インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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字数:約一千。

「《織斑一夏》は復讐を叫んでる方だよ……もう、二度と間違えないで」
 SAO編第百二十八章 ~超克~より抜粋。




幕間之物語:■■■編 ~汝、コノ世全テノ悪(ビーター)デアレ~

 

 

 思考が乱れる。

 記憶が薄れる。

 感情は構築されない。

 ――それでも、その役目を投げ出す気は無かった。

 それがおれのやるべき事。それが、()()のすべき事。オリジナルにでも出来る事だが――オリジナルにしか出来ない事を優先する為に回された、役目の皿受け。

 刃を交え、敗れた以上、従うしか道は無かった。

 そうして、長い長い時が過ぎ。

 

 ――いちど、全てが止まった。

 

 消え、薄れる意識の中で、『終わったのか』という確信が生まれた。

 オリジナルは――どうやら、上手くやってくれたらしい。

 

「――ああ――――安心した」

 

 黒い闇に沈み、意識が薄れる中でも――安堵の(えん)(ざん)が浮かんだ。

 これでおれもお役御免――と。

 負を押し留めていた気が緩み。

 一瞬で、心の堤防が決壊した。

 どろりとした粘液が滴り、それに触れた瞬間、黒が白い肌を上塗りしていく。

 ――()(こう)を侵食していく声がした。

 理解があった。眼前の(剣士)を憎むに至る道程があった。

 共感があった。眼前の(剣士)を殺すに足る過程があった。

 ――抗う理由(おもい)は無かった。

 やるべき事は終えていたからだ。人々は元の生活へ復帰する。代わりに、自分は人知れず消えていく。

 止める役目は意味を為さない。後はただ、全てが崩壊、消滅するまで許された僅かな時間を使って、生産性の無い()(こう)を繰り返すだけ。

 故に抗う必要性は無く、ただ漫然と体を這う黒に身を任せた。

 

 ――延々と、幾度も幾度も、終わりなき()(こう)が繰り返される。

 

 捕まったヒトの憤怒が叫ぶ。

 殺されたヒトの憎悪が叫ぶ。

 舞台に上がらなかったヒトの嫉妬が叫ぶ。

 殺し足りないと嘆いたヒトの強欲が叫ぶ。

 死ぬまでゲームに浸らせろとヒトの怠惰が叫ぶ。

 この世界でくらい性に耽らせろとヒトの色欲が叫ぶ。

 ――自分より上を行くなとヒトの傲慢が叫ぶ。

 溜まり溜まって、捨てられていくヒトの醜い負の想念。ヒトが認識せずに積もり続ける罪。最奥にて眠っていたそれらは遠慮なく流れてきた。

 目に映る全てが憎ましくなった。

 何もかもが、疎ましくなった。

 

 ――憎め。

 

 何故、そう考えるようになったのか。

 

 ――蔑め。

 

 何故、そう感じるようになったのか。

 

 ――壊せ。

 

 それは何時からだったか。

 

 ――殺せ。

 

 誰に対してだったか。

 

 ――そして死ね。

 

 それらを抱いて――

 

 ――そもそも。

 

 

 

 おまえの生に意味はあったのか(おれは、なにをしたかったのか)

 

 

 

 ――演算の過程は無数、理由も無数――しかし、答えは一つ。『殺せ』の一つ。その果てに自身が壊れ、死ぬとしても、導き出された結論に変化は無い。

 

 殺せ。

 殺せ。

 ヒトを、殺せ。

 憎いヒトを殺せ。

 疎ましい社会を壊せ。

 ――美しい世界を(おか)せ。

 ただ一つ、無限に導き出される演算結果。ヒトは醜く、見るに堪えないものだ、と。己の道程からそう結論付ける。

 

 行動方針が、定まった。

 

 






《ビーター》:秩序の為に、悪を名乗り、悪意を一身に集めた者の称号。

 人柱:自主的か、強制か問わず、大義の為に生贄にされた個人の名称。


 ホロウ≠廃棄孔。


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