インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 アンケートに従って現実回。ただし短い! 約七千文字です。

 視点はオールキリト。

 伏線回です。現段階だとぐっちゃぐちゃな内容ですネ(白目) お気に入り減少も覚悟の上。

 作中時間的には、第二十章~悩める子羊~で明日奈が兄・総一郎と母・京子と夕食で口論している頃ですね。

 ではどうぞ。


 ――本作に於いて『力』は戦闘能力、『強さ』は精神面を意味している。





幕間之物語:黒ノ剣士編 ~力ノ代償~

 

 

「さて、そろそろ下に降りましょうか!」

 

 ぱん、と畳んだ扇子で掌を叩きながら楯無がそう言ったのは、高層ホテルの窓から見える空が茜色から紫色へと沈んでいき、程なくして夜闇が訪れる事がよく分かる時間帯だった。

 つまり下階の食堂で夕食を摂ろうと誘っているのかと理解する。

 備え付けのテーブルにノートPCを置いて作業をしていた俺は手を止め、楯無へと顔を向ける。

 

「もうそんな時間だったのか。気付かなかった」

「和人君ってば凄く集中してたものねぇ。ちなみに、差し支えなかったらで良いんだけど、何を打ってたの?」

「学校の課題」

「あー……ね、見て良い?」

「ダメだ」

 

 興味津々とばかりに目を輝かせる楯無が画面を覗き見する前に、文書を保存し、ぱたんとノートPCを閉じる。次いでUSBポートに差し込んでいたUSBメモリを抜く。

 

「ちぇー、和人君のけちっ」

「けちって、あのなぁ……」

 

 楯無の言葉に苦笑が浮かぶ。

 中学一年生レベルの宿題なんて見ても面白味はないだろうに、何を期待しているのか。

 PCをスリープモードにした後、椅子から立ち上がり、貴重品の類を持った。そこに、ぶぶぶ、と手にしたスマートフォンが振動する。画面を見れば《桐ヶ谷直葉》の文字。

 

「悪い、楯無。直姉から電話が来た」

「そう? じゃあ先に行って席を取っておくから、後から来てね」

「分かった」

 

 ひらひらと手を振って楯無が出て行った後、通話アイコンをフリックし、電話に出る。

 

「もしもし。直姉、どうかした?」

『ああ、和人。朝方死にかけてた訳だし、一応確認しておこうと思って電話したの。博士から連絡は無かったし……体調は大丈夫なの?』

 

 今朝方の摸擬戦で低血糖症状を引き起こし、昏睡状態に陥り掛けた事を心配して電話してきてくれたらしい。その心づかいが嬉しく感じて、仄かに笑みが浮かぶのが分かった。

 

「――ん、もう大丈夫」

 

 お昼頃にもう一回死にかけはしたが、アレは無かった事になる時間に起きた事だ。体調は戻っているが、依然としてああなる状態は続いているから、大丈夫な訳が無い。しかし悟られるような発言は控えるべきと判断し、そう嘘を吐く。

 

『そう……それなら、良かった』

 

 ――すらりと出た嘘を、勘の鋭い彼女もあっさりと信じ込んだ。

 今更ながら、ズキリとした痛みが胸の奥を疼かせた。

 

「――そう言えば、丁度言っておく事があった」

『なに?』

「数日はALOにログイン出来ないと思う」

 

 理由としては、今回このホテルに泊まっている事に起因している。

 日本IS競技場では明日から数日間、国内に居る日本代表候補生以上、あるいは何らかの企業に属している操縦者の為の強化講習が組まれている。自分はそれに参加する事になっていた。

 とは言え、最初から参加する予定だった訳では無い。参加が決定したのは今日の会議でだ。ISを扱える事が前提の講習会なので、それが判明してから決まるのは自明の理だった。とは言え一応そのつもりで話を進めてくれていたようだが。

 なので日中は物理的にログイン出来ない。

 夜間はと言うと、恐らく多方面との折衝や交渉、対談、その他などで時間を取られる。

 また今回の自分の動きは関係者以外には知られないようにしなければならない。この場合の『関係者』とは、『桐ヶ谷和人が各首脳陣と対談する事に関与した者』を指しており、つまりISを扱える事と将来的にIS学園へ入る事を知っている直姉達にも、今回の動向は秘密にしなければならない。知られてはならない事を秘密というのだ、特別という事で教えてしまっては、どこから漏れるか分かったものではない。

 そこで最大限の警戒を敷くのは、アバターに近付いただけでアカウントIDとログイン場所を探知出来てしまうユイ、ストレア、キリカのAI三人組。ALOにログインすれば確実に接近せざるを得ないため、いっその事ログインを諦める方向にしていた。

 

『ああ……そうね、それが良いと思う。実は今回の電話、半分は状態の確認だったけど、もう半分は暫く控えるよう言い含めるつもりだったから、あたしとしても渡りに船よ。ゆっくり養生しなさい』

『そうそう、和人ってばなんか気を張ってるからね』

 

 突然、木綿季の声が割って入って来た。

 

『あ、ちょ、木綿季さん』

『直葉ばっかりズルいよ。ボクだって話したい事たくさんあるんだからね。代わってくれる?』

『……それはいいけど、洗濯物は?』

『もう全部取り込んで畳み終えたよ。まったく、直葉ったら油断も隙も無いんだから。電話だけでも独り占めしようとしたってそうはいかないんだからね』

『そんなつもりは無かったんだけど……まぁ、いいや。じゃあ通話が終わったらテーブルの上に置いといて』

『分かったけど、どこに行くの?』

『シャワー浴びてくる』

『りょうかーい』

 

 そんなやり取りがスマホから聞こえて来た。

 平和な日常を過ごしているようで安堵を抱く。今日は人生大一番の勝負に出ていたから、その緊張感とは裏腹のやり取りを聞けて少し脱力してしまう。

 護りたいものを、再認識する。

 

『――ねぇ、和人』

 

 天井を振り仰いでいると、木綿季が呼んできた。

 

『半年くらい前にボクが君に伝えた想い、憶えてる?』

 

 およそ半年前。当時《ホロウ・エリア》の第二エリア【浮遊遺跡バステアゲート】を攻略していた頃、野営で代わる代わる夜警をしていた時の事だ。時間でも無いのに目覚めたユウキは、最前線に戻ろうとして、自分の欲を殺していた俺を案じ――――無理し過ぎない為の楔として、想いを伝えて来た。

 一人の女として、好きなんだ、と。

 紅の瞳で真っ直ぐ射抜きながら、そう伝えられた。

 一世一代だっただろう異性としての告白。俺はその返事が出来ていない。木綿季だけじゃない。直葉と詩乃からも、ほぼ同じ趣旨の告白を受けている。楔とする事も同じ。

 三人の()()があったから、アルベリヒがユウキを洗脳した時も、第百層で自分以外が全滅した時も、孤独の三ヵ月を送っている間も戦意が折れる事は無かったし、絶望し膝を折る事も無かった。希望を棄てず、必死に足掻こうと思えてきた。

 

「……ああ。忘れられないよ。忘れたくない。大事な想い出なんだから」

 

 ――忘れられる訳が無かった。

 今日のように、現実でも足掻こうと思うその源泉は、みんなの信頼と三人の告白に端を発している。あの記憶は何時も脳裏にある。

 諦めるという選択肢は自動的に排除され、少しでもいい方にと足掻く選択をし続ける。

 現実へ復帰直後、菊岡と楯無に取り合えたのも、その思考が常に優先されていたから。だから告白の記憶が薄れるなんて事はあり得なかった。

 冗談抜きで、生きる気力になっているのだから。

 

『大事な想い出、か……』

「……どうした?」

 

 

 

『――ボクさ、ちょっと怒ってるんだ』

 

 

 

 いつもと変わらない語調のまま言われ、ぴしりと体が凍る。

 

「……なぜ?」

『スヴァルトが実装された初日から引っ掛かってたけど、今朝ぶっ倒れたのを見た時に確信したよ、また何か背負ってるって。点滴してないからって極度の低血糖症状になるなら、君と互角だった直葉もなってないとおかしいでしょ』

「……」

 

 思わず、黙る。それが悪手だと理解しているが、咄嗟にそれらしい反論が浮かび上がらず、沈黙を保たざるを得なかった。

 

『あのさ、半年前にも言ったよね、ボクをあまり舐めないでって。君が無理してるのを見ると哀しくなるって言ったよね』

「……ん」

『今だけしおらしくされても余計腹立つだけなんだけど』

 

 木綿季の思わぬ怒気に怯む。しおらしくしたつもりは無かったが、今はこの態度すら苛立ちが来るくらい、木綿季は不機嫌らしい。相当頭に来ているようだ。

 しかし、分からない。

 詰問されたり、罵倒されるくらいは予想していた。しかしここまで純粋に怒りをぶつけられるとは思っていなかった。

 確かに自分は菊岡の依頼、レインの頼みにかこつけて、色々とALOで動いているが、その真意は誰にも話していない。勝手に動かれると困るからと、ヴァベルにすら話さず、行動を制限している。だからみんなはまだALOでも命を落としかねない可能性に気付けない筈。

 現実の事に限定しても、暗部という家柄に警戒心を抱きこそすれ、当主の楯無の実力が次期ブリュンヒルデと目されている事は報道や雑誌でも自分を発端に取り沙汰されている程で、それを知らないとは思えない。そんな家に預けられているのだ。俺が無理をしているという発想に至れる要素が殆ど無い。

 なのに木綿季は確信を抱いている。

 何故。どうして命を賭ける程の事態に挑んでいると、木綿季は予想出来た……?

 

『――和人の事だから、なんでそう思ったか、なんでボクが怒ってるか分からないんだろうね』

 

 怒気を孕んだ冷たい声。

 ずきりと、胸の奥が激しく痛む。胸の鼓動が速い。苦しさすら覚える。

 

『現実じゃ立場も権力も無いから敢えて言わない事は分かるよ、知ったら巻き込まれる類があるって知ってるから。でも、さ……仮想世界でくらい、教えてくれたっていいじゃないか。あんな……あんな死にかけになる程の事を背負ってるのに、どうして教えてくれないのさ! 無理しないでって言ったのは、SAOだからじゃない! 君が大切だから言ったんだ! どこだろうと無理して欲しくないのは変わらないんだよ!』

 

 まるで濁流。堰き止めていたモノが決壊するが如く、怒涛の勢いで怒鳴り声が耳朶を叩いて行く。

 その勢いが、ふと止まり。

 

『――こわかった』

 

 小さく、震える声で、そう言われた。

 

『やっと、還って来てくれたのに。やっと、遊べるようになったのに。死んじゃうんじゃないかって。すごく、こわかった』

 

 分かるでしょ、と木綿季が静かに、責める口調で訴える。目の前に居たら涙を浮かべながら睨んでくる姿が浮かぶほど、その声は情緒に溢れていた。

 本当に怖かったのだと、嫌でも理解させられる。

 

『目の前で大切な人を喪う感覚だよ……ALOで、まさかそれをまた覚えるとは思わなかった』

「……」

『和人。教えて。君はいったい、何を背負ってるの。ALOに何があるの』

 

 我慢していたものを吐き出したお蔭か、冷静さを取り戻した木綿季が、怜悧さを漂わせる語調で問うてきた。少し収まったとは言え声の端々からは怒りが滲み出たままだ。

 どうする、と悩む。

 ――()()()()()()()()()()()()()()()

 恐怖を抱いてくれなければ逆に困る。ALOに何かがある――そう察せられるよう仕向けつつ、事を運ぶのが、当初の計画だった。それに照らせば順調に事を運べていたと言える。

 想定外だったのが、ここまで怒りを露わにした事。

 

 ――いや、違うか。

 

 首を振り、その思考を否定する。

 想定外だったのは自分が死にかけた事から何かを背負っていると確信した時点で怒りを露わにした事だ。要はタイミングが自分の予想を遥かに上回って速かった。

 速いだけ、とは言うが、しかし事はそう簡単ではない。予定では自分が命を賭けて動いている案件を明かした時、つまり全てが終わった後に明かした時点で怒られる事を覚悟していた。しかし今回は『死にかける程の無理を必要とする厄介事を黙っていた』事に怒っている。こちらを心配しての怒りではあるが、理由が違う。死にかけた事よりも、厄介事を伝えていなかった事に怒っている。

 計画だけを考えれば、どちらにせよ『死の危険性』を思い出してくれた訳だから結果オーライだ。

 

 ――というか、瀕死になる改造をした理由って、ALO以外の方が多いからな……

 

 瀕死になるようになった主な原因としては、自分の演算処理の限界を引き上げるべく脳を改造した結果エネルギー消費が増え、低血糖症状を起こすようになったせいだ。以前は頭痛だけだった症状が低血糖に置き換わっただけ。改造した時期が今日だったのはALOの仕事で必要に思ったからで、不要だったなら別の機会にしていた筈だ。

 ALOでの事はただの切っ掛けに過ぎなかったのだ。

 そこを木綿季は知らないから、『ALOでの厄介事』=『死にかけるレベルの無理難題』と思っている。

 実際はそこまででは無い。より確実を期すべく分身を使うから必要になっただけで、使わなくても良いレベルではある。むしろ現実側の問題を解決する為に、将来を考えて改造を決断した部分が大きい。

 

「……俺がALOで動いてる理由が命を賭ける程のものと考えてるようだけど、厳密には違う。事があるのは現実側だよ。死にかけたのは、それの代償みたいなものだ。ALOの事はキッカケだった」

 

 ――ISの事には、敢えて触れない。

 このホテルは更識の手の内にある。何時どこで盗み聞きしているか分からない以上、こちらから情報を出すような真似はしない方がいい。

 ISの事は出さず、遠回しに肉体面の強化について触れる。仮想世界の事に関係するとなれば脳だけなので、反応速度を引き上げようと無理したのだと、木綿季なら察せる筈という期待込みでの迂遠な言葉。

 

『――キッカケなんて、どうでもいいんだよ』

「な……」

 

 ――それを、ばっさりと切り捨てられる。

 更なる想定外の返しに、思わず呻く。

 

『和人さ、ボクが怒ってる理由がやっぱり分かってないんだね。ボクは君が厄介事を一人で背負って、死にそうになっても頼ってくれない事に怒ってるんだよ。極論死にかけた理由なんて今はどうでもいい。ボクはALOで動いてる理由、背負ってる内容が知りたいって言ったの。知ったらこっちでも勝手に助けられるからね……何も知らないで、指を咥えて見てるだけなんて、生き地獄だよ』

「……」

『そもそもさ、キッカケでああなったなら、結局命を賭ける程の事には変わりないんじゃないか……そういうのさ、詭弁っていうんだよ』

 

 何時になく鋭い舌鋒に気圧される。敵に対して怜悧な一面を見せていた木綿季が、今は俺にそれを向けていた。怖い、と思う。

 心が竦んだ。

 

『今ならさ、君を徹底的に矯正しようって決めたSAOの頃の直葉の気持ちがよく分かるよ』

 

 そこで、木綿季が言って来た。その語調は軽く――乾いた笑みを浮かべてる姿が、脳裏に浮かんだ。

 

 

 

()()()()()()()()()って、きっとこういう気分なんだろうね』

 

 

 

 

 ――――それから、どんな会話をしたかは憶えていない。

 

 ふと気付けば、通話が切れているスマホを握り絞めたまま、部屋のトイレに向かって胃の中身を吐いていた。

 

「ぅ、おぇ……ッ」

 

 ごぽ、と。また黄色がかった酸っぱい粘液が口から出て、ぼちゃりと便器に落ちる。それを何度も繰り返す。

 想いを、裏切られた。

 裏切られた。

 裏切った。

 裏切っていた。

 特に強くもない言葉が、脳裏を走っては戻り、走っては戻りを繰り返す。

 ――覚悟していた、筈だった。

 自分の動向と言動から死の危険性を察知させ、備えさせる事は予定通りだった。その事で叱られる事も分かっていた。『無理しないで欲しい』という想いを裏切る事も、分かっていた。

 ……分かっていた、つもりに過ぎなかった。

 分かっていた事は関連性ばかり。実際にみんなの気持ちを裏切った時、どう思われるかは分かっていても、その深さまで測り切れていなかった。

 

「ぅ、くぅ……!」

 

 吐きそうで、でも出なくて、嚥下する。痛いくらいの空気が喉を通って思わず咽る。

 脳裏に回る『裏切った』のフレーズ。

 共に浮かぶ、ある光景。仲間達のホロウを斬る()()。偽物と分かっていても、本物同様の受け答えをするホロウ達と殺し合い――勝利した時に垣間見る、憎悪の顔。何度も何度も繰り返し見た顔だった。ただそれは、ホロウと言えど、仲間達のものである。

 手が、震える。

 叱られる事も、怒られる事も、分かっていた。想定していた。

 ALOで敵対し、全力で刃を交える事も想定していた。

 

 ――それなのに。

 

「うぅ……っ」

 

 俺は、裏切りが嫌いだ。

 裏切られ、絶望した事があるから嫌いになった。期待を裏切る事が怖い。信頼を仇で返す事が怖い。だから仇で返す事が無いよう、心を許すまで徹底的に身辺を洗って、潔白を理解して、関係を持つようになっていた。

 ユウキ達はその筆頭。俺が一番、裏切りたくない顔ぶればかり。

 義理の家族達と想いを告げてくれた直葉、木綿季、詩乃はその強さが人一倍。

 ――それなのに、一番最初に裏切った。

 体が震える。このまま事が進んだら、全員と刃を交える――可能性がある。交える必要が無くなるかもしれない。けれど、あるかもしれない。どちらか分からない。

 吐き気がする。めまいがする。吐く。

 もう、透明な粘液しか出ていない。

 

「――それでも、やらなきゃ……」

 

 目指すのは、みんなが生きる未来ただ一つ。幸せなのもそうだが、まず生きていなければ話にならない。

 杞憂、かもしれない。

 しかし杞憂でなかったならと考えたら、後悔しないよう全力で動かざるを得なかった。そうしなければと、自分自身が叫ぶのだ。

 

 

 

 もう、喪いたくないと。

 

 

 

 ――最初期以降の死者が全員生還したのは、奇跡でしかない。

 あんな奇跡が二度も起こる筈がない。今度喪えば、最後なのだ。喪って苦しむのに較べれば、吐く状況に陥った方が遥かにマシだ。

 

「裏切るのも、拒絶されるのも……死んでたら、起こり得ないんだ」

 

 それが、今の自分の源泉。行動の発端。

 ――今日は良い日だ。

 自分の弱さを克服するキッカケを幾つも掴めたのだから。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 今話は『和人が無理をして強さを得た代償に木綿季(達)からの信用を失った』というお話。

 あんだけ無理をしないよう楔を打ったのに目の前で死にかけられたら、ね……

 木綿季側からすれば『脳の改造』を知らないので、素の状態でああなったものだと考えます。攻略の事、《三刃騎士団》の事など不可解な事が多いので、死にかけたのは無理が祟ったせい=キリトが無理してる=それをしてないリーファは無事――と言う感じです。

 若干木綿季が理不尽気味(時間あったのに今まで聞かなかったのか)ですが、和人、これが初回じゃないので。SAO時代に釘を打っておいてこれなので、木綿季は割と悪くない(擁護)

 ちなみに直葉が触れていないのは、純粋に木綿季より心の余裕(キャパ)が大きいから。『暫く休みなさい=命賭けるのいい加減にしろ』という言外の怒り宣言を和人は理解していないので、和人視点の今話では怒っていない風に。

 和人に関しては、心的外傷後ストレスの軽めの描写。

 家族と思っていた秋十に『自分の為に死ね』と見捨て(裏切)られた事が、トラウマであり、憎悪の根幹であるため、本能的に和人は人を裏切らないよう注意してました。

 実際は仲間達の心配や想いをSAO時代でも結構無視してるんですが、あの頃は『生還の為に』という明らかな理由があったため、誰も言わなかったし、裏切りとも言えなかった。

 しかし現実に還った今、ユウキ達から告白と共に釘を刺されていたにも関わらず、真っ向から『計画に入れて』破っていたので――木綿季は計画について一切知りませんが――裏切りと言われた事も和人は否定出来ず。

 で、本能的に忌避していた裏切り(トラウマ)を、自分でしてしまうという自傷染みた行為に気付き、しかも計画的にしていたので、自分に言い訳も出来ず、メンタルに痛恨の一撃。

 加えてSAO編最後のお話で『一人取り残された三ヵ月間でホロウを斃している』描写はそれとなくしていたので、今話ではその時の心理面や状況を若干描写。

 原典ゲームのホロウも、本人と遜色ない戦闘能力があるそうですし、違いは感情による爆発力だけだと考えれば、これも打倒でしょう。キリカみたく完全コピーの必要は無いですからね(完コピは爆発力がある)

 無論、ホロウと言っても本人のログを辿り、ある程度似せるし、ユイのようなMHCP達が収集した感情データも《ホロウ・エリア》には集まるため、ホロウもそのデータが反映される=より人間らしい表情になる。

 死ぬ寸前は憎悪の表情で睨む、とか。

 そんなトラウマ経験がありながら具体的なイメージ(裏切ったな、と言われる側としての苦しみ)が出来てなかったので、メンタルが耐えられず、PTSDの発作。

 そもそも和人はSAOに囚われたままの三ヵ月間、第百層で全滅した仲間達が現実に生還出来るか知らなかったので、現実で帰りを待っていた木綿季達と同じく、和人自身も不安に駆られていた。目の前で死んでいったのを連続で目の当たりにしていたせいで不安は和人の方が大きい。

 その時のトラウマ(不安)を思い出して、『これは皆を死なせない為なんだ』と裏切り関連のトラウマをねじ伏せるという訳の分からない事をして立ち直り。


 ――要するに『たった独りの三ヵ月間で和人はまた歪んでしまった』というお話。


 その片鱗が、トラウマでトラウマを捻じ伏せるという精神状態。

 ちなみに戦闘描写だと、クラインを避けるように《三刃騎士団》とクラスタをフォールブランドで消し飛ばすのが顕著ですね。元々仲間のため、違和感を覚える程ではありませんが、偽物を演じるならユウキ視点で疑問が出ていたように一切追い詰めない行動が矛盾していました。

 下手すると常にPTSDの発作がALOプレイ中に出てもおかしくないんだよなぁ……(ALOの行動=計画=ユウキ達の想いへの裏切り)

 ――ALOの問題=七色の研究が命に関わるのかという案件については、本作オリジナルです(ヒントはセブン、スメラギ視点)

 こんな主人公ですが、生暖かく、長い目でお付き合い下さればと思います(既に長い)

 では、次話にてお会いしましょう。


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