インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 最近ISの動画をニコニコやYouTubeで見ているからか、話的に諸ISだからか、モチベーションが高くてですね。気付いたら続きを書いてた。

 サブタイトルの伏字は少ししたら解禁します。未読者へのネタバレ対策です。尚『覚醒』の文字()

 今話の視点は和人、楯無、ほぼ簪という順です。

 文字数は約一万四千。

 ではどうぞ。




幕間之物語 ~覚醒! 【無銘】対【海神の淑女(エーギル・レイディ)】~

 

 

 日本代表候補筆頭の意地、正直舐めてたかもしれない。

 一時的に機体出力がダウンしたものの、すぐさま復活し、先よりも出力向上した状態まで引き出した楯無に、俺はそう思った。

 抱いている感情は、感嘆と歓喜、そして憧憬、だろうか。

 彼女は【霧纏の淑女】を『この子』と言った。ISコアにも意思があるという話を信じていない人間は多いが、彼女は信じている方らしく、正しくパートナーとして接しているようだった。そんな楯無の愛機をコピーすれば頭にクるのも当然である。

 怒り、というよりは自身に向けたもののように感じたそれは、きっと【霧纏の淑女】のコアを動かしたのだろう。再びの出力アップ状態は楯無本人も予期していないようだった。

 

 ――鷹崎元帥、どうやら出来レースは難しいみたいだ。

 

 内心で苦笑する。管制塔でこちらを見ている元帥達はきっと苦々しいか、あるいは驚愕の表情になっているに違いない。俺に勝てるようになってもらわなければ困るからだ。女尊男卑を打ち破るには俺が第四回《モンド・グロッソ》を優勝するか、あるいは篠ノ之博士が男女兼用のISを発明するかのどちらかしかない。

 だから楯無が強くなる事は、本来なら喜ぶべき事だが、その事情を鑑みるに望ましい事態では無い。

 まぁ、日本存続を優先するなら、日本優勝を考慮して楯無にも強くなってもらう事が一番なのだが。

 

「やああああああああッ!!!」

 

 突貫して来た楯無の紅槍を捌く。スケールダウンしたせいか、あるいはあちらの出力が向上したためか、光渦巻く蒼流旋がやや押され気味だ。

 

 ――まったく、これでまだ一次形態(ファーストフォーム)だなんて。

 

 どんな出鱈目だよ、と内心で吐き捨てる。感情一つでコアを動かす程となれば(セカ)(ンド)(フォ)(ーム)になっていてもおかしくない。下手するとこの摸擬戦中になる場合もある。

 それは困る、と焦りを抱くと同時、ずき、と頭痛がした。

 脳のタイムリミットが迫っている。個別連装瞬時加速でフル稼働したせいだ。

 加えて山田麻耶相手に二分半、更識楯無相手に二分半費やしており、残りの限界時間は十分。そして【無銘】が突き出してくるメッセージ(解析結果)によれば、楯無の出力アップ状態はあと十分だという。今だけで拮抗しているのに二次移行(セカンドシフト)なんてされたらこちらの身が持たない。

 形態移行時には特殊エネルギーが発生してほぼ全ての攻撃を無効化する他、最大値までシールドエネルギーを回復するという補填まで備わっている。

 ――元々ISコアには、シールドエネルギーの自動回復機能があったという。

 そうでなければ何時何が起きるか分からない宇宙空間を航行できない。元素を操れる事だって、量子変換機能の応用、宇宙空間での酸素補給機能から発想を得た利用法である。形態移行とは、本来地球と明らかに違う環境に適応できるようISに備わった自己進化機能、と束博士から教わった事がある。プログラミングされている地球環境での形態移行は操縦者が余程影響を与えなければ起き得ない、とも。

 そして今、楯無は己の想い一つでコアを動かした。

 形態移行するにはあまりに条件が整い過ぎている。なるほど、相手の愛機をコピーするとこういう弊害もあるのか、とどこか冷静に考える思考が疎ましい。

 けれど、何故だろうか。

 

「く、ふはッ」

 

 

 

 俺の心はどこか、期待と喜びでいっぱいな気がした。

 

 

 

「笑ってられるのも今の内よッ!」

 

 突き出される槍を弾く。すると紅槍はくるりと回転し、今度は薙ぎ。躱せば連続で前進薙ぎ払いが襲い来る。光槍を立てて防げば、今度は脚部装甲で蹴り掛かって来た。

 ここに来て楯無は体裁をかなぐり捨てて、何が何でも勝ちを奪おうとしている。

 ここまで感情的な姿は初めて見る。

 いつも人を揶揄うような笑み、煙に巻くような物言いという態度だったのに、今はどこか熱血だ。それだけISとの関係を大切にしていたのか。それとも強者たらんとする自負故か。

 ――どちらだとしても構わない。

 今は唯持てる力を振り絞る。俺が持ち得る力と技を見せる事がこの摸擬戦の目的だ、楯無と鎬を削る展開はある意味好都合だろう。

 仮令負けても、今後強くなって勝ち返してやればいいのだ。

 だが――――

 

「俺も、そう易々とやられるつもりは無いッ!」

「そんなの織り込み済みよッ!」

 

 真っ向から槍を振り下ろす。がぎゃぁっ、と紅と白が鬩ぎ合った。

 

 

 

 ――――直後、眩い光に視界を塞がれた。

 

 

 

 ***

 

 ――分かっていた事だけど、ぜんっぜん攻めさせてくれないわねッ!

 

 遠距離用の武器を喪い、アクア・ナノマシンを酷使している今、もう《清き情熱》のような手は使えない。クリースナヤとグングニルに使っている分を回せば自爆特攻くらいは出来るか、という程度。

 クリースナヤの稼働時間も五分を切った。いよいよ勝負を着けに動かなければ負けてしまう。

 しかし予想外だったのは彼が対人相手の槍術も収めていた事。夜の自己鍛錬で使っていた事が報告に挙がっていたから知っているが、まさか鍛錬を初めて十年余りの自分と拮抗するレベルとは。剣の間合いならぬ槍の間合い、踏み入った途端しなりながら襲い来る光槍は脅威そのもの。

 残る武装として、高圧水流を発生させた刃で立弾攻撃を行う蛇腹剣《ラスティー・ネイル》があるが、サブ武装扱いのそれで剣を得物とする彼に挑むのは無謀というもの。既に不利な状況で自ら槍というアドバンテージを棄てるのは愚行の極みだ。

 どうにかして突破口を開かなければ。

 でもその方法が無い。

 どうすれば――――と、思考を激しく回しながらも、特攻。仕切り直しをする余裕を与えず、槍を振り下ろす。白の渦と紅の刃が鬩ぎ合った。

 

 

 

 ――――瞬間、眼前から少年が消えた。

 

 

 

「え……」

 

 茫然とする。本当に、瞬く間もない刹那の瞬間に全て消えていた。

 真っ白な光の空間。辺りを見回しても光景は変わらない。日本IS競技場ではないどこか別の空間に、私は迷い込んでしまっていた。

 

「え、ちょ、レイディも無いじゃない?!」

 

 気付けば、私の装いは纏っていた筈の【霧纏の淑女】を喪い、代わりにIS学園の制服を着こんでいた。一年生の証である黄色のリボンがやや眩しい。

 まさか、と思って学生服のポケットを探る。探し物は普段使っている扇子。それに付けていた一対の菱形の根付が、レイディの待機状態なのだ。

 そしてすぐに扇子は取り出せたが――根付が、無い。

 またも茫然とするが、思考は止まらない。

 ISが無く、代わりに制服。周囲の光景は白い空間ばかり。

 ――この状況に、少し心当たりが浮かぶ。

 かつて二次移行を果たした他国の代表がISについてインタビューを受けた時、答えていた内容が蘇る。確かその時の質問は『ISには本当に意識のようなものはあるのか』という内容だった。それに当時の他国代表は、あると断言したのだ。

 その根拠として、二次移行時にISの意識を名乗る存在と相対し、話をした記憶があるからと。

 ――結局それは立証できない話のため世間的にはあまり信じられないものになった。

 しかし今、それと似たような状況にある。

 

「……まさか、ここは……ISの精神世界……?」

 

 

 

「――その通りです」

 

 

 

 唐突な(いら)え。それは背後から聞こえて来た。

 ゆっくり向き直れば、彼方まで白いだけだった空間に色が付いていた。水色だ。それは大地を埋め尽くすように広がり――ざぁ、と、波打つ海岸のような音を奏でている。しかしその全貌を見渡す事は叶わない。視界を遮るように、朝靄の如き霧が立ち込めているからだ。

 しかしそれでも見えるものがあった。

 波打ち際に立つ存在が一つ。その存在が、私の疑問に答えた者である事は明白だった。

 

「あなたは……レイディ、なのよね?」

「はい」

 

 こちらの問いに、お淑やかに頷き、答える存在。

 その存在は、人ではない。人の形を取っているが、流動する水が人型を形作っているだけで、全身が水そのもの。眼の色はガーネットを思わせる真紅、耳は魚を思わせるエラの如き形をしていて、その他の造形はかつて絵巻で見た羽衣を纏った天女そのもの。

 その手には(トラ)(イデ)(ント)が握られていた。

 ふと、アメリカに版権がある人魚姫のアニメーションのそれを思い出す。確かに海の王と言われると、三叉槍のイメージがあった。

 アクア・ナノマシンにより水を操る事に特化した影響だろうか、と思う。仮にコアの思念体が最初からこの姿だったとすれば途轍もない偶然だ。

 

(わたくし)のこの姿は、アクア・ナノマシンの影響を受けたからですよ、マスター」

「え……あ、そうなの。というか何で分かったのかしら」

「ふふ、私達ISは、搭乗者の脳波も常に把握しています。長い付き合いになったなら、脳波の状態でどの言語を思い浮かべたかも分かってしまうのです」

「あら……ちょっと恥ずかしいわね、それ」

 

 つまり考えている事が諸にバレる訳だ。人の気持ちを観察眼で類推し、それをネタに弱みを握ったり、牽制したりと仕事でしてきた身としては、これはかなり面映ゆい。

 お淑やかな所作と物言いが自分の従者を想い起させるのもその一つかもしれない。

 ――そう考えていると、さて、と水の淑女が空気を切り替えた。

 

「私がマスターをお呼びした理由、私の声を二度聞き届けた事からも察されている筈です」

「ええ、なんとなく……和人君に何が何でも勝ちたいから、でしょう?」

 

 長い付き合いだからこそ、模倣してきた相手には負けたくないという意地が生まれる。私は彼との戦いでそれを一番の頼りにして槍を振るっていた。レイディの機体も装甲も相当ガタついているのに、それを無視するくらいの意地だ。

 それは彼女にも伝わっている。だから応えてくれた。

 つまり、彼女も同じ気持ちなのだ。

 

「……思えば貴女が私の搭乗者になってからまだ一年も経っていない。それなのに私は、貴女の力になりたいと思っている……いえ、訂正します。私は、あの模倣した少年を倒したい。貴女を負けさせたくない――――勝ちたい」

 

 ぎゅ、と三叉槍を握る手に力が籠った。彼女はその貞淑さの内側に熱い情熱を燃やしていた。

 ――真紅の双眸が私を射抜く。

 

「マスター。貴女の事は、十二分に理解しました。貴女もまた、私を適切に扱えています――――今の私では、もう貴女には力不足です」

「そんな事無い、レイディは凄く頑張ってくれてるわ。和人君との摸擬戦も、時間切れになったクリースナヤを無理矢理再発動してくれて、私が直すべきだったミストルティンの欠点を解消してくれた。貴女が力不足なんて事は無いの。あんな土壇場で意地を見せるIS()なんてきっと貴女だけよ」

 

 それは本当の事だ。

 貸与から一年足らずのこの短期間、少しでもレイディの事を理解しようと訓練に勤しみ、アクア・クリスタルが搭載され晴れて第三世代試験機となって以降はその訓練にも今まで以上に熱が入った。力不足を感じた事なんて無い。むしろあのブリュンヒルデにも一矢報いる攻撃手段を持つ【霧纏の淑女(レイディ)】は、私にとって最高の相棒だ。

 けれど、彼女は哀しげに微笑んで、頭を振った。

 

「仮令貴女がそう思っていなくとも、私はそう感じてしまったのです。そうなったらもう止められなかった」

「……じゃあ、するのね、二次移行(セカンドシフト)

「はい」

 

 話の流れと、そもそもここに呼んだと知った時点で察していた事の確認。肯定され、確信する。(レイ)(ディ)は彼との戦いの最中に進化するつもりなのだ。

 ここに私を呼んだのは、その意思を明確に伝えておく為か。

 あるいは、私を認めて、会ってくれたのか。

 

「――それらも確かにあります」

 

 こちらの思考を読んだのか、レイディはそう言って来た。

 

「ですが、マスターに確認があったのです」

「確認……何かしら。私に答えられるものなら、何でも答えるわ」

 

 それは本心からの事。嘘を吐けないからではなく、レイディの事を信頼しての本心だった。

 レイディは、嬉しそうに微笑んだ後、真剣みの帯びた表情になる。

 

「マスターは今、分岐路にあります。二次移行は搭乗者の戦い方、気質に合わせ、我々が自己改修を行う一つの節目。そこで問いたいのです。マスターはこの力を、私を、攻める為と護る為、どちらに使うおつもりですか?」

「攻めるか、護るか……」

「マスターの立場、対暗部用暗部は複雑なものと理解しています。場合によっては人を殺めるために私を駆る事もあるでしょう。あるいは、人を護るために駆る事も。しかし護る際に人を殺める必要があるかもしれない。行動は状況に流されます。その中でもマスターが流れないであろう根幹を明らかにしておきたいのです。他ならぬマスターご自身の言葉で……それを知れば、私はよりマスターの力になれます」

 

 攻める為に殺す。護るために殺す。これは似ているようでいて、大きく違うものだ。

 多分レイディは、私の答えで二次移行時に作り上げる兵装や機体性能を決めるつもりなのだろう。だが動かすのが私で、決め切れないから二択に絞って問うてきた。

 ――ずっと頼ってたんだから、ちょっとくらい我儘言ってもいいのにね。

 この兵装を使いましょう、とか。

 この戦い方はお薦めです、とか。

 それすら無く、いきなりのこの質問。正直ちょっと戸惑った。

 ――けれど、迷いは無かった。

 手に持っていた扇子をぱんっ、と開く。何時もレイディの水分子操作で墨汁を動かし字を書いていたから、今は扇部分に何も書いておらず、開ける意味は無い。ただの気分でしか無い。啖呵を切るには丁度良い演出なだけの事。

 ――もし字を書いていたとすれば。

 扇には『愚問』の二文字を書いていただろう。

 

「――レイディ。私は、どちらも選べない」

「……」

 

 こちらの言葉に、彼女は応じない。無言のまま私を見据えている。無言の圧が圧し掛かる。

 ――それが、怒りでないと私は知っていた。

 私が本心から語っているなら、彼女は決して怒りを露わにしない確信があった。顔を合わせたのはこれが初。けれど付き合いは何か月にも渡り、肌身離さずの付き合いだった。それくらいは分かっていた。

 だから臆せず、私は続ける。

 

「私はどちらも取るわ。攻める剣、護る盾、その両方があってこその『更識』であり、代表候補生筆頭だもの。どちらかが欠けてたら護れるものも護れなくなっちゃう」

 

 負けたくなくて、勝つための力を欲した。それは彼への純粋な競争心。

 喪いたくなくて、護るための力を欲した。それは彼女への愛情によるもの。

 そのどちらかを切り捨てるなんて、私には出来なかった。下らないプライドはある。公私混同に等しい私情がある。それはしてはいけない自覚もある――――それでも、どちらも捨て切れない。

 それだけ賢かったら、妹にあんな言葉は掛けていない。

 

「だから、私は両方を望むわ」

 

 きっぱりと答えを言う。提示された選択肢にない、自分で作った第三の選択肢。とても莫迦らしくて、常識のない答え。

 ――それを、レイディは笑った。

 くすくすと、口元を抑えて朗らかに。馬鹿にしたのではなく、微笑ましげなその笑みに、私も自ずと笑みが浮かぶ。

 

「マスターなら、きっとそう言うだろうと思いました」

「私もそう察せられてると思ってたわ」

 

 何故なら、レイディは()()と言ったからだ。本当に私に判断を委ねるのであれば『質問』と言う筈。だから私は問われる前から既に察せられていると悟っていた。

 そして、どうやら私は、彼女の予想に当て嵌まったらしい。

 嬉しそうに微笑むレイディは、本当に最高の相棒だ。

 一頻り笑い合ってから、また互いを見合う。どちらも明るい笑顔だ。

 

「では、二次形態(セカンドフォーム)はそのように。すぐに取り掛かります……が、一つだけ問題が」

「ん? 何かしら?」

「彼の者……私の贋作を纏う贋作者(フェイカー)に関してですが、恐らく二次移行の予兆を見た途端、攻撃は苛烈さを増します。しかし移行時はスラスターを含め全て稼働を止めざるを得ないので、隙だらけです」

「あー……そうね、それは確かに」

 

 初期状態の彼女に搭乗し、三十分くらい経ってから(フォ)(ーマ)(ット)最適化(フィッティング)が完了し、一次形態へと移行した時の事が思い返される。あの時は一時的にこちらの操作を受け付けない状態になっていた。

 時間にしておよそ五秒。

 眩い光に包まれるため非常に分かりやすい形態移行を見て、そう簡単にさせてくれる筈が無い。

 

「ですがそこは私が対処します。マスターは、ただ贋作者(フェイカー)との戦闘に集中して下さい」

「……何も心配しなくていいって事よね?」

「はい、お任せください」

 

 きっぱりと、真剣な顔でそう言って来るレイディ。

 彼女がやる、出来ると言うなら、そうなのだろう。なら私は信頼するだけだ。

 

「じゃあ、お任せするわ――――勝つわよ、彼に」

「はい!」

 

 しっかりと、握手を交わす。流れる水の感触はひんやりとしていて、けれど不快さは無く、心が現れるようだ。

 その快感を覚えながら、握手と笑みを交わし合う。

 光に包まれ、感覚が薄くなる中でも、最後まで続けていた。

 

 ***

 

「桐ヶ谷君……」

 

 かたかたと、手足が震える。絞り出した声も寒さにやられたかのように震えている。

 Bピットの管制塔内部に映し出されているモニターには、高出力モードによって赤――否、紅くなった【霧纏の淑女】と、少年が駆る一回り小さな青いままの【霧纏の淑女】とが激しく互いの槍をぶつけあっている。青と紅、白と紅の鬩ぎ合い。

 発揮しているパワーだけでも途轍もない余波を生み出しているらしく、アリーナの地面は穴だらけ。姉がやった最大威力の攻撃の鬩ぎ合いで出来たクレーターよりはマシだが、全体的には既にボロボロだ。

 観客席やこの管制塔の前には隕石の墜落でも破れないとされる硬度のバリアが展開されているため、仮令流れ弾が来ても死にはしない。

 しかしアリーナ内部故か、揺れは如実に感じ取っている。アリーナの外まで振動が出たら迷惑極まりないので耐震補強はかなりされているから外に漏れる心配はないとしても、もしかしてと思ってしまうほどに激しい。

 それだけ強く打ち合っているなんて、あの二人の力はどうなっているのだろうか。パワーアシストがあると言っても限度がある。

 というか、そもそも敵機のISをコピー出来るとか異常にも程がある。

 

「ふむ……更識中尉がしている高出力モードやらをする素振りが彼には無いな。コピーとやらも完全では無い、という事だろうか」

 

 そこで、管制塔の椅子に座ってモニターを見ている鷹崎元帥の声が聞こえた。元帥はピット内部に居る間の会話からも少しでも情報を得ようとして此処にいる。無論、彼には内緒だ。会ってすぐに信用されると思っていないからこその盗み聞き。

 しかしそれを予期していたのか、彼は己の機体について多くは語らず発進した。

 その様を見て、『聡明な子だ』と元帥は快活に笑った。悟られていたと気付いてその寛容さには驚くばかりだ。

 

「あの高出力モードは【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】のアクア・ナノマシンが関係してるからねー」

 

 ――元帥のその疑問に、モニター前の機材で忙しなく打鍵していた女性、篠ノ之束博士が軽く応じた。

 

「アクア・ナノマシンを高出力モードに切り替えた事で、ナノマシンで作られた水分子は急激に活性化して、熱を持った。赤熱してるのはそれがタネさ」

「ふむ、熱、か。そうなるとあのスカート部分や槍の水は蒸発して無くなるのでは?」

「そうならないようISの方が原子操作して、熱を発してるけど水蒸気に昇華しないよう固定してるんだ。そもそも『熱』というのは特定空間内で原子がどれくらい激しく動いているかを表した概念であって、水蒸気になっても水分子は水素原子と酸素原子として分離しただけ、ならそれを無理矢理固定化させたまま震わせれば、水の状態を保ったまま超高熱を得るなんて事も可能になるの。アレはそれで発生した『熱』をエネルギー源として機体性能を向上させているんだよ」

「なるほど……分からん。君の発明は相も変わらず真っ向から科学に喧嘩を売っているな」

「ふふー、何せ束さんは大天災だからね! 常識の一つや二つに喧嘩を売らなくちゃ天災じゃないよ!」

 

 打鍵しながら、にんまりとした笑みを僅かに振り返って元帥へ向ける博士。元帥はそんな女性に苦笑交じりの溜息を吐いた。

 

「まぁ、いい。どのみち私にはISの機体性能は専門外だからな。それで、つまり彼が出来ないのはどういう事なんだ?」

「もうー、ちょっとは自分で考えないと。束さんだって忙しいんだから」

 

 むぅ、と頬を膨らませた女性は、それでも字の羅列が流れるモニターを見ながら説明のために言葉を続けた。

 

「あの高出力モードの要は二つ、『原子操作』と『アクア・ナノマシン』にある。で、和君には前者はあるけど後者は無い。より厳密に言えば、アクア・ナノマシンを細かく、且つ大量に構築してる暇が無い。何せ初手から今まで相手は全力攻撃を続けてるからね。さしもの和君と【無銘】もそんな余裕は無いって訳さ。あの女もそれが分かってるから攻撃の手を緩めないでいるんじゃない? 初手から全力出したのは意図しない最善の手だった訳だ」

「なるほど……つまり、時間を掛ければ再現出来ると?」

「そこは間違いないね。再構築は彼の頭脳じゃなくて、ISの演算処理部分が担ってるところだから」

 

 つまり即座に完全コピーさせる事は出来ないが、時間を掛ければ可能という事らしい。その理屈だと操縦者の事を理解し、戦法に適した兵装を作り出す単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)も、兵装の再現で使えるようになってしまうのだろう。

 生体兵器として人体改造を受けたのは伊達では無いらしい。敵に回ったらこれ以上なく恐ろしい。

 

「……これは、彼の専用機を製作するべきか……」

 

 ISは表向きスポーツとして扱われており、鷹崎元帥は《モンド・グロッソ》出場を検討しているため、他国の機体を勝手に解析、且つ模倣建造するのは明らかな外交問題に発展しかねない。そうなると日本は大変不利だ。

 だから彼専用の機体を提供しようと考えているのだろうな、と私は後ろに手を組んだ屹立姿勢で思考した。

 モニターを見る。

 丁度アリーナ中央の空で、二人の槍が交錯したところだった。

 

 ――――瞬間、眩い光が発生する。

 

「なんだ、この光は?!」

「この反応……まさか、二次移行(セカンドシフト)?!」

「となれば更識中尉の方か! しかし彼女が専用機を貸与されたのは去年の六月下旬、まだ一年経っていないのに出来るものなのかね?!」

「凄く難しいけど可能ではあるよ! 元々(フォ)(ーム)(・シ)(フト)は他の惑星の環境に適応出来る為のもの、環境をプログラミングされてる地球上ではそもそも起きにくいけど、出来はする……でも、一年未満なんて束さんも予想外さ!」

 

 元帥をはじめ驚愕する自衛隊や企業の面々に対し、篠ノ之博士はどこか嬉しそうに――ともすれば発狂気味に――語り出す。その内容から姉がどれだけ異常な事をしたのかが朧気に理解出来た。

 ぎり、と奥歯を噛み締める。

 また突き放された。まだ専用機を貸与されていない自分から、また一つ上のステージに上った。

 やっぱり彼女は天才だ。他人(付属品)には出来ない事を易々とやってのけてしまう。どれだけ努力しても、それを嘲笑うようにとんとん拍子に上へ上へと進んでいく。

 ――一体、私とあの人の、何が違うっていうの……!

 激情に駆られる。咄嗟に暴れたくなる衝動を、ぎりぎりと組んだ手に力を込めて発散する。痕が付くだろうがどうせすぐに消えるだろうと気にせず続けた。

 

 ――光が晴れたモニターでは、和人と姉が距離を取って対峙していた。

 

 まるで試合開始時のような位置での浮遊。

 けれど違う事が一つ――――姉の機体に、変化が訪れていた。

 従来のISに較べれまだ先鋭的な装甲は、四肢を覆う籠手と脛当てのようにスッキリした形状になり、護りを固めるようにその周囲を浮遊シールドが浮いていた。パワーアシストやPICの補助を受けるとどうしても攻撃が数拍遅れるが、あれならその遅れが生身の時より一拍程度になるだろう。純粋な攻撃速度の上昇、それでいて防御装甲は浮遊シールドがこなすのでほぼ変わらず。

 次に目についたのが、彼女が持つ槍。持ち柄より先は円錐型の形状を持つ()()()だった蒼流旋は、今は全体が水色の三叉槍へと変貌していた。長さは全長4メートルほどか、立てればISに搭乗している彼女の頭から足先まで届く程に長い。

 そして一番の違いは、一次形態時は彼女の斜め後ろに浮いていた一対のアクア・クリスタルだろう。ナノマシンの中枢とも言うべきそれらは、二次形態になった今、彼女の胸部装甲にがっちりと嵌っていて、最早ナノマシンを無効化しようとするのが無謀な状態になっている。アレを壊すならシールドバリアを破壊する一撃を二連続で与えなければならない。

 しかし彼女の実力と機体性能がそれをさせないだろう。アクア・クリスタルがあんな場所にあるなら、当然ナノマシンも彼女の周辺を以前よりも濃密に散布されている筈。近寄れば最後、自動的に《沈む床(セックヴァベック)》か水蒸気爆発の餌食になること請け合いだ。

 こうして傍目に見ただけでも分かる空恐ろしい強化。

 あんなの倒せるのかと、気弱な私が首を擡げた。

 

『今の光は……二次移行、か?』

『ご名答。【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】改め――――【海神の淑女(エーギル・レイディ)】! この場の水全てが支配下よッ!!!』

 

 そう言って、三叉槍が縦に振るわれる。すると三叉の穂先から水が生まれ――――三日月の刃となって、彼を襲った。

 距離があったからか、彼は横にするりと避ける。

 

 途端、水の刃がぐにゃりと軌道を変え、また鋭さを取り戻す。

 

『なん……ッ?!』

 

 目を瞠った彼は、槍を翳した。

 そこに水の刃が迫り、何故か槍の前の空間で衝突し、飛散する。多分空気――窒素など――を固めて壁にしたんだろうな、と遠い眼で察した。

 

『言ったでしょ、この場の水全てが支配下だって。私……いえ、私()の水はあなたを決して逃がさない』

『ちぃ……ッ!』

 

 ――ここで、二度の摸擬戦の中で初めて彼の顔に焦燥が浮かんだ。

 

『――今、この子を解析しようとしたでしょ』

 

 すると楯無はやや酷薄に微笑み掛ける。さっきまで追い詰められていたのが嘘のようだ。

 

『生憎と、私もこの子も、模倣された事は結構頭に来てるの。戦争とかならいいんだけど、試合だと、ね……ううん、嘘。ホントは真似もされたくないくらいイヤ。それがお互いの意見だったからかな、レイディったら、すっかりガードが固くなっちゃって。即興で《アンチ・ハッキング・システム》を組むとか自慢できちゃうわね』

 

 どうやら彼は、性懲りも無くまた模倣しようとしたらしい。けれど一度された事が余程腹に据えかねたらしく、【霧纏の淑女】と姉は対策を立てたようだ。

 ハッキングを防止するシステムを組むとか、どれだけ大変な事か彼女は分かっているのだろうか。

 

『――だからもう、あなたには原子一つたりとも解析させないわ』

 

 そう言って、三叉槍に水を纏わせる。すると肢体や装甲を薄く覆っていた水が徐々に赤くなり始める。高出力モードだ。槍の方も赤い両刃の穂先を形成する。

 更に、四肢を護るために浮いていたシールドが、彼女の背部スラスターと接合し、新たな噴射口が現れる。ディフェンス能力がやや下がったが、パワーとスピードという機体性能が向上した今、彼女のポテンシャルは最高潮と言っていい。

 ――元々槍術は、相手を牽制する為の武器である。

 相手の間合いの外から突き殺す為の武器。長物であるそれは長いからこそ純粋に強く、故に懐に入られ防御に回る事を不得意とする。攻撃、攻撃、更に攻撃を得手とするのが槍なのだ。

 その槍をメインとし、小学生の時点で先代から更識流槍術免許皆伝を認められた彼女に、パワーとスピードが加わって、動きやすい機体が出来上がれば、止められる者はそうは居ない。ましてや距離を取れば水の刃、近付けば間違いなく水分子の固定で身動きを封じて来るのだ。近中遠万能になった今、彼女を破れるのは世界規模でも片手で足りるだろう。

 

『私としても(フォ)(ーム)(・シ)(フト)は予想外だったけど、これが私の正真正銘の全力よ。あなたも、いい加減人の模倣は辞めて、あなた自身の武器と技で戦いなさい』

 

 ――私は、あなた自身の全力と戦いたい。

 

「――――……」

 

 画面越し、横顔からでも感じる、姉の訴えは心からの真摯なものだと。何時も飄々とした余裕を崩さなかった姉が今、本心で喋っている事が私にも分かる。

 眉根に皺が寄る。くしゃりと、顔が歪む。

 ずっと追い掛けていて、それでも拒絶された私と違い、彼は姉の本心を引き出して見せた。

 

 ――どうしたら、それだけ強く在れるの……?

 

 別のモニターにアップで映る少年の顔を見る。

 彼の表情は、ほろ苦い笑みになっていた。

 

『……俺も、焼きが回ったな』

 

 真っ直ぐな楯無の訴えに、焦慮を露わにしていた彼は苦笑でそう言い、纏っていた【霧纏の淑女】を光に散らした。

 代わりに呼び出される武器。武器。武器――――大量の、武器の数々。

 その内の、ギア型の鍔の黒剣と、水晶の如き翡翠の剣を手にした。確かアルベリヒ(須郷伸之)の下へ向かう道のりの間だけ使っていた剣だ。その後は光の聖剣と闇の魔剣を使っていたからやや印象が薄い。

 

『――更識楯無、それと、【海神の淑女(エーギル・レイディ)】、勝手に【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】を模造した非礼を詫びる……ごめんなさい』

『理解してくれたようね。うん、謝ってくれるなら、私は許すわ……この子も、許すって』

『ん……ありがとう』

 

 やや肩を落とし、反省した様子で頭を下げる少年。隙だらけだが、そこを突くほど姉も外道では無く、その謝罪を受け取っていた。

 許された少年は、ちょっと泣き笑いになっていた。

 ――胸が、もやもやした。

 あんなに安心し切った顔、たくさん勉強を見ている私にはしてくれた事が無い。不公平だと思った。

 

『詫びついでに、俺が出し得る全力で応じさせてもらう』

『願ってもないわ。私は、あなたを倒したい。私以上に純粋な技量で【霧纏の淑女】を駆ってみせたあなたを、超えたい。悔しいから。負けたくないから。勝ちたいから。護りたいから――あなたを、倒す。SAOの覇者の全力、ここで見せて頂戴』

『ああ……――――はぁッ!!!』

 

 彼の裂帛の声と同時に、白い奔流が巻き起こる。彼の胸部のコアから放出されるエネルギーは彼の全身を覆い、両手に持つ二剣を覆い、宙に浮く武器の数々を覆った。

 そして、彼の周囲を囲うように展開する、一際目立つ武器。

 彼の両脇を固めるように旋回し、炎を噴き出す二枚の戦輪(チャクラム)

 周囲には風を司るらしい六本の銀槍。

 背後に交叉して連なる白と黒の片刃片手剣、細剣、曲剣、星を象った柄の片手棍(クレイモア)。それらと縦に交わる出刃包丁に近い大刀。

 彼の右側には赤と黒で構成された巨大な十手状の両手棍(アックスブレード)

 彼の左側には金色の刃を持つ死神の如き大鎌。

 彼の正面には、氷を司る大盾。

 ――それらが展開されたと同時、エネルギーの奔流に黒が混じり始めた。

 

『う、お、ォォォ……ッ!!!』

 

 腰を深くし、力む彼の呻きが聞こえる。

 ――唐突に、ドンッ!!! と、一際強い振動が発生した。

 その圧力は凄まじく、宙に居るにも関わらず彼を基点に大地は放射状に罅割れている。その上で、蒼白と赤黒の奔流を纏う剣士の姿があった。

 モニター一杯に映し出される彼の姿。

 

「ひ……?!」

 

 それを見て、反射的に怯えてしまう。彼は仮面を着けていた。無機質な冷たさを受ける真白い仮面。その眼の部分からは金の瞳――と、黒い眼球。口の部分は剥き出しの牙が並んでいる。

 まるで化け物の仮面と漫画やアニメでしか見た事のない白目部分の反転が怖かった。

 あれが、彼の言うところの負の二次形態。

 姉が『この子』と度々言っていたように、真っ当なパートナーとしての関係を築いていたものとは違う、憎悪と怒りだけで形作られたISの二次形態。これまで資料や記録映像で多くの専用機を見て来たが、あれほどまでに禍々しいものは初めてだ。

 ――禍々しいのは、仮面だけだ。

 仮面と奔流の色、それが変わっただけ。仮面と目は禍々しいと言っても全体的にあまり変わりはない。

 なのに――

 

 ――なんで、こんなに怖いの……?!

 

 ――彼は、こっちを見ていないのに!

 

 画面越しにも伝わる脅威。ひやりと背筋を伝う悪寒。脳裏をチラつく死の予感。どれだけ気を強く持とうとしても、その心すら折られている。

 気付いた時には、床にへたり込んでしまっていた。

 

これが、かつて織斑一夏()が抱いた憎悪の形、楯無のものとは真逆に進んだ負の(セカ)(ンド)(フォ)(ーム)。【無銘】を使う俺の全力の形態だ

『負の、二次移行……パッと見変わらないのに、凄く禍々しいわね。警鐘が煩いくらい鳴ってるわ』

 

 解放時の圧力に押され、やや後退した姉が冷や汗混じりに言う。モニターでアップに映し出された彼女の笑みは、引き攣っていた。

 

だろうな。憎しみよりもみんなの事を考えて復讐を手段にしただけ、これを発動出来た事からも分かるように、あの時の感情は今もある。それが警鐘を鳴らさせてるんだろう

『感情だけ、でね……ふ、ふふ、ホント、あなたがその道を選んでくれてよかったって心底思うわ』

……そこは、みんなに感謝だな

 

 ――そこで、ふっ、と威圧が薄れた。

 恐怖が薄れ、思考に余裕が生まれる。ああ、まだ生きてる、と何とはなしに思った。

 

みんなが居たから、負の廃棄孔に勝てた。みんなを護る誓いがあるから、ここに立っていられる

 

 徐々に、徐々に、威圧と恐怖が薄れていく。

 そして、彼は構えを取った。

 ――ふっ、と一気に体が軽くなった。

 

『――さぁ、楯無、覚悟は良いな』

 

 壊れたテープのような、狂ったような声が、正常に戻った。

 仮面も目の色も、そのままだけど――――優しい少年が、戻っていた。

 

『そっちこそ。私達の水の牢獄から、簡単には抜けられないわよ!』

『はっ……――――行くぞッ!!!』

『来なさいッ!!!』

 

 黒と白のオーラを纏った少年と、水神の紅い鎧を纏った姉が、獰猛な笑みを浮かべてぶつかった。

 アリーナの中を、所狭しと縦横無尽に飛び回り、ぶつかり合い、大地のクレーターを増やしていく。

 

 ――その後、およそ十分後に少年のバイタルが危険域に入ったため、摸擬戦は中止。

 

 IS関係者は勿論、それ以外の面々も、とんだ出鱈目な子供達だと笑いながら頭を抱えていたのが印象的で。

 

 ――姉のとても嬉しそうな顔が最高に気に食わなかった。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。


()()】霧纏の淑女、一話暴れただけで()()退()()する。


 楯無は二次移行しました。実は前話のアンケートで『一票も入らなかったら二次移行は後にお預け』の予定でしたが、割と共感を得られたようなので、思い切りました。

 楯無の新しい機体は【海神の淑女】です。海神、と言えばトリトン王を思い浮かべられるかもですが、北欧神話だと《エーギル》という名前なんですね。

 レイディの意識が女性で、しかも参考がテイルズの水の精霊ウンディーネなので、どっちにするか正直迷いました。レイディと言わせたいからウンディーネにするとちょっとなぁと引っ掛かっても居ました。

 そして、前話で《グングニルの槍》と出したのが決め手になりました。

 というのも、原作ISにもある《ミストルティンの槍》は、盲目の光の神バルドルを傷付けないようにと万物にお触れを出した際、ミストルティンの新芽は柔らかくて傷付けられないだろうと見送られていたところを、ロキに唆された神が、ミストルティンの新芽を矢に使い、バルドルを殺したという伝承が原点です(つまり槍はあまり正しくない)

 グングニルも北欧神話の主神オーディンが、智慧の泉ユーミルから片目を代償に智慧を授けられた際、すぐ近くにあったユグドラシルの枝を折り、槍にしたものとも言われ、あるいは《イーヴァルディ》や《ドヴェルグ》という鍛冶屋達が鍛えた中の献上品ともされています。

 つまり【霧纏の淑女】の武装には、微妙に北欧神話繋がりの名前があるんですね。

 で、じゃあここで機体名をウンディーネ(ニフルが原典なのでギリシャ神話系列)とエーギル(北欧神話の海神)のどちらが相応しいかなぁと考えて、エーギルに。

 ……SAOのエギルを思い浮かべちゃったのは内緒。ちなみに彼の《Agil》は『()ンドリュー・()()バート・ミルズ』から取られていますから、まるっきり別物です。

 そんなこんなでやや難産だった楯無の二次移行。

 精神世界からレイディと別れる際、レイディが考えていた事は『鍔迫り合いで競り合ってる最中に光を喰らわせて怯ませた瞬間に二次移行』というもの。

 つまりは太陽拳戦法。

 キリトもいきなりの事だったので距離を取り、まんまと罠に掛かってしまいました。贋作者(フェイカー)と呼んでいたように相当嫌われてしまった様子。勝手に自分の偽物作ってマスターを追い詰めてたらそりゃ嫌われても是非も無いよネ。

 で、二次形態には二次形態、という事でキリトの負の二次形態お披露目。ぶっちゃけるとSAO闘技場《個人戦》のラストボスまんま。元々一夏/和人の絶大な負の想念の塊なので、解放しただけで簪は若干恐慌、楯無も警鐘ガンガン鳴る。

 ――原子分解戦法を使えば水の刃はおろか全ての攻撃を無効化出来るんですが、今回はキリトの実力を見る事が目的なので、敢えてしてません。

 そして最後はキリトのバイタル危険値(低血糖症状)により絞め。楯無二次移行時点で残り五分(前話でキリトの脳限界と楯無のクリースナヤ限界が同じ)だった中、そこから更に会話含めて五分以上伸ばしてるので、許してあげて()

 腕輪?

 ……スポーツって、補給にも制限掛かるよね(諦観)

 簪は、コンプレックス諸々を最大限に刺激されちゃったので、やさぐれました() そら『自分と同じ立場』と思ってた和人が『姉を限界まで追い詰める上に覚醒までさせた』ところを見せられたら、グレもします(かなり不可抗力) これで楯無に勝ってたら和人は簪から冷たくされていた事でしょう。

 際どい所でアウトだけは避けていくのは流石お姉ちゃんと言うべきでしょう。略して『さすあね』(なお無自覚)

 では、次話にてお会いしましょう。


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