろう。

 あっちで死んだ連中の経験値はそこまで旨くないが、《ホロウプレイヤー》の方は稀に《ホロウ・エリア》のエリアレベルに合わせて強化されている事もあるから存外旨い事もある。しかもアイツらは意思が薄いせいか絡め手に面白いくらい引っ掛かるので麻痺毒ナイフを使えば確殺だ。

 

 こっちに来た本物とこっちに元からいる偽物を合わせれば、殺した人数は千は下らない。

 

「お前ェは今まで食べて来たパンの枚数を覚えてるか?」

「チィ……ッ!」

 

 俺の答えを聞いて激しく舌を打ったキリトは、鍔迫り合いを続けては不利だと判断したらしく、無手の左手に翡翠の片手直剣を光から取り出した。

 手首が捻られ、振るわれるが、ギリギリ横に転がって回避し、地を蹴って距離を取る。

 

「逃がすかッ!」

「おおっ?!」

 

 立ち上がり向き直った途端、間近まで肉薄されていた事に気付き、思わず驚く。まさか一秒足らずの間に距離を詰められているとは、想定してはいたもののその速さは予想以上だ。

 反射的に肉厚の短剣を振るえば、奇跡的にアイツの攻撃と交わった。

 二撃目を加えられる前にどうにか腹を蹴り飛ばして対応するが、内心では冷や汗ものだ。

 

 ――――ハハッ、マジで先が愉しみになってくるじゃねェか……!

 

 生きていると分かったコイツを殺すと決めたのは、自分が仕掛けたアップデートをわざわざ止めに行くよりも手っ取り早いからだが、今の実力を確かめたいという衝動、殺し合いたいという欲求を満たす為でもある。

 自分がコイツに求めている水準は比較的高いほうではあると自負している。だから数多の戦場を生き抜くにあたって反射神経を鍛えて来たその俺の想定以上の結果を初っ端から叩き出すとは思わなかった。相手の情報を手に入れ、対策を立ててから全力を出すタイプのコイツにしてはかなり珍しい。

 それだけコイツも全力で俺を殺しに来ているという証左。

 

 ゾクゾクと、喜悦が背筋を走り上る感覚を覚えた。

 

 俺に蹴り飛ばされたアイツは、空中でくるりとバク転してから地面に着地。そのまま様子見する事無く殺意混じりに突撃してくる。

 恐らく俺を速攻で殺し、騙して落とした女共を助けに行こうと考えているのだろう。万が一女共が上に上れた場合に殺せるよう配置したジョニー達を殺すべく。女共が上って来るよりも先に行かなければならないし、何なら落とし穴から飛び降り、階下まで直接降りる必要もあるだろう。

 リミットはMob共が殺すか、ジョニー達が殺すかまで。それまでに辿り着かなければならないが、途中に俺とアイツらが立ちはだかっている。

 だからこその速攻。

 なるほど、理に適っている。

 

 ――――だが。

 

焦ってるだけじゃ俺には届かねェぜ(今は俺との殺し合いに集中しろよ)ッ!!!」

 

 ゾワリと、愛用の短剣から紫のオーラを立ち上らせながら走る。《短剣》スキルには存在しないライトエフェクトに目を剥いたキリトは途端勢いを失った。

 オイオイ、と胸中で溜息を吐く。敵を目の前にして足を止める事がどれだけ馬鹿な事か分かっているだろうに。

 

「おらァッ!」

「しま……ッ?!」

 

 敵として殺し合ってる以上それを指摘してやる義理も無いのでそのまま紫の靄を纏った刃を縦に振り下ろす。キリトは寸でのところで我に返り、横に跳び避けた。

 それを認識しつつも、ソードスキルを途中で止める事は出来ないのでそのまま振り抜く。

 

 ――――視界を、紫の光が埋め尽くす。

 

 一瞬。されどその一瞬で、部屋の端まで光が奔った。

 技後硬直から解放され、短剣を振り下ろした姿勢から戻ると共にキリトの方に向き直る。視線の先に居る二刀の剣士は険しい表情を引き締め、俺を睨み据えていた。

 

「今の……ユニークスキルか」

 

 《短剣》スキルに無い事が明らかな技である以上可能性として挙げられるのはユニークスキルくらいなもの。コイツほどこの世界で数多の戦闘スキルを取得し鍛えている者は居ないから嘘など通用する筈が無い。

 俺は肯定するように首を縦に振った。

 

「《暗殺剣》つってな、短剣専用スキルだ。見た目だけの技じゃねェのは何となく分かるだろ?」

「当たり前だ。しかもそのスキル、《神聖剣》の防御ボーナスや《二刀流》の片手武器の両手装備化みたいに、特別な効果がありそうだな……名前から察するに、PK人数あたりか」

That’s right(またもご名答)! 相変わらず冴えてんなァ、お前ェの面倒を見た事がある身としちゃァ嬉しい――――ぜェッ!!!」

 

 笑って言いつつ、不意打ち気味にオーラを纏った短剣を横に振り抜く。短剣の切っ先に沿うように紫の三日月が斬り裂かんと飛ぶ。

 それを見て、キリトは二刀から一本の包丁のような大刀に持ち替えた。

 俺が持つ愛用の短剣は中華包丁のような形状だが、アイツの大刀は出刃包丁の形状をしている。柄先から少し伸びる黒い鎖が特徴的だ。

 それをキリトは大きく頭上に掲げ――――肉厚の刀身から、蒼白い輝きが発せられ。

 

「舐めんなッ!!!」

 

 両手で振り下ろされた大刀の切っ先から、俺と同じ様に蒼白い三日月が放たれた。

 

 ――――オイオイ、マジか……! コイツ、最低二つ以上はユニークスキルを持ってんのかよ!

 

 互いの中間で衝突し、鬩ぎ合う二色の斬撃を見ながら口を歪ませる。

 《神聖剣》然り、話に聞いた《二刀流》然り、そして俺の《暗殺剣》然り、ユニークスキルに選ばれるプレイヤーは何かしらが他者よりも突出しているのは明らかだ。スキル名からして俺の場合はPKの数が発現要因だろう。コレがキリトに出なかったのは、恐らく特定の時期までに殺した人数が俺の方が上だったからか。

 俺がコレを発現したのは、大体去年の十一月半ば。デスゲーム開始――――というより、俺がこの世界にログインしてからほぼ一年が経った頃。

 確か《神聖剣》をヒースクリフが公表したのもその頃だったから、自然発現するユニークスキルは一斉にその時期に出た可能性がある。

 生憎キリトがユニークスキルを出した時、俺は既に退場していたから、人から聞いただけ。だから俺はコイツがどんなスキルを使うのか具体的には全く知らない。《アインクラッド》で流布された情報程度ならモルテ辺りから聞いているがそれも制限されたものだろうからあまり参考にはなり得ない。

 だからこその驚きであり。

 そして、マルチホルダーである事に、更なる興奮と喜悦を湧き上がらせる。

 レベル175という破格のレベルになった俺の攻撃を完全に抑え込み、こちらの想定以上の行動を最初からしてみせ、剰えユニークスキルを複数持っていると来ている。

 これで興奮しなくて、殺しを愉しんでいると言えるだろうか。

 

「クッ、クハハッ――――ハハハハハハッ! キリト、お前ェホントに最高だぜ! ユニークスキルを複数持ってるなんざ予想外もいいところだ!!!」

 

 ステータスでは互角。

 経験ではこちらが上。

 手札や引き出しはあちらが上。

 総じて互角。

 

 イイ、と狂ったような喜びが胸中を満たす。

 

 研究所での変化を見ていく最中、あの頃から既に目を付けていた自分の半分も生きていないガキが、俺を超える程の傑物になろうとしている。

 《笑う棺桶》掃討戦の時は面倒な立場に縛られてマトモに戦えなかったが、今は違う。

 元々俺はタイマンの方が強い。《暗殺剣》のスキル効果の影響、ソードスキルの特性からして、それはより顕著になっている。味方は却って邪魔なのだ。

 《暗殺剣》は、今まで殺してきたプレイヤーの数が、そのまま熟練度上昇に繋がる。威力もそうだ。累計PK数が《暗殺剣》の力そのものと言える。

 《アインクラッド》では面倒な事になるから使わなかった。使えばジョニー達は勿論、《攻略組》をも殲滅する事になる。アイツらはそう調子づく。

 リアルへの生還を最終的に目指している身からすれば、そうなるのは都合が悪い。

 それにユニークスキルの圧倒的な力を振るっても、命懸けの戦闘でこそ感じられるリアルさが欠けてしまう。それは俺の衝動、欲求を全く満たさない。むしろ乾く。

 だから封印していた。

 

 ――――だが、コイツは違う。

 

 ユニークスキルを解放し、同じような技を持っているコイツとのタイマンが出来る今は別。むしろ解放しないとこっちがすぐ殺られる。距離を殺せる武器や技はそれだけで強い。

 その強さを十全に活かす『力』や『経験』を、コイツは積み上げている。

 

 コイツには手加減なんざする必要が無い。

 

 いや、むしろ手加減なんてしたくない。

 

「いくぜ《ビーター(オリムライチカ)》――――いや、【黒の剣士(キリト)】! 全力で殺り合おうじゃねェかッ!!!」

 

 

 

 俺はコイツと――――全力で、殺し合いたいッ!!!

 

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 キリトが僅かな情報から真実を推察してみせるように、PoHも同じ事が出来るので、食い違いに自力で気付きました。キリトもPoHも立場上出来ないと死にそうなのがまた何とも()

 まぁ、PoH未だにキリトがホロウキリトであると気付かないんですが(気付けないのが普通) 記憶も精神も何もかも自分が知ってる通りなら是非も無いよネ!(むしろ本物の方をホロウ扱いしそうな感まである)

 また、キリトはPoHの思考を、PoHはキリトの思考を読み合い、互いに先手後手を交代して暗躍し続けていたという間柄。それが出来ていたのは互いに考え方や立場(表と裏など)が限りなく近いから。

 キリトの方は相手がPoHと知らなかったけどPoHは知ってるので大喜びで暗躍してた模様。コイツホントにキリト大好きだな()

 本作のPoHは原作SAOみたく、キリトを殺し合いの意味で偏愛している変態()です。なまじ本作では研究所で追い詰められていく一夏/キリトの姿を見ている事もあって偏愛ぶりが原作を超えます。

 現に原典ゲームだと『人殺し続けたい』という願いの為だけにホロウPoH(AI)はアップデートを企てましたが、本作のホロウPoH(人間)は長い目で見るとキリトの手助けになってますし。結局自分が生きたいためですが、『クリアにはキリトが不可欠』と考えてるだけでどんだけ入れ込んでるのかというね。

 オイ、クラインポジが何時の間にかすり替わろうとしてるんじゃが。

 もうPoHはキリトの兄貴ポジで良いんじゃないかなって。尚共闘しても殺し合いフラグは存在し続ける模様。別の意味で殺伐兄弟ダナ()

 ――――要するにイキイキ(殺伐)してるって事です。

 巻き込まれたキリト(AI)は堪んねぇな。

 PoHとのやり取りを知らないキリト(人間)は知らないところでPoHの殺る気スイッチ入ってるからもっと堪んねぇな(黒笑)

 前書きに書いた『マジキチスマイル』は伊達じゃない(迫真) スマイルだけじゃなくて殺る気も本気という辺りがね。



 ――――作品のテンションは作者のテンションと同等関係。

 PoHがここまでイキイキしているのは、つまり私もイキイキしているって事。

 以前活動報告で挙げた愚痴。それに対するコメントで、目から鱗並みの意見を頂いて、初心を思い出した事で意欲が溢れまくったからです。

 本作を読んで下さっている中で、もし作品を投稿している方が居るなら、ぜひとも私の活動報告のコメントを読んで欲しいと思える程。誘導に思えるでしょうが、本当に初心に帰ります。少なくとも私は初心を思い出しました。

 ――――昔はもっと純粋な気持ちで書いていたなって、そう思います。



 大人になるって、ツラいね……



 では、次話にてお会いしましょう。

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