インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 機体の説明で一話使っちゃった……

視点:束さん

字数:約八千

 ではどうぞ。




黒椿 ~冬を越えて花開く~

 

 

「じゃあ和君、【黒椿】を起動して。あの姿を強くイメージすれば――」

 

 秘匿アリーナの中央に移動し、振り返りながらそう指示を出す。だが私はその言葉を途中で止める事になった。後ろを付いて来ていた少年の姿を見れば、丁度全身が光に包まれ、続けて黒い西洋甲冑姿に変わったところだったのだ。

 ISはヘッドギア型ハイパーセンサーを介し、脳のイメージ信号をキャッチし、その信号を基に各部位を動かすシステムを組んでいる。熟練の操縦者となれば、それこそコンマ五秒でISを纏う事すら可能な程に正確だ。

 今の彼はそれくらいの素早い装着だった。

 ただ、午前中に調整の為に一度使ったとは言え、それだけですぐ出来るほど簡単なものでもないのだけど……

 

「……速いね?」

 

 なんかデジャブった気がした。

 

「SAOの時に使ってた鎧と同じだから」

「ああ……」

 

 答えを聞いて、納得する。既にイメージが出来ているなら瞬間的な装着が出来ても不思議ではない。

 ちなみにイメージがしっかり出来ていない場合、口頭で機体名を口にする事で装着できる。これは武装を呼び出す時も同じだ。厳密には機体名や武器名と結び付けられたイメージを強くするためのトリガーでしかなく、また初心者用の手段であるため、専用機持ちがそれをすると流石に恥ずかしいレベルと言える。

 まあイメージを武器にデスゲームを生き抜いたと言ってもいい彼の事だ。数回、ともすれば一度イメージを焼き付けただけでこなせるようになる可能性すらある。

 《ⅩⅢ》を入れた連中の事は受け容れ難いが、それを使いこなしていた少年の努力は、純粋に尊ぶべきだ。イメージを形作る工程はたゆまぬ努力と気の遠くなる反復練習、同時に強く印象付ける程の意識が不可欠。本気でなければそこまでには至らない。

 

 ――その本気が、今は心配だけど。

 

 つい先ほど、ここ最近の様子から一変して固い表情になって、なにか思い詰めたような様子を見せ始めた事が気掛かりだ。

 【黒椿】を見て将来の不安を改めて直視した――とか、そういう類であったらいいのだけど……

 どうにもイヤな予感がする。

 

「ま、素早い装着は熟練操縦士の証だし、出来る分に損は無いけどね。ともあれ早速専用機の試運転を始めよう。和君、疲れてるんだもんね?」

「む……」

 

 ちょっとだけ、唇を尖らせて不満を露わにされた。

 ――自覚してるならしなければいいのに。

 内心、そう思う。一生懸命な姿をいじらしく思うが、同時に危惧を抱く。

 あの小娘の反応を見て、今日は休む事で話が纏まっていたのにそれを破るような事をいきなり言い出した事はすぐに理解出来た。それはあまり良くない兆候だ。SAOでの経緯、ALOでの《事変》の時の行動からイヤというほどそれは実感している。

 ――だが、それは後で聞けばいい。

 今は機体確認の方が先だ。彼の方から言って来たし、それをしてからでも遅くはない。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「取り敢えず基本機動からしようか。【黒椿】はねー、なんと機動システムが四つもあるのだ! どどん!」

 

 セルフ効果音付きで胸を張る。

 無反応だった。視線で早く先を、と促される。

 ちょっと親友(ちーちゃん)に似てるな、今の反応――と心の中で思いつつ、説明を始める。

 

「まずISにとって欠かせない《慣性制御システム(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)》でしょ? 二つ目がブースターだけど、通常の機体と違って《展開装甲》が自動調節するよ。ちなみに通常速度は【打鉄】の瞬時加速(イグニッション・ブースト)くらい出るよ!」

「……そうか」

 

 すごく微妙な顔された。

 考えてる事は分かる。そんな大胆に《展開装甲》使っていいのかとか、機動システムが多くて習熟が大変そうだとか、そんな感じの事をざらざらと浮かべているに違いない。

 ただPICも《展開装甲》も【黒椿】のシステムが自動調節するから、そこまで気にする必要は無い。飛行速度も彼の反応速度と戦闘時のカン、そして個別連装瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を考えれば決して過剰でも無い筈だ。

 むしろ本題は残りの二つ。

 

「三つ目は重力環境下に於いて使える《反重力力場》だよ。ブースターの推進力とか、ALOの翅の揚力とかと較べるとあまりスピード出ないから、狭い屋内とかそういうトコでの利用が個人的にオススメかな。緩やかな分、小回りが利くからね」

 

 ISは屋内戦闘に非常に弱い。装甲や武装が往々にして大きく、通常の人が通るサイズの通路では狭過ぎるからだが、ISの強みとも言える機動能力がほぼ封じられるからでもある。回避が出来ないのだ。小回りによる回避が出来ず、巨体故の被弾のし易さがISの弱点と言える。

 むしろその制約がほぼ無かった屋外で生身で勝ちを拾った彼が色々と常識外れだ。

 小回りの利きにくさは機体が鎧サイズまで小さくなって解決された。機動面は、ブースターだと逆に速過ぎるという問題を、反重力力場を使った緩やかな加速で解消している。

 あとブースターは燃料やエネルギーを使うが、反重力力場に関しては機構()さえ無事なら使えるから、極論彼が死なない限り常に使えるものと言える。だから機動で往生する事は起きにくい筈だ。

 

「使用感覚はSAO時代の風で跳んだり素早く動くのと同じだと思う。あとで確認して、使い勝手を教えてね。言ってくれれば束さんやあっくんが再調整するから」

「ん……その調整、俺にも教えてもらえるだろうか」

「いいよいいよ、教えたげる!」

 

 自分で出来るようになりたい、と言って教えを乞われたので快諾する。

 

「最後は一応第三世代兵装扱いになるものなんだ。その名も《エレメンタルマスター》!」

 

 昔、世界を股に掛ける怪盗の一味を追う警部が、手錠を伸縮機能付きのものにして、それを怪盗の手首に付ける事で捉えるというシーンがアニメや劇場版で描写された。手錠を掛けられた怪盗はその伸縮機能によって引っ張られ、何度もお縄になったり、対策として手首型の手袋で縄抜けしたりと器用な対応をしていたのを覚えている。

 《エレメンタルマスター》はそれから着想を得た。空気中の酸素、水素、窒素原子などで“不可視の縄”を作り出し引っ張ったり、“不可視の道”で相手と自分を繋げて彼我の距離を無理矢理詰めたりなどが主な使用法。

 ――勿論、それは表向きのもの。

 “イメージ・インターフェイス”を使った兵装が第三世代機の定義。【黒椿】は第四世代機だが、第三世代と世間に思い込ませるためにこの《エレメンタルマスター》を搭載した。

 いま世界中が躍起になって“イメージ・インターフェイス”の兵装を研究、開発しているが、その大半は攻撃的なものばかり。中国は空気砲に着想を得た兵器、イギリスは原子操作を応用したエネルギー波の遠隔操作、日本は水素原子を操るナノマシンなどだ。唯一ドイツが指定空間内の原子を固定し、物質的なものの慣性を止める補助的兵装の開発に着手している。

 《エレメンタルマスター》は、そのドイツの兵装《アクティブ・イナーシャル・キャンセラー》の発展形と言えよう。あちらは空間内の物質を停止させるだけだ――とは言え、一瞬の停止でも脅威ではある――が、こちらはイメージによって自由自在。最終的にはハイパーセンサーによる全方位視認可能性能を駆使し、全方位の空間を支配する可能性すら秘めている。無論、そんな事をすれば脳が酷使されるから()()()出来ないようリミッターを掛けているが。

 そして、それが表向きな理由なのは、勿論【無銘】の能力を使う際のカモフラージュにするためだ。

 【無銘】は物質の分析、分解、再構築を可能とするのに対し、【黒椿】は移動・補助に重きを置いている。だがどちらも原子を操る事には変わりない。

 仮にどこかから襲撃を受け、登録されていない武器を造り出した時、この《エレメンタルマスター》を言い訳の材料とする為にわざわざ搭載したのが真実である。

 

「……すごいな」

 

 その話を懇々とすれば、バイザーを付けた黒騎士のような出で立ちの少年が、感嘆の声を洩らしてくれた。声音には純粋な尊敬の念が滲んでいる。

 むふん、と思わず口角が吊り上がる。

 ――思えば、色眼鏡無しの称賛はいつ振りだろうか。

 彼からは度々受けているが、それ以外は《天災》のフィルターが掛かっているように思える。ただ自分が天邪鬼なだけかもしれないが。

 

「さてさて、機動システムの概要は話し終えたし、それぞれの機能で飛んでみようか。束さんはここから計測をするから自由に飛んでおいで」

「ん」

 

 少し下がって、移動型ラボ【()()()()()()()】を呼び出す。作業用の工作機械を多数内蔵しているこれは、同時に様々なデータの計測機器も備えているため、ISの状態を確認するのにはうってつけだ。

 それを見届けた後、黒騎士(【黒椿】)が飛翔した。

 近くに生身の私が居たからか最初はかなりゆっくりだったが、ある程度の高度を取ってからは、アリーナ全体をぐるぐると周回し始める。加速や瞬時加速は勿論、ローリングやターン、バックフリップ、後退加速など様々な移動手段を披露する。

 

「おー……やっぱりALOでの飛行経験って、活きてるよねぇ……」

 

 VRMMOへの風当たりは依然としてキツいので、世間からはあまり評価されていないALOだが、須郷伸之が作り上げた《フライト・エンジン》は大したものだ。現実と遜色ないALOでの飛行はIS操縦者や戦闘機操縦士に得難い経験を与えてくれる。それも、大したデメリットやリスクも無し。技術全てを流用できる訳ではないが、飛行時の重力感覚などはやって損は無い。

 それをSAOに居た頃から見抜いていた彼の聡明さは流石だ。

 あるいは、それを気付かせるきっかけを作った義姉・桐ヶ谷直葉の功績か。

 二、三分して、彼は一通りの確認を終えたのか下降して来た。

 

「もう終わりでいいの?」

「飛行訓練は明日からも存分に出来るから」

「そっか」

 

 軽く頷いた私は、空中に指を躍らせ、ディスプレイを呼び出す。それは【黒椿】に詰んでいる武器のデータ。そのデータを【黒椿】に送ると、彼もディスプレイを呼び出した。

 

「じゃ、次は武器と《単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)》について説明するね」

「しっかり発現してたんだな……でも、単一仕様能力も一緒に? ややこしくないか?」

「【黒椿】のは武器と密接に関係してるから分ける方がややこしいよ」

 

 単一仕様能力はその機体が独自に作り上げたフラグメントマップと、操縦者のクセや好み、シンクロ率など様々な要素が絡み合って構築される機能なので、絶対数が少ない事もあって《原則》というものを語れない。

 だから武器と関係している単一仕様能力というのも、別段おかしな話とは言えないのだ。

 珍しいとは思うが、そういう事もあるだろう。

 

「【黒椿】の武器はSAOで使ってたエリュシデータとダークリパルサーで一セット、打刀(うちがたな)二本で一セット、あと《ⅩⅢ》と同じヤツで一セットの、合計三種類ね」

 

 三番目は【無銘】のカモフラージュが主な理由。あと、SAOやALOで培った経験をフルに使いこなせるように、という配慮も含んでいる。原子操作による炎や雷の発生は強力なアドバンテージだから使わない手はない。《エレメンタルマスター》の使用に、《ⅩⅢ》の形状はイメージを固めるのに役立つだろう。

 一番目の二刀は、世間にあまり知られてないとは言え“彼”を象徴する二刀であり、彼自身も心象世界で具現化させるほど大切にしているから。剣士にとって剣は己の命も同然。なればこそ、“剣士”としての意識付けに役立つ筈だ――――と、()()()()は言っていた。

 二番目の二刀一対の打刀は、私からの贈り物だ。

 確かに彼は、篠ノ之流剣術をはじめ殆どの流派剣術をまともには使えない。だが――彼の義姉から教えを受けている以上、全て使えない訳ではない筈だ。というか使えない技術を教えるほど彼女は馬鹿じゃない。使わなくていいかもしれないが、使う時が来た場合の事を考えて用意しておいた。

 

「でね、肝心の単一仕様能力なんだけど……」

 

 ――そこで、私は言い淀んだ。

 首を傾げて見上げられる。疑問の意志が、バイザー越しでも分かるくらいひしひしと伝わって来た。

 

 

 

()()、発現したんだよね」

 

 

 

「…………はぁ?」

 

 間の抜けた、怪訝さを露わにした声が上がる。そんなバカなという驚き。馬鹿にした風でないのが彼らしいと現実逃避気味に思った。

 

「いや、束さんもちょっと信じがたいというか、いくら“原則”を語れないとは言え複数発現なんてって思ったんだけどさ? 和君、前は三つに人格分裂してたじゃん? で、そのログって【無銘】にもあるし、当然和君の記憶領野にもある訳だよね?」

「あぁ……うん、そうだな」

「でね? これは推測として聞いて欲しいんだけど……【黒椿】が最適化(パーソナライズ)してる時に、多分【無銘】か和君の記憶のどっちかを見て、反映されたんだと思うんだよね……」

「……今は一つになってるのに?」

「うん。多分【無銘】の方にアクセスがあったんだと思う」

「……【無銘】に、か……」

 

 今の彼は統合人格として一つになっているから、彼の記憶領野で反映されたと考えるとやや無理がある。であれば【無銘】のログと、コア人格を吹き飛ばしたという強い感情を読み取ったと考えたほうが、まだ納得出来る話だ。【無銘】は既にコア・ネットワークと繋がっているから、そことリンクして【黒椿】が最適化を実行していたと見るのが一番的確だろう。

 いずれにせよ、ISは無限の可能性を秘め、千差万別の成長をしていく存在。“原則”だとか“定石”だとか、そういう枠組みでは語れないものだ。そういう事実として受け入れたほうがいいのだろう。

 作り主は自分だが、その自分でも予想出来ない成長の仕方をするから堪らない。

 

「……まぁ、多いに越したことはない。発表するか否かはまた考えるとして……詳細は?」

「さっき言った括りの武器を出せば発動待機状態になるよ」

 

 エリュシデータとダークリパルサーで一つ、という具合だ。ちなみにエリュシデータと打刀の組み合わせだと同時に二つ発動可能だ。

 無論『可能』になるだけで、武器を持ったからと言って即座に発動する訳ではない。

 ――それを説明したところで、彼が直剣を二本取り出した。

 途端、ぶわっ、と漆黒の甲冑や籠手、脛当てのそこかしこに作られた《展開装甲》から蒼白い燐光を迸らせる。

 

「……わぁお」

 

 素直に、驚嘆の声が漏れた。

 確かに武器を持てば『発動可能』、言うなれば待機状態になる訳だが――そこから条件を満たす事で、初めて発動するようになっていた。

 でも彼は、その条件を聞く前に、もう発動してしまっている。

 発動条件を知っている身としては、“彼らしいなぁ”と思うばかり。

 

「なんか光り始めたんだけど、なにコレ」

「それがその二本のどっちかを持った時の単一仕様能力だよ」

 

 《()(どう)(ぜっ)(ぷう)》。

 それが、SAO時代で手にした二刀を持った時に発動する能力の名称。おそらく――【黒の剣士】と《ビーター》として動いていた“守護人格”の特性を強く発現したもの。

 能力は単純、エネルギーの増幅。

 世界で最も有名な単一仕様能力である《零落白夜》が一対零のエネルギー消滅能力なのに対し、《覇導絶封》は一対百のエネルギー増幅能力なのだ。

 

 ――【黒椿】の単一仕様能力は、全て使用に際し強い“感情”をトリガーとしている。

 

 それが、おそらく人格分裂を参考にしたと考える根拠の一つ。分裂も感情を鍵にされていた。

 《覇導絶封》発動に必要なのは“守護”の感情だ。そして統合人格の主人格がその感情を一番にしているので、剣を執る理由がある以上は半ば無制限自動発動だろう。だから剣を出した途端発動したのだ。

 困惑気味に少年に推測を交えつつ教えると、理解と納得、次いで悩むような表情を浮かべた。

 

「試合で使えないんじゃないか……?」

「まあ、唯一の対抗手段は《零落白夜》だからね。実質常時無敵?」

 

 常時シールドエネルギー、ブースターのエネルギーが無限供給されるので、操縦者である彼がスタミナ切れを起こすまで永遠に稼働し続けられる事になる。

 意図せずして永久機関が出来た訳だ。

 エネルギー枯渇問題もこれで解決だね、と言うと、そうだな、と苦笑で返された。あまり面白くなかったらしい。

 

「ちなみに二つ目、打刀のは?」

「《(ばん)(しょう)(ぜっ)(かい)》。《零落白夜》の物理版みたいなものかな、原子レベルから物質を斬り裂くから防御不可。あと原子結合で刀身を保護するから絶対折れない」

 

 ()()()()の話によれば、第二人格・シロは片刃の大刀を好んで使っていたという。刀でもいいだろうに敢えて大振りの大刀を使っていたのは、ともすれば頑丈さと重厚さで補いたかったからなのか。

 また和人の話によると、シロは自身の“生存本能”を特に切り取った人格だったらしい。

 《万象絶解》は物質に対して絶対優位の能力。発動条件で“生存本能”を求められているのは、物理的脅威から身を守ろうとする意志の顕れなのかもしれない。

 

「物理防御不可攻撃とか束さんでもヤバいとしかコメント出来ないよ」

 

 ALOには《エセリアルシフト》という『物理当たり判定を透かして攻撃を当てる』伝説級武器・魔剣グラムがあるが、それをリアルで再現した訳だ。勿論透過なんて出来る訳が無い。だから防御不可の部分を忠実に再現したパターンだ。

 原子レベルで刀身を保護し、触れた物質の原子を分解している以上、エネルギーの本流を形作る光子や流動波の影響も打刀は受けないだろう。AICの慣性停止結界も、むしろ食い破る筈だ。

 ――それはともかく。

 問題は三つ目だ。

 《ⅩⅢ》の摸造品。作ったのは私だけど、問題は参考にされた人格だ。守護、生存本能と来て、最後に残されたのは廃棄孔そのもの。一番殺意が高い訳だが、それは同時に世界や実姉に対する憎しみが最も強い事も意味する。

 

「……三つ目は、《ⅩⅢ》のだったよな。人格も残りは廃棄孔……もうなんとなく想像出来てるけど、何なんだ?」

「多分想像通りだと思うよ。名前こそ違うけど、《零落白夜》まんまだから」

 

 《ⅩⅢ》の武器にあった黒と白で一対の片刃片手剣は、組み合わせて一本の両刃長剣にする事で《零落白夜》と同じ能力を発動出来ると聞いている。【無銘】のもそうだし、SAO時代もユニークスキル《薄明剣》の本領発揮にはそうする必要があったのだと。

 【黒椿】の《ⅩⅢ・影打》も同じ。武器に引き摺られたのか、発現した単一仕様能力・《(くう)(はく)(ぜっ)(きょ)》の能力は《零落白夜》と完全同一。

 その殺傷力は、《万象絶解》と並ぶ程。

 絶対防御を発動させる――どころではない。通常の出力で使えば絶対防御をも斬り裂き、操縦者本人を斬り捨てられる。

 その危険性を、《零落白夜》を再現した護身武器を使うにあたって勉強した彼はよく理解しているらしく、顔が引きつった。

 試しにと、彼は打刀を、続けて《ⅩⅢ》の武器である黒と白の片刃剣を出すが、何れも|単一仕様能力が発動した。統合人格だからかいずれの感情、衝動も強いため、武器を出した時点で自動発動してしまうらしい。

 《空白絶虚》の能力によりシールドエネルギーが減っていくのを見て、彼は全ての武器を格納した。

 そして私を見上げる。

 

「【黒椿】の標準武器、全部使えなくないか?!」

「そゆことだね」

 

 ダメじゃん! と実にくだけた頭の抱え方をする少年。混乱と驚きに続けて驚愕の事実に直面し、流石に困惑を抑え切れなくなってきたらしい。

 むしろそれくらいがちょうどいいと思うのだけど、すぐに彼は元の調子を取り戻した。

 

「え、俺どうすればいいの。流石に積まれた武器を全部使えないなんて予想してなかったんだけど」

 

 いや、元の調子にはまだ戻ってなかった。縋るように見上げて来て、どこか気弱だ。

 何時にないギャップにちょっとだけ胸の裡が動いた。それを押し隠して、腕を組む。

 

 

 

「うん、だから代わりの武器がこちらになります」

 

 

 

 ざらっ、と移動型ラボの拡張領域から武器を出し、アリーナの地面に突き立てる。

 

「――最初にそれを出してよ束博士!!!」

 

 非常に強い抗議の声が叩き付けられた。

 あっはっは、と私は笑った。

 

 






・椿(実際の椿に黒色は無い)
 開花時期:『11月~12月』、『2月~4月』
 花言葉
  日本語版:『誇り』、『控えめなやさしさ』
  英語版:『敬愛、感嘆』、『完全、完璧』

 ――つまりこの【黒椿】という名前。
 言外に『千冬を越えていく』という意味になるんですね(こじつけ解釈)


・【黒椿】
 実は数話前の解説では第三世代兵装が明かされていなかった。

 第三世代兵装:《エレメンタルマスター》
 原子操作で相手とのラインを作り引き寄せたり、指定空間の原子を操作して場を支配したりなど、覚醒したら強い(迫真) 原子を操れる性質上、相手を窒息死させる事も可能。マスタング大佐の酸素濃度操作でパッチン爆発も再現出来る。
 夢が広がリングな”イメージ・インターフェイス”搭載兵装。

【単一仕様能力】
 かつての分裂人格に合わせて三つ発現
1)《覇導絶封》
 守護人格の影響で発現。
 エネルギー無限供給。
 原作【紅椿】の《絢爛舞踏》と同じ能力。エリュシデータかダークリパルサーを出せば、守護の意志によって自動発動。
 その性質上、試合では使用制限を掛けられる可能性・絶大。

2)《万象絶解》
 生存本能の人格の影響で発現。
 原子分解ブレード能力+防御不可攻撃。
 物理に対して絶対優位。銘が出ていない打刀二本の片方を出せば自動発動。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)なので刀さえ出していれば、エリュシデータなどにもこの能力は付与される。絶対折れない部分は《ONE PIECE》の黒刀や”武装色の覇気”をイメージ(全ての武器に適用されるので後者が近いか)
 その性質上、試合では使用制限を掛けられる可能性・絶大。

3)《空白絶虚》
 廃棄孔の人格の影響で発現。
 エネルギー消滅能力。
 エネルギーに対して絶対優位。
 まんま《零落白夜》。千冬への殺意、千冬を崇める世界への復讐心を根底にしているため、皮肉のように同じ能力になった。名前の『空白』は《零落白夜》の事を捻ったもの。
 その性質上、試合では使用制限を掛けられる可能性はあるが、【暮桜】や原作【白式】の例から使っていいと許可が下りる可能性アリ。
 ――なのだが、和人が『全部使えない』と言っている時点で、使うつもりがまず無い。

 ちなみに《展開装甲》は実質《零落白夜》と同じ性質なので、防御に関してもエネルギーに対して優位を誇る。



・篠ノ之束
 流石に【黒椿】の真価に驚きを隠せないでいる天災。
 自分の予想外の成長をしていくISに胸を躍らせている辺り、やっぱり研究者。実は今話は和人を意図的にからかっている節がある。
 原作箒に対しての説明に比べ、実演が無いものの割と丁寧。
 人の心が分かる天災だからネ。
 直葉に対しての信頼が凄く高い。


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