インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 今話の視点はユイ、キリト、ストレア、本音。本音はアンケートを反映して書き足したのでちょっと雰囲気が違うかもしれない!

 文字数は約一万二千。

 今話では原作・原典ゲームには無かったシステムが一つ登場します。

 ではどうぞ。





第十章 ~()()()()

 

 

「ふぅ――」

 

 自分が担当する個体を処理し終え、一息つく。両手の剣を払って構えを解いた。

 

「む、む……」

 

 そして少々柄にもなく興奮気味だった事を思い返して恥ずかしくなる。残り二割の敵に二連撃技はオーバーキルで、効率を求めて戦う普段の自分との差異に赤面してしまう。義弟(キリト)と一緒に戦える事で、自分でも気づかない内に気分が高揚していたらしい。

 やはり私も義妹の事を言えない。自分で考えていたより単純だ。

 

「――フレアボムッ!」

 

「……うん?」

 

 義弟の声が聞こえ、間を置かずドンッ、と小さな爆発音も聞こえた。見れば手の平を突き付けた彼の眼前で小規模の炎が爆ぜており、リザードマンから焦げ臭いにおいと黒い煙が発生している。

 それを見て私は疑問を覚え、首を傾げる。

 戦闘中――特にボス戦以外では大声を出さない彼だが、かと言って一言も発さないわけでは無い。だから疑問を覚えたのは声を上げた事にではない。技名を口にした事だった。

 SAO時代であれば疑問を覚えなかっただろう。何故なら、人間にのみ可能な想起攻撃のトリガーとして、何か名前を付けて攻撃する事はままあったからだ。物静かな弓使いは恥ずかしがってあまりしなかったが、キリトは密かにノリノリでしていた覚えがある。

 だが彼はコンバートしていないし、《ⅩⅢ》を誰かから譲られたとも聞いていない。

 ――魔法の詠唱も、日本語では無い筈ですし……

 ALOに於ける詠唱は《古ノルド語》と呼ばれるもので統一されている。英単語のように短い言葉の羅列には意味が存在しており、それを噛む事無く唱える事で詠唱は完成し、システムに登録されている魔法は発動する。

 だが、彼は英語で爆発を発生させた。

 彼に限ってよもや爆発物を使っただけとは考え辛く、疑問は募るばかり。

 

『グアァッ!』

 

 爆発でよろけた亜人は怒りの咆哮と共に直剣を小柄な少年へ振り下ろす。

 

「ウィンド――」

 

 その斬撃を一歩下がって躱した彼は、叫びながら剣を振り上げた。すると緑色の風の刃が剣尖をなぞるように放たれて敵を斜めに斬り裂く。

 

「カッター!」

 

 間を置かず、再び叫んで剣を振るう。さっきと同じように風の刃が放たれて敵を刻んだ。

 

「MPが減り……いえ、戻った……?」

 

 二度目の魔法を見た時、風の刃が飛ぶ度に視界端に表示された彼のMPが微量減少し、敵に当たるとほぼ同量回復している事に気付く。

 ALOに於いて、ゲージを消費するスキルは魔法のみ。つまりアレはシステム的には《魔法》の分類。

 ひょっとしたらSAO導入、あるいはスヴァルト実装に際してサイレント実装された新たなスキルか何かかもしれない。MPを消費して攻撃を強化するものは以前から要望として多かったと聞いているのであり得ない話では無かった。

 攻撃が当たると同時にMPが回復したのはダメージの数%をMPに変換する武具を装備しているからか。リジェネはゆっくりゲージが回復するが、今見たのは一瞬で一定量戻っていたからそうとしか考えられなかった。

 

「ロックトライ!」

 

 風の刃で敵を距離を開けた直後、彼は剣を大地へ突き立て、叫ぶ。すると呼応するように彼の三メートル前方――丁度()()()()()()()()()()()()()()()から、三角錐を形作るように三つの石槍が飛び出した。

 落下するところだった亜人は三方向から石槍に貫かれ、今度はより高く――少年側へ近づくよう打ち上げられた。彼の真反対から飛び出た石槍だけ高く出ており、三角錐は斜めになっていたためだ。

 ――《ⅩⅢ》を引き継いでいない事が確定的である以上、システム的にあの位置に出現するよう定められたと見るのが正しい。

 だとすればあの戦い、距離の取り方――言うなれば『流れ』は完全に彼に掌握されている。三つの石槍の頂点が重なる一点に敵が落ちるよう事を運ぶなど中々出来る事では無い。先の爆発、風の刃で押し出す圧力を調節していたとしても、工程を踏めば踏むほどそれは困難さを増していく。

 仮に自分が同じ技を使ったとして、同じ事は出来るだろうか。

 ――気が遠くなるほどの経験と試行回数を踏んだ上で漸く、としか言えない。

 

「終わりだ……ッ!」

 

 眼前に打ち上げられた敵に剣が大きく四度振るわれた。一振りする度に金色の剣閃が薄暗い洞窟を眩く照らし、最後は大きく斬り上げると共に下から真上へ刃に込められた雷が迸った。

 天に昇る霆に貫かれる形で亜人剣士の体は爆散した。

 

 ***

 

「――お疲れ、キリト!」

 

 戦闘が終わると同時、ストレアが抱き着いてきた。オーバー気味な愛情表現をやや困惑しながら受け止める。

 

「ああ、うん……ストレアもお疲れ」

「ねぇねぇ、さっきのってどうやってたの? あれってソードスキルじゃないよね?」

「最後の以外は違うな」

 

 先の戦闘で使った(攻撃)の内、雷を宿していたものだけはソードスキルの分類だ。

 SAOでは色取り取りな光を迸らせるだけで特に意味は無かった――色で大まかな特徴は把握出来た――が、ALOに実装されるにあたって、一定以上のランクになると純物理属性に魔法属性が付与される。

 属性は全部で炎、水、地、風、氷、雷、闇、聖の八つ。

 今ALOに入っているソードスキルは、《バーチカル・スクエア》などの中位以上のソードスキル、OSSは全て、そのスキル自体のランクと大まかな概算ダメージを変化させずに属性ダメージ要素が追加されている。

 具体的な例を挙げるなら、深紅の光を帯びる重突進スキルの《ヴォーパル・ストライク》は物理三割、炎三割、闇四割となる。この場合は元々の物理ダメージの三割分が炎ダメージ、四割分が闇ダメージとして算出される。なので属性耐性の低い相手で大ダメージを見込める。OSSの場合、ユウキの《マザーズ・ロザリオ》十一連撃は物理二割、闇と聖が四割ずつ。

 追加される属性はライトエフェクトの色に応じて赤なら炎、黄なら雷、というものが多い。ちなみに複数の属性がある場合、その属性色が混ざった色になる。OSSは設定した属性の影響でエフェクトが決まっていた。

 リザードマンを倒したソードスキルは《ライジング・ラッシュ》。大きく踏み込みながら四度剣を振るい、最後は敵を斬り上げる技で、ALOに実装されるにあたって雷五割を追加された《片手剣》中位に位置している。突進力は中々だが踏み込みのせいで発動時間が長く、結果的に被弾リスクを高めるとしてSAOでは敬遠されていたが、雷による拘束力が付与された事でMobに対しては使いやすくなった。

 

「《ⅩⅢ》は持ってないんだよね?」

「ああ、コンバートしてないからな。アレは――《オリジナル・スペルスキル》だよ」

 

 ――オリジナル・スペルスキル。

 字面から分かるように《オリジナル・ソードスキル》と同様、プレイヤーが自作する魔法の事である。

 スヴァルトエリア実装と同時に追加された新システムであるこれは、かねてより多くのプレイヤーから寄せられていた要望の一つだったという。曰く『従来の魔法は詠唱が難しい』、『効果が微妙』、『総じて使い辛い部分がある』と不評な点が多かったのだ。

 その最たるものは、ALOで採用されている詠唱が《古ノルド語》と呼ばれるものである事。

 古ノルド語とは、インド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派北ゲルマン語群に属する言語であり、古北欧語とも呼ばれている。表記体系はルーン文字とラテン文字。語()とあるように、11世紀以降は徐々に現在のアイスランド語、フェロー語、ノルウェー語、デンマーク語、スウェーデン語などへと分かれたとされる。

 ALOは北欧神話を下敷きに展開されているため、それにあやかって採用されたのだろう。

 

 ――しかし、それは後に首を絞める結果になった。

 

 まず世界的に読解が難解とされるラテン文字、ルーン文字を使用しているため、新規に魔法を作るにあたって展開される魔法陣の作成が困難を極める事。それにより新しい魔法の実装は極めて少なく、旧ALOにおいて実装されたのはリリースから一年半の期間内で四つという少なさだ。

 次に日本人にとって語群のどれも馴染みが無いせいで魔法の浸透が難しい事。これは文学、詠唱、外国語などが得意な人はまだしも、苦手な人は前衛にならざるを得ない。ボス戦において冷静に外国語の詠唱を完成させるのは難しい事からも、詠唱式の採用言語は不評があった。ALOは飛行と魔法の二つが魅力だと言うのに、ライト勢や仕事などで時間を工面する人は敬遠する要素になってしまったのだ。

 他にもあるが、主要の訴えとしてはこの二つ。

 これらの意見があったため、《ユーミル》によって運営され始めたALOは新規要素《オリジナル・スペルスキル》システムの実装を決断し、鋭意製作にあたっていた。

 本来、プレイヤーが自由にスキルを作り、それを扱うなどサーバーに負荷が掛かる上に、その環境設定も難しいのだが、SAOに《オリジナル・ソードスキル》を作成するシステム環境が既にあり、多くの作業を省略出来たと束達は語っていた。《ホロウ・エリア》の遺棄データや流用データが無ければ出来なかった事らしい。

 そのシステムを使い、俺はいち早くオリジナルの魔法を作っていた。

 

「なるほど……しかしどちらかというと先程のは魔法ではなく、技のような……」

「元々前衛スタイルだから接近していても使えるように調整した。個人的には《()()》って呼んでる」

 

 ()法の()で魔技。安直だが元々システム名の《スペルスキル》も直訳すれば『魔技』だ、間違ってはいない。

 

「詠唱はどうしたんです?」

「してたぞ」

「……してましたか?」

「『フレアボム』と言ってただろう」

「え、あれが詠唱だったんですか? てっきりスキル名とばかり思ってました」

「アタシも! でも、だとしたら物凄く短いのに、意外と威力とか射程とかあったね? 熟練度が高いの?」

 

 《オリジナル・ソードスキル》と《オリジナル・スペルスキル》――もといOSSは、剣技だろうと魔法だろうと、既存スキルと同様に技単体に熟練度が設定されている。総体として《片手剣》などの武器スキル値が影響するが、特定の技を反復使用する事で技の威力やクリティカル率、弱点属性補正が上昇するのだ。

 故にOSSを継承されたとしても、作成者と伝承者とでは熟練度が異なり、自然と威力にも差が現れる。魔法の場合、それは射程にも表れるだろう。

 そうストレアも予想したのだろうが、俺は首を横に振った。

 

「そもそも《オリジナル・スペルスキル》のシステムについてどの辺まで理解してる?」

「ちっとも分かりません!」

「私も実態は把握し切れていませんね」

「同じく」

「なら前提知識からだな」

 

 歩きながら話すよ、と言って、部屋の先へと歩き始める。

 

「魔法のOSS作成も剣のOSSと大差はない。作るにあたって用意された数十万通りあるグラフィック、エフェクトを仮想モデルで秒単位で動きを設定し、詠唱式、効果時間、効果範囲、属性、熟練度解放Modその他諸々を決める。それで出来上がったものをセーブし、名前を設定すれば完成だ」

「……聞いた限りでは剣のOSSより簡単そうですね」

 

 大まかな流れを説明すると、ユイが首を傾げながらそう洩らす。

 作った感想としては確かに剣の方より遥かに楽ではある。

 剣技の方だとシステムアシストなしで同等の速度を自力再現、且つ無理のない体重移動を要求されるため、易々と作成出来るものではない。単発技は既存スキルにあるため、必然的に連撃技を作らざるを得ず、攻撃回数が増えれば増えるほど前提条件はより厳しさに拍車を掛ける要素となる。

 それをSAO時代からよく知っている側からすれば魔法OSSの作成難易度はかなり低い。グラフィックとエフェクトを自分で設定するのはかなりのセンスを求められるが、極論時間を掛ければ素人でも出来るし、適当なものならそれこそ実用的でなくとも作れてしまう。最悪最初は弱くてもいいから、Modや属性目当てで乱造されてもおかしくないだろう。

 それをすぐに理解したようだった。

 

「そうだな、剣の方と較べると物凄く簡単に作れる。慣れれば数分で一個仕上げられる」

 

 尚、剣のOSS作成は平均的に最低数時間は要する。知り合い以外のALOプレイヤーだと数週間単位で掛かるのが普通とされる。

 

「えぇー……なんかそれ、ありがたみが薄れるというか……ちょっと微妙? バランス間違ってたりしないかな」

「個人的には良い塩梅だと思ってる。オリジナルの方は既存より総じて威力が低めなんだ、決定打に欠ける。反面、既存にはない取り回しの良さ、あらゆる状況を想定して何個も作れる手軽さが強みだな」

「既存とオリジナルの棲み分けはそうなったのですね」

 

 好きに強力な魔法を幾つも作れてしまったら不人気な既存魔法は使われなくなり、何れ下火となって、サーバーの容量問題で優先的に削除されてしまうかもしれない。確かに使いにくい部分はあるが、古参メンバーはこれをずっと使い続けているのだ。いきなり無くなってしまっては困るだろう。

 OSSは個人に依存するため、コモンスキルである古ノルド語魔法を削除する可能性はないとは思うが……

 

「俺個人としては詠唱がOSSの一番の特徴だ。詠唱の長さ短さで他の要素の限界容量が決まる中、OSSの詠唱は、口のものだけでなく振り付けも詠唱の一つに設定されている」

 

 詠唱が短ければ、作成する魔法で拡張出来る威力、範囲などが大きく制限され、弱い魔法になる。拡張要素が少なくなるため消費MP量は少なくなり、結果取り回しが良くなる。詠唱が長ければその逆、強力に出来るが、拡張要素を使うほど消費MPは多くなる。

 その辺の調整を全て決めるのが『詠唱』。

 長さの判定には『単語』が関係している。例えば『猛き焔よ、迸れ』だと『猛き』『焔よ』『迸れ』で三つの拡張要素を弄れる事になる。

 俺の場合は『フレアボム』で二つ分なのだが――『詠唱』には口で発する祝詞(のりと)以外に、体での動作も含んでいる。

 

「……『振り付け』というのはヒーラーがする十字を切る動作のようなものでしょうか」

 

 振り付けと言われてか、ユイはヒーラーの行動を例に訊いて来た。偶に回復魔法を掛ける際に十字を切る人がいる。特に効果は無く、キリシタンでも無いそれは、所謂なりきりプレイと言われる―……らしい。

 それと同じかと聞かれ、そういうものだ、と俺は頷いた。厳密には違うがイメージとしてはそれに近い。

 

「そういう『なりきり』も詠唱の一つに加える。すると、そのぶん拡張要素が一つ確保される。だから俺は攻撃動作も加えてるんだ。さっきの《ウィンドカッター》みたいに武器があると作りやすいものもある」

「口で二つ、動きで一つ……計三つの拡張要素を使った接近戦用の魔技ですか」

 

 接近戦で気兼ねなく、素早く使える事で範囲や射程を気にしなくて良く、威力だけに絞る事が可能なのが最大の強み。剣で斬る動作を含んでいるので、どちらかと言えば魔法発動は追撃要素というオマケとして考えた方がいいかもしれない。

 動作に意味を持たせる事は日本の神事や舞踊などだと普通だが、それを実際に採用し、魔法の詠唱に加えようと考える人は中々いないと思う。魔法で振り付けはパフォーマンス以上の意味を為さない固定観念がそうさせる。『詠唱』というように唱える事だけ連想させる字面もそうさせるかもしれない。

 ――だからこそ、対人戦で有用なのだ。

 先の《ウィンドカッター》は剣尖から風の刃を飛ばし追撃する魔法だ。これは遠距離で考えると単発魔法だが――接近戦で考えれば、瞬間的に剣劇のリーチが伸びたものと同義となる。突然間合いが変わって対応出来る人はそういない。

 魔法のOSSは決定打にはなり得ない。だが、決定打へと繋げる()()にはなり得る。

 剣の方と違い、魔法のOSSは使い方次第で距離を選ばない運用方法が可能なのだ。

 

「でもさ、さっきの《ウィンドカッター》って切っ先から出してたよね? 槍とか鎌とか武器が変わるとどうなっちゃうの?」

「あの魔法は『俺を基点に最も外側にある武器の先端を基点に発生』するよう設定してるから普通に発動するよ。検証したけど、基本的な武器では問題なく使えた。魔法扱いだから振る必要はあるが杖でも使える」

「隙が無いな……」

「基本的に一対一を想定してるせいで対複数だと潰されやすいがな」

 

 キリカの感想に肩を竦め、欠点を口にする。

 『武器を振る』、『詠唱扱いの魔法名を口にする』の二つで発動するそれは容易に連発する事を確約しており、対複数でも使える性能を有しているが、それにも限度がある。流石に全方位を攻撃するものだと詠唱が少な過ぎるのだ。

 とは言え使い様によっては化け得るのだが――

 それも対策を取られていなければの話だ。

 

「だから、俺がOSSを作った事は良いが、どんな魔技かまでは秘密だぞ?」

 

 片頬を吊り上げ、人差し指を口元に当てながら釘を刺しておいた。

 

 ***

 

 ダンジョンの最奥。

 エリア攻略に関係していると想定される洞窟の奥には昨夜のクエストとは明らかに違うMob――ボスモンスターが待ち構えていた。

 生命溢れる草原には似つかわしくない骸骨剣士の頭上には《ドラゴン・トゥース》と表示されている。赤黒い骨の躰と深紅の長剣を手にした骸骨は、どうやら竜の骨で組み上げられたものらしい。何故ドラゴンゾンビだとか竜の形を為していないかは不明だ。

 

『ガカカカッ!』

 

 骨だけの顎を上下させながら、竜骨の剣士は長剣を連続で振るう。唐竹(振り下ろし)に始まり素早く放たれる剣尖。

 

「ふ――ッ!」

 

 ――その全てを、黒衣の女性(ユイ)の二刀が真っ向から捌き切る。

 

「スイッチッ!」

 

 最後の一撃を、ユイは重ねた二刀でかち上げた。竜骨の剣士に大きな隙が生まれる。それとほぼ同時に彼女が声を上げた。

 

「任せろ――散れッ!」

 

 その声に応じて黒衣の少年が飛び出し、勢いそのままにくるりと回転し、漆黒の長剣(ユナイティウォークス)を地面に叩き付け――直後、大地から黄土色の衝撃波が吹き上がる。前後してMPの微量減少と回復が起きた。

 アレも彼が作成したOSS(魔技)の一つらしい。

 ――個人的に見ていて、だが。

 彼の魔技の強さは、その詠唱の短さでも、消費MPが実質無しなところでも、一対一に強い所でも無く――ソードスキルと違い、攻撃後の硬直が無い事にあるのだと思う。

 ソードスキルには技後硬直があり、《剣技連携》を除いて個人での連発が出来ないようになっている。それと同じで、ALOに於ける魔法には詠唱が存在し、個人での連続発動は理論上不可能だ。

 それを彼はOSSのシステムを用いて可能にした。詠唱は口と振り付けにさえ沿っていれば――極論口で唱える方だけにしていれば、移動中も詠唱を完成し、発動させられる。この特性が接近戦をメインとしている魔技と噛み合っているのだ。

 しかも、魔法というシステムに沿った攻撃であるため、アレには僅かとは言え仰け反りを敵に発生させ、敵の詠唱をシステム的に中断出来る。反面使い手側は剣技と違って技後硬直が無いので、MPが持続する間は連続発動が可能。

 口と振り付けの記憶を引っ張って来る手間のせいでファンブルしかねないが、反復練習は彼の十八番。

 我が義弟の事ながら相変わらずプレイヤーとしてかなりオカシイ戦闘能力をしている。OSSの熟練度解放MobをMP回復にしているのだ、あの分ではHP回復の魔技もあるだろう。ますますソロでの継戦能力が高まっている気がしてならない。

 彼が仮想敵に据えている存在はそんなにも強大なのだろうか……

 ……リーファの事で納得を抱けてしまえるから困りものだ。

 

「これで決める――ッ!」

 

 ――敵が浮き上がったところで、ユイが構えながら突貫した。

 袈裟掛けに始まり、二刀を使った猛攻――ALO実装において削除された《二刀流》を再現した星光の乱舞が放たれた。彼女が自ら作り上げたOSS《スターバースト・ストリーム》だ。

 ある程度弱っていた《ドラゴン・トゥース》は十六連撃をマトモに喰らい、命のゲージをゼロにした。

 ボスを討伐した事を知らせるリザルトと共に、戦闘が終了した事を労う金文字が空中に映し出された。

 

「……アタシ、ほとんど戦ってないんですけど」

 

 クエストレベルのボスなら難易度としては七人のフルパーティーで挑めば楽な程度。実力があれば、三、四人でもまあ問題無いだろうが、よもや殆ど何もしないで終わるとは。

 ボス戦でした事なんて最初のタゲ取りとパリィくらいで、後はあの二人がノックバックを与える攻撃を連携させていた。

 

「……お疲れ様」

 

 近くで小妖精特有の薄白い翅を震わせ、戦況の俯瞰に徹していたキリカが声を掛けて来た。気の毒そうな面持ちをしている。

 

「キリカ……気持ちは有難いけど、今はちょっと空しいかなぁ……」

 

 疲れるほど何かした訳でもないから余計そう思う。

 あの二人が組むとみんなが楽しめる戦闘はフロアボス並みでなければ出来そうにない。SAOとALOの実質的な――世間的に最強はヒースクリフとスメラギなので――単騎最強は伊達では無い。

 

「まあいっか、どっちも楽しんでるし……」

 

 あまり活躍出来なかったが、仄かに楽しんでいる雰囲気が二人から感じられるので今回は気にしない方向にした。帰りに暴れてお義姉ちゃんの凄さを見せ付けようと意気込む。

 ――ドロップアイテムを確認して攻略に関係しそうなものが無いと分かった後、アタシ達はボス部屋の奥に出現した宝箱を開ける事にした。

 大体ドロップか宝箱のどちらかから攻略アイテムは手に入る。今回は後者のようだった。

 キリトがクエストで鍛えた《鑑定》と《罠解除》など鍛え直したスキルでトラップの有無を確認した後、ガチャリと蓋を開けた。

 

「これは……オーブ、でしょうか……?」

 

 手に入ったのは片翼を象った緑色の風の紋章が刻まれた半透明の球体で、大きさと重さは丁度リンゴくらい。タップすれば重要アイテムとして《風の魔力晶》と表示されていた。

 

「これ単体では使えそうにないですね」

「特定の場所で使う感じだろう。あとはその情報を集めれば、攻略に進展が見られるんじゃないかな」

「じゃあ街に戻って情報収集しよっか!」

 

 ダンジョンを出て、草原を歩きながら今後の事を相談する。

 今は魔力晶の用途が不明なのでどのみち情報収集をしなければならない。どんな情報を求めればいいか、それが分かっただけでも重畳と言える。

 

「キリトはこれからどうするの?」

「元々は目ぼしいクエストをクリアしつつ攻略に関わる場所を探してたからな……もしかしたら、またクエスト報酬に情報が混じってるかもだ」

「じゃあラインには戻らないんだね」

「そのつもりだ」

 

 どうやら彼は空都に戻らず、このまま残ったクエストの消化に勤しむつもりのようだ。

 確かに脇道と言えるクエストをクリアしたら思いがけず攻略に役立つ情報を得た……なんてSAO時代にもままあった事。今回のように、情報を得る為にダンジョンを潜る――そのためにあるクエスト報酬の鍵が必要なんて事も十分あり得るのだ。

 

「じゃあ俺はそろそろ行く。魔技の事はくれぐれも内密にな」

 

 左手にコントローラーを握り半透明の黒い翅を震わせ滞空した彼は、最後にそう言い残して飛び去った。

 彼が飛んでいった後、びゅう、と風が吹き、大地に茂った青草が揺れた。

 

 ***

 

 布仏本音の夜は――何時もより遅かった。

 

「ふみゅ……ねむいよ~……」

 

 くぁ、と大きなあくびを一つする。既に日を跨ごうとするほど夜も()けている。それなのに起きているのも仕事があるからだ。

 基本的に遅起き早寝の自分には厳しい事に時たま夜遅くまで起きている時間がある。幼馴染にして己の主でもある簪を凌ぐ時間まで起きている時もあった。

 理由は単純。監視任務があるからだ。

 

 ――空を斬る音が耳朶を打つ。

 

 視線の先には子供が一人。右手に黒い剣を、左手に翠の剣を握り、舞うような流麗さと荒々しい剣劇とが同居した素振りを行っていた。

 現在更識家に保護されている桐ヶ谷和人は更識楯無との摸擬戦に負けて以来、昼だけで足りないと思ったか『鍛錬』と称して夜中に抜け出すようになり、敷地内の運動場で素振りを行っていた。今は西洋剣二刀だが他に一刀、日本刀、槍、薙刀、戦輪(チャクラム)、短刀など、種々様々な武器を扱っている。もう少しすれば別の武器の素振りに取り掛かるだろう。

 正直彼の()()任務を承っている身としては辞めて欲しい。

 夜は、危険なのだ。

 ……言って聞くようなら苦労しない。

 どうして自分の友人知人親類縁者は誰も彼も頭が固いのか。もっと自分のように自由に、ある程度テキトーに生きればいいものを。

 

「まったく~……」

 

 体育座りで観戦しつつ、はぁ、と溜息を吐く。明日――というか既に今日――も学校があるというのに、なんでこんな残業染みた事をしているのだろうか。

 これは後で楯無お嬢さまに残業代を出してもらうよう請求かなぁ、とボンヤリと紗の掛かった頭で考える。

 その間にも頭がぐらぐらと前後左右に揺れている。あ、これはヤバい、と悟った。

 

「きりきり~、もう寝ようよ~……わたし眠いよ~……」

 

 若干泣きが入りながら訴える。

 これで聞こえなかったらこの場で寝てやる――そうヤケクソ気味に考えていると、しっかり聞こえていたようで素振りをしていた彼の動きが止まった。

 

「むぅ……」

 

 こちらを向いた顔には、申し訳なく思っている表情と、若干物足りなさそうな色があった。

 既に一時間近く休みなくやっているのにまだ足りないのかと軽く戦慄する。IS代表候補生になっている人でも彼の鍛錬をしていたら普通に息が上がるというのに、あれでまだ本調子じゃないなんて嘘と思いたい。幼馴染が見たら発狂モノだ。

 

「眠いよ~、寝たいよ~、寝ようよ~。鍛錬ならお昼に目一杯すればいいでしょ~? ていうか、してるって聞いてるよ~?」

 

 でも、そんなのは後回し。一刻でも早く寝たい自分は眠たい事を余す事なく主張する。

 ――更識家は対暗部用暗部であるため、この組織に入った者は一切の例外なく『そういう』訓練を受けている。

 一般人であればすぐ無力化出来るし、段持ちが相手でもほぼ制圧出来る程度には全員が鍛えられている。無論、割と重要人物扱いを受けている和人の護衛任務に就いている自分だって、普段は簪の護衛の為に平の人よりは鍛えられていた。

 そんな人達を相手に昼の訓練時間は組手をし続けていたというのだから、疲れ切っている筈なのだ。

 なのに彼は真夜中になっても鍛錬をすると言う。

 ALOにログインして幾度も対人戦をこなしているのはネットの掲示板ですぐ報じられるから知っている。MMOストリームでも取り上げられるくらい、彼の行動はぶっちゃけ派手だ。

 政府のお役人から依頼を受けて以来、彼の態度や日中の訓練は激しさを増し、遂に今夜から苛烈さがより増した。

 当主との摸擬戦の後にも続いた訓練。それに参加していた人達からの報告で正直躰が壊れるのではと思う事が何度もあったと聞いている。ALOにログインしている間は肉体的に休めているとは言え、真夜中にこれでは本末転倒。

 彼の体が壊れでもしたら事なのだから護衛側としてはやきもきしてしまう。

 

「もう寝ようよ~……」

「……や、別に寝ててもいいが。終わったら部屋に寝かせるぞ」

 

 ――それが出来たら苦労しない。

 

「――女の子を地べたに寝かせるなんて、きりきりは女の子の扱いが分かってないな~」

 

 ぷく、と頬を膨らませる。

 護衛役として先の発言にはピシッと来たが、それを押し隠し、不満を口にする。彼との関係は良好に保っておく必要があるから滅多な事を口に出来ない。

 ……寝ててもいい、という誘惑にはかなりくらっと来たが、後の事を考えるとマズいので振り切った。難敵だった。

 じぃっ、と顔を見詰める。眠くて瞼が落ちそうになっても根気強く見つめる。

 少しして、苦い表情で彼が顔を反らした。

 

「……分かった、分かったよ。もうやめる。付き合せて悪かった」

 

 言いながら、周囲に散乱している武器を回収していく。

 ――その様は、ISに登場している者と相違なかった。

 地面に突き立てられ、あるいは置かれた武器達が音もなく光に散って消える様は、ISが《拡張領域(パススロット)》に登録武器を収納する様とまったく同じ。

 アレが彼の胸に埋め込まれたISコア――ひいてはISの性能。

 

 ――凄く眠かったけど、でも収穫もあったかな~……

 

 彼がISを使える事を知った者の誰もが気になっていた事。

 元々彼はISを纏う事無く、単独かつ生身でISを下し、搭乗者を殺せるようにする為の人体実験の一環として、コアを埋め込まれたという。最終的に成功に収まったのだろうそれがどんな力を持っているかが気になっていた。

 最初に武装。ISの武器は重量、反動の面から生身の人間が扱える代物ではなく、ISに搭載された《パッシブ・イナーシャル・キャンセラー》――通称《PIC》の補助機能を用い、致命的な重量と反動を制御し、扱えるようにしている。しかし彼のコアは元々生身の状態でISと戦う為に埋め込まれた代物。であれば、武装もそれに準ずるものであると予想された。

 その答えは、さっき見た。生身で扱える通常サイズの武器そのままだったのだ。ISの事をよく知る人が見ても気付かないくらい見た目は普通。彼が踏み締めた地面や体幹の動き、制動の掛け方、素振りの速さから類推するに、常識の程度から逸脱していない。

 

 ――だからこそ違和感がある。

 

 幼馴染や当主のIS戦を頻りに見て、自分もISの整備課志望だから余計に違和感を覚える。先ほどのあれだけでは決してISは落とせない。

 かつて、ISが世に出た当初、生身の人間が現代兵器を用いてISを落とせるか――そんな実験があったらしい。

 結果として落とせたが、それは引退間近となった経験豊富のプロの軍人と、十代後半のIS搭乗者新人との対決で、且つISの性能を十全に発揮出来ない屋内で、軍人の方は地形を把握し切っているという非常に有利な戦いをした上でだった。アンチマテリアルライフルを使って漸く落とせたという。

 その軍人はその後、もう二度とやりたくないと言い、退役したとか。

 今のISは第二世代、研究や試験機は第三世代へと移り変わってきた。当時よりも先のいく性能の機体をこれで落とせるかと問われれば――無理、と言わざるを得ない。

 つまり彼にはまだ秘められた何かがある。

 これは報告しておくべきだろう。

 

「――考え事か」

「ふぇ?!」

 

 ――突然、思考を寸断するように声が降って来た。

 顔を挙げれば、間近から和人が見下ろしてきていた。その眼は何時もと違っていて……

 

「……詮索もいいけど、程々にな」

 

 視線を切って、そう言って来た。

 ……悟られてしまったようだ。その上、釘まで刺された。

 

「あうぅ……どうしよう……」

 

 軽く頭を抱える。

 これで自分が避けられるようになると非常に困る。幼馴染は彼と逢おうとしているが、一部の過激派はそれを快く思っていない。それを牽制する意味で彼女の護衛である自分が彼の護衛も兼任しているというのに、避けられ始めたら、必然的に簪を彼から遠ざけなければならなくなる。

 そうなると更識家や『裏』をよく思っていない彼女は、より意固地になってしまう。

 

「私はただ、かんちゃんと昔みたいな関係に、戻りたいだけなのに……」

 

 天を仰ぐ。

 都会の光がありながらも、空には星空が広がっていた――

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 《オリジナル・ソードスキル》の魔法版《オリジナル・スペルスキル》。略してOSS。マジックスペルはなんか個人的に合わなかった()

 OSS、と出たらどっちだ、って困惑しそうな名称やな()

 キリトは魔法版を《魔技》と名付けました。沢城みゆきさんが声優してるテイルズの女主人公さんの技術ですね……実はキリトが使ってる魔技も、半分そこから取って来てたり。

 ほら、攻撃中に技名を言ったり、詠唱がカッコいいと思う時あるやん? でも真面目に考えると恥ずかしいというか、隙があるというか。魔法も使う時に詠唱が古ノルド語なせいでアレですし。

 ――でもオリジナル魔法を出したいなーってか出さないとキリトの強化がマンネリ化するしなー、と思っていた私に降って湧いた天啓()がこれでした。

 詠唱自由、長さによって効果変わる――この条件なら、詠唱の仕方によっては前衛出来るんじゃね? と。『テイルズオブザレイズ』をやってる時にアイデアが浮かんだ。最近のテイルズは前衛と術が混在してますし、昔のテイルズも技の途中に魔術発動とかありましたし(きらめきの塔のワルキューレとか)

 なのでキリトを試験台にいざ描写――したら思ったより強くなった件。

 魔法って『詠唱』が技後硬直の代わりみたいな感じなので、極限まで詠唱破棄すると連発出来ちゃうんですよね。

 ゲーム《ロスト・ソング》などでも下位魔法はMPが切れるまで連発出来ます。そしてキリトの魔技の詠唱は下位魔法レベルに短い……よって硬直無し、でもノックバック与える前衛技、というとんでもない仕様に。

 ――コレを描写した理由・きっかけは、流浪の二刀鍛冶師レインにあります。

 前々から思ってたんですよね、検索掛ければ分かるレインの代名詞ってどういう扱いなのか。アレって魔法を応用した技なので、厳密には剣技OSSでは無いんですよ。本人も『オリジナルスキル』と絶妙に明言してないという。

 しかしコレを扱うには何かしら明確なシステムが要る。

 原典のは元々とある魔法の熟練度をカンストさせ、諸々幅広くなったことで戦闘用に使えるようになった奥の手――なんですが、繰り返し使うのは元の魔法的にどうなのと思ったり。

 ここがネックになって新システム《オリジナル・スペルスキル》を考案しました。魔法として設定出来る自由度を出しておけば矛盾点は無いだろうと!

 キリトのは日本語詠唱になってますが、その気になれば古ノルド語詠唱もイケます。単語レベルの長さが決め手なんでね。尚、私は新しい古ノルド語魔法を出すつもりは無いです(二度目)

 ――ともあれレインのOSS(剣・魔)は原典準拠でいく予定です!



 これで技名叫ぶ事に意味が出来たんだから簪さんが知ったら大興奮間違いなしですわ、リアルに技名叫ぶと威力高くなると思ってそうですもの、この子。

 ――技名言いつつ剣振ったら衝撃波が飛んだ、みたいな事も出来ますね。

 尚、攻撃時に声を張り上げると威力が高くなるのは、現実でもあります。ただ技名なのがアレなだけで() 島津流の二の大刀要らずの『示現流』に於ける『(えん)(きょう)』が有名ですね。

 長らく失礼。

 では、次話にてお会いしましょう。






 本作設定でキリトに師事しているシノンさんが剣を片手にアップを始めました。

 見た目は猫妖精(ケットシー)、台詞は精霊の主(マクスウェル)、声優さんは沢城みゆき――その名はシノン(ミラ)


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