インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。
前話のアンケートが滅茶苦茶接戦(しかも10点前後)という状態で戦々恐々。みんなそんなに束博士と千冬を争わせたいのか……!(爆)
ダイシー・カフェに映す場合大幅な修正が要るからつらい……
加筆修正はもうちょい後になります。期限付けてるからね。
――――そんな今話は記念すべきALO編第一章。
ただしALOにはログインしてない! 現実側だけじゃ! 要するにプロローグって事ですね。
視点は久し振りな
文字数は約七千。
ではどうぞ。
第一章 ~
デスゲームクリアから、五か月。
四月に入り、様々な学校が入学式や始業式を執り行う中、SAO生還者の為に用意された中高大学一貫校も例に漏れず式を執り行っていた。
デスゲームに囚われた者達の多くが学生という事もあり在校生は意外に多い。最多は中学三年前後、最小は当然小学生だ。
この学園はデスゲームという異常な環境に身を置いた者達の監視と更生を基本としているが、義務教育などの関連から勉学面にも主軸は置かれている。とは言え雇われている教員は全員定年退職した高齢者や新卒、同じくSAOに囚われていた教職ばかりで、最先端とは言えない。
しかし廃校した校舎を新築同様に改装しているためかPCを初めとした機材関連は最先端技術のものが揃えられている。菊岡に聞いた話では、最先端技術を使用した学校のモデルケースでもあるらしく、授業でも度々PCを使う事は多くなるらしい。来年か再来年辺りでは
――俺には関係ない話だがな。
内心で嘆息する。
そんな俺は防犯上、また政府の要求など、様々な理由と思惑が絡み合った末に、対暗部用暗部の更識家に預けられる次第となっている。基本的にそこから出ないよう言われているため、この学園での授業形式を俺は通信教育タイプにしている。PCでの課題のやり取りで済むなら警戒や護衛の負担もかなり減るし、何より自分から火の中に飛び込まなくて済むからだ。
通信教育だと登校する必要は無いのだが、始業式といった特別な行事がある時くらいは登校しなければならない。
なので今日、俺は更識家の車で送迎してもらい、登校していた。
*
開校初年とは言え、校長や理事長辺りは経験者を雇っていたようで貫禄ある男性達が祝辞を送る。
女尊男卑の風潮を払拭し切れていない現在、全盛期の頃から事務職や責任の大きな職は男性がずっと担っていた。経験という部分はある。だがそれ以上に男性と女性の脳の成り立ちに違いがあるからだと聞いた事がある。要はまとめ役に女性はあまり向いていないという話だ。勿論まとめ役向きの女性もいるから全員そうという訳では無い。
長年重役として働き、まともに組織を回せているからこそ今の社会はまだ崩壊していないのだろう。それが背景にあるから女尊男卑風潮は広まり切らなかったという。
とは言えそれでも重大な社会問題を幾つも引き起こしている。生まれた子供が男児であれば殺す、配偶者の男性と離婚してあろうことか慰謝料を要求する、赤の他人である男性に自分が買いたいものを買わせるなど挙げていけばキリが無い。
だからこの時代、学校といった公共交通機関に所属する重役の男性というのは、案外貴重だったりする。残っている男性の少数が有能。他は無能、平凡、あるいはごますりが上手いかのどれかだ。
祝辞の内容を聞いて、男性の眼を見て、何となく大丈夫そうと判断する。根拠は無いがこれで人を見る眼はそれなりに鍛えている。フィルターが無いなら大きく外れている事は無いだろう。
少しして閉会の辞が終わり解散となった。明日から授業だが、今日は入学式兼始業式だけなので終わったらすぐ帰って良いと言われていた。
折り畳み椅子から立ち上がって後ろを向く。
――うぞうぞ蠢く人垣と肉壁に遠い眼になった。
俺は校内で最年少なので、座席が最前列に位置していた。必然的に行動から出るには最長距離を歩く必要がある。横にズラリと並べられた椅子の間を通って進む生徒が大勢いる中を掻い潜るのは体格的に無理だろう。間違いなくこけて踏まれて大惨事確定である。
……というか、人垣には若干トラウマがあるので、必要無いならあそこに割って入るのは勘弁願いたい。
「はぁ……仕方ない」
少しずつ人が少なくなる一方の最前列の椅子を片付ける役員や教員の姿を横目に何もしないというのも居心地が悪い。待つしかないなら、仕事でもして時間を潰した方が有意義かと考え、俺も近くにあった椅子を集める。
がしゃん、と音を立てて畳んだ椅子の高さは、丁度喉元辺り。このサイズ差だと椅子を抱えて運ぶのではなく、肩に担げる。腕を通して肩に担げば丁度いい塩梅だった。左右それぞれ三枚担いだ時点で椅子を纏めて片付ける――ステージ下部にそのまま入れる――大きな台車へと運ぶ。
運んできた人から椅子を受け取り、収納するというバケツリレーのような事をしている女性職員の下へ行くと、あちらも気付いた。
その眼がぎょっと見開かれる。
「ちょ、六枚運ぶって……無理しちゃだめよ!」
慌てたように言いながら俺が担いでいるパイプ椅子を奪うように取っていく。驚かれた原因は一度に運んだ枚数、すなわち総重量にあるようだ。肩に引っ掛ける形なので見た目に反してそこまで重くはないのだが……言っても信じてくれないんだろうな、これは。
でも純粋に心配されてるのは分かったので、次は左右二枚ずつで持って行った。また注意された。
理由が分からないので取り敢えず今度は左右一枚ずつで持って行った。また注意された――というか、もう手伝わなくて良いと言われた。
手伝おうとしただけなのに何がダメだったのか。周囲の人は四枚くらいで運んでいたから、体格で考えて二回目までは分かるけど、何故三回目の二枚でも注意されたか分からない。
疑問は尽きなかったが、良い具合に人も掃けていたのでその時点で講堂を後にした。
式が終わった後で落ち合う約束をトークアプリでしていたので、約束通りに登下校で通る道の途中で皆を待つ。登校組は自教室に一度荷物を取りに行かなければならないが通信教育組は手荷物を持った状態だから戻る必要はない。今も自分は保険証と学生証、財布くらいしか持ってないので手提げバッグすら不要だ。
五分くらいしてやって来た皆は、一部を除いて約半年ぶりに顔を合わせる人もいる。直葉、木綿季、藍子、詩乃は顔を合わせているが、
再会直後、頻りに眼や髪の事で心配された。黒かった眼は金色に、髪は色が抜けて白髪になっているから、SAO時代の『黒』の印象が強い面々からすればかなりのギャップがあるだろう。
俺の眼が金色なのは、かつて研究所で行われた人体実験により埋め込まれた《
――《越界の瞳》は疑似ハイパーセンサーとも言われている。
これは本家のセンサーに回される演算処理機能を他の部分へ回す事で総合的な戦闘力を向上させるという、いわばIS搭乗者の為にある施術。事実《越界の瞳》はISの適合性向上の為に行われる処置だ。つまり男性である自分は本来必要ない。
しかしISに乗らなくとも劣化ハイパーセンサーの能力を得られればかなりのアドバンテージを得られる。脳への視覚信号伝達の爆発的速度向上、および超高速戦闘に於ける動体反射の強化。本家のハイパーセンサー無しでも肉眼で二キロ先を目視出来る程の視覚能力向上を誇っている。
この事からあの研究所に攫われた者は大体コレを移植されている。
ちなみにあくまで『視覚』に重きを置いたものなので、《二刀流》発現トリガーである反応速度には関係ない。
《越界の瞳》の移植処理は適応の有無を問わず行われたため、当然失敗例も多く存在した。瞳が金色なのは失敗例。機能のオンオフや調整を行う事が出来ず、常に十全を超えた機能を発揮するため『暴走』と呼ばれる。こうなるとISに乗った時に機体から送られてくる情報との差異に苦しめられる。成功例だと色が変わらないので外見ではそれで見分けがつく。
なら金色の俺は失敗か――という点だが、元々俺の眼は黒。つまり俺は奇跡的に成功例にあった。
ただ二年三ヵ月も昏睡状態にあった事とデスゲームでの戦闘の激しさが原因で、極端な視力低下を来してしまったため、敢えて《越界の瞳》を暴走させている。これで丁度良いくらいの視界だ。
――眼球の視細胞は暗闇にいる時間に反比例して徐々に数を減らしていく。
つまり光を感受する細胞が無くなり、視力が悪くなる。とある研究報告によると『瞼を開けないよう細工された猿』は一年後に瞼を開けても目の前にあるものが見えなくなっていたという。それと同じ事。若いと日常生活を送る中で再生していく事が多いので――よく言われる『視力低下』は焦点が原因だから――皆はそうでもない。
俺の場合、SAO内部で視覚を使い過ぎたせいで視神経が疲労し、伝達される情報が極めて少なくなっているというのだ。ここで言う『視神経』は眼球から伸びる方では無く大脳に入ってからの神経である。大脳なら《ナーヴギア》が情報を読み取るところだ。
正直、そうなった心当たりが多すぎる。一番はSAOサーバーでの視覚的情報を大脳に転写する頻度が極端に多かったから大脳内視覚野損傷による視力低下が起きたと考えられる。普通視野欠損になる筈だが、全体的にぼやけるのは満遍なく損傷され、しかしまばらに影響されなかった細胞があるパターン。かなり稀な低下の仕方だ、と担当医から苦笑された。
今は
尚、皆に《越界の瞳》の事を話しはしたが、暴走状態にある事は黙ったままだ。束博士にはメディカルチェックをしてくれるから
そんな秘密を抱えたまま、校門までの道すがら、さっきの出来事を話す。時間潰しとしては丁度良かった。
「――いや、それは誰でも注意するよ」
話し終わったら木綿季がすかさず言った。その顔には呆れの色がある。
俺は首を傾げた。
「なんで?」
「や……和人、自分の体見てよ。思いっきり細いじゃん」
「ちょっとは肉が付きましたけど、まだまだですねぇ……」
むに、と頬を摘まむ藍子。確かにログアウト直後はそれも出来ないくらい痩せていたから多少は肉が付いている。
「あれだけ痩せてるのに椅子を片手で三枚ねぇ……直葉、あなたどんな鍛錬させてるの?」
「スクワットとか腕立て伏せを一セット三十回くらいですけど……和人の『体』の方に要因があると思うんですよね、この場合」
「和人って覚醒してから一月ちょっとで歩けてたわよね……確かに回復が異様に早いわね。やっぱり『アレ』が関係してるのかしら」
詩乃が訝しむように言う。『アレ』とは研究所の事か、埋め込まれているISコアの事か、どちらにせよ人体実験が関与しているとは踏んでいるらしい。
その予想は実際正しい。ISコアが
経緯を考えると複雑だが、ISのこの機能にはとても感謝している。大人以上の身体能力を発揮する事は勿論、ホルモンを初め身体内部のあらゆる部分を調節して大人と遜色ない思考能力を持たせてくれているのだ、SAOを生き抜くための知恵や発想はコアがあったから出て来たと言っても過言では無い。
「――それにしても、ちょっと納得いかないわよねー」
ふと、里香が話を変えるように声を上げた。
「頑張って帰還したと思えば直葉達とは離れ離れになるって、安全面を考慮するにしてももうちょっと融通利かせてあげてもいいって思わない? 和人だけSAOに取り残された原因もハッキリしてないし」
どうやら彼女は、俺が更識家に厄介になる経緯について不満を抱いているらしい。トークアプリや電話を介して直葉達が話してくれているから裏の事情に関しても里香は把握している。それでも護衛を家に配置して一緒に暮らせるよう手配してもいいのではないかと不満に思っているようだ。
純粋に俺や直葉を想ってくれていると分かる言葉に、思わず笑みが漏れる。
「俺だって本当は一緒に暮らしたいよ。でも現状の立場を考えるとな……」
「だからってあんたが我慢する必要は無いじゃない」
「命を落とすリスクが低い方を選んだだけだよ」
菊岡誠二郎と更識楯無にも下心はあるだろう。前者はSAOの内部情報やVRMMO調査に於ける手駒、後者は俺を介して得られる篠ノ之束との繋がりが妥当な線か。どちらも政府側の人間だから完全に安心して良い訳では無いが、しかし桐ヶ谷家に無理して滞在する場合よりは遥かに安全なのは確実。
俺が本当に不満を抱いていない事が分かったのか、里香は渋々口を閉じた。
そこで校門に辿り着く。すると狙ったようなタイミングで黒塗りの乗用車が来て、目の前に後部座席のドアがある形で停車した。護衛として任せられている更識の送迎だ。
「じゃあ、俺はこれで……」
「――和人」
皆に手を振って別れようとしたところで、義姉から声が掛かった。
「今日はALOに来るの?」
「そのつもり」
「そう……楽しみに待ってるから」
そう、微笑みと共に言われた。少し恥ずかしく感じる。
誤魔化すように手短に返事をした後、そそくさと車に乗って出してもらった。
……もうちょっと何とかならなかったのか、と次は何時会えるか分からない現実での別れに自己嫌悪に陥る。嫌がっていた訳ではない事を分かってくれていればいいのだが。
「流石のキリト君も義理の姉にはたじたじだね」
――溜息を吐く。
この車には運転手の護衛と俺の他に、何故か菊岡誠二郎も乗っていた。俺は後部座席の左に座っており、菊岡は右側に座っている。
皆――特に直葉と紺野姉妹――が見れば反応しそうなものだが、路側帯の反対側だったから顔が見えなかったのだろう。
「……何であんたも乗ってるんだよ」
「君に会いたかったから、と言えばいいかな?」
「俺に男色の気はない」
「酷い言われ様だなぁ」
怖気の立つ発言をする男に横目で白く見てやる。対して堪えた様子も無く、男は軽く笑うだけ。
「まぁ、冗談はともかくとして……――――キリト君、君にやってもらいたい事が出来たんだ」
そして突然真剣なトーンで接触してきた理由だろう内容を言う。もう少し言い方というものを考えてくれないか、と悪態を吐きたくなる。
「それならそうと最初から言ってくれ……――――で、内容は?」
しかしながら、菊岡誠二郎には借りがある。学校は勿論、比較的安全な拠点の確保、SAO生還者の社会的立場の保障施策など、彼はその立場と権力を十全に振るってくれた。個人的な借りも既に複数作っている。少なくともその借りを返すまではこの男の言う事を聞く事にしている。
あちらが働きを見せてくれた。ならこちらも、相応の働きで返すのが筋というもの。
「最近世間を賑わせている人でね……確かキリト君はALOをプレイしていたね、なら君も聞いた事があると思う。対象は――【歌姫】セブン。現実での名前は《七色・アルシャービン》博士という」
俺は傭兵では無い。だが、SAOでは傭兵紛いの事を幾度となくしていたし、人間同士のやり取りや信頼というものは約束の履行から始まる。
約束とはすなわち取引であり、契約だ。
「ああ、《シャムロック》というギルドの旗印で担がれてる
「そうだ。ちなみに博士は仮想現実ネットワークが形成する社会を専攻としている研究者だよ。そして君には今回、彼女について調べ、場合によっては動いてもらう事になる」
これは取引なのだ。俺や周囲の人間の安全と引き換えに、俺は菊岡や更識楯無が求めるものを提供する義務がある。逆に言えばその義務の為に動きさえすれば最低限の安全を保証してくれる。
生きたい――その欲求は今、皆が生きているからこそ生じる気持ちだ。皆が居るから生きたいと思える。
「詳細は?」
「これから話すよ。ちょっと待ってくれ……」
なに、モルモットにされる訳でも死ぬ訳でもないのだ、皆を護るためならどんな事だってしてみせよう。
「――了解した、契約成立だ」
彼らが俺を利用するなら俺だって彼らを利用しよう、仮想世界の動向を知る菊岡と現実世界の『裏』を知る更識の協力があれば皆に掛かる火の粉を事前に察知出来るのだから。
デスゲームが終わっても、俺はまだ戦わなければならない。
自分の為では無く、復讐の為でも無く――――みんなと共に生きる為に。
はい、如何だったでしょうか。
露骨な伏線……! ゲームをしている人なら『あぁ……』と先を察せるような露骨なやり取り!
もっと上手くやりたいなぁって……(切実)
ともあれ和人はSAO生還者学校に籍は置くけど、通信教育でPCなどを介しての勉学になるので、登校しません。どう考えても孤立したり、敵対する人達と直葉達が敵対し、和人が望まない方向に転がってメンタルズタボロになる未来しか無いんだ()
SAOクリアの立役者? そんな事よりお前織斑一夏やろ! みたいなね()
ちなみに学生相当のSAO生還者が全員通っている訳ではありません。中には重度のトラウマで登校拒否していたり、和人みたいに通信教育制だったり、あるいは他校に通ったりなど色々あるようです。原作最新刊ではアルゴが編入、《ガールズ・オプス》ではルクスが編入など。
それが本作だと和人に該当。身の安全確保のために更識家に移ったのに普通に登校してたら狙ってくださいと言うようなものです。
楯無としては、本当は登校もして欲しくないと思っている事でしょう。周囲の人間が人質に取られたら面倒なので。
そして原作で主人公に無茶振りさせる事で安定の菊岡さん。目を付けてるプレイヤーにお手付きするあまりの手並みにわたしゃ脱帽するよ(白々しい)
ちなみに『個人的な借り』というのはユイ達の事である(ネタバレ) その辺は追々という事で。
――まぁ、キリト視点は現実くらいじゃないと出ないがな!(主人公とは)
今後も本作をよろしくお願い致します。
では!