インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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視点:キリカ、ユイ

字数:約九千

 ではどうぞ。




六幕 ~二刀の思い~

 

 

 ALOに於ける一パーティーの上限人数は、やや変則的な七人である。

 他のMMOをやった事があるクラインを筆頭とした面々によれば、大抵は六人ないし八人の偶数を採択しているらしい。理由としては獲得コインの計算で割り切りやすくするためだとか。しかしALOでは奇数パーティーなので、もし獲得コインの自動分配機能が無ければ大変面倒な事になっていたと思われる。

 その七人の枠を、スリュムヘイム攻略隊である俺達は連携重視で埋めた。

 キリト(オリジナル)をリーダーとするAパーティーには、リーファ、シノン、レコン、アルゴ、レイン、セブンが入っている。純前衛はリーファ、レイン、純後衛はセブン、他は中衛だ。オリジナルだけ体調の事があって強制的に後衛になっているが、魔法より高い効果を発揮する魔術を連発し、更に攻撃魔術でMPも一気に回復出来る事による高回転になっているため特に問題は出ない。加えてSAO時代で散々リーファとコンビを組んでいたシノンの射の腕は高まる一方なので、全距離対応型と言えるだろう。

 アルゴはSAO時代と同様《短剣》と《クロー》のスキルを取っていた。レコンも《短剣》スキルを育てており、二人は素早さとハイディング系スキル・魔法を利用した不意打ちをする中衛、及び(スカ)(ウト)の役割を担っていた。

 まぁ、Aパーティーの面子にはタンクが居ないのだが、回避重視且つ常に自動蘇生魔法が掛かっている上に、オリジナルの貫通属性を用いた戦法で強制的に短期戦を強いる戦い方のせいで長期戦になり得ない以上タンクは不要だろう。

 Bパーティーはキリカ()をリーダーとしてユイ、ストレア、アスナ、シリカ、フィリア、リズベットが居る。前衛があらゆる武器を扱う俺とユイ、中衛が短剣使いによるヒットアンドアウェイ重視のシリカとフィリア、タンクは大剣使いストレアと片手棍&盾使いリズベット、アスナが後衛術師で全体回復と後方支援を担当。バランス重視だがやや回復が心許ないため、シリカの使い魔ピナとシノンの回復魔法でアルナの補助もする。

 Cパーティーはランをリーダーにユウキ、シウネー、ジュン、ノリ、テッチ、タルケンの新旧《スリーピング・ナイツ》。前衛アタッカーにユウキ、ジュン、タンクにテッチ、中衛に長棍使いノリと長槍使いタルケン、後衛にランとシウネーというバランスのいい編成だ。突破力こそ微妙だが、回避アタッカーのユウキと断続的な魔術の使い手シウネーによる持久力はかなりのものと言える。

 Dパーティーはクラインをリーダーとした《風林火山》六人。SAO時代からの鉄板編成のため、アタッカーとタンクばかりでヒーラーとスカウトが不足しているが、オリジナルの回復魔術範囲はレイド規模のため、Aパーティーが崩壊しない限り回復が間に合わなくなる事は無い。前衛に居る以上、リーファ達の回復に自動的に範囲に入るからだ。

 Eパーティーはサチをリーダーにケイタ、テツオ、ダッカー、ササマルの五人パーティー。フルでない事から分かるようにほぼ完全にみそっかす扱いだが、それでもサチの魔槍と、武器と同名のソードスキルによる一点突破力がトンデモないので、不要という訳ではない。一応別パーティーではあるが、クラインの指示を受けて動いているので、ほぼDパーティーのようなものである。

 七人人フルパーティーが三つ、六人パーティーと五人パーティー一つずつの合計三十二人構成は、フルレイド四十九人の四分の三にもう少しで届くという程度だが、数の少なさは質で覆しているため問題になりにくい。

 

 むしろ問題なのは、術師が少ない事だ。

 

 このレイドで魔法スキルを積極的に挙げているのはアスナ、ラン、シウネー、レコンの四人だが、回復魔法となると水妖精族(ウンディーネ)三人になる。オリジナルはスキルスロットに左右されない魔術を作成し、鍛えているが、それを入れても範囲回復手段を持つのは四人。

 ユイとリーファも魔法剣士ではあるが、使えるのは戦闘用の阻害系、支援系魔法と軽いヒールのみ。シリカ、シノンもやや魔法系だが、二人とも支援がメイン。リズベットとレインはスキルの半分が鍛冶系。エギルは三割商人系。フィリアはトレジャー系。俺、ストレア、《風林火山》六人、《月夜の黒猫団》五人の合計十三人は近接物理戦闘系全振りの所謂《(ノー)(キン)》タイプである。

 辛うじて音楽妖精(プーカ)であるセブンだけ攻撃魔法を優先的に習得しているが、元々フィールドでレベリングをしていなかった弊害で、使えるのはイイとこ中級魔法まで。MP消費効率で言えば丁度良いが、与ダメージ量と相手にする邪神MobのHP量を含めて考慮すると、まったく足りない。

 それを、オリジナルも感じていたようで、作成された《オリジナル・スペルスキル》の殆どは幅広い攻撃魔術が中心だ。

 その恩恵にあやかった事があるのは【スヴァルト・アールヴヘイム】の第二エリア【砂丘峡谷ヴェルグンデ】でのエリアボス戦。スヴァルト攻略で共同戦線を敷いたのはヴォークリンデのエリア探索での遭遇と、ヴェルグンデでのエリアボス戦だけだったが、魔術を大盤振る舞いしていたのは後者である。

 その時も後衛の攻撃兼回復支援メイジとして立ち回ったオリジナルの存在は、当時馴染みの浅い《魔術》というシステムを使っていた事も相俟って、戦闘の幅が相当に広がったと記録(きおく)している。

 おそらくそれはオリジナルや自分以外も感じていた筈だが、それでも魔法スキルを積極的に上げているのは極少数だ。

 しかし――それは、仕方のない事だと思う。

 何故なら俺達はシウネー達以外全員が魔法を一切排除された剣の世界(ソードアート・オンライン)からの移住組なのだから。

 ユウキの片手剣、リーファの長刀、アスナとランの細剣、シリカとフィリアの短剣、シノンの長弓、クラインの刀、エギルの両手斧などは、最早単なる武器ではなく、存在証明――《半身》と言える域になっている筈だ。今更それを捨てて魔法スキルを上げようとはまず思わないだろう。

 非効率とは知りつつ、いっそ物理攻撃メインの戦闘スタイルに誇りを賭けて、ALOに移り住んだ俺達は戦って来た。

 

 それは、キリト(オリジナル)との差だった。

 

 ALOを娯楽としてプレイしていたか、命懸けの真剣さでプレイしていたかで生まれた差だ。

 最早別人とは言え、自分は《キリト》と元が同じだった。だから分かる。ただの遊びであれば、俺はきっと片手剣や二刀流といった数々の武器を極めようとする事こそあれ、現実では使えない魔法スキルを上げる事はまずなかったに違いなく、よしんば上げたとしてもそれは味方を助ける為に聖魔法くらいなものだっただろうと。

 だがオリジナルは違った。

 ALOの魔法は現実では使えない。

 だから、現実で出来る事を、ALOに持ってきた。

 ISの原子操作で出来る事――“固まったイメージ”を、《オリジナル・スペルスキル》という独自性の高いシステムに落とし込んで、ALOで使っている。ALOで反復使用していくにつれて現実での再現性も増し、経験を積めるから。

 

 それをまざまざと理解させられる事態を前に――キリカ()は、強く歯噛みした。

 

「ヤバイよキリカ、金ミノの物理耐性高すぎでぜんっぜん攻撃が通んない!」

 

 俺の左前方で紫紺の両手剣(ドラグヴァンディル)を構えるストレアが早口に言った。

 頷き返しはしたものの、何かを言うより先に、『金ミノ』が途轍もなく巨大なバトルアックスを高々と振りかざした。途端、右前方でリズベット謹製の黒と白の二刀を構えていたユイが、横顔を険しくする。

 

「衝撃波攻撃二秒前! 一、ゼロ!」

 

 ユイが大声を振り絞っての警告。

 カウントに合わせてBパーティーの前・中・後衛と他パーティーの面子が一斉に左右に大きく飛んだ。

 その間隙を、傲然と振り下ろされた斧の刃と、そこから生まれたショックウェーブが一直線に翔け抜け、彼方の壁を激しく叩く。ショックウェーブが駆け抜けた後の床は見事に抉れていて、足場の不安定性が増していた。

 チッ、と舌打ちしつつ、床にめり込んだままの斧を足場にして斬り掛かる。両手片手半剣カテゴリの黒剣をテイクバックし、緑光を纏ってから大きく横薙ぎに一閃。斧の細い柄に乗って大道芸のように一回転した重攻撃を受け、金ミノは大きく怯んだ。

 《両手剣》全方位重攻撃単発技《サイクロン》。

 SAOに於いては純物理属性のそれは、元々攻撃範囲が広めの技を多く持つ《両手剣》カテゴリの中でも全方位を一度に攻撃する稀有な技だ。上位剣技なので威力も中々だが、味方を巻き込む恐れがあるためあまり好まれなかったそれを使ったのは、一度仕切り直す為である。

 金ミノが後退し、自分もステップを踏んで下がり、パーティーで合流する。

 

 ――氷の居城《スリュムヘイム》に突入してから、およそ三十分が経過している。

 

 巨人族の王が住まうだけあって徘徊している敵Mobの数は半端ではなく、行く先々でエンカウントしまくる頻度は、《攻略組》の指揮を多く務めていたアスナをして、『キリト君の貫通武器多重DoT戦法が無ければやってられない』と言わしめる苛烈さだった。

 理屈さえ分かれば再現は可能なので、オリジナルと同じ戦法を自分、ユイ、シノンもするようになり、進軍速度はあまり変わらず、全員の疲弊もしなかった。中ボスも大半が速攻だ。

 次層へ降りる階段手前の広間を護るフロアボスに関しても、第一層の単眼巨人(サイクロプス)型も戦闘態勢に入ってから五秒で倒し、第二層も駆け抜け、再びボス部屋まで到達したのだが――

 そこで三十二人からなるレイドを待っていたのは、牛刀人身、所謂《アインクラッド》第二層を闊歩していた《ミノタウロス》型の大型邪神だった。しかも二体。向かって右が全身墨色、左が全身金色で、武器は双方とも刃が円卓ほどもありそうな肉厚のバトルアックス。

 魔法攻撃はまるで行わないそれらを視認して、すぐDoT戦法の為に貫通武器を雨あられと降らせたのだが――ここで問題が発生した。

 武器は全て刺さりはする。

 金ミノは物理耐性が高い反面、黒い方は魔法耐性が高いようで、黒ミノはガリガリとHPを削られていった。それでもここに至るまで秒で邪神たちを屠って来た事を考えれば黒ミノの物理耐性は十分高い。

 問題はここからだった。黒のHPが残り三割まで減ると、後方に下がるや否や体を丸め、結跏(けっか)趺坐(ふざ)からの合掌をし、黄緑色のオーラを纏ったのだ。その途端刺さっていた武器が全て弾かれ、更に削れていたHPがぐぐっと回復されてしまう。しかもそこを狙って黒ミノに襲い掛かろうとすると、金ミノが衝撃波を乱発して大変危険な事になった。

 だから黒ミノを下がらせた後、金ミノを倒さなければならないのだが、あまりに物理耐性が高くてHPを碌に削れない。

 

「キリト、お前ぇコレ前はどんな手で攻略したんだよ?!」

 

 刀を構え、D隊とE隊の動きを考えていたクラインが、あまりの物理耐性の高さに悲鳴混じりに問うた。後方で回復魔術を唱え終えたオリジナルが口を開く。

 

「前は一人だったから床を焦土にして、DoTで黒ミノを下がらせた後、属性ソードスキルのコネクトで飽和攻撃を金ミノに浴びせて倒した。焦土ダメージは金ミノに普通に通ってたから」

「つまり、SAOン時とやり方は変えなかったのか!」

「ああ。まぁ、焦土のイメージは酷く疲れるから、いまやると確実にダウンすると思うが」

「いや別に頼んでる訳じゃねぇからな?! お前ぇDとEの生命線なんだから倒れねェでくれよ?!」

「わかってる」

 

 遠回しに、お前死ぬ事すんな、という釘刺し。オリジナルは淡々としながらもどこか嬉しそうに頷いていた。

 

「キリト、メダリオンはいま、どれくらい黒くなってるの?」

 

 その隣で弓に矢を射かけるシノンが、視線は金ミノに向けたまま声を掛けた。オリジナルが左手で、首から下げているメダリオンを持ち上げる。

 

「二割くらいだな」

「大体一時間に一割弱黒くなるのね……」

「ヨツンヘイムで狩りを計画してた種族レイドの件もあるし、多分これから速くなるぞ」

「なら猶予はあと三、四時間ってトコか。ちなみに前回の攻略時間はどれくらいだったの?」

「ソロで二時間だった」

「……ギリギリね。というか、ピクシー無しでよくそんな短時間で攻略出来たわね」

「……まぁ、な」

 

 シノンの言葉に、やや歯切れの悪い返しをしているのがやや引っ掛かったが、今はそれは良いと意識を戦闘に切り替える。

 とにかく金ミノを倒さなければ持久戦になる。俺やユイ達はいいが、人間の――それも、既に弱っているオリジナルに、持久戦は辛いだろう。

 MP切れに関しては心配していないが、使い手自体が戦えなくなれば、待っているのはパーティー壊滅――すなわち《ワイプ》だ。誰か一人でも生き残ればどうにか残り火を一つずつ回収して蘇生させる事も不可能ではないが、大変な手間と時間を要する。そして全滅すれば、当然の事ながら央都のセーブポイントから出直しだ。流石にダンジョンの門番やMobもリポップしている筈だからまた一時間近く掛けてこのスリュムヘイム第二層まで来なければならなくなる。

 ――別に、ALOが無くなろうと構いはしない。

 オリジナルはユイ姉、リーファ達と触れ合う機会が減るからと言っていたが、自分にとってその重要度は高くない。ALOが無くなったところでこの身が消える事はあり得ないからだ。

 命の危機で無い以上、優先する必要は無い。

 だが、乗り掛かった舟、という言葉がある。毒喰らわば皿までとも言う。()()達がやる気になっているのなら、その手助けくらいしようとは思う。

 

「――あまり時間が無いならさっさと片付けるぞ。俺が《剣技連携(スキルコネクト)》で金ミノを止めるから、それで押し切ろう」

 

 《ソードスキル》とは、かつてのSAOをSAOたらしめていた最も特徴的なゲームシステムだ。

 茅場晶彦が責任者を務める《ユーミル》にALO運営が変わった時に導入されたソードスキルは、しかしSAOの頃と違い、幾つかのモディファイが加えられている。

 ALOには斬撃、刺突、打撃、貫通の純物理属性と、炎水地風氷雷聖闇の八属性からなる魔法属性が存在する。

 加えられたモディファイとは、その魔法属性の付与――すなわち《属性ダメージの追加》だ。中位以上のソードスキルには、通常武器攻撃の純物理属性の他に、八つの魔法属性を備えている。つまり物理耐性の高い金色ミノタウロスにもダメージが通る。

 無論、リスクは相応に高い。

 連撃数、ないし一発のダメージが高い単発スキルは、比例して技後の硬直時間が長い。そこにあのバトルアックスを直撃されれば、HPゲージを丸ごと持っていかれる。横方向の範囲攻撃なら前衛・中衛は全員即死だろう。

 

「うっしゃァ! いっちょやったろうぜ、キリカ!」

 

 右翼でクラインガ愛刀を大上段に据えながら、嬉しげに吼えた。

 左右に分かれ、あるいは並び、各々の武器を握り直す大勢の気配。それに被さるように数人の詠唱の声。

 やや緊迫した空気になったが、それでも反対意見や空気にならなかった事に――安堵を抱いた自分が居た気がした。

 

   ***

 

 浮遊城《アインクラッド》の創始者にして、敬愛する(MH)(CP)が父・茅場晶彦が、なぜ《ユニークスキル》などという逸脱した力を加えたのかは定かではない。

 それは本人にもよく分かっていない事だったからだ。

 本来の想定通りただのゲームとしてリリースされていれば最低でも数年は生きるコンテンツだった筈だ。ラスボス専用の《神聖剣》はともかく、《二刀流》や《無限槍》などは、最初こそユニークの証として存在させ、SAO終了後の二作目からは普遍的なコモンスキルに落とし込むつもりだったのかもしれない。SAO単体で言えば不興を買ったのではないかとは思うが。

 ラスボスを務めるつもりだった《ヒースクリフ》の《神聖剣》だけが存在したのなら、それはそれで納得出来る。最強ギルド《血盟騎士団》の団長が誇った鉄壁の護りは、共に戦ったからこそイヤという程理解している。それがラスボスとして立ちはだかるとなればかなりの苦境と言える。

 愛する義弟がラスボス仕様のホロウ・ヒースクリフと刃を交えたのは再現映像で見ているが、その予測は寸分違わず当たっていた。

 だとすれば、ユニークスキルは《神聖剣》一つで事足りたのだ。

 MMOに、魔王と戦うオンリーワンの勇者は必要なないし、存在してはならない。プレイヤー間の戦闘力の差は生まれざるを得ないが、それはあくまで公平なルール基盤に立脚したものでなければならない。

 ルール外の力がリソースの偏在を齎す事は、聡明な父も理解していた筈だ。

 しかし彼は《神聖剣》以外のユニークスキルを鋼鉄の浮遊城へと解き放った。それはきっと――《神聖剣》対《二刀流》という対決が、父の描いた『夢想』のピースの一つだったからなのだろう。

 長らく人を見て、父を、そして父の夢の欠片と言える二刀を振るう義弟を見て、自分も振るい始めたいま、偶に考える事がある。私は、二刀を振るっていいのだろうか、と。父が認めた《勇者》としての証を私は満たしているのだろうか、須郷のように父の夢想を穢していないだろうか、と。

 ――ALOに、ユニークスキルそのものは存在しない。

 それは世界(SAO)の終わりを経て、父なりのケジメのつもりだったのかもしれない。膨大な数に及ぶソードスキルの内、怪しい条件が付いた十五種類+《神聖剣》を、彼はシステムから完全抹消した。

 だからキリトやキリカ、私はもう《二刀流》や《薄明剣》などを持っていないし、サチの《無限槍》、クラインの《抜刀術》、アスナの《閃光剣》なども、ALOには存在していない。

 私や彼らが使う《スターバースト・ストリーム》などの二刀剣技は、システムアシスト無しで使っていたものを、オリジナル・ソードスキルに落とし込み、システムに認識させた技である。それはある意味我執で造り出された技と言えよう。

 父の夢想の結晶と言うべき剣技を、おいそれと使うべきではないと私は考えている。

 義弟達はきっと別の考えによるものだろうが同じように二刀をあまり使わない。片や片手剣一本や両手杖、片や両手片手半剣一本だ。《命懸けの全力》という状態にならなければ背負い切れない重みが、二刀に込められているからかもしれない。

 

 ――それでも、キリカは二刀を握っていた。

 

 黒剣ブラークヴェルト。

 緑剣ディバイネーション。

 リズベット謹製の二振りの片手直剣を手に、【黒の剣士】として再臨していた。

 

 開戦の火蓋を切って落としたのは、後方から飛来した水の螺旋を纏った剣矢二つだった。

 

 物理脳を持つ人間で《ⅩⅢ》を持っているのはキリトとシノンの二人だけ。しかしキリトは復帰したてで、戦闘限界時間も残り少ない。

 そんな容態でなんでそんな――と内心思いつつ、一撃目、二撃目と水の爆発を起こして怯んだ金ミノに向け、キリカを筆頭に他の前衛・中衛メンバーと突撃した。

 口々に吠えながら、それぞれが習得している中で最大級のソードスキルを繰り出していく。後方から数々の範囲を絞った最大威力の魔法攻撃が飛来し、金ミノを痛打する。

 パーティー単位でのスイッチ攻撃を仕掛けていく中で、先頭に立つ少年は左右交互に剣技を放っていた。

 黒剣で五連続の刺突から袈裟、逆風、唐竹の八連撃《ハウリング・オクターブ》。物理四割、炎六割。

 緑剣で水平斬り、逆風、大上段からの斬り落とし《サベージ・フルクラム》。物理五割、氷五割。

 ――下に下ろした緑剣が捻られ、鮮明な青の軌跡を描きながら跳ね上がり、じゃりぃんっと鋭く乾いた音と共に氷の斬撃が放たれた。

 ALOで新規追加された単発中位技《ジェリッド・ブレード》。物理二割、水四割、氷四割。

 真上に跳ね上がった緑剣がまた捻られ、赤の光を放ちながら三度振るわれた。斜め二本と縦一本の爪痕を思わせるそれは三連撃技《シャープネイル》。

 そこで、黒剣に蒼い光が宿る。バックモーションの少ない垂直斬りから、上下のコンビネーション、そして全力の上段斬り。高速四連撃《バーチカル・スクエア》。物理・炎・水・地・風二割ずつ。

 そこまでで連続技の合計斬撃数は二十に及んでいる。《二刀流》の最上位剣技の一つを追い抜いている手数だ。敵に与える仰け反り効果の高い、一撃が重い技を中心に選択されているようで、斬撃がヒットし続ける限り敵もディレイし続ける。

 多数のスキル攻撃に晒されて、中ボスである金ミノのHPは残り数ドットだった。

 あと一つ、スキルを叩き込むだけで金ミノは倒れる。

 

 しかし――緑剣に、光が宿らない。

 

「――ッ!」

 

 記憶では《バーチカル・スクエア》から《ホリゾンタル・スクエア》、あるいは《ヴォーパル・ストライク》に繋いでいた筈なので、純粋に失敗したのだと察する。

 AIになって反応速度が上昇したにも関わらずの失敗。

 それの意味するところを理解し、頭の片隅に留めながら、私は全力で駆けた。

 キリカが連携を失敗させたのは、パーティー同士のスイッチの合間という、絶妙に悪いタイミングだった。周囲に合わせていたのでは間に合わない。だから、独断専行した。

 連撃が止まり、金ミノに与えられているディレイが終了するまで、およそ一秒か。

 ――その一秒を、私はかつてない瞬間演算速度(しゅうちゅうりょく)で駆け抜けた。

 爆音と共に、深紅が青白い空気を貫いた。

 

 








 キリカ&ユイの関係性は今話のような路線。

 原作キリアスみたく、『護らなきゃ!』『支えなきゃ!』の向け合い的な? AI組がキリカに狙いを定めれば、原作アスナよりは愛が重くなるでしょう(ヴァベルを見ながら)

 暫くはユイの一方攻性かと。キリカがそれどころじゃないですからネ。


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