インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。
元号が令和になってからも今後ともよろしくお願い致します。
約三週間ほっぽってたのは就職関係でそこそこ忙しく、書くよりも読んで充電した方が良いかなって。
あとLSのストーリーを最初から一気に流しプレイしてました(プロット修正的に一番の原因)
一話あたりの文字数減っていきますが、ちょくちょく更新するつもりなので、気長にお付き合い下さい。
――さて今話。
今話の視点はオールリーファ。
文字数は約七千。
ではどうぞ。
――基本的にALOに於けるダンジョンの最奥はボスによって守られている。
入り口を開けるのに別ダンジョンやクエストから手に入る鍵を入手する事はそれなりにあるが、最奥に関してはボスを倒せばいいという単純設計なのだ――と定説にされるほど、現在確認されているダンジョンの最奥には全てボスが存在している。仮に居なかったとすれば、それは何かしらフラグが経っていないか、クエストで訪れる場所というヒントになる。
ボスと戦う事で得られる恩恵は大きい。全滅すると痛い損害を被るも、討伐に成功すれば莫大な経験値と
あたし達が入ったダンジョンは、スヴァルトルール適用によってほぼ初期状態に戻されたプレイヤーでも攻略可能なものだったので、最奥のボスから得た経験値も、解放された宝箱の中身も、大したものではない。そもそもボスも雑魚Mobを一回り大きくしただけの使い回しだった。サイズを変えただけの個体からはそこまでの経験値を得られない。ユニークな見た目やネームドボスでなければ恩恵は多大なものと言えないのだ。無論、使い回しの方が攻略は速く進む訳だから、その辺も一長一短というやつだろう。流石に全てのボス戦でネームドボスが出てくるとやってられなくなる。
雑魚Mobの使い回しボスはソロや少人数パーティーといったエンジョイ勢が楽しむには最適な環境だ。序盤のレベリングにも適している。
そうしてダンジョン攻略を終えた私達の種族熟練度はそれぞれ50に達していた。
「やー、思ったより早く終わったね」
キリのいいところで引き上げ、空都ラインへ戻って来たところで、ユウキが声を上げた。んー、と腕を伸ばして背筋を反らしている。
それを見て、シノンがくすりと笑った。
「そうね。それもこれも、テンション高めに戦ってたユウキのお蔭じゃないかしら?」
「だって新天地だよ? ワクワクしない訳ないじゃん! ボクまだまだ遊び足りないよ! もうちょっと攻略していたいくらい!」
きらきらと、好奇心を隠しもせず笑みと共に言うユウキ。内心誰もが同じなのか諫める声も今は上がらなかった。
「ははっ、好奇心旺盛なのは良い事だ……ん? クライン達は、まだ戻ってねぇみたいだな」
転移門がある大通りを進んでいると、ある程度人が掃けているカフェテリアが見えて来る。しかしそこに特徴的な男性サラマンダーの侍や女性ノームの大剣使いなどの仲間の姿は見えない。
「あっちは料理関係のクエストでしたよね。数が多いのか目当ての獲物が中々見つからないかで難儀してるんじゃないでしょうか」
「だろうな。モンスタードロップはドロップ率以前に遭遇しないと始まらない、実装直後で多くのプレイヤーがフィールドに出てる事も相俟ってもうちょっと時間掛かるんじゃないか?」
あたしに続けてキリトが同意を口にする。確かにまず遭遇しないと始まらないからその可能性もある。ポップ率は高めに設定され、湧き地点も分かりやすいから、今日中に終わらない事は無いと思うが……
顎に手を当てて考え込んでいた禿頭の巨漢は、なら、と口を開く。
「今日はもう自由行動にしねぇか? 実は俺、この後リアルで用事があってな」
「ああ……エギルさんって、リアルでも喫茶店兼酒場を経営してますもんね」
本名《アンドリュー・ギルバート・ミルズ》という男性は日本生まれ日本育ちであり、東京都台東区御徒町に自前の店を経営している。《ダイシー・カフェ》という二つのダイスが目印の店は昼夜で姿が変わり、昼はシックな雰囲気が漂う落ち着く喫茶店、夜は大人が集う憩いの酒場の姿を持つ。
その二つを経営している以上、この男性は割と多忙な身に分類されると思うのだが、その辺は奥さんが頑張ってくれているらしい。
《SAO事件》のほぼ直前に自前で店を作り、お嫁さんも貰って、いざ始めよう――という時にデスゲームに囚われた彼は、現実に還った時には店の事をほぼ諦めていたそうだ。しかしお嫁さんは存外強かであり、顧客の人達に助けてもらいながら二年間女の細腕で必死に暖簾を守り切り、エギルがリハビリを終えて退院した時にも存続していたというエピソードがある。なので彼は奥さんに頭が上がらない。
――その経緯があるなら、エギルはVRMMOを自粛しそうなものである。
あの男性は軽い部分こそあるが、基本的には一本筋の通った堅気の人物。自身が娶った女性を敢えて不安にさせる事を許容する事は無い。
なので《SAO事件》から回復後、彼はVRMMOへのダイブはしない方針で考えていた。
――しかし、奥さんはそこに待ったを掛けた。
元々大学で知り合い結婚した仲である女性は男性の趣味や好きなものに関しても理解していた。
《ナーヴギア》とSAO開発の事で興味を示し、即日購入してログインを果たす程、自称していたように彼は重度なゲーマーだ。昔からMMORPGをしていたならある意味生活やアイデンティティの一つになっていてもおかしくない。
本心で言えば、彼はVRMMOを続けたかった。デスゲームでは無い本当の『遊び』としてのVRMMOを楽しみたかった。それを妻の事を想って我慢しようとしていた。
それらを悟っていた奥さんは、VRMMOをしてもいい、と言ったそうだ。
――必ず、この『
そう、言われたと。
ALOで再会した時に彼は涙交じりに語った。
そうして今も一緒に遊ぶ事がある男性は、ずっと奥さんに店を任せる訳にはいかない――元々店の創業はエギルがした――ため、キリのいいところでログアウトし、店の営業に戻る。立地的に昼の人通りは少ないせいで、酒場の方が掻き入れ時なためだろう。
「酒場の経営に戻るんですか」
「そういう事だ。悪いな」
「リアルの用事なら仕方ないですよ」
バツが悪そうに笑うエギルに、ランが笑って返す。
お店の経営を疎かにすると今後の生活に響く訳だからそちらを優先するのは当然の事である。生還者学校組は休みの日に《ダイシー・カフェ》へ行き、屯する事が多い。あそこが無くなるとSAOの頃からあった安心感が無くなってしまう。
だから誰も引き留めず、笑って送り出した。
「さて……じゃあ俺もこの辺で失礼させてもらおうか」
斧使いの姿が人込みに隠れた辺りで、今度はキリトが言った。
「ええっ、キリトも落ちちゃうの?」
「いや、まだログアウトはしないよ。俺は観光をメインに考えてるから、この後はラインを練り歩くだけだ」
「……それくらいなら、一緒に行くのじゃダメなの?」
「俺の気分的に一人の方が楽なんだ。動きやすいし……ところで、皆はスヴァルトエリアを攻略するつもりで動くんだよな?」
「え? うーん……多分、そのつもりだけど」
誰からともなくというか、SAOでも最前線攻略を続けていたから半ば自然にスヴァルトエリアの攻略を主眼に据えていた。
しかし、キリトは復帰直後に『攻略はこりごり』と言っていた。
つまりそういう事だろう。ALOに来ているのは義姉達に会うという触れ合いの為、対人経験を積むという目的の為であって、攻略という遊びの為では無い。
「そっか。なら通らずまた会う事になるだろうな。頑張れ、応援してる。無理しないようにな」
故に道を分かつ事になった少年は微笑み、離れていく。
「ああ、そうそう……一つ忠告だ」
数歩歩いたところで思い出したように声を上げ、顔だけこちらに振り向かせる。
「《
――凪いだ瞳で言って、彼は足早に去っていった。
「……最後の、どういう意味だったんでしょう?」
「さぁ……?」
「額縁通りに受け取れば、
果たして、あの子がそれだけで意味深な忠告を置いて行くだろうか。そもそも警戒しなければならない段階で事情を話してくれるのが常だったのに迂遠な行動が引っ掛かる。
あるいは、警戒レベルに達していないが、達する可能性があるから注意を促しただけなのか。
《三刃騎士団》は【歌姫】セブンをギルドリーダーに据えた精鋭組織であり、所属人数は五百に上る。その誰もかれもがALOで上位に食い込む実力者の集まり。種族に所属している者は他種族ギルドに入れない制約があるため、種族領所属も含めればまだ分からないが、それでもかなりの粒揃い。
彼らは普段【歌姫】の事を吹聴し、ライブの設営や運営の為に働き、偶に高難易度クエストをクリアするというやや珍しい部類のギルド運営をしている。ゲームプレイというよりはアイドル業のサポーターだ。むしろそれを続ける為にギルドとして頭数を増やし、ギルド金庫にお金を入れ、ライブを実施している。ある意味【歌姫】の為にある組織と言えるだろう。
彼らも恐らくスヴァルトエリアを攻略するのだろうが、その際に衝突が無いとも限らない。マナーレス行為を意図してする人はやはり幾らでもいるものだ。
キリトはその事を言いたかったのだろうか……?
「アイドル関係のニュース見てると、ライブの時に前に出ようとして暴れて捕まる人とか見るよね。それの事かな? 巻き込まれるなよーって」
「さぁ? 何にしても忠告してくる程よ、《三刃騎士団》と会った時は気を抜かずに行きましょう」
ともあれ今はどう浮かべてもあまり想像できないため、シノンが言うように彼らと対峙した時は気を抜かないように決めた。
午後十一時。
先にクエストを終えて戻って来てから三十分ほど経過した頃になって、食材関係のクエストを受けに行っていた残りのメンバーが戻って来た。長引いたのはやはり他のプレイヤーがMobを乱獲していたせいで遠くまで行く必要があったからだった。
「みんな、すまなかった!」
ぱんっ、と乾いた音と共に手を合わせ謝るクライン。別に気にしていないと口々に言えば、そうか、と少しほっとして見せた。
「そう言ってもらえると助かるぜ……んお? そういやエギルとキリの字が見当たらねェな?」
「エギルさんはリアルの経営に、キリトは空都ラインの観光で別れました」
「観光? あいつがか? そんなに興味を引くヤツが此処にあンのかね」
小首を傾げながら集めた食材の分配をしていく若侍。
その疑問に答えるように、あたしの隣に座る
「ここにはクエスト受注場の《
「ほうほう……と、するとアイツ、闘技場に一人で挑みたくなったんじゃねェのか?」
「……あり得る」
大規模アップデートにより人でごった返している者達の中にはPKを役割ではなく趣味嗜好の域でこなしている者も当然入っている。
PKの対象になるプレイヤーは草原エリアにこぞって行っているだろうが、そもそもPKはかなり関係性に罅を入れるプレイスタイルだ。しかも【スヴァルト・アールヴヘイム】に於いて他種族PKの大義名分はかなり薄れているので、襲われているプレイヤーを助けに近場のプレイヤーが集まり、主犯を滅多打ちにする……なんて事も無くは無い。
そんな彼らが次に向かうところとすれば、合法的PKとも言える闘技場――すなわちデュエルに他ならない。
そしてキリトはこの世界では対人戦闘経験を積む為にログインしている訳で、フィールドでのPKを期待できない以上闘技場に集まる者達の方に近付くのはあり得ない話ではなかった。
もしこの予想が真実だとすれば、なるほど、キリトが一人で行動したがる理由も察せられる。あの子は自分達を巻き込まいと苦心しているのだ。
「……別に、気を遣わなくてもいいのに」
ぽそ、と。不満を漏らす。
迷惑を掛けたくない。負担を掛けたくない。その一心で気を遣い、一人で行動しているのだろうけど、こちらとしてはもっと頼って欲しいの一言に尽きる。どこまで『彼の身を案じる』なんてしなければならないのか。
彼は何か隠している。
主に《三刃騎士団》……いや、そのリーダーである【歌姫】セブンの事だろうか。
未だに彼の口から出て来ないその名前とギルドの動向。以前であればもっと精力的に動いて情報を集め、出来上がった推論を語って注意喚起してきていた筈なのに、それが無い。『謎』や『未知』をこそ最大の脅威を認識している彼とは思えない安穏な態度だ。
恐らくあたし達には伝えていない情報を以て今は見定める時期に入っている。
スヴァルトエリアの最前線攻略から引くような発言を鑑みればそれは間違いない。そして誰かを監視しなければならないから、四六時中ないし長時間拘束される攻略と両立出来ない。そう考えれば辻褄は合う。
――……これで、いいのかしらね……?
ふと、胸中に湧く疑問。対象は二つあった。
一つはキリトに対するもの。
ALOは命が懸かっていない娯楽の世界。そこに自分で経験を積むという目的を持ち込み、それを達成する事に熱意を燃やすのはまったくもって構わない。方向性こそ異なるが自分だって対人経験を積む事で剣道試合での応酬に活かそうと考えていたクチ。飛行と剣劇という違いこそあれあの子と自分は目的が近しくなっていた。
だが、恐らく彼が
この世界は娯楽だ。
ネットワーク社会――仮想世界での人の営み、関わりが社会を形成する、と論文を書く科学者が居るけれど、簡単に考えればこの世界は遊びの場なのだ。
それなのに、遊べないものを抱え込むなんて。それが仮令彼自身の決断によって背負ったものだとしても、それを止められる場に居なかった身としては不満に思ってしまう。『また背負うのか』と。
遊びの世界でくらい解放されてもいいだろうに……
そしてもう一つ。自分に対する疑問。
それは、弟を想うがあまり、縛り過ぎていないだろうかという不安だった。
彼を案じる故に生じるこの思考を決して間違いとは思わないが……あの子は成長途中で、自分なりに考えて行動している。それを否定するような事はするべきではないのでとも思う。けれど彼自身の娯楽を考えれば背負う必要の無い荷を下ろすくらいいいのでは、とも思うのだ。
……ジレンマだ。
気分が沈む。楽しくはあるけど、一番気になっている
――最初に反対するべきだったのかもしれないわね……
あの子は自らの意思で、経験を積むべくALOへ入る事を決断していた。生還から三日後の時点ではない。ラスボスを倒す以前の頃から束と話し合っていたというくらいだからかなり前からだった。その相談は一番されていた。
その時、反対するべきだったのかもしれない。
正直な話、政府や役人の動き方が予想外で、予定も計算も狂った。外部の人間であそこまで彼を重宝するような動きになるとは思いもしなかったのだ。喜ぶべき事ではある――だが、重荷を背負わされると知って、複雑な心境だった。
本人がそれを受け容れていたから何も言わなかった。その境遇を越えてこそ自身にとっての幸せを得られると、そう言う彼をどうして止められよう。
病室で再会したあの日に止められなかった時点で、あたしは何かを言う資格など無くなっていたのだから。
「……」
重圧を感じる施設《シュバルツバリエ闘技場》に目を向ける。
きっとあの子はあそこに入り、数多のPKプレイヤー達と鎬を削り、経験を積んでいる事だろう。《Kirito》というネームと黒尽くめの剣士姿は最早世界規模で有名になっている。織斑の出来損ないと見下されている現状、挑まない者は極少数に留まる。
――数十の敵を一人で相手し、返り討ちにする黒衣のスプリガン。
人からは《ゴキブリ》だとか《暗殺者》、《殺し屋》なんて仇名を付けられている彼は、しぶとく、しかし純粋に、恐ろしい程に冷徹に、けれど無垢な心で真っ直ぐ目標へと邁進している。
――ねぇ……なにを、抱えているの……?
生きるには『力』が必要だ。そう言って、彼はこの世界で技術を鍛えている。だからその行動についてはいい。
けれど――それ以外の、背負わされた荷に関してはやはり思う。
もういいではないか。鍛錬以外では、SAOとは違って純粋にクエストで楽しみ、皆との団欒を大切にして欲しいだけだったのに……キリト以外にも優れた人なんて沢山いるのに、何故わざわざ苦労し続けている彼なのか。
そう、本当は今すぐにでも菊岡誠二郎へ問い詰めたいが、証拠が無い。証言が無い。だから詰め寄ったところで、あの手この手でのらりくらりと煙に巻かれ、骨折り損に終わる。
キリトが口を割る事は既に諦めている。あの子は一度こうと決めたら、全ての事が終わるまで梃子でも割らない主義だ――大抵そういう場合は『大切な存在』が絡んでいるから、周囲の状況でおおよそ察する事は可能であり、逆に情報が出揃っていなかったり状況が目まぐるしく変わっていたりしていると全く分からないので、今は察する事も出来ていない。
――――あたしでは、
心の中が、寂しくなった。
はい、如何だったでしょうか。
ゲームをやっていると分かるんですが、このクエスト回りの会話、実は導入部のチュートリアルクエスト(メタ的に)なんですよね……!
そこを本作では『スヴァルトルールの解説』と『キリトが暗躍してるぞーを匂わせる』ために使いました。
――つまり本編、まだ
ここからセブン達を出していきたいですね。絡ませ方に困る。
……プレイし直して気付いたんですが、セブンって登場した年度で13歳になるんですよね。どっかの台詞で年齢出てたんですよ。
で、気になったので調べたところ……
キリトは今年
12歳(小6)
125㎝ 34kg
セブンは今年
13歳(中1)
135㎝ 30Kg
――マジかッ?!
セブンと10㎝違いなのに体重が4㎏重いとか……(違う)
かつてSAO二次創作に於いてセブンを見上げ、且つ年上に見るキャラがかつて居ただろうか? いや無い(倒置法)
これはゲーム本編のPVにも出た初コンタクトを変えなければなとばかりにプロットを書き換えてたらかなり遅くなったのもあります……(今更)
初コンタクトが変わるだけで後もゴッソリ変わるとは思わなかった()
初対面、第一印象ダイジ。
では、次話にてお会いしましょう。