インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは。

 スローテンポ進行は変わらずデス。ユウキ独占回と思って諦めておくんなまし()

視点:ユウキ

字数:約八千

 ではどうぞ。




傷心 ~誓約の裏返し~

 

 

 スプリガン領の特徴である古代遺跡の周辺には、シルフ領の《(ふる)(もり)》に負けず劣らず鬱蒼とした森林地帯が広がっている。その森のどこかに、天の御遣いが居ると、まことしやかにNPC達が噂しているらしい。

 スヴァルト攻略から離れたプレイヤー達が確認に向かった結果がALO公式サイトの情報掲示板に報告され、その報酬を見た時、ボクは彼を誘う事を決意した。

 その時は、まさか二人きりで行けるとは想定していなかった。

 正に望外の展開と言える()()を噛み締めるべく、そして自分の強さを見せ付けたいがために、彼の右手を引っ張り、先導していた。

 

 ――その(こう)(ふく)は、長くは続かなかった

 

 元々彼の手を取っていたのは、自分の欲だけでなく、クエストの開始地点が中立域の奥深くにある事に起因する。

 セブンやスヴァルト実装で他種族との触れ合いが多くなっていたので忘れられがちだが、ALOは元々『種族間抗争』をテーマにしたハードのMMO。ビギナーは自種族のエリアでレベリングをし、ある程度強くなれば中立域、果ては央都アルンのレプラコーン鍛冶屋や地下世界ヨツンヘイムなどの高難易度ダンジョンに挑み、自己強化を図る。

 各種族エリアの中立域は、謂わば中堅ラインの登竜門と言えよう。難し過ぎる事は無いが、初心者には辛い所――それが此処だ。

 種族熟練度はステータスポイントを振る為の指標であり、それが上がったからと言って劇的に強くなる訳ではない。HPやMPは元々増加量が少なく、ほぼスキル値によるダメージ増減補正や装備条件の達成での強化が基本となっている。

 つまり、種族熟練度が低ければ、ステータスに振られるポイントも低く、従って装備も強いものは使えず、苦戦する。

 彼はそれをひっくり返す技量を持っているが、それが通用するのは対プレイヤー戦が基本。プレイヤーには首や心臓など即死、ないしクリティカルポイントが多いが、Mobは即死なんてほぼしないステータスありきのバトルになる。相性によっては一方的になる場合もあるという。

 流石にこちらから誘っておいてそれは申し訳ない、という考慮があった。

 蘇生アイテムを惜しむつもりはなかったが、それなりに値が張るため、使わなくて済むならそれが良いという思考があった。

 戦闘に際し、彼には後衛を頼んでいた。前衛を任せると何時倒れる事になるか不安だったのが一番の理由。それに現時点で中、後衛で動ける手段を、自分が持たなかった。

 だから手を離し、自分は前に出たのだが――

 

 彼は、それら全てを真っ向から潰していった。

 

「闇よ」

 

 銀髪金瞳のレプラコーンの少年が、短く口ずさんだ。

 突き出された左掌に蒼黒い炎が渦を巻き、間を置かず放たれた。緩い弧を描いて空を駆けた蒼炎は、六つの炎弾に分裂し、加速する。それらはやや離れた位置に立ち塞がる樹木型Mob《イビル・トレント》に着弾。炎が吹き上がる。断末魔が上がり、間もなくそれも途絶える。絶命した事を知らせるようにガラスが砕ける音と共に炎の中のシルエットが消滅した。

 ある程度攻撃し、HPを減らしていたとは言え、まだ半分くらいはあった筈。それを魔法一つで消し飛ばすとは恐るべき威力である。

 それに頓着した様子もなく――戦闘中なので当たり前か――キリトの目が他方へ向いた。視線を追えば、樹木の影から新手が向かって来るのが見える。イノシシ型のMobだった。

 弱点属性は――炎。

 

「キリト、炎ちょーだい!」

 

 駆けながら支援を求める。

 ん、と短い返事の後に、英単語で構成された詠唱が滑らか且つ途轍もない速さで流れ、三秒後に自分が持つ黒剣【ルナシェイド】に紅蓮の炎が宿った。

 ごうごうと激しく燃え盛る剣を、肩に担ぐ。

 ――きぃん、と耳元で甲高い音が響いた。

 視界の端には、炎の赤の他に、緑の光が見えた。

 

「は、ぁあ――――ッ!」

 

 どどど、と真っ直ぐに突き進むイノシシの雄々しい鼻先に狙いを定め、《片手剣》突進系単発技《ソニックリープ》を発動させる。

 森林の薄闇を照らす赤と、赤を斬り裂くように迸る薄緑色の帯を引きながら、刃が閃いた。

 視えない力の後押しを受けたボクの体は勢いよくスピードアップ。直前の二倍、三倍もの加速を体感するが、意識は極限の集中を続けているため、むしろゆっくり見えていた。赤と緑に煌めく直剣がイノシシの鼻先と痛烈に切り裂き、左に抜ける。

 あわや真正面から衝突しそうになるが、直前に一度鋭いステップを踏んだ事で、加速と慣性の後押しを受けて横にすっ飛んだ。隙だらけなので対人戦では論外だが、Mob戦では有効な回避手段だ。

 大きく距離を離しながらすっ飛んだボクは、宙返りの要領で地面に着地。イノシシに向き直る。

 

『ブグ、ググゥ……ッ!』

 

 鼻息荒く、興奮を表すイノシシは、こちらに向き直って駆け出す準備を始めていた。意外にも向き直りが速い。頭上のHPを見れば、今の一撃で残り半分を下回っていた。痛烈なダメージで仰け反った事で駆け続けた場合よりも方向転換が速くなったのだ。

 イノシシのヘイトはボクに向いたらしく、両眼には怒りの炎が赤々と燃えている――ように見える。

 まぁ、一撃であれだけ削れば、むしろ向かない方がおかしいのだが。

 

「――ジェネレート・エターナルフレイム!」

 

 そこで、キリトの別の詠唱が聞こえた。

 突進してきたイノシシを躱しながら、視線を少年に向ける。

 キリトの両手には、炎を纏う十字手裏剣型のチャクラムが収まっていた。土色の手裏剣を取り巻くように炎が巻き起こっている。恐らく地属性で形を作り、炎を纏わせた武器を作り出す《魔術》。

 

「そらっ!」

 

 その二枚を軽やかな動作で投擲。クルクルと高速回転する二枚の戦輪(チャクラム)は、制動を掛け、こちらに向き直ろうとしているイノシシに直撃。鋭い斬撃音を響かせ、後方に抜け――

 弧を描いて、彼の手元に戻って行った。

 

「……え、ええ?!」

 

 ギョッと目を剥く。

 装備欄から装備する事でシステム的に保護された『武器』なら、投擲後に戻って来るのは理解出来る。《チャクラム》というカテゴリはそういう動きをするようプログラムされているからだ。耐久値の限り残弾無限、それが《投擲武器》カテゴリに属するチャクラムのピックや投剣には無い利点。

 しかし――アレは、《魔術》である。

 既存魔法と区別して呼ばれるそれは、システム上でカテゴライズするならOSSとして造られた個人オリジナルの“魔法”だ。その性質上、敵に着弾し、HPを減らせば、エフェクトそのものは消滅する。その場に残り続ける特性を持つ水や地、氷属性も、設定された行動――攻撃や障壁の有効時間経過など――を終えれば消滅するのが普通だ。水魔法を飲み水として使えないのが最たる例だろう。

 勿論、中には追加詠唱し、挙動を制御する魔法も無くは無い。

 しかしキリトに追加で詠唱をした素振りが無かった。つまり、あの二枚の戦輪を作る《魔術》しか詠唱していない。手元に戻る軌道を前提にしているなら違和感はないが――そんな、使い場面を選ぶ《魔術》を、彼が作るだろうかという疑問がある。『武器として使う《魔術》』ならあらゆる局面で使えるよう構築するのがキリトというイメージが先行する。

 だが、そう考えれば、どうして《魔術》で作られた戦輪は、武器としての戦輪と同じ挙動が出来たのかという疑問が残る。

 その疑問で固まるボクの目の前で間髪入れず放たれた炎の極太光線がイノシシを焼き払い、戦闘は終了した。

 

    *

 

「《ディティール・フォーカシング・システム》?」

 

 戦闘後、少年の手を引きながらクエスト地点へと進む道すがら、さっきの戦輪の《魔術》はどういう理屈で手元に戻ったのかを質問した。そして返されたのは、システムの名前。

 どこかで聞いた事があるような、と顎に指を当て、虚空を見上げる。

 それを見かねたか、くいくい、と左手を引っ張られた。視線を少年に向ける。

 

「焦点を合わせると、そこのディティールだけ鮮明に描写されるだろう? アレの事だよ」

 

 彼にそう言われて、そんな現象もあったなと思い出す。

 道沿いの木や花に視線を向け、じぃっと目を凝らせば、焦点を合わせた対象物だけがどれだけ距離が開いていても――無論《索敵》スキルの遠視補正範囲内で――鮮明に見える。勿論遠近エフェクトによって細部は見え辛いが、現実では距離と視力によって全体がぼやけるのに対し、仮想世界ではピントのあった対象物だけはくっきり浮かんで見えるのだ。

 そういうシステムの過程があるのは、単純に現実の見え方を再現しているからではない。

 横を通り過ぎる瞬間、横目で薄青い矢車草に似た花を見つめる。花は細かい筋の走った五枚の花弁から、白いおしべ、薄緑の茎に至るまで、驚くほどの精緻さで作り込まれている。

 たった一つの花でそこまでディティールが凝っている。その精緻さを、SAOやALOに存在する全ての植物や建築物、動的オブジェクトやアイテムに適用していれば、如何にサーバーのメインフレームが高性能であろうとたちまちシステムリーソスを使い果たし、オーバーヒートしてしまう。

 それを回避しつつプレイヤーに現実並みのリアルな環境を提供するために組まれたシステム――それが、さっき彼が答えたシステムの名称だ。

 プレイヤーがあるオブジェクトに興味を示し、視線を凝らしたその瞬間、その対象物ののみリアルなディティールを与える。リソースの使用範囲、期間を限定し、負荷を和らげたのだ。

 

「……うーん……? でもボク、別の事で聞いた事あるような気が……」

 

 そのシステムの事は、SAO時代に聞いた事があった。でも遠近エフェクトや鮮明度に疑問を覚えて調べたからではなかった筈だ。

 はて、なんだっけか、と首を傾げる。

 

「サチの魔槍の事じゃないか? 敵を追尾する機能はこのシステムの流用だってユイ姉が話してたし、やり方をサチが教えられてる時、ユウキもその場に居た筈だ」

「あー! それだそれだ!」

 

 《ホロウ・エリア》でキリトがケイタと死闘をした後だったか。魔槍の恐ろしさを知り、逆に武器として使えるようになれば強力だと知ったサチが、珍しく喰い気味に教えを乞う時期があった。その時に投擲追尾の機能を活かすべく、システム面ではキリトより上な管理区スタッフNPCだったユイからレクチャーされていた。

 確かにその場に自分も居たのだ。魔槍を使う事は無い事と、追尾の発動条件が『対象に焦点を合わせる事』と把握したところで、使われているシステムの事は話半分で聞いていたから忘れていた。

 サチやキリトほど、そのシステムを重視しなければならない身ではなかったからだろう。

 多分他のプレイヤーは、よっぽど気になってしょうがない人や検証班くらいしか聞いた事ないのではないかと思う。

 

 ――そして、話は彼の《魔術》に戻る。

 

 彼が《魔術》で作り出した二枚の戦輪が、装備した武器と同じように手元に戻ったロジックについて。

 攻撃対象の選択は既存魔法のターゲティングに使われる“視線追従”で行われる。投擲後は、指定されたターゲットの下まで飛ぶ。

 肝は、そのターゲットは、複数に対して可能な点にある。

 彼は戦輪の攻撃対象として、敵だけでなく、自分の手も指定していたのだ。しかも後者に関しては自動で含んでいるのでわざわざ視線で焦点を合わせる必要はない。結果、敵にだけ視線を合わせておけば、勝手に戦輪は飛んでいき、そのあと勝手に手を攻撃しようとして戻って来る《魔術》が出来上がる。彼は自分の手を切り裂かれないタイミングでキャッチしているだけなのだという。

 元々戦輪は、キャッチするタイミングを誤れば自分の手が切れ、ダメージを負ってしまいかねない武器だ。それを再現する形として“両手”をターゲットに指定する事で、そこまで仮令《魔術》による武器だろうと完全再現へと至ったのだろう。

 

「欠点は攻撃対象を一体しか指定できない事、両手とも投げないとダメだから無手になりがちな事かな。集団戦には向かないから扱いが難しい」

「いや……OSSを前のアカウントから引き継いでるなら、対集団戦は問題無いんじゃないかな……」

 

 ここまでの道中で、前のアカウントで使っていた『ジェネレートシリーズ』を始め、殆どのOSSを引き継いでいる事は把握していた。ヴァフスとの戦いで置きトラップに使った風の斬撃OSSだけは再度作り直したそうだが、それ以外は以前とまったく同じ。

 たった一人で数十~数千のプレイヤーを纏めて壊滅に追いやっていた彼が、集団戦には向かないとか言っても、他に戦える手段あるでしょと突っ込んでしまう。

 何を言っているのか、と横目でジト目を向ける。

 キリトは、やや面映ゆそうに苦笑を滲ませるのみだった。

 

    *

 

『よくここまで辿り着いたわね、妖精達よ! どうせ私の指輪を手に入れたいと根も葉もない噂に誘われてきたんでしょうけど、お生憎様、そう易々と貰えるだなんて思わない事ね!』

 

 森の奥。開けた場所にある噴水に辿り着くや否や、光と共に降臨した金髪の女性天使は、腕を組み、ふんぞり返りながらそう言った。

 ツンとお高くとまったその態度は、人によっては不快な気持ちにさせるかもしれない。

 ただ、万人がプレイするMMORPGのクエストNPCに於いて、敵でも無いのに不快にばかりさせる個体はそう多くない。

 その例に漏れず、実はこの天使もそう悪い性格はしていない。

 

『私の指輪が欲しければこの森を進んだ先にいる魔獣を倒してきなさい! そうすれば認めてあげます!』

 

 プイ、とそっぽを向いて、もう語るべき事はないとばかりにだんまりを決め込んだ天使。

 一方的に要求を突き付けてきた訳だが、明確に条件をしている辺りまだ良心的だ。

 苦笑しながら、ボクはやや唖然と天使を見上げるキリトの手を引く。目的地はマップにマーキングされたから道に迷う事は無い。

 

『――気を付けて行きなさい』

 

 後ろから、少しだけ天使の声が聞こえてきた。

 ちらりと少年が背後を振り返る。視線に気付いてはっとした天使は、神聖な地を穢されては堪らないから、と早口に言い訳を展開してさっさと消えてしまった。

 

「いやー、なんというか典型的(ツンデレ)だったねぇ。シノンみたい」

「俺はリズに近い気がした。クラインに対する態度とか、あんな感じのイメージがある。シノンはもっと率直に心配してくれる」

「……あー、まぁ、そうかも」

 

 並んで歩きながら会話をしていく。

 そこで彼とのイメージのギャップがあると知って何とも言えない気持ちになった。シノンが率直に心配するのは多分キリトに対してだけ。その理由も分かっているから、凄く微妙な心境だ。

 

「ところで、この先に居る魔獣ってどんなモンスターなんだ?」

「それは――」

 

 対策の為に問われ、答えようと口を開いた。

 

 ――その時、獣の咆哮が聞こえてきた。

 

 びりびりと大気を震わせ、木々がざわめく。小鳥たちが一斉に飛び立った。

 

「……今のか?」

「多分……情報板には、狼型のボスだってあるよ。フルパーティーで倒せるくらいで、魔法攻撃一つ以外は全部物理攻撃」

「普通のクエストボスか」

 

 その情報である程度推し量れたようで、彼は気負う素振りもなく息を吐いた。

 ――古今東西あらゆるモンスターを相手にしてきたからこその判断力。

 種族熟練度的にまだ適正値に届いていないのだが、その差を、彼はフロアボスとの偵察戦の時のような不利な状況と同程度に考えているのかもしれない。一度も死ねなかったあの世界のボスとの初見の戦いを思えば気負う事もそう多くないのは当然だ。彼の尋常ならざる胆力はそこから来ているに違いない。

 

「……前衛、ひとりで大丈夫か?」

 

 そこで、もの言いたげな表情で、キリトがボクを見上げながら言って来た。クエストボス相手にボク一人で相手出来るのか心配らしい。

 彼はボクを見くびっている?

 ――いいや、これは信頼故の確認だ。

 相手はボス。レベリングし、相応の強力な装備で固めて、漸く勝負になるのがMMORPG。特にステータス面の補正がSAOより強くないALOでのモンスター戦に於いて数の力は絶対的なものだ。

 ボクがソロで戦ったとして、クエストボス程度なら相手取る事も不可能ではないだろう。

 彼はそれを知っている。その上で、心配して来ている。

 

 複雑だ。

 

 七色から聞いた事がある。スヴァルト実装当初、フレンドになる時に攻略に誘った時、彼は目の前で仲間が死ぬ場面を見たくないと言って断ったという。

 この世界はゲームだ。

 死んでも、実際には死なない真っ当な“ゲーム”。

 あまりにリアリティある“ゲーム”。

 ――そうと分かっても、HPの減少はヒヤリとさせられる。

 意識の奥底に沈み始めている危機感。それは、視界端に表示される緑のバーが黄色へ、そして赤色へ変わる毎に、表層へと浮上する。平穏に生きていて尚忘れられない恐怖は確かに心に刻まれている。

 ボクですら、これなのだ。

 あの戦い(ラストバトル)で最初に死んで、他の皆が死ぬ場面を見ていない自分ですら、恐怖がある。階層ボスとの戦いで戦死した人達を見た事はあるが――実感なんて、薄かった。

 

 ボク達は、生まれながら“死”は身近なものだった。

 

 けれど――人が死ぬ瞬間を、現実で見た訳ではない。

 

 SAOのそれは人の死に方では無かった。HPが無くなれば砕け散って、遺体は残らず、《生命の碑》に刻まれた名前に黄色の二重線が横に引かれるだけ。

 居なくなって、名前が消されて。

 ああ――――この人、脱落したんだな、って。

 そう認識するのが、あの世界で(ボクにとって)の“死”の捉え方だった。愛する父母の遺体も生還した時点で火葬されていたから、正直実感なんてあまり湧いていない。“いきなり居なくなった”というのが正直なところだった。

 ボクも、姉も、多分SAOに居た多くの人が、きっとそう。

 死んだっていう認識。

 漠然とした、死のイメージ。

 そればかりが先行して――だからこそ、明確なイメージより、恐怖心ばかりが先行する。だから逃避を求める。現実ではまだ死んでないのは、という希望に誰もが縋った。

 

 でもキリトは違う。

 

 彼は拾われる前に人を手に掛けていた。命を奪い、奪われる瞬間を、彼は目にしていた。明確に死を、死ぬ瞬間をイメージ出来るせいで、却って絶望感は大きかった筈だ。

 百層で最後まで生き残った彼は。

 敬愛する義姉が身を挺して蘇った彼は。

 その心に、どれほどの傷を負っているのだろう――――

 

「――大丈夫だよ、キリト。これでもリーファに扱かれてるんだから」

 

 握った彼の右の手を、ぎゅっと握り締める。

 

「……そっか」

 

 小さくて華奢な手が握り返して来た。

 表情は、どこか不安げで、でも安堵した笑み。

 

 “紺野木綿季は生きている”と安心した笑み。

 

 ――彼が剣を取る理由は、一も二も無く“()()のため”。

 

 自分達が生きていれば、彼の心は保たれる。

 でも――その理由は、誓約であると同時に、過去の傷からくる恐怖(のろい)そのもの。もう二度と喪わせないという覚悟。一度は喪った絶望の経験。

 安堵は出来ない。

 ――安心なんて、しちゃいけない。

 彼が戦場に居る限り彼の心は悲鳴を上げ続けている。その戦場にボク達が居れば――キリトは、恐怖と苦悩に苛まれる。

 ぐっと、喉が引き攣った。

 

「――ねぇ、キリト。今は……楽しい?」

 

 どうにか、喉の引き攣りを無視して問い掛ける。

 キリトは小首を傾げた。

 

「充実してて、しあわせ、かなぁ……」

 

 握る手の力が、僅かに強まった。

 ――やっぱり安心出来そうにないや。

 意識してるのか、無意識なのか知らないが、()()()()()()()()時点で安心なんて出来る筈が無かった。

 

 






・ユウキ(大人ver.)
 死に身近だった少女。
 原作と違い父母、姉が死んだ瞬間に立ち会っていないので、『リアルの死』というものがイメージで止まっている。『人の死に方じゃない』は漫画プログレッシブ・アスナがディアベルの死に際を見て思った事と同じ。
 元々人間不信のきらいがあり、深く踏み込まない気質なので、関係の希薄な人間の死は漠然としたイメージしか持たなかった。
 更にSAOでは身近な人間の死がキリトだけ。生還後は父母の死を知ったが、それも死に際を見ていなかったので、実際死へのイメージは未だ漠然としている。”居なくなったんだ”という実感で”死んだんだ”という実感に繋がってない。つまり身近な人間の死に耐性が無い。
 接し方を誤ると暴発しかねない爆弾というのが実情。
 現状暴発の恐れがあるのは『キリトを傷付けられる事』と『ランを傷付けられる事』。どっちも居なくなると闇堕ちする。


・キリト
 トラウマでトラウマを制し続けている主人公。
 ユウキ達と接する事で『護れてる』と充実感を得ているが、同時に『死んだ瞬間』も想起する事になるのでプラマイゼロ。
 本人は『公序良俗の範疇ならゲームだから』と看過しているが、リーファやユウキ達がPKされる度に地味に精神すり減らしてたりする(その理由で割り切れるなら、自分で手を下した時に『依頼で必要な事』と割り切れる)
 ユウキと一緒に居てちょっとずつ回復している。


総括:ユウキは主人公、キリトはヒロイン(爆)


・魔術
名称:ダークファイガ
詠唱:闇よ
動作:左or右手を突き出す
効果:追尾する低速火焔弾一発放ち、しばらく進んでから六発の高速火焔弾に分裂。炎五割、闇五割


名称:エターナルフレイム
詠唱:ジェネレート・エターナルフレイム
動作:無し
効果:両手に炎を纏う土の十字手裏剣を構成
   投擲後はロックオンした敵→両手の順で軌道を描く。触れたらタゲは外れるのでキャッチすればダメージは負わない


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