インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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視点:掲示板、ユイ

字数:約八千

 ではどうぞ。

※掲示板はあくまでネタなので、ガチで捉えないようにお願いします(予防線)




三幕 ~戦うワケ~

 

 

【英雄】覇王について語ろうゼ☆【誕生】其の27

 

443名無しのプレイヤー

 英雄がダンジョンに突入してからもうすぐで二十分経つ訳だけど、アルゴネキの書き込みがまだだな。そんなに手が離せないという事かね?

 

 

444名無しのプレイヤー

 そうなんじゃね?

 

 

445名無しのプレイヤー

 邪神と戦った事があるから分かるけど、アイツらにハイディングとか全く効かないからなぁ。視認されなければいいけど、視認される位置にいると、問答無用で看破される。

 正直邪神は斥候役/スカウトの天敵だ。

 

 

446名無しのプレイヤー

 HPゲージも量も多いし、ボス扱いなんだろうな。

 

 

447名無しのプレイヤー

 逆説的に、アルゴネキの続報が無い=キリトが最高難易度ダンジョンを単独走破中という事か?

 なにそれあたまおかしい()

 

 

448名無しのプレイヤー

 >>447

 一瞬『あたまおいしい』に空目してしまった。

 訴訟

 

 

449名無しのアラフィフ

 >>448

 勝訴

 

 

450名無しのプレイヤー

 >>449

 数年前のソシャゲキャラネタ持ってくるのやめーやwww

 

 

451名無しのプレイヤー

 どゆこと? アラフィフが何でソシャゲキャラってなるの?

 

 

452名無しのプレイヤー

 >>452

 数年前、一世を風靡した一大コンテンツのソシャゲのイベントにな、殺人事件ミステリーネタがあったんよ。そこでメインキャラの一人が殺害されてな。実際は秘薬で疲労が取れるまで死んだように寝てただけなんだが、メインキャラが倒れた時点では殺されたものだと思われて、それをする候補として真っ先に上がったのが《アラフィフ》、もというさんくささ満開の爺さんキャラだったんだ。

 その疑いが挙がった直後外野から客観的事実と共に否定された時、アラフィフが『勝訴』って言ったのが元ネタ。

 

 

453名無しのプレイヤー

 『犯罪界のナポレオン』って言われた程だから、何か事件があったら即疑われてたんだよな。

 実態は愉快なダディ兼バーテンダーなんだが、アレは多分主人公の善性に引っ張られてただけで、本質は策謀家。それをみんな分かってたから真っ先に疑われた。

 

 

454名無しのプレイヤー

 あのキャラが出てから、『怪しかったらとりあえず疑っとけ』的なネタキャラだったよね。

 

 

455名無しのプレイヤー

 でもガチになると超かっけぇぞ。決め手に魔弾を使ったとあるコラボイベントで惚れて、引ける機会がある度に躍起になって金を溶かした事を覚えている。

 なお、けっかはおさっしである(ガチャは悪い文明)

 

 

456名無しのプレイヤー

 >>455

 『引ける機会がある度に』

 『けっかはおさっし』

 ……サービス終了まで引けなかったんだな、推しを。

 

 

457名無しの敗北者(455)

 やはりガチャは悪い文明(怨)

 

 

458名無しのプレイヤー

 他のソシャゲと較べても☆5排出率は低いって言われてたよね。始めて速攻で推しキャラが来てくれたお蔭で躍起にならなかったからか、そこまで気にならなかったけどさ。

 一部声優は《グランドガーチャー》とか言われるくらい廃課金してたな。

 

 

459名無しのプレイヤー

 『課金は家賃まで』

 『出るまで回せば実質100%』

 『福袋で来てくれたら実質無料(福袋は有料)』

 色々あったよね。人間の業の深さを見れる事も含め、良いゲームだったよ。意味不明な格言が矢鱈多かった。

 

 

460名無しのプレイヤー

 『採集決戦』

 『殺したいけど死んで欲しくはなかった』

 『断末魔が長い』

 ホントにな。

 

 

461名無しのプレイヤー

 やっぱ人間いっぺん滅ぶべきなのでは?

 

 

462【鼠】

 それキー坊の前で言ってミ?

 

 

 

 死ねるから

 

 

 

463名無しのプレイヤー

 ひぇっ

 

 

464名無しのプレイヤー

 そーいやヒトの身勝手な欲とか感情とかで悪堕ちした側面持ってたな……

 

 

465名無しのプレイヤー

 下手なオルタ化よりよっぽど闇堕ちしてましたね……

 

 

466名無しのプレイヤー

 すまない。

 細かいようだが、オルタ化と言うよりは黒化の方が近い気がする。『一個人の側面を切り分けた存在』や『あり得たかもしれない可能性』がオルタ化であって、『全部ひっくるめた闇堕ち』は黒化だからな。

 アイツのホロウは、後者なんだから黒化って言った方がいいぞ。

 

 

467名無しのプレイヤー

 いい加減スレちネタやめようぜ。この話題ヘタにしてると、解釈違いで論争起きるし、警察も来るからさ。

 我らがアルゴネキが帰還したんだ。早速傾聴しようじゃないか。

 

 

468名無しのプレイヤー

 そうだな。

 で、アルゴネキ、どうだったんだ?

 

 

469【鼠】

 タダで情報を教えるなんて職業柄ホントはイヤなんだけどナー……

 まぁ、キー坊が全力出す案件っぽいから、特別だゾ。

 

 

470名無しのプレイヤー

 冠位案件みたく言うのやめて()

 

 

471名無しのプレイヤー

 >>470

 だからそのネタもうやめーゆーに。

 

 

472名無しのプレイヤー

 >>471

 真面目にスマン。懐かしくて、ついな。

 >>469

 それで、その『案件』ってどんな内容?

 

 

473【鼠】

 打つの面倒だから中継動画のリンク貼るゾ。もうそろそろで説明受けられると思ウ。

 MMOトゥモローのストリームサイトに飛ぶから注意ナ。

 

 

 存亡を賭けた戦い・ALOⅡ

 http//aloyotunheimu……

 

 

474名無しのプレイヤー

 ちょっと待て。

 タイトルが既に不穏なんだが()

 

 

475名無しのプレイヤー

 英雄(コイツ)いつも存亡賭けた戦いに赴いてんな……()

 

 

476名無しのプレイヤー

 呪われてるのでは?

 

 

477魔女

 あながち間違ってない。

 

 

478名無しのプレイヤー

 >>477

 またあんたか。

 そしてそれしか言えんのか。

 

 

479名無しのプレイヤー

 >>477

 出たな、『度々覇王雑談スレに出る割にはあながち間違ってないしか言わない魔女』サン!

 

 略して魔女サン!!!

 

 

480名無しのプレイヤー

 >>479

 なげーよって言おうと思ったのに最後www

 略ですらねーよwww

 

 

481名無しの神父

 若者に多く見られる何でも略そうとする傾向、実に怠惰デスね。

 

 

482名無しのプレイヤー

 >>481

 また何か湧きやがったぞ……

 

 

   ***

 

 

 央都東に位置するヨツンヘイムに繋がるダンジョンに、キリトが単身乗り込んでいる。

 

 アルゴからその一報が届いた時、一週間ぶりとなるALOにログインを果たした私達は即座に動いた。メンバーは【スヴァルト・アールヴヘイム】を攻略していた頃と変わらず、強いて言えば、レインに引っ付いてセブンが居る事くらいだった。

 不問に近いとは言え、現状の科学者人生はほぼ断たれたに等しい彼女は既に制裁を受けたも同然であり、自分達も謝罪を受け容れているので、多少ギクシャクした空気こそあるものの、概ね険悪では無い空気だった。

 彼女の事を気にする余裕もないほど焦燥に駆られていたからかもしれない。

 《クラウド・ブレイン事変》を解決に導いたキリトは、それから四日間生死の境を彷徨い、三日の休養を経て復帰した訳だが、どう考えても四日徹夜したくらいで入院する程にはならない。直前までしっかり食事を摂っていて、点滴による栄養・水分補給もされていた以上、栄養失調による衰弱は候補から外れる。そもそもそれで体調を崩すのは慢性的な状態が大きく関与している。

 ――原因は分かっている。

 いや、分かった、というのが正確だ。

 現実に肉体を持たない自分達はALOサービスが止まっている間、《ユーミル》のオフィスサーバーに構築されたVR空間で日々を過ごしていた。オープン空間でなく、ゲーム要素の欠片も無いそれは、将来的にバーチャルスクールやホスピスを提供する為の試験空間であり、つまり電子書籍やビデオ、テレビなどの電子的娯楽に富んだ空間だ。

 約一週間を過ごしたその空間は、遠隔からのビデオ通話や通信も受信できるようになっていた。

 つまり今日の夕方から《ダイシー・カフェ》にて開かれたパーティーの様子も私達は見ていた。ただしキリカの事を考慮し、映像・音声を繋げたのは『和人が何故七色博士の調査に関わったか』という、《クラウド・ブレイン事変》の始まりから終わりまで話す時だった。

 通信が繋げられたのは話し始めだったので、当然ながら《織斑千冬》との対話も見聞きしたのだが、それはいま重要ではない。

 重要なのは、《織斑千冬》が立ち去った後に語られた事。和人と日本政府との間に交わされた《契約》の詳細についてだ。

 ISコアを体内に埋め込まれている彼は、ISが持つ機能の全てをリミッター無しで行使出来る。どこからともなく武器を取り出す機能の制限も無くなり、自在に元素を操れるようになったいま、設計図さえあればどんな物品も模倣出来るし、怪我も必要なたんぱく質や鉄分などの元素を補充すれば立ちどころに修復できる。

 それの応用で、彼は脳を改造し、一秒単位の演算処理限界を引き上げた。

 反面、ブドウ糖の消費が極端に速くなり、脳は疲弊しやすくなった。

 それも全ては『根強く残る女尊男卑風潮を排する』、『経済崩壊の危機にある国の未来を救う』という政府の意志と、彼が政府に求める『“みんな”の基本的人権の保守』という希望を同時に叶える為だった。

 低血糖状態に陥ったり、今回の事態対処で瀕死レベルまで容態が悪化したのは、その《契約》を履行する為に必要な手段を講じたが故の反動だったのだ。

 

 ――あなたでなければいけないのか、と弓使いの仲間は問うた。

 

 少年は、それに是と返した。

 自分が生きたいと願ったのは、復讐を二の次にしているのは、“みんな”が平穏に生きる未来があるからだと。その未来に行き着く為には不可欠な選択だと。少年は冷静に彼ら彼女らを諭した。

 リーファ達はそれに理解を示し、無理をしないよう伝えた上で喫茶店から三々五々帰った。それが午後九時頃の事。

 

 

 

 生死の境を彷徨っていたと知っていれば、舌の根の乾かぬ内に高難易度ダンジョンに突入したと聞けば誰でも焦るだろう。

 

 

 

 だから、もう無害に等しい少女(セブン)ひとりに構ってられなかった。

 明日の仕込みの為にログイン出来ないエギルの代わりにセブンを加えた私達は、フルレイドの半分程度の人数で、アルヴヘイム最難関級のダンジョンへと踏み入った。

 誰も入った事が無かったので一からの探索になったが、悠長にする訳にもいかないので、通常のナビピクシーと一味も二味も違う元MHCP――つまり【カーディナル・システム】の一部だったAI――としての権限をフル活用し、未探索領域の地図データにアクセスして最奥への最短ルートで集団を導いた。

 恐ろしいのは、少年の進行速度だった。

 彼が突入してから五分足らずで自分達も突入したのだが、地図データを参照するにあたり纏めて閲覧出来たキリトとアルゴのプレイヤーIDは、その時点でダンジョンの三分の一を踏破していたのだ。しかもルートは最奥に続く最短のもの。巻き戻す前に一度ヨツンヘイムに行った事があるという話だったから、その時に通ったルートを辿っているのだろうとは察せた。

 しかし――彼は、ソロである。

 アルゴはハイディングで尾行するとメッセージに書いていた。ハイディングを見破る達人の彼に見つかっているかは不明だが、仮に見つかって同行していたとしても、たった一人増えた程度でダンジョンのMobを倒すスピードはあまり変わらない。

 それなのに、進行速度は自分達とほぼ互角である事に舌を巻くと共に、大いに焦燥の感情に駆られ、立ちはだかるモンスターの悉くを三人分の召喚武器で殲滅した。

 

 そうして、二十分ほど掛けてどうにか少年の下まで到着したのが、数分前の事。

 

 ヨツンヘイムへ行くためのダンジョンの最奥まで突き進んだ少年に駆け付けた面子のほぼ全員で自身を労わるよう諭したのが、さっきまでの事。

 いまは、ヨツンヘイムで何が起きているのかを問い質していた。

 遠回しに、それはいまあなたが動かなければならない事イコール命を懸けるべき事かと問うている。《契約》についてシウネー、ジュン、ノリ、テッチ、タルケン、レコンは知らないが、それでも《クラウド・ブレイン事変》そのほか諸々の映像を知っている以上、そのニュアンスは察している筈だ。

 

「時間が惜しい。歩きながら話す」

 

 問いに対し、彼はどこか余裕が無い様子で踵を返した。

 一瞬仲間と顔を見合わせるが、仕方なしと後を追う。肩越しにこちらを見ていた少年は本格的に足を速めた。

 

「それで、キリトは何でヨツンヘイムに行こうとするの?」

「アルヴヘイム崩壊を食い止める為だ」

「……はい?」

 

 返された答えに、ユウキが素っ頓狂な声を上げた。

 つかつかと、ボスフロアからヨツンヘイム側への回廊を歩きながら、キリトが話を続けた。

 

「ヨツンヘイムには大別して六眼四腕の人型と動物型の二種類の邪神がいるのは知ってるな? 俺もロキを脱獄させてから知ったんだが、アレらは人型が霜の、動物型は丘の巨人族の眷属らしい」

「丘の巨人……もしかして、古エッダの山の巨人の事かしら」

 

 北欧神話系統の本でも読んでいたのか、シノンが小首を傾げながら言う。

 

「それは知らないけど……ともあれ、眷属が居るって事は、それらを率いる巨人が居てもおかしくないだろう? 俺は以前その巨人を倒しに来てたんだ」

「でも、ヴァフスルーズニルだっけ? アレは倒さなかったの?」

 

 純粋な顔でセブンが問うと、キリトがうへぇと言いたげな表情をした。

 

「一度は倒したよ。と言っても決闘形式だったから全損はしなかったんだが、勝ったら付いて行くって言って聞かなくてな。どうせ巻き戻しされたらクエスト状態もリセットされると思って保険として利用した……話が逸れたな」

 

 微妙な視線を銀髪の音楽妖精に向けた後、彼は前に視線を向け直した。

 

「そもそも巨人を倒しに向かった理由は、神話上のラグナロクに於ける主役がオーディン率いる神々とロキ率いる魔獣と巨人達だったからだ。神話上のラグナロクは、世界を崩壊させる程の激しい戦いだったと聞く。つまり舞台となるアルヴヘイムが崩壊する可能性は非常に高い」

「……それは、そうですね。世界を崩壊させる事も許容する【カーディナル・システム】で動かされている訳ですし」

 

 映像として世間に知られるところだが、《アインクラッド》は跡形も無く崩壊した。それを賢者の姿をしたカーディナルは“データ消去の比喩的表現”と言っていたが、あの崩壊はSAOが完全制覇された後のセレモニー的扱いとして、事前にプログラムされていた事象である。

 つまりオリジナルの、ひいてはそれの完全版コピーであるALOの【カーディナル・システム】には、ワールドマップを全て破壊する権限がある事を証明している。

 また、《ラグナロク・クエスト》にフィールドが破壊される可能性がある事は否定出来ない。

 それの原型となっているのは、誰もが知るところの北欧神話に於ける最終戦争そのものだ。それに登場するオーディン、ロキという神がALOに登場しており、ラグナロクまでの経緯も辿っている以上、それが起きる事は明らかだ。

 更に彼がヨツンヘイムの巨人族について知ったのは、ロキからだという。

 神話に於いて巨人族はロキに唆されオーディンの陣営と敵対する形で戦争に参じていた。

 決してロキの味方ではないが、オーディンの敵ではある。そのため陣列を二分化するとロキ側に配される。

 巨人族は北欧世界に於ける主神オーディンを殺め、世界の新たな支配者になろうと企てていたとされ、そこをロキに焚き付けられ、動いたという。その筆頭がムスペルヘイムに居た炎の巨人スルトとされる。いまのところ炎の巨人はおろか、そもそもムスペルヘイム実装の話すら無いが、そこは【カーディナル・システム】にある《クエスト自動生成機能》によるアレンジだろう。“巨人”という要素がある以上、“ロキ”という神級オブジェクトに付随するには十分だ。

 ラグナロクが神話上であり九つある世界全てに及ぶ規模であり、【カーディナル・システム】にフィールド破壊権限がある以上、アルヴヘイム崩壊の予想は決して考え過ぎではない。

 

「それで最初に言った理由に繋がるんですね」

「その通り。まぁ、ALO崩壊を阻止する理由は他にも色々あるんだが……ALOが無くなると……その、色々と困る、から」

 

 ちらりと、私やストレアを見て、彼は言った。

 それで悟る。彼の言う“困る”というのは、仮想世界だからこそこうしてAIの私達と触れ合えるのに、ALOが無くなっては出来なくなるからだと。

 ――仮想世界と一口に言っても、その環境はALOとそれ以外とで大きく異なる。

 VR技術と《ナーヴギア》を開発した第一人者は茅場晶彦であり、VRMMORPG最初のタイトルも彼が発明したものだが、SAOが発売されるまでにフルダイブゲームは幾つも販売されていた。それから二年半が経つ今、最初期の知育やパズルゲームなどから進化して娯楽性がある程度あるゲームが出てきたが、ALOに較べるとやはり“質”の面では大きく劣る。

 VR技術の顔としてALOが矢鱈取り沙汰されていたのは、七色・アルシャービンがプレイヤーとして押し出していただけでなく、その質が他を圧倒しているからに他ならない。

 その理由は明白。天災《篠ノ之束》を以てしても破れないセキュリティと完全自律性を誇る【カーディナル・システム】の有無だ。ALOは、SAOを開発した《アーガス》に務めていた須郷がコピーしたシステムを流用しているが、他のVRゲームは流用していない。

 仮想世界の環境適応、演算に特化したシステムを積んでいるか居ないかが、ALOとそれ以外の決定的な差となっていた。

 

 そして、《メンタルヘルス・カウンセリング・プログラム》として【カーディナル・システム】の一部だった私達は、今もその機能をプログラムの一つとして持っている。

 

 独立して動いているとは言え、それは管轄を変えただけの話であり、依然として【カーディナル・システム】の恩恵にあやからなければ仮想世界で動く事は出来ない。音声・映像通信のやり取りは可能でも、アバターでの接触は不可能だ。AIとしてのプログラム・フォーマットが、【カーディナル・システム】のプログラムを基盤にしたものだから、変更も不可。

 カーディナル以外のシステムを用いたゲームで自由に動き回るとなれば、それ専用のエンコードを掛け、プログラムを適応させなければならないが、いまの技術でそれが出来るのは天才二人だけである。

 つまり“娯楽”という側面に限定すれば、私達がそれを自由に享受できる環境は、現状ALOひとつのみ。

 だから、彼は崩壊させまいと動いている。

 

「――ありがとうございます、キー」

 

 無理を押し通そうとするのは、凄くイヤだし、許したくはない。だからこの後の行動について条件を付けるか、場合によっては無理矢理にログアウトさせる事も考えている。

 それでも――彼の心遣いは、心地良い。

 嬉しい事には違いなかった。

 

「……ん」

 

 少年と目がぱちりと合うも、恥ずかしげにすぐ背けられてしまった。

 

「ああ、そういう事か。つまりキリの字が頑張ってるのって姉孝こ……」

 

 サラマンダーの侍クラインが納得したとばかりに言う――ところで、前を走っていたキリトが、速度はそのままにぐるりと振り返った。クラインに焦点を定めた直後、右手を突き出しながら指をぱちんと鳴らした。

 すると彼の青いゲージバーが僅かに削れ、直後クラインの左耳元でドンッ! と小さな爆発が起きる。

 うぉわぁ?! と絶叫を上げる青年、次いで小さな爆発をピンポイントで起こした少年に視線が集まった。

 

「な、なにすんだよキリの字?!」

「ふん!」

 

 怒りよりは驚きを多く含んだ不満の声に対し、少年はつんと顔を背け、また前を向いた。彼の耳は若干朱い。

 

「今のはアンタが悪いわー」

「うへぇ~……」

 

 程近かったリズベットに素っ気なく言われた青年は、走りながらがくりと項垂れた。

 

 

 

 ――その光景を、私の肩に乗っていたピクシー・キリカはむすっとした顔で眺めていた。

 

 

 






・キリト
「ALO崩壊を阻止する理由は他にも色々あるんだが……ALOが無くなると……その、色々と困る、から」
1)対人戦闘経験を積めなくなる(経験不足でDead End)
2)飛行を交えた戦闘経験を積めなくなる(同上)
3)仲間と会える機会、時間が減る(病む)
4)ユイ達の活動場所が無くなるので会えなくなる(病む)
5)茅場の夢が終わる(病む)
6)VRMMO関連で敏感な時期なので大問題を引き起こしたくない。下手するとVR反対派に押し切られて規制掛けられ、衰退する(1~4全部)

 6)は希望と見られていた七色がやらかした事の影響。これ以上問題――それもAI関連で――起こすとマズいので、とにかく止めたい。
 幸い一度単独クリアしてるので、気持ち余裕がある。


・ユイ
 前話でピキピキ来ていた義理の姉。
 怒りそのほか諸々はまだ収まってないけど、それはそれとして自分達の事を考慮して動いている事を理解した事で心がぽかぽかしている。

 織斑千冬との対峙を見ているが和人最優先のため既に意識の外に置かれている。


・クライン
 思った事が口に出ちゃう青年。
 今まではキリトが溜め込む方だったのでそれでよかったが、キリトが吹っ切れた事でちょっとズレてしまい、割を食った。
 常識人なのでマトモに会話出来ている間はキリトのメンタルは大丈夫。

 なお、キリカ()


・キリカ
 ほぼ同位体のAI。
 お義姉ちゃん取られてムクれ顔をずっとユイの肩に乗ってしていた。

 ――ユイ達がキリカを顧みなくなると漏れなく闇堕ちするので注意!


・魔術
名称:ポイント・ファイア
動作:右手or左手親指・中指で指ぱっちん
詠唱:――
消費:MP1%
効果:《ディティール・フォーカシング・システム》で焦点を合した三次元空間の中心点に小規模の爆発を発生させる。
(魔槍ゲイボルクと同じ狙いの定め方)
参考:ロイ・マスタング大佐

※セブン対峙時の指ぱっちんバフは『親指・人差し指』








・ヴァフスルーズニル
 『僕っ娘』、あるいは『ぼくっ娘』。
 ステンバーイステンバーイ
 |д゚)



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