インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 頑張った。超がんばった、詰め込み過ぎたきらいがあるけど何時もしつこくやり過ぎてるからいいかなって。

 でも視点は外部視点はちょっとお休み。基本内部がある程度進行した後、外部の反応を纏めるのが基本の書き方になってるので(書く事は確定) なので次点で多かったヒロイン勢から、サチをチョイスしました。

 前半を外部にしても良かったけど、それだと訳分からんなる部分が出て来る、というか何でお前知ってる的な事になるので。会えなく没に。

 今話の視点は前半第三者、後半サチ。

 文字数は約一万四千。

 ではどうぞ。




第百三十三章 ~未完の英雄・泥棒の神~

 

 

『■■■■■■■■■■■……ッ!!!』

 

 咆哮が響き渡る。獣の如き雄叫びは大気を、エリア内を震わせ、相対する者に畏怖と恐怖を抱かせた。狂暴な猛獣すら優しいと思える程に本能的な暴力を感じさせる威容が恐ろしい。

 姿は、しかし人だった。

 ただし、鋼色の肌をした巨漢という但し書きを付けなければならないが。二メートルある体躯の上は裸、下は獣の革で作られた腰みの一丁と軽装だが、その肉体そのものが鎧に匹敵している。隆々と膨張した筋肉は最大の攻撃力と速力を、そして絶望的な防御力と体力を誇っている事を如実に感じさせる。

 武器は一つ。岩石から削り出されたと思しき巨大な石斧。原始的な武器は、ヒトが加工した鋼の剣よりも遥かに屈強で恐ろしい凶器となり、巨漢の手に収まっている。

 

「さぁ、行け! バーサーカー! この僕の邪魔をする低脳共を片っ端からぶっ潰せ!」

 

 巨漢の名は《ザ・バーサクヒーロー》。

 狂った英雄と名付けられたボスは、本来であれば《アインクラッド》第九十九層のフロアボスであり、ラストボスに匹敵する特殊能力を有する最強の個体。ラストバトルに挑む前に立ちはだかる最後の関門。浮遊城の主と戦うために通らなければならない狭き登竜門。

 それが今、GM権限を悪用する男の手によってステータスの底上げ、AI性能の上昇、特殊能力の上位変換――およそバランス崩壊を来す意図的且つ反則の強化が施され、立ちはだかっていた。

 真っ先に狙われたのは、先陣を切っていた二刀の少年。男を捕まえられる唯一の存在な為に先頭を進んだ結果、そのエリアに入った直後バーサクヒーローの奇襲を受け、一撃で瀕死に追いやられる。体力を半分以上削られたせいでスタンを喰らい――それ以上に直撃による激痛で意識を手放していた。

 ――攻撃されたのが少年で良かったと、そう思うべきなのだろう。

 少年は鎧に分類される防具のお陰で全ての被ダメージが半減される。それで瀕死なら、他のプレイヤーでは即死だったのだ。

 しかし状況は非情だ。一撃では死ななかった彼を亡き者にせんと巨漢が近寄る。

 

「キリト……ッ!」

「――――スレイブッ!」

 

 義弟を助けようと、妖精の剣士が駆け寄ろうとする。しかしその行く手を阻む者が現れた――黒尽くめの騎士スレイブだ。黒いバイザーを付け、禍々しい甲冑を纏う彼はゆらりと剣を正眼に構えた。

 スレイブは、【黒の剣士】キリトの記憶や精神をコピーしたAI。プレイヤーアカウントを使っているだけで、成り立ちそのものはホロウキリトと大差がない存在だ。故に彼は姉を傷付ける事を良しとせず、かつて自己矛盾に陥り自我を崩壊させた。

 しかし今、再びアルベリヒの手駒として動かされていた。

 ――剣を構える少年に、意志は見られない。

 望んでいない事であろうと刃を交える時は気迫を発していた黒の騎士は今、伽藍洞のように虚ろだった。つまり今の彼に自我は無い――AIの操作によって無理矢理剣を持たされている人形になっていた。

 それが、彼女の怒りに火を注ぐ。

 

「アルベリヒ、貴様……ッ!」

 

 悪鬼と表すのも生温い鬼気迫る表情。AIという別存在とは言え精神や記憶が同じで、姉を想って自我崩壊した彼は彼女にとって義弟そのもの。故にスレイブにも彼女の家族愛は適用される。

 愛と憎しみは表裏一体。

 愛が深いからこそ、生じる憎しみはより深いものになる。

 

「こ、の――――ッ!」

 

 突然、妖精の横から飛び出した影が、スレイブに斬り掛かった。紫紺色の影――それは【絶剣】と称された剣士の少女。少女は歯を食い縛りスレイブと刃を交え、立ちはだかった。

 

「今の内に、キリトを!」

「――まけん、かいほう」

「くぅ……?!」

 

 闇のオーラが噴出し、間近で喰らった彼女は衝撃に逆らわず後退した。

 その隙を埋めるように、水色の細剣士が躍り出る。

 【舞姫】と称された双子の姉だった。続くように聖騎士が、大剣使いが、斧使いが――防御力に秀でた者達が続けて押し寄せる。後退した少女も含めて五人がかりで漸く闇のオーラと拮抗し、追撃に出た黒の少年と男が脇から挟み撃ちしてエリアの隅へ押しやる。

 残る者達は少年を救わんと開けた道を駆けた。

 

「さぁ、殺せ!」

 

 ――間に合わない。

 スレイブによる足止めを喰らい、五秒、動きが遅れた。たった五秒。しかし、されど五秒。一瞬の隙が趨勢を決する戦いに於いて五秒は絶大な遅れだった。

 黒の巨漢は、既に斧剣を振り上げていた。

 

「キリト……ッ!」

 

 斧剣が振り下ろされる瞬間、少女の声と同時に虚空に武器が出現した。弓使いにして少年と同じ召喚武器を持つ少女の思念がそうさせた。虚空に現れた武器はそこで固定され、即席の盾となる。

 斧剣と武器群がぶつかり、放射状に衝撃が広がった。

 その隙に駆け寄る妖精――の横を追い抜く、槍使いの女性。女性は極限まで鍛えられた能力を駆使して距離を詰めた後、少年を抱き上げる。

 

『■■■■■■■■■■ッ!!!』

 

 ――しかし、敵は反則レベルで強化されたフロアボス。

 目の前で死にかけている獲物を容易く逃がすほど甘くはない。上がダメなら下からと、少年と女性を屈強な脚で蹴り上げた。ごっ、という衝撃と共に二人の体が宙に浮く。

 少年の体力が残り一割を切り。

 女性の体力が最大値から二割まで減った。

 女性が庇うように盾になったから二人とも死ななかった――しかし、スタン状態に陥った二人は、空中で身動きが取れないでいる。

 

「させません……!」

 

 庇うように、黒尽くめの少女が武器を出現させ、弓使いの少女が後に続く。数々の武器が二人を守るよう展開され――

 腕の一薙ぎで払われた。

 武器の固定は召喚者が持続的に想像を続けなければならない。

 彼女達はそれが出来なかった。あの屈強な巨漢の腕の一薙ぎに抗するイメージを練る事が出来なかったのだ。だから、ああも容易く払われた。

 間髪を入れず連撃を入れるべく、既に斧剣は振りかぶられている。

 ――もう、誰も間に合わない。

 

 ある者は名を叫んだ。

 

 ある者は慟哭した。

 

 ある者は激励を送った。

 

 ある者は涙を流した。

 

 ある者は絶望した。

 

 それほどに、打つ手なしとされた状況。少年の奇襲を察知していた男の狡猾な罠により巨漢の一撃を受け、行動不能に陥った時から、彼らは万策尽きていた。詰みだった。

 

 

 

 ――――彼我の戦力に、変化が生じなければ。

 

 

 

 少年の命脈は未だ尽きてはいなかった。

 

 ***

 

 ――見通しが甘かったのだと思う。

 五つのエリアを制覇し、管理区の最奥にあるコンソールルームへの道を通る権利を得た《攻略組》は、すぐさまそこへと向かった。ただし正規のルートは通らずに。

 《ホロウ・エリア》の各地を自由に移動する術を持つ未だ素性の知れぬ人物ヴァベル。胸部の膨らみとキリトの発言から『女性』らしいヴァベルは、闇のゲートを意のままに開閉し、各地を瞬時に移動する能力を持っている。彼はそれを使う事でアルベリヒに対する奇襲を仕掛ける事を提案した。

 

『そんな事が出来るなら最初からやってればよかったんじゃないか?』

 

 いの一番に、《聖竜連合》のリーダーが問いを発した。これまで見て来た敵愾心のある責めるような口調では無く、純粋に疑問を抱いて問い掛けた素振りだった。

 彼は、その疑問は当然だ、と言って頷き、どうして今言ったかを語った。

 ――ヴァベルの能力は、闇のゲートで繋いだ二か所の地点を瞬時に移動するもの。

 移動時間を大幅に削減出来るそれは、システムを完全に無効化して発動する訳では無い。この世界に居る限り自分達は【カーディナル・システム】が定めたルールの枠から外れられない。故に合流してすぐ管理区最奥にゲートで移動は出来ず、よしんば出来てもそこに進入する権利を持っていないので良くて追い出され、最悪エラー判定が出て身動きが取れなくなる可能性があると見ていた。

 そして何時アルベリヒが自分達を見ているか分からない以上、おいそれと奇襲の作戦を口にする訳にもいかず、五つのエリアを制覇するまで黙るしかなかったのだという。

 そう説明され納得した一同は、少年に頼まれヴァベルが開いた闇のゲートを潜り、奇襲を仕掛けた。

 

『――掛かったな、バカめ!!!』

 

 ――しかし、通用しなかった。

 唯一GM権限の防壁を貫通出来る彼が最初にゲートを潜った。続けて潜った先に見たもの――それは、瀕死に追いやられた少年と、それをあざ笑う絢爛華美な男、そしてその傍らに力無く佇む黒騎士の少年と雄叫びを上げる黒肌の巨漢だった。

 恐らく男は、この管理区最奥――秘匿領域――まで逃亡した後、GM権限という特殊な権能が通用しない彼を殺すべく、あの黒肌の巨漢を呼び出していたのだ。

 巨漢の頭上にある名前は《The Berserk Hero》。狂いし英雄。

 良くてフィールド、最悪クォーターポイントのフロアボスだろうそれは、獰猛な殺意を瀕死の少年に向けていた。普通ならボスをテイムする事など絶対不可能だが相手はGM権限を持っているから可能にしてしまえる。そして完全なモンスターであればスレイブのように自滅する事もなく、設定された通りに敵を殲滅する。

 ――私達は、あの男を過少に評価し過ぎていたのだ。

 あんな人格の男でもSAO製作に携わった優秀な研究者。詰めの甘さや想定外に見舞われ混乱する事こそあれ、基本あらゆる行動に何らかの思考があったのだ。そして一度情報を与えてしまえばそれに対応する技術と権能が男にはあった。

 キリトにとってのメタ。それは二つある。

 一つは人。悪人や歴然な敵ではなく、彼自身が守ると誓った身近な人達。通常決して敵対し得ないが、男の恐ろしい研究によってなし得てしまう為に生じる弱点。

 そしてもう一つはモンスター。和解は無く、どちらかが斃れるまで殺し合うしかない関係性故に、それを使役する存在が目的では非常に邪魔になる。相手をしなければならない。だが、その時間を使ってGM権限で余計な事をされる事もある。彼の命を奪う事はともかく、時間稼ぎとしては最適と言えた。

 それでも彼は死に瀕している。

 GM権限のカバー範囲を知らなかったからか。ボスを召喚し使役する可能性を考えていなかったからか。ヴァベルのゲートを使った転移を見抜けないと思い込んでいたからか。巨漢の能力があまりに高過ぎたからか。

 ――否、全て否。

 偏に、アルベリヒの危険性を見誤ったが故。GM権限もボスの事も全てはアルベリヒの危険性を底上げする添加物に過ぎない。

 その代償が今、彼の命が奪われようとしている。瀕死に陥った彼を救おうと駆け寄った私も、また。

 

 ――――でも、せめて彼だけは。

 

 どくん、と鼓動の音が一際大きくなった。

 常に腰のポーチに入れている物を意識する。

 聖夜に少年から渡された貴重な代物――およそ、このデスゲームに於いて誰もが求めるだろう聖遺物。現状入手手段がないユニークアイテム。白銀の宝玉がはめ込まれたこぶし大の宝石。指定のアクションを起こす事で、体力を失ってから十秒間のみその者を蘇生させられる至宝。かつて幼馴染を纏めて喪った絶望で自ら命を絶った青年への贖罪の為に独りで戦い得た報酬。求めた効果と違い絶望した彼が棄てたもの。

 ――《還魂の聖晶石》

 すぐ誰かを蘇生できるよう常にポーチに入れていたそれを使うべき時なのかもしれない。そうでなければ、救えないから。

 ――それでも、キリトの心までは救えない。

 たった一ヶ月程度なのに彼は《月夜の黒猫団》の事を大切に想うほど優しい。自業自得で死んだダッカー達の事も、逆怨みで自殺したケイタの事も真っ向から己の罪科として受け止めるほど、根っこはまっすぐで、素直で……とても優しい子なのだ。

 そんな子が、自身が救われる為に誰かが犠牲になった時、己を責めない筈が無い。今までがあるからこその確信。

 それでも、そうするしか彼が救われる方法はない。

 キリトはこんなところで、こんな男の陰謀なんかで終わっていい人間ではない。

 彼は、ずっと頑張って来た。クリアの為に。生還の為に。人々の為に。同じ時間を生きる人間なのに、一人だけ流れの速さが違うような密度の濃い努力をするくらい、彼は生きる事に本気だった。ならせめて報われなければ嘘だ。

 間違いなくずっと心の傷になる。でもそれは死んでしまったら感じられないもの、生きる事に勝るものなんて存在しないのだ。皮肉な事に自殺した青年が教えてくれた。

 ――まるであの男のようだ。

 そう思った。どう足掻いても、どう動いても人の心を傷付けるあの男のような狡猾さが、醜さが、理不尽さが、この現状にはあった。プレイヤーが逆らえないGM権限。人を操る魔の技術。己の為に他者の命と尊厳すら貶めるその非道ぶり。なるほど、確かにデスゲームにしたのはこの男だと納得出来るものがある。自分だけ有利にし、思うが儘に他者を操ろうとする状況が出来上がるのはあの男らしいと。

 

 そう男を詰るのも、それ以外に出来る事が無いから。

 

「――今までありがとう、キリト」

 

 抱き締める少年の耳元で囁く。

 ――視界いっぱいに広がる鼠色の岩。

 数瞬後、私達は殺される。

 

 ――でも、キリトだけは絶対殺させない。

 

 それは覚悟。

 死ぬのは怖い。でも、自分が死ぬよりも、もっと怖い事があった――惹かれた少年が死ぬ事だった。

 彼が死んだらアルベリヒに抵抗出来る者が居なくなるとか、そんな事は最早関係無い。仮令この身が、命がどうなろうとも――――何時しか好きになっていた彼の死が、嫌だった。

 これは身勝手なエゴ。彼も自分が死ぬ事を恐れていて、それを私は理解しているにも関わらず、自分の感情を優先して生かそうとする醜さと愚かさは、ヒトを人たらしめるものだろう。

 

 それでもきっと。

 

 幾度生まれ変わろうと。

 

 幾度選択を迫られようと。

 

 ――私は、大切に想う人の為に、命を懸けて戦う。

 

 これは戦い。命を懸けた本物の血戦。血が流れなかろうと、心の血は流れている。負ければ死。生きた者こそが勝者。弱肉強食だけが摂理の厳しい世界。

 なら私は、強者の礎となる。彼が生きればアルベリヒを必ず止められる。その確信があるから、命を懸ける。

 私の死が。決断が。覚悟が。選択が。

 決して無駄にならない事を、信じているから――

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

 ――――死の鎌が振り下ろされた。

 

 *

 

 ガァンッ、と質量大のものが叩き下ろされる轟音が耳朶を打つ。

 ――だがそれは、無機質な床を叩いた音でも、人体を粉砕する音でもなかった。

 衝撃が無かった。宙に浮いていた体が床に落ち、腕に抱く少年の重みを実感しているこの身は、まだ死んでいなかったのだ。

 

 

 

「な、何をやっているんだ、お前――――スレイブゥッ!!!」

 

 

 

 悪鬼の怒号がエリアに響く。

 はっと前を見れば、誰かが背を向けて立っていた。黒い武具を纏い、黒の大剣で巨漢の石斧を止めている。数秒火花を散らして鬩ぎ合っていたが、鋭く息を吸った直後、剣を振り抜いてあの巨漢を大きく吹っ飛ばしてしまった。

 どすん、と音を立てて巨漢がアルベリヒの横に着地する。

 

「またか……またなのか、お前はっ! ただのデータであるお前が一体なぜ僕に反抗出来る?!」

 

 顔を歪める男が怒鳴り散らした。

 ――私は、ただ茫然と、眼前に立つ少年を見上げていた。

 黒の甲冑と具足、そして大剣という差異こそあれ、死に瀕した状況を助けてくれたこの格好は――――あの時と、酷似していた。

 床に座り込んだ私。私が見上げる先で、背を向け、敵に立ちはだかる少年。

 この構図は、あの時と――《月夜の黒猫団》壊滅の日と、まったく同じ。

 

「……った……」

 

 ――か細く、震える声が聴こえた。

 俯き、肩を震わせる黒騎士からのもの。バイザーで隠れ、背を向けているせいで表情は見えない――だがその様子は、苦しさを堪えようとする少年そのものだった。

 

「ちかった……護るって、ちかった……!」

 

 ――アルベリヒにより塗り潰されたと思っていた『彼』の心は、まだ死んでいなかったのだ。

 

「守る……? 一体何を言ってるんだ、お前が守るべきなのはこの僕――」

「――違うッ!!!」

 

 己を『義姉』と誤認させている男の言葉を、黒騎士は強く否定した。それは曲がりなりにも義姉を拒絶している事と変わりない。

 彼の震えが、荒い呼吸が、一際強くなる。

 

「違うっ、おまえは違うッ! リー姉は、おれの事を認めてくれた、弟って言ってくれた! お願いも頼みもされるけど、でも――『命令』だけは、絶対にしなかった! 誰かを傷付ける事を平然としなかったッ!」

 

 俯き、嗚咽と呼吸混じりに、苦しそうに叫ぶ黒騎士――スレイブ。『奴隷』と名付けられ、これまで理不尽に晒されていた少年が自我を持ち、反旗を翻していた。『義姉』を語る男を弾劾していた。

 AIはプログラム――自分の決め事を含めたもの――から逸脱出来ないのが普通。だから『義姉』と義姉の板挟みに遇って自我崩壊した。

 だが今、自身に働いている『義姉』のフィルターはそのままで、自我崩壊に至らないよう理屈をこね、葛藤に陥らないよう避けている。男の事を『義姉』と思うから自我が崩壊した、ならそう思わないよう事実を列挙し自己の認識を上書きする事で問題を力ずくで解決しようとしているのだ。以前は出来なかった事を誰に言われるでもなく行っていた。

 それは――その在り方は、人そのものにしか思えない。

 

「それにちかったんだ……今度こそ、護るって……!」

 

 ――そこで、彼は僅かに振り返った。

 バイザーに隠れているのに、彼の視線を感じた。私に焦点を合わせていると直感で理解し――彼が言っている『誓い』と『護る』という意味を、そして先ほど義姉の前にも立ちはだかった彼がどうして唐突に反旗を翻したかも察した。

 《月夜の黒猫団》の一件をずっと罪として意識している彼は自分を一人にしてしまった事を心底悔いている。仮令ユウキ達の仲間に入れたとしても、仲間だった者達を守れなかった事は事実であり、私が気にしないよう言っても功を奏した事は無い。彼にとってその罪の意識が行動原理の一つだから。

 ――だから彼は、反旗を翻せた。

 自分が見ていない自我崩壊。それは『義姉』と認識せている男の命令が義姉を傷付けるものという矛盾を孕んだものであり、『大切な存在を守る』という決め事に抵触した。どちらも選ばないという選択を取れず、葛藤の末に崩れたのが先の顛末。

 しかし今は違う。

 彼が庇ったのは、限定すれば己のオリジナルと私。更に『義姉』のフィルターを自ら外しに掛かる事で『義姉を含む抹殺命令』との衝突を回避。実際に手を下そうとしたのもボスであり、『義姉』を騙る男ではない。ダメ押しで《月夜の黒猫団》の一件で相当気に掛けている自分の死が、オリジナルキリトという自身そのものの窮地によって招かれる。

 これらの条件が揃ったから反旗を翻せたのだと思う。

 恐らく一番の要因は、実行犯が巨漢ボスだった事にあるだろう。アルベリヒが殺そうとしていたら止められなかっただろうが、ボスは所詮ボスであり、プレイヤーの味方になり得ない。その『穴』を突いて自己理論を完成させたのだ。

 ――罪の意識がそうさせた。

 『サチを守る』という強い誓いがそこまでに至らせた。

 

 ――ほんとうに……君は、そこまで強く思って……

 

 辛い筈だ。『誓い』を意識する度に浮かぶだろう罪の意識は心を疲弊させる。《月夜の黒猫団》が壊滅したのは私達の心が、力が弱かったからなのに、責任を感じ続けているなんて、普通は正気を失う。

 ……きっと、『誓い』が正気を失わせなかった。失う事を自ら禁じていた。

 それだけ強固な想いと記憶が残っていたから再度改竄されたスレイブは自我を取り戻し、己の意思で立ち向かえた。

 ――視界が滲む。

 あの時の安堵を抱く。もう大丈夫なんだ、と心の底から安心できた。視界の周囲が真っ赤で瀕死なのは変わらない。それでもあの背中を見るだけでほっとする。

 

 ――――そうだった。

 

 小さくて、けれど頼もしい黒の背中を見て、思い出す。

 私が剣を手にした日。少年に師事し、鍛えてもらう事を決意したあの日――私は、群がる恐怖の対象を斬り裂き、颯爽と自分と仲間を助けてくれたあの背中に、惹かれたんだ。華奢で、小さくて。でもしっかりしている剣士の背中に憧れた。

 手助けしてくれて、嬉しくなった。

 厳しく指導してくれて、やりがいを感じた。

 凄く強いのに、それでも恐怖を抱いてる事に親近感が湧いた。

 ――そして、戦う事と死への恐怖を一番に理解してくれて、惹かれた。

 死への恐怖を、人からの敵意を感じながらも賢明に生き、怖くて縮こまっていた私に勇気をくれたあの少年に、私は心惹かれたんだ。

 その憧れと親愛は私に安堵を抱かせた。

 

「サチ、大丈夫?! ――ヒール!」

 

 相対していた黒騎士が翻意したため相手が居なくなったユウキが、ピンク色の回復結晶を使って瀕死の体力を全回復させてくれる。ランも腕の中でぐったりとしているキリトを回復させた。

 ありがとう、とお礼を言うと、二人は少し笑った。

 そして全員で敵対する男と巨漢を睨み付ける。

 

「この、どいつもこいつも僕の邪魔ばかりする低脳共が! 出来損ないのコピーも出来損ないだなんて、基礎AIを作るシステムはポンコツじゃないのか?!」

 

 男は悪鬼の形相で怒鳴る。目は血走り、犬歯を剥き出しにする様は酷く見苦しい。

 

「もうただじゃおかないからな……! 男は実験体にして、女は奴隷にして死ぬまで扱き使ってやる!」

 

 そう言って、アルベリヒは素早く左手を振って紫のシステムウィンドウを出す――――GM権限行使によるシステム操作。

 させない、と駆け出そうとするユウキ達は、しかし一歩踏み込んだところで力無く倒れた。

 自分も少年を抱いたまま横に倒れる。視界の端では私を守るように立っていたスレイブも前のめりに倒れるのが見えていた。そこかしこに見える皆のHPバーには麻痺毒を示すアイコンがある。GM権限でこのエリアにいるプレイヤーに付与されたものだ。

 

「まずはGM権限が効かないそのガキからだ! そいつさえ始末すれば、お前達は何もかも終わりなんだからな!」

 

 腕に抱いた少年には、私達と違って麻痺毒のアイコンが無かった。何故か分からないが本当に効いていない。

 

「――させるかよ」

 

 ――近付く男を牽制する鋭い声。

 腕に抱く気絶している少年のものでも、視界端で倒れた少年のものでもないそれ。だとすればあり得るのは――

 

「な……ガキのホロウも効かないのか!」

 

 やはり、キリトのホロウだった。

 驚愕するアルベリヒ。その隙を突くように地を蹴り、肉薄する少年は、しかし割り込んできた巨漢によって弾き飛ばされる。寸でのところで二刀で防御していたからダメージは大きくない。

 しかしこれでアルベリヒを止める手立てが本当に無くなった。

 それに気を良くしたか、悠然とした歩みでこちらに近付いてくる。その眼に少年への怒りと私への下卑た色が宿っている。

 

「アルベリヒィっ!!!」

 

 巨漢の猛攻を捌きながらもホロウキリトは武器を飛ばした。水平に飛び、私達に誤爆する恐れの無い軌道を描くそれは、悠然と歩くアルベリヒの背に当たる。

 ――しかし、男は微動だにしない。

 代わりに飛来した槍の方が弾き飛んだ。紫のシステムウィンドウは出ていないが、男は無傷。

 訳が分からず、ホロウもなに、と動揺している。

 くつくつと、男が喉の奥で笑った。

 

「僕が同じ轍を踏むと思ったのならそれは大間違いさ。システム的不死が通用しないなら、GM権限専用のもの以外で対処すればいい――――例えば、アバターの防御力と属性耐性をカンストにするとかねぇ!」

 

 システム的不死の設定はGM権限だからこそ出来るもの。理由は不明だが、キリトはそれを貫通出来る特殊なプレイヤー。

 ――しかし、プレイヤーはこの世界のルールに抗えない。

 それは数値。攻防の応酬で発生するダメージは緻密な演算により成り立っており、その参考値はステータス。武具を装備した状態での攻撃力、防御力、筋力値と敏捷値の他、様々な要素が絡んでダメージが出される。そこはキリトもアルベリヒも変わりない。

 だからアルベリヒは、GM権限で己の防御力をカンストさせた、と言ったのだ。

 レベルカンストでステータスが上昇しても、全ての値が上限値に届く訳では無い。むしろ届いたらSAOはヌルゲーと化す。《ホロウ・エリア》の探索も二時間と掛からなかった。

 プレイヤーとモンスターは同レベルでもステータスは補正により後者が勝る。プレイヤーでは届き得ない値を、GM権限で弄ればモンスターと同様の、あるいはそれ以上の値に設定出来るのだ。

 それをこの男はしたと言ったのだ。防具の防御力では無くアバターだから、どこを攻撃してもダメージ計算にはカンストの防御力値が適用される。そもそも斬撃・打撃・刺突・貫通の属性ダメージカット率をカンストしてるから、ダメージは必ずゼロになる。

 だからシステム的不死を貫通するホロウキリトの攻撃で男は小動もしなかったという事。

 ――何て姑息な……!

 殺し合いに卑怯も何もないし、所詮弱者の遠吠えでしかないから意味も無いが、それでもそう思わざるを得ない。

 ――すると、私と目を合わせた男の口が弧を描き、喜悦を見せた。

 

「おやおや、随分と反抗的な眼をしてるな。これは調教、もとい教育的指導のし甲斐がありそうだよ。くくくく!」

 

 ジロジロと私の肢体を嘗め回し、悦に浸るアルベリヒ。この男の脳裏には今正に凌辱される私の姿が浮かんでいるのだろう。

 ぞぞ、と怖気が立ち、生理的な嫌悪感が強くなる。

 こんな男に肌を触らせたくなんてない……!

 

「とは言え、あまり悠長にしてもいられない。さっさと済ませるとしよう」

 

 喜色の悪い表情を改め、少年を憎悪の眼で見て言った後――

 

「システムコール! ID【聖剣エクスカリバー】をジェネレート!」

 

 ――続けて、口頭でGM権限を行使した。

 この世界にあるアイテムは万を優に超えるから手動で探すのが面倒で、だから音声入力したのだろう。囚われる前にあった検索端末も音声入力はあったからすぐわかった。

 そう理解する最中、虚空に光が現れた。

 ――それは一本の剣。

 蒼玉色の柄。金拵えの刃側に湾曲した鍔。刃はすらりと美麗な星光を放ち、黄金色に煌めいている。

 形状や見た目こそシンプル。

 だが、だからこそその威容に圧倒される。

 世界的に有名な『アーサー王伝説』に登場するアーサー・ペンドラゴンが石台から選定の剣カリバーンを抜いた後、湖の精霊から託された中の一振り。王こそが振るうに相応しいとされる聖剣。

 銘をエクスカリバー。

 騎士王が振るったとされる代物――それを再現した剣。

 

「どうだい、美しいだろう? このシンプルなデザインに込められた美麗さを表現するのに酷く苦労させられたものだよ。しかもこれはスレイブが持つ【魔剣フォールブランド】と合わせて二つしか存在しない両手片手半剣でね、システム的に《両手剣》と《片手剣》双方のスキルを発動出来るものなんだよ。両手剣の威力と片手剣の取り回しの良さを合わせた究極の剣だと思わないかい? んん?」

 

 【聖剣エクスカリバー】と【魔剣フォールブランド】は、それ一つで両手剣と片手剣の両方のソードスキルを放てるらしい。見た目では《両手剣》にしか見えなかったから意外だ。そういうのがあればいいなと初期に思っていたが、今の戦い方に馴れてからはすっかり忘れてしまっていた着眼点の代物だ。

 しかも設定に苦労した話から察するに、《ホロウ・エリア》で自動作成されたものでも無いらしい。つまり《アインクラッド》を順調に攻略していけば何れ手に入っていたという事。言い方や聖剣のネームバリューから察するにサーバーで一つの最終装備か。

 それをあの男はコマンド一つで手にし、見せびらかす。

 輝く刃を撫でる。殺人鬼が刃を舐めるように、嬲るような手つきが嫌悪を引き立てる。

 

「ああ、それにしても残念だ。気絶したのは都合がいいけどこれじゃあキリト君の死に際の顔が見れないじゃないかぁ」

「っ、あなた……!」

 

 趣味の悪い事にこの男は彼が死ぬ間際すらも余興として愉しむつもりらしい。思わず唇を噛んで睨むが、アルベリヒは意に介さずキリトの腕を掴み、私から引き剥がした。手を離し、乱暴に床に彼を転がす。

 ごろりと、力無く横たわる黒の少年。

 辛うじて動く右手を伸ばすが、当然届く事は無く、虚しく空を切る。

 

「まぁ、いい。コピーには出来ない生の顔を見たかったが、それは別のヤツで試すとしよう」

 

 手の届かないところで、アルベリヒが聖剣を振り上げる。

 

「――待、ちなさい……!」

 

 ――その時、誰かが男の足を掴み、怒りの声を発する。

 

「その子は、殺させない……!」

 

 それはリーファだった。麻痺毒で動かせる右手で地を這って、アルベリヒを止めようと必死に抗っていた。

 

「ふん、ただのプレイヤーであるお前に、神である僕を止められると思うのか?」

 

 鼻で笑った男は手を振りほどき、ついでとばかりに彼女の手を踏み付けた。リーファはペインアブソーバレベルを五に落とされていたから痛みを再現される。それを分かった上で、アルベリヒは踏みつけたのだ。

 友人を、キリトが大事に思う人を傷付けられて、何時になく怒りが湧き上がる。

 

 

 

「――――リー姉(・・・)に触るな」

 

 

 

 ――声が聴こえた。

 アルベリヒは困惑する。私達は、歓喜した。このタイミングで、彼は目覚めた――ともすれば、リーファの想いと悲痛な声がトリガーになっているかのように。

 目覚めた彼は右手にエリュシデータを取り出し、間髪入れず体幹を起こし、自身を跨ぐように立っている男を斬り付けた。突然の事に対応が遅れたアルベリヒはその一撃を諸に喰らって吹っ飛ぶ。彼は体幹を起こした勢いで立ち上がった。

 

「いま、リー姉って……なら今のあなたは……」

「ああ。痛みが『あいつ』の意識を吹っ飛ばして、代わるように俺の意識が浮上した――ただいま、リー姉、みんな」

 

 膝を折り、リーファに笑い掛ける少年。バーサクヒーローから受けた一撃で『オリムライチカとしての彼』の意識が吹っ飛び、人格統合をしていた彼がタイミングよく覚醒した。そういう事らしい。

 

「くそっ、いい加減死ねよ! 神である僕の命令だぞ!」

 

 ――再会を祝う雰囲気は、自尊心に溢れた言葉で壊される。

 吹っ飛ばされた男は起き上がり様に怒りを露わに怒鳴る。GM権限を持つ自身を『神』と僭称し、己の命令は絶対と言い、己の理想を押し付ける。

 キリトはそんな男を冷ややかに見る。

 

「神、か……違うな。お前は、神なんかじゃない。ただの泥棒だ」

「なんだと……!」

「そのGM権限が無かったらお前もただのプレイヤー。レベルやステータスは高いんだろうがそれも借り物……たしか、《アミュスフィア》の基礎理論はお前が作ったらしいな。だがそれも茅場晶彦の《ナーヴギア》の基礎理論を流用しただけ、ALOのデータすらSAOのデータを流用したもの、システムも同様。お前は他人を貶め、その人の成果を奪い喜んでるだけの泥棒に過ぎないよ。決して神なんかじゃない――――人は、完璧足り得ないからこそ人なんだ」

「タイミング良く目が醒めたからって救世主気取りかい、笑わせてくれるよまったく! こんな遊びの世界で救世主になっても現実では一切評価してもらえないというのにそれが分からないからお前は低脳なんだ!」

「なら、そんな仮想世界(遊びの世界)で神を自称するお前も、俺と同じ低脳だな」

 

 バッサリと、彼はそう返した。あまりの返しに目を剥いて固まる男。

 

「――さて、いい加減決着を着けようか。お前が野放しになってたら迷惑どころじゃないんだよ」

 

 ゆら、と一歩踏み出す少年。冷たく鋭い殺気を感じた気がした。

 

「この……! ああそうだな、ご所望のようだしいい加減決着を着けようか! 残念ながら、結末はお前の死しかないけどねぇ!」

 

 ぞっとする喜悦を顔に浮かべ、アルベリヒが地を蹴る。途轍もないスピードで距離を詰め切り掛かる姿がコマ送りのように見えた。

 彼は未だユラユラと掴みどころのない動きで進んでいる。

 

「死ねぇッ!!!」

 

 そして、アルベリヒが聖剣を振り下ろし――――聖剣の刃は、片手で止められた。

 上から下へ振り下ろされる黄金色の刃を、彼は左手の親指と四指で挟み、止めていた。ステータス差を感じさせない余裕さがある。

 

「――付け焼き刃の剣を止めるなんて、素手で十分だ」

「な――」

 

 絶句する隙を突いて、黒剣を握る手で男の顎をかち上げ、視界を揺らす。次に剣の柄で聖剣を握る男の手首を強打し、強制的に武器落としを誘発。間髪入れず体幹を捻り、左拳で《体術》ソードスキル《閃打》を鳩尾に叩き込み、吹っ飛ばした。

 カラン、と音を立てて落ちた聖剣を、彼は左足で柄を踏み、宙へと上げる。

 くるくると回りながら上がり、重力に従って落ちて来る剣を、左手を薙ぐと同時にキャッチ。その光輝く切っ先を起き上がるところのアルベリヒに向けた。

 

「ふ、ふふ、無駄だよ。君は聞いていなかっただろうが、僕のアバターは防御力と属性ダメージの完全カット状態にある。君がどんな攻撃をしようと絶対殺せない」

 

 苛立ちを含みながらも強気に笑うアルベリヒ。

 

「――誰が何時、殺すと言った」

 

 その顔が、固まった。

 

「そもそも殺すつもりなら最初に捕らえた時点で殺している」

「な、に……ぐ?!」

 

 ――突然、アルベリヒが呻きを上げ、床に倒れ込んだ。

 HPゲージの下には、今自分も掛かっている麻痺毒のマーク。男の左足部には黒い短剣が刺さっていた。

 

「時間稼ぎに付き合ってくれてどうもありがとう、カミサマ。お陰で最良の捕縛手段に移れた」

「は……こっちには、ボイスコマンドがあるんだぞ……?」

「開発陣営に居たくせに知らないのか。ベータ時代からあるボイスコマンドは囁き声だと反応しないようになってる。ベータ時代のログアウト然り、NPCとの会話然り。麻痺毒では囁き声しか出せない以上お前はもうシステムコマンドを使えない」

 

 麻痺毒に掛かると、利き手が右の人でもシステムメニューを出せなくなる。出すのに必要な速度を出せないからだ。他人が手を操作すれば出せるから麻痺毒がキーで出せなくなる訳では無い。

 そして声も麻痺毒だと彼が言ったように囁き声程度しか出せない。

 だから音声入力によるシステムコマンドも使えない、という彼の予想は当たっているらしく、アルベリヒの顔色は徐々に焦燥を増していく。システムコマンド、と呟くのが聴こえるが、それもシステム側が認識していないから無反応。

 

「このっ、反応しろよポンコツッ! 肝心な時に動作しないなんて……!」

「これで分かったか。お前は神じゃない、SAOを統括する存在である【カーディナル・システム()】の力で自称していただけの、ただの泥棒だ――――そこで、暫く寝てろ」

 

 そして、虚空から数々の武器が降り注ぐ。四肢を、胴体を、首を、頭を、次々と貫き穿ち、床に縫い留める。数秒経てば針山のように武器が男の体に刺さって身動きを封じていた。

 ただ一つ――左手首から先だけを残して。

 針山に近付いた彼はアルベリヒの左手を操って紫色のシステムウィンドウを喚び出した。それから少しの間操作すると、私達に付与されていた麻痺が消えた。

 アルベリヒも一瞬消えたが、麻痺毒を付与された短剣が刺さったままだからまた掛かる。

 

「キリト……!」

「少し待ってくれ。ホロウが抑えてるボスを消す」

 

 喜び勇み駆け寄ろうとした私達を言葉だけで制し、真剣な面持ちでメニューを繰っていく姿を見て、足を止める。真面目に行動している彼の邪魔をする者はここに誰も居なかった。

 本来なら、ボスを消す事は【カーディナル・システム】が許さないだろう。

 しかしここに居るバーサクヒーローはアルベリヒが不当に呼び出し強化した個体。本来許されない存在だったのか、少ししてGM権限の操作によりバーサクヒーローも消滅し、管理区最奥のコンソールルームに静寂が訪れた。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 色々詰め込んだけど、まぁ、展開速くなるからいいかな!
(意訳:アルベリヒ相手にそこまで接戦出来ないよ!)

 キリトの人格は統合した方に戻りました。元々PoHと会った時点のユウキ視点で書いたように消えかかってましたし、おすし。あまり引っ張っても困るのでアッサリ逝っていただきました。

 バーサクヒーローはFateシリーズのヘラクレスさんを、聖剣はFateの顔の元祖セイバーの聖剣を基にしてます。

 ――最初はアルベリヒ捕縛後にバーサーカーと戦わせるつもりだったけど、コイツが不当に召喚したヤツならGM権限で消す方がキリトらしいなと思って。

 その代わり第九十九層は絶対書きます。

 スレイブは連れ去られてまたプログラムで人形にされましたが、一回目の自我崩壊の記憶や経験を消されてない(命令を強制させただけ)せいで屁理屈をこねて、どうにかこうにかサチ達を傷付けまいと覚醒。

 サチ視点は、どうして彼女がキリトに惹かれるようになったのか。そして《攻略組》に加入する事を決断するきっかけ。

 最初は《月夜の黒猫団》の窮地を救った時の背中で憧憬を抱き、指導する厳しさと優しさに友愛を抱き、強いのに恐怖している事に親近感を抱き、己の恐怖を一番早く理解した事に心惹かれ――ケイタの自殺で弱り果てた姿を見てノックアウト。『護ってもらい、勇気を貰っていたのだから、今度は自分が守ろう』と《攻略組》に入る決意を固めた時点でホレていたというね。

 恋は女を変えるって言うからね、おかしくないね。

 アルベリヒとのやり取りは原作SAOのシーンを再現しました。ちょこちょこゲームアルベリヒが混ざってます。

 キリトが覚醒するシーンの前後は『心のゲームⅢ』で二刀流の彼が復活するシーンのオマージュ(ほぼパクリである) 起き上がり様に斬るのはⅡの『闇堕ち経験持ちの銀髪』のアクション。

 アルベリヒ捕縛にあたって麻痺毒を選択したのは、キリキリ情報を吐かせるため。そのためにはボイスコマンドと指でのコマンドを封じなければならないので、以前の捕縛方法だと聴取が出来ない。なので麻痺毒は必須でした。初手で封じなかったのはそのためです。

 アルベリヒは被ダメージをゼロにしたけど、状態異常に対する防御を疎かにしたのだ……わざわざ『ダメージ』に限局した強化を施したと言ったせいでこうなった。

 短剣を忍ばせる時間を自ら稼いでくれたアルベリヒに痛烈な皮肉を口にしているのは、このキリトが『復讐を二の次にしているだけで否定していない』から。敵を落とし自身の優位性を示す程度のいやーな部分はあります。人間は光と闇で出来ています。なので本作のキリトも、仲間を大切にする良い所もあれば、敵を皮肉るいやーなところも持ち合わせる事に。そもそも憎悪とか復讐心とか諸に『闇』部分なのでね。



 ちなみにボイスコマンドについて。

 原作SAOに於いてボイス形式で発動するのはGM系を除くとログアウトだけです(原作一巻) 結晶アイテムは、反応しなかったら何のために解痺結晶があるか分からなくなるので、反応すると判定してます。

 ALO編でのオベイロンとの対決は、麻痺じゃなくて重力なので声量は問題無い。

 だから麻痺毒でボイスを封じる事の矛盾は特に無いです。

 今後も本作をよろしくお願い致します。

 では!

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