インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

視点:エギル

字数:約七千

 ではどうぞ。




番外6 ~A lemnant of the Death Game~

 

 

 東京都台東区(たいとうく)御徒町(おかちまち)に構える自営の喫茶店兼酒場《ダイシー・カフェ》の営業を終え、明日の仕込み等諸々を済ませた俺は、妻が床に就くのを他所にPCでネットサーフィンをしていた。

 一つの動画を見続けている事を、果たしてサーフィンと言うのかは疑問だが。

 《MMOストリーム》が中継を続けている映像に映されているのは、恐らく誰も知らないSAO最初期の映像。

 【解放の英雄】と呼ばれる少年が経験した過去の記録。クラインと別れてから、自分やアスナが出会うまでの期間の出来事。

 ――初めて会った時から、人に対する強い不信感は感じ取っていた。

 自己紹介はする。会話はする。礼はするし挨拶もする――が。何故か、触れようとはしない。挨拶と共に差し出した男の俺の手も、そしてアスナの手も、キリトは取らなかった。正確には()()()()()()引っ込めた。

 後に、織斑一夏である事が分かり、敢えて関係を持たないよう留意していたのかと思っていたが……どうやらそれだけでは無かったらしいと、中継映像を見て察する。

 コペルという青年の二度の裏切り。その果てに、その気は無かった不意の事故による殺人。

 不信になる筈だ。

 恐れる筈だ。

 その手を取って、また裏切られる事を恐れるのは道理である。なまじ実の兄に一度は裏切られた身。二度目と三度目は青年。それ以上裏切られる事は恐怖そのものだっただろう。だから信じないようにした。その方が楽だから。

 とは言え――アルゴやクラインを始め、信用を置いた人間が居たように、心の奥底では人との触れ合いに飢えていたのも事実。そうでなければ自分との関係も然して深いものにはならなかった。

 それは最初期――コペルを誤って殺してしまった後も同じだったようだ。

 アルゴとフレンド登録をしたのは人との触れ合いへの飢えによるものだろう。全てを拒絶する程、キリトも盲目ではなかったのだ。

 あるいは、悟っていたのかもしれない。

 MMOというゲームの本質をベータテスターであるからこそ理解していたのだ。たった一人では生き延びる事はおろか、前線攻略もままならないと。なまじベータ時代、ソロでボスと戦っていた経験があるからこそ、却って如実に感じていたとも考えられる。

 

 ――ソロでありながら、独りになる事を恐れる少年は、アルゴと別れを告げてからはクエストを受けた民家に足を運んでいた。

 

 夜十時だとNPCが深夜パターンに入ってしまうギリギリのラインだったが、目的の民家の窓にはオレンジ色の明かりがまだ灯っていた。もしかしたらクエストの受付をしやすいよう調整されているのかもしれない。

 少年は礼儀正しくノッカーを鳴らした。返事が無いのは仕様だ。形ばかりのそれを済ませ、ドアを開けると、かまどで何かを煮込んでいた恰幅の良い中年女性が振り向いた。その頭上にはクエスト進行中を示す金色の《!》マークが浮かんでいる。

 キリトが歩み寄り、予め取り出していた両手のモノをカウンターに置いた。中心が仄かに光る薄緑色の球体――《リトルネペントの胚珠》。それが二個。

 女性は、若返って見えるほどに顔を輝かせ、二個の胚珠を纏めて受け取った。礼の言葉が連射された後、二個の胚珠をそっと鍋に入れる。

 それから部屋の南に置かれた大きなチェストに歩み寄り、蓋を開けて中身を取り出した。中から、古びてはいるが、初期装備の剣とは段違いの存在感を放つ赤鞘の長剣をしずしずと取り出し、キリトの前に戻ってくると、再度の礼と共に長剣を両手で差し出した。

 

『ありがとう、ございます』

 

 掠れた声で、キリトは礼を言って両手で受け取った。

 彼の眼前にクエスト達成のメッセージが浮かび、獲得した経験値とコル――それから、胚珠を余分に渡した事でもう一本同じ剣が手に入り、ストレージに入れられた旨のメッセージが表記されたリザルトが映し出された。演出上一本は手渡しだが、それ以上は直接ストレージに入れられるらしい。そして少年の体を金色の光が包み込み、表示されるレベルが《7》へと増加した。

 キリトは受け取った剣を左腰に吊るした。左肩にはコペルの剣(スモールソード)、左腰に新調した剣(アニールブレード)を吊るすというやや変則的な掛け方だが、実用性を考慮すれば悪くは無い。ベータ時代、そして後に二刀を操る事を知っていると違和感は驚く程なかった。

 剣を渡した中年女性は、もうキリトに背を向け、かまどの鍋をコトコトかき混ぜる作業に戻っている。

 その後ろ姿を眺めながら、キリトは近くの椅子にゆっくりと腰を下ろした。

 

『――は、ぁ』

 

 精神的な疲労は甚大なのだろう。吐かれる息には、色濃い疲弊を感じさせるものがあった。

 何をする訳でも無く、ただ無為に時間を過ごすように中年女性を眺めるキリト。

 

 ――()()が飛ぶ。

 

 内部時間で五分後。

 キリトの視線の先に立つ中年女性に変化があった。新たなクエスト受注者、あるいは深夜パターンが訪れるまで鍋をかき回し続ける筈の中年女性(NPC)が、棚から木製のカップを取り出し、鍋の中身をおたまでそっと注いだのだ。湯気の立つカップを、先程キリトに渡した剣よりもずっと大事そうに捧げ持った女性は、時折少女の空咳が聞こえる奥のドアへと歩いていく。

 胚珠を溶かした薬を与え、少女を回復させる演出――なのか。

 

 

 ――なんだコレ。このクエスト、こんな演出あったのカ。

 

 

 コメント欄に情報屋の少女と思しき疑問の文が流れる。彼女が知らないという事はクエスト達成後、一定時間滞在しないと発生しないイベントなのか。

 

 

 ――【鼠】でも知らなかったのか。

 

 

 ――……ホントは『知らない』って言いたくないんだけどナ。

 

 

 ――達成後一定時間の待機で起きるご褒美演出なんじゃないか?

 

 

 ――まぁ、達成後に、何も受けられないのに残るってまず無いだろうし、普通気付かんだろコレ。すぐ飛び出すのがほぼ全員じゃないか?

 

 

 普通のゲーマーであればそう思考するだろうと、そう俺がコメントを打つ間も、少年に動く様子は無い。奥の部屋へ歩き去る中年女性を見送りこそすれ、姿が見えなくなった後は天井をぼうっと眺めるだけだ。

 

 

 

『剣士さん!』

 

 

 

 ――――ぱたん、とドアが開くと共に、少女の声が上がった。

 茫洋とした空ろな眼が、奥から姿を現した少女を捉える。年の頃七、八歳と思しき少女。茶色い三つ編みと白いネグリジェを纏っている。見た目で言えば、キリトといい勝負が出来る華奢さ。背丈で言えば、身構えるように立った少年より拳一つの半分くらい高い。

 その少女の頭上にはNPCのイエローカーソルと、《Agahta》というフォント。アガサというのだろう。

 

『ごめんなさいね、旅の剣士さん。この子ったら剣士さんがまだいるって聞いたらお礼を言うって聞かなくて……まだ病み上がりなのに、まったく』

 

 やや困ったような――それでいて、確かな喜びの笑みを浮かべながら、母親である中年女性がアガサに寄り添い、背中をさすりつつ言う。

 

『……俺は、この家にある強い剣が欲しくて、その子を助けただけです』

『まぁ、ウチに来る方は多いですからね……』

『……ん?』

 

 少年の返しに、ほう、と困ったような溜息を吐く中年女性。

 それに少年が小首を傾げた。ハッキリと答えないと碌に言葉を返さないNPCにあるまじき、世間話に該当する会話の成立。しかも『他のプレイヤー』を認識しているかのような発言。引っ掛かるのは当然と言えた。

 それを追求したくなったか、空ろな眼に若干光が戻った少年は、口を開こうとし――

 

『剣士さん』

 

 ――NPCの少女アガサにより中断された。

 視線を自身へと移した少年に、アガサはニコリと笑い。

 

『助けてくれて、ありがとう』

 

 そう、舌足らずな()()を口にした。

 

『――――』

 

 少年は瞠目し、固まっていた。

 知らないイベント。知らない展開。その上で向けられる、NPCとは思えない情緒豊かなお礼の言葉。疲れ切っているだろう少年の心にそれはどうしようもなく響いていた。

 

『す、ぐ――ね――――』

 

 ぱたりと、少年は膝を突いた。空ろな眼から雫が伝う。抑えられた嗚咽が小さく上がる。

 

 ――生きたい、死にたくない、という本能は、確かに彼から分かたれ、希薄に過ぎる。

 

 だからと言って、感情を喪っている訳ではない。理想があり、ユメがあり、願望が彼には残っている。それが叶う未来が無いからと敢えて目を逸らそうとしているだけ。だが、仮令《生》を除いていても――彼には、『家族に会いたい』という偽らざる願望が残っている筈だ。

 しかし、それは許されない。《ナーヴギア》から発せられる多重電界がプレイヤーの意識を現実世界から完璧に切り離し、デスゲームの舞台となる浮遊城に閉じ込めているからだ。

 強烈過ぎる衝動とそれがいまは決して叶わないと悟る理性が鬩ぎ合い、少年は泣き崩れていた。

 歯を食いしばり、全身を戦慄(わなな)かせながら、しかし気丈な事に声は上げない。

 

『……大丈夫……?』

 

 目の前で(くずお)れた少年に、心配げな表情を向けた少女は、そう言ってしゃがみ、おずおずと少年の頭に掌を当てた。やがてその手はぎこちない動作で濡羽色の髪を撫で始める。

 

 ――()()が変わる。

 

 内部時間は午前六時。日付は、デスゲーム開始の翌日になっていた。

 場所はアガサという少女と母親の民家ではなかった。おそらく、ホルンカにあった宿の一室。丁度は壁際のタンスと窓際のベッド、あとは小さな椅子が一つ。窓のカーテンは閉められているが、朝陽は隙間から部屋の中を薄く照らしている。

 少年は、ベッドに腰掛け、項垂れていた。

 

『……すぐねぇ』

 

 ぽつりと――空ろな声音で、少年が義姉の名を呼ぶ。

 温かみを喪い、彷徨う子供のような力弱さ。支えるものを喪った少年の、あまりに小さな、親を探す声。

 ――(おもむろ)に、左の肩に吊るした剣が抜かれる。

 ゆっくりと抜かれた簡素な剣は端々に至るまでボロボロだ。よくもそこまで刃毀れしていながら実体を保っていられると思う。

 そう考える中で、キリトがその剣を指で素早く二度叩いた。鈴の音と共にシステムウィンドウが開かれる。

 武器銘【スモールソード】。カテゴリ《片手剣》。攻撃力、必要筋力値、耐久値――ローマ字がズラリと並ぶ板の最下段には、《End users(所有者)》の文字。システム的に認められた最後の持ち主は死に、今のキリトはそれを鞘に入れただけで、装備した訳ではないので、空白のその場所を少年は指でそっと触れた。

 死んだ者を、悼むように。

 ――喪われたモノを、噛み締めるように。

 

『コレが……デスゲーム、か』

 

 小さく震えた後、少年がそう洩らす。

 

『……アレが。絶望、か』

 

 想起し、噛み締めるように、言い――

 

 

 

『――――ははっ』

 

 

 

 ――少年が、()った。

 

『ああ、そうだった。現実は()()()()()()である事を忘れてた。平和なんて仮初、幸せなんて理想だけ――――地獄しか、無い事を、忘れていた』

 

 きしきしと、低く掠れた声で呟かれる怨嗟。淀んだ黒の眼は何も捉えていない。当時の少年に視えているのは、彼が見てきた()()とやらだ。

 だから――アレは、己を嗤っている。

 平和に浸っていた自身を嗤っている。

 幸せを信じていた自身を嗤っている。

 地獄を忘れていた自身を――蔑んでいる。

 

『現実がクソゲーとはよく言ったものだ。それに直面して、コペルは死んだ。恐怖と絶望とに負けた……生きる希望を見出せないのは、道理だな』

 

 その現実には――おそらく、《デスゲーム》も含まれている。

 

 

 

『……俺も、死ねば楽に――』

 

 

 

 そう、キリトが続けた瞬間。

 民家の内装が一変した。

 数瞬だけ浮かんだ別の光景。ランプの光に照らされる民家から、錆色の地下を思わせる内装が数瞬映し出され――戻る。

 ――ギシリ、と。

 少年の体と顔が、不自然に軋み、止まった。

 ほんの僅かな間、空ろながらも安楽を求めた少年の顔は鬼気迫るように緊迫していた。なにかに()かれたと思うような瞬間的な変化と脅迫感。

 

『――いや……それは、ダメだな』

 

 表情と異なる、落ち着いた声。

 そのギャップが逆に恐ろしい。顔は真剣なのに、声は安らかで、落ち着きすぎている。最も恐ろしい点はそれに少年自身が気付いていない事だ。

 

『俺がここで死ねば――コペルの死()、無駄になる』

 

 ――気付いていない故に、その言葉は偽らざる本心である。

 キリトは心の底から、本気で――疑う事無く、そう考えていたのだと、理解させられた。その言葉に自身の感情は介在しない。()()()()()()()()()()という、人であれば誰しも抱く筈の本能が無い。

 それは、人格が分裂しているから。

 守護の《王》。

 本能の《シロ》。

 憎悪の《獣》。

 その中で普段表に出ていたのは《王》だ。それが司る『守護』は、生存本能を欠くが故に――他者にのみ、向けられている。

 だから、生きたいと思わない。

 だから、死にたくないと必死にならない。

 

『――生きないと』

 

 必死になるのはただ一つ、人の為だけだ。人の為であれば己の全てを(なげう)てる。デスゲームに巻き込まれる一年以上前からキリトはそういう在り方を築いてしまっていた。

 ――一年半の(のち)、巻き込まれた妖精に矯正されるまでの骨子が組み上げられていく。

 茫洋とした空ろな眼。声の安らかさに反する、表情の緊迫感。

 少年もまた、狂っている事が明かされる。デスゲームよりもずっと前。彼が『地獄』と罵った現実に居た頃から狂っていた事が、証明される。

 

『希望が、要る。元テスターにも届く明確な希望。漠然としたものでない、目に見える明らかな進展が』

 

 ボロボロの剣を背中に吊り直した少年は、右手を振ってメニューを呼び出し、幼さに反する速度を以てテキストに何かを打鍵していく。見開かれ、収縮した瞳孔は次々と打たれる文字を追い――それでいて、焦点が合っていない。

 恐ろしい、よりも。

 (おぞ)ましいという感想が湧いて来る。少年をそこまで歪めるモノが、ただならぬ狂気が、後の殺人快楽者達の殺気や軽薄な態度よりも忌避を湧き立たせる。

 

『俺一人でも十四層までなら届く――が、SAOはMMO、独りだと早々に限界が訪れる。集団が要る。生還を目指し、ボスと戦える強い人達が要る。強力な《個》に頼らない《(むれ)》が要る』

 

 ブツブツと、言葉を洩らしながらも打鍵は止まらない。恐らく纏められているのは第一層から十四層までの憶えている限りの情報データ。記憶がしっかりしている間に文面に起こせるだけ起こしておこうという思考の発露。

 後の、《アルゴの攻略本》に掲載されるベータ時代の原本。

 ニュービーだけでなく、間違いなくテスターにも希望を齎した《情報》。アルゴとクラインを軸に広まったデスゲームの手引き。先駆者が居ると、戦っている人の存在を知る事で生きる希望を齎すモノ。

 

『けれど、それだけじゃ足りない』

 

 表情を変えないまま、己の独白を棄却する。

 

『組織は一枚岩じゃない。明確な――目の前に存在する、明確な《悪》が要る。デスゲーム化の黒幕というぶつけられない敵では目標に成り下がる、手が届く《悪》が要る。集団の意志が一つになる明確な《悪》が要る』

 

 言葉は平坦。熱は籠らず、ただ淡々と《必要悪》の成立計画を立てていく。

 

『――それは、俺が最適だな。《出来損ない》の風評があれば容易に敵意を集められる。ストレス、敵意、殺意、全部現実で受ける原因になった風評は使える。どちらにせよリアルの顔なんだ、SAOが現実の縮図になった以上ここも同じになる。使わない手は無い』

 

 ――本来なら忌むべき風評すらも、利用する。

 

『でも……それだけじゃ、弱い。路傍の石でしかない。目障りな扱いしかされない――――それじゃダメだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それでも足りないと、悪名を付与する要素を模索し始める。

 

『アルゴの情報網でも限界はある。クラインは……ニュービーだ、荷がおも――』

 

 そこで、はたと。なにか気付いたように手が止まった。

 

『……ニュービー……テスター……――――ああ、()()()

 

 そして――安心したように、会心の笑みを浮かべる少年。

 

『そういえば、クラインを置いて行ったのは、俺が利己的なテスターだったからだ……そして俺には十四層分のデータがある』

 

 そう言って、自身が作る途中のテキストデータを眺める少年。それこそが他者と隔絶したアドバンテージであると再認識した瞬間。

 

『テスターの中でも最前線の情報を独占する窮極的な利己主義者であれば、テスターを含めた全プレイヤーにとっての《悪》になれるな』

 

 そう、全てを敵に回す算段すらも、心待ちにしたかのような笑みで言う少年。

 恐ろしい、と。その趣旨のコメントが投下されていく。【解放の英雄】と言祝がれる少年の根源に触れてか、多くの人間が過去の彼を恐れていた。

 それは当然だ。

 自分の死を度外視し、全ての敵になる事を前提に人の為になろうとする。それを心の底から本気で考えている。虚ろな眼でそれを口にし続ける狂気は正常な人にとって恐ろしさしかない。

 ――だが。

 これが無ければ、何れ浮遊城の攻略は止まっていただろうし、多くの人間が絶望して命を絶つか、狂気に走って人を傷つける未来が訪れていただろう。

 綺麗事だけでは世界は回らない。

 その、イヤな実例だった。

 






・アガサ
 NPCの少女。
 《森の秘薬》クエストの為に用意された、世界に『病気であれ』と設定づけられている永遠の病人。プレイヤーが胚珠を持ってきた後のみ元気な姿で在れる。そのため、クエスト達成後、母親がじっくり煮込んだ薬を飲ませるまで待機しなければ出会えない。
 最高レベルの信頼を寄せられているアルゴすらもこの展開は知らない。
 つまり、全プレイヤーの中で偶然にもキリトだけこの少女と邂逅を果たし、その上で誰にも話していない。
 後に、『頭を撫でてもらった』とキリトを微笑ませた存在。
 デスゲーム(現実)の中で齎された小さな光。
 ――キリトに、《すぐねぇ》を想起させた少女。


織斑一夏(キリト)
 初日で意図せず人を殺してしまい、()()()()()()()子供。
 実はデスゲームに囚われた事にあまりショックを抱いていない。何故なら、『命を懸けて生きる』という点に於いて、キリト(織斑一夏)からすれば現実世界と大差ないからである。とは言え桐ヶ谷家での平和な日常、義姉《桐ヶ谷直葉》との『姉とのスキンシップ』に浸っていたので、現実に対する考え方が抜けていた。
 コペルを殺し、絶望と狂気に触れた事で、『現実とはどういうものだったか』を再認識している。
 ――一瞬映った錆色の地下が、キリトの言う『地獄』。
 平和な日常は全て仮初。
 幸福な日々は()()()()
 それを忘れられていたのは、直葉達の愛情が確かに届いていたからだった。

 キリトにとって、《すぐねぇ》の存在は平和と幸福の象徴。『地獄』の中で輝く光。

 《アガサ》という少女は、ほんの僅かながら光を齎した。

 ――環境(デスゲーム)という油断を許さぬ()()を前に、その光は消え去った。

 子供らしくキリトが泣き喚くのはこれより一年先――()()()()が訪れた時である。


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