インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。
今話はスメラギ、シノン視点。スメラギ視点が戦闘場面です。アンケでキリトの戦闘を望む声が多かったので、今回は描写しました。毎回するかは未定。
文字数は約一万三千。
伏線(とキャラ視点)のせいで語れていない部分がありますが、ご容赦下さい。
ではどうぞ。
遺跡の中に数多の足音と金属の擦れる音が木霊する。一度死に戻りした者達から話を聞き、全速力で駆け付けた《三刃騎士団》のボス攻略レイドのものだ。
彼らから話を聞いた途端、殆どのメンバーがライブを打ち切って攻略に乗り出している。ボスに挑めるレベルではないが、先遣隊を討ち、先にボス部屋へ入った者達――【絶剣】や【舞姫】、【魔導士】など、有名な者達への報復をするためと息巻いている者達を含め、五百に近い大所帯となっていた。
「クソッ、せっかく先遣隊のリーダーを任されていたっていうのに……!」
「【絶剣】達があんな手に出て来るなんて予想してなかったんだ、お前に非はねぇよ。その苛立ちを倍返しにしてあいつらにぶつけてやろうぜ」
「おう! セブンの為に、何としてもヴォークリンデボスの初回討伐は奪い取るぞ!」
走りながら、そう息巻く男達。
自分としてはむしろ数が揃っていないのに順番待ちで仲間を差し向けていた行為の方が批判されるべきだと思うのだが、恐ろしくもセブンの求心力とカリスマにより、クラスタを自称している者達は盲目的だ。自分達の邪魔をする彼女らが悪いと、それに類する発言しか耳にしていない。
正直、嫌悪を覚える。
彼らは、恐らく自分と同い年か、少し上くらいだろう。だから失礼に値するとは思う。だが己の行為を棚上げして他者を詰るのは人間性として低い証。
マナーレス行為をするならば逆にされてもおかしくないのだ。あちらは――十中八九パフォーマンスだろうが――交渉という穏便な手段をし、その上で決裂した。早い者勝ちのMMOに於いてその類の争いはおかしくない。
これがコモンエリアのボスならもっと問題になっている筈だが、件のボスはインスタンスエリアのものであり、順番待ちをさせるのはこの上ないマナーレス行為に該当する。
この男達の身勝手な行いのせいでセブンの名と威信に傷が付くと思うと腸が煮えくり返りそうだ。
「――ま、待った、止まれ! みんな止まれ!」
内心苛立ちながらも表情を取り繕って走っていると、トラップや《索敵》のためにやや前方を走っていたスプリガンの男が困惑気味に叫ぶ。只事では無いと、愚痴を言い合っていた男達も含め、全員が臨戦態勢を取った。
――男が困惑するのも無理はなかった。
中央遺跡をある程度進んだところにある大部屋には、数十を超える色取り取りのリメインライトが散見され、先に進む道の前には通行止めするように一人のプレイヤーが立っていた。通り抜けられないようにか土魔法の壁で道は封鎖されていた。
「くそ……っ」
そしてそのプレイヤーの足元にサラマンダー将軍が怒りと悔しさを綯交ぜにした表情で仰向けに倒れていた。将軍のHPは、悪態を吐いた直後に全損し、体は深紅のリメインライトへと四散する。
その最期を見届けたプレイヤーが、入り口付近で足を止めたこちらに視線を向けて来た。
黒尽くめの装い。金属を一切使っていない防具構成であり、華奢且つ小柄。少女と見紛うような中性的な容姿。場違いとすら思える幼さ。
将軍を含む大部隊を屠ったプレイヤーはキリトだった。
「これは……!」
場の状況から何があったかを類推し、戦慄する。
ユージーン将軍はかなりの使い手。その男を乱闘で勝利を収めるとは、仮令将軍が剣の能力頼りを克服出来ていない――たった一、二時間で克服出来るなら苦労しない――とは言え、キリトも恐ろしい剣腕を持っている。しかも、サラマンダーの他にも複数の種族のリメインライトがある、それらもボス攻略に挑むべく赴いた実力者達に違いない。彼が将軍を下すまでの時間でリメインライトの待機時間すら超過した者は少なくない筈だ。
流石闘技場で数百のプレイヤーを纏めて相手にして下しただけはある。しかも無傷で勝利を収めるなど、普通出来る事では無い。
「――遅かったな、《三刃騎士団》」
底の見えない実力に末恐ろしさを感じていると、キリトが話し掛けて来た。
「お前達が来るまでにシルフ、ケットシー、サラマンダー、インプ、ノームの領主率いる攻略レイドが来た。戦勝祈願のライブなんぞにかまけてたから先を越されそうになる。些か驕りが過ぎるんじゃないか」
「そんな事はどうでもいい!」
それに応じたのは、【魔導士】達に苛立ちを募らせていた先遣隊とやらのリーダーを務めていたノームだった。
「それよりお前、まさか【魔導士】達に頼まれてここで足止めをしてるのか?!」
「いや、違うよ」
「嘘言ってんじゃねぇ! 【絶剣】達と親しいお前が協力しない筈ないだろうが!」
「信じるかどうかはアンタ次第だ……俺が何を言ったところで、どうせお前達は一つも信じないだろうがな」
激昂する男にキリトは淡々と返す。
心底どうでもいいと思っているような口ぶりと振る舞いをやや意外に思った。ほんの一、二時間前に口論に発展しかけた時は、感情的になる一面を見せたから余計意外だ。
口ぶりから察するに、こちらに期待していないのだろう。
「どのみち、俺が協力したかどうかなんて然して重要じゃないだろう? クラスタを自称するアンタ達にとって、自分達が崇拝する【歌姫】の栄進を妨げた事象の方が重要で、そこに至った経緯なんてどうでもいい筈だ。だからこそ、アンタ達はそうして団結し、数百もの勢力でここに来た。カリスマがあったとしても自主的に数百人規模が動くなんてそう起こり得ないんだが……
――キリトの眇めた眼と視線が交わる。
少年の顔に、皮肉気で酷薄な笑みが浮かんだ。
「――そのまま行けば、アンタら、いつか最悪な目に遭うぞ」
無感情な
今の言葉は、ただの独白のように思えて、その実、俺に対して言っているように聞こえた。彼と視線が交わったからか。見透かされているようで背筋を何かが伝う。
「――まぁ、そんな事もどうでもいいか」
しかし追及しようにも、ふ、と笑みを浮かべて意味深な態度を崩されてしまい、出来なくなってしまう。
「俺は初見の相手との対人戦闘経験を積むべく此処に立ちはだかっていてな。だから、お前達と停戦の余地はない。さぁ、掛かって来い、纏めて相手をしてやる」
そう言って、キリトは左手に持つ直剣を突き出す形のまま担ぎ上げ、右半身を前に出す構えを取る。つられてこちらも手にしている武器を構えた。
――数拍の無言の後、駆け出す。
このレイドのリーダーである自分は、本来なら指揮を執るべきなのだろう。しかし相手はユージーン将軍を中堅以下の装備で下す実力者。なまじ将軍がリメインライトとなる瞬間を目の当たりにして竦んでしまっている、メンバーは誰もが二の足を踏んでしまっていた。そんな者達が向かったところで無駄死にするだけ。
故に損耗を控え、且つ鼓舞するのを目的に一番に距離を詰める。
「ハアァッ!!!」
気合一閃。走る間も腰に構えていた
――その時、キリトが斜めに剣を構えた。
瞬間、彼我の間を区切るように、床と垂直に聳える白雷を放つ半透明の壁が出現した。壁に当たった刃はばちぃっ、と激しい音と共に弾かれ――反撃とばかりに、激しい稲妻が放射される。
至近距離からそれを浴びてしまい、ぐぐっと視界端に映る自分の体力が減っていく。
いやらしい事に反撃の稲妻は微々たるダメージを数度に渡って与えてきた。明らかにスキルによる反撃であるこれが仮に単発であれば、被弾ダメージ量に比例する長さが変わる仰け反りもすぐ終わるが、連打となると話は違う。微々たるダメージでもスキルによる攻撃には変わりない。反撃が終わるまでの数秒は無防備な様を晒してしまう。
そして、一瞬の隙が趨勢を決する戦いに於いて、約束された数秒の隙というのは致命的だ。
それが意図して作られたものであれば尚の事。
半透明の壁の向こう側に居るキリトが、片手直剣を両手持ちにし、大上段に掲げた。
「魔剣、解放――」
すると直剣の刀身から黒い靄が放出され始める。一瞬で刀身全体を覆った闇は赤黒く変色しながら規模と勢いを増していた。
未だ仰け反りから逃れられない数瞬の間、眼前で生み出される闇を目の当たりにさせられる。
「スメラギさんっ!」
「くっ……!」
背後から、足を竦ませていたレイドメンバーの声が聞こえた。ほぼ同時に仰け反りから回復し、体の自由を取り戻す。
キリトが放とうとしている大技を妨害したいところだが、未だ白雷を迸らせる半透明の壁が残っている。後退するしか取れる手段は無かった。地を蹴って急いで後退する。
「――フォールブランドッ!!!」
しかし、後退しても然して効果は無かった。
視界一面が闇に覆われた後、HPゲージは数瞬の内に凄まじい勢いで削れ、残り1でまた数瞬持ち堪えるも敢えなく全損。青いリメインライトとなり、視界が360度全方位に開ける。眼前には紅いシステムパネルに禍々しく《You are Dead》の表示、背景に自分の残り火が映し出され、それ以外は情景を含めて色褪せた灰色へと変化した。
後方を見れば、闇は波濤となって広範囲に広がり、後方に控える
――今の攻撃はSAOでのボス戦放映時に幾度か放っていたものと同一。
キリトが放ってもおかしくはないそれは、しかしSAOだと光は聖剣エクスカリバー、闇は魔剣フォールブランドの
ALOにログインしている主要なSAO生還者の内、キリトだけはコンバートしていないと明言しているし、事実彼の装備は
コンバートしていれば、警戒していただろうその攻撃。
していないと言われたから警戒していなかったそれは、恐らく【スヴァルト・アールヴヘイム】に伴って実装された新システム《オリジナル・スペルスキル》の一種。好奇心を刺激され興味の赴くままに試すセブンを見ていた自分もある程度はそれの実態について知っている。
《
接近戦主体で詠唱が苦手な者も
このシステムを考えた運営はかなりのやり手と言える。同時、これを使いこなせるかはプレイヤー次第であり、コモンスキルでない以上は他者にとって必ず初見となる優位をも持つ。
《オリジナル・ソードスキル》は初見という一点に於いて対人戦で圧倒的なアドバンテージを持つが、《オリジナル・スペルスキル》はそれ以上という事。
作りようによっては低コスト広範囲攻撃という前衛垂涎の魔術師殺しのスキルすら作れてしまうし、前衛職で低めのINT値やMEN値により不足しがちな防御魔法を充実させられる。
さきほどこちらの攻撃を止めたのもその一つだろう。
しかも先程の防御魔法は常識を一つ破る効果を持っていた。
物理攻撃では魔法を止められない。だからこそ、防御魔法が存在する訳なのだが――逆に言えば、魔法では物理攻撃を止められない、とも言える。原則的に物理は物理、魔法は魔法による相殺しかALOのシステムは認めていない事は、この関係性が証明している。
それに照らせば、キリトの『白雷の壁』は明らかに魔法なのに刃を止めたので、矛盾している。
恐らく『特定の位置に剣を翳す』という行動をトリガーとして発動する防御魔法。属性は氷、水、雷、あるいは氷と光か。物理攻撃を止める属性は氷と地の二つだけで、半透明となれば前者しか無かった。
――原則と言ったように、既存魔法の中には例外もある。
それが氷魔法の《アイスウォール》、地魔法の《アースウォール》という魔法。属性攻撃を受けると一撃で破壊される――中位以上のソードスキルも属性付与により可能である――それらは、『物理攻撃では魔法を破壊できない』という原則を逆手に取り、物理的な壁となって敵対者を追い立てる。PKでは逃走防止、ボス戦では強力な一撃を止める盾として使われる、優秀にして珍しい物理防御魔法。
魔法攻撃には魔法防御。
物理攻撃には物理防御、あるいは物理防御魔法。
キリトは物理と魔法兼用の防御魔法を作りこのパターンから外れた。仮にこちらがOSSを作成し、物理と属性の両方で攻撃しても弾かれ、問答無用で反撃を受けた訳だ。
その分、キリトは相応のリスクとコストを背負う。便利であればあるほど設定コスト、更に使用時に相当のMPを求められる――のだが、剣を構えて仁王立ちする少年のゲージはどちらも満タンのまま。MP以外を使っているのか、こちらが知らない動作や何かでコストを掛けたか、あるいは反撃ダメージの幾らかを還元したか……
――
『う、うそだろ……スメラギさんも、攻略レイドも、纏めて一掃……?』
『いったい何がどうなって……』
『プレイヤーがしていい攻撃じゃないだろ……』
主力を主として百余名を一瞬でリメインライトにされた事に絶句する生き残り。『思考を止めるな、恰好の的だ』――そう叫ぼうにも、残り火になった身ではどうする事も出来ない。
彼らの言葉には同意出来る。
しかし――なまじ、OSSやALOのシステムに深くなっているだけあって、キリトがしている事は例外なく誰にでも可能な事が理解出来てしまえる。彼ほど突き抜けていないが、自分も似たようなものを作ったから余計分かってしまった。
――一歩、キリトが踏み出す。
一歩、軍勢は後退した。
『魔剣、解放――』
黒剣が掲げられる。
軍勢が明確に竦み、大きく後退した。
『くっそ、お前何とかしろよ!』
『スメラギさんが敵わない相手にどうしろってんだよ?!』
『ぼ、防御魔法だ、早く防御魔法を張れ! 明らかに魔法攻撃なんだからそれで耐えられる筈だ!』
怯え、竦み、恐慌を来し戦線離脱しようとする中で、冷静な何名かが防御魔法を張るよう指示する。
それはこの場で的確な判断と言えた。攻撃範囲と威力こそ恐ろしいが、分類上は確実に魔法に入るのだ、防御魔法はダメージを減らすのに確実と言える。
二十メートル以上も距離が離れているせいでキリトを倒す事が難しいのは問題だが、今は損耗を抑えるべく、少しでもダメージを少なくし、逃げ切る事が肝要と言えた。
慌てながらも、素早く紡がれる防御魔法の詠唱。
――キリトは地を蹴り疾駆した。
『え、な……?!』
暫定的に指揮を執った男が距離を詰める少年を見て言葉を喪う。先ほど見せた魔法攻撃をしてくるかと思えば距離を詰めて来たのだ、予想外且つ対応し切れない行動に固まってしまう。
しかも闇は未だ絶える事無く黒剣から溢れ出ている。
――まさか、別々の魔法なのか……?!
剣の状態から、さっきの攻撃が実は二つの魔法によって構成されている可能性に至る。
『魔剣、解放』でHPスリップと引き換えに闇を纏わせ、リーチを伸ばす。その状態で『フォールブランド』と続ければ、纏った闇を放出するという連続魔法。
ALO既存の魔法に連続魔法は存在しない。何故なら、『触媒を消費する』など特定の物品を求められる事こそあれ、『何かが発動している間』という前提のものは無いからだ。なまじ日本語で一続きの文のように聞こえたせいで勘違いしやすいのも気付かなかった原因だろう。
闇を纏った状態……謂わば『魔剣解放』状態は、闇の波濤攻撃『フォールブランド』を使う事で解除されHPスリップも終わる。逆に解除しない限りHPスリップが続くリスクを背負う訳で、それを代償に設定する事でコストに反して高い威力を誇る『フォールブランド』を使える――そう考えれば、コストと威力に納得がいく。
『え、ちょ、聞いてな……?!』
『た、タンク、前に! メイジは下がれ!』
『りょ、了解!』
闇纏う剣を手に距離を詰めるキリトに慌て次々と詠唱がファンブルしていく中、大盾を持ったプレイヤーが前に出る。装備を見れば中堅の中~上といったところだが、スヴァルトルールによりレベルや装備性能が平均化されいている今、その制限を逆手に戦線に参加する者もいる。彼らはその一員のようだ。
術師が下がり、タンクが前に出る。
『――フォールブランドッ!』
しかし、それを待っていたようなタイミングでキリトが剣を横に振るい、闇を解放した。魔法ダメージ扱いのそれを、
がががががが、と岩が砕かれるような多重奏。
闇に覆われても見える数多のHPゲージが一瞬毎に削れ――やはり残り1で僅かに耐え、全損する。
『わ、わあああああああああああっ?!』
『やっぱダメだ、逃げろ、逃げろーっ!』
『スメラギさん、すいません! 撤退します!』
物理で斬られると思わせてからの広範囲魔法攻撃により更に百余りのリメインライトが作られ、レイドはいよいよ統率を喪い、勝手に戦線離脱する者が現れる。自分の理解できない戦い方をするキリトに勝ち目を見出せず逃げ出したようだ。
『俺を殺したかったら、最低でもこれの二十倍で来るんだな』
ドタドタと足音荒く逃げ去るレイドへ挑発が送られる。
仮に今の二十倍――約一万人のプレイヤーで来たとしても、この場で彼を倒すのは不可能に近い。数では圧倒的に劣るキリトは、大軍の利を活かせない限定された狭い地形を利用し、広範囲魔法を効果的に出来る状況を作り出していた。防御魔法を使うと分かれば距離を詰めタンクを前に出させ、そこで『フォールブランド』を使い、壊滅へと追いやる。
メイジが残れば最早一方的だ。防御魔法は被弾ダメージに応じてMPを消費する反面、キリトは『魔剣解放』で減ったHPを『フォールブランド』でMPともども還元し、使った後は全快状態に戻っている。
こちらが数を揃えれば揃えるほど『フォールブランド』の餌食となり、こちらは壊滅し、キリトはより大きく回復する。
悪夢とはまさにこの事か。敵に回られるとこうまで厄介とは……
しかし、こうして戦った事で分かった事もある。
『魔剣解放』は闇属性の刃でリーチを伸ばし、物理攻撃に魔法攻撃を重ねるもの。『フォールブランド』のためか発動中はHPスリップが発生する。
そして『フォールブランド』は見た目の派手さに反して連打系の魔法らしい。一瞬で消し飛ばなかった事から、一発の威力は抑えられている事が分かる。秒間連打数が非常に多いせいで魔法防御をしなかった自分のHPはガリガリと削られた。そして与えたダメージの数パーセント分をHPとMPにそれぞれ還元する。
この二つは数を利とする相手に最も効果的な手段だ。広範囲攻撃に入る敵が多いほど、キリトは自分のHPとMPを回復させ、連打する戦法を取れる。
――逆に一対一のようなボス戦は、SAOの頃と違って苦手としているのではないだろうか。
強力なソードスキルや魔法を使いこそすれ、彼の装備は中堅の域を脱していない。装備の性能こそ勝負のカギを握るボス戦に於いて中堅以下というのは致命的だ。
彼は対人戦に特化した装備とスキルを使う反面、ボス戦はやや苦手なビルドになっていると推測できる。
――結果は悲惨としか言えないが、キリトの力と戦い方が分かっただけでも重畳か。
そう納得しておく。
実際、【スヴァルト・アールヴヘイム】の攻略は重要だが、途中の浮島攻略は誰かに取られてもいい。最後の大一番をセブンが取っていけば凡そ目的は達成される。途中の攻略はそれを盤石なものにするためのものでしかない。もちろん自己強化を図っておかなければマトモに立ち向かえないからでもある。
一先ず
流石に集団戦のメタを張って来たキリトを相手に数の暴力は意味を為さない。
――頭が痛いな……
最近抑えられていないほどセブンへの熱狂ぶりが見られるクラスタ達の事を考え、内心で溜息を吐きながら、『リスポーンしますか』の問いに〇ボタンをタップし、空都へと戻る。
「す、スメラギさん、大変です!」
蘇生した直後、団員に呼ばれた。早速かと眉根を寄せ――
「き、キリトが、【黒の剣士】が空都に居るんですよ!」
「――はぁ?」
予想外の言葉に、心の底から呆けた声を上げてしまった。
「どういう事だ? 【解放の英雄】なら中央遺跡に居ただろう」
「俺達にもよく分からないんですが……多分、どっちかが偽物なんじゃないかって。街に居る方は物凄いデバフを受けてる上に瀕死状態で、一時間以上前から空都に居るのが確認されてるらしくて」
「偽物……」
報告を聞き、思案する。
ゲームに於いて誰かの偽物として振る舞うのは不可能に近いが、スプリガンの幻影魔法あるいは何かしらのアイテムであれば、声や姿を偽る事はある程度可能。写真などの画像アイテムがあれば姿を偽る道具の精度はより増すだろう。
加えてキリトの装備は中堅どころのものばかり。その気になれば、そこらのNPC武具屋で揃えられるものばかりだった。
OSSについては疑問が残るところだが、作ろうと思えばSAOボス戦の映像を参考に誰でも作れる。
剣を交えていれば事の真偽を測れたかもしれないが、中央遺跡にいた方には攻撃を防がれ、返り討ちにあっただけ。その後も広範囲攻撃魔法ばかりで素の剣劇を見せていなかった。
意味深な発言が気になるところだが……
「――空都に居る方が本物のキリト君よ」
「セブン?」
話していると、ミニライブを終えて空都を満喫している筈のセブンが割って入って来た。
「何時から聞いていた?」
「何時から以前に、スメラギ君がやられて戻って来る前から空都はこの話で持ち切りよ? 彼のフレンドが殆ど街に居ないせいで本物か判断出来る人が居なかったせいで余計広まっててね」
「……なら何故空都に居る方が本物と言える?」
騒ぎを知っている事は納得出来たが、断定偽物と言える中央遺跡の方を見ていないのに何故本物か判断出来たか分からなかった。
するとセブンは小首を傾げた後、しまった、と言いそうな顔をした。
「あっちゃー……しまった、秘密なんだったわ」
「秘密……話の流れから察するに、まさかと思うが……セブン、キリトとフレンドになっているのか?」
まさかと思って問えば、彼女は否定する事無く悪戯めいた笑みを浮かべた。
「え……ええええっ?!」
それを知った団員は絶叫を上げる。憧れのアイドルが特定個人とフレンドになっている事実を熱狂的なファンである団員が知ったのは不幸かもしれない。
「そ、そそそ、それは本当なんですか?!」
「うー……まぁ、ばれちゃったし仕方ないか……うん、そうよ。キリト君は
証明するためかウィンドウを可視モードにし、フレンドリストを見せるセブン。最上に自分の名前があり、その一つ下に《Kirito》の名前が表示されている。
彼女のフレンドリストにある名前が二つだけなのは事情がある。
自分が見知らぬ他人から遠ざけたり、彼女自身忙しくて純粋なゲームプレイに興じられなかったりした結果がそれだ。ギルドの運営もほぼ全て自分が取り仕切っているせいで連絡も自分がすれば早い。
一番の理由は、集団的無意識の統合を目的とするために、対象の間に非協力的感情や思考を覚えさせないよう敢えて距離を取っているから。逆に言えば、彼女とフレンドになり個人的に親しくなった相手は、研究対象から外れた事を意味している。キリトがセブンとフレンドになったのも、彼女が研究対象としている集団組織に入るとは考えてられおらず、クラスタ達が彼に反発を抱いたとしても研究に支障が無いからだろう。
「うっそ……マジか……というかセブンちゃんってフレンド少ないんスね……」
「ちょっと、それ気にしてるんだから言わないでよ!」
「とにかくだ。セブン、実際に空都の方のキリトを見て、名前が見えたんだな?」
「うん、そうよ。フレンドにだけ見えるアバターネームがしっかり見えたわ!」
「そうか……」
セブンはこういう事に関して嘘は言わない。
元々彼女は嘘が苦手だから、仮に嘘を吐いていれば分かりやすい反応が出る。それが無いから実際見えたのだ。
ALOの魔法にも分身を作る類のものは無いから、つまり中央遺跡に居る方は幻影で姿を被せた偽物という事で決まりだ。
そうなると何故あそこに陣取っているかが分からないが……
「――それで、スメラギ君はキリト君の偽物、どうするつもり? 倒すの?」
思案していると、セブンが問い掛けて来た。
「ん……いや、アレは無理に近い。完全に対策して来ている。むしろ数に頼れば頼るほどこちらが不利だ」
「ふぅん……偽物は一人なのに、数の暴力が逆効果なんだ」
「アレは例外だ……まさかアレが偽物とは思いもしなかったぞ……」
完全に一方的だったから本物とばかり考えていたせいで偽物とは思いもしなかった。空都にキリトの姿を見た者がいなければ、全員そう思っていただろう。
「今回は見過ごそう」
「で、ですがスメラギさん、それじゃみんなが納得しませんよ! クラスタも抑え切れません!」
「ギルドに所属している団員には俺から話をする。クラスタは……『デスペナで弱くなって置いて行かれてもいいなら自己責任で行っていい』とでも言えばいいだろう」
《三刃騎士団》はただのセブンファンではなく、実力者揃いで構成された精鋭ギルド。今はスヴァルトルールで弱体化を受け、入れなかった者達と戦線を共にしているが、本土でのレベルに追い付いて来る頃からレベルや装備の性能の面で差が生まれて来るだろう。そうなればクラスタは却って邪魔になる。
この状況での死――経験値喪失は手痛い損失なのだ。少しでも弱くなれば連れて行く訳にもいかないので、それを恐れるクラスタ達にはこの上なく効く言葉になる。
『強くなりたい』という欲望を大なり小なり持っているのがプレイヤー。時間を掛けて鍛えたモノを奪われ、喪う感覚を、好き好んで覚えたいヤツはまず居ない。仮に居るとすれば『誰かのため』と言う者くらいだ。
「じゃあ攻略を諦めるんですか……」
「ふん、たった一つ、連中にくれてやればいい。むしろ、より一層励まないと他に取られてしまうと危機感を覚えられたんだ、いい薬になったんじゃないか?」
「そう、ですが……」
「……はぁ」
諦めるのが嫌なのか、しつこく食い下がって来る団員。内心で溜息を吐く。
「今はスヴァルトの独自ルールで弱体化しているが、先に進めば本土と変わりないレベルまで戻る。そうなれば精鋭の《三刃騎士団》がそう易々と他に後れを取る事は無い。最後は俺達《三刃騎士団》が勝つんだ。今は堪え忍べ」
「……はいっす」
攻略が進んでいくほど解放されていく装備性能を鑑みればそこらのプレイヤーより団員は優れている。それは事実だ。
それで漸く自尊心を取り戻したらしく、返事をした団員は他のメンバーの下へ駆けていった。
「『今後は俺達《三刃騎士団》が勝つ』、か……ジレンマね。抑える言葉が却って彼らの自尊心を肥大化せていって、より抑えにくくなる土壌となるんだから」
皮肉気に、走り去る団員を見て笑うセブン。
俺は黙って溜息を吐いた。
***
「……来ないわね」
ユウキ達がボスの間へと転移させられてから一時間余り。そろそろ実力行使で殲滅した《三刃騎士団》が怒りに任せて突撃してくる頃と警戒しているが、一向に現れる気配が無かった。
「一向に来ませんね……」
「ここまでのギミックは解けてるんだから、そろそろ来てもいい頃よね……あたし達がそれくらいで着いたんだしさ……」
続くようにシリカとリズベットが応じた。
元《攻略組》ではないが、彼女らも短剣使い、棍使いとして見れば並みのALOプレイヤーよりは強く、ボス戦では頼りになる仲間だ。長丁場のダンジョンだと休憩の合間にアイテムを作成、補充し、武器の耐久値回復をしてくれる要員であり、シリカはナンの援護込み、リズベットは貴重な打撃属性且つ盾持ちタンクとして重宝されている。
そんな彼女らは敵が一向に来ないため武器を下げていた。
自分もケットシーの遠視能力を駆使して遠くを睨みこそすれ、弓は下げている。自分の前に並ぶ仲間も殆どが警戒態勢をやめてしまっていた。
「……まさかと思うけど、またキリトが何かやってるんじゃないでしょうね」
ふと、そんな疑念が浮かんだ。思い出す限りキリトは後で控えている『用事』について詳しく言っていなかったのだ。可能性としてはあり得ると思う。
「キリの字が言ってた『用事』が妨害って事か? ……いや、そりゃ無いんじゃねぇかな」
しかしクラインがそれを否定した。そんなまさか、と言わんばかりの呆れ顔を浮かべて来て、とても失礼だと思う。
「今のアイツはあの状態なんだぜ? 幾らアイツでも掠り傷一つ負わないでレイドを相手にするのは不可能だろ」
「……まぁ、ぶっちゃけ現実的ではないわな。ALOには魔法や弓があると言っても相手は大軍だ、MPや矢が切れたら近接戦を強いられる。勿論相手だって魔法を使って来るんだから無傷で乗り切るのはまず不可能。防御魔法なんて必要熟練度がちと高いし、仮に使えても削りダメージで死ぬのがオチだからな」
クラインに続き、斧を床に立てていた前衛タンクのエギルがこちらを向いて言ってくる。
その反論はもっともな意見だが、でも待って欲しい。
キリトの戦場は、なにも戦闘だけではなかった。
「それは《圏外》での事でしょう? 私が考えてるのは《圏内》……情報戦の方よ。キリトの事だから情報一つでギルド内部を惑わせるくらい訳無いと思うのだけど」
「……そいつは……いや、でも難しいだろ。《三刃騎士団》の攻略は実質スメラギが取り仕切ってるせいで上意下達はしっかりしている筈だ。惑わせたところで、結局行動は……――――いや、時間稼ぎなら出来るか……?」
腕を組み、真剣に吟味し始めるクライン。
彼はSAOでキリトの行動を長らく見続けていた一人。組織間抗争の裏で情報操作し、絶妙な均衡が崩れないよう暗躍していた事も知っている以上、簡単に否定出来ない推測のようだ。
なまじ推測だからこそどうとでも考えられてしまう。
それからもあーだこーだと話しながら《三刃騎士団》を待つ。
それからもう一時間待った。
*しかしだれもこなかった。
はい、如何だったでしょうか。
スメラギ視点でキリト(?)との戦闘。というか、最早蹂躙劇。
キリトは一対一を望んでいるようです。集団で行くと一掃されます、リーファのように正面から単騎で凸しましょう(剣狂いにならないと互角になれない難易度ルナティック)
ユージーン将軍はキリト(?)のヤバさを描写する犠牲になった……尚、消し飛ばされていない辺り、キッチリ剣で対応されている訳で、ある意味スメラギより真っ当に相手されています。
戦いとは同レベルの間で起こり得るものだからね、仕方ないネ。
意訳:
バルバトスのチープエリミネイトが、今回は『フォールブランド』になりましたね……原典の反転エクスカリバー・モルガンを考えると劇場版も相俟って絶望感がががが(精神崩壊)
結論:まだまだ絶望が足りないナ!(手遅れ)
スメラギの一太刀を防いだ『白雷の壁』は、KH2ラスボスのゼムナスが使うシールドに、『リフレガ』性能が付いたものを思い浮かべて下されば。実際主人公側が使ってるからいいだけで、敵が使ってくるとヤバい性能ですよね『リフレガ』。防御中無敵&強制反撃はエグイ。
KH2版『リフレガ』はMP消費が激しいので連発するとあっという間にMP枯渇しますが、今話のキリトはオプションでMP還元付けてる上に集団殺し『フォールブランド』で回復するので、タチが悪い。
何がタチ悪いかって、『フォールブランド』の発動条件(と類推されている)『魔剣解放』で使うのは、MPではなくHP……つまりMP枯渇から魔剣解放使って、一気にフォールブランドで回復するという事が出来ると言う点。
『魔剣解放』からのフォールブランドが如何に強力か、且つ反則的か、きっとSAOでは分かり辛いと思ったので改めて採用し、描写。HP回復はともかく、これで威力的には弱体化してるんだぜ……?
これはスメラギが悪いんやない。原典ゲームだと敵対峙に物理攻撃しかしてこないスメラギが悪いんや() 尚、魔法を使っても諸共消し飛ばされた可能性。
――そしてやられて空都に戻った先には、デバフ祭り状態のキリトが。
空中遺跡にいるキリト(?)はどういう事かは、今後。ちなみにHP、MPゲージがある事から分かるように、ヴァベルに幻影を掛けた訳ではありません(先手釘刺し)
途中のセリフ回しと最後は、知る人ぞ知るというか、何度か出ているネタですね。
原典と違い本作だと『
必要悪演じてレッド殺しもしてた本作キリトのケツイのキメ方はやっぱ頭おかしいなって(そうさせたのは作者)
――つまり作者は■■■■■だった……?
では、次話にてお会いしましょう。
O・u・O
*しかしだれもこなかった。