インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 今話の視点はラン、キリト。多分だけど、シウネー達と関わっている間はラン視点中心になるかな? 理由は……原作がアスナで、ランはアスナに似てるから()

 文字数は約九千。少ないのはサブタイ通り『お膳立て』、つまり前準備や伏線的なものだから。

 ではどうぞ。




第十三章 ~お膳立て~

 

 

 シウネー達から話を聞いた後、先の案件について話す必要もあり――シウネー達は病院側の都合でログアウトしたが――急いでリーファ達と合流した。

 彼女らが居たのは央都アルンに構えられたエギル雑貨店兼リズベット武具店の二階。今日は各自空都ラインに集まる予定だったが、シウネー達との用事が挟まった関係で、そちらに集合場所が移されていた。

 私達が到着した時点でほぼ全ての知り合いが集まっていた。

 キリト、リーファ、ユイ、ストレア、キリカの他に、アスナ、シノン、シリカ、リズベット、フィリア、エギル、クライン率いる《風林火山》の六人。この面子は普段の攻略の常連。

 更に今日はALOだと久し振りに顔を合わせるサチと《月夜の黒猫団》もいた。

 

 ――サチとケイタ達の関係は微妙に複雑なままだ。

 

 キリトとの禍根も解消された現在、サチはケイタ達とぎこちなくも関係を直しつつ、しかし再結成された彼らのギルドには()っていない。彼女が《月夜の黒猫団》の生き残りと度々口にしていたのは、彼らとキリトの禍根に自身が関わっていて、それから目を背けないよう戒める為だった。しかし直接対面して解消された今、彼女がそれに拘り続ける必要は無くなっている。

 凛々しく戦う不屈の槍使いにまで成長した彼女は自身の居場所は《スリーピング・ナイツ》にあると言った。関係こそ修復しているが、ギルドの移籍は考えていなかったのだ。

 解消されたとは言え、サチも惹かれた少年の事をケイタは殺そうとしていた。その殺意は本物だった。挙句、サチは半ば見捨てられたも同然の扱いを受けた。

 本人達が納得していると言えど、それを無かった事のように元の関係に戻れる筈も無い。

 時間が解決してくれるだろう。

 

 そして、シウネー達の話について姉妹で語る。

 

 生きた証を遺そうと願うに至った闘病や余命宣告などの経緯、自分達が彼女らとどこで知り合っていたかの詳細は流石に暈したが、今後彼女らが恐らく逢えないだろう事は強調した。

 シウネー以外の実力は未だ未知数、更にはフルメンバーでも全滅の危険性が高いレイドボスを一パーティーで討伐しようとするなど、無茶以外のなにものでもない。

 

「――私とユウキは、シウネーさん達に協力するつもりです」

 

 語り始めた時、ほぼ全員が眉根を寄せ、本気かと目で問うてきた。それが普通だ。高難度ボスや野良レイドを幾つも経験してきたから分かる。ALOのレイドボスは回復や遠距離戦闘手段が豊富なせいでより厄介な存在が多く、一パーティーではとても回復を回せない性能なのだと。

 違う反応を見せたのは先に事情を聴いただろう少年一人。どこまで知っているのかは知らないが、彼は普段通りのまま、静かに話に耳を傾けていた。

 

「勝手な話だけど、ボクも姉ちゃんも手伝おうって決めたから……ボク達は一時的に抜ける。その埋め合わせとして二つ目の浮島攻略から手伝ってくれるって約束してくれた」

 

 見返りという訳ではないが、彼女らは目的を達した後、切実な事情があるとは言え曲がりなりにもMMOストリームなどネットに名前が残される千載一遇の機会を奪う形になるからと、せめてもの誠意としてスヴァルトエリアの攻略に時間が許す限り手伝う意思を表明している。

 それで暫く戦力の二人が抜ける埋め合わせは出来ている。シウネーだけでもかなりの戦力向上は見込める。

 ――しかし、それでも避け得ない問題が一つあった。

 

「ただ、問題が一つ。みんながあの企画を狙ってたら、ボク達はみんなと()()しなくちゃいけなくなるんだ」

 

 スヴァルト攻略を目指しているみんなとの衝突が避けられない事である。

 他にもライバルは居る。《三刃騎士団》や野良プレイヤー達も、障害として数えている。しかし一番身近な強敵と言えばみんなだ。SAOで数十ものボス戦を経験し、戦い抜いて来たみんなは、そこらのプレイヤーに追随させない実力がある。

 油断していなくても、普通にヴォークリンデのボスを先に倒される可能性があった。

 

「ですがこちらも引く訳にはいかなくて……なので、お願いです。ヴォークリンデのボス攻略だけは譲って下さい」

 

 そのために、事情を話し、今回ばかりは引くよう頭を下げてお願いする。

 これでダメだったら関係が崩れる事も覚悟して全力で競争しなければならない。攻略を進めるイベントアイテムはずっとALOにログインし続けられるユイ達が持っているため、シウネー達と進めるなら一から集め直しになる。時間は無い。

 もし拒まれた時の事を考え、イベントアイテムの回収順とボス討伐までの予測時間を計算する。

 

 

 

「えっと……ランちゃん、純粋に疑問があるんだけどね」

 

 

 

 頭を下げたまま返答を待っていると、アスナがおそるおそる話し掛けて来た。彼女の顔を見れば僅かな困惑が表情に浮かんでいた。

 

「なんでしょう」

「あのね、ボスを倒した時に一パーティーで良いんだから、そこまで行く道中は一緒に進むのでいいんじゃない? 別に馴染みのみんなとしか攻略しない訳じゃないし……それとも何か、私達と一緒だとダメな事情があったりするの?」

 

 小首を傾げながら純朴に問われる。

 その問いに、今度はこちらが困惑した。

 シウネー達のリアル事情を話す訳にはいかないが、元々ネットに於いてリアルをばらすのはご法度で、それは彼女も分かっている筈。彼女が聞きたい『ダメな事情』というのはこの世界での関係性とか、そういう事についてだろうと察しも付く。

 だからこの困惑は、当たり前のようにシウネー達を加えて攻略する事を考えている事に対してだった。

 

「そうね、私もちょっとそこが引っ掛かってたのよね」

 

 アスナに続くように、今度は壁に背中を付けて立ち聞きしていたシノンが声を上げた。肩に掛けていた長弓を直しつつ彼女はこちらを見て来る。

 

「私達って楽しいから攻略に動いてる訳で、別にボスを誰が倒そうがあまり気にしないじゃない? LAボーナスに関しては競争心や対抗心は湧くけどそれまでだし……仲間との想い出を残したいなんて事情があるなら協力するわよ。むしろ私は話の途中から協力して欲しいって言われると思っていたのだけど」

 

 どこか呆れたようにも見える表情で締めるシノン。

 彼女に続いて、そうですよ、とシリカが声を上げた。

 

「未だにボスがいるダンジョンへ行く手立ても分かってないのに、それを七人だけで見つけて、徘徊するモンスターも倒して、その上でボスと戦って最初に倒そうなんて、ちょっと無茶が過ぎますよ。アイテムも武器の耐久値も保たないと思います」

「そもそも物量差でどうしても他の連中に先を越されるのがオチな気もするわよ。道が分かっているならともかく、そうでないなら手探りな訳だし、無謀だと思うわ」

 

 リズベットが酷評を下す。ボスと戦う以前に、まず現状からのチャレンジそのものが無謀だったらしい。

 

「その点、ナビゲーションピクシーとして皆さんのサポートが出来る私とストレア、キリカが居れば、少なくともダンジョン内の踏破は最速です。普段は使いませんが、その気になればマップ情報にアクセス出来ますからね」

「もしモンスターと戦闘になっても、ユイとキリカは戦闘力も折り紙付きだからねぇ。タイムロスも少ないんじゃないかなー」

「……レア姉は?」

「アタシはほら、タンク寄りのアタッカーだから畑が違うカンジ?」

 

 より成功しやすくなる要素をAI姉妹が言う。形振り構う必要が無いなら、確かに彼女達を頼る事が一番だ。

 ……シウネー達の事を想うあまり、どうも冷静な思考が出来ていなかったようだ。現状を客観視出来ないまま挑もうとしていた。これでは彼女らの悲願を果たせなくなっていただろう。

 

「あの……いいのでしょうか。私達の都合に、皆さんを巻き込んでしまっても」

 

 困惑のままにシウネーが問い掛ける。

 

「何を言ってんだ、水臭いですぜ、シウネーさん!」

 

 それに応じたのはクラインだった。【歌姫】セブンを前にした時と違い、前から見続けた真面目な表情でシウネーを見据えていた。

 

「袖すり合うも他生の縁! 二人が手を貸すって決めたンなら、俺も全力で力を貸しますぜ!」

「ユウキ達と再会出来た事も含めてこれを逃す手は無いからな」

 

 ぐっとこぶしを握り、最後はにかりと人懐こい笑みを浮かべて言い切る男。続けて発言したのはクラインの隣に立っていた禿頭の土妖精エギルだった。

 ――全体を見る。

 誰もが協力する意思を見せてくれていた。

 

 *

 

 最終的にシウネー達をレイドに加え、ボス戦の時だけ別れる事に決まった後、攻略の進捗について情報共有する流れになった。

 ここに、話の間もずっと無言だった少年が一石を投じた。

 昨日、攻略に関わりのありそうな『風の魔力晶』をユイ達と手に入れた彼は、彼女らと別れた後もクエスト攻略やダンジョン探索をソロで行っていた。その果てに古代文字を解読する為に使う『古文眼鏡』と魔力晶の使用法に関して記載されている『古文書』を入手していたのだ。

 それを取り出し、内容も解読済みで、あとは魔力晶を然るべきところで使えばボスが潜むダンジョンに行ける段階になっていた。

 

「な、なんでそれを先に言ってくれなかったんですかぁ……」

「や……だって、言える雰囲気じゃなかったし……」

 

 かなり心臓に悪い覚悟を決めようとしていたから泣き言をぶつければ、若干目を反らして、そう言われた。

 確かに一人ずつ協力する旨を伝えていたところにこれを言うのは難しい。加えてダンジョン探索を考えれば協力関係を築くのは良策だ。薦めこそすれ、その流れを断ち切る必要はまったくない。

 だから無言だったんだろうな、と納得する。

 

「というか、何気にキリトがこの中で一番攻略に積極的な気がするのだけど。攻略にはあまり参加しないって言ってたのにどういう心境の変化なの?」

 

 そこで、義弟と同じく()()()()()()()()リーファが疑問を呈した。確かに初日にそんな発言をしていたと聞いたけど、彼女の言う通り攻略を進める為のアイテムは全て彼が持って来ている。

 

「装備の性能解放すべく攻略をしていると昨日聞きましたが……」

 

 昨日の攻略中に聞いたらしいユイが言う。しかしやや自信無さげなのは、その言葉をあまり信じていないからか。

 

「……もしかして、私達の事情を考慮して下さっていたのでは……」

 

 そこでシウネーが推察を口にした。

 

「一昨日のデュエルで敗れた私は彼に事情込みでお願いして、『迷惑を掛けてしまうから』と断られ、こちらの二人を推薦されました。ですから……自惚れかもしれませんが、つまり一昨日から今日までのキリトさんの攻略は、私達を思っての事なのでは……」

「そうなの?」

 

 最後リーファに問われた彼は、観念したように息を吐いた。

 

「……そうだよ。最終的な成否はシウネー達自身に懸かっているけど、あの事情を図らずも知ったんだ、ちょっとくらい助けようと思うのも仕方ないだろ」

「いや、別に責めてる訳じゃないんだけどね……とはいえ、要するに、()()()()()――」

「あー、ごほんごほんっ! 俺の個人的な事情もある事を忘れないでくれるかなリー姉!」

 

 リーファの言葉を続けさせないよう咳払いを被せた彼の頬は朱い。自分の事情も含んでの事だ、と自ら謙遜するような物言いをしているが、その頬の色を見ればどちらが本命だったかは知れる事。

 そもそも自分のステータスを『弱者であるため』と言って下げて本土でも戦っていた彼の事。仮令【スヴァルト・アールヴヘイム】での装備性能制限が全て取れたとしても、本土の状態と同等になるだけだから、そこまで影響が大きい訳では無い。制限解除の為に攻略に打ち込むほどの理由では無いのだ。むしろそのハンデすら覆せるようなるべく更なる対人戦に打ち込むだろう。

 

「まぁ、とにかくだ、これで挑めるだろ。俺が出来るお膳立ては――……」

 

 朱い顔のまま言葉を止めるキリト。何かを思い出したような表情をした後、あー、と間延びした声が発せられた。

 

「これで全部、と言えれば恰好付いてたんだけど、あと二つあった」

「え……あの、これでも十分、して頂いたんですが……これ以上は申し訳ないですよ」

「いい、気にしないでくれ。シウネー達には成功して欲しいと思ってのお節介だ。申し訳なく思うくらいなら『成功させるぞ』と意気込んでくれた方が嬉しいよ」

「そ、そうですか……」

 

 シウネーにそう言った後、彼はそういえば、と話を変えた。

 

「これからヴォークリンデのボスに挑むつもりはあるのか?」

 

 最初にこちらを見て問われる。自分達もまさかすぐ挑める状態になるとは思っていなかったので、首を傾げた。

 一応リーダーはシウネーだ、彼女達の都合に合わせて動かなければならない。みんなが過ごしてる病院の都合でログアウトしなければならない時間帯もあるだろうから任せる旨は伝えていた。

 

「そうですね……一応おい――こほんっ。家族の方からは許可を貰ってますので、深夜までログイン出来ますし……一度、傾向と対策の為に挑んでみようかと」

 

 ボス討伐の為に一度当たって砕ける戦法の偵察が行えるのは良い事だと思う。SAOの七十六層ボスは偵察戦すら無かったから大変だった。リアルとの連絡が取れ始めた七十七層以降はまだ楽だったが、見て覚え、体で反応させる命懸けの戦いに於いて、偵察が出来ないというのはかなり辛い。

 第百層のイレギュラーボスもそうだった。ぶっ壊れ性能も、知っていれば対応出来ていただろう。

 ただの悔し紛れ、負け犬の遠吠えに過ぎないが……

 

「あ、その時間は無いぞ」

「「「「「……はい?」」」」」

 

 ――その思考を、彼の話がぶった斬る。

 シウネー達も、自分達も、揃って声を上げた。

 

「俺が一人で出来る事を《三刃騎士団》が出来ない訳無いだろう?」

「まさか、先を越されて――?!」

「いや、それも無いから安心しろ。仮にそうだったら二人が協力すると言った時点で急ぐよう促してる」

 

 だから落ち着けと、浮足立った自分達を諭す少年。やや動揺は残るも冷静さは取り戻した。

 

「時間が無いと言ったのは《三刃騎士団》が今日中に片を付けるつもりだから。まだ先を越されてないと言えるのは、【歌姫】が開いてるミニライブを戦勝祈願代わりにしてるからだ、最低でもあと一時間は続く。今から全員で急いで準備して発てば十分先んじられる」

「そういう事はもっと早く言って下さい?!」

「……うん、ごめん」

 

 再度、さっきよりも強く言う。

 今回は自分に完全に非があると思っているらしく、気まずそうな顔で謝罪された。

 

「それで、お詫びとして最後のお節介。俺はこのあと用事があるから同行出来ない。だからその代わりに、ボスに挑む七人にはバフを掛けようと思う」

「え……バフは、有難いけど、でもダンジョン探索中に切れちゃうんじゃ?」

「魔法OSS……ああ、面倒だな。既存の魔法と区別するよう《魔術》とでも名付けるか――俺が新しく作った魔術のバフだ。論より証拠、まずは見てろ」

 

 そう言って立ち上がった彼は、パーティーは組んでいるか、と聞いて来た。

 

「いえ、まだ組んでいませんが」

「なら組んでくれ。このバフはパーティー指定も入ってるんだ」

「わ、分かりました」

 

 パーティー指定系なんてクエスト以外に無かったから新鮮さを覚えつつ、シウネー達とパーティーを結成する。勿論自分達が頼む側だ。

 それを伝えると、よし、と頷いて彼はメニューから長杖を取り出した。

 

短杖(たんじょう)じゃないんですね」

「長槍と扱いが近いからこっちにしてるんだ、短杖より魔法補正が強いしな」

 

 意外にも長い杖を使っている事に疑問を呈すると、扱いの関係でそちらにしているらしい。

 確かに短杖は魔法を使う事にだけ用途が特化している割に補正が低いから不人気気味だ。長杖はかさばるという事で敬遠する人が多い中、シウネーや彼のような人は珍しい部類に入る。

 

「――我想う。我が仲間に祝福を、我が仲間に喝采を」

 

 ――そう思考していると、彼が小声、かつ早口で詠唱を始めた。

 右手の杖を床に突き、左手は十字を描くように上下左右ランダムに動かされている。規則性が無いのは判定の為か、キリスト教徒の事を考慮しての事か。

 

「猛き炎。鋭き風。清らかな水。無慈悲の氷。母なる大地。神なる(いかずち)。無窮の闇。無辺の光――」

 

 一節ごとに区切っていたらしい部分は聞き取れたが、そこからは文章のようで、途中から聴き取れなくなってしまった。分かる事はとても長い詠唱という事。

 

「――ビフレスト・エレメント」

 

 十数秒の詠唱を経て、声量が普通に戻り、静かに術名が口にされた途端、こぉっ、と彼の周囲に複雑怪奇な魔法陣が幾重にも展開される。赤、緑、青、蒼、茶、黄、紫、白――()()()()()詠唱に出た属性と同じ順と色で魔法陣が展開されている。六芒星の中心に各属性を象った紋章が浮かび、そこから色取り取りの光が放たれた。

 ――OSSの説明と照らし合わせるなら、その魔法陣も彼が自作した事になる。

 ユイ達からOSSのシステムについてキリトがOSSを作っていた事も含め――詳しい内容は秘匿されたが――教えてもらっていたし、ある程度理解している。あのグラフィックすらも拡張要素に入るらしいのだ。その出来が良く、複雑であればあるほど威力や効果範囲などの上限も際限なくアップしていく。

 単語の数が多い詠唱、更に複雑怪奇、かつ美麗なグラフィックまで備わった魔法OSS――魔術。

 いったいどれほどの効果なのだろうと、見惚れながら思考する。

 ――ほどなく、左端に映るメンバーのHPバーの横に、幾つものバフアイコンが並んだ。

 HP上限アップ、MPアップという見た事の無いバフの他に、全てのパラメータ、属性耐性、状態異常耐性まで付与され――しかも、自動蘇生魔法(リヴァイブ)でだけ見られる天使の羽アイコンが三つ分。HP自然回復、MP自然回復、移動速度アップ、クリティカル率アップ、クリティカル威力アップもあった。

 その代償か、彼のHPは残り一ドット、MPは全損しており、更に反転したように全てのパラメータ、属性耐性、状態異常耐性がダウンし、多くの状態異常が付与されていた。HPスリップ()、MPスリップ《衰弱》、被ダメージ倍加&回復量半減《恐怖》、スキル封印《封印》……行動不能になる麻痺毒とバインド状態以外の状態異常を受けている。毒で全損はしないが、見たところレベル10の猛毒のようだし、実質ずっとHP1のようなもの。

 

「あの、キリトくん、これは……」

「そこまでのバフを一度に掛けるにはこれくらいの代償が必要なんだ。他にも、パーティーから一人でも抜けた時、パーティーの順番を変えた時、パーティーの誰か一人あるいは術者がログアウトした時に全てのバフが解除される条件もある。代わりにそれらを満たさない限り自動蘇生以外の効果時間は永続だ」

「それって……!」

 

 ユウキが目を剥く。自分も、鋭く息を吸った。

 彼が口にした条件。それは間違いなく、シウネー達を意識したものだ。

 その為だけに攻略アイテムを集め、その為だけに術者の負担の大きい魔術を完成させている。ただ作るだけならいい。だがあそこまで美麗なグラフィックとソロでの苦労を考えれば絶句ものと言える。

 多くのデバフを受け、街中ではまず見ない瀕死状態の彼は、私達を見て笑みを浮かべた。

 

「今度こそ、俺が出来るお膳立てはここまでだ。成功を祈ってる」

 

 そう言って、彼はリズベット武具店を立ち去った。

 

 ***

 

 街を歩きながら、考える。時たま普通見ないデバフと状態異常の数々を見て異様な視線を感じるも全て無視する。

 

「――レベル1、か」

 

 視界端。自分の名前の横に表示される、種族熟練度(レベル)を見て苦笑する。

 先程ユウキ達に対して使った支援魔術《ビフレスト・エレメント》は、見ての通り対象パーティー固定型のバフ特化であり、代償として数々のデバフの他、HPの99%、MP100%――そして、フルパーティーの場合は累計経験値100%を喪うもの。

 ALOの自爆魔法は、自爆によるデスペナルティで大幅に経験値を喪うとされているが、一つ一つを紐解いていくと、正確には若干違う。発動可能条件は設定されたスキル値とMPであり、発動にはデスペナルティの数倍に相当する経験値を消費している。

 

 ――つまりこのALOは、経験値を消費して発動するスキルが存在している。

 

 レベルアップに膨大な経験値を要する特徴を有するため、同じ『1』でもMPとは価値が大きく違う。そんなものを大量に使うからこそ設定された魔法は絶大な威力を発揮する。触媒を使って発動する魔法のように、自爆魔法は経験値を使って発動するのだ。

 それを参考に作った支援特化魔術。人数が増える毎に受けるデバフも消費する経験値も莫大なものとなるこれは、七人のフルパーティーに掛ける事で最大のリスクを背負う事になる。

 よって自分は初期レベルにまで落ち込んでいた。一人少なければ、多分50くらいに抑えられていたと思うが……

 まぁ、ユウキとラン(あの二人)を薦めたのは自分だ。薦めた当時はまだ魔術を作っていなかったとはいえ恨み言を口にするつもりはない。

 何しろALOはゲーム。これからもプレイし続けるなら、自ずと経験値は上がっていく。スキル値が減らないだけ僥倖と言える。

 むしろ、現状目を向けるべきなのは別にある。

 

「レベル1でどこまで対応出来るか……」

 

 【歌姫】の事を心酔しているクラスタ達の行動は常識で考えるべきでは無い。得てして狂信や妄信を抱いている手合いの行動は、予測不可能なものだというのが定石。ブリュンヒルデや女尊男卑、ISへの狂信者を目にしている自分はそれをよく知っている。

 実際に人死にが出ないマナーレス行為なんて、『何時もはしない』、『今回だけ』と言ってくればいい方で、『あの人の為だ』なんて言い始めたら末期と言える。

 はぁ、と息を吐く。

 シウネー達が成功するか否か。個人的には成功して欲しいが、こちらの事情だけで考えればどう転ぼうが影響はない。

 既に賽は投げている。

 

「今日はハードな予行演習(仕事)になりそうだ」

 

 空を振り仰ぐ。

 18時間周期で回っているALOの天候は、()()と違って快晴だった。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 自爆魔法のデスペナ法則について原作に明記されていない事をいいことに独自設定を作る二次創作作者は私です()

 MPや詠唱、振り付け、グラフィック、これらで足りないものをデバフというリスクで補い、底上げする手段。『リスクがあるだけ強力』という単純ながら分かりやすい法則が私は大好きです。

 経験値という己の力をも代償に放つのはもっと好き(愉悦スマイル)

 ビフレスト、というのは北欧神話に出て来る虹の橋の事。今回は色取り取りである様を表すべく採用しております。実は《千年の黄昏》のヴァベル、オベイロンの他、数名の魔法使いキャラは《ビフレスト・レゾナンス》という全六属性の魔法弾攻撃を使えます。そこから発想を得てきました。

 詠唱がダサいのは哀しい性() 苦肉の策として途中を描写しないのは卑劣ですネェ!

 そしてシウネー達に感化されて自己犠牲並みの代償を払いバフを送ったキリト。勢いと見ただけで分かるアイコンデバフでバレにくいようにしてますが、この少年、『バフが解除されない限りデバフも解除されない』という重要な事実を伝えてないんですよね。

 しかも代償でレベル1。それに加えてオワタ式且つデバフ祭りという状態で、更に実働で現場仕事までこなそうとしている事実。取り敢えずレベル低下してもそこまで打ちのめされてない辺り(自分の意思で作り使ったとしても)かなり()()()()感が……

 幼気(いたいけ)な子供を立派な社畜にした()()は許してはなりませんネェ!(爆)

 まぁ、菊岡や茅場、束、クロエのような社畜仲間が居る辺り、割と無敵感もありますが。約束された勝利の社畜(天災が仲間の主人公強い)的な。

 ――話は変わって前半ラン視点。

 やっぱり話を取ってでも協力するための話し合いは必要だと思うんです。仮令それが、原作に近いような事であっても(原作ではアスナ&シウネー達のワンパーティー行動でしたが)

 なまじオリジナルルートに入っているので予想出来ていてもするべきだというのが自分の見解。

 ――オリジナリティのせいで《月夜の黒猫団》が息してないのは見逃して下さい(土下座)

 でもクラインニキの人情と人間味はもっと出していきたい。ケイタ達が出る隙間が無いくらい(オイ)

 サチ?

 キリトと絡むべく本気出すんじゃないかな(現状槍使い最強である)

 尚、暫くは()()面子の《スリーピング・ナイツ》が主役ですが(無慈悲)

 では、次話にてお会いしましょう。



 ――ところで、みんなレコン君の新川化好き過ぎひん?

 流石に予想外やったわ(震え)

 まぁ、タイーホされるかどうかはまた()()()として、暫くは丁寧に関係を描写していきましょうか……

 リーファの前では猫被りレコンとそれを見透かすリーファの構図とかゾクゾクしますネェ!(ロマネコンティ化)

 そういえば、《ホロウ・リアリゼーション》のとあるイベントだと、《リヒター》というキャラがALOにも居る発言あるんですよね……

 ――アサダサンアサダサンアサダサンアサダサン!(原作)

 ――リーファチャンリーファチャンリーファチャンリーファチャン!(二次)

 ……何故だろう。本作の二人だと、普通に撃退するイメージしか湧かないんじゃが。得に義姉。

 どうしてこうなった!(自業自得)

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