インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
視点:直葉、和人
字数:約九千
今話は主に、何故和人が楯無に発破を掛けてまで、傍から見れば自分の命を蔑ろにしている選択をしたか(直葉達と生きて、彼女らを幸せにしたいと願っているのに)の説明みたいなもの。
ではどうぞ。
――時は、簪・本音誘拐発覚の前に遡る。
二〇二五年五月二十六日、月曜日、午前八時。
埼玉県川越市、桐ヶ谷宅。
月曜の朝、学校に行かなければと支度を済ませ、同居している紺野姉妹を促そうと考えた時だった。リビングの外、家の敷地を取り囲む塀の向こう側に人が
あたしがそれに気付けたのは、偏に経験があったからだった。
義弟に出会うよりも遥か前。多流派道場へ出稽古に行っていた頃に頻発していた
ぴりぴりと肌を刺激する感覚と、意識のスイッチが切り替わる感覚は、ともすればデスゲームの時と同等か。
「……直葉、これって……」
おそるおそる、木綿季が声を掛けてきた。
感覚の鋭い彼女も、普段の朝と異なる空気を鋭敏に感じ取り、違和感を覚えたのだろう。未踏領域の攻略をしていた彼女であれば身の危険を感じ取る感覚が鋭いのも納得だ。見れば、藍子も感じ取っているようだった。
息を潜める。
テレビも消し、生活音がほぼ
『――――!』
『……!』
何て言っているかまでは分からない。だが、音の張り様や抑揚から、感情的になっている事だけは分かった。
――とうとう来たか、と内心でひとりごちる。
目的、理由はどうあれ、何かしらの悪意を持ってあたし達に危害を加える可能性は初期の段階から危惧されていた。最近までは何時来るかも不明な襲撃に何時も気を張っていたのでは疲れるし、《更識》の護衛・監視もあるからそこまで警戒していなかった程だ。
しかし、《事変》の後からは別だ。
彼の実態を世界は知ってしまった。彼の行いを非難する者が居れば称賛する者が居るように、彼を認める者が増大していくにつれ、反感や敵意というものもより大きなものとなっていく。
世間は彼を認め始めていた。
であれば、『織斑一夏は出来損ない』という固定観念が徐々に崩れ始めたも同義だ。それは彼を貶めたいと考えている者達にとって不都合過ぎる。
ならばどうするか。
答えは簡単。暴力だ。彼を貶める者達は、どうしてか法律に反する事であろうと平然と犯す傾向にあると見ているし、男を見下す女権であれば、躊躇いなく兇器の類を持ち出す事も目に見えていた。最悪ISすらもどこかから調達ないし強奪する、つまり彼を殺す事も考えているのなら、その為なら他者を人質にする事だって簡単にやってのけるだろう。
その際、真っ先に狙われるのはあたしだと理解していた。共に戦った仲間達よりも、家族として受け入れている義理の姉《桐ヶ谷直葉》を押さえた方が確実というのは、至極当然の結論だ。
無論、捕まってやる義理は無い。捕まるつもりも無い。
あの子の傍に在ろうとするなら、ただ守られるだけではダメなのだ。
「……念のため、備えましょう。間違ってた時はその時です」
「了解」
「分かりました」
顔を見合わせ、頷いた後、あたし達は迅速に行動を始めた。
木綿季は一目散にキッチンへと近付く。
「木綿季、何をしているの?」
「フライパンを盾にしようかなぁって。武器にもなるし」
その手があったか、とあたしは思わず納得した。
チタン製のフライパンなら、数発くらいは弾避けにはなるだろう。武器にもなる。代わりに、今後料理には使えなくなりそうだが、命の対価と思えば安いものだ。
そう考えているのを他所に、藍子も感化されたのかキッチンで何かを探し始めた。
「じゃあ、私はこれで」
そう言って取り出したのは、バーベキュー用の焼き串だった。しかも金属製。先が尖っているので、突けば当然肉を穿つ。単純な攻撃力で言えばあたしの竹刀が最高だが、部位によってはこの焼き串の方が殺傷力は上だろう。
「うわぁ……姉ちゃん、物騒だね」
「本数があるからピックの要領で投げられるわ。後方支援は任せて」
「ボクの姉ちゃんがマジ過ぎる」
「包丁よりマシでしょ」
「……どっちもどっちだと思うなぁ」
しゅっしゅっ、とシャドーのように焼き串を持った右手で華麗なスナップを見せる藍子に、木綿季は真顔になった。
信頼してる味方からの誤爆が焼き串の投擲なんて被害が大き過ぎて洒落にもならないので、あたしは、フレンドリィファイアはやめてね、と短く返すに留めておいた。
それを横目に置きながら、護身の為に竹刀を持ち、滑りにくいよう裸足になっていたあたしは、スマホを取り出して救援目的の電話を掛けている。勘違いだと向こうに迷惑を掛けてしまうが、間違っていなければ命を落としかねないのだ。備えておいて損は無い。
出勤時間だからか、コール回数が十回近くになっても繋がらない。
その間にリビングを離れ、道場に向かう廊下へと向かう。屋内では満足に竹刀を振るえないから屋外に行くのは道理。しかし玄関やリビングの窓から出るのは悪手なので、渡り廊下から降りて向かうべきだと考えたのだ。
しかし移動する間も電話が繋がる気配はない。
まさか向こうも何かあったのか、と考えたところで、無機質な電子音が止まった。
『うぁ~い……束さんれ~す……』
スピーカーから、随分間延びした女性の声が聞こえてきた。また徹夜でもしていたのだろうと察しは付く。ALOサーバーを巻き戻したというのに、《クラウド・ブレイン》の残滓があるとなればその精査やバグ確認に追われるのもむべなるかなと言えよう。忙しい時は更識邸に帰らない事もある、とは本人から聞いていた。
それはそれとして、こちらも要件を言おうと口を開く。
――がしゃぁんっ、と盛大なガラスの破砕音が聞こえてきたのはその時だ。
音の発生源は後ろ。恐らくはリビングに踏み入られた。移動していて良かったと、自分の判断を褒めたくなった。
「……こういう訳なんです。救援お願いできますか?」
『――束さんは出れないから、クロちゃんにお願いするよ。二分持ち堪えて』
「了解」
相手が拳銃を持っていた場合、初手で距離を詰めなければほぼ詰み確定の武装の弱さはなんとも頼りなく感じる。しかしやるしかないのだと奮起して、あたしは答えた。
木綿季と藍子を見る。フライパンを持った少女は不敵な笑みを、藍子は金属製焼き串を束にして柔和に微笑み、息の合った首肯を返して来た。
通話が切れたスマホを懐に入れる。
『ガキ共をさっさと探せ! 愚図共が!』
後ろから傲慢な女の声が聞こえたのは、道場に繋がる渡り廊下に出た時。
――そういえば、道場には真剣を立て掛けていたっけ。
その思考が、ふと浮かんだ。
***
二〇二五年五月二十六日、月曜日、午前八時十七分。
東京都
通話を終え、スリープさせた端末を制服の内ポケットに戻す。
顔を上げ、空を見る。【打鉄】三機と【ラファール・リヴァイブ】一機を操る四人の女性が、怒りに顔を歪め、俺を見下ろしていた。
「生身なのに、まだ逃げ切れる気でいるの? お前はもう終わりよ」
苛立ち混じりのそれは、ISを四機導入しても殺せない事への苛立ちか、あるいは俺が生きている事で間接的にISの絶対性を否定しているが故の苛立ちか。もううんざりだと言いたげな面持ちで、【ラファール・リヴァイブ】を駆る女性が、大砲サイズの銃口を向けてきた。
「本当に、そう思うのか? だとすれば随分と緩い思考回路だな」
「何ですってぇ?!」
皮肉気に言った途端、腕部装甲の指が引き金を引いた。
盛大なマズルフラッシュが瞬く。
その時点で、俺は銃口から弾道を予測し、横に跳んでいる。人の拳ほどもある弾丸は直前まで俺が居た所を精確に撃ち抜いていた。
それを横目に、俺は油断せず四機への警戒を続けながら、言葉を続けた。
いま俺がするべき事は救援を待つ事。
すなわち、時間稼ぎだ。
「疑問に思わなかったのか? 《出来損ない》と貶める行為を看過していた政府が、何故今更になって、護衛を付けてまで俺を保護し始めたのか」
口先だけで時間を稼ぐのは至難の業だ。相手の関心を引く話題を続けなければならないというのは特に難しく、未だ世間に伏せるべき情報が多くあり、複雑に絡んでいる以上、下手な事を口走れない。【打鉄】の一機がカメラ中継しているらしく、つまり発言が完全に映像に残る訳で、少しでも矛盾した事を言えばその粗から真実に到達する可能性すらある。
真実に到達されないよう理路整然とした話を、相手の攻撃を躱しながら続けなければならない。
更に、今の相手は激情に駆られ、冷静な判断力や思考能力を大きく欠いている。それには誘導しやすいというメリットの他に、こちらに耳を貸さないというリスクもある。
ましてや、俺が言える事の殆どは、女権にとっては面白くない話ばかりである。簡単に沸点を超えると言っても過言ではない。
――まぁ、それでもやれる事に変わりはない。
【無銘】は使えない。それが、元帥達との契約だ。
俺がISを使える事実は、《モンド・グロッソ》という大規模な国交事案を乗り越えた後でなければならない。そうでなければ、俺と日本政府との間に直接的なパイプラインを築く前に、他の国が口出しをして、無所属扱いにされてしまう。それは困るのだ。後がない日本としても、大切な人達の安全確保を求める俺としても。
「そしてその政府が、俺を敵視しているお前達を警戒しないのかとも」
大抵の人から危険視されている女権の悪意が俺に伸びる可能性を元帥達が考慮しない訳が無かった。
だから、ISの代わりとなる自衛手段そのものは用意されていた。
右手を後ろ腰に伸ばす。上着に隠れ、ベルトに挟んでいたそれを掴み、取り出す。
パッと見では、それは発煙筒のように思える形状だ。直径三センチ、長さは二十五センチほど。片側には登山用のカラビナに似た金具が釣り下がり、もう一方は少し太くなっていて、中央には何かの発射口にも見える黒い穴が開いている。持つ部分は滑らかな質感だが、筒の側面上部の一ヵ所だけ小さなスイッチがあった。
それを見た【打鉄】使いの一人が、はんっ、と鼻で嘲笑した。
「いまさら発煙筒使うの?」
「違う。これは自衛にと、試験用に政府から渡されたものだ」
その嘲弄を無言で流し、筒の側面上部のスイッチを押す。
すると筒の中心が輝き、青い光を放出した。それはドーム状になり、俺を包み込むように展開、固定される。
「対犯罪者の携帯型シールドバリア発生装置、だとか。強度はお墨付きだ」
――男である俺が、『ISを使える』という事実が分からなければいい。
要はISを纏う決定的瞬間さえ無ければ良い。それは、逆に言うなら、
「バリア発生装置って……はぁ?! なんで男なのに、ISを……いやでもそれISじゃないし……」
「ISが世に出てからもうすぐで十年。世界各国の研究者達は、今もコアの解析に力を入れているのは知っているよな」
「……そんなコト、男のお前に言われなくても知ってるわよ。それをわざわざ何のつもり?」
【打鉄】を纏う操縦者の一人が《葵》を構えながら言って来た。
「要は、コレはISの機能の一つを再現する為だけに作り出された物という事だ」
勘が良ければ、この話をした時点で分かるもの。しかし、それを女権に求めるのは酷というものかもしれない。女権はISと、それを扱える女性を至高の存在と位置付けた集団だ。つまり、『ISとは完成されたもの』であり、性能や武装などで改良の余地こそあれ、機能面に関しては根本的に変わりないという認識なのだ。
その固定観念があるから分からない。
武装を格納する
今の
だからこそのブラックボックス扱いであり、量産不可能な代物として、ISコアは扱われている。
――ならば、発想を逆にする。
ISコアというスタートから、いま出来ている事を解明する《ボトムアップ》の思考をやめ。
いま出来ている事から順序立てて、コアの機能をつまびらかにするという《トップダウン》の思考。いきなりコアとその全ての機能を再現するのではなく、一つ一つ機能を再現し、理論を解明していこうとする動き。
「ISを動かすコアは、喩えるならスーパーコンピューターの上位互換。あらゆるシステムを一つのコアで演算し、それを実行する、ひとつの管制システム。なら再現する機能を一つに絞れば下位互換のスーパーコンピューターでも可能な事はある筈だ……というアプローチで作り出されたものがコレさ。俺はその試験者みたいな仕事もやっているんだ」
その集大成の一つが、この携帯版バリア発生装置。
人の手で作られ、理論で作り上げられたISを、天才かどうかの違いだけで作れないわけがない。技術故に、それは他の人でも再現可能なものなのだ。それは現在の束博士が求める事でもある。
人の手によって解明され、再現されていけば、宇宙進出への道行きも現実的なものとなる。
――かつて、宇宙航行用としてプレゼンされたISは、見向きもされずに終わった。
その結果博士が暴走して《白騎士事件》なんて引き起こし、兵器としての運用に目が向いた訳だが――つまり、人の眼にも明らかな形として、宇宙へ行くための機能より、兵器を扱える機能の方が目立ったという訳だ。
足がかりは何でもいい。
たった一つでも構わない。
なにか例外となる一例が生み出されれば、ISコア解明の動きは激しくなるだろう。いま取り出したのはバリア発生装置だが、他にも拡張領域装置や量子変換装置などもある。それら全てを積み込み、
そう、これもまた、女尊男卑風潮を撤廃する為の布石の一つ。
女性にしか扱えないISを至高とする思想を真っ向から否定し叩き潰す為の、政府の策。
女権はISを至高と考えるあまりその運用方向を狭めている。その機動力と性能を以てすれば被災地の救助活動や工事などに役立つというのに、それを認めない。台数が限られているからなど、尤もな理由を取って付けているが、本心は違うというのは誰もが分かっている。
故に、『限られた台数』という制限を撤廃する、ISに近しいが異なるものを作り出せば、女権の優位性、絶対性は崩壊する。
――無論、世間がいきなりそこまで理解出来る訳が無い。
だがそれでいい。今は点でバラ撒き、後に出す点と線で結べるようにする事が、政府上層部の狙いなのだから。
「な、ん……この……男の分際で、一部とはいえISの技術を使うなんて……!」
「出来損ないが馬鹿にしてぇ……!」
それを理解してはいないだろうが、『ISの絶対性』を揺るがすものであるとは別ベクトルで分かったらしく、四人ともが表情を更に歪めていく。腕部装甲で握られる鋼色のブレードの柄からギシギシと軋む音が聞こえる程、怒りを煽るものだったらしい。
あまりの怒りっぷりにこちらが内心面喰らう。
「言っておくが携帯用だからってコレのバリア強度を舐めない方がいいぞ。元のコアと違ってバリアにだけリソースを割いている分、強度に関してはお墨付きだからな」
バリア強度には四つのレベルがあり、最高の4レベルは隕石の衝突すら防ぎ切るほどの出力だという。流石にそこまでは出せないが、それでも3レベルの出力は出せる。ISの物理攻撃に関しては1レベルの出力でも十分防げる。燃費や時間を考慮すれば、高くても2レベルが丁度良いだろう。
無論、消費速度はバリアに衝突する攻撃の重さ、数に比例するので、例えば全力突進を受けるとゴッソリ持っていかれるし、最悪バリアが割れる事になる。バリアを割られないよう使用者も動き回らなければならない。
しかしISの攻撃を真っ向から躱すなんて並の人間には出来ない。そこで、男性故にISを使えないと思われ、且つ【無銘】の存在が明らかになってない今、物理法則を逸脱しない範囲で動き回れる俺に自然と白羽の矢が立った。
自衛の為に使わざるを得なくなる辺りが何ともイヤらしい。
個人的には親しい人達にも持って欲しかったが、試作段階という事でこれ一つしか無かったのが残念である。
「お前みたいな出来損ないが、何故そんなモノを……!」
リーダー格のリヴァイブ操縦者が、忌々しげに言った。
それは分からなくても仕方がない話である。
デスゲームをクリアした功績者として目を付けられ、総務省仮想課のリサーチャーとして雇う為に保護する。それが俺が更識に身を寄せている一般的な見解。
だが――それは、謂わば《仮想世界》に関する事である。
現実での支援をする理由にはなり得ない。リサーチャーに関しては、俺より優れた人が多く居るだろうし、俺一人という訳ではない。勘が良い人はそこに違和感を覚えるだろう。俺と元帥達の認識では『IS操縦者として将来身を立てるから』という答えがあるが、世間的にそこだけ不鮮明。ましてかつて人権侵害されていた人間を政府が匿うなど、なんの説明も無ければ誰も納得しないし、分からない事だ。
「俺に、わざわざ保護する程の価値があるから、自衛用にこんなモノまで持たせてくれたんだろうさ」
いまのこの場面はそれに回答を見せたようなもの。ミスリードを狙っている部分はあるが、全部嘘という訳ではない。男ながらの操縦者だけでなく、第四回《モンド・グロッソ》優勝の可能性と女尊男卑撤廃を両立させられる可能性が最も高いのは自分なのだから。
「価値、ね。どうせあのゲームに居た連中みたいに、洗脳か催眠でもしたのでしょう? 知ってるわよ? 須郷伸之の研究文書は、お前が保持して、対策チームに渡してたって。つまりお前も須郷と同じ事が出来たのよ。だからVRMMOなんかに傾倒してる連中は誰も彼もがお前を称賛するようになった。そうなるよう、お前が洗脳したから。違う?」
「生憎だが違う」
自信満々の笑みで自説を展開した女性に、俺はバリア発生装置の筒を握ったまま、首を横に振った。
「そもそもあの須郷の洗脳研究は、《ナーヴギア》でなければ実現しないし、効果範囲も《ナーヴギア》を装着している間だけ。外せば効果範囲外だ。だいたい、須郷の研究が発覚した辺りから俺はずっと対策チームにモニターされていたんだ。そんな犯罪してたら今頃監禁状態に置かれてる」
「そこはシステムを誤魔化して、何とかしたんでしょうに」
「そんな事出来るわけないだろう……」
あまりの暴論に呆れ果ててしまった。
確かに、システムを狂わせる要因に心当たりはあるが、アレはそんなに便利なものではない。別の存在が使っているものと相殺するのには有用だが、自分一人が使うとなれば、システム全体に影響する以上、メリット以上のデメリットが発生する。それが《クラウド・ブレイン》であり、瞋恚だ。
単純なチートだとか、反則技のようなものではない。
――ともあれ、女権はなにがなんでも俺を否定したいらしい。
理屈で考えれば、俺がそんな抜け道を使えるわけがないというのはすぐ分かる。SAO時代に《クラウド・ブレイン》は既にあったが、それを自覚したのは《事変》の最中だ。それでは狙い澄まして須郷の研究を悪用する事は不可能である。だが、その『不可能』を『可能』にする不確定要素として、言外に《クラウド・ブレイン》を引き合いに出すほど、俺に敵愾心を抱いている。
これ以上話をしたところで意味は無いだろう。
「ともあれ、お前は世界にとって害悪なのよ。いい加減死んでもらうわ。そのバリア発生装置というのも永遠に使い続けられる訳ではないでしょう?」
結論は同じになったのか、リーダー格の女がそう言って、アサルトカノンを二丁構えた。【打鉄】のブレード使い達も、アサルトライフル《焔備》を構える。
これまで舐め切ってブレードを構えていたが、ずっと躱されたから、弾幕で勝負を決めに掛かるつもりらしい。
そしてその判断は正しい。躱し切れるブレードに較べれば、銃火器の弾幕の方が被弾率は上がり、バリアもより多く削られる。一撃で削るのは質量攻撃だが、確実を期すなら物量攻撃が一番だ。
まぁ、これ以上ないくらい時間を稼げたから構わないが。
「ああ、そうそう、冥土の土産にいい事を教えてあげる。あなたが慕ってる大切な大切な義理のお姉さんは、もうこの世には居ないわ」
その余裕が、瞬時に消えた。
・
価値を示さないと生きられないなら、命を掛けてでも示さないとダメだよね?
だから命懸けの宣伝行為をしてもおかしくないよね?
女権は利用されたのだ(尚タイミングは意図しなかった模様)
・携帯式シールドバリア発生装置
本作オリジナル。
日本政府開発。
見た目は発煙筒、ないし
『女性にしか扱えないIS』の絶対性を崩す一手として、『バリア展開』という一点のみに絞って再現された代物。この見た目で実は内部に超小型スパコンを仕込まれている。
他に幾つか種類があるらしい。
・桐ヶ谷直葉
剣術小町として名を馳せていた全国中学女子剣道大会二連覇経験者。
現実での剣の腕とデスゲームでの命のやり取りを経験した事で《剣客》としてかなり出来上がっている少女() しかし直葉でも、拳銃相手に竹刀では頼りないと考えるらしい。
そもそも立ち向かおうとしてる時点でメンタルお化け。
和人の心の楔の一人。
・桐ヶ谷和人
生身で十数分はIS四機の猛攻を躱し続けた少年。
実はここまで【無銘】の能力は一切使っていない。つまり和人は、かなり衰弱している体力と筋力で、ISの攻撃と銃撃を躱し切っている。
頭おかしい()
最後の最後で大地雷を踏み抜かれた。