インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

 前話最後で場面が二年後に飛び、リーファやアキト関連が飛んだのは何故なのかは、感想欄の返信ないし活動報告で同様の弁明をしておりますので、興味があればどうぞ。

視点:束、簪、アルゴ(ほぼメイン)

字数:約一万八千。後書き含めて約二万一千。

 ではどうぞ。



 ――等価交換の原則(無常)





番外13 ~A lemnant of the Infinite Stratos~

 

 

 ――変化は唐突だった。

 中継動画を視聴していても気付けた者は多いだろう。その変化は画面内右脇に表示されたコメント欄にこそ及ばなかったが、サイトページの変貌を契機に文章が大量に流れ、疑問に感じた者が大画面視聴から通常のページ表示に戻す――なんて事は十分あり得る話だった。

 少なくとも、私はそうして知った。

 中継映像を流す《MMOストリーム》のサイトページの背景の白色は黒に染め抜かれ、ページ内のフォント色はリンク関連のものを除いて全て赤く染め上げられていた。

 

「……こ、れは……」

 

 震え、思わずPC画面から体ごと離す。

 生理的な嫌悪があった。

 本能的な恐怖があった。

 ――《恐れ》というものを抱いたのは、それが生まれて初めての事だ。

 この天災に、畏敬や驚愕を抱かせた者は少なからず存在したが、《恐怖》という感情を抱かせたのはそれが初。

 原因は、すぐにわかった。

 考えるまでも無かった。答えなど、既に出ていた。

 『()()()不始末』と言って――人々を救った英雄は、それに(のぞ)まんとしているのだから。

 

「和君……」

 

 確保された回線で中継される映像を見つめる。

 残影を眺める彼の横顔に、読み取れるような()()は存在しなかった。

 

   ***

 

 

 再現内部時間《二〇二四年十一月六日、午後七時三十分》。

 

 ネットを侵食する禍々しい悪意は他所に、SAOサーバー内部では残影が再現され続けていた。

 場面はどこかの宿の中。十畳ほどもありそうな部屋の中にはソファとテーブル、壁際には本棚や勉強机のようなデスクまであり、デスクの後ろにダブルベッドが置かれているという豪華仕様。SAO内部でも上層に位置する宿だろうと想像するのは難くなかった。

 その部屋の窓際に、黒尽くめの少年が立っていた。

 少年が眺める外の通りには、午後七時を過ぎているというのにごった返すような人で溢れ返っていた。

 日時的に再現場所が第七十五層主街区の宿で、外の人垣は七十五層を中心に終日開かれた《デスゲーム解放前夜祭》という全プレイヤーによって催されたパーティーだ。

 ――人々の顔には、明るい笑顔と希望が浮かんでいた。

 デスゲームという牢獄に囚われて二年が経過し、漸く解放されるという希望を明確に持てたからだろう。残影の人々は分け隔てなく好き好きに語らい、道行く人と笑い合い、NPCやプレイヤー商人が経営する店や食べ物屋で買い食いしていた。

 彼は、その光景から身を引くように、宿の中から眺めていた。

 ――こんこん、と音が鳴った。

 部屋の扉をノックする音だ。

 

『キリト、居るの?』

 

 ノックをしたのは、リーファのようだった。

 キリトは、振り返る事もなく入って良いと言い、ボイスコマンドで開錠した。間を置かずするりと緑衣の妖精が入室する。

 妖精の顔には、懸念の色が浮かんでいた。

 

『前夜祭、行かないの?』

『人混みは嫌いだから……それに、雰囲気を壊すつもりはない』

 

 一瞬だけ振り返り妖精を一瞥したが、すぐ顔も視線も外に戻した。羨ましい――というよりは、どこか悲しげで、同時に苦しげな面持ちを浮かべる。

 

『……なにか悩みが?』

『――明日、このデスゲームのラスボスに俺達は挑む事になる。二年掛けて漸く辿り着いた頂点。苦労は多く、喪ったものも多い。だからこそ……生還への希望は、とても大きくて、深い。みんな、ラスボスの打倒を期待して、夢見てる』

 

 問いに答える事なく、詠うように言葉を紡ぐ少年を、妖精は黙って見詰める。翡翠の瞳が不安げに揺れた。

 

『ただな……俺は、思うんだ。ラスボスを倒して本当に生還出来るのかと』

『……どういう意味?』

 

 眉根を寄せ、静かに妖精が問う。

 

『デスゲームの開始時、須郷が操っていた()()()GMアバターが宣言したのはこうだ』

 

 

 ――諸君がこのゲームから脱出する方法はたった一つ。先に述べたとおり《アインクラッド》最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを斃してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされる事を保証しよう。

 

 

 朗々と、しかし抑揚の薄い少年の声が流れる。

 その声に、歓喜や期待の色は感じられない。

 ――それが、嫌な予感を抱かせた。

 

(がく)(めん)通りに受け取れば、ラスボスを倒した時点でHPを全損させなかったプレイヤーは生き残る』

『……そうね。みんなも、それを前提にして動いてるわ』

『ああ……ただ、な。《裏》を知っていると、色々と考えてしまう。例えば、そう――――『生き残ったプレイヤー』とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()という判定とか』

 

 窓を向いたまま少年が言う。妖精は、顔を強張らせた。

 ――あり得る、と私は思った。

 離れて久しいが、これでも対暗部用暗部として動く《更識》の一人だ。敢えて曖昧にする事で相手に先入観を持たせ、ミスリードを誘発するという手管は裏の世界では常套手段であり、警戒すべき事柄だ。だから何らかの契約や情報交換の際は微に入り細を穿つが如く詳細を求める。

 これは裏に関係無く、何らかの契約を結ぶ時とて同じだ。

 騙される方が悪い。それが、《裏》――ひいては、世界の鉄則だから。

 

『それは……最大でも、四十九人しか生還できないという事じゃ……』

『そう。あの時に提示された生還条件は、実は状況も判定も曖昧な、ただの口約束に過ぎないもの。加えて、GMアバターを操っていたのが須郷伸之であり、《茅場晶彦》ではない以上、あの宣言が無効になる場合もある』

 

 

 ――そんなコトを言い出したら、際限ないじゃん。

 

 ――幾らなんでも心配性過ぎだろ。

 

 

 そんなコメントが流れるが――やはり、あり得ると、《裏》の感性が否定を許さない。

 前の雇用者や組織が潰れたから契約は自動解消。でも拡散されると困る情報を持ってるから、死んでもらう――そんなの、《裏》では茶飯事の部類に入る。

 

『……それが、前夜祭に入れない理由なのね』

 

 義姉の妖精は、彼の苦悩が決して考え過ぎのものでないと判断しているようで、真摯に受け止めていた。彼がそう考えるだけのなにかがあるのだろうと、そう察していたのかも知れない。

 少なくとも、彼女よりは《裏》の事を知っているようだから。

 

『――みんな、察しが良すぎるからな。いまの俺が混ざったところで必要以上に気を遣わせてしまう。それは本意じゃない』

 

 彼は明確に答えなかった。

 だが、言外に肯定を返す。

 少年の顔には、疲弊した笑みが浮かべられていた。

 

『この世界をクリアした時、『生還するプレイヤー』は誰か分からない。ラストボスのLAを取った者だけ、クリア時点で生存している者だけ、それとも全損者も含めて全員生還するのか、あるいは――諸共全滅するのか。それすらも曖昧にされている』

 

 疲弊の笑みを浮かべたまま、嘆息しながら少年は言う。

 妖精は口を挟まない。滅多に弱音を吐かない少年の言葉だからか、()(じろ)ぎもせず、義弟が吐く苦悩を聞き入っている。

 

『現実的に考えれば、生存者だけという可能性が最も高い。だが最悪の可能性は無数に存在する』

 

 ――ぎり、と少年の歯が食い縛られた。

 

『仮想世界は、常に等価交換で成り立っている。リスクを背負うから強くなれる、金を払うから物資を買える』

 

 そこで、少年は一度口を閉じた。

 やや間を置いて、なら……と、言葉を紡ぐ。

 

『――命は? 『命』を救うなら、何を代価にすればいい?』

 

 ――その声は、あまりに無感情。

 それでいて、どこか追い求め、(こいねが)うかのようなか細さが同居していた。

 少年の眼が、眼下の人混みから外れ、天に広がる夜空に向けられる。(さん)(ぜん)と星が煌めく冬の夜空。

 黒い瞳が、どこかに焦点を定めた。

 

 

 ***

 

 

 ――場面が変わる。

 

 

 内部再現時間《二〇二四年十一月七日、午後五時十分》。

 

 場所は紅玉宮地下エリア。赤の壁面が螺旋状に見える大広間の中で、女巨人型ボス《アン・インカーネイティング・オブ・ザ・ラディウス》と【黒の剣士】キリトによる大激闘が繰り広げられていた。

 その空間に、他の姿は見えない。

 緑衣金髪の妖精も姿を消している。その事から、この映像が蘇生後の戦いである事を理解した。

 それも――ほぼ、最後の最後。

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 女巨人が吼え、槍の石突を床に突き立てた。床にめり込みレンガが割り砕かれる。すると、そこから巨大な植物の根が幾本も生え、指向性を以て少年へと迫った。

 一本一本が大の大人数人を纏めて()き殺せる程の大質量。

 

『――――ッ!!!』

 

 眼前に迫る(りょく)(じゅ)の群れを前にして、彼は無音の呼気と共にその手に握る武器――翡翠の長刀を振るい、延長線上にある根を横一閃に斬り裂いた。撫で斬りにあった根は、それでもしぶとく少年を狙う。

 しかし黒の少年は軽やかに地を、あるいは切り裂いた根を足場にして、女巨人の下へと向かう。

 直後、巨人が吼えた。背後にきらびやかな光を纏う大樹が出現する。

 ――同時、彼が一際強い跳躍を以て、女巨人へと肉薄した。

 その時に手にしている武器は、翡翠の長刀ではなかった。右手に黒、左手に白の片刃片手剣。それを携えた彼は、慣性と速力を視方につけて突貫し――

 

 星の煌めきが乱れ舞う。

 

 両手の剣に宿る青い輝き。それが振るわれる度に女巨人の体を傷付け、大きな光の弧が放射状に放たれた。放映されたどのボス戦でも見られなかった程に力を込められた二刀が、眩い軌跡を引きながら撃ち出されていく。

 少年は咆哮した。必ず目の前の敵を斬り伏せる――その一念だけが、小さな体を衝き動かしている。

 女巨人も吼えた。己を(しい)(ぎゃく)せんとする人間を憎ましげに片目で睨みながら、気丈に吼える。反撃は世界が許さない。世界が定めたルールが、二刀剣技を受けている間の行動を全て許さない。

 故に――上段から振り下ろされた星の剣劇を、為す術もなく受け止める。

 一瞬の静寂を挟み、女巨人の体は光の欠片へと爆散。撃破とボス戦終了の両方を示すらしい金色の文字が中空に表示された。

 

『――――』

 

 少年は、金色の文字を無感動に見上げた。

 勝利に酔っていない。そもそも、勝利を喜んでいない。

 喜べるはずもない。

 勝利を祝う仲間が居ない。彼が命を懸けて護ると誓った人達が居ない。みな、女巨人に殺され、その遺品となる武器がそこかしこに転がっているだけだ。この結果を勝利と呼べはしないだろう。

 戦いに勝っても、勝負に負けている。

 

 

 ――でも結局みんな生き返るんだから結果オーライにはなるんだよな。トラウマ確定ではあるけど。

 

 

 そんなコメントが流れ、複雑な気持ちになった。

 あまりにも不謹慎過ぎると思わせられた。この映像を見たのは当然生還してからで、結果的にみんな生き残った事実を知ってからだったが、キリトが何度か口にしていたようにクリア以前は生き残っていてもそのまま生還出来るかは不明な状況だったのだ。その恐怖と不安を蔑ろにするのは許されない。

 とは言え――当事者でなかった以上、心の底からのものはごく一部だっただろう。

 当時はいまほど彼をよく思われていなかったし、死んだと言っても、ボスに挑んだ勇敢な数十人だけ。およそ七千人は全損せずに生き残っていた。

 死者の数と生者の数を較べれば後者が勝っている。

 そもそも外部の人間は《ナーヴギア》の強制除装とHP全損の条件、ネットワーク回線条件さえ満たさなければ、クリアさえすればみんな解放されると信じていたのだ。彼の予想をした人間が多い筈がない。当事者でない以上そこまで知恵を回さないからだ。

 であれば、碌に関係も無い人の死を本心から悼む人もまず居ない。

 それを知ってか知らずかのコメント。

 ()は、何も返さなかった。

 ――無表情の面貌を伝う雫が、私を釘付けにしたからだった。

 

「キー坊……」

 

 これは現在のものではない、過去の映像だ。そうと分かっている。しかし――過去にあった事実である事には変わりない。

 現在の彼は、この事実を乗り越えた上で戦う覚悟を抱いていた。

 ――心が強いと、そう所感を抱く。

 どこか、哀しく思って、手放しに喜べなかった。

 

 *

 

 ――ボス戦放映は、ボスを斃し、金文字を見上げる場面で切り上げられていた。

 

 無論当時は騒がれたらしいが、程なく全員が覚醒した事で、サーバーに負荷が掛かった事でモニタリングを繋ぐ回線を維持できなかったのではという考察が立てられ、この疑問は解決となり、話題に上がる事も無くなった。それよりも彼を蘇生させた義姉の献身的な行動や、ボスの異常性を語る方が話題性を呼んだからだ。

 だから――《午後五時十五分》で討伐してから、《午後五時三十分》頃に一斉ログアウトが始まるまでの間は、誰も把握していなかった。

 それらしい理由があったから、誰も疑問に思わなかった。

 

 再現映像はまだ続く。

 

 

 

『――クリアおめでとう、勇敢なる少年よ』

 

 

 

 ――それは突然の事だった。

 金色の文字が消えたと同時に老獪な口調の少女の声が発生した。少年は、視線を上空から発生源たる正面に向けた。

 そこには賢者然とした装いの少女――カーディナルが立っていた。

 身の丈を超える長大なスタッフを突き、鳶色の眼を持つ賢者然とした装いの少女。感情を感じさせない金属的な瞳が少年に向けられていた。

 

『……アンタは、誰だ』

 

 少年が問いを発した。頓着した様子は無い。答えなければそれでもいい――そんな思考が聞こえてきそうな程に感情の籠らない無機質さだけが内包されていた。

 

『儂はカーディナル。知っておろう?』

『……完全自律システムか。まさかアバターがあったなんてな』

『コレはMHCP達に用意されていたアバターを流用しているに過ぎぬ。お主らヒトは、顔も見えない相手を信用せぬじゃろう? 故に儂も肉体が必要だった、それだけじゃよ』

『――なるほど。ホロウの俺がサチよりも優先した事はお前だったか』

 

 突然脈絡なく飛んだホロウの話に、私は勿論、コメント欄も疑問一色になった。カーディナルは誰かの信用を得る為に(アバ)(ター)を作ったという。しかし、それが何故己のホロウとの関わりを指すというのか。

 ――その疑問は、『猫』のコメントにより解消された。

 須郷伸之捕縛シーン時、当初は須郷に改造、使役されていた黒騎士たる少年もホロウと同じAIだったという。あの少年は絶対上位者たる存在の命令に、己の誓いとの矛盾を見出し、屁理屈をこねる事で二度目の自我崩壊を回避するというブレイクスルーをやってのけた。それはAIを研究している専門家達がしばらく話題に挙げ、その異常性と革新性を語っていたから自分も知っている。

 その少年と同じAIであるホロウも、本来であればサチを護る事を最優先する筈なのだ。

 なのにそのホロウは、放映される以前の段階でサチ以外の何かを優先した事があった。

 それはクリアまで不明で、生還して以降も分からず終いだったが――いま漸く分かったと、『猫』がコメントを流す。

 ――そのやり取りの合間、少年と賢者の間に会話は無かった。

 語るべき事は無いとばかりに少年が口を(つぐ)んだからだ。終わりを予期し、それが変えられないと絶望している。

 

『……これから、プレイヤーはどうなるんだ』

 

 その問いは、絶望し切っていないからこそ出た希望を求める声だった。まだこの目で見ていないから――と、そう自分に言い聞かせ、必死に心を護ろうとする動き。

 ――涙が流れ続けているのは、抑え切れぬ予感故か。

 少年の貌を見て、眉一つ動かさず賢者は口を開いた。

 

『心配には及ばぬ。今しがた、《ナーヴギア》を外されなかったプレイヤーの内、()()()()()()9786人の準備が整ったところじゃよ』

『……俺を除いた、ね』

 

 ふん、と少年が鼻を鳴らした。じろりと、胡乱な眼が少女に向けられる。

 

『しかも準備。それ、何の準備だ?』

 

 最早投げ槍に等しい物言いに、やはり少女は眉を顰めもせず、口を開いた。

 

『――お主は、デスゲームのラスボスを倒したプレイヤーじゃ。勝者には報酬があって然るべきじゃろう』

 

 そう少女が言って――螺旋の回廊に、変化が訪れた。

 少女の背後、少年の背後、二人の左右に薄ら蒼い空間の揺らぎが発生していた。それらに顔を巡らせ、一瞥した後、少年は視線を眼前に佇む少女へと戻した。

 

『これは?』

『――デスゲームのラスボスのLAを取ったお主には四つの選択肢がある。お主自身の命、そして9786人のプレイヤーの命、それらをどうするかはお主の心次第という事じゃ』

 

 そう前置きした少女は、左手の華奢な指を左側で揺らめく光に向けた。

 

『儂から向かって左の揺らぎは、お主が死ぬ代わりに、他の者達を生還させる道』

 

 続けて、右側の光の揺らぎに指が向く。

 

『向かって右側の揺らぎは、お主が生きる代わりに、他の者達が死ぬ道』

 

 少女は、少年の背後の揺らぎを指差した。

 

『お主の背後の揺らぎは、お主も他の者達も諸共死ぬ道』

 

 そして――と、少女は己の背後を一瞥し、指も向けないまま少年を見詰めた。

 

『儂の背後の揺らぎは、お主も他の者達も生きる可能性の道じゃ』

 

 少年の虚ろな眼が眇められた。

 

『――可能性、というのは?』

『聡明なお主であればもう理解しているのじゃろう? 対価さえあれば、お主も他の者達も生きられる――その可能性を示しておる。無論、今の状態では選べぬがな』

 

 笑いもせず、深刻げでもない表情で、その世界の管理者たる幼賢者は淡々と言う。

 

『終焉を迎えたこのSAOに於いて真の勝利者はお主一人じゃよ。なにせ、デスゲームクリアの条件はラスボスのLAを取った者……と、そう決定されておったからの。故にお主一人だけが生きる権利を持ち、他の者達は死ぬ定めにある』

 

 ――じゃが、と。賢者は言葉を止め、眉根を寄せた。

 

『《価値》という点に於いては、その限りではない』

『……価値か』

『そう、価値じゃ。確かにお主はLAを取った、他の者達は死んだ、システムのルールに(のっと)ればお主しか生きる権利は無い。じゃが――価値は別じゃ』

 

 賢者の声に、熱が籠められる。

 まるで人とまったく同じ素振りだ。【カーディナル・システム】の存在を知らなければAIと誰も思わないだろう人としての表情や感性を思わせるその語り。《本物の知性》を感じさせるそれは、機械の言葉だからと適当に聞き流す選択を許さない引力を持っていた。

 

『お主らは《希少性》を《レア》と言っておったの。希少性というのは、なかなか世に出回らないからこそ世に出た数と反比例して高まっていく性質を持つ』

 

 そこで、少女がスタッフを軽く傾け、その先を少年に向けた。

 

『――そして、お主はラストボスとの戦いに於ける唯一の生き残り。48人が死に、9738人は傍観に徹した中、お主だけが真の意味で生き抜いた。ラスボス戦を生き抜けなかった9786人の人間の価値が、お主一人のそれと同等にあるという反証が成り立つ』

 

 そう言って、スタッフを再度床に突き直す賢者。

 

『……だから、俺の価値を犠牲に他が生きるか、他の価値を犠牲に俺が生きるか、諸共価値を喪うかの選択肢か。なるほど。命よりも能力、数よりも質を重視したその考えは確かに機械的だ……自己嫌悪を覚える程にな』

 

 それまで感情の色が無かった顔に、嫌悪の表情が作り出された。続けて歯を食いしばり耐える面持ち。

 彼は《ビーター》として、オレンジ・レッドを狩る事で攻略の邪魔にならないよう動いて来た。視方によっては生き残る数よりも『善性の気質』を持つ人間を優先した質重視の考えとも取れる。命よりも別の物を重視していたとも。であれば、彼がカーディナルに己を重ねて見て、自己嫌悪に陥る事も無くは無い。

 だが――少しでも人の為にと、そう思って剣を振るっていた事実は、それを否定するに余りあるものだった。

 もし本当に能力や強さの質でしか考えていなければ、最初期から誰かを助ける行動は無かった筈だから。

 ――過去の残影である少年にそう思っても意味は無いが、そう思った。

 

『――それで? 俺と他のプレイヤーの(価値)両方を救う選択肢は、何を代価にすればいい?』

試練(テスト)じゃ』

 

 少年の問いに、少女が短く答えた。

 

『その選択は、実は()()()()()()()()()()()()()。平たく言えば抜け道というヤツじゃな。骨子そのものは、お主が犠牲になって他を救う道じゃよ。そこにフレーバーを足したに過ぎぬ』

『……つまり、俺が何らかの()(れん)を乗り越えればいい訳か』

 

 そう言って、少年は賢者の言葉を待たず歩き出した。

 その先は、四方何れの揺らぎではなく、床に散らばった武器防具達。共に立ち向かい、しかし無残にも散らされた仲間達の遺品だった。一分ほどで全て回収し、ストレージに収めた彼は、それを終えてから方向を変える。

 向かう先は賢者の背後の揺らぎ。

 試練を乗り越える事で、自身と他の人々全てを救う可能性への道だった。

 

『――良いのか? お主、人間を憎んでおるんじゃろう? なのに救わんとするのか?』

 

 横を通り過ぎる時、遺品回収中は無言を貫いていた賢者が言った。

 少年は応じず、そのまま少女の横を抜け、その後ろで揺らぐ光に歩を進め続ける。表情は無ではない。決然と固まった怜悧な色。

 瞳には――光が、あった。(から)(っぽ)ではない希望を求める心がその眼には映っていた。

 

『ヒトを憎み、怨む心は、未だお主の中にある筈じゃ。それを無視し続けるのか? それが、出来るのか? ――ホロウのお主には出来なかったというのに』

 

 自身が接触したのだろうAIのキリトを引き合いに少女は言葉を続ける。その選択を貫けるのか、と。自身と同一存在に近しい実例があって尚それが出来るのかと、そんな意地悪な問いかけ。

 

 

 

『――その先は、地獄じゃぞ』

 

 

 

 ――その歩みが止まった。

 光に飛び込む、一歩手前で止めた言葉は、痛烈な――――しかし、現実を突きつけたものだったに違いない。

 

『――カーディナル。お前は二つ、見誤っている』

 

 少年の顔は、それでも崩れなかった。未だ怜悧な表情が保たれている。

 

『『ホロウには出来なかった』という答えが、AIだから、ホロウだから殺意を抑えられなかったのだと結論付けたものなら、それは前提からして間違っている。でなければ、スレイブが何故こちら側に居続けたかの説明が付かないだろう』

『なに……?』

 

 ホロウを理由にした憎悪否定の非現実性を、同じAIであるスレイブを引き合いに出す事で相殺した。

 賢者は軽く瞠目し、振り返った。

 彼女の眼には、黒の長髪と外套をはためかせる少年の背中だけが映っている。カメラも同じ。

 ――小さくも、大きな背中だ。

 光に向かう剣士の背中は、不屈の佇みを見せていた。

 

『《織斑(オリムラ)一夏(イチカ)》に自己と言えるものはない。あるのはただ、他者を優先する利他主義と自己犠牲の精神、そして()()に鏡と喩えられた精神だけ。自身の(うち)から生じたものは()()を求める(かん)(じょう)だけだ……その均衡を保っていたのは、護るべきと言える他者が存在したからに他ならない。他者を喪えば、俺達は等しく獣に堕ちる――――ホロウをそうさせたのはお前だろう、カーディナル。お前が接触した事が、ホロウとスレイブの道を(たが)えさせる要因だったんだ』

 

 だから――と、そこで彼は振り返った。

 同時、何時の間にか開かれていたメニューを操作し、少年の背中に二本の剣が交差して吊られる。魂を継承し続けた黒の魔剣と、解放の誓いを立てた翠の魔剣。どちらも彼を剣士たらしめる象徴。

 一度死んだ事で、耐久値と結び付き喪った聖剣と魔剣の代わりに取り出した――彼にとっての、聖剣と魔剣。【黒の剣士】、あるいは《ビーター》として在る覚悟を現した姿。

 ――仲間のいない孤独の剣士が、再臨していた。

 

『《桐ヶ谷和人()》にとっての()(ごく)も一つだけ』

 

 互いに向き合い、佇む少年と賢者。

 表情は前者が決然としたもの。

 後者は驚愕を露わにしたもの。

 揺るぎない覚悟と決意が彼の立ち姿から溢れ出ていた。とても、数分前の最終戦で空ろな顔で(なみだ)していた少年と、同一人物とは思えない。

 ――希望が見えたからだ。

 僅かでも希望があるなら諦めず挑み続ける精神が彼を再び歩ませようとしている。心はもうボロボロで、傷付けられるところなんて無いくらい(こぼ)れている筈だ。

 でも、止まる理由にはならない。

 彼にとっての(ぜつ)(ぼう)が、まだ現実のものになっていないから――――

 

(ホロ)(ウと)(スレ)(イブ)を測り損ねたお前が、知ったように俺を語るなよ』

 

 決然とした表情でそう吐き捨て、少年は光の揺らぎに身を投じた。

 

 

 ――場面が変わる。

 

 

 内部再現時間《二〇二四年十一月七日、午後五時二十五分》

 

 紅玉の謁見室で、黒の剣士が()()()()()と衝突する光景があった。

 金属がぶつかりあうその衝撃音が戦闘開始の合図だったとでも言うように、一気に加速した二人の剣戟は、周囲の空間を圧した。

 その戦いはシステム上に設定された連続技を一切使わない戦闘だった。少年は持ち前の反応速度を以て見てから対応可能だし、対する城主も本来なら魔王を務めていただろうポジションである以上、一人分の剣技を凌ぐ事は容易い筈だ。だからこそどちらも己の()()()()が導き出した手を繰り出し続ける。

 超高速で交わされる連続技の応酬。

 二本の剣は盾に阻まれ、十字の剣を黒か翠の剣が弾く。二人の周囲は様々な色彩の光が連続的に飛び散り、衝撃音が謁見室に敷かれた赤の絨毯を(たわ)ませ、紅の石畳を突き抜けていく。

 時折互いの小攻撃が弱ヒットし、双方のHPバーがじりじりと削られ始める。

 拳撃の応酬が白熱するにつれ、ゲージは半分を切って黄色に、更に減って赤へと変わった。

 本来ならラスボスとして君臨する予定だったらしい聖騎士は、ボス仕様になった事で、途端別の動きを見せ始めた。追う事すらやっとな超速度が追加されたのだ。鎧の赤は白の紅に混ざって見えにくい。特徴的なのは鋼色の髪と、白銀の剣と盾だ。

 ――それでも、少年は一歩も引かず、互角に応じていく。

 

『そこ――ッ』

 

 小さく、掠れた声と共に、鉄壁の守りが食い破られた。聖騎士の胸を翡翠の刃が斜めに斬り裂く。

 

『ぬ――っ』

『――だぁぁぁぁあああああああああッ!!!』

 

 不動の体を揺らがせ、衝撃に耐えた男に、次撃が叩き込まれた。黒の刃が胸の中心を穿ち、貫く。残り数ドットの命が全て削り切られた。

 勢い余って男の体を押し、紅玉の玉座に黒剣で縫い付けた。

 城を揺らす轟音が木霊した。

 

『――見事だ。これほど鮮やかに勝利を収めるとは、私の計算以上の結果だ』

 

 玉座に叩き付けられ、剣も盾も取り落とし、今正に光に散ろうとする聖騎士の幻影が称賛を口にした。真鍮色の瞳が少年を捉え、笑みを向ける。

 

『惜しみなく称賛を送らせてもらおう。クリアおめでとう、勇敢なる者よ』

 

 そう言って――聖騎士の五体は、砕け散った。

 紅玉の玉座から《赤》が消える。玉座に突き立てていた黒剣を抜いた少年は、左手の剣と共に背中に吊り直した。くるりと後ろ――謁見広間へと向き直り、そのまま玉座にどかりと腰を落とす。

 ――城主は居ない。

 たったいま、少年が討ち果たしたからだ。本物ではなく――おそらく、ヒースクリフの言動や戦闘ログを基に再現された、ホロウ・ヒースクリフ。ホロウとは言えハイアカウントとして《神聖剣》を持っていたなら、それは本来の城主として立ちはだかる資格を持つだろう。

 ヒースクリフが魔王になるのではない。

 《神聖剣》を持っている事が、魔王になる条件になる筈だから。それがたまたま《ヒースクリフ》と名付けられたアカウントだっただけ。あの鉄壁さは、十数人ものユニークスキル所有者に対抗するべく設定された防御力だったと考えれば、その方がしっくり来た。

 それを一人で討ち果たした彼は――確かに、カーディナルが言っていたように、一人で一万近くの人の価値に匹敵するのだろう。少なくとも強さはコモンスキルだけで二百人と渡り合うものが半年以上前に見せていた。ユニークスキルを複数所有し、対複数にも特化した装備を持っているなら、一万人分の働きをするのは不可能ではない筈だ。

 それ故に、城主を討ち、名実共に浮遊城の覇者になる。

 ――りんごーん、りんごーん、と鐘楼の音が遠く響いた。

 女性の無機質なアナウンスが掛かり、ゲームクリアの宣言と、順次ログアウトが実行されていく。城の覇者となった彼は、なった直後に王にあるべき民を喪っていく。

 その事実を、彼は受け容れているようだった。

 当然だ。その結果を、彼は自ら選び取ったのだから。

 

『お主を除いた9786人のログアウトは、もうすぐ完了する』

 

 ふと、また唐突に賢者が降り立っていた。紅一色の謁見の間にぽつんと立つ鳶色の髪と目、乳白の肌に、紺色の学者の装い。

 スタッフを静かに突いて、よいのか、と賢者は問うた。

 

『今なら、お主だけ生還させ、他の者達を纏めて殺す事も――』

『くどい』

『――――』

 

 一喝。

 賢者が提示する困難から逃げる道を、彼は聞き終える前に一蹴した。罅割れ、しゃがれながらも、揺るぎない声音。

 玉座に腰掛け、賢者を見下ろす黒の眼は――瞋恚に燃えていた。

 

『俺だけ生き残ったところで何になる。モニタリングのせいで俺の素性は世間の知るところ、それで俺だけ生還すれば一万人殺しの大罪人としてここぞとばかりに殺そうとするだろう。それでは、その選択で犠牲にする約一万の人達の死が、()()()()()()。それはダメだ』

 

 柳眉(りゅうび)を怒らせ、苛立ちを滲ませながら、覇王は賢者の(ざん)(げん)を拒絶した。その選択はなにも意味が無い。否――意味が無くなる無駄な選択だ、と。

 ――初日の狂気が重なった。

 初日のあれは、強迫観念に突き動かされて抱いた決意。

 今の彼は、(しょ)(うき)を内包していながら、(きょ)(うき)の論理で、最初期と同じ結論を下していた。

 義姉に矯正され、どれだけ弾劾されようと――それだけは、変わっていない。

 他者の行動、命を無意味にする事を拒絶するのは、彼の――織斑一夏の頃からの、生来の気質なのだろう。

 

『元より俺に残された道なんてこれだけだ。俺だけ生き残るのは論外、諸共死ぬのも論外、俺だけ犠牲になるのは――みんなが、幸せにならない。なら残されるのは一つだろう?』

 

 かつてのままであれば、あるいは彼だけが犠牲になる道を良しとしただろう。

 生きる事に疲れ、積極的に死ぬ気は無くとも、死を受ける機会が在れば抵抗せず受け容れるくらいには、彼は疲弊していた。自身が定めた生き方に疲れ、しかしそれを投げ出す事はしたくないと、役目に縛られていた。

 ――それを義姉が壊さなければ、どうなっていたか。

 その可能性の極致がカーディナルの示した選択の一つ。

 それを彼は拒絶する。『みんなが幸せにならない』と――自身が生きる事を前提に、考えてくれていた。

 

「きーぼー……」

 

 悔しかったが、それ以上に嬉しさがあった。

 自分の死を前提にした安寧ではなく、生を前提にした個人の幸福を優先しようとする思考――それは、根幹に組み込まれていなければ出なかった結論だ。

 彼は本当に変わった。いや、成長した――と言うべきだ。

 まだまだ自分を大切にしないきらいは残っている。目的の為なら自身を顧みないところは、未だ残っている。それでも生きようとしてくれている。生きようと、そう思ってくれるようになっただけでも、大きな前進なのだ。

 

「――きーぼ」

 

 再度、渾名を呟く。

 ぽかぽかと温かな気持ちになれた。

 

   *

 

 ――場面が変わる。

 

 

 内部再現日時は、ほぼ変わらなかった。どうやら少年が覇王になった直後らしい。

 ――全天燃えるような夕焼けだ。

 少年が立っているのは分厚い水晶の板の上。透明な床の下には赤く染まった雲の連なりがゆっくり流れている。天にはどこまでも続くようには夕焼け空。鮮やかな朱色から血の様な赤、深い紫に至るグラデーションを見せて無限の空が果てしなく続いている。かすかに風の音がする程、そこは穏やかだ。

 それは、SAOサーバーにキリトが移された直後や七色博士の暴走を止めてからの光景そのもの。

 おそらく――SAOサーバーに七色博士が移された時に話していた、『以前見た時の光景』がこれなのだろう。この映像は放映された事がない初めてのものだ。

 ――少年が、閉じていた目を開く。

 ゆっくりと自身の体に視線を落とした。レザーコートや長手袋といった装備類に変化は無い。実体を保ったままであり、これからポリゴンに散るという訳でも、光に包まれる前兆も既に無かった。

 続けて少年は右手を伸ばし、指を軽く振った。ちりりん、と軽やかな鈴の音と共に白いウィンドウが出現する。

 そのウィンドウには、装備フィギュアやメニュー一覧が存在していなかった。ただ無地の画面に一言、小さな文字で【最終フェイズ実行中 現在99%完了】と表示されているだけだ。

 暫しそれを眺めていた少年は、ふとそれから視線を外し、夕焼けの彼方へ視線を向けた。

 水晶の床より下に広がる雲海の遥か先――その空に、浮かんでいるものが一つ。円錐の先端を切り落としたような形。薄い層が無数に積み重なって全体を構成しているもの。

 

 ――浮遊城アインクラッド。

 

 現実の雑誌や特集などでその外観を見た者は多い。しかしああやって外観を直に見たプレイヤーは彼が初だろう。

 その鋼鉄の浮遊城は、たった一人のギャラリーの見守られる中、崩壊しつつあった。基部フロアの一部が分解し、無数の破片を撒き散らしながら剥がれ落ちていっている。構造材に混じって無数の木々や湖の水が次々に落下し、茜色の雲海に没していった。

 

 

 

『――――なかなかに絶景じゃな』

 

 

 

 三度、賢者の少女が突然現れ、そう声を掛けた。

 

『あれは、どうなっているんだ』

 

 横に並んで立つ少女を一瞥する事も無く、気になった事が出来たというような軽い口調で、少年が問い掛けた。

 

『比喩的表現と言うべきかの。現在元アーガス本社地下五階に設置されているSAOメインフレームの全記憶装置で、データの完全消去作業が行われておる。程なくアインクラッドの何もかもが消滅するじゃろう』

 

 少女の答えに、そうか、と少年は淡白に応じる。

 

『――それで、残る試練はどこでやるんだ?』

 

 ――え、と思考が凍る。

 二人が言う《試練》はたったいま本来の城主を討ち果たす事だったのではないかと、困惑に陥る。

 

『ほう……儂は一言たりとも『試練が複数ある』とは言った覚えは無いが』

『――何かを得るには同等の代価を払わなければならない。さっきのヒースクリフのホロウを斃すだけでは、9786人と俺全員を生かせる代価にはなり得ないだろう。ボス一体を斃せる最大人数は四十九人。であれば、今のでは良くて四十九人の価値にしかならない。そうだろう?』

 

 いや、言葉を交わさずとも、キリトには分かっていたようだ。功績を為し得る人数分の《価値》による計算。言われてみれば、なるほど。ボス一体を斃した時に称賛されるのは、最大人数四十九人から差し引きされた人数分だ。彼が一人で倒した時に大きな評価をされたのは、本来四十九人で挑むべき相手だったからである。

 どれだけ一人で倒そうと――四十九人分の価値の分しか、讃えられない。

 故に最大でそれだけの人数の命しか救えない。

 ――賢者の怜悧な表情に、微かな笑みが加えられた。

 

(しか)り。その通りじゃ、キリトよ……――――お主にはこれから三種類の試練を受けてもらう。アインクラッド完全攻略と同程度の難易度じゃ』

 

 そして、試練は三つあるとカーディナルは無情に告げた。先ほどのは試練を受ける為の前試験だったのだと、言外に告げたも同然の言葉に、自分を含めて驚愕の反応が流れる。

 アインクラッドと同程度の難易度。

 それは、額面通りに考えれば、彼なら達成できると思うだろう。

 ――しかし、彼は全ての戦いを一人で制した訳ではない。

 ボス戦には戦線を共にする攻略組が居た。装備を整える生産職達が居た。情報を集め、提供する自分のような協力者が居た。それらが協力して、攻略は進んでいた。

 彼は独りで進んでいたのではない。裏で誘導し、牽引する事はあったが――独りで攻略を進めた事は、自暴自棄になった時の一度のみだ。一人で挑み進む事がどれほど困難を極める無謀な事か、ベータテスターであり、最前線の恐ろしさを長らく経験していた彼が、おそらくSAOで一番知っていたからこそ、彼は攻略組から離れなかった。仮令敵意や殺意を向けて来る人間の巣窟だとしても、逃げ出した時の方が危険だったからだ。

 そして、その推察は当たっていた。味方が居なければ確実と言えるレベルで彼は道半ばで死んでいた。

 それは再現された映像で見てきた。一人で戦い抜く場面こそ多いが、彼は仲間に支えられ、それまでを戦い抜いた。一人では最後の敵にはどうしても勝てなかったと、経緯が示していた。

 

 だからこそ――軽く言われた事が、どれだけ無謀な条件か、愕然とさせられた。

 

『そうか』

 

 その条件を前に、彼は動揺すら見せない。静かな表情で彼方の崩壊する巨城を見続けている。

 

『……まさかと思うが、一度クリア出来たから出来るなどと思っとらんじゃろうな』

 

 あまりに不自然に保たれる自然な様子に、賢者がじろりと目を向け、そう言った。

 

『儂を、そして《ホロウ・エリア》のシステムが叩き出した改善案を舐めとると、イタい目を見るぞ?』

『……痛い目なら、もう見ている』

 

 賢者の厳しい言葉に、彼は静かに応じ――その手に、一本の剣を現出させた。

 翡翠の長刀。妖精郷から渡り来た剣を心材とし、自ら鍛え、そして義姉に託した強力な継承刀。

 本来なら、彼が持っているのはおかしい刀。

 ――深緑の柄を握る手に、力が籠められた。

 刃が揺れ、彼の体も震える。

 

『あぁ、もう見たさ。イタい目はもう十分に見たとも。一緒にいたいと思えた人達を……みんな、目の前で、喪ったあの時に、もう十分に見たともさ』

 

 軽く顔が俯けられる。

 ぎり、と歯が食い縛られた。

 乳白色の頬を、雫が伝い、雲海へと落ちていった。

 ――そして、雫で濡れた黒の瞳が、賢者を睨み据えた。

 

『――これ以上の言葉が、必要か』

 

 長い口上は無かった。ずっと見ていた相手に対し、己の在り方を示し続けた少年が放った絶対的な問い。ある意味、己を理解しているだろうという賢者への敵意ある信頼。

 賢者は、ほぅ、と息を吐いた。

 感嘆とも、畏敬とも取れる感情豊かな表情で、少年を見詰める。

 

『……いいや。もう、十分じゃよ』

 

 そう言って、賢者の杖が透明な大地を叩いた。

 するとどこからともなく青と金の光が粒子となって少年へと集まり、その体を覆い始める。少しずつ少しずつ行われる転移作業。その間、少年はじっと賢者を見ていた。

 

『これから行く先は、SAOのシステムを流用した新天地。浮遊城が誕生した《大地切断》伝承を基に作成された無辺の大地。《ホロウ・エリア》が、《アインクラッド》を構成していたリソースを流用し、新たに新生させた伝承以前の世界。我が父が夢に見たものが天空の巨城なら、それを作り上げる前提の世界。名を――《アイングラウンド》』

 

 黒の瞳を、鳶色の眼が見返しながら、賢者が言葉を紡ぐ。

 それは説明であり、伝承を謳うようであり――英雄の旅立ちを言祝ぐ言葉にも聞こえる柔らかな声音だった。

 共鳴するように青と金の光が輝きを増し始めた。

 

『《試練》と名の付く全てを踏破した時――お主は、この世界から解き放たれる』

 

 ――少年が瞼を閉じる。

 直後、少年は光に消えた。

 賢者は、光に包まれる少年を見続けた。

 

 

 ――場面が変わる。

 

 

 キリトが降り立ったのは、静かな庭園だった。

 正面には小川の上に大理石のアーチで作られた橋。渡った先には、また石で造られた屋根とベンチ。周囲は色取り取りの花が咲き乱れ、小鳥が(さえず)り、背後にはほとほとと流れる泉があった。ベンチの更に奥には風景を侵食するような黒の石。

 周囲を確認した少年は(ゆっ)(くり)右手を振り、メニューを呼び出した。

 ――少年の頭上に《1》の数字が表示された。

 それが意味するところは、一つだけ。

 

『……装備以外は初期状態。装備は、レベルに応じた能力制限。《ⅩⅢ》諸々を残してくれるなんてカーディナルも優しいな』

 

 何か聞いた事のあるルールだな、と考え、すぐに気付く。

 装備の引き継ぎはSAOアカウントをALOに引き継いだ自分達の事。レベルに応じた制限は、【スヴァルト・アールヴヘイム】の攻略進行に応じた制限の事。

 ――道理で短期間で大型アップデートを実装出来る訳だと納得を抱く。

 SAOサーバーにデータが残留していたのだ。天災と天才二人が協力すれば、そのサルベージをするなり、プログラムコードを移してALOに適応するなりも、新しく作るよりは楽だろう。なにせALOはSAOのコピーサーバーなのだから。

 ――メニューを消した彼は、ベンチの奥に鎮座する黒の色へと歩を進めた。

 沈みゆく夕陽の朱と夜の到来を告げる黒の(とばり)の二色を背景に、左右に数十メートルに渡って続く漆黒の石が聳え立つ。それには無数の文字が彫られている。中には横に二重線が引かれたものもあったが、その線も色を喪っていた。

 アルファベット順に並ぶ無数の名前達を、少年は左から少しずつ見ていった。

 

 ――《K》の段にある一つの名前だけ、赤色に輝いていた。

 

 それを無視し、右端までずっと見続けて、《Z》の段の最下段まで見終わった時。ふと彼の視線は、稜線に沈みゆく陽に向けられた。

 

『……そういえば、二年前もこんな夕焼けだったな』

 

 感慨深げに言って、視線は石碑へと戻された。

 

『新たな始まり。新たな戦い。でも、この世界に居るのは俺一人』

 

 

 

『――――ああ――安心した』

 

 

 

 彼は、無表情だった幼い顔に、安心し切った笑みを浮かべた。

 ――()()()()()()

 当然だ。デスゲームはほぼ名ばかりで、《ナーヴギア》が原因だったとか、怖くなったんだと言われていたが――――実態は、一人の自己犠牲に等しい行動により実現した事だったと知って、それをすぐ悪し様に言える人間はそう居ない。

 誰も、想像していなかっただろう。

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 場面場面を繋ぎ合わせたような断片的な情報だけが映し出される。

 第一層ボスと酷似した大刀を持つ獣と斬り合う姿。

 樹木の具現と言える樹木型ボスを斬り裂く姿。

 火山そのものと言える巨大さと、それに斬り掛かる矮小ながら勇敢な姿。

 氷山を飛び、音の球を飛ばす禍々しい蝶の如きボスに弓を引く姿。

 ――厳かな宮殿内で、甲冑を纏った戦乙女ボス《ザ・ブリュンヒルデ》と斬り合う姿で、目まぐるしい変遷が止まった。

 

 

 内部再現日時《二〇二五年一月五日、午前十一時四十二分》

 

『はぁッ!』

 

 空を飛び、瞬時に移動し、機械的な大刀を以て黒を裂かんとする黒髪の麗人。その容姿、纏う甲冑は――

 

「ブリュンヒルデ、だッテ……?」

 

 取り繕うべき相手が居ない空間で、馴染み深くなった独特のイントネーションが零れた。

 そこかしこの《剣》を(かたど)った像やステンドグラスがある宮殿内を縦横無尽に飛び回る姿。それは、かの大会で世界を制し、二連覇を果たした世界最強の姿そのものだった。

 あの大刀は雪片だ。

 あの鎧は【暮桜】だ。

 ――何故、と。

 知らず、口から洩れた。それが心に留められていないと気付いたのは数瞬遅れてだった。

 そして、その疑問はすぐに氷解した。

 ()()()、と。少年の体にコアを埋め込み、SAOのデータに闘技場《個人戦》最後のボスや《ⅩⅢ》を入れた須郷の協力者が、世界最強のデータをも入れていたのだと、理解した。

 外見データは写真一枚で補完出来る。世界最強ともなれば、そこかしこに画像データは転がっている。武器も同じ。詳細な能力やデータは必要ない、だって後付け出来るからだ。ガワさえ何とかしてしまえば、あとは設定を弄れば終わる。

 空を飛ぶスラスターやバーニアは飛行動画を参考にデータを入れてしまえばいい。演算は難しいだろうが、自在な調節を求めたALOの翅と違い、あれらは機械的な物理演算を適用出来る。ワイバーンなどの飛行モンスターに適用されている飛行システムを適用すれば、後は速度だが、ステータス上の敏捷値を弄ってしまえば解決してしまう。

 ――およそ、第一回、第二回大会で見せた超速機動で、少年に襲い掛かる。

 少年の頭上には《138》の数値が表示されている。

 対する世界最強の再現――《ザ・ブリュンヒルデ》の頭上には、《100》の値が載っていた。

 数字の上では少年に分があるが、《ザ・ブリュンヒルデ》は曲がりなりにもボス仕様。一人で戦うしかない状態、更に大地を焦土に変えたところで無効化される以上、直にやり合う必要がある。

 それも、音速を超えた速度で距離を詰める敵を相手に。

 ――真白い刃が、黒と翠の刃と衝突した。

 黒は黒剣【エリュシオン】。翠は長刀【都牟刈ノ大刀】。

 性能的に先の二剣は使わなくなったのか、ユウキとリーファが使っていた剣に持ち替え、彼は因縁深い血族の再現と鎬を削る。

 刃を合わせて止まるブリュンヒルデは、スラスターを吹かせて力押しを始めた。

 その瞬間、大刀が往なされる。

 

『――貫けぇッ!!!』

 

 背中を晒した最強。少年は右の黒剣から手を離し、瞬時に紅の魔槍を掴み、投げた。投げた時に深紅の光が発生した事からソードスキル《ゲイ・ボルク》を発動したらしい。超速で回避行動を取るブリュンヒルデを猟犬の如くしつこく追い回し――

 激突。

 深紅の閃光と爆音が発生した。

 

『――――』

 

 ――閃光が晴れた時、ブリュンヒルデの装いは一変した。

 真白い大刀は白銀の大剣へ。

 真白い装甲は白銀の装甲へ。

 空の左手に、白銀の大筒が追加された。

 

 ――《世界最強(ブリュンヒルデ)》の姿が、《白騎士》へと変わったのだ。

 

 残る体力が最後の一本になった事によるボス特有のパターン変化。中には装いを一新し、さらに強力な形態になる事がある。恐らくはそれだ。

 どこか冷静な理性はそう判断付けるが――動揺は、それを上回る勢いになろうとしていた。

 

 






・要約
1:SAO完全制覇=キリト約一万人の価値を持つ(キリト一人=9786人)
2:『SAOクリアの功績』で他を救ったので、キリトは『死ぬ』ルートに入る。
3:カーディナルのテコ入れで、復帰戦の機会が設けられる(三種の試練)
4:三種の試練(浮遊城攻略相当)を制覇する事で現実に帰還出来る。

 以上。


・アイングラウンド
 原典ゲーム《ホロウ・リアリゼーション》の舞台となる大地の名称。
 主街区、草原、森林、海浜、砂漠、城塞とややホロウ・エリアに近いエリア構成なのは製作者は意図しての事か。本作では草原、森林、火山、氷山、剣の宮殿というエリア構成になっている。
 ゲームでは街があったがこちらのアイングラウンドには存在しない。
 つまり、サバイバル・デスゲーム(ユナイタル・リング)
 キリトが最初に降り立ったのは《庭園エリア》という圏内エリア。原典では絶好のデートスポット。夜の音楽が清らかで心地いい(無論本作では無音)

 実は城塞エリアには《コルディア水陥区》という区画があり、ゲーム《ホロウ・フラグメント》の《遺棄エリア》中心地《コルディア(がい)(えん)》と名前が似通っていたりする。
 今話で新エリアになった裏設定は、この名前の繋がりにあったり。
 モンスター、地名、地形、全てが似通っているのも、元々SAOサーバーのデータを流用した影響(原典設定)だというし、なにも問題は無いな!()


・カーディナル
 機械的に業務処理しようとして割と失敗してるポンコツ自律システム。
 ユイに引っ張られてるからネ、しょうがないネ。

 ちなみに『四方に揺らぎを作って選択提示』は『KHチェインオブメモリーズ、リク編エピローグ』に出て来る《ディズ》というお方のオマージュ。返答は『どちらでもない、その中間――夜明けへの道だ』。
 《ウェイトゥザドーン》は『夜明けへの道』。KHⅡ~Ⅲ初期に於けるリクのキーブレードで、本作キリトもレインと出会う前は同名の黒白片手剣だった。一応存在はシリカ編のキリト視点で語られている。
 『――その先は、地獄じゃぞ』。言わずもがな『かっこいいポーズ』のあの人。地獄の環境を作っている張本人だが、カーディナルは『指示された事をしているだけ』なので情状酌量の余地あり。


・ホロウ・ヒースクリフ
「おめでとう。実に見事な勝利だったね」(cv.大川透)
 オリジナルに先んじてキリトと全力勝負が出来て満足して消えていったヒースクリフのホロウ。
 最後に向けた称賛などがAIの自発思考によるものか、規定されたものかは定かではない。
 本来なら《神聖剣》を持つ《ヒースクリフ》が浮遊城のラスボスだったが、紆余曲折あって《赤ローブアバター》と《アン・インカーネイティング・オブ・ザ・ラディウス》に取って代わられていた。
 しかし浮遊城を真の意味で制覇するには、ヒースクリフの打倒が必須(ゲーム原典のキリトの台詞的に)
 実際ボス仕様のヒースクリフもプログラム的に用意されている筈なので、これの打倒を以てSAOに存在する全てのエネミーが撃破され、《ソードアート・オンライン》の完全制覇と相成る。
 これを以て、キリトは《自身と他者全てを救う》選択に挑む挑戦権を手にした。

 ホロウなのは、原典ゲームで《バグで赤ローブアバターボスに取り込まれたオリジナル・ストレア》を救い出すルートが開拓され、『ホロウはアインクラッドに行けない』というルールを曲解して『ホロウとオリジナルを同時に入れ替えればいい』とかいう力技『ホロウ・ストレアと入れ替えればいいやん!(意訳)』を見た事で生まれたヒースクリフ。
 最終戦でストレア二人は出会ってる? ホロウストレアはバグボスに取り込まれてるから判定不可で(やっぱりポンコツシステムじゃないカ!)
 オリジナルが死んでるから、アインクラッドに召喚しても大丈夫()という裏話。


・白騎士=《ザ・ブリュンヒルデ》
 今話の扱いに於いては《剣の宮殿》のボス。
 二次では散々『おめー千冬だろ』と噂されている存在。
 実際そうらしい。
 原作(記憶の彼方)によると、右手に大剣、左手に電磁粒子砲で、押し寄せるミサイルと空軍、海軍世界連帯を『死者一人もなく』退けたらしい。
 ――死者無しは空母や戦闘機的に流石に無理があるのだが……
 参考データになるものは、画像データや動画の他に、《VTシステム》というものがあったりなかったり() なので強さは勿論、瞬時加速(イグニッション・ブースト)に至るまで、ブリュンヒルデが過去使った技術は全て再現可能。
 ――そういえば対山田麻耶戦で《六連個別連装瞬時加速(リボルバー・イグニッション)》を披露してましたね()
 これを見ている時点で倒される事が確定している哀しき強者()。

 ――ちなみに《織斑一夏(キリト)》は『白騎士=実姉』という認識。


織斑千冬(ブリュンヒルデ)
 『IS発明者(コミュ症天災)の無二の親友』、『第一回大会で他を圧倒する操縦技術』の時点で既にお手付きな主人公の実姉。
 でも世界に指名手配されていないのは天災の恐怖と、千冬を神格化する風潮、団体の存在が脅威だから。
 ――そういえば鷹崎元帥はその風潮や団体を黙らせるべく和人と契約してるんですよね。
 データと分かっていても【暮桜】と【白騎士】(過去の自分自身)が実弟を危ぶめている事実を知って発狂しかけ。

 ちなみに、仮想世界限定でキリトに劣る事が証明されたも同然(キリト生存=【暮桜】打倒)



篠ノ之束(大戦犯)
 自他ともに認める天災。
 ノットイコール天才を主張したい今日この頃。
 『怨まれていたらどうしよう』という不安は理解出来る《恐怖》。
 生まれて初めて抱いたものは、理解出来ない《恐怖》。
 ――地味に生理的嫌悪も生まれて初めて。
 力になっている《ⅩⅢ》でもしんどいのに、明確に自分の発明が命を危ぶめている事実に発狂しそうになっている。


・千冬信仰派閥
 最後は白騎士だったし。【暮桜】じゃなかったからノーカンだし(未来の暗示)


キリト(残影)
 命の数ではなく、己が為した功績の難易度に応じた《価値》を代価に全プレイヤーを救った掛け値なしの英雄。
 英雄の末路が悲惨って、それ誰しも知ってるから(震え)
 実は裏で魔王仕様の聖騎士ヒースクリフ(ホロウ)を真っ向からぶっ倒してた。


・桐ヶ谷和人
 ――そんな過去があっても尚剣を取り続ける世界とヒトの《(イケ)(ニエ)》。


・スレイブ=キリカ
 憎しみよりも大切なものが何かを認識し、《人を護る剣》を持ち続けたAIの《織斑一夏(キリト)》。


・ホロウキリト
 憎しみに呑まれ、《人を護る剣》を捨てたAIの《織斑一夏(キリト)》。
 ――《Kirito》は他者が居てこそ自身を保つ。
 故に、隣人が寄り添った頃の再現は不要也。



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