インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 今話もオールリーファ視点。オリ展開を交えながらも原作をなぞってるからね、是非も無いネ!

 文字数は約一万五千。

※今話は()()()()()()()に等しい過剰な描写をしておりますが、愛ある故の描写です。

 ――ホントにどうでもいいキャラなら手抜き描写で済ませます(尚前話のアンケ内容)

 ではどうぞ。




第二十四章 ~人の上に立つ器~

 

 

 空都ラインの転移門を介して降り立ったスイルベーンの光景を見るのは、あたし(リーファ)にとって実に二ヵ月ぶりだった。

 別名《翡翠の都》と呼ばれているスイルベーンは、華奢な尖塔群が複雑に繋がり合って構成されており、色合いの差こそあれ凡そが艶やかなジェイドグリーンに輝く。それらが夜闇の中に浮かび上がる様は幻想的の一言に尽きる。ALOで落ち着いた美しさを持つ都市はこのスイルベーンだと、あたしは未だに信じて止まない。

 そして最も特徴的なのはスイルベーン中心地に聳え立つ巨大な白亜の塔だ。《風の塔》と呼ばれるそれは、風力エレベーターで上階に上るという近代チックな内装をしており、仲間内の集合場所やセーブポイントとして利用されるなど、システム内外に於いて重要な働きを担っている。斯く言う自分も、スイルベーンにマイホームを持つまでは存分に利用していた。

 アレを最後に利用したのはプレイ二ヵ月目以来なので、もう内装を思い出す事は出来ない。

 その《風の塔》の裏手には壮麗な《領主館》が広がっている。建物の中心に屹立するポールにはシルフの紋章旗が揚がっているのを確認する。あの旗は、領主に就いているプレイヤーが領主館に滞在している事を示す、対外用のログイン履歴だ。領主自身がオフ設定にする事も時間制限付きで可能な反面、ログインしてないのに揚げる偽装工作は出来ない。

 目的の人物は居るらしい。ほくそ笑みながら、あたしは領主館への道を進み始めた。

 道中、古参のプレイヤー達がギョッとした顔で見て来たが、全て無視する。デュエルの時以外で剣を向けないと決めている同種族はサクヤ、ルクス、そしてレコンの三人。それ以外は全て関心の外にある。関わってこない相手に時間を割くのも面倒に感じた。

 スヴァルトの攻略や観光に向かっているためか、人通りは余りない。しかし商人系のプレイヤーは店を開き続けている。転移門があるお蔭でリズベット達のように本土で店を持っている者はわざわざ移転する必要性が無いからだろう。

 道すがら、冷やかしすらしない視線だけ向け、現在の領地状態を把握しながら進むことおよそ五分。特別走らなかったが領主館にはすぐ着いた。

 

「……もう来るつもりはなかったのだけどね」

 

 眼前に聳える壮麗な館を眺め、そう洩らす。

 思い返されるのは身勝手に祭り上げられ、それから叩き落とされた苦い思い出。妄信と暴力の片鱗を垣間見た経験。デキる女に託して以降、種族の政治上層に関わるまいと誓っていたのだが、それに反し此処にいる事実に思わず顔を顰める。

 面倒な、と内心で吐き捨てながら、領主館の敷地内に足を一歩踏み入れる。

 ――本来、許可を受けていないプレイヤーはこの時点で弾かれる。

 領主館は、税率やその使い道を決める指導者プレイヤーを筆頭に、領主に帰依する者達の拠点そのものだ。他種族に知られてはならない極秘情報や内部情報――領主以外の構成員など――も満載。故に入る許可を得るには、長い領地でのプレイ時間と裏打ちされた高いステータスの両方を必要とし、その上で領主館の上層部から認可を得なければならない。しかもその資格は中立域に出て一ヵ月もすれば失効する。

 それを無視して入れるのは、今も右手中指に嵌めている【シルフィーロードリング】のお蔭。

 領主の座に就いたプレイヤーのみが所持、および装備を許された、あたしだけの指輪。領主が代替わりする度に掘られるレリーフも変わるらしく、シルフのそれはあたしとサクヤの二つしか存在していないからどれほどパターンがあるかは全く分からないが、事実としてサクヤの指輪とはレリーフは違っていた。

 それを内心疎ましく思っていたが、取得経験値と全パラメータの微量増加という効果が他にはないバフだったので、装備し続けて早一年以上。

 まさかこれをシステム的に用いる日が来ようとは、夢にも思わなかった。

 

「ん? なんだ貴様」

 

 領主館にコソ泥が入る事も無い筈なのに、権威の誇示の為か、不必要に立たされている若草色の髪を持つ美麗な青年プレイヤーは、訝しむ表情でじろりと睥睨して来た。

 先代領主だった事は知らなくても仕方ないが、これでもALO統一大会で二連続優勝を果たしているので、相応に有名な方と自負している。なのに知らないとなれば、おそらくSAOに囚われてから始めたプレイヤーか。SAOでは前衛としてかなり顔出ししていたのだが、同一人物と気付いていないあたり、勘が悪いのか、情報収集能力が無いかのどちらか。

 思考の結論は、どちらでもいいか、という適当なものだった。

 今日この時会っただけ。それ以降会う機会が無いなら、そこまで気にする必要も無い。中立域で遭遇した時の為に顔を覚えるだけで十分だ。サクヤに迷惑が掛からないならそれでいい。

 

「あたしはリーファ、領主サクヤに用があって訪ねたの。通してくれるかしら?」

「……そんな話は聞いていないが」

 

 当然である。事前に話を通せば、シグルドが必ず妨害してくる。電撃作戦を要する今回の案件にアポイントメントを取るなど悠長な事をしている暇はない。

 しかし青年も仕事でここに立っているのだ。彼の今後の為に、無理難題を貫く訳にもいかない。

 ならば――と、右手中指の指輪を見せる。

 

「言い忘れていたわ。あたしは先代領主、コレはその証拠の【シルフィーロードリング】よ」

「……なんだ、その指輪?」

「……」

 

 顔を顰めるのももう今日何度目か。

 指輪を見せてもこの反応の薄さ。権力を示す証が正しく機能していないかった。

 一瞬空を仰いだ後、指輪のポップメニューを出し、衛兵に見せる。『領主にのみ授与される指輪』と説明欄にあり、且つシステム表記で【第一代目シルフ領主:Leafa】と記されているから、勘違いしようもない。

 それを見た途端、目を剥いて仰け反られた。

 何故だ。

 

「な、なん、な……なぁ?!」

「……驚いてるところ悪いけど、通っていいのかしら。一応資格はあると示したわよ」

「え、あ、はいっ! どうぞお通り下さい?!」

 

 やや狂乱気味にずざっと身を引き、掌で扉を示される。なんか変な風にあたしの事が伝わってないかと不安混じりの疑念が過ぎるも、後でいいかと流す事にした。

 古森で取れる最上品質のオーク材で作られた扉を押し、中に入り――

 

 

 

 長刀の柄頭に手を置いて睥睨する金髪緑衣の妖精の絵が視界に入った。

 

 

 

「ねぇ待って?」

 

 誰に言っているか分からない()()が思わず漏れた。

 同時に、先程の衛兵がなんであんな反応をしたか理解した。SAOボス戦で戦っていたあたしの事を知らずとも、この絵画を介して先代領主としてのイメージは持っていたのだ。だからあんな反応をした。

 玄関ホール真正面にデデンと掛けられたその絵は油絵で塗られたが如く色の境界線は曖昧だ。しかしシルフには珍しい金髪、尻尾のように一本に結われた髪型に、威厳を示すべく羽織っていたシルフの紋章を編まれたマント姿は、疑いようもなくあたしだ。

 領主を務めていたプレイヤーがあたしとサクヤしか居なかった事からも消去法で分からざるを得ない。

 知らない内に領主館に出入りするプレイヤー達に()()を見られていたらと考えただけで、顔が真っ赤になる自覚が生まれた。今すぐにでもあの絵画を斬り裂きたい衝動に駆られる。

 

「……」

 

 ――ふと、くるりと背後の()()を見やる。

 青年は何とも言えない笑みを浮かべていた。

 

 *

 

 リーファ(あたし)は憤怒した。必ずや、あの邪知暴虐のかの(領主)を糾弾しなければ気が済まぬと、決意を新たに奮起した。

 ――そんな、やや誤謬はあるが凡そ彼の有名な下りに近しい心境で館の内部を進む。

 勝手知ったる我が家とばかりに道に迷う必要が無いのはたった一ヵ月と言えど奔走する程度には真面目に仕事をこなしていたからだろう。苦い記憶ばかりだが、今ばかりは役立ったと思うべきかもしれない。

 廊下を進み、階段を三度上って辿り着いた四階は、領主の執務室だけがある最上階だ。余程の事が無い限り他のプレイヤーが足を踏み入れる事は無い。李下に冠を正さずと言うように、誰も変な行動と取られて痛くない腹を探られたくない。

 そんな場所に足を踏み入れたあたしは、迷うことなく扉の前に立ち、重厚な素材のそれをノックする。

 

『ああ、開いているよ。入ってくれ』

「失礼します」

 

 レバーを下げ、扉を押して入り、挨拶する。

 執務机で書類仕事をしていたらしい深緑の女性は、きりりと引き締められた美貌を緩ませ、呆気に取られた表情を浮かべていた。

 

「……リーファ、か?」

「ええ。四日ぶり、と言うべきかしら。元気にやってるようね」

「あ、ああ、体調管理はしっかりしているから……って、いや、そうではない」

 

 理解が追い付かないのか、心ここに在らずという風体で言葉を返して来たサクヤは、すぐに我に返って首を振った。

 

「領地に帰るつもりは無いんじゃなかったか?」

「ええ、そのつもりだったんだけど……少し、種族関連の事で問題があってね。今回はその相談」

「……君がそう言うとなると、よっぽどの事が起きたようだ。分かった、話を聞こう――と、言いたい所だが……」

 

 言葉を区切り、執務机にある書類に視線を落とすサクヤ。脇に積まれたそれに視線を向ければ、サイン済みのものが高く積まれているにも関わらず、もう二つほど山が残っているようだった。

 

「それ、期日近いの?」

「ああ……今日中なんだ。今日の分も考えると寝る前に処理しておかなければ追い付かなくなる」

「キッチリしているサクヤが書類仕事を溜めるなんて珍しい」

「普段ならこんな失態を犯さないよ。スヴァルトが実装されてからさ、これほど書類が増えたのは」

「ふぅん……」

 

 一応部外者なので内容にあまり視線を向けず、サクヤの顔を窺う。机上に広げられた大量の書類を前に項垂れている事からかなりキツく思っているらしい。

 サクヤは元々武人気質、つまりあたしに近い部分があるから、そりゃあ辛いだろうなぁと思う。体を動かす事が好きな人が運動を禁止されているも同然な状態なのだ。しかもストレスを解消する為のALOでそれが起きるという逆転現象。現実でも仮想でもストレスを感じているようでは何時か壊れてしまうかもしれない。

 

「ちなみにこの書類の山、部署はどの辺から?」

「ああ、攻略隊……と言ってもリーファは分からないか。君が四つに分けていた隊を一つに纏めた、所謂軍部さ」

「軍部……シグルドの管轄ね」

「そうだ」

 

 書類の出所を知って眉を寄せる。

 

「……どういう内容のものが多いの?」

「軍部には何かと金が掛かるからと、その催促だよ。月初めの会議で最初から多めに予算を振っているんだがな……」

 

 ふぅ、と疲労の色濃い溜息を吐くサクヤ。毎月の会議だけでなく、毎日これだけの量の書類を見なければならないなら、精神的疲労は計り知れない。

 自分が領主を務めていた頃は予算多めの割り振りや随時予算捻出の上申なんて無かった。種族金庫に然して貯まっていなかったせいだろうが、一年以上も組織を回していれば、それなりの額の貯蓄も出来る。シグルド達はそれを崩して軍部に回すよう請求しているという事だ。

 代替わりの際にサクヤに経験談として色々話し、とかく軍部には多めに金を振っておく事を奨めたから、実際多く振っているのだろう。許可を取って予算割り振りの決算書類を見せてもらったが、他の部署の倍以上も振られているのを見ると正直過剰とすら思える額だ。

 

「……過剰じゃない?」

「君もそう思うか。実は幹部会でもその意見は出ていて、最近シグルド率いる過激派と私を筆頭とした穏健派の対立が発生している。この書類の山は過激派からの妨害さ。どうにかして私をここに留めて、好きにしたいらしい。抗議を出さないよう額を増やしたが逆に増長したようだ」

「内ゲバとか最悪じゃないの……」

 

 書類から視線を外し、大丈夫なのかとサクヤを見る。

 曖昧な笑みを返された事から相当ヤバいとこまで争いは進んでいるらしい。

 

「今月の領主権はどうにかもぎ取ったが、正直次回は拙い。思ったよりシグルドの勢力が強いんだ」

「まぁ、それは分かるわ」

 

 あたしは技術面、サクヤは人柄の面で求心力を得ていたが、シグルドは勢いで人を丸め込む部分に特化している。人をその気にさせるのが上手い点は詐欺師に向いているかもしれない。

 詐欺師、と評したのは、シグルドが(頂点)に立った時点で勢いは止まるから。

 それからは独裁政治も斯くやとばかりに対外的な敵意行動を取り、シルフは孤立する未来が見える。同じ種族でも中立域へと離れるプレイヤーも増えるだろう。サクヤもその一人として離れ、彼女を信頼している者達も纏めて離れそうだ。

 

「部署としてはどれがどっちに付いてるの?」

「攻略隊がほぼシグルド側だ。それ以外、つまり文官寄りは私側だよ。とは言え、最近の勢力比はシグルド四割、私三割、中立三割といったところだな」

「……なにその中立勢力の三割」

「リーファの支持勢力だが?」

「ねぇ待って?」

 

 堪らず疑問を投げる。脱領し、他種族と親交を深めてそれなりに経つというのに、何故今更自分の支持勢力が登場するのか。中立域プレイヤーを支持するとか前代未聞過ぎて訳が分からない。

 しかしサクヤは、何を言っているのかと逆に呆れ顔を返してくる。

 

「君はSAOのボス戦で暴れていただろう。他に数名巻き込まれていたというが、命懸けのボス戦に参加していたALOプレイヤーは君だけだった。最近シルフを選ぶプレイヤーが多いのも君が顔出ししていた影響もあるんだぞ?」

「初耳なんだけど……」

 

 唖然とするあたしに、言わなかったからな、と冷静に返してくるサクヤを恨めしく見る。

 

「……まさか、玄関ホールのあの絵画も……」

「君に心酔してる絵師が贈呈してくれた。円卓に座る王をモチーフにしてるらしいぞ」

「……言葉も無いわ」

 

 領主は確かに王に近い立場だが、幾らなんでも美化され過ぎていて全く笑えない。SAOの事を鑑みればキリトが王座に座していてもおかしくないから自分の事とはとても思えなかった。

 その絵師とやらにはボス戦の映像がいったいどんな風に見えていたのだろう。

 

「これも有名税とでも思っておけばいい。好意的に捉えられてるんだ、良かったじゃないか」

「良くないわよ。あたしはそれで苦労したんだから」

 

 ふんっ、と鼻を鳴らしてサクヤの言う『好意』とやらを切り捨てる。

 サービス初期の時のように、また技量だとか立ち振る舞いだとかで凄いと思っているだけだろう。実態を知れば、またすぐに手の平を返すに違いない。個々人によって人格は違うが、ユウキ達のように評判だけで判断しない人間が極少数に限られるのは、十数年の歳月でイヤというほど理解していた。

 

「ま、今回は利用価値も無くは無いし、せいぜい利用させてもらいましょうか」

 

 しかしあたしは、存外イヤな気分では無かった。利用価値を見出していたからだ。

 通常、自分を支持しているからと言って、その人物の言う事を全て受け入れられはしない。支持する人間のライバルを肯定しろと言われて即座に出来る人間は()信者くらいなもの。だから勢力争いの時の中立は暫定敵扱いをするべきと短い領主生活の中から理解していた。何時までも蝙蝠になれない、という見解の勢力所属側の意見である。

 しかし今回は、それを利用出来る。

 あたしは正式に領主争いに参加しておらず、所謂外野に位置している。また本命はサクヤとシグルドの二人。仮にあたしがサクヤを信任し、支持しろと言っても、頷く人は少ないだろう。しかし明確にあたしとは不仲と知られているシグルドに票を入れるプレイヤーも少ない筈だ。

 領主になるには規定数の票を得るのではなく、対抗馬より多くの票を得れば良いシステム。

 ――そうしても、中立からサクヤにせいぜい一割流れればいい方。

 シグルドに流れる可能性を考えればまだ決定打に欠ける。

 

 しかし、あたしはシグルドの政治生命への致命的なモノを持っている。

 

 他種族を敵視しているシグルドが、領主に断りなく、軍部を私物化している事実を示す証拠。それは武人としては正しくても、政治に携わる者としては信頼性を欠くものだ。

 シグルドは、戦う者としては非常にイヤらしい強さを持つ反面、人の上に立つ器では無い。

 

「サクヤ。あたしの用件なんだけどね……」

 

 八角錐クリスタルを手の上で弄びながら、用件を切り出した。

 ――後からサクヤに聞いたが、シグルドの政治生命を途絶えさせる話をするあたしの顔は、愉悦を覚える悪魔の表情だったそうだ。

 

 *

 

 サクヤと話す機会を持ってから、三日。

 【砂丘峡谷ヴェルグンデ】を攻略する中、執拗に差し向けられる()種族混合の軍部レイドを仲間の全面的な協力を以て返り討ちにし続けた。襲撃は一日に一回。つまり三回受けた訳だが、その全てを全員死ぬ事無く返り討ちにしている。二回目以降は《ⅩⅢ》を持つシノン、キリカ、ユイの何れかが同パーティーに居てくれた事が非常に大きい。

 

 しかし今回のMVPはレコンだと誰もが言うに違いない。

 

 レコンは種族に帰依しつつも、中立プレイヤーのあたしのパーティーに加わるという稀有なプレイヤーだ。スヴァルトだからこそ許されているその状況は非常に有用だった。

 なにしろレコンはシグルドのパーティーで中衛魔術師として重宝されていたのである。

 彼の《Recon》の起源にあるように、偵察――所謂、スパイ行動として適任だった。

 そして全ての戦闘の撮影は、ハイディングが得意なレコンに一任。変態的な隠密行動がこの上なく役に立つ事に彼は喜色を露わにしていた。そのテンションが相俟ってか撮影画質や場面は求めるものの最上級。Mobに見つかる事なくサーチャーを使って撮影するその手際はプロと思いそうになるほど。

 通常のゲームプレイでは有用な場面が少ないから仕方ないというか、分かっているなら領主館に雇ってもらえばいいのではと助言するが、考えておくの一言で手応えは薄い。今は良いが、今回の事が終わってからの(盗撮)を考えると、ぞっとする。幸いサクヤの憶えは目出度いようなのでやらかす前に領地に帰依させたい。

 

「さて……証拠も複数集まったし、行ってきますね」

 

 攻略から戻り、各々の分け前やら武具のメンテナンスやらを、エギルとリズベットが営む喫茶店兼故買屋兼鍛冶屋で行う中で、机上に置かれた四個の記録結晶をストレージに仕舞いつつ言う。

 

「へぇ、いよいよ行くのね?」

 

 仲間の武器を預かり、鍛冶スペースに入ろうとしていたベビーピンクに光沢を映えさせる鍛冶妖精(リズベット)が振り返り、にかりと笑った。

 その笑みに、こちらも不敵に笑う。

 ――自種族の中で済ませると決めた案件を敢えて長引かせた理由。

 それは複数の状況証拠の提出をサクヤが提案したからでもあるが、一番の理由は、シグルド派であろうシルフプレイヤーの気勢を削ぐため。シグルドが掲げる『シルフ一強』のスローガンは自種族が最強でなければ話にならない。他種族の軍部と共同戦線を組んでいるのは、仮想敵を前にした威力偵察を兼ねているのだろう。そこにシルフ最強のあたしが加われば『シルフ一強』も夢では無い――そう、考えている筈だ。

 その鼻っ柱をへし折る。

 なまじ初回ではほぼあたし一人が蹂躙し、以降人数は五十、六十、八十と増えていったが、変わらず七人パーティーに完全敗北を喫し続けている。

 その場にシグルドは居なかった。しかし、彼は将軍として軍の指揮を執る立場にあり、レイドの編成も彼の裁量によって任されている。

 数を増やし、構成を見直し、幾度となくぶつけて尚完全敗北を喫し続ける。

 そんな不祥事が続けばサクヤの支持層が増える事こそ無いが、シグルドの支持層が減りはする。あるいは、あたしを支持する者が人伝に増える事もあるだろう。

 実際にあったようでイヤになる。

 ともあれ、あたしの支持層が増え、シグルドが減り、サクヤは変わらずなら、選挙も彼女の優位になる。それどころか将軍としての不祥事を重ねたのだ、シグルドは今後政治側に返り咲く事は難しいかもしれない。それこそ野良のレイドでリーダーとなり、皆を満足に活かしながら、快勝と言える結果でボス討伐を幾度も果たさなければ難しいだろう。

 サクヤはボス討伐に精力的では無いので、ゲーマーの心を掴む要素はシグルドが多かった。

 しかし、領主や種族としての政治、指揮官の有能さが関わって来るとなると、シグルドには些か難がある。良いカッコしいの口だけ指揮官には誰も付いていかない。口だけというのは過剰な悪評だが、今のシグルドに対する信頼性が以前より低いのは確実だ。

 サクヤから聞いた限り、あたし達に壊滅させられたレイドに参加していたと思しきシルフプレイヤー達を、シグルドは頭ごなしに怒鳴り、怒りのまま部隊から外したらしい。その流れだとあたしにも恨みつらみを募らせて面倒な勢力になってそうだが、サクヤが裏でフォローしてくれたようで、今では立派なサクヤ支持層になっているとか。友人のフォローをしながら自陣に引き入れるコミュニケーション能力には脱帽せざるを得ない。第四勢力の可能性を丸ごと引き入れた彼女は上に立つ人間として強い。

 そんなルーチンをしていけば、日を追うごとにシグルドの立場は悪くなる。

 今日の夜、何の相談も無しに軍部の人間を追放し、加えて表沙汰にされていない軍部のデスペナルティによるレベルダウンという客観的にシルフを弱体化させている事態を取り上げ、領主館で会議が開かれる。そうなるよう、サクヤとあたしが調整したからだ。

 明確な状況証拠はレコン特製の()()映像のみだが、立場を賭けた戦いは、水面下では激しい弱みの握り合い。弱みを握られたシグルドが悪いのだと()うしかない。

 シグルドの思惑を喋ってくれるシルフばかり尋問出来たのは、どうやらしっかり金を握らせ生かして返した彼らは、シグルドの態度を前に閉口し、尋問された事を漏らさなかったらしい。面白いくらい事情通のプレイヤーばかり出していたのはそれだけ実力を信じていたという事だろう。四通りの尋問内容が撮影出来たのは僥倖だった。

 仲間達に見送られ、三日ぶりにスイルベーンへと転移する。

 月光に照らされる翡翠の街は、以前よりも人気が多くなっていた。詳細は知らなくともシグルドが呼び出されている事は広まっている。どんな沙汰が下りるのか、会議が始まってもないのに野次馬根性で来ているらしい。

 人だかりは領主館に近付くほど酷くなっていた。

 だが、一度『剣()が来た』と声が上がってからは、モーセの再来の如く人の波が掻き分けられ、道が出来る。

 ――それでいい。

 人目を気にせず堂々と領主館に行くのも計画の内。むしろ、強く印象付けられた方が、今後の為になる。中立域で不用意に暴れるなら次は自分の番だ、という抑止力になる。そうすればサクヤは勿論、シルフ内部が内ゲバに陥る事も無いだろう。

 表情は無。しかし内心でほくそ笑む。

 人垣で作られた道を進み、視線を集めながら領主館に足を踏み入れる。衛兵が止めようとしたが、今回は指輪では無く、ストレージから出した羊皮紙を取り出し、見せる。

 

「招待状……領主サクヤから?! し、失礼しました!」

「いえ、気にしないで下さい。お勤めご苦労様です」

「はっ!」

 

 如何に入場権限があっても自分は中立域プレイヤー。用も無く立ち入っていては他種族に情報を漏らしているなどと言われかねない。万が一にそれがあっては困るからと用意された招待状は、効果覿面だった。

 敬礼し、道を開けてくれる衛兵を労いながら、扉を開ける。人ひとり入れる程度の狭さだが、玄関ホールには黒歴史がある。野次馬にそれを見られたくない一心でするりと入り、静かに閉じる。

 

「え、リーファさん?」

「なんで……?」

「まさか今日の会議に出席するのか?」

「このタイミングだとそれしかないよな……」

「シグルドさん、中立域でなんかやらかしてたらしいし、重要参考人で呼んだとか? 確かサクヤさんと親しい筈だ」

 

 ざわりと、館内で忙しなく動いていた文官プレイヤー達の声が聞こえたが、それも一歩の踏み出しでぴたりと止んだ。

 しん、と静まり返った館内を、カーペットを踏む音と共に進み、今日は一階の集会場兼会議場へと進む。

 すぐに大きな扉に辿り着く。中に複数の人の気配と怒号を感じ取った後、ノックする。

 

『ああ、どうやら来たようだ』

『来た? まだ誰かを呼んでいたのか、もうこれで全員の筈だろ!』

『いいや、あと一人足りない……入ってくれ』

 

 領主の許しを受け、扉を開ける。今度は己を誇示するように左右の扉を同時に開け放った。

 出入り口から最も遠い真正面の位置にサクヤが座り、コの字型の机にそれぞれの幹部組。囲まれた中心には今回の被告人シグルドが顔を真っ赤にして立っていた。椅子が用意されているのに立っているのは、怒り心頭だからか、容疑を否定しているからか。

 ――どうでもいい、と思考を棄てる。

 この男の末路は、既に決まっているのだ。

 

「遅れてしまったようね。ごめんなさい、サクヤ」

「いや、時間前さ、リーファ」

 

 領主として怜悧な表情を浮かべる女性と笑みを交わし合う。私人の時とは違うその在り様は、流石は純粋なカリスマで票を得ている辣腕領主だと思うほど見事だ。

 

「リーファ? お前が何故ここに……――――そうか、お前か! お前が仕組んだんだな?! 俺を嵌めたのはお前なんだろ!」

 

 一瞬呆けていたシグルドは、気を持ち直すや否や怒りそのままに怒鳴り散らしてくる。ここが圏外なら問答無用で斬り掛かって来てもおかしくない気勢。それだけ今の立場を固持しようとしているらしい。

 ――関係無い。

 これは会議では無い。シグルドという罪人を裁く、裁判そのものだ。傍聴席は無く、裁判員制度によって選ばれた一般人も居なければ、弁護人も居ない、出来レースの裁判。

 

「嵌めた? 勝手に自滅しただけでしょ」

 

 そう返せば、更に顔を真っ赤にする。そんなシグルドから視線を切り、サクヤを見る。先に進めて、という意思。

 

「今回シグルドを呼んだのは、君に『無断で他種族軍部と協力体制構築』の容疑、『シルフ軍部の私物化』の容疑、そして『特定の中立域プレイヤーに対する執拗な攻撃行為』の容疑があるためだ」

「リーファ! やっぱり貴様が仕組んだ事なんじゃないか!」

「――ほぅ……?」

 

 ぎらりと、サクヤな深緑の瞳に光が走る。爛々としたそれは獲物を待ち伏せする猛獣のそれ。静謐なイメージの中に潜むその気質こそ、領主でありながら武人としても名高いサクヤの本質。

 彼女を敵に回すなら、相応の覚悟と場数を踏んでいなければならない。

 剣の勝負ならともかく、弁論での勝負は絶対したくない。そう思わしめる目だった。

 

「今の発言。つまりシグルドは中立域プレイヤーへの攻撃行為を認めるのか」

「違う! そんな事はしていない!」

「では今の発言の意図を説明してもらおう」

「確かにリーファは中立域プレイヤーだ。だが俺はリーファをスカウトしただけであって、直接的行為をした事実は無い!」

 

 一応、筋は通らなくも無い。だが『直接的』と強調してしまったのは、無意識のうちに間接的には攻撃行為をした事を言っているも同然である。

 

「間接的にはしたのでは? 私物化した、シルフの軍部を利用して」

「そんなのは事実無根だ! 根も葉もない噂をマトモに信じるな!」

「ふむ……」

 

 怒鳴り返したシグルドに対し、サクヤは至って冷静に、ストレージからアイテムを取り出した。

 それは八角錐のアイテム――あたしも持つ、記録結晶。

 何だそれはと問うシグルドを無視し、彼女はそれを起動。壁に向けて映像を映し出した。

 

『貴様ら、よくもおめおめと帰って来られたな!』

 

 開始早々響く、シグルドの怒号。

 さぁっと男の顔色が悪くなったのを見て、くっと笑いを堪える。一瞬睨まれたが、それどころではないのか表情の変化が激しい。

 映像は、あたし達に敗れた軍部のシルフ達を建物の裏に呼び出し、シグルドが怒鳴り付けているシーンだった。視点は見下ろしたもの。おそらくサーチャーに撮らせていたのだろう。

 

『リーファ達はたった七人なんだぞ?! 幾ら初期化されるルールとは言え、それはあいつらも同じなんだ、むしろ装備の性能で言えばお前達の方が上なのに何故負ける!』

『い、いや、アレは無理ですよ。あんなの勝てっこない。たった一人でサラマンダーやノームの前衛がやられて壊滅させられたんですよ』

『言い訳など聞きたくも無い! 貴様らを用立てたのは間違いだったようだ、役立たずは邪魔なだけだ! とっとと失せろ!』

 

 一方的に怒鳴り散らしたシグルドは、メニューを手早く操作した。恐らくトップ陣営にだけ可能な陣営権限剥奪の操作をしたのだろう。

 怒鳴られた青年達があぁっ、と悲痛な叫びを漏らす。

 ステータスを高くすれば入れる単純な軍部とは言え、領主館の敷地内に入れる程となれば、相応の努力をしていた筈だ。それを理不尽な言い分で無為に帰されては遣る瀬無い。本気で取り組んでいたならそれだけ揺り戻しもキツイ。

 足音荒く立ち去るシグルド。取り残されたシルフ達は泣き叫ぶ者、怒りを露わにする者、茫然自失とする者ばかりだった。

 ――そこで映像が止められる。

 

「……軍部に所属するプレイヤーの登用は必ず会議に掛けるようにしている。それは解雇についても同じ。このルールは初代領主が規定した厳格な規定であり、今も続いているものだ。これを破った行いは『軍の私物化』と言われてもおかしくないと思うが?」

「なっ……」

 

 そういえばそんなルール出してたっけ、と遠い過去の記憶を引っ張り出す。二週間目に入った時には誰も会議室に来ず、シグルド側に流れた幹部達が登用と不採用、解雇を決めていたから、正直印象が薄かった。

 しかしサクヤは、自分が制定した自領規則を一通り読み、必要な所は続けてくれていたらしい。

 イヤな思い出ばかりだが、言外に友人が認めてくれていた事は素直に嬉しく感じた。

 

「言っておくが証拠はこれだけではない。あと二つ、同様のものがある」

 

 言いながらアイテムを取り出し、二つとも起動するという鬼のような流れ。シグルドの顔色は赤色から蒼白へと変化していた。

 トドメとばかりにあたしが持ってきた四つの記録結晶も取り出し、全て再生させる。こちらは他種族軍部との無断結託、軍の私物化、特定中立域プレイヤーへの執拗な攻撃行為の三つの容疑を確定させる上に、領主への叛逆心を露わにする内容まで含まれていた。人伝てなので四つ目の確証は難しいが、最初に彼女が言っていた三つの容疑が確定した時点で些末事。

 

「これらの証拠を前に、釈明出来るならしてみるがいい。ただしせいぜい納得のいく発言を頼むぞ?」

 

 獰猛で、冷酷な笑みを浮かべながら、組んだ手に顎を乗せ言うサクヤ。言外に『反論など出来ないだろう』と宣言しているに等しい彼女に、シグルドは歯を食いしばって睨み付けるだけ。

 言葉も無い事に落胆したか、サクヤはこれ見よがしに溜息を吐いた。

 

「シグルド。()()はシルフ全体の強化を率先していたから将軍として採用し続けたのだが……残念だ」

「……どうする気だ、サクヤ? 懲罰金か、それとも執政部から追い出すか? 言っておくが、軍務を預かる俺が居なければ、軍部のアイツらは纏められんぞ」

「――ああ、その事なら心配する必要は無い」

「な、なに……?」

 

 笑みを浮かべながらも淡々と言うサクヤは、たじろぐ男を無視して、また新しい記録結晶を取り出し、起動した。

 映し出された映像には、数十人ものシルフ達の姿と、その傍らに立つサクヤの姿がある。映像で見える内装は会議場のそれだ。

 

『え、えーと、あれ、撮れてるんですか、サクヤさん』

『ああ、しっかり撮れている。これで思いの丈を叫んでしまえ。なにせ最初で最後の復讐の機会だぞ。私の前だからと遠慮する必要は全くない。領主である私が君達を保障する』

『な、なら――――シグルドのクソ野郎が!!!』

「なんっ……?!」

 

 冷静に微笑むサクヤに促された青年シルフは、表情を憤怒のそれに変え、撮影している記録結晶に向かって怒鳴り始めた。

 予想していなかったらしいシグルドは目を白黒させる。

 

『お前もリーファさんに敵わないクセに調子に乗ってんじゃねーよ! 威張るくらいなら一回くらいサシで剣姫に勝ってみろっての!』

『そうだそうだ! 碌に前に出ないクセして俺らを扱き使いやがって! 俺らはお前の為に動いてる訳じゃないってのに勘違いすんなっての!』

『つーか反論しただけで解雇するとかリアルどころかこっちでも大問題だからな!』

『抜けようとしても許可しない、参加しなかったら自分の派閥の人間を使ってイビり倒すとか一昔前の女かよ!』

 

 

 

『『『『『でもなぁ!!!』』』』』

 

 

 

『サクヤさんがアンタを追放するって聞いた時はマジで嬉しかったよ! もうシルフ領内で見る事は無いんだって思った途端、このALOがまた楽しくなってきたんだ! 灰色のプレイ模様に色が付いた感動は涙モンだった!』

『解放されるって知った時は『漸くか』って思ったよ!』

『『俺に投票しないと追放してやる』って脅して来た時からヤバイって思ってましたざまぁない! しかもずっと敵視してたリーファさんとサクヤさんにトドメ刺されるとかマジワロす! 草しか生えませんわプギャー!!!』

ねぇ、どんな気持ち(NDK)?! ねぇ、どんな気持ち(NDK)?! これを聞いてる今どんな気持ち?! 怒ってる?! 泣いてる?! 絶望してる?! みっともなく喚いてるのかな?! それとも助けを求めてるのかな?! ――全部俺らが我慢し続けた気持ちだ受け取りやがれクソ野郎がッ!!!』

『追放されたプレイヤーにはさ、一定時間を圏外で過ごさないと外れない懸賞金期間があるんだってよ! もしどっかで会ったら優先的にPKしてやるからその時はよろしくな!』

『ちなみに特定の中立域プレイヤーの意図的な侵害は厳禁だけど、あくまでそれは自主的に中立域に行ったプレイヤーだけであって、追放された犯罪者には適用外だから俺達やり放題だってさ! こんなに嬉しい事はボスのLAでユニークアイテム取った時以来だね! それをお前に奪われた時の怒りの分だけPKしてやるから覚悟しとけよ!』

『あとな、アンタ初代領主のリーファさんをかなり扱き下ろしてたけど、戦闘指揮自体はあの人の方が上だったからな! 領主なのに自分で前に出ようとしてたのは困りモンだったけどアンタよか百億倍マシだったわ!』

 

 ――繰り広げられる罵詈雑言の嵐。

 一人一人区切って言えているのは、シグルドにしっかり届くようにという怨念によるものだろう。好きにぶちまけたらしっかり届かないという考えがあるほどシグルド憎しという気持ちが強かったらしい。

 正直ここまで疎まれていた事は予想外だった。

 実に十分もの上映が終わり、記録結晶は止まった。復讐のためとは言え、しっかり秩序ある集団の様子は、シグルドが居なくても纏まるという事実を如実に表している。むしろシグルドが上だったから反発して纏まらなかったのではとすら思える。

 

「――以上の事から、お前の罰は追放に決定している」

 

 静かに言うサクヤ。彼女の表情に色は無く、ただ怜悧且つ鋭い美貌が無を保ち続けているだけ。

 彼女は優美な動作で指を振ると、領主専用の巨大なシステムメニューを呼び出した。無数のウィンドウが階層を為し、光の六角柱を作り出している。一枚のタブを引っ張り出し、素早く指を走らせる。

 程なく、無言で事態を眺めているシグルドの眼前に、青いメッセージが出現した。それに目を走らせたシグルドが、血相を変えて立ち上がる。

 

「貴様ッ、正気かッ?! 俺を……この俺を、追放するだと……?!」

「先のメッセージで理解していたのではなかったのか? 追放すると、彼らも言っていただろう?」

 

 冷酷に言葉を返す彼女に、憐憫の色は無い。あるのはただ残酷なまでの領主としての顔だけだ。

 

「シグルド、自らが見下していたレネゲイドとして、中立域を彷徨うといい。懸賞金が掛かったお前に安息があるとは思えないが……いずれ新たな楽しみが見つかる事を祈っておこう」

「う、訴えるぞ……権力の不当行使でGMに訴えてやる!」

「GMが動くのは明らかな違法行為に関してのみ。今回の案件は完全なプレイヤー関係のものだ、介入の余地は無い……さらばだ、シグルド」

「きさ――――」

 

 拳を握り、更に何事かを喚こうとしたシグルドだったが、サクヤが指先でタブに触れる方が僅かに速かった。

 その途端、男の姿が会議場から掻き消える。シルフ領を追放され、アルンを除くどこかの中立都市に転送されたのだ。

 懸賞金が掛かっている以上、圏外判定であるアルンに入る事もままならないだろう。空都へ続く転移門を有する種族領地にも入れない以上、シグルドは【スヴァルト・アールヴヘイム】にも入る事が出来ない。あそこは本土の飛行限界高度より高い位置に存在しる。飛んで入る事はおろか、転移門の利用どころか補給すらままならないのは、SAOでのオレンジプレイヤーに対する徹底的な排他性をしっかり受け継いでいる事を理解するに余りある。

 こうして、出来レースに等しいシグルドの裁判は、彼の懸賞金付きの追放という形で幕を下ろした。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 シグルドは原作だとサラマンダーとの結託、領主暗殺未遂で中立域追放になるのですが、それだけだと罰が軽いんですよね。同人誌にあるようにシグルドがリーファに復讐しに来る可能性もあります。そうでなくとも罰が軽い(二度目)

 現実やSAOと違い牢獄に入れても然して意味が無いので、徹底的に《シグルド》というキャラを痛めつけなければ!(謎の強迫観念) の結果、本編のように。

 将軍の地位にある関係で多くの部下を率いた事、その弊害は、本作オリジナルというか、ある意味での改悪です。批判されても致し方なし(血反吐)

 でもまぁ、軍部を私物化してる上に盛大に巻き込んでるんだし、多少はね?(反省の色なし)

 ――メインキャラの敵なんだし運が無かったと思って諦めてくれ給え(台無し)

 冗談はともかく、実際原作だと追放だけでは罰が軽い(三度目)ので、オリジナル設定『懸賞金システム』を採用。中立域に居てもどこもかしこも敵だらけー! な状態にシグルドは心底後悔する事でしょう。罰とはこういうものだ。

 リーファも想定してなかった状況証拠のオンパレードにより、原作ではあまり描写されていない領主としての辣腕ぶりを見せたかったのもある。

 敵に回したら怖いって、サクヤみたいな人の事を言います(確信)

 立場ある人がこういう怖さを持ってると怖いよね……

 では、次話にてお会いしましょう。


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