インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 なんで束さんは回線を閉じようとしないのか、の追加描写。

 後で前話と合体させます(前話の後書き的に)

 ちなみに今話の後書きは本文よりちょっと多いです。

視点:束

字数:約二千

 ではどうぞ。




幕間之物語:天災編 ~想イ、願イ、人ヲ信ジ、心を得ル~

 

 

 ()が舞い、()が散る。

 一万の集団に殺到される中、小さな()が賢明に抗っていた。それを仔細に眺めるカメラ。それを仔細に発信する動画。

 ――これで良かったのか。

 今にも切れそうな回線を、あらゆるリソースを費やす事で維持する中で、幾度目か知れない自問自答を浮かべる。

 この行いは、私の勝手な行動だ。彼を想ってした事がいま裏目に出ている気がして止まない。止めた方が良いと今は思う。早々に中継カメラの回線を切っておけば良かったと後悔が募る。

 そう思いながらも止めていないのは、惰性によるもの――ではない。

 ――私は、人間が嫌いだ。

 だれも、私の事を理解しない。だれも、私の思考を理解しない。

 『子供の戯言だ』と、高名な科学者は相手にしなかった。

 『犯罪者だ』と、大人になってからは言われるようになった。

 『人の心が無い』と、あらゆる人から思われるようになった。

 方法が悪かったとは思う。でも――分からないのだ、どうやって人に接すればいいのか。幼い頃からその天才性を発揮していた私は常に人から距離を取られていた。人と接する機会に恵まれなかった。

 ひとりだけ、親友の仲にまで至った人はいるが、その人物も自分と同じ異端者だ。他の人間と較べればあまりあるその身体能力。幼い弟達を養わなければと責任感に負われた余裕の無さは、鋭い威圧となって他者を遠ざけていた。それを気にしなかった自分は、彼女の琴線に触れたのか、交友を続けられた。

 それでも。

 異端は異端。どう接すればいいか分からず、そのまま在り続けてしまったせいで、人は寄り付かなくなった。

 不信は嫌悪を呼び、嫌悪は偏見を呼び、無理解へと発展していった。

 

 ――なら、もういい。

 

 ――もう、お前達にはなにも、期待しない。

 

 そうやって、意地になって、孤独に走った人間を、私は知っている。誰よりも。父母よりも。この世界で、誰よりも知っている。

 ……どれだけ寂しかったかも、知っている。

 娘として、廃棄されそうになっていたデザインベイビーの少女を引き取ってから、思い知らされた。私は人との触れ合いに飢えていたのだと。

 ――知性溢れる無垢な瞳が私を見上げている。

 彼女には、知識があった。しかし常識が無かった。

 常識が無い故に私の事を客観視していた。世間の評判を知り、私の人間性を知り――その上で、『変わらない』と。彼女はそう淡々と言ってのけた。

 

 ……どれだけ、救われただろうか。

 

 然して付き合いが無かった当時は、分かった気になるなと冷たく言ったものだが――今思えば、それは照れ隠しだったのだろう。嬉しかったのだ、私は。

 ――彼に、私にとっての少女の立場の人間は、既に居る。

 桐ヶ谷直葉。剣の鬼、とまで言われる剣腕を持つ鬼才の少女。酷く冷淡な顔つきながら、(義弟)の事になると温かな少女になる不思議な子供。

 私が直接交流を持っているのは彼女だけだが、彼女以外にも、彼はデスゲームで多くの理解者を得ていた。

 ――だが、それでは足りない。

 世界を生きるには、まだ足りない。

 彼はあまりに大きな事をし過ぎてしまった。《出来損ない》という評判を覆す一手になり得るが――その一手を支える基盤が、まだ整っていない。政府の援助、後ろ盾を得られる要因をまだ明かしていない。いまの彼はただの一般人に過ぎない。

 故に――《女》である天才科学者の研究を食い止めた事実が、女性利権団体に届いてしまった。

 実際にISを動かせないランク、あるいは動かせても素人同然だろうが、種として《女》を絶対視する人間の集まり。ブリュンヒルデを崇め神格化する危険な思想の団体。二、三十年前の地下鉄事件を引き起こした宗教団体も斯くやというその集団が、新進気鋭の天才少女の歩みを止めた事に激し、彼を貶める算段を立てている事をナノマシンで知った私は、どうにかそれを食い止めようと考えた。

 仮令少女の研究が非道なもので、世間から突き上げを喰らうものであったとしても。

 ――それを止めたのが《男》であれば、連中には関係無い事になる。

 あらゆる《男》の中でも《出来損ない》と呼ばれる少年に対し女性利権団体は容赦がない。かつて《モンド・グロッソ》で誘拐された時、ブリュンヒルデに話がいかないよう止めていた役人は、女権の一員だった。《織斑一夏》という少年を、彼女らは本気で、心の底から、ブリュンヒルデを貶める要素として認識している。その純粋な信心はいっそ邪悪だ。

 ――私にも、人を路傍の石と見ていた時期があった。

 今では、それからある程度変われたと思う。彼のお蔭だ。彼が、私の夢を真剣に認めてくれたから――少しは信じてみようかな、なんて思うキッカケを得られた。

 それが今は裏目に出ている訳だが――

 

「お願い――」

 

 高速でキーボードを打鍵しながら、心から祈る。普段一切信じていない神様頼み。大抵の事は持ち前の天才性と科学技術でどうにかしていた私でも、人の心まではどうにも出来ない。

 だから――願い、祈るしかない。

 どうか、あの世界を生き抜き、真摯に平和を求めている少年を、受け入れてくださいと。

 ――祈るしかない無力感が、私の胸に重く圧し掛かった。

 

 






・女性利権団体
 原作だと割かし空気で、二次小説の方でよく顔を出している女尊男卑風潮の集団。
 二次小説だと、裏で政府役人、IS委員会、IS学園教員、《亡国企業》、ものによっては一夏アンチの千冬、オリ兄らと結託している事が多い組織。分かりやすい《悪》。
 本作に於いてはメインキャラと一切関与が無い。秋十とて《男》である、神童として能力を認められているから見逃されているだけ。『ブリュンヒルデは家族思い』というイメージに使われる道具扱い。
 その点、《織斑一夏》は《出来損ない》と呼ばれているので、邪魔な存在。出涸らしを想う千冬の美しいエピソードより、自分達にとって目障りだから排除に動いた。本当の意味では千冬の為を想っていない身勝手な集団。そのせいで第二回《モンド・グロッソ》で一夏、秋十が誘拐された事を敢えて伝えなかった役人が出た。
 今話では《女》である『七色』の躍進を妨げていたのが《出来損ない》だったため、排除を選択。研究や人道など関係無い。そもそも女権に属している連中はタガが外れて人道など気にしない連中なのだから。
 その牽制の為に束が放映している。
 ――正直、束が殺そうと動いていない事の方が奇跡。
 どのみち世論が和人を受け容れようと裏で実力行使に動くので、行き着く先は結局同じ(更識家のガード、天災の監視、政府高官勢の権力防衛陣)


・束
 幼い頃からその天才性ゆえに人と接する機会を得られず、どうすればいいか分からなくなったまま、大人になった人物。
 体は大人だが、心は少女を地でいく天才。
 『天才』という評価を無理解と考え、嫌悪しているように、本心では『私自身を見て』と思っている。しかしそれを自覚出来ないまま成長してしまい、歪んでしまった。
 ――そこに、否定され歪んだ根幹たる《夢》を肯定する存在と出会い、救われた。
 いまも必死に回線を繋げているのも、和人の在り方を知ってもらうため。和人の在り方であれば人から理解を得られると信じている。
 何故なら――和人の天才性《努力の才能》は、他者から理解を得られないが故に、『(理解)(不能)』とは言われないものだから。純粋に『幸せ』と『平和』を求め、人を()()、生きる姿を理解出来ない『凡人』は居ないと考えている。
 ある意味、和人の事を理解し、想い、行動している一人なのである。
 ちなみに和人に《夢》を肯定されたからクロエを引き取った経緯がある(原作との相違点)

 ――原作束と違うのは、『他者に対し興味を持ち続けたか』に集約される。
 原作では他者を路傍の石として認識から外しており、非常にパーソナルスペースが狭く、気に入らなければ(千冬に止められないと)殺す事も厭わないレベル。他人に期待する事を完全に諦めた事で人格が歪んだ部分もあるのでは、と作者は考え、本作束は他者に理解される事を待ち望んだ状態に。
 本作《白騎士事件》が、束の回想によりISの思想設計、コンペティションで手酷く扱われ、門前払いされていた事に怒って行動した事も、『怒り』=『期待を裏切られた感情』というもの。つまり子供の癇癪。ISの凄まじさを理解されたが、それが兵器としてであり、宇宙に羽ばたく翼としてで無い事から絶望し――その果てに、和人と出会って救われた。
 原作束だと『言葉で理解出来ないならお前達の物差しで較べさせてやるよ』という思考で《白騎士事件》を引き起こし、現代兵器や科学を圧倒する形でISの凄まじさを世に知らしめた(原作8巻以降未読です) この場合は自分の意見を押し通すためのパフォーマンスとしてしか考えていないので、罵倒されようと『ISの凄さを理解』されすればそれでいい。他者を見ていないので他者からの救いは無く、全てが自己完結している。

 ――救われてから和人の事を大切に思っているが、あの境遇から助け出さなかったのは、和人自身が望んでいなかったから(千冬、秋十との家族関係に執着していため)
 《白騎士事件》の手前、良かれと思ってした事が()()の軍事兵器だったので、下手に動かなかった。なのでこれまでは間接的な手助けに留めていた。
 今回大体に動いたのは、《白騎士事件》から初の能動的アクション。
 束にしては珍しく裏目に出やしないかと内心戦々恐々としている。


・クロエ
 かつて束に拾われた子。
 和人により、束が人を信じ、接するキッカケを得ていなければ、拾われなかったか、真っ当な娘として扱われなかったであろう一人。
 ()()()()()()()と呼ばれるデザインベイビーの一人であり、ISキャラ《ラウラ・ボーデヴィッヒ》を完成形と呼び、己を失敗作と判じているホムンクルス。《出来損ない》と呼ばれている点から和人に親近感を抱いている。
 度重なる投薬、人体改造の果てに両目に埋め込んだナノマシン《越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)》が暴走し、黒目金瞳になり、脳の負荷が大きく普段は瞑目して過ごしている。和人と違い完全に制御出来ていないため常にその状態。
 ちなみに料理の先生として和人を師事する傍ら、和人にISの勉強と一般教養を教える、教師と教え子の関係を築いている。


・キリト
 かつて束の《夢》を肯定して救った傍ら、自身の《夢》も肯定され救われた過去がある主人公。
 本人もそのやり取りを覚えてはいるが、そこまで重要なものと思っておらず、誰一人として肯定しない(そもそも夢について誰も聞いていなかった)中で最初に真摯に話を聞き肯定してくれた束に対し、非常に心を許している。コアを埋め込まれて以降定期的にお世話になっているので懐き度はトップクラス。
 極論、『和君の為を想って』と詳細に理由を話されれば、今回の事も(溜息は吐くが)最終的に許し、お仕置き無しにする。
 ――心を許すまでがチョロい人物をチョロインと言うが、キリトは心を許した後が途轍もなくチョロいタイプである。



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