インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、お久り振りです。
仕事優先してて遅れました。ゆるして()
視点:キリト
字数:約五千
今話でスメラギとの対話は終わり!
ではどうぞ。
「――キリト、貴様はこれからどうするつもりだ?」
一頻り笑った後、スメラギはふと思い出したようにそう切り出してきた。その表情に切迫感が無いことから興味本位で聞いただけらしい。
「それはゲーマーとしての意味か? それとも、《傭兵》としての意味か?」
「両方だ」
「両方か……」
返答を聞いて、考えながら鍛冶道具を取り出す。風化し、崩れ去った岩の上に置いた
手は動いているが、しっかり思考も回っている。
精確性を要さない作業であれば半自動的にこなせるようになっているのは、長年の経験の賜物だろう。
「暫くはレベリングだな。《傭兵》として動こうにも基礎パラメータや装備を整える必要がある。前のアカウントはSAOから引き継いだスキルや装備があったが、新規で始めた今は全て一からだ。戦い方をまた構築し直す必要がある。仕事で動くのは、それからになるだろう」
情報収集は強くなくても出来るが、この容姿は些か人の目を集めすぎるので、あまり向いているとは言い難い。そういう時はサブアカウントでも作りダイブすればいい。
もちろんそれは対外的な理由。表沙汰に出来ない理由としては、俺が将来第四回《モンド・グロッソ》で優勝出来るようにする為の自己研鑽だったり、菊岡と俺の間に結ばれた契約、ユイやキリカという規格外なAIの存在――そして、ヴァベルから知らされた未来に待ち受ける戦いに備えるなど、数多く存在している。
菊岡関連は別にスメラギに流しても良いと思うが、そうなると連鎖的に『何故その契約を結ぶ必要があるのか』という部分まで思考は進むだろう。大半の人は『VR関連で一家言あるから』という答えで止まると思うが、備えあれば憂いなしとも言うように杞憂の種は今のうちに摘んでおくべきだ。だからまだ知る必要はないと考え、俺はそれらの理由を秘匿した。
「レベリングか……貴様は、スヴァルトの攻略をするつもりか?」
スヴァルトの攻略。
踏破済みエリアを通ってレベリングしていくのか、という意味ではない。最後の浮遊大陸【岩塊原野ニーベルハイム】のエリアボスを倒すつもりなのか、という意味だ。
俺とセブンが衝突したのは五月九日。
今はもう六月に入っているが――なんと、ALOのトップを直走っていた面々は、未だスヴァルトを制覇していなかった。
理由の殆どはモチベーション低下だろう。そもそも、攻略していた面子が俺とユウキ達三十数人、《
つまり、あの《クラウド・ブレイン事変》を契機に、当時攻略していた面々がほぼモチベーションを喪ったのである。
これは俺にとっても予想外の事であった。
当時攻略していた面々が攻略から手を引く可能性は非常に高いと見ていた。特にセブンをリーダーとするギルドは、その団結性を喪った事で崩壊し、集団から個へと分解され、暫くは大人しくなるだろうと。まあ空中崩壊しても、自棄のノリでレイドを組む可能性も考えてはいたが。
ユウキ達には暫く平穏を求めるという予測があった。
予想外だったのは、この隙に各種族に帰依している面々が攻略しなかった点である。
ロキを脱獄させるかさせないかでの分岐クエストの時点で、各種族の軍部は種族混合のレイドを組み、ヨツンヘイムに潜っていた。つまり自己研鑽への貪欲さは健在なのだ。スヴァルト・アールヴヘイムの《グランド・クエスト》攻略となれば、かなりの経験値やレアアイテムを貰える事は間違いなく、プレイヤーの強化には打って付けと言える。
単一種族で一人占め出来れば他種族よりかなりの差を付けられて、種族混合で差が小さくてもリソースの取得が出来るというのに、それに乗り出していないというのは俺の予想の範疇外の事象だった。
――さっきのは、それをするのか、というスメラギの問いなのだ。
そこまで察して、俺は苦笑を浮かべた。
「これはセブンから攻略に誘われた時に言った事なんだがな。生憎と俺は、最前線攻略はする気が無い。レインからお願いされるまでレベリングしかしない予定だった」
「そのお願いを達成した今、攻略に向かう理由も無いという訳か」
「そういう事だ」
勿論、一ゲーマーとして全く興味が無い訳ではないが、早く種族熟練度を上げて強力な装備を入手し、上位のプレイヤー達と渡りあえるようにする方が優先度的には高い。その過程で攻略する事もあるかもしれないが、率先してするつもりは無かった。
したり顔でそう言いながら金床に置いた剣を丁寧に砥石で研いでいく。
インゴットから新しい剣を作り直す事も考えたが、ダンジョン内で手に入る鉱石や、定期的に復活する宝箱から武器が手に入る可能性を考慮すれば、現段階では作り直すより強化が見込めると結論を出し、耐久値を回復させる方を選んだ。
初期装備故に貧弱な【ショートソード】だが、パラメータの傾向はバランス型で、可もなく不可もなしなクセの無さは却って扱いやすい。
「攻略は他の面々に任せるよ。スヴァルト攻略もほぼ《三刃騎士団》とユウキ達の競争だったし、エンジョイ勢が挑む機会はあった方がいいだろう」
「そうか……」
腕を組むスメラギは、納得した風に頷いた。
だがどこか釈然としないというか、意外そうな面持ちで視線を向けて来る。研ぎが終わって諸々の道具を片付けた俺は、剣を腰の鞘に納めて立ち上がった後、視線を投げ返す。
「なんだ、怪訝そうに俺を見て」
「……いや。なんでもない」
「そうか」
そんなウンディーネの青年を暫し見詰めた俺は、左手を振り、メニューを繰る。訝しむ視線がまた向けられるが無視を続けた。
少しして、スメラギの眼前にウィンドウが表示される。
「……フレンド申請だと?」
それは、俺が送ったフレンド申請だった。
新規アカウントでやり直した俺はまだ誰ともフレンドになっていない。ヴァベルは今も俺を見ている筈だが、彼女はプレイヤーとも通常のNPCとも違う存在なのでフレンド申請は出来ない。
つまりスメラギがこれを受ければ、このアカウントに於ける最初のフレンドになるという事だ。
だからどうした、という話なのだが。
「貴様、正気か?」
怪訝そうに眉を顰めた青年がこっちを見て、開口一番にそう言って来た。
流石に失礼過ぎてむっと眉を寄せる。
「フレンド申請しただけで正気疑われるのは流石に酷いと思うんだが……そんなに変か?」
「予想だにしない事ではあった……何を考えている?」
「純粋にフレンドになりたいのが五割。いずれデュエルの誘いをするためが三割。残り二割は“繋ぎ”だな。スメラギは司法取引で現状菊岡の部下として動いているんだろう?」
「ああ。まぁ、今のところほぼ便宜上に近いが……」
やや曖昧な表情で青年は頷く。
政府と取引した事で《事変》の事を二人は不問にされた。
七色は思想の危険性を問われ暫く監視下に置かれたが、現状は解放され、比較的普通の学生生活を送っている。だが菊岡を動かしている上層部が黙って放っているとは思えない。遠からず、菊岡との契約で動いている間に顔を合わせる日が来る確信があった。
そしてスメラギは、七色ほどで無いにせよ優秀な成績を収め、MITを飛び級で卒業した鬼才である。既に働ける以上逃す手は無く、現在は繋がりのあった菊岡の下に身を寄せていると聞いた。
ちなみに司法取引を受けているのは七色とスメラギの二人だけだが、何故研究チームに居た他の者達が受けていないのか。
理由としては二つある。
一つ目は《事変》が起きたのは二人が来日していた時だから。当時二人を除いた研究メンバーはアメリカ側に残っていた。裁判沙汰になっていれば国家間での更迭、移送などもあり得たかもしれないが、二人が司法取引して表向き不問扱いになった以上は《事変》を理由に召喚する事も出来ない。仮に召喚すれば、それはイコール七色たちも罪に問わなければならない。懲戒免職や研究凍結などが妥当なところだが、自らの意志でチームを離れている以上、それ以上の追及は藪蛇になりかねない。加えてVR技術の黎明期を迎え、それに携わる人員を欲している日本としては、多少経歴に傷が付いたとしても七色とスメラギの二人を手放す手は無い。
チーム全体の責任として追及した場合、七色の国籍変更は難航し、スメラギも日本側で身柄を預かりながら研究に協力させる――なんて事は出来なかった筈だ。
もう一つは、スメラギは元々留学生で、七色に関しては後見人の父親が雲隠れした以上、戸籍に名がある母を頼るのは当然の事なので、日本国籍に変わる事に然して問題が無いという難易度の問題である。
司法取引は政府との取引。つまり、国籍と国家が一致していなければ、まず話にならない。外国籍との司法取引もなくはないが、七色博士のネームバリューを利用する事が出来なくなるデメリットが増えるので、政府としても日本に帰依してもらって楽だった筈だ。
「その際、俺と繋ぎを作っておけば役に立つ場面はあるぞ。地味に顔の繋がりがあるからな、俺」
ふふん、と胸を張る。
声を大にして言えないが、これでも俺の立場は既に日本の中枢に食い込んでいる。大きく動かせるのはごく一部でしかないが、菊岡の上司にあたる鷹崎元帥と、裏を牛耳る《更識》の当主やその構成員達から信頼を得ている以上、対価を差し出せば口利きは出来ると踏んでいた。
VR関係で特に大きなアドバンテージとなり得るのは、VRMMOを発明した男・茅場晶彦との繋がりを得られるという点にある。協力を取り付けられるかはスメラギが茅場に認められるかで左右されるが、挑むキッカケを得られるだけでもかなりのメリットと言えるだろう。
もちろん、デメリットも相応に存在する。
それは主にリアル面での事。俺は少し前にISを生身で――道具ありきとは言え――撃墜している。《出来損ない》が目立ち過ぎで目障りだから、という理由で襲撃してきた女権を返り討ちにするどころか、余計に目立ち、更にISを絶対視している者からは強い敵愾心を買った。
リアルで親交がある人には《更識》の護衛が付いている。とは言え、簪誘拐の主犯が古くからの幹部だった事を踏まえれば、やはり交流が無い人間を信用できるはずもない。
だから俺は交流を広めるべきではない。
護りたい者が増える。それは、きっといいことだ。
でも俺は一人で、出来る事には限りがある。あれもこれもと護りたい者を際限なく増やしていては抱えきれなくなり、取り零す。零れ落ちた者は、“救われない者”として犠牲になるだろう。
そうならないよう、俺は自分の価値を高めている最中だ。
だから交流を広めるべきではない。本末転倒になってしまうからだ。
――だが。
あくまでそれは、不必要な、という但し書きが付けられる。
必要な関係であれば。例えば、個人的にではなく、仕事が絡んだ関係であれば、抜け道が出来るのだ。かつて攻略組の一人だからと、ヒースクリフ達との交流があったように、《事変》で顔を合わせたVRの関係者同士だと
――そんな理屈で、俺はスメラギに申請を出していた。
「さっきも言ったけど、俺はスメラギといずれはデュエルしたいと思っているからな。強者との対戦には目が無いんだ」
そう決めた理由は、本人に伝えた事そのままだ。
ヴォークリンデとニーベルハイムそれぞれで俺達は対峙し、その全てで俺は勝利を得ているが、一度たりとも一対一の決闘をした事はない。スメラギは指揮官としての立場があり、それにふさわしい振る舞いを求められた。
《サブリーダー・スメラギ》には勝っているが、《剣士・スメラギ》とは戦った事がないのである。
曲がりなりにもユージーン将軍に勝利したその腕前を見た事が無い。強いプレイヤーとの戦闘経験を得たいとも考え、ALOにログインしている身からすれば、誘える手をみすみす逃す筈が無かった。
「……戦闘狂め」
スメラギは苦笑に不敵さを滲ませながら、俺をそう評し――ウィンドウの〇ボタンをタップ。
フレンド申請が受理された事をメッセージが知らせてきた。
「求道者と言って欲しいね」
ふ、と笑みを零しながら、ウィンドウを消す。
スメラギも、同種の笑みを浮かべ、踵を返した。その白い衣服を纏う背から薄青い四枚の翅が出現。りぃぃぃ、と微細に震えて浮力を発生させ始める。
「用があれば呼べ。おそらく仕事で頻繁にはログイン出来ないだろうが、余裕があれば、貴様の呼び掛けには応えてやる」
「……ありがとう」
――その礼は、心からのもので。
「……こちらの台詞だ、それは」
険の取れた声音でそう言った直後、スメラギは翅を大きく震わせ、蒼空へと飛翔した。
フレンドになるだけで一話(会話だけ)使うのは私くらいなものでしょう()
ホントは二人をバトらせたかったけど、今のキリトはアカウント作りたてのよわよわステータス(Lv.100程度)なので、勝ち目が薄い。
勝ち目があるだけ頭オカシイけどSAO最前線組なら平常運転です()