インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。
やっと書けたよ簪視点! 文字数少ないけど幕間だから許して! 彼女が輝くのはプロット上だとALO編じゃないので!
そんな今話は視点はオール簪。
文字数は約五千。
ではどうぞ。
――私は
――同じくらい、私は
どれだけ頑張っても姉を超えられない。超えようとしても姉は呼吸するように更に上を行くのだ、学校の成績も、代表候補としての座学も、操縦者としての戦績も――『更識』の立場も。
更識は古来より幕府や政府に仕える対暗部用暗部の家柄。
本来であれば男児が当主に就くのだが、今は亡き両親は二人の娘しか産めなかった。母は生まれつき体が弱く私を産んだ後の衰弱で亡くなった。父も暗部の仕事を遂行する中で殉職した。
結果、姉か私のどちらかが当主に就かざるを得なくなり――多くの人間は、姉を支持した。
それは当然の帰結だと思った。父が殉職したように暗部の仕事は常に命の危険が付き纏う、上の人間が半端者では従う者も安心は出来ない。信用出来ない
姉が当主を務める事に異議を唱える者は当然居た。
古来より続く家柄上、当主は男がなるものと考える者は沢山いた。
それでも姉が当主になったのは偏に昨今の時世――すなわちISの影響が大きかったためだ。
婿養子を取ればいいのではという意見もあったが、父の遺書により成人まで本人が同意しない結婚は禁じられていた事からなし崩し的に姉が当主に収まった。
――それまで、自分と姉の仲は良好だった。
鬱陶しく感じる時もあるが、姉は常に自分の事を気に掛け、大事にしてくれていた。
事あるごとに抱き着くスキンシップを図ったり悪戯してきたりとやんちゃなところが姉らしいと思えるくらい自分も好きだった。
でもそれは、どうやら自分だけだったらしい。
姉が当主に就いた日。
身内で粛々と執り行われた父の葬儀と就任の儀を終えた事で正式に『楯無』を継承し、当主に就任した姉は、その日の夜に自分を当主の執務室に呼んだ。
そして椅子に腰かけた姉は、私をしっかりと見てこう言った――『貴女は、何も出来ない無能のままで居なさいな』と。真剣な、それでいて酷薄な
……その後、どんなやり取りをしたかは朧気だ。
気付けば部屋に戻り、泣いていた。
姉を慕って努力していた勉学も暫く手に就かず成績は低迷。慌てて立て直したところで最早手遅れ、私は『
半年前、姉は代表候補の最優秀生として専用機を貸与され、代表へ昇格するのも時間の問題とされている。現在は織斑千冬が代表に立ち続けているからまだ昇格していないだけ。
そんな姉がいる私は、彼女の後塵を拝し続けている。同じ分野に居る限り私は常に二位ばかり。
それでも他の人達からすれば妬みの対象になる。最優秀生である姉に言えない悪口も、内気な性格の自分には言えるからと同じ候補生達から言われる――姉の付属品と。
悔しかった。
何よりも、姉が恨めしかった。
幼い頃から積んできた暗部としての修練。一年先に生まれている事もあって姉の方が習熟していて、私はよく教えてもらう側になっていた。感覚でものを覚える天才肌の姉の方が習得は速かった。後追いの私では幾ら頑張っても追い付けず、差は開くばかり。
それでも、姉の助けがあったから挫けなかった。
小さな頃から一緒だった姉。性格の違いこそあれ、不出来な自分の面倒をよく見てくれた彼女の事を私は素直に尊敬し、憧れていた。彼女がする様を見て学び取ろうと何時も頑張った。
――それを否定されたあの日の言葉が今でも忘れられない。
無能のままで、居なさいな。
嗚呼……ああ、それは、まるで――
――あの日から、私は
そして、姉の背を追うばかりの
……それでも私は努力を続けている。
かつては姉に褒められ、追い付きたいがためだった。
今はただ慢性的に居場所を護ろうとしているだけ。努力しなくなったらきっと家の中からも居場所を失ってしまうから。価値を喪ったら、ここに居られなくなるから。
――……でも、ここに居る意味はあるの?
そう脳裏で囁く声がし始めた。
ISの影響力が多大な昨今、特に情報収集を生業とする更識にとってIS業界に踏み入る事は必須事項。世界を相手取るなら一番の手だ。だから国家代表も間近な姉が当主の座にある以上はほぼ安泰と言える。表向きは代表の彼女が裏の実働部隊に回る事がほぼ無いからだ。
そして私は裏の仕事を回されていない。何時も何時も常に除外され、報告の場からも離されて久しい身だ。
ああ、更識は私を見限ったんだな、と判断するのも早かった。
早いとは言っても代表候補になった後だから遅くもあったのだが、それはいい。
で、あるならば、
周囲はIS学園への進学を確信していたようだが、私は普通に就職し、就活し、自由な恋愛結婚し、子供を産んで、老後を過ごすつもりだった。
具体的なプランではない。だが、進学くらいはある程度決まっていた。学校の先生にはまだ相談していなかった段階に過ぎなかった。
――しかし……あの姉は、またも邪魔をしてきた。
およそ三年ぶりに執務室に呼ばれたかと思えば、一時的に引き取る子供のサポートを言いつけられる。それはIS学園への入学を前提としていた。
その命令を跳ねのける権限が私には無かった。
ふざけるな、と怒鳴る事すらも許されず、沸々と込み上げる怒りを押し殺した私はその命令を拝命した。
幸いと言うべきか、数年間サポートをしなければならない相手は男性ではあったが三つも下の男の子で、しかも巷を騒がせるSAOクリアの立役者。ヒーローものが大好きな身としては正に
――勿論、そこには薄暗い感情もある。
彼がIS学園に行く理由は、己に付いて回る『出来損ない』の風評を払拭するべくブリュンヒルデに挑み、大切な家族や友人達と生きる未来を掴むため。多くの人間を見返して大成するべく己の全てを賭した大一番に挑もうとしている。
それは正に、逆境でこそ輝く主人公のようで――その姿に自分を重ねる事で、まるで自分が大成しているような錯覚を得られた。
だから私は彼との交流を続け、日々のサポートをしている。
私が彼をサポートしているのは、断じて命令だからではないのだ――
*
「――簪?」
「ふぁっ?」
体が揺れると同時に声を掛けられ、はっと意識を現実へと引き戻す。隣を見れば白髪
「何回声を掛けても返事が無かったけど大丈夫か」
……どうも考え事に没頭するあまり無視してしまっていたらしい。というか、眠ってたかもしれない。何となく眠い。
「……やっぱり連日は負担が大きいんじゃないか。眠そうだぞ」
「あ、えっと……だい、じょうぶ。今日は体育があって疲れてるだけだから……」
代表候補生として二位になる程度の訓練はしているが、それでも運動全般は苦手分野に入る。ランニングや腕立て伏せといったものは得意だがサッカーやバレーといった競技はてんでダメなのだ。無駄に体力を使ってしまうからすぐバテる。
だから眠いのはそのせいだと言うが、彼の顔はやや不満げなままだ。
「そうは見えないがな……厚意でしてもらってるコレで無理させるのは、本意じゃないんだけど……」
そう言う彼の前には、一冊の本が広げられている。
それは電話帳と見紛うばかりの分厚い辞書――『IS参考書』。
開発者の篠ノ之束博士が日本語で支離滅裂に認めたISに関する情報を論文と照らし合わせ、実機動で更に纏めた末に出来上がった専門書。これで法律、整備の基礎、操縦の基礎など大まかな内容を押さえられる逸品だ。ただし、各国政府が発行するもののため、他では手に入らない代物。書店にも置かれていない。紙代とスペース占有率がバカにならないからと言われている。
そんなものを広げているのは、ISに関する基礎知識を私が教えていたから。知人からある程度教えられているというが、参考書を使った勉強はしていないというので、女子が小中学校で習う内容を大まかに教えているところだった。
今のところ四月に入ってからほぼ毎日、私が学校から帰って来て、宿題を済ませ、夕食と入浴を終えた後にISの授業を入れている。彼は理解するまでに時間が掛かるが、一度とっかかりを掴めば後は速い。
参考書の内容はIS学園で学ぶ三年間の基礎知識が全て詰め込まれているから、一年目の内容を先取りするだけで考えれば十分間に合う。整備や操縦の専門分野はまた別の教科書を使うから入っていないのだ。流石にそこまでカバーするとなると間に合わないが、一年目は操縦の経験と基礎整備くらいしか実践しないらしいので、現状基礎固めが最優先。
だから自分も復習する意味を込めて授業をしていたのだが……途中で意識を飛ばしてしまうとは、不覚である。
「でも、毎日しないと頭に入らないし……それに桐ヶ谷君、主要五教科も押さえないと欠点取っちゃうよ……? IS学園って一応進学校だし、高校の欠点は六十点だから結構危ないよ……?」
「うぐ……」
今日はISに関する勉強だが、曜日によって科目は毎回違っている。月曜から順に国語、数学、社会、理科、英語、ISと続き、日曜は本音と協力して作った六つの小テストと反省の日だ。
それをしているのもIS学園と彼の状態にある。
IS学園はISの操縦と整備を学ぶ世界唯一の教育機関だが、同時に高等学校の内容も含む専門学校の側面もあるため、当然主要五教科の授業がある。というか三年通した全単位のおよそ七割はそれだ。欠点を取った生徒は最悪長期休暇全てが補習に費やされると聞く。
流石に大成を求める彼が補習なんて受けてたらマズいだろう。
しかも彼は今年で満十二歳の少年、つまり小学六年生だ。SAOに囚われた
デスゲームで鍛えられたのか国語、数学、英語は中学一年、理科は小学校高学年レベルだが、社会はかなり怪しい。特に日々の積み重ねがものを言う歴史はてんでダメだった。国語も現代文は中学三年卒業レベルにあるが、漢文と古文は零点だ。
あと一年で五教科を全て中学三年レベルまで高め、かつISの知識も一般入学者レベルにしなければ話にならないのだ。時間なんてあってないようなものに等しい。
生還者学校の通信教育も五教科を押さえてはいるが、何故か中学生の応用レベルから入ってるせいで彼の理解が追い付いていない部分が多々ある。ほぼ毎日教科書片手に聞かれるから間違いない。時たま自分でも分からない問題があるせいで余計進んでいないと見える。
正直サポートをする身としては頭が痛い。役人の依頼がどんな内容か詳しくは聞いていないが、まず論文なんて読んでいる場合では無い事を分かっているのだろうか。
学生の本分は勉強だ。断じて仕事では無い。
「それに、勉強のスピードが上がったら早く終われるから……頑張ろ……?」
「うぐぅ……そこはかとないプレッシャーが……」
自分の理解度で私の就寝時間が決まると考えたようで――事実ではある――顔を苦いものにされ、少し苦笑してしまう。そこまで気を張られるとこちらも対応に困る。
まぁ、やる気になってくれるだけ、教え甲斐が出て来るというものだ。
それに……
だからかもしれない。ここまでする義理が無いのに、何かと世話を焼いてしまうのは。
「じゃあ早速続き……まずは各国が採用してる代表的なISの機体名とデフォルト装備の名前、カテゴリを答えて。参考書は、見ちゃダメだよ」
「いきなりそれかぁ……! えっと……――――」
「……ふふ」
そうして私達の勉強会は続き、夜は更けていった。
はい、如何だったでしょうか。
原作では把握してませんが、本作に於いて
裏に一切関わらなかったのは楯無が危険な裏の仕事から遠ざけようと苦心したからですが、簪はその思惑を知らないので『見限られた』と勘違い。なので簪は『更識家に居場所は無い』と思い込み、家を出てしまおうとも考えていた。
そこに転がり込んだ和人関連。更に和人の主なサポートを簪と本音に定めていて、IS学園に行く事が和人は前提になっているため、必然的に簪も巻き込まれる。
そのせいで余計にヘイトを溜め込むという……
幼い頃の仲が良かった
命令された事とは言え、簪も和人の境遇には思う所があり、またヒーローと重ねて見ている事から何やかんやと世話を焼く事に。
その結果が勉強を見るという状態。ISは束さんに学ぶとしても、主要五教科は誰かから学ぶしかない。更に通信教育の課題も中学生レベルを求められるという……
和人は実力は既に十分ですが、次に立ちはだかるのは勉学というショートカットしようのない問題でした。
……簪が年下の子に勉強を教えるシチュとか、中々見ないなぁと思ったから採用した訳じゃ、ないんやで?(メソラシ)
取り敢えず本作菊岡は矢鱈とヘイトを向けられる模様。是非も無いネ()
では、次話にてお会いしましょう。