インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 視点はオールサチ(ぶっちゃけ今話は誰視点でもあまり変わらない)

 文字数は約九千。

 ではどうぞ。




第三十章 ~魔城の覇者~

 

 

 クラスタ達の後を追うように帰った為か、遺跡の出口へ向かう道中、モンスターと遭遇する事は無かった。それを喜んでいいのかは微妙なところだったが、それをわざわざ口にする事も憚られた。

 数分で遺跡を脱出した私達は、真白い雪と氷の凍原に出迎えられた。

 しかし、ふと違和感を覚えた。

 

「……風が弱くなってる?」

 

 これまで無言を貫いていたリーファが訝しげに呟いた。他の仲間も寒さが和らいでる、吹雪が止んでる、と遺跡突入前に自分達を苦しめた厳しい環境との差異を挙げていく。

 

『――高度制限を解除します』

 

 そこで聞こえたのは無機質な女性の声。システムアナウンスとして稀に耳にするそれがフロスヒルデ――ともすれば、スヴァルト中に聞こえる音量で木霊する。

 制限解除、制限解除と続く音声。

 ――それに紛れ、野太い獣の咆哮が轟いた。

 響いていた機械音声が遮られ、沈黙する。

 

「……装置を起動させて、門番が出たんだね」

 

 立て続けに起きた事態を、ユウキは冷静に判断した。どこか苛立たしげなのは横取りしたクラスタ達が解放したと状況的にみているためか。

 試しに翅を出して飛ぼうとしたが上手く羽ばたけない。どうやら咆哮を上げたヌシが邪魔しているようだ。あるいは全プレイヤーに影響を及ぼすクエストではなく、個々の進行によって高度制限が解除されるクエストなのかもしれない。

 どちらにせよ、自分達も装置を起動させる必要があるなら、クラスタ達が負けた場合も考え装置の下に行っておく方が二度手間ではないと結論が出たため、獣の咆哮をBGMに装置のもとへ向かう。

 道中襲って来たモンスター達は逐次倒しつつ向かうこと十数分。

 装置が見えるところまで来た時、最初に抱いたのは困惑だった。装置を中心に展開されている半透明の障壁の外には、一千人はいるだろう所属無所属種族もてんでバラバラな一団が集まっていた。自分達から横取りをしたメンバーの顔も見える。

 てっきり彼らが装置を起動させたと思っていた、では誰が装置を起動させたのだ、と考え。

 ――自ずと、答えを見つけた。

 少数ながら質で勝負する自分達。

 人数にものを言わせて人海戦術を取る《三刃騎士団》・クラスタ達。

 この二つの勢力よりも先に攻略を進められる存在を私は知っている。社会人と違って日中もログイン出来る人物。単騎での戦力が図抜けて高い、一人の方が強いプレイヤー。片方は自分達と行動を共にしている。

 残る片方は、一人で行動し続けている――!

 

「キリト……ッ!」

 

 千人余りのプレイヤーが見る障壁で四方を囲まれた内部には、鬼の面をした氷山の如きボスモンスターと渡り合うスプリガンの子供が居た。

 

『ゴアアアアアアッ!』

 

 咆哮を上げ、猛然と突進する山の如き巨体のボス。

 地響きと共に迫る氷山を前に彼はむしろ前進した。雪煙と共に迫る山を目の前にした時、彼は大きく跳び上がる。ただの跳躍のため然して高度を稼げていない。

 ――キラリと、翠の光が迸った。

 すると上昇を止めた体が再び浮き上がる。大地の雪を大きく噴き上げた点から風を放ち、その勢いを得たらしい。そんな風魔法は無いからアレも《魔術》の一つなのだろう。

 そうして迫るボスを飛び越えた彼は、左手に(とも)した炎の光を、右手に握る剣へと移した。黒い刃全体を煌々と燃ゆる炎が覆う。それは青い光芒を引く突進突き(レイジスパイク)でがら空きの背中に突き立てられた。小さな爆炎が起こり、苦しげに氷山が揺れる。

 揺れる山から飛び退きざまに、再びキリトの左手に赤い光が集まった。赤は数羽の鷹となって呻くボスへと迫り、接触した途端、小規模の爆発を起こす。

 距離を取った少年を追ってボスがまた突進するが、同じように躱され、炎の剣劇と鷹の炎で反撃されている。

 四段あるゲージは、既に残り一本まで減っていた。僅か二十分足らずでソロ、衆人環視のため手札をある程度制限するという条件下で三本も削っているとなると、かなりのペースだ。

 

「もう、あんなに……」

 

 見ていて分かったが、あの氷山のボスは対空攻撃を持っていないらしい。出してこないようAIを誘導しているのか、あるいはプレイヤーが()()はしていないから使わないのかは不明だが、対空攻撃を使わない事を逆手に、彼はほぼ一方的に、ルーチンのようにボスに反撃を入れていた。

 懸念があるとすれば最初に跳び上がる時の距離の詰め様だが、見た目の危険さに反して彼の行動に躊躇いは無く、危なげでもない。

 氷山型ボスがもう十数回同じ反撃を繰り返され倒れたのも、AIルーチンを見切られていたが故の必然であった。

 

 *

 

 高度制限を解除します、と再度流れ、今度こそ翅で飛べるようになったのを確認した私達は、先にログアウトするべく帰ったレインと別れた後、騒ぎの渦中へと文字通り飛び込んだ。

 そこではソロのキリトと《三刃騎士団(シャムロック)》副リーダーの水妖精族スメラギが対峙していた。

 キリトの方は、頭上にしっかりとプレイヤーネームが表示されているので、今回は偽物という事はあり得ない。それはそれで別の問題が起きそうではあるが今は横に於いておく。

 

「貴様らは……確か、キリトの仲間だったか」

 

 飛び入って来た自分達を見て、流石に見覚えがあったのだろう、当たりを付けてそう言って来た。

 

「そうだよ。生憎と、ALOでは別行動だけどね」

 

 それに応えるようにユウキが前に出た。

 彼女の答えを聞いて、ほう? とスメラギが眉を跳ねさせる。

 

「それは本当か? ヴェルグンデのボスを倒す時、お前達とキリトは共に行動していたと聞いているが」

「確かにそうだよ。でもその時、キリトは数日ログインしていなかったから、リハビリがてら同行していただけなんだ」

「リハビリ目的でエリアボス討伐に参加とはどういう事だ……?」

「ボク達に訊かれてもね……」

 

 理解不能とばかりに呟きを洩らすスメラギ。

 気持ちはよく解る、解るのだが、そういう事でいちいち頭を悩ませていては《キリト》というプレイヤーとは到底付き合っていられない事を、私達はよく理解していた。相手がプレイヤーだろうとボスだろうと一人で戦った方が強い時点で常識を求めてはならない。特にここ最近の彼は何を考えているのか分からない節があるから尚更だ。

 同じく呆れたように応じたユウキは半目でキリトを見ている。

 キリトはビミョーに視線を泳がせた。

 

「しかしそうなるとキリトは誰よりも先んじてソロで三つのダンジョンをクリアしていた事になるが……貴様、いったいどういう手口でそれを成し遂げた?」

 

 動揺から復帰したスメラギが、じろ、と髪を下している黒尽くめのスプリガンを()め付ける。なかなか凄みがある視線を、しかし彼は意に介した風もなくひょいと肩を竦めて見せた。

 

「答える気は無し、か」

「スキルの詮索をされて易々と明かす訳ないだろ」

「チーターとして運営に報告されかねんぞ?」

「須郷のように特別なアカウントを使わないと、ステータスや装備のパラメータを弄るなんて出来ないよ。それにALOを動かす【カーディナル・システム】のコピーはチートを許すほどポンコツじゃない。あくまでプレイヤーに許された範囲でしか俺は戦っていない」

(やま)しい事はしていない、と?」

 

 追及するスメラギの言葉を聞いて、彼がふん、と鼻を鳴らし、腕を組んだ。

 

(やま)しい事をしてるのはどっちだか」

「……なに?」

 

 ザワリと全身が総毛立った。対話で繰り広げられる圧力のぶつかり合いが、その規模と深みを増した。何時斬り結び始めてもおかしくない剣呑な空気。

 私が苦手な、人間同士の敵意。

 息を呑み、見守る私は、違和感に首を傾げた。根拠のない中傷は無視して流していたというのに、珍しく噛み付くように挑発している。《ビーター》のような(しゃ)に構えた自爆を誘う挑発では無い。自ら突っ込む攻撃的な言動だ。

 まるでスメラギ、ひいてはセブンが抱いている思惑を、ここで引き摺り出そうとしているかのような……

 

「ずっと気になっている事がある。自由、平等、平和を歌うセブンがALOで何を求めているか」

「何かと思えばそんな事か。セブンはネットワーク社会のあるべき姿とは何か、その答えを探し求め、活動している」

「それくらいは知っている。俺が聞きたいのは、終着点として定めている『何か』についてだ」

 

 すぅ、とスメラギの双眸が眇められた。

 感じる圧が強くなる。パーティーを組んでいるらしい《三刃騎士団》の団員、後ろに控えるクラスタ達も、その圧力に当てられてか身を凍らせている。高まる緊張感に顔を張り詰めさせている者ばかり。

 それも当然かと思う。

 スメラギと相対しているのは、現状VRMMOプレイヤーの中で最強に位置するプレイヤーだ。自分では出来ないだろうボスのソロ討伐を目の前でやり遂げて見せた。記録でも精鋭が壊滅を喫したボス相手に一人で勝利を手にしている事実がある。デスゲームの覇者の貫禄は伊達では無い。

 小さな体だ。

 でも、そうと思わせない威圧感が、まず襲って来る。子供だなんて侮りを棄てさせる重い圧力に耐えられる者はそう居ないだろう。

 ――それを耐えているスメラギは、他より頭一つ以上図抜けている。

 真っ向から威圧を受けて尚たじろぐ様子すら見せていない。彼にも譲れないものがあるからか。

 

「七色博士の研究論文は全て目を通させてもらった。思想、構想、何故『歌い手』としてだけでなくギルドマスターをしているか、ある程度は察しも付いている。あんたが言ったようにネットワーク社会の在り様を見定める為、その手段としている事も。その区切りとしてスヴァルトエリア攻略に参加している事も」

 

 だが……と、彼は言葉を区切った。表情が無になる。

 

「分からないのは、終着点だ。研究には仮のゴールを定める。何を以て研究の成否を決めるか。スヴァルトを攻略し終えた時の何を指標としているのか」

 

 無の()()に、色が宿った。

 

 

 

「――()()()、いったい何を企んでいる」

 

 

 

 それは怒り。沸々と溜め込まれた色濃い憤怒が映し出された。

 

「何を言うかと思えば、企みとは。言いがかりも甚だしい」

 

 ――その怒りを、スメラギは一蹴した。

 呆れも含んだ声音。男の顔からは、少年に対する()()すら消えていた。

 

「あの子は崇高な志を以てこの世界で歌を唱い、言葉を伝え、活動している。それをどうこう言う権利は貴様には無い」

 

 すげなく返される言葉。部外者に語る言葉は無いと言外に告げる内容。

 

「――研究の為にALOを利用している事は否定しないのか?」

 

 ――それすらも、彼は反論してみせた。

 

「なに?」

「お前の言う『崇高な志』とやらがネットワーク社会の()()の事なんじゃないかと言っているんだ」

「――!」

 

 最早言葉遊びに近い返し方。

 揚げ足取り、曲解にも近いその言葉に、スメラギは分かり辛いながらも瞠目した。的はずれであれば興味を喪ったようなぞんざいな態度を続けるだろう。却ってぞんざいだったからこそ、その反応は克明に浮かび上がる。

 無意識の認識で反映される言葉の端々を逃さなかった彼の方が、一枚上手だった。

 

「で、どうなんだ? 黙っていたら分からないんだが? 研究の為にALOを利用しているのかそうでないのかを答えるだけだろう」

「貴様……」

「言葉に詰まるという事は、何か疚しい事をしていると言っているも同然だぞ」

 

 迂闊に答えられないスメラギ。返事を急がすように煽るキリト。

 いやらしい追及の仕方だと思った。

 セブンの代弁者とも言えるスメラギは、安易に答えを返せない。

 仮に『利用している』と答えれば無断で人々を実験対象にしていた事になるので世間体が非常に悪い。なまじ非道な人体実験をしていた須郷伸之と比較されているのだ。世論調査に近いものと言えど、対象になった人に何も説明しないというのは説明責任の義務を果たされておらず、問題になる。

 逆に『利用していない』と答えた場合、本当に研究に関係無いなら問題ないが、研究にバリバリ関係している場合は大問題になる。研究や論文で提示するべきデータの提供元でALOの事に触れざるを得ない。最近の七色博士の活動は世界全体が知るところだ。その時期に被るように発表されたデータとなれば分からない筈がない。

 そして、スメラギの反応から察するに、間違いなく七色博士のALOでの活動は研究に直接関係している。そんな反応をしているから『知らない』なんて言語道断だ。

 ――ふと、キリトの思惑と行動を思い返し、一つの仮説が浮かび上がった。

 もしかすると彼は七色博士が研究の為にALOで活動している思惑について調査していたのではないだろうか。そのためにスヴァルトで別行動を取りつつも自分達以上の速度で攻略を進めていた。全てはスメラギと接点を持ち、問い質すため。攻略はその為にしていた。そう考えれば辻褄が合わなくも無い。

 そこまで七色博士の研究に関心を寄せるのは、おそらく須郷伸之のような非人道的な実験か否かが分からないからか。無害なものと分かれば手を引くだろうが、逆に害があるものと判明すれば全力を以て潰しに掛かる筈だ。

 そして、彼にはそれが出来る力がある。

 キリトの推測が正しいなら、七色博士はスヴァルト攻略完了を研究の終了と前提している。それの成就を食い止めるなら七色博士を神輿にした《三刃騎士団》の攻略を妨害する他に、もう一つ手がある。《三刃騎士団》よりも先にスヴァルト最後のボスを討伐する事だ。一度攻略されたエリアボスを倒すという二番煎じに燃え立つ筈も無い。話題性を求めるのであれば一番乗りしか無い。

 ――タチが悪いのは、問答無用でそれを実行できる点にある。

 キリトからすれば、七色博士の研究に関係があろうとなかろうと攻略してしまえばいい話。《三刃騎士団》より先に攻略すれば目論見は潰れると言っても過言では無い。

 その事でクラスタ達からは叩かれるだろう。

 だが――言ってしまえば、それだけだ。《織斑一夏》として叩かれている現状と何ら変わらない。

 そして七色博士とスメラギは、キリトの行動を非難出来ない。現状研究の事は世間的に告げられていないからだ。研究関係無しに純粋に遊んでいるとしても先に越される方が悪いだけ。

 ――引っ掛かるのは、どうしてこんな衆人環視の中で問い質しているか、だけど……

 《三刃騎士団》、クラスタ達が見ている前では、余人に話せない事がどうしても出て来る筈だ。セブンとフレンドらしいキリト相手と言えども口ごもるのは必然。それを分からない彼では無い筈なのに、何故。

 まさか、心証を悪くするため、だろうか。

 七色博士はその歌とカリスマ性、話題性で多くのファンとクラスタを作り出しているアイドルだ。そこに後ろ暗い噂が流れれば離れる者も出る。ネットワーク社会という不特定多数の人間を対象にした研究で、アイドルとして人を集める必要があるのに離れていく自体になれば、研究は否が応でも中断せざるを得ない。

 研究に関係していると答えれば、心証を悪くし、人心は離れ、研究続行不可能に。

 関係していないと答えれば、研究を発表する時のデータ元が災いし、評価されなくなるか、発表出来ても世間的に認められ難くなる。

 言い逃れが出来ないよう衆人環視の中で問い質しているのか。

 だとすれば……彼は、なんと狡猾なのか――――

 

「いい加減にしろッ!」

 

 戦慄を抱いていると、一人の男性プレイヤーが足音荒く歩み出た。スメラギよりも前に出てキリトと対峙する。

 そのプレイヤーは、私達にハイエナプレイをした集団のリーダーだった。

 

「さっきから黙って聞いていれば、我らが愛する平等と平和を歌うセブンになんと罰当たりな事を言っている! あのセブンがそんな非道な事をする筈が無いだろう!」

 

 セブン愛に燃える男に同調するように、そうだ! なんて罰当たりな! と、クラスタ達が同調する。別の意味で剣を抜きそうな雰囲気だ。何故かデジャブを覚える。

 

「よしんばセブンが研究の為にアイドル活動をしていたとしても、我々はそれを疎んじる事なく、むしろ喜んで協力するとも! 須郷伸之のような非人道的な実験などしないと信用しているからだ!」

「「「「「そうだ! そうだ!」」」」」

「【歌姫】セブンこそ、我々が愛すべき高嶺の花! 敬うべき天元の菊! その意志は下賤な身では到底推し量れはしない高尚そのもの! その思想を穢し、貶める発言は、断じて許されるものではないぞ!」

「「「「「そうだ! そうだ!」」」」」

 

 その様子に、キリトは無表情になり、息を吐いた。

 またか、と言いたげな様子だ。彼もなにかデジャブを覚えたのかもしれない。大いに見覚えがある一幕だ。

 

「平等を謳うセブンを神輿にしているのに自分達で高尚下賤と格差作ってるんじゃあ世話無いな。上がどれだけ平等を謳おうが、下がこの有り様だと有史以来不平等しか築けないのも頷ける話だ」

「貴様ァ! セブンの理想を実現できないと言うか!」

 

 呆れたように――事実そうなのだろう――言うキリトに激昂し、シルフのリーダーが腰の剣を抜いて斬り掛かった。スメラギが止める間もなく振るわれる剣。

 それはキリトの黒剣に阻まれ、止まった。

 

「実現できないのはあんた達のせいと言ったんだが、迂遠的過ぎて分からなかったか? あと平和はどこに行った」

「貴様は敵だ! セブンの、彼女を花と愛でる房である我々の敵だ! 貴様のように穢れた者との和解なぞあり得んわ!」

「おうおう、今度は区別という名の差別か。愛でるべき花の理想からの乖離が加速してるぞ」

「黙れぇぇぇええええええええええええッ!!!」

 

 力尽くで剣が弾かれ、キリトが後退する。

 

「黙れ、ね。今度は自由の否定とは、なるほど、やるじゃないか。自由、平等、平和の三つ全てをあんたは自分で否定して見せたぞ。つまりは(歌姫)の否定だ。弁明はあるか?」

「おのれ、おのれおのれおのれオノレオノレオノレ――――!!!」

 

 くす、と無から酷薄な笑みへと表情を変えて言うキリトに、怒り心頭のリーダーが叫ぶ。

 ……ここまで誰かの悪感情を手玉に取るキリトは初めて見るかもしれない。

 ぎりぎりと歯軋りし、怒りを露わにするシルフクラスタ。彼の後ろには同じように怒りを露わにした千人近いクラスタ達が武器を手に構えていた。

 その人数を前に、それでも身構えもせず、自然体をキリトは保つ。

 ――認識のズレを知覚する。

 彼は、これを脅威と見ていない。勝てると、そう確信している――!

 

「そもそもあんたには平等や平和を謳う資格は無いと思うがね」

「なんだと……!」

「今の状態と言動もそうだが……――――そもそもお前達、ユウキ達に横取りプレイしただろ」

「なに……?」

 

 目を眇めてのキリトの発言。

 それまで黙っていたスメラギが、訝しげな声を上げた。

 

「それがどうした!」

「自由と平等を謳う【歌姫】を神輿にしているなら曲がりなりにも末端であるお前達も相応の振る舞いをするべきだろうと言っているんだ。【歌姫】に勝利を齎すべく独自に活動するのはともかく、それで【歌姫】の顔に泥を塗るような行動は、本来自粛するべきものじゃないのか」

「全てはセブンの勝利の為だ!」

「そのために他の連中は犠牲にする、と? とんだ不平等だな。なんだ、お前達の『平等』とやらは、同じクラスタじゃないと適用されないのか? だとしたらとんだ一神教紛いの思想だ。他を認めないお前達の言動は決して平等ではないし平和的でもない。ハイエナプレイは否定しないが、それを『セブンの為』と他人を理由にするのは違うだろ……それは責任から逃げているだけだ」

 

 一瞬だけ、苦悶に表情が歪んだ。彼が言っている事はかつて己を矯正した義姉の言葉そのもの。自分で過去の傷を抉るような言葉を言っているから苦悶を抱きもするだろう。

 それでも言うのは、クラスタの行動が度を過ぎているか、見過ごせなかったからか。

 あるいは、私達に危害が加えられたからか……

 

「――そこまでだ」

 

 ヒートアップしそうなキリトとクラスタ達を止めたのは、スメラギの一言だった。今にも斬り掛かりそうなシルフを押しのけ前に出た男は、まずこちらに視線を向けた。

 

「貴様ら、この者達に横取りされたのは事実か」

「え、あ……まぁ、ボス戦をしないで、レバーを引かれただけだからアイテムを取られた訳じゃないけど……」

「事実か……勝手な事を」

 

 ユウキのしどろもどろな答えを聞いたスメラギは、ぎろ、とクラスタ達を睨んだ。まさか睨まれると思っていなかったのか驚きに目を瞠るクラスタ達。

 

「い、いや、でもセブンの為に……」

「だからと言って何でもやって良い訳では無い! 競争は構わんが、ネットマナーとルールは守れ! 貴様らの行動一つが、セブンを貶める事を自覚しろ! でなければセブンを慕う者達全員に悪評が付いて回るぞ!」

 

 ぴしゃりと青年シルフの言葉を遮り、雷を落とすスメラギ。

 そう言う貴方もかなり疑わしい部分があるんですが。

 半目で見るも、気付いていないのかそのままスメラギはキリトに視線を戻した。

 

「キリト、そして【絶剣】一行。今回の件は俺とセブンがクラスタを押し留められていなかった事が原因だ。後日正式な謝罪に伺わせてもらう」

「お前変なところで律儀だな……というか、俺はまだ答えを貰っていないんだが」

「その点については謝罪時に話させてもらう。セブンを交えての方がスムーズだろう」

「……ま、約束してもらえるならこっちとしてもこれ以上追及はせんよ」

 

 事実上衆人環視の中では話せない事も聞けるという言質を取った事になる。キリトも話を聞ければそれでいいのか、食い下がる事はしなかった。

 最初からその一言を引き出す為だったのかもしれない。

 だとすれば、本当に狡猾な少年だ。

 そう戦慄を抱いた。

 

 






 フロスヒルデのエリアボスを討伐してないのにもうクライマックス!

 原典ゲームだと第四エリア終盤での事態です()

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