インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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(・w・)/<ちょっとした小話、置いときますネ。

視点:Kirito

字数:約三千

 ではどうぞ。




尊ぶべき日常世界
転換 ~ゲーム・ザ・ゲーム~


 

 

 閉じた瞼を透かして届いた朧な光が、さっと消えた。

 視神経からの入力が全遮断されたことで真の暗闇に包まれたが、しかしすぐに、目の前に虹色の光りが弾けた。不定形の光は《アミュスフィア》のロゴマークに形を変え始める。最初はぼんやりと滲んでいたそれが、脳の視覚野との接続が確立されるにつれ、クリアに浮き上がる。

 やがて、ロゴの下に視覚接続OKのメッセージが小さく表示される。

 次にどっか遠くから、奇妙な多重音が近付いて来る。歪んだサウウンドもまた、徐々に美しい和音へとピッチを変え、最後に荘重(そうちょう)な起動サウンドを奏でて消える。聴覚接続OKのメッセージが浮かんだ。

 セットアップステージは、次に体表面感覚へと移り、重力感覚へと進み、ベッドの感触と体の重さが消えた。その他、各種感覚の接続テストがひとつひとつ実施され、OKマークが増えていく。ヘッドギアが脳の各部位を順繰りにノックして回っているのだ。

 そしてついに最後のOKメッセージがフラッシュし、次の瞬間、暗闇の中をまっすぐに落下。

 やがて下方向から虹色の光りが近付き、そのリングを潜った末に、仮想の足がすとんと異世界に着陸した。

 ――とは言え、そこはまだ、暗闇に包まれたアカウント情報登録ステージだ。

 頭上にアルヴヘイム・オンラインのロゴが描き出され、同時に柔らかい女性の声でウェルカムメッセージが響き渡る。その合成案内に従って、アカウントおよびキャラクターの作成を開始する。

 これを経験するのも、もう幾度目か。

 胸の高さに青白く光るホロキーボードが出現。そこに、まず完全新規のIDとパスワードの入力を求められ、予め考えていた組み合わせを打ち込む。

 

 次いで、キャラクターネームの入力を求められた。

 

「――――……」

 

 数秒、逡巡する。

 様々な葛藤。既に役目を終え尚戦った《現身(うつしみ)》を消去して、それでもまだ同じ名を使う事への僅かな拒否感と、自身を証明する証という欲求がぶつかった。

 躊躇は僅かだったが、最終的にかつてと同じ名を――《Kirito》と打ち込んだ。OKボタンを押すと、他に使用者が居なかったのか受理された。性別は勿論男性を選ぶ。

 次に、合成ボイスはキャラクターの作成を促して来た。

 決めるのは二つ。プレイする種族と、容姿の反映にローカルメモリ等にある写真を使うか否か。容姿決定で写真を使わない場合、無数のパラメータからランダム生成され、キャンセル不可と説明される。どうしても気に入らない場合はゲーム内部で追加料金を支払って再作成するしかないが、自分は以前と同じく写真流用を選択した。

 種族は、これもまた悩んだが、鍛冶妖精(レプラコーン)を選択する。

 ――別に、前と違う種族でなければならなかった訳ではない。

 ただの気まぐれだった。自分の好きに素材を集め、剣を鍛え、装備を整え、自己強化に励めるとなれば、トレジャーハントの得意な影妖精(スプリガン)より、こちらの方がより効率的だと考えたからだった。

 強くなりたい。

 ただ、妖精郷を遊びたい。

 前者の義務感と欲求、後者の欲求とが混ざり合って、最適だったのがレプラコーンだった。

 ステータスは凡そ変わりないらしい。そもそもスプリガンもレプラコーンも、純戦闘職という訳ではない。前者は探索、後者は非戦闘系の鍛冶系種族、隠しステータスである種族値が似通るのも当然と言えた。強いて言えばレプラコーンの方がやや筋力重視なくらいか。

 それで、諸々の設定は終了。OKボタンをタップする。

 人工的な“幸運を祈ります”という音声に送られて、再び光の渦に包まれた。

 

   *

 

 《アルヴヘイム・オンライン》に於ける鍛冶妖精レプラコーン領は、世界樹から見て北北東の方角に位置した埋立地帯で、スプリガン領の古代遺跡地帯の丁度隣である。

 とは言え、ピラミッドのような建物の周囲に幾らかの森林が広がるスプリガン領と違い、レプラコーン領は鍛冶に特化した土地であるためか、空気は乾き、地質もサラサラとしたもので、また埃っぽい印象だった。レンガ造りの建物のそこかしこからはカンカンと鎚を振るう音が響き、煙突からは白色から薄茶色、灰色など様々な煙がもくもくと空に伸びている。

 そして、極めつけは臭いだ。

 種々様々な金属を灼き、叩き、不純物を掻き出した事で空気中に舞い散る粉塵の臭いは、SAO時代から嗅ぎ続けた“鍛冶”の臭いそのもの。携帯用の炉ではなく、友人のように固定式炉特有のそれが、仮想の肺いっぱいに広がる感覚は、どこか郷愁を覚える程に強烈だ。

 央都に構えられた三号店でも嗅ぐ臭いだが、一号店、二号店の時と違い四六時中ログインし、鎚を振るっていた訳ではないため、三号店の中は煤の臭いがあまりしない。喫茶店と併設されているのが一番の理由だろうか。

 現実に於ける鍛冶の臭いを自分は知らない。だからこそ、自分にとって“鍛冶の臭い”とは、鉄と煤と砂埃が混じったものだった。

 その臭いを嗅ぎながら歩を進める。

 目的地は無い。いや、目的そのものも、ほぼ無いに等しい。あるのはただ“愉しむ”という娯楽性だけ。極論戦闘や会話が無くても、自分が楽しいと思えればそれでいいだけだった。

 ある意味無欲で、けれどある意味で何よりも強欲なその欲求を胸に、レプラコーン領《モーリア》を練り歩く。

 

 ――その最中、ふと足を止めた。

 

 レプラコーンを選んだプレイヤーにとっての《はじまりの街》のため、最低限の店は一通り揃っている。本当に最低限なので、ある程度以上のものを求めるとなればプレイヤーショップか、あるいはほかの街や中立域に繰り出す必要があるが、贅沢を求めないならNPC商店でも十分な品を揃えられる。

 そのNPC商店の一つである防具屋の姿見に自分の姿が映り込んだ時に、足が止まったのだ。

 写真を流用したので凡その容姿は察しているが、配色や実際の再現度ばかりは確認するしかなく、その手段は鏡を介するか、自分をスクリーンショットで撮るかでしか行えない。

 姿見を見る。

 背丈は通りを歩く他のプレイヤーより明らかに低い。しかし、目線の高さに違和感を覚えないので、スプリガン時代と遜色ないのは分かる。細さも現実、スプリガン時代と変わらず。

 髪の色は、リアルの白髪が反映され、そこにレプラコーン特有の光沢が交わったのか、白銀色だ。頭頂部から腰辺りまで滑らかに流れている。

 肌の色は透き通るような白。

 唇は――やや納得いかないが――鮮やかな紅。

 瞳はリアルの金色を引き継がれているが、こちらの方は澄んだ色をしており、鮮やかに映る。更に童顔補正が掛かったのか、鋭い目つきのクセに大き目に補正が加えられていた。長い睫毛に縁どられたその目が、鏡の中から燦然とした視線を投げて来る。

 ――こんなに目を輝かせられるのかぁ……

 自分の事の筈なのに、鏡に映る姿が自分ものだという事を忘れ、思考が泳いだ。

 とはいえ、概ねリアルと同じ容姿である事は満足だ。全体的な色はリアルより明るめという印象でしかなく、逆に言えばそれくらいで、大きなギャップは見られない。これで黒を基調とするスプリガン、紫色のインプはおろか、金や緑の多いシルフを選んでいたらと思うと、どれだけのギャップが生まれるかサブカル面に関する貧弱な想像力では予想も出来なかった。

 リアルバレは本来ご法度だが、自分に関しては最早関係無い。ある意味しがらみに縛られ、心の底から楽しむ事は出来なくなるかもしれないが、それはそれでよかった。リアルが分かっているからこそぶつかってくる連中もいる。

 何のしがらみもなく遊ぶなら、それ用のアカウントを別に作ればいい。端から最強を目指すつもりがないアカウントを用意すればいいだけなのだ。

 本来なら、現実とは違う“別の自分”を演じられる事こそ、ネットゲームの醍醐味だ。だから《Kirito》を名乗る自分はその醍醐味から外れた異端者と言える。

 だからこそ――その醍醐味が、より実感できる。

 

「ああ……だから仮想世界は、堪らない……」

 

 小さく、誰にも聞こえないくらいで呟く。

 ――鏡の中のレプラコーンが、妖艶に微笑んだ。

 

 






・キリト
 銀髪金眼な妖艶ショタ。
 なんか目覚めちゃったヤベー(?)やつ。
 完全新規アカウントで《レプラコーン》を選択。理由は本編通り、自己強化に特化しているから。キリト本人が完全ソロ指向な上に一人でレイド、ボスも倒せるので、ホントに強化を自己完結させるならこれ以上の選択は無い。
 原作のレインがそれを証明している(確信)
 ステータス傾向もほぼ変わらない。原典ゲームレインはむしろキリトの上位互換と言われ、千年の黄昏でキリト特有の技量が再現されて差別化された程(つまり種族的にはほぼ同程度)
 己の愉悦(楽しみ)を求めてALOに再ログインを果たしている=使命や仕事が無いので、研究気質なキリトは自己強化に明け暮れる。

 一言で表すならALOガチ勢。

 時間は腐るほどある上に、ある意味更識邸に居る頃より安心出来るからネ(笑) 怪我の功名とは正にこの事。
 ALOで対人戦を繰り返すほどに経験を積んでリアル技量の自己研鑽にもなる。それがゲームを楽しむだけで成る辺り、人間の欲は結構侮れない。



(´;ω;`)<殆ど中身(文字数)が無い事をおゆるしください()


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