インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 視点:オールレイン。

 字数:約一万五千。

 展開の割に淡々としている気がしますがモチベの問題だからゆるして()

 ではどうぞ。




第四十章 ~狂う()()

 

 

 二〇二五年五月九日午前零時。

 キリトの幻影の奇襲を警戒して人海戦術で探索を進めていた彼らは、わたしがログインを果たした事で時間稼ぎをしなくて良くなり、幻影が襲わなくなったことで、思い切って【歌姫】をレイドに加えて一気に進行して来た。大本のキリト本人がログアウトしたか、非常に扱いの難しい分身の操作を維持できなくなったかで好機と見たのだろう。

 【闇のイグドラシル】最深部ひとつ前の広間に数百人規模の集団が到着したのは、わたしとキリトが一時間ほど待った時だった。

 

「ボスが控えてるのかと思ったけど、居たのはキリト君とレインの二人だなんてね」

 

 側近に守られながら広間に入って来た七色が、冷厳な雰囲気を纏いつつ、そう切り出した。

 

「てっきりもう諦めたのかと思ってたわ」

「始終俺が有利だったのに諦める理由は無いな」

 

 肩を竦めながら言うキリトに、《三刃騎士団》やクラスタの面々が苛立ちを含んだ視線を向ける。だが、誰も言葉は発さない。彼の言葉が真実である事は火を見るよりも明らかだったからだろう。たった一人でまる一日、千人以上のプレイヤーを相手に大立ち回りを演じ、その全てで全滅へと追い込んだのだから。

 むしろ事ここに至って未だ諦める素振りが無いのは流石だ。執念と言ってもいいだろう。

 

「――疑問だったのだけど、キリト君は誰かに頼まれたから私の邪魔をするの?」

 

 そう、あくまでわたしを無視して話を進める七色。そんな彼女の態度に内心苛立ちが募るも、いまはそれを爆発させる時ではないと自制する。

 感情的になるのはいまではないのだ。

 並んで立つ少年は横目で一瞬こちらを窺ったが、すぐ視線を正面に戻した。それから首を横に振る。

 

「残念だが違う」

「違う? もしかして、キリト君は個人的に邪魔をしてたの?」

「半分は。元々俺が【スヴァルト・アールヴヘイム】の攻略をしていたのも、『契約』……七色・アルシャービンの思惑や動向の調査が目的だったから。逆に言えば、調査だけだ。現状妨害の指示は受けていない」

 

 あと――と、再度彼の視線がわたしに向けられる。

 

「同じ調査として、隣のレインからも『お願い』を受けていてな。依頼内容が被っていたから同時に引き受けていた」

「ちょっと待って。まさか、彼女に話したの?」

「ああ。俺は依頼を果たしただけだ。()()()()()()と言われてなかったしな」

 

 飄々と言ってのける少年に、七色が苦い顔をした。確かに言葉にしていないが、そこは察するべきだろう――という考えが手に取るように分かる。

 でも明確に言葉にしなかったのは彼女の落ち度だ。社会なんてそういうものである。

 そう言わんばかりの態度でキリトは腕を組む。

 

「なんだ、不服そうだな? 別に七色博士は疚しい事をしている訳じゃないんだろう? なら俺が誰に何を話そうが構わない筈だ」

「……私が彼女の事を嫌遠していると知ってる筈でしょう。その人は、私の『姉』を騙る嘘つきなのよ。人気が出た芸能人の近親者を騙る人なの」

「――っ」

 

 睨みを向けられる。

 やっぱり憶えていないのか、という落胆が胸中に湧くが、それでもいいんだと無理矢理開き直る。

 七色が枳殻虹架(わたし)の実妹である事を、母とわたしが知っている。それで十分だ。わたしの事を覚えていない事実は、わたしがこうして立ち上がった事を否定する理由になり得ない。それだけでは足りない。

 ――そう、自身に言い聞かせる。

 

()()()()()()()

 

 険悪に傾こうとする流れが、彼のその一言で大きく変えられた。

 

「レインが七色・アルシャービンの実の姉であろうとなかろうと俺とレインの間で結ばれた契約を不履行にする理由にはなり得んな。互いの信用の下に依頼とそれに見合った報酬を約した契約だ。お前がレインをどう思おうが雇われの俺には関係無い。当然逆も然り、レインがお前をどう見ていようと同じ事だ」

 

 数百、数千――《MMOストリーム》での中継とリアルバレしている現状を鑑みれば、下手すれば数十万人を敵に回しかねない発言に、七色達は息を飲んで絶句した。

 わたしも、そこは同じ。

 ただ――いまは、彼の泰然とした姿に、安堵を感じていた。頼ってよかったと思える信頼を彼に覚えた。

 

「話を戻そう。俺が《三刃騎士団》を妨害するように動いていたもう半分の理由は、レインとの契約――の、サービスだ」

「……サービス?」

「ああ。まだ報酬を貰っていない以上、契約関係は解消されていない」

「つまりただ働きって事?」

「それは解釈の仕方にもよるが、俺はレインに協力すれば益があると判断した。それだけだ」

 

 意味深に笑みを浮かべながら、そう言うキリト。

 かなりややこしい言い回しだが、要は彼が言う『個人的な理由』にも『わたし』が関係していると言っているも同然である。わたしの『お願い』へのサービスが半分、わたしの行動と利害が一致するから付き合っている、それが彼も妨害に協力してくれている理由だ。

 ――本来であれば、そんな事を語る必要性は無い。

 しかしいまは《MMOストリーム》での中継が為されている。大衆から痛くない腹を探られない為にも、少しだけ情報を開示しておくパフォーマンスは必要だと、彼は言っていた。

 それでも彼自身の理由について秘しているのは相変わらずだなぁと思う。

 彼の言う『目的』が何なのかはわたしも知らないが、それは良い。協力してくれるだけで本当に助かっているから。

 

「とは言え勘違いするなよ。丸一日妨害し続けたのも全てはレインの意向に沿っただけ、契約が無ければ俺は此処には居なかった」

「……という事は、私を本当に妨害しようとしてるのは、レインって事ね?」

「そういう事になる」

 

 そう答えたキリトは、半歩下がり、相対的にわたしを前に出した。

 ここまで彼がお膳立てしてくれたのも全てはわたしのため。わたしの行動が彼の目的に還元されるとはいえ、それだけでお膳立てする義理は無い。彼なりの気遣いがとても嬉しかった。

 だからこそ――わたしは、わたしの意思をぶつけなければ、と強く思う。

 『姉』である事は隠して――――

 

「レイン……一応聞いておくわ。あなたが私の邪魔をするのは、どうして?」

 

 億劫そうに、息を吐きながら問われる。本当に『一応』というあからさまな態度。どれだけわたしの事がキラいなのかとも思うが、見ず知らずの人間が肉親を名乗って来たらそうもなるか、と一定の理解を示す。

 

「あんたの話を聞いて、気に入らなかったからよ」

 

 ――違う。

 かつて見た明るい笑みが消えていて、代わりに作られたような大人びた笑みが、すごくイヤだったから。母がその顔を見る度に物憂げな表情でテレビに映る少女を見つめていたから、止める決意を固めた。

 でも――それだけでないのも、確かだった。

 気に入らないのは本心だった。

 

「キリト君から聞いたわ。その羽飾りを通してクラスタの人達からOSSを()()()()()貰ってるんですってね、製作者が使えなくなるデメリットに対して何も見返りを出さないで……あんた、OSSを一つ作るのにどれだけ努力しないといけないか知ってる? 気が遠くなる時間、嫌気が差すほどの反復練習――血の滲むような努力の末に漸く一つ出来るのがOSSなのよ。その人が努力した結実なの。それを何の見返りもなしに奪い尽くすなんてふざけてるとしか言えない」

 

 それは――と、一拍の間を開ける。

 

「……それは、プレイヤーとしてこの世界に遊びに来てるわたし達の否定に他ならないわ。仮にもアイドルをやってるのに、みんなに夢を与えるのがアイドルなのに、逆に奪ってどうするのよ……!」

 

 沸々とした苛立ちが、言葉の端々に乗り、紡がれる。

 アイドル。それは、わたしが抱き、けれど確実性が無いからと否定しようとしている将来の夢だった。サブカルチャーに嵌り、バイトもメイド喫茶をはじめそれ系に傾倒する程に好きな夢。歌を歌い、踊り、笑顔で人々を楽しませる、夢の職業。

 七色は天才科学者をしていながら、ALOではアイドルとして人気を博し、大成している。

 だからわたしは、余計自分へのコンプレックスを強く持った。それ故か彼女への苛立ちも一際強くなっている。

 ぎゅっと、薄手の手袋に包まれた手を握り締める。強く強く少女を睨み付ける。しかし――七色は、ふぅ、と息を吐いた。呆れたと言わんばかりに(かぶり)を振り、肩を竦める。

 

「何を言うかと思えば……あのねぇ、わたしは一度も強要していないわ。それに間違った事も言っていない、それは皆が賛同してくれている事からも明らかな事実よ。それに何の見返りも無い? そんな事は無いわ、いまこうして攻略を進めて、そしてもうすぐスヴァルトを完全制覇出来るところまで来ている。制覇した瞬間の喜びをこそ彼らへの見返りよ。むしろ、使えなくなるデメリットの上で継承させてくれたみんなに応える為に、私はここで攻略を諦める事は出来ないの。レインの言葉を借りるなら――アイドルだからこそ許されない、と言っても良いわ」

 

 淡々と、子供に言い聞かせるように丁寧に言う七色の言いように、得も言えぬ不快感を覚える。それを知ってか知らずか、彼女は手を振った。

 

「だから、私は皆と一緒に【スヴァルト・アールヴヘイム】を完全攻略する使命があるの。倒させてもらうわ」

 

 その言葉か、あるいは手振りが合図だったのだろう。意外に忍耐強く、割り込む事無く沈黙を保っていたクラスタ達が、スメラギを先頭に武器を構え始めた。

 どうやら対話もここまでらしい。

 もっと言いたい事はあったが――しかし、まだ機会が喪われた訳ではない。

 彼女がスヴァルトの完全攻略を為すには、わたしとキリトを倒し、最奥へ続く扉を開く必要がある。わたし達が撤退しない限りこの戦闘は避け得ないのだ。そしてキリトの継戦能力と底力はSAO時代からよく知っている。まる一日戦い続けたせいで疲れはある筈だが、泰然とした立ち姿からはそれを感じられず、頼もしい限り。

 元より一度の対話で止められるとは思っていない。ある意味、これも予定調和だ。

 両の腰に吊るした二剣を抜き、構える。

 先頭に立っていた七色が後退――

 

「おっと」

 

 ――しようとしたところで、天井から様々な武器が降り注ぎ、壁を作った。

 寸での所で串刺しになるところだった七色が慌てて前進する。彼女はスメラギ達と分断された。

 

「こ、これは……!」

「俺を忘れるなよ」

 

 七色とスメラギ達を物理的に分断した張本人の少年は、腕を組んだままそう言った。わたしの隣に再び並ぶ。

 動揺していた七色も、SAOのボス戦を見て、虚空から武器を召喚するキリトの武器を把握していたのだろう。彼の言葉を聞いて冷静さを取り戻し、代わりに苦々しげに彼を睨んだ。クラスタ達が槍や剣の柵を越えようとする四苦八苦するも越えられないでいるのを尻目に、七色はストレージから取り出した槍を手にした。

 

「キリト君……きみは、どうあっても、私と敵対するのね」

()()の筋書きに付き合う筋合いも無いからな」

 

 そう言って、組んでいた腕を解き、右手を上げる。

 警戒が更に高まる中でぱちん――と、乾いた音が響いた。

 彼が指を鳴らしたのだ。直後、彼の頭上の緑ゲージが一ドット残して白くなった。同時にわたしの肢体を光が包み込み、視界端の自分のゲージ横にバフアイコンが並ぶ。物理攻撃力、物理防御力、魔法攻撃力、魔法防御力の各ステータスがアップしたアイコンだ。

 再度腕が組まれるが、今度は左手が持ち上げられ、ぱちんと指が鳴る。

 今度は青ゲージが全て消滅。再びわたしは光に包まれ、バフアイコンが更に並ぶ。今度はHPリジェネ、MPリジェネ、自動復活バフの三つ。

 

「そんなものまで……」

 

 新たな《オリジナル・スペルスキル》の登場に、七色とクラスタ達が更に苦い顔をする。ブラスター系をはじめ、多くのOSSに苦しめられた彼らからすれば、新たなスキルの登場は心から喜ばしくない事態なのだ。それに加えて《ⅩⅢ》を使い始めるとなれば尚の事苦しい戦いになるだろう。

 

「驚いたか? それとも、不思議か? なぜ【嘘つき】と呼ばれるレインに対し俺はここまで支援をしているか、と」

「当たり前でしょ。きみはもっと公正明大な人物だと思ってた。少なくとも、直に会って会話して、その印象は強くなったわ」

 

 そう七色が答えると、ふん、と彼がまた鼻を鳴らした。

 

「それは『そうあって欲しい』というお前の願望に過ぎん。もし俺が真に公正明大な人間であればSAO時代に犯罪を犯したあらゆるオレンジ・レッドプレイヤーを誰一人として殺さなかっただろうよ。結果的に全員生還したとは言え、殺す事を覚悟して斬った事実まで消えはしない。捕縛と殺人とで対応を分けた事実が俺が公正明大ではないという何よりの証左だ」

「だからって……」

「無論、交友があるからというだけで協力している訳ではない。これでも人を見る眼はあるつもりでな、その人間が虚実どちらを口にしているかくらい、俺とて分かる」

 

 公正明大では無い――つまり、贔屓をする人間だと声を大にして宣言した彼は、その上で、友人だから手を貸している訳ではないと付け加える。

 

「この戦い、レインは(ほう)(ゆう)に背を向け、築いてきた関係をも(なげう)ち、己の身ひとつで挑む恐ろしさを抱えた上で此処に来る(しん)(ざん)だった。俺がこちら側に居るのもただの巡り合わせ、契約を結んでいなければ俺とてただ傍観に徹していただろうよ」

 

 ――だがな、と。

 彼は言葉を区切った。力強い言葉の流れが途切れ、場がぴんと張り詰める。この場で唯一武器を構えない彼は、しかし誰よりも他者を威圧し、安易に距離を詰めさせない迫力を纏っていた。広間にいる数百以上の人々の意識を彼は支配していた。

 

「図らずも知ってしまった以上、かつて同じ選択をした者として見て見ぬ振りは出来ん。人が思う以上に孤独とは恐ろしいものだからな」

 

 どこか遠い目をしながら――それでも集団から目を離さず、【黒の剣士】は強い語調で言う。

 

「つまり、俺が此処に立つ事を良しとしたのは、レインの固い決意が本物だと分かったからだ」

 

 そこで、横目でわたしを見てきた。

 彼の顔には、確かな信頼と、心強い笑みが浮かんでいた。

 

「故に、この場に単身で乗り込む決意を固めたレインの勇志に応え、俺はあらゆる協力、支援を惜しみはしない。今この時のみレインの敵は俺の敵。それが俺の言う『サービス』だ」

 

 そう、彼は言い切った。

 

「……何よ、それ……」

 

 ――くしゃりと。

 少女の顔が一際歪んだ。

 

「私は間違ってないわ。皆に期待されて、これだけの味方に囲まれてる私が、間違ってる筈ない!」

 

 悔しそうにそう絞り出される言葉。本気で悔しげな態度は、それだけキリトに抱いていた信頼の裏返し。彼自身の意思でわたしに味方する事を良しとした事実を受け容れたくないと、そう叫んでいるかのよう。

 それは、まるで。

 まるで、心から信じられる人に拒絶されたくないと、そう思っているかのような……

 ――喚く少女の言葉に、少年が息を吐く。

 ため息、ではない。気持ちを切り替えるための深呼吸。垣間見えていた少年の自信が引っ込み、代わりに冷徹なまでの剣士の顔が表に出た。

 ――武器の柵を色とりどりの魔法弾が飛び越えて来る。

 彼が纏う空気が剣呑なものになった事を察して、待機状態にしていた魔法を後衛クラスタが解き放ったのだ。

 しかし、それらがわたし達を害する事はなかった。虚空から瞬時に飛翔した氷や雷が全ての魔法弾を迎撃、無力化したからだ。魔法弾に合わせた色の爆発が広間空中に発生する。それで我に返ったのか、柵に間近な前衛組が声を上げ始めた。

 七色は動かない。動けない、と言った方がいいのか。彼女からしてもキリトの存在は相応に大きいらしい。

 

「クラスタの相手は俺が引き受ける」

 

 少女を見ているようで、その実、彼女の向こう側に犇めく者達を見ていた少年が端的に言う。

 そう言う彼の()()()()は自動回復で漸く一割回復する程度。普通なら止めるところだが、少なくともこのALOではその必要が無い事をわたしは知っている。これまで彼が《三刃騎士団》と相対した時、全て無傷で全滅させていた事を知っているからだ。

 

「その状態で、大丈夫なの?」

 

 とは言え――必要が無いからと言って、心配しなくていい訳ではない。そう理屈で結論を出す前に言葉がついて出ていた。

 腕を組んだまま風で浮き上がり、同じ高さの目線になった少年が、横目で笑う。

 

「俺を誰だと思っている。デスゲームの頃からひとりで数百のプレイヤーレイドを相手取って来た《ビーター》だぞ?」

 

 強気に返される。

 ――言葉で自身を露わにするのは非常に珍しい。

 普段の彼であれば言葉には表さない。よしんばしても、後半を口にする事は無い。そこまで言い切ったのは、クラスタ達への牽制と、わたしを安堵させる目的があるのだろう。そして目の前の事に集中させようとしている。

 お前は自分のやるべき事を果たせ――彼は、そう言ってくれている。

 ありがとう、と。そう小さく伝えると、彼は――おそらく心からの――笑みを浮かべ、それから仁王立ちのまま七色を飛び越え、クラスタ達と【歌姫】を分断する武器の壁の上に降り立った。

 それを見ていた七色が、キッ、と鋭い眼差しでわたしを睨む。そして槍が構えられる。杖にも思える黄金の柄に、天使の羽根のを象った穂先、穂先の中央部に翡翠色のクリスタルを取り付けられた豪奢な槍だ。レア度も相応に高いだろう。

 

「私は、止まるつもりは無いわ……止まる訳にはいかないの……!」

「いいえ、止める。わたしがここで」

 

 応ずるように、わたしも二本の両刃直剣を構え直す。彼女の武器に比べ見るからにレア度で劣っているが、だからと言って負ける気は無かった。

 わたしの態度にイラついたらしい七色は、強く歯を食いしばり、怒りの表情を露わにした。それすらも絵になるのだから彼女の美少女ぶりは空恐ろしい。これで大人へ成長すればどうなってしまうのか、と場違いな思考が浮かんで消えた。

 

「この……っ、皆から譲られたOSSを操る私の力を、()(くび)るなぁっ!」

「調子に乗るのも……大概に、しなさいよッ!」

 

 ――これが姉妹にとって初めての姉妹喧嘩の始まりだった。

 

 *

 

 互いに怒鳴り合ってからの初撃は同時に放たれた。

 互い目掛けて突進し、わたしは右の剣を七色の体に叩き込まんと振るい、彼女はわたしの体を貫かんと突き込みを放つ。流石に一撃ではダメだと思ったのか、あるいはソードスキルを使った方が良いと判断したからなのか、七色は翠色の光を纏った刺突を放ってきた。

 対するわたしは紫光を宿す横薙ぎ、このままでは当たってしまうのも必至だろう。

 

「なっ?!」

 

 しかし、その横薙ぎは神速で()()()()()槍の一撃を弾く。

 ただシステムに任せたソードスキルの動きなど、ソロが長かったわたしにとって弾く事は容易だ。自力で動いてブーストしているキリト達やわたしからすれば動きが単調な上に遅い。

 わたしのソードスキルはまだ終わらない。右に薙ぎ、それとほぼ同時に思える速度で今度は左へと薙ぐ、一瞬二閃のソードスキル《スネークバイト》だ。紫光の光芒を引きながらの二閃は一度の斬撃に見える程に重なって振るわれた。右手の剣は、左へと振り抜かれて止まる。

 わたしはそこで、手首を返して再び振るう構えを、技後硬直が課されるまでのラグで取る。

 すると今度は蒼光を宿し、そして振るわれた。《剣技連携》を片手で使ったのだ。

 

「な、れ、連続して……?!」

 

 莫迦な、そんな事が出来るだなんて、と驚愕し考えた事が表情に出ている七色の周囲を回りながら横一閃に斬り付けていき、最後に正面へと戻って右へと薙ぐ。水平四連撃ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》だ。

 片手版剣技連携はSAO時代に彼が既に使っていたシステム外スキル。左右の剣で交互にソードスキルを繰り出す世間的に知られている《剣技連携》の方がバリエーションは豊富で成功させやすいので、彼自身そこまで使っていなかったこれを、かつてリズベットとシリカが攫われた際に披露した事があったと聞いていた。その時は《スラント》から《ヴォーパル・ストライク》へと繋げていたという。

 わたしは左右交互に使う方も碌に出来ない。ただずっと使い続けていたスキルだから、片手で連携させられるというだけ。他のソードスキルは繋げられない。

 

 だが――それで十分だ。

 

 あの世界を生き、この世界を楽しんできたわたしが、嫉妬を抱くも大成している妹を誉れに想っていたのに裏切られたこの怒りをぶつけるのなら、たった一つの連携しか出来なくても構わない。この世界を研究の場としか見ていない大馬鹿者へ怒りをぶつけるのなら、これでも十二分だった。

 何故なら、七色が操るアバター《セブン》のHPは、全てで五撃入っただけで危険域である二割へと落ち込んだからだ。戦闘が得意でないとは言えあまりに低すぎるHPは、今まで碌に自身を鍛えてこなかった何よりの証左。

 驚愕、そしてあり得ないというその表情を向けてくる七色の両手から、あまりに長大で似合いもしない煌びやかな長槍を左の剣で弾き飛ばし、右の剣を首元へと突き付ける。

 部屋の奥の方でカラァンッ! と音が鳴った。

 

「な……何なのよ、今の……」

「キリト君が使っていた《剣技連携》の片手版。わたしが使える唯一のシステム外スキルでもある」

「つまり既存のスキルってこと……? ならおかしいわよ、私が放ったのはOSSだったのに、負けるなんて!」

「いいえ、おかしくないわ」

 

 怒鳴る七色に、わたしは冷静に否定を返す。

 

「何故なら、たった一つのわたしのこの技とあなたの持つ無数のOSSとの間には、決定的な違いがあるからよ。自らが鍛え上げて得た力か否かという違いが」

「な……」

「あなたにどれだけ力があろうと、どれだけ多くの人から力を与えられていようと、あなた自身が弱いのなら、それはあなたの力では無い。与えられた技達もあなたが使いこなしていないのならただのお飾り。OSSっていうのはね、ただの力じゃないのよ」

 

 《オリジナル・ソードスキル》、略してOSSと呼ばれるそれは、決して並大抵の努力では得られない力だ。自身の発想、経験、脳のシナプスとアバターを動かそうとする感覚と電気信号などの全ての要素が高次元に踏み入る事で、初めて得られるという途轍もない証。ユウキの《マザーズ・ロザリオ》十一連撃、ユージーン将軍の《ヴォルカニック・ブレイザー》八連撃も、二刀剣技に連撃数で劣っている筈のそれらが羨ましがれ賞賛される理由はそこにある。

 美しい剣舞である《マザーズ・ロザリオ》然り、荒々しい剣戟である《ヴォルカニック・ブレイザー》然り、決して【黒の剣士】が放っていた十六連撃に劣っていない。

 そこには彼女と彼の、これまでの経験と生き様が刻まれた剣技という形を得た証がある。

 キリトも、だからこそ《二刀流》のソードスキルをOSSとして復活させていたのだ。彼のSAOでの生き様を引き継ぎ、この世界で表そうとしていた。一プレイヤーとしてのあの世界で唯一無二の力を与えられたという誇りを形にしている。あの世界での役目を終えたと言う彼が二刀剣技を別の形で復活させているのは、それが彼を構成する強さだからだ。

 中々形にならない苦痛、苛立ち、これまでの経験全てをぶつけて形にしようという強い想い、自身が描いた剣技を人に認められる喜びの結実たるOSSは、ただの飾りでは無いのだ。

 

「OSSは短い単語だけど、その短い名前には誰にも語りようが無い努力、時間、強い想念の詰まったその人の生き様そのものなの。その人が作り上げた全て……ALOをプレイする人達の、謂わば人生に等しい。それをただ譲られて、熟練度の数値も引き継いで、十全に力を発揮出来るとでも思っていたの? ――だとしたらあんた、人の想いを舐め過ぎよ」

 

 それを最も深く理解しているのはキリトだ。

 わたしもよく理解している。あの世界で二刀剣技の秘伝書を渡された時の重みは未だに記憶に残っている。一時期は《攻略組》の一員として剣を振るわなければならないと、須郷伸之の実験に巻き込まれカンストしたレベルを見ながら、思い悩まされたものである。

 しかし、それを否定してくれたのは彼だった。

 二刀剣技は元を正せば彼のもの。けれどもっと根本を辿れば、システムが定めた技に過ぎない。《技》に固執する必要は無い。それをどう振るうか、なにに使うかが重要だと、彼は語った。

 わたしにとっての戦い。それは、《攻略組》を支える鍛冶屋に貢献し、間接的に彼らを支える事。多くの高レア素材を集め少しでも強力な武具を提供できるよう戦う事。

 そのために継承した二刀剣技を使った。彼は、それを是とした。

 

「人のものをただ貰って、それを使えるだけで強くなったつもりなんて、ただの泥棒と同じ。あんたがしている事は茅場さんが作り上げた世界で《神》を自称してた須郷と何も変わりないよ」

「な……何ですって?!」

 

 わたしの言った事に、剣を突き付けられている事も忘れたように怒りを見せた七色。あんな男と一緒にするなと言いたげなその目を見て、何が違うのよ、とわたしは冷たい声音で口にした。

 

「あんたはただ自分の()()のためだけに、自分に付いてきたプレイヤー達を利用するだけ利用して、彼らの全てを形にした力を自らのものにしてる。システム上のルールには違反していない、誰もが賛同したと言って。それのどこが違うと言うの?」

「私はみんなの期待に応え、皆はその見返りをくれた……! これは互いに利益を分け合う純然たる交渉よ! みんな幸せなんだから良いじゃない!」

 

 そう、心の底から思っていると分かる熱の籠った言葉に、瞬間的に血が上った。

 

「皆がチヤホヤするのは、アイドルのあんたに惚れ込んでるからでしょうッ! 利益なんて彼らには関係無いわッ!」

 

 アイドルは、人を笑顔にする仕事だ。

 生活があるからステージを見る観客に金銭を払ってもらいこそすれ、そのパフォーマンスそのものは無償であるべきものである。アイドルが何かを金銭を求めた時、多くの人が離れていくのは、(アイ)(ドル)を偶像のままにしていたいという欲求があるからに他ならない。

 少なくとも――利益を目的にしたやり取りは、アイドルにはご法度だ。

 しかし根っからの研究者気質の彼女には分からないのだろう。いやいやと、子供のように首を横に振り、わたしの言葉を拒絶する。

 

「でも私は、ちゃんとリアルの事も明かしてる! その上でみんなは付き従ってくれてる! こんな清廉潔白な行いの結果をそんな風に言わないで欲しいわ!」

 

「ならハッキリと、キリト君達に言ったように、『実験のためだった』って明かしなさいよッ!」

 

 そう――ずっと敢えて言及しなかった点を、口にする。

 クラスタ達に伝えていないだろう『研究』。彼女の肩書きを警戒し、しかしアイドルとしての顔に騙され、警戒を解いた人々が知らない事実。

 

「リアルを明かしてるのはあなただけじゃない、キリト君だって同じなのよ、あなたと同じ条件の上でこうして此処に立っている! 来る者は拒まず、去る者は追わず、()()の問題をこっちに持ち込む事は殆ど無い! けど、あなたはどうなのよ?! 実験のためならシステムに規定されている事であれば何でもして良いの?! 皆が付き従っているから、賛同してくれているからしていいの?! そんなのSAOで殺人を愉しんでた連中と何も変わらないわよッ!!!」

「な、なん、ですって……?」

 

 殺人快楽の集団――《笑う棺桶》はSAO時代の人殺しを、実際に殺しているのはナーヴギアでありアインクラッドに閉じ込めた茅場晶彦だ、と言って責任逃れをしていた。

 PoHが刷り込んだこの言葉は、システム上でPKを禁止されておらず、それがプレイヤーに許された権利だからと言って、その言葉を刷り込んで犯罪に手を染める事への意識の壁を低くし、次々と窃盗、殺人を初めとする犯罪行為を繰り返すためのモラルハザードを引き起こした。

 七色は確かに、システムで規定されたルールに抵触してはいない。

 だが決して誰もが許すものでも無い。人によっては怖れを、あるいは怒りを抱いても不思議では無い。ただ(ひた)(すら)に己を鍛え、そして純粋にセブン(アイドル)を慕っていた人達にとって、これは紛れもない裏切りだ。その憧れを彼女の目的の為に利用され、自分が作り鍛え積み重ねてきた結実たる技を損なっただけに終わるのだから。

 

「わたし達は、ここにゲームをしに来ているの! 博士だか何だか知らないけど、よく分からない実験に利用されるのはもう御免なのよ! キリト君達も、わたしも! わたし達に用意された大事な遊び場を、皆が愛するこの世界を、あんたの妙な欲望で、穢さないでッ!!!」

 

 誰もが楽しみにして心を躍らせていた世界をデスゲームにされ、剰え人体実験に平然と利用した男の顔が脳裏に浮かぶ。いま思い出すだけでも怒りが湧いて来る憎たらしい顔。もう少しで一年が経つが、この感情は未だ色褪せる事無く残り続けている。

 だからこそ。

 だからこそ、この世界にはただ『楽しみ』を抱き、臨みたかった。

 妹が邪な事を考えていないと信じ続けたかった。

 だが――それは、裏切られた。

 ゲームを好み、サブカルを好み、アイドルとして歌い踊る己を夢見た。しかし七色の思惑によりそれらは全て穢された。

 ――視界が滲む。

 感情的になるあまり、抑えていた感情が漏れ出ていた。怒りを傍らに哀しみも覚える。雫が頬を伝う感覚。

 滲み、揺れる視界の中で、銀の【歌姫】を強く睨む。

 

「自分の目的のためにクラスタの人達を従わせてるのに、それを教えないまま貰うだけ貰って『清廉潔白な行い』?! 純然たる交渉?! ふっざけんなッ!!!」

 

 心の底から怒りをぶつける。

 ああ、そうだ、だからわたしは気に入らなかった。プレイヤーとしてこの世界で遊んでいる彼らの全てを踏み躙るが如し振る舞い。何も話さず、ただ自分の目的のためだけに従わせる振る舞いが、わたしは心底から気に入らなかった。

 『姉』として、母の想いを汲み、彼女の笑顔を求めようと立ち上がったなら、それを隠しているいまは『プレイヤー』と『アイドルを夢見る一人』として彼女への反骨心を原動力に言葉を叩き付けていた。

 

「人の助けとなるだろう研究の為なのだとしても、それ以外にも出来る事はあったでしょう! ただ研究の為に歌を歌って、平和と共存がテーマの言葉を吐いて、皆に担がれながらラストダンジョンにやって来て、皆を犠牲にし続ける以外、あなたは何をした?! 何をしてきたというの?! ――――誰もが愛するこの世界を、ただ自分の野望と都合の良いおべんちゃらで土足で踏み入って来て、踏みにじっただけじゃない」

 

 

 

 人の助けとなるだろう研究? それが成功する根拠など何処にある、そんな生々しいものなどこの世界には必要無い。

 

 

 

「研究なんて現実側で勝手にやってなさい、仮にこっちがどうしても必要だと言うのならしっかり説明してから協力を求めなさいよ」

 

 

 

 平和と共存がテーマの言葉? そんなおべんちゃらなど聞きたくもないし必要も無い。

 

 

 

「平和と共存の言葉を吐くくらいなら、まずはその人を乗せるためのおべんちゃらを棄ててからにしなさいよ」

 

 

 

 皆に担がれてダンジョン攻略? そんな都合の良い攻略なら初心者ダンジョンでやって来い。

 

 

 

「人に担がれて嬉しいだけならアイドル一筋か科学者一筋に決めて、攻略したいのなら真っ当に初心者らしくパーティー作りからやりなさいよ」

 

 

 

 皆を犠牲にしたけど攻略完了? そんな戦果の何処が攻略だと言う。

 

 

 

「付いて来てくれたギルドメンバーの全てを犠牲にしてどこが攻略なの、笑わせないで。攻略っていうのは犠牲無しが基本なのよ」

 

 

 

 しかもそれが実験の為だっただと? ふざけるな!!!

 

 

 

「この世界はあなただけがプレイヤーのスタンドアロンRPGじゃない、皆で楽しめるMMORPGなのよ。強いボスを倒せて喜び、敵わなければ自分達を磨いてまた挑戦する……まさに生きていられるこの世界は皆で楽しむ為のものなのよ……実験だなんて、わたし達はあなたのモルモットじゃない! あなたの為に戦っていた人達も、あなたに憧れて信奉までしている人達も、誰もが、全員が、この世界を楽しんでいた仮想世界を生きる人間なのよ! 高尚な実験の為だなんて巫山戯た真似で、この世界の、その人達の、わたし達の楽しみを、奪ってんじゃないわよ!!!」

 

 

 

「下らない実験なんかで、わたし達の世界を穢してんじゃ、踏み躙ってんじゃないわよッ!!!」

 

 

 

 奥歯を食い縛り、頬を伝っている涙も無視してわたしの思う事の全てを怒声と共に放った。

 首筋に突き付けている剣なんか剣先が震えている、それどころか体全体が震えている。それくらい抑え切れない怒りを抱いていた。デスゲームと須郷の人体実験という目に遭っていながらもこの世界に来るほど、わたしは仮想世界の事が心底好きで、そしてそれだけ本気で人々に夢を見せるアイドルを夢見ているからだった。

 ――広間は静寂に満たされている。

 当然だ。信じ、慕っていた【歌姫】が、ないと否定していた研究者としての側面が露わになり、自分達を実験に利用していたと知ったのだから。

 『実験』という言葉を七色自身が否定していない以上、それを彼らが現実のものとして受け入れるのも時間の問題だ。

 《クラウド・ブレイン》計画は、クラスタ達が七色に抱く想いが要。彼らの信心を揺らがせた時点で勝ちも同然。信じない者も出て来るだろうが、それでも迷いは生まれる。迷いが生じた時点で純度は下がる。彼女の思惑は達せられなくなる。

 すべて――すべて、彼が言った通りだった。

 難しく考え過ぎず、ただわたしは、わたしが心から思う事を叫べばいい。そう言っていたのは真実だった。

 

「さぁ、あなたは負けたのよ。さっさとこの仮想世界を穢す実験を中止しなさい」

「……いや、よ……」

「この……!」

 

 気丈にも拒否の声を上げ、まだ言うかと胸中に浮かべながら剣先を僅かに喉元へと突き刺す。ダメージすら発生しない僅かではあるが、それでもあまりこの世界での衝撃やダメージ発生時の違和感に慣れていない七色には、これでも十分脅しになる筈だ。

 

「レイン……別にあなたの理屈を全部否定する気は無い…………でも……でも、私は、止まるつもりは……無いわ……実験はまだ、続ける……!」

「……レイン、気を付けろ。様子がおかしい」

 

 彼の言葉を聞き、七色を注視する。

 彼女の瞳は何処か虚ろになっていた。いや、いやよ……と頭に両手を当てて呻くような素振りすらしている。これは明らかに普通の精神状態ではない。流石にやり過ぎたか。

 ――そう思っていた矢先、バジッ、と七色のアバターがポリゴンを散らして形を崩しかけた。

 HPを慌てて見るが二割のところで止まっているし、そもそも見えたポリゴンすら蒼色では無く濁った油のような橙色や茶色といった色だ。普通ではない。彼が言うように、様子がおかしい。

 

「いや、よ……いやよ……! 私は、スヴァルトエリアを攻略した英雄になるの……! 最後の勝利を見せつけて……これからも、皆のアイドルとして、女神として、実験を続けるの……! 《ラグナロク・パストラル》を……歌い続けるの…………!!!」

「ちょ、ちょっと、なな……セブン……?!」

 

 遂には虚ろな表情で笑みを浮かべている七色の全身がバグか何かのようにラグり始めたことで、漸くかなりの異常事態になってきているのだと理解した。

 体に手を掛けようとしたところで、何時の間にか武器の柵を消し、後退していた少年に左手を掴まれ、小さな体の後ろへ庇われる。

 七色は、少年が降り立ったのを見て、苦しげな表情を喜悦へ歪めた。

 わたしの背筋をイヤなものが走った。彼女の顔を見て、ゾッとする。

 

「そ……そうだわ。キリト君が最強のプレイヤーだと言うなら、きみを倒せば、私は更なる英雄として高みに昇る事が出来る……! 私が最強だって、皆に認めてもらえる……! だから……レイン、そしてキリト君……! もう一度、私と戦いましょう……絶対に……絶対に、勝っテ……ミ、セ……」

「七色ッ!」

「レイン?! ちょ、待っ……!」

 

 このままでは七色の身が危ない、何か異常が起こっているから無理矢理にでもログアウトさせた方が良い、と混乱した頭でそう答えを出したわたしはキリトに左手を掴まれたままバグデータのような姿となり果てている七色へと手を伸ばした。

 それに対し、彼女もまた手を伸ばしてくる。

 待てレインッ! という切迫したキリト君の声を無視して伸ばしたわたしの手と、七色の小さな手が重なり……

 

 直後、視界が()で埋め尽くされた。

 

 






・《ラグナロク・パストラル》
 形容詞の「パストラル」は、田舎の話題、あるいは羊飼い・牛飼いなどの農園労働者にまじっての田園地方での生活を指し、それはロマン主義化ならびに非現実的な手法で描かれることが多い。さらに羊飼いの生活を描いた文学・音楽をも指し、それは非常に理想化されていることが多い。
 セブンは《ラグナロク・クエスト》を始め、神々が住まう大地【スヴァルト・アールヴヘイム】を己の理想の実験場と見ていたため、《()()()()()》と《()()()()()》を合わせ、称した(原典ゲームでは特に補完されていないので詳細不明)
 ――それを見抜いていたキリトにより、『理想に溺れて溺死しろ』と言われる。
 本編終盤の錯乱もある意味秘匿していた()()が首を絞めたが故のものなので、キリトの言葉は未来を暗喩したものでもあった。


桐ヶ谷和人(キリト)
 《サービス》と言っておきながら『レインの敵は俺の敵』と本命ばりの事を言った主人公。
 キリト個人の目的は別にあるので計画を止める気は無いが、レインが止めようとしているので付き合っている。その割に全力並みに協力している辺りかなり本腰を入れている様子。本人が言ったように『半分』は己の目的に沿ったものであるため。
 巡り合わせと言ったように、セブンの研究を止めなくとも、いちおうキリトの目的は達せられる模様。
 今話は()()()で無数の武器を突き付けスメラギ達を牽制し続けていた。全滅させなかったのは、レインの言葉とセブンの思惑を知らしめるため。
 ――ちなみに《支援に徹する》と言っておきながら主役ばりに喋っているのは、『腕組み仁王立ち』『指ぱっちんバフ』『虚空から武器召喚』『威圧的な台詞回し』の参考にした『Fate/EXTRA CCC』英雄王の影響によるもの(作者のせい)
 実際下手に動かずじっとしている方が対多数には戦いやすい設定(体を動かさなくて良い分イメージに思考を割けるため)


枳殻虹架(レイン)
 ブチ切れた姉。
 『姉』である事は否定され続けているので、今話では『姉』である事より『プレイヤーの一人』、『アイドルを夢見る一人』としての側面が強い。
 同時、須郷の影響で研究者に対する強い拒否感を抱いているので、研究者として動いているセブンを非常に嫌悪している。その嫌悪がイヤだから『子供らしい七色』になって欲しいと願っているのが地の分の『七色呼び』だが、この点は本人無自覚。レインにとって『セブン』の名は『アイドル+研究者』という認識。それでも頑なに口ではセブンと呼んでいるのはネットマナーを順守するため。
 一応二刀OSSを使えるが、今話は敢えて『自分自身の技』に固執して純粋な技術の賜物であるシステム外スキルを披露した。ユウキと違うのは、レインが出来るのは片手での連携のみである事。逆にユウキは左右交互にしか使えない。
 ――『レインの敵は俺の敵』と言われ、孤独にしないよう想われている事を喜んでいるが、七色への怒りが上回って自覚していない。
 結構自分の感情に鈍感なところがある。そういう意味では、自分に対しては『嘘つき』と言えるかもしれない。


七色・アルシャービン(セブン)
 『姉』にブチ切れられた妹。
 研究の要であるクラスタ達に秘匿していた事実をキリト達に話してしまった時点で詰みだったが、『私は間違っていない』という妄信にも似た思い込みにより気付いていなかった。『正しければ誰もが従ってくれる』という理屈ありきの信用が裏目に出たのである。
 錯乱してからはシステム的な異常を来しているようだが……?


 ヒント
1)原典ゲーム《インフィティ・モーメント》第百層ボス

2)()()()()の存在

3)MH()CP()のデータを《ナーヴギア》へ移す際、切り離した時のデータ元は【カーディナル・システム】

4)【カーディナル・システム】をそのままコピーしたものがALOのコピー・カーディナル

5)《クラウド・ブレイン》は『一人のプレイヤー』に感情を集約する計画

6)感情統一=脳波一致が究極の目的なので、集約する感情は、別に『達成感』でなくとも構わない



・《魔術》
1)
名称:破壊の(クロ)
動作:右手親指、人差し指で指ぱっちん
詠唱:――
消費:HP99%
効果:物理攻撃力25%アップ
   物理防御力25%アップ
   魔法攻撃力25%アップ
   魔法防御力25%アップ


2)
名称:再生の(シロ)
動作:左手親指、人差し指で指ぱっちん
詠唱:――
消費:MP100%
効果:HPリジェネ(50%/分)
   MPリジェネ(50%/分)
   自動蘇生(一回)


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