インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 ――約二週間ぶりの投稿です()

 就職したら投稿ペース落ちるってのはマジだったんだなぁと思う今日この頃。ちまちまと書いては消してを繰り返してるのでエタってる訳でない事だけは信じて(信用度が足りません)

 今話はオールユウキ視点。久し振りにユウキによるキリト()()があります、ユウキを貶めてるのではなく『これだけ難しいんだよ』と二刀の区別のために描写しております。

 ――まぁ、嫌いな人は嫌いな語りですネ!

 だが入れる(覚悟)

 文字数は約一万五千。

 ではどうぞ。




第十七章 ~努力の化身(キリト)

 

 

 悲願である目的を果たした事に歓喜に打ち震えていた面々は、一頻り喜んだ後、ボク達から離れた。

 

「そういえばさ、ユウキ、あんたさっき何やってたの?」

 

 離れたノリが、左手に持っている銀剣を指差して言う。さっき二本目の剣を出した時にいち早く気が付いたのは彼女だった。普通ならあり得ない速さでソードスキルを連続して放っていたから気になっていたのだろう。

 

「システム外スキルだよ。《剣技連携》って言うんだ」

 

 短くそう答えると、それを知らないシウネー達は首を傾げる。反面、《剣技連携》の存在と理屈、そしてその至難さを理解している馴染みの面々がぎょっと目を剥いた。

 

「え、ユウキ、《剣技連携》が出来るようになったの?!」

「うん。と言っても成功率は五分だし、連携させていくほどにどんどん成功しにくくなってるから、現状キリトみたいに延々と……とはいかないんだ」

 

 実は仲間の前で二刀を披露したのは今回が初。

 流石にランは自分が二本目の剣を持った事、《剣技連携》を練習している事を知っていたが、彼女以外には誰にも教えていなかった。あのキリトにもこれは秘密にしている。

 だからアスナが驚いて問うてくるのも無理からぬ事だった。

 そこで、エギルがそういえば、と話に入って来た。

 

「俺の記憶が確かなら、ずっと前に第一層でやってたキリトとのデュエルでも《体術》から連携させてたよな。キリトの話じゃユウキは元々反応速度が高かったらしいし……つまり下地はあったって訳だ」

「ALOで体得出来たのは、やっぱりSAOで一回成功した経験があったからだけどね」

 

 言外に、自分のポテンシャルはそれほど高くない、と伝える。

 それは紛れもない事実だ。

 キリトが最初に会得したユニークスキル(二刀流)は全プレイヤーで最速の反応速度を持つ者に与えられる代物。レベルもステータスも高く、本人の努力も相俟って非常に手強い彼とのデュエルで、自分は引き分けに持ち込めた事がある。

 しかしそれは《メディキュボイド》というハード差があったから喰らい付けただけに過ぎない。

 装備やユニークスキルの制限といったハンデ――つまり自分と同条件――を背負った状態ではあったが、それでもどうしても制限できないのが、個々の人が持つポテンシャル。すなわち反応速度。

 ――医療用フルダイブハード《メディキュボイド》のコンセプトの一つには『依存性や苦痛を伴う麻薬を用いず施術を行える事』がある。

 延髄部分で全ての肉体からの受容感覚を遮断し、脳からの運動命令をハードへ送る機能を流用し、疑似的な疼痛遮断機構として用い、治療に役立てるというものだ。その効力を検証する意味も込めて自分達姉妹は第一、第二号の被験者となった。その結果、正に現実では生死の境を彷徨うレベルの(骨髄)(移植)を行われながらも、VR空間にいた自分達は平時と何ら変わらず動けていた。

 《メディキュボイド》は医療用として一般タイプの《ナーヴギア》より遥かに高いスペックを有している為、脳との送受信速度は段違い。レスポンスのラグが少なく、アバターはより滑らかに動くため、システムが判定する反応速度も他のプレイヤーより遥かに速い。事実自分の剣劇に反応出来るのはキリト、リーファ、ランの三人だけで、リーファは経験、ランはこちらへの慣れから出来ているというので、純粋な反応速度で勝っているのは彼しかいない。

 つまり同じ機械を使っている今、彼と較べれば自分の反応速度は段違いに遅い訳だ。

 これではゼロコンマ一秒以下の瞬間に構えを取り《剣技連携》を成功させるなど絶望的だ。事実《メディキュボイド》を使った上での極限の集中下でどうにか成功した《剣技連携》を、バッテリーセルを外したが故の低スペックが際立つ《アミュスフィア》で成功させるのは、SAOの頃より遥かに困難だった。

 

 ――しかし、理屈と理論が分かっているなら、あとは反復練習で感覚をモノにするだけの事。

 

 あるかどうか分からないものを目指すのは難しい。

 でも、あると分かっていて、出来ている人がいるなら、最難関ではない。

 なにより、一度出来たのだ。デュエル時の高揚感は未だ鮮明に記憶に焼き付いている。ならそれを追想し、同じ条件まで持って来れば、可能なのは自明の理。

 

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 構えを全て網羅し、ただただ只管に反復し、感覚を覚え、ラグを知覚出来るようになって漸く入り口に立つ。そこから更に練習、修練、修行を続け――漸く、一つ繋がる。

 口で言うのは易い。

 だが、行うのは(かた)い。

 二刀の《剣技連携》にだけ集中して只管練習し、漸くここまで漕ぎ付けた。

 正直言ってこれ以上の技量を維持したまま他の武器の扱いまで習熟している彼は、色々と常軌を逸していると思う。神童の超神速を見切っていた事と言い、自分でも見えなかった堕天使の高速八連撃を初見で破った事と言い、彼の地力は本当にヤバいと後追いすればするほど余計理解させられる。

 

「いやほんと、これを最初にやってのけたキリトには心服するばかりだよ……」

 

 そう言って、はぁ、と息を吐く。

 するとジュンが、ん? と訝しげな声を上げた。

 

「あれ? その《剣技連携》っていうの、ユウキが考えたやつじゃないの?」

「いや、違うよ。これは……というか、ボク達が把握してるシステム外スキルって、殆どキリトが技術体系化したものなんだ。SAO開発者の茅場さんと同レベルでシステムへの理解あるからね」

 

 へぇ、とシウネー達が感嘆の声を漏らす。

 システムの穴を突くような事をやってのけるには、大本のシステムについて非常に深い理解を持っていなければ、そもそも穴を見つけられない。そして理解していなければ、可能か不可能かも分からない。

 可能と結論付けたから、どれだけ練習して成功しなくても、彼は頑張り続けられたのだ。

 

「それにボクのは不完全だしね。キリトの《剣技連携》と較べれば、まだ半分以下」

「あ、あの、ユウキさん? さっ、流石にそれは、冗談、です……よね……?」

 

 まだ慣れていないのか、タルケンがどもりながら問うてくる。

 真顔で首を横に振ると、彼はえぇっ、と体ごと引いて見せた。

 

「採点甘々で半分ってとこかなぁ。本場()の《剣技連携》は《二刀流》スキル同士を連携させるし、《片手剣》スキルの連携幅もかなり広いと思うよ」

 

 半分。満点の内約は、《二刀流》同士の連携が可能、《片手剣》同士の連携が可能の二つに分かれる。

 SAOだと前者は《二刀流》スキルを持っていなかったからイレギュラー装備状態になるせいでノーカンだが、ALOにはOSSが存在しているので、やろうと思えば自分も二刀剣技を作成させられる。幸い彼が使っていた二刀剣技は全て99%模倣可能だ。

 しかし、自分に二刀剣技の連携は不可能だと悟ってしまっていた。

 だから甘々採点で半分。

 

「《片手剣》スキルは、スキルを放たない側の手がフリーだから、その気になればいくらでも連携の幅を利かせられる。勿論コンマ一秒以下のラグの間しか動かせないから言うほど簡単じゃないけどね」

 

 言葉の通り、本当に簡単では無い。だが――二刀剣技を交えた連携に較べれば、まだ簡単だ。

 片手がフリーという事は、つまりそれだけ動かしやすい事に他ならない。しかし二刀剣技の場合、攻撃に参加し、次撃を放つための構えを強制的に取らされるから、必然的に選択の幅が狭まる事になる。

 一番厄介なのは、技後硬直をソードスキル開始シークエンスで上書きするタイミングが、《片手剣》スキル同士に較べてシビア過ぎる事。

 片手剣と片手剣であれば、非攻撃側の体をちょっと動かし別の剣技の構えにしてやるだけで済む。実はスキル中のフリー側の手はスキル中でも若干動かせる。

 反面、二刀剣技同士だと、どちらも攻撃側としてシステムに判定されているため、本当にスキル終了後のラグの間でなければ腕を動かせない。だがコンマ一秒以下で動かせる範囲など良くて二、三ミリ。反応速度がアバター自体の動作速度になるため、彼ほど早くなければ実質的に二刀剣技同士の連携は不可能なのだ。

 

「――だから、ボクじゃ二刀剣技同士の連携はまず無理。片手剣スキル同士もMobとの一対一がギリギリ、それ以上の数や対人戦なんて問題外。つまり話にもならない」

 

 心の中だけで、多分一生ね、と付け加えておく。

 こればかりは頑張ればどうにかなるという訳では無い。脳の処理を速めれば良い――そんなの、マトモな手段じゃない。『極限の集中』と言っても限界がある。

 

「SAOの頃の反応速度ならともかく、今じゃもうここが打ち止めかなって。ボクじゃキリトみたいな二刀は扱えないよ」

 

 そう言っていると、リズベットが、うわぁ、と言って顔を顰めた。

 

「アンタ、前々から思ってたけどキリトと比較する時はやけに自虐的よね」

「そりゃあね。憧れで、尊敬してるし……こう、彼の技を学んでると分かるんだ。格の差っていうのかな。そういうのがひしひしと圧し掛かってくるんだよ、『ああ、自分じゃ出来ないな』って思っちゃう」

 

 ――とは言え、だ。

 

「それでも、片手剣一本だけなら負けるつもりはないけどね」

 

 ニッ、と笑う。

 二刀や《剣技連携》は彼の後追い。経験値に差があるから劣って当然。だからリズベットが言ったような自虐的なのは、実は対外的にそう見えるだけで、実のところそこまで自虐している訳では無い。

 ただ事実を列挙しているだけ。

 色眼鏡で自分を過小評価し、彼を過大評価しているつもりは無い。それは彼への侮辱であり、自分の剣を信じてくれた人への裏切りに他ならない。正当な評価を下してこそ真っ当と言えるのだ。

 故に、片手剣一本の勝負であれば、ボクは言葉の通り彼に負けるつもりは無い。

 ただそれが、客観的に彼の強みを制限し、こちらへのハンデとなっているから声を大にして言えないだけで。

 彼の強みは、一つの事を極限まで極める事。でもそれは武器や技では無い。生きるため、目的のため――必要であれば全ての手段を講じるその必死さが、彼のあらゆる技能を平均以上にまで高め、その道の一流に届くようになっているだけ。

 彼は自分が定めた『目的』のためならどんな苦労を厭わない。

 

 ――彼は、努力の化身なのだ。

 

 それに剣一本で無数の手段を講じる彼を完封した人物がいる。その事実があるから、自分は未だ剣の研鑽をやめていない。

 かつてほどではないが、それでも確かに――胸の裡の奥底に、熾火の如く熱を持ち、燻り続けている。

 なにか切っ掛けがあれば紅蓮の炎へと猛るだろう熱が未だある。

 

 そしてそれが、避け得ない黒幕との戦いだろうと、ボクは確信を抱いていた――――

 

 *

 

「――え。あれから一回も《三刃騎士団》の人達って戻って来てないの?」

 

 《三刃騎士団》と鉢合わせする前に引き上げ始めたところで、通せんぼ組に残ったアスナからそんな事を聞いた。おかしな事に《三刃騎士団》は一度たりとも戻って来てないのだという。

 

「……何かあったのかな?」

 

 あのセブンのためなら何だってしそうな雰囲気すら見せていた《三刃騎士団》が一度も戻って来ないなんて普通ではない。幾度挑戦しても勝てないから諦めたならまだ分かるが、一度も来なかったなんて異常事態に近い。

 それは皆も思っていたようで、まさかキリトが何かしたのではと予想されている程。とはいえ当の彼はボス討伐メンバーにバフを掛けた代償でデバフ祭りの真っ最中なわけで、いささか考え難い予想なのだが……

 

「ま、それも街に戻ったら分かる事でしょ。ここで考えたって分からないんだし今はこんな所からオサラバする事に集中しましょうよ」

 

 リズベットがそう促して来た。確かに帰れば分かる事だから考えても分からないなら気にしなくてもいいかもしれない。

 そう思い、頷いて、皆と一緒に帰る。帰り道で何度か敵Mobと戦闘をこなすが、特に問題無く切り抜けた。

 そのまま来た道を戻る事暫くして、道中で中ボスが立ちはだかった大広間まで戻って来た。

 その広間にはかつてあまり強くなかった三つ首大蛇型ボスがいた。しかし今、部屋の中には色取り取りの残り火が漂っている。

 その炎の中で仁王立ちしている影が一つ。()()に黒い片手直剣を握った黒尽くめのスプリガン――キリトが、数多のプレイヤーと残り火を前に仁王立ちしていた。

 

「え、うそ。ホントにキリトが通せんぼしてるじゃない?!」

「でも、おかしくないですか? あのキリトくん、デバフが無いですけど……」

 

 驚くリズの隣で、シリカが疑問を呈した。

 ――ボス部屋へ向かう道中に気付いた事がある。

 それは、彼が掛けてくれたバフはパーティー編成をしない限り有効であるなら、逆に彼が背負ったデバフも継続し続けるという事。一部のステータスを大きく上げる代わりに何かを下げる――そういうバフは種類こそ少ないが確かに存在しているし、装備にもHPとMPの増減関係で存在している。魔術として設定出来ると考えてもなんらおかしくない。彼が明言しなかったのはこちらに気を遣って敢えて伝えなかったからだろう。

 そして既存のデバフを生じる強いバフ魔法の場合、バフとデバフの効果時間は基本的に同一。デバフという代償があってバフを成立させている訳だから当然だ。

 それらの法則に対し、こちらに背を向け立っている少年のHPもMPも満タン且つデバフも一切無い無傷の状態。

 これらから導き出される答えは、つまり――

 

「――まさか、キリトの偽物?!」

 

 警戒と共に剣を構える。みんなも、動揺が抜けきらないながらも身構えた。

 幻影魔法の熟練度を上げると他のプレイヤーやモンスターの姿に変身する事も可能だという。少なくとも、モンスターに変身して戦う魔法があるとは聞いていた。

 気になるのは、スヴァルトルールにより一時的に初期化されるスキル値を、そこまでたった三日で鍛え直せるかという点だが――オリジナル・スペルスキルならそれを可能としてしまえるかもしれない。あのシステムは既存魔法をより使いやすくした代物。凡その効果で既存魔法に後れを取るとは思えない。

 

「おい、人を勝手に偽物呼ばわりするんじゃない。失礼だぞ、まったく」

 

 警戒する自分達に、少年が肩越しにこちらを見てそう抗議して来た。

 

「でもフレンドなら表示されるプレイヤーネームが見えないし……」

 

 彼を偽物と考えたのは、デバフの事もだが、頭上にプレイヤーネームが表示されていないからでもあった。むしろそれが一番の理由と言ってもいい。

 この指摘に、彼は一瞬目を瞠り――

 

 

 

「――()()()()()()()

 

 

 

 不敵さを滲ませた苦笑を浮かべ、そう言った。

 それは言外に、自分が偽物であると認めたも同然で。

 その瞬間、自分達の間で目の前に居る少年はキリトの偽物という共通認識が出来た。動揺は収まり、戦意がハッキリと伝わって来る。

 

「おい、あんたら!」

 

 そこで、偽キリトを挟んで《三刃騎士団》が声を投げて来た。それはさっき自分達が壊滅させた先遣隊のリーダーだった。

 

「そいつは偽物だ! 本物は街にいる方だって、【歌姫】が言ってたんだ!」

「そりゃどういう事だ? つーかなんでキリトが本物かどうかをセブンちゃんが見破れてるんだよ?」

「【黒の剣士】と【歌姫】はフレンドだったらしい!」

「はぁ?! 何やってンだアイツ?!」

 

 【歌姫】の半クラスタとなっているクラインが絶叫を上げた。端から聞いている自分も、いつのまにあの【歌姫】とフレンド登録なんてしたのかと内心で唸る。

 というか人には《三刃騎士団》に気を付けるよう言っておきながら何故自分は接触しているのか。

 ――どうせまた何かの厄介事なんだろうけどさ。

 内心で、そう溜息を吐く。哀しいかな、彼の行動や裏の思惑をSAO時代は間近に見ていたせいで、彼の行動原理をとことん知り尽くしているから凡その見当が付いてしまう。自分達に内緒で何かしていると察せてしまう。何が目的か分からないから手をこまねかざるを得ないのだが。

 ともあれ、《三刃騎士団》の情報源に思う事はあれ、真贋を見極める理由に関しては申し分ない。セブンもプレイヤーネームが街に居るキリトに見えたからこちらにいる方を偽物と断じたのだ。

 これで罷り間違っても目の前に居る少年が本物である線は無くなった。

 

「たっく……いつキリの字がセブンちゃんとフレンドになってたのかは気になるところだが、今は偽物をぶっ倒す方が先決だな! アイツに変装する不逞(ふてぇ)ヤロウはクライン様が成敗してやるぜ!」

 

 ウオリャアアアア! と気炎を上げ、偽キリトとの距離を詰める。ある程度近付いたところで、クラインは長刀から炎を吹き上げさせた。何らかの《刀》ソードスキルだ。

 対する偽キリトは、左手に提げる剣を斜めに掲げた。

 瞬間、長方形型の半透明の壁が現れた。炎を纏った刀はそれに遮られ、一度、二度と斬閃を叩き付けるも無意味に終わる。

 

「ン、だと?!」

 

 渾身の攻撃を完全に防がれた事に驚きの声が上がるのも束の間、彼を反撃が襲った。半透明の壁に走る白雷が幾度となく紅い侍に降り注いだのである。

 がりがりと彼のHPが削れていく。

 元々近接特化の種族であるのに加え、クライン自身が『サムライたるもの魔の字が付くものは取る訳にはいかねェ!』と宣言し魔法耐性スキルすら取っていないためか、ダメージは無視できないものだ。白雷の数が多いのも問題。

 

「後ろががら空きだぜ!」

 

 ――そこで、《三刃騎士団》の手勢が動いた。

 一時的な共同戦線を張るつもりなのか、クラインを迎撃して生じた隙を突くように背後から襲い掛かる。後方からは多種多様な属性の攻撃魔法が飛んでいる。フレンドリーファイア覚悟でダメージを与えるつもりらしい。

 周囲に残っているリメインライトの数は軽く数十を超えている。それだけ偽キリトが強いという訳で、自爆紛いの特攻でもなければダメージを与えられないという事か。少なくとも自動回復バフは掛かっていないからノーダメージでやり過ごしたのだ。生半な攻撃ではマトモに相手は出来ない。

 

「ちぃ――ッ!」

 

 背後から迫る数々の攻撃に舌打ちした偽キリトは地を蹴り、壁際へと走り寄った。挟撃を避けているから前後同時に攻められると対処出来ないらしい。

 

 

 

「魔剣、解放――――フォールブランドッ!」

 

 

 

 突然、闇が生まれた。

 吹き荒れる風の中で目を眇めて注視する。闇は波濤となって数多の魔法を、《三刃騎士団》の一団を飲み込み、一瞬で命のゲージを消し飛ばしていた。闇が晴れた後には色取り取りの残り火しか残っていない。

 

「なんだ、そりゃァ……」

 

 ギリギリのところで難を逃れたクラインが呆気に取られた声を上げる。ボク達は、唖然と絶句に襲われ、言葉も発せないでいた。詠唱らしい詠唱も無しにあれほどの規模の攻撃と威力のものを放った事があまりにも突然過ぎて呑み込めないでいる。

 ――その横を駆ける翠と黒。

 シルフ(リーファ)スプリガン(ユイ)が各々の武器を手に距離を詰めていた。白雷の障壁と闇の斬撃を迂回するように義姉は走り、義妹は床を蹴り壁を蹴りと三次元機動で別方向から迫った。

 長刀と二刀が閃く。

 

「く……っ」

 

 眼前からの横一閃と頭上からの斜め二閃(都合三つの斬撃)は、それらが交わる瞬間を狙った一閃に止められ、競り合った。半透明の障壁に阻まれる事無く彼女らの刃は偽物の刃と交わったのだ。

 

「――何が目的ですかっ!」

 

 ユイが怒鳴る。せっかく受け入れられ始めた義弟を騙り敵を増やすような行為をした偽物に怒り心頭らしく、普段清楚な振る舞いを見せる女性は殺気立っていた。

 今の彼女を見て、元は人の心を癒す事を使命としたAIだと言われて信じる人はどれだけいるのか。

 ――きっとAIである事から信じられないに違いない。

 

「何か、答えなさい……っ!」

 

 彼女は答えが返ってこない事に更に怒りのボルテージを上げていく。鎬を削る戦いがより苛烈さを増した。

 ――そこで、偽物の右手が動き、黒尽くめの女性(ユイ)の腹部に掌が向けられる。

 

「――闇よ」

「チィ……ッ!」

 

 短く唱えられる式句。それと同時に無言で鍔迫り合っていた義姉が舌打ちし、隣の義妹にタックルを仕掛けた。

 直後、偽物の頭上に表示された青いゲージが僅かに減ると同時、突き付けられた偽物の掌から蒼黒い炎が放たれた。それは緩く弧を描いて宙を駆け――数秒後、六発の炎弾に分裂して加速した。

 分裂し、加速した炎弾の狙いは、床に倒れたユイ。しかし彼女は《ⅩⅢ》を引き継いだ影響で属性武器も所有しており、細剣を振るって水の障壁を作り出し、ガードした。

 

「せ、ぁああッ!」

 

 それを他所に、リーファは体勢を立て直すや否やすぐに距離を詰め、剣劇の嵐を叩き込む。SAOで幾度も見て来た乱舞。一度は自棄になったキリトすらも完全に下してみせた技の冴え。

 ――リーファと言えばキリトとは別種の最強の存在として記憶に刷り込まれている。

 SAO最終決戦前でもキリトは勿論、誰も彼女から白星を奪えていないからだ。彼女を純粋に下した事があるのは未だ彼女の祖父だけ。彼がSAOでのシステム的な最強だとすれば、彼女はそんな彼の剣の師として技術面での最強に位置している。

 

 その剣を、偽キリトは真っ向から受け切っていた。

 

「……うそ」

 

 茫然と、声が漏れた。

 息も吐かせぬリーファの乱撃と鏡合わせのように黒剣を振るっている。体格の差で間合いこそ違うが、衝突する瞬間に剣が伝える力や衝撃は、ともすれば――

 

「ウオリャアアアアッ!」

 

 一歩も引かず激しく打ち合う偽物の後ろからクラインが怒号と共に斬り掛かった。

 デフォルト技のそれは、リーファの剣劇と交わるタイミングで黒剣に止められ、焼き直しのようにまた競り合いが始まる。そこでまたもがら空きとなった背後にユイが斬り掛かるが、偽物は二人の剣劇を弾いてすぐ反転し、彼女の二刀もいなして見せる。

 入れ替わり、立ち替わり、立ち位置を幾度も転換させながら斬り合う一人と三人。

 リーファ達三人はいずれもトップクラスの強さを誇っているが――キリトの偽物は、的確に剣を振るっていなし、場所を変えて躱しと、粘り強さを見せていた。

 恐ろしい事にそれだけの猛攻を受けていながら掠りもしていない。反応速度や瞬間的な判断力なら人を超えているユイですら掠らないという事は、あの偽物は自分達よりも遥かに反応速度が上で、且つ経験も圧倒的という事に他ならない。

 

 ――いや、もしかしたら《SAO事件》の真の黒幕が……?

 

 ふと、そんな思考が浮かんだ。

 《SAO事件》は須郷伸之が起こした。それは間違いないが、しかし世間に知らされていない事実が存在している。七十五層闘技場に現れた彼と博士しか知り得ない暴走時の過去データと、《ⅩⅢ》という彼曰く『ISの技術が流用され、且つ須郷の研究テーマすら組み込まれていた』代物の存在だ。これらは明らかに彼を人体実験に使った裏組織の存在がなければあり得ない事象である、特に暴走時のデータは。そしてこれらの事象は、逆説的にキリト――織斑一夏を標的に見据えていると考えるのが自然だ。

 では、何故彼を標的に据えたのか。

 SAOに居る間、それが分からなかったのだが――もしかしたら、と傍らに立つ少年を見遣る。

 キリカ。

 須郷伸之の手によりかつて《スレイブ(奴隷)》として生み出された彼の存在は、オリジナルである少年の記憶、精神、果ては行動原理すらも《ナーヴギア》が完全に読み取っていた事実を表している。それはつまり、【カーディナル・システム】のログの中に、一人の人間を完全に複製出来るデータが揃っていた事に他ならない。

 ――かつて彼は、己を『生体兵器』と称した事がある。

 現代兵器、ひいてはISにすら勝ってしまえる兵器として改造された彼の言葉は、客観的には正鵠を射ているのだろう。技術で競えば義姉が勝つだけで、純粋な殺し合いとなれば――彼を止められる人間は、ほぼ居ない。

 彼が世界を滅ぼそうとすれば、止められるのは世界最強か、天災か。

 ともかく、研究所ISコアを埋め込まれ殺しの術を得た彼は、常人には持ち得ない異様な精神性を獲得していた。それは己を最低としたあまりに低い自己評価と、顔も知らない他人すらも優先しようとする過ぎた利他主義、そして優先する者のためなら命すら擲つ自己犠牲精神だ。自分の行動理由を他人に預けていた彼は、義姉が止めなければスレイブのように誰かの言いなりに成り下がっていたかもしれない。

 

 

 

 それを、裏組織は求めていたら。

 

 

 

 ――織斑一夏(キリト)は、強い。

 才能は無いのだろう。だが、どこまでも自分を苛め抜き、飽くなき向上心を胸に抱き、常に強さに飢えている彼には、ある意味で将来性が存在している。現状に満足しない向上心をこそ直葉は彼の成長性の要と見ていた。

 そしてSAOに於いてそれは立証されている。

 例えば、ゲームクリアに至るまで貫かれたソロ。

 例えば、長きに渡った殺意の応酬。

 例えば、終ぞ見えなかった彼の底。

 彼はリーファに打ちのめされた後の彼は目覚ましい覚醒を遂げ、完封された時よりも遥かに技の引き出しを増やし、対応出来る場面を広げ、巡り巡って孤独なラストバトルで勝利を掴み取るにまで継戦能力を高めていた。

 

 

 

 そんな存在が、人の言いなりになったとしたら。

 

 

 

 彼にとって、『姉』とは絶対的な存在だ。事実スレイブ(キリカ)はその価値観があったから『姉』と認識させられていたアルベリヒに従っていた。

 自分は記憶と感情を操作されたが、しかし認識は変えられなかった。

 それはキリカが翻意したため『認識改竄は無意味になる』と判断しわざと改竄しなかったのかとも思ったが、もし、『人間相手は無理』だったとすれば、それは逆説的に『AIの認識改竄は幾らでも可能』という事になる訳で――

 

 

 

 ――強い技量を持った()()のコピーを作れるようになったとすれば。

 

 

 

 いちいち指示を出したり、細かな制限を掛けなければ却って危険な自律兵器にそれらを入れる事で、自律的な意思を宿した機械人間の兵士を作れてしまう事になる。

 

 

 

 用意しなければならないのは、ハード面の体だけ。

 幾らでも量産可能な技量ある兵士なんて悪夢でしかない。なまじあらゆる武器を使える彼のAIを入れれば、全距離に対応する一人一人が強力な兵団が出来上がるだろう。

 生物兵器なんて人体改造で作ろうと画策する裏組織だ。それくらい、平気で考え、実行に移してしまうに違いない。

 

 ――しかし、そこで満足するとは思えない。

 

 より効率よく、適切に、優秀な()()を欲しがるのは目に見えている。そのためならあらゆる方法を取るに違いない。

 ぎり、と歯を食いしばる。剣を握る手は真っ白に。拳を握る手はぶるぶると震え、現実なら爪が皮を突き破り、血を垂らしていただろう。

 仮に彼の複製データをサルベージし、裏組織が量産していたとして、なら何故ALOに偽物として入れたのか――その目的を考えて、腸が煮えくり返りそうだった。

 彼が強くなった過程の根幹には環境の過酷さがある。あらゆる人間を敵視している復讐鬼よりも、守るべきものを優先し立ち回る方が、より厳しさを増す。彼の場合、自分達を護る為に敢えて独りを選び、距離を置いていた。その頃が一番彼の実力の下地を築いたに違いない。

 故にこの偽物は、受け容れられている最近の流れを壊し、敵視する人間を増やす為のデコイなのではと予想した。再び周囲を敵だらけにし、彼を独りへと追い込む事で、築かれた実力の成長を促し、より屈強な兵士のデータを得ようと画策したのではと。

 

 ただの行き過ぎた妄想であって欲しい。

 

 だが、明らかに彼を標的にしたとしか思えないSAOでの裏事情を鑑みて、とても空想の話には思えなかった。

 

「おわあああッ?!」

 

 刀を弾かれ、隙を晒した瞬間蹴りを入れられたクラインがごろごろと転がった。

 それを視界の端に収めるも、焦点は変わらず剣劇の応酬に向けている。文字通り剣の結界と化した戦いはほぼ拮抗――しているように見えて、偽キリトがやや優勢か。

 普通なら数に劣るあちらが劣勢になるが、リーファとユイの動きにややラグがあり、その隙を突かれてダメージが嵩んでいる。アスナをはじめ術師が回復魔法を掛けているから持久戦には持ち込めるが正直ジリ貧に近い。時が経つにつれ、二人の攻撃パターンを偽キリトが掴み始めているからだ。クラインが弾かれたのは攻撃が大振りで見切りやすい事が原因だろう。

 次に弾かれるのは、恐らくユイか。

 その予想違わず、ユイは二刀を弾き飛ばされ、蹴り飛ばされた。

 

「く……っ!」

 

 悔しげに顔を歪め、声を漏らすユイ。ごろごろと転がる躰を止めて片膝を立てて義姉の戦いを静観し始めた。もう自分では付いて行けないと判断したらしい。

 それから一対一の応酬が始まり――しかし、唐突に終わった。

 リーファが大きく攻撃を弾き、後退したためだ。軽やかに地を蹴って下がった彼女は仕切り直しを選んでいた。

 ちゃき、と正眼に構えられた長刀が音を立てる。

 訪れる静寂。

 

「――気持ち悪い」

 

 静寂を破り、リーファがそう言った。不快げに歪められた表情は発せられた言葉以上に内心を如実に表している。

 

「あの子の剣筋の筈なのに妙な動きと技術が混ざってるせいで似ても似つかない。殺しの技に近いけど、その割には殺気を感じない。何度も隙があったのに致命傷を与える様子も無い。てっきりあの子を貶める組織の手先かと思っていたけど、なにもかも中途半端……何を考えて、何を目的としているの?」

 

 彼女はそう問いを投げた。

 隙があったようには見えないが……本当にあったのだとすれば、確かに妙な話だ。彼の評判を貶めるのに最高なのは家族や仲間である自分達を徹底的に害する事に他ならない。しかしこの偽キリトは、何故か大きく隙を晒した面々に致命傷を与えていない。

 思えば、さっきの『フォールブランド』もクラインは巻き込まないようギリギリのところを狙い、《三刃騎士団》だけ壊滅させていた。

 何か意図があっての事なのか。

 

「――っ」

 

 偽物は、やはり問いに答える事無く、踵を返した途端全力で走り去っていった。

 

「あ、逃げたわよ?! どうする?!」

「追い掛けたところで無駄でしょう。追い付いたところで、誰も捕まえられません」

 

 リズベットの問いに、長刀を下ろしたリーファが答えた。彼女が挑んで、掠り傷を与えるどころか与えられていたから、彼女の言う通りこの面子で捕まえるのはかなり難しいだろう。

 

「……いいの? 野放しになるけど」

 

 そこでシノンが苦言を呈した。彼女としても、大切な人を騙る輩は許しておけないようだ。

 しかしリーファは首肯した。

 

「偽物が居る事とその力量が分かっただけでも重畳です。詳しい事は運営側の茅場さんに訊けばいいですし……今は、空都に居るという本物のキリトに話をする方が先決でしょう。あたし達の知らない事を知っているかもしれません」

 

 そう言って、彼女は長刀を下げた。

 

 *

 

 偽キリトによって壊滅へと追いやられた《三刃騎士団》の団員達は、蘇生魔法が現状使えず、蘇生薬もお高いので、復活させる事は断念した。元々ボス攻略で競い合っていた事もあって可能な状況でも蘇生させたかどうかは定かでは無い。

 幾度かMobと遭遇したが、警戒態勢にあった――それこそアルベリヒが暴れていた頃に近い――お蔭か不意打ちを喰らう事も無く、自分を含み殺気立っている面子(女性陣)が中心となって速攻で処理し、帰路を確保していた。

 その甲斐あってか、行きは片道一時間程度かかったのに、三十分足らずで空都へと帰れてしまった。終始無言、更に殺気立っている面子が無言の焦燥に駆られていたからだ。

 そうして転移門で空都に戻って来たところでキリトを探す事になっていたのだが、わざわざ探す必要は無かった。フレンド追跡をするまでもなく転移門から程近いところに居たからだ。

 

「あっ、ユウキちゃん達が帰って来たわ!」

 

 そのすぐ近くに歌姫セブンが居るのを見て額にぴきりとクるものがあったが、顔に出ないよう懸命に押し殺す。

 周囲には《三刃騎士団》をはじめ大勢――ともすれば千人規模――のプレイヤーが居るから下手な言動は取れない。人が居るとは思っていたが、流石にそこまで人が居るのは予想外だったので、居心地も悪い。

 

「おかえり、みんな。そしてヴォークリンデのボス初回討伐達成おめでとう」

 

 そう言って、微妙に動きにくい自分達にキリトが話し掛けて来た。出迎えと祝いの言葉は当たり障りのない切り出し方だった。

 

「ありがとうございます。ユウキやアスナさん達、そしてキリトさんの助けがあったから達成出来ました……これでもう憂いは無いです」

「そうか」

 

 大勢の人の前であけぴろげに事情を話す訳にもいかず、かと言って逃げられるような状況でもないため、シウネーも当たり障りのない言葉で応じる。それでも滲み出る事情というのは致し方ないだろう。

 やや陰りのある喜びの笑みを浮かべるシウネーやジュン達を見て、同じく討伐を狙っていたプレイヤー達が訝しむ表情を浮かべるも、問いを投げる人は居なかった――今は、それよりも気になっている事があるからだろう。

 

「ねぇ、キリト。正直に言って欲しいんだけどね……君は、中央遺跡にいた偽物の事、なにか知ってる?」

 

 そこで、誰もが気にしている核心へと触れた。陽気なBGMが流れているのに転移門周辺に漂う空気はぴりりと張り詰めている。

 数多の視線を集める硬い空気の中で、彼は表情を変えず頭を振った。知らない、という事らしい。

 

「本当に、なにも知らないのね?」

 

 そこで、リーファが一歩前に出て、義弟と対峙した。眇められた双眸からは、決して嘘は許さないという彼女の気迫を感じ取れる。

 それを真っ向から受けている彼は、首を縦に振った。知らない、と。

 その反応を見て、そう、と彼女は短く息を吐いた。

 

「うーん……仲間に訊かれても同じ答えだし、キリト君、ホントに無関係なのね」

「最初からそう言っていただろう」

 

 訝しむように言うセブンに、無表情の彼はじろりと目を向けた。

 聞けば事が起きた二時間近く前からずっとこの辺で半拘束されていたらしい。用事があるから攻略に加わらなかった彼からすれば、とんだ災難だったという訳だ。

 やや不機嫌気味な目を向けられ、プーカの少女はわたわたと両手を振った。

 

「や、別に信じてなかった訳じゃないのよ? ああ、いや、何か言ってない事はあるかもって疑ってはいたけどね、心当たりくらいはあるんじゃないかって。でもそれも無いのね」

「まったくもって寝耳に水だったからな。大方幻影魔法か、変身するアイテムを使った愉快犯じゃないか」

「いや、愉快犯はちと考え辛いぜ。お前ェの偽物、とんでもなく強かったぞ」

 

 そこで、まるで空気を入れ替えるようにクラインが殊更大きな声でそう言った。腹の探り合いに近いやり取りで張り詰めた空気がやや弛緩する。

 

「ねぇねぇ、そんなにキリト君の偽物は強かったの?」

 

 そう声を上げたのは事の成り行きを黙って見ていたセブンだった。するとクラインが、お、おうっ、とやや挙動不審になる。

 そういえばクラインってセブンクラスタだったっけ、とあまり思い返したくない仲間の恥部が脳裏に浮かんだ。

 

「俺とリーファと、こっちのユイの三人がかりで、掠り傷も負わせられなかったかんなぁ」

「え……えぇっ、そんなに?! あなた達、SAO生還者(サバイバー)でしょ? それでも敵わないの?」

 

 おう、とクラインが答えると、途端広場がざわざわとざわめいた。

 SAOボス戦の放映に際し、各プレイヤーの名前とスタイル、立ち位置などはキリトが簡易プロフィールを作成し、SAO事件対策チームへと提供していたので――もちろん内容は各々が確認したものだ――ボスレイド常連は比較的知られている。女性プレイヤー、しかも二つ名持ちともなれば知名度はかなり補正が掛かる。

 リーファはALOで優勝経験があり、途中で巻き込まれたプレイヤーという点、そしてキリトの義姉という立場で知らない人はいないほど有名だ。ユイもAIという成り立ち、またリーファの義妹(キリトの義姉)という立場で名は知られている。

 その二人に較べるとクラインの知名度はやや下がるが、それでも《風林火山》という少数精鋭の攻略ギルドを率いるリーダーだ。聞いた事はある程度に知られている。

 その三人が一斉に掛かって掠り傷を負わせられなかった事実は、ある意味伝説扱いされているデスゲーム最前線を生き抜いたプレイヤーである事も相俟って、やはり愕然とするものなのだろう。

 その気持ちは痛いくらい理解出来た。

 

「そんなに強い人が邪魔して来たら攻略が碌に進まないじゃない……」

「……セブン、今この場に居ない輩の事で気を揉んでも仕方ないだろう。要は勝てばいいだけの事。多少だが戦い方は分かったのだ、二度目はない。次はこの俺が勝つ」

「スメラギ君……そうね、勝負の結果がいつも決まってる訳じゃないし、スメラギ君もすごく強いから、次は勝てるわよね」

「ああ。同じ轍は踏まん」

 

 強気で言い切るスメラギに感化されてか、セブンも巨大な障害になりうる偽キリトでの悩みは一旦放り投げたらしい。実際どう出るか不明なところのある存在の事で何時までも頭を悩ませるのは建設的では無い。

 ふぅ、と一つ息を吐いたセブンは、徐にこちらを見て来た。

 

「キリト君の偽物なんて思いがけない出来事が重なってボス討伐を取られちゃったけど、《三刃騎士団》だって負けっぱなしじゃないからね。次のエリア――【砂丘峡谷ヴェルグンデ】の初回ボス攻略を取るのは、私達なんだから」

「別に一番を取ろうとしてた訳じゃないけど……まぁ、もしそうなった時は、負けないからね!」

 

 攻略至上主義という訳ではないし、今回は殆ど一人で進めたキリトに便乗した形だから、またボス攻略を競争する事にはならないと思うが、建前上いちおう挑発に応じておく。

 それにふふん、と鼻を鳴らして笑みを浮かべたセブンは、スメラギと団員、多くのクラスタを率いて立ち去った。

 

 偽キリトの謎は残ったが、一先ずはこうして【浮島草原ヴォークリンデ】の攻略と、シウネー達の悲願は完遂されたのだった。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 前半はユウキによるキリトコネクトとユウキコネクトの差別化説明。

 SAO時代から語られていたように、《ナーヴギア》キリトと《メディキュボイド》ユウキで反応速度が互角なら、素のポテンシャル(反応速度)はキリトに軍配が上がります。

 そして原作小説で書かれているように、脳とのレスポンスにラグが少ない程アバターは自然に、且つ滑らかに動くようになる。脳がVR空間での動きに最適化される=処理速度が上がる。

 本作ユウキが《剣技連携》習得に際して脳の処理速度を上げたのは、要するに『スキル連携の反復練習を極限の集中を幾度も繰り返して行う事で脳を慣らした』という事。簡単に言ってるようで『遊びのALO』で『ガチ』に『姉以外に知られないよう限られた時間』で『技の反復だけ』しているとか中々彼女もトチ狂っております。

 そんな彼女でも届かないのが『二刀剣技の連携』。

 非攻撃側なんて存在しない両手スキルなので、技が終わるまで両腕ともシステムに動かされる。よって予め構えを取ろうなんてほぼ難しい。

 そもそもコンマ一秒以下レベルのラグで構えを取るなんて、物凄く反応速度=アバター動作速度が速くないと理論上不可能。故にSAO時代でも強者のリーファ、アスナ、ランといった面々は出来ず、反応速度に優れるキリト、ユウキが出来て、ALOからはユイも出来るようになった。



 以上の理屈から、反応速度で二刀の差別化を行うと――

キリト:二刀連携・一刀連携・二刀OSS・二刀汎用

キリカ:同上(ただし基本は両手剣使用)

ユイ:一刀連携・二刀OSS・二刀汎用

ユウキ:一刀連携(成功率低~中)・二刀は単体ボス限定

レイン:二刀OSS

ルクス:OSS無しの我流二刀(原典仕様だと左手は防御専用)

シノン:短剣二本の双剣使い


 ――という感じになりますね。

 なのでユウキの二刀は単体ボス限定のものという事に。ここもキリト達とは差別化を図っています。

 ユイがキリトと二刀ペア、キリカがストレアと両手剣ペアになってるのはワザと。

 キリカの強みが死んでるぅ……まぁ、オリジナルには無い《ⅩⅢ》あるし、別にいいよネ!(無慈悲)

 後半の戦闘。

 クラインとユウキが入れ替われば、丁度『ヴァベルがキリトを腹パンして気絶させ攫う時』と同じ戦闘ですね!() 掠り傷すら負っていないところとか!()

 では、次話にてお会いしましょう。


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