インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは。お久しぶりです。
にんげんかんけいつかれる……( ´ー`)
視点:山田先生、????、???
字数:約九千
ではどうぞ。
二〇二五年六月二十二日、日曜日。午前八時四十五分。
IS学園第一アリーナ、放送室。
「うー、緊張するなぁ……」
試合中継が開始される前に身支度と食事を終えた後、私は放送室にスタンバイしていた。
ただ、スタンバイしたのはいいものの、緊張で体はガチガチ、喉はカラカラだ。正直試合の司会・解説どころではない気がする。貧乏揺すりのように体が小刻みに震えていた。心臓はもちろんバクバクだ。
昔から自覚しているが直せないでいる”あがり症”の発作だ。
幾度となく居住まいを正していると、隣の席に座る司会・解説の相方となる少年が苦笑を向けてきた。
「昨日もした事でしょう」
「それはそれ、これはこれです。だいたい桐ヶ谷君は落ち着き過ぎなんですよぉ……」
「もう事ここに至った以上”なるようになれ”の心境です」
あはは、と淀んだ目が虚空を向く。
ああ、彼も嫌なんだなこの仕事、と察するのは容易だった。まあこの話が来た当初から一貫している事だから今更ではある。
しかし、昨日の中継の様子からそうと悟らせないのは、やはり相当場慣れしているのだろう。加えて昨夜の会食でも相当神経をすり減らした筈だが、それを悟らせないクソ度胸は見習いたいと思う。それを付ける特訓が命懸けの緊張感と言われた日には流石にお手上げだ。
「どうやったら桐ヶ谷君みたいに冷静になれるんでしょうね……」
「極限まで追い詰められる体験があれば自然と余裕が生まれるかと。あとはもう素直に場数を踏むくらいでしょうね」
「やっぱりそうなるんですね……」
予想はしていたが、予想通りの答えだった。
人生、遠回りが一番の近道らしい。出来る事なら命懸けのギリギリ感は味わいたくない。
――そこまで思考を脱線させたところで、意識を現実に引き戻す。
放送室に備え付けられた時計を見る。二日目のトーナメント開始予定時刻まで、あと十分ほど。あと少しだけ雑談に興じていたいと思い、私は口を開いた。
「――そういえば桐ヶ谷君、ひとつ気になっていたんですが」
少年を見ながら声を掛ける。彼は二日目のプログラムと出場者名簿、また機体の詳細データの資料に目を通していたが、すぐ顔ごとこちらを向いた。
その彼の顔に掛かった機械がよく見えるようになる。右耳から右目の目元に沿って緩く湾曲したそれは、イヤホンマイクの形状に酷似していた。
私はその機械を指さした。
「その耳の機械、何です?」
その質問には、昨日はしてなかったですよね、という疑問も含んでいる。
それを察したらしい少年は、ああ、といま思い出したかのような声を上げ、機械を撫でた。
「コレは《レクト》の試作提供品で、《オーグマー》っていうウェアラブル・マルチデバイスです」
「ウェアラブル・マルチデバイス……」
”ウェアラブル”という単語の意味は直訳で『身に着けて』となる。これは昨今の技術革新によって大幅な進化を遂げた携帯電話、近年でいう『スマートフォン』も該当し得る。スマホはアプリを入れたり、あるいはプログラムを組んでインストールする事で、テキスト文書の編集や画像編集、動画編集・鑑賞、グラフ作成の他、遠隔操作での電子機器操作、電子マネーなど多種多様な用途を持つ。
そして、スマホで行ったそれらを別のデバイス――PCやクレジットカードなど他のデバイス――でも相互間性を持つものを”マルチデバイス”と呼称する。
つまり彼が耳に掛けている《オーグマー》という機器は、形状こそ異なれど機能的にはスマートフォン等の電子機器に近しい機能を持つと言える。
しかし――その形状で、いったい何ができるというのか。
イヤホンマイクの形状がそのまま役割を意味するのであれば、その機能は正しく聴覚に働きかけるものだろう。無線マイクの機能もあるかもしれない。だがそれはワイヤレス機能の技術が生み出されてすぐ民生品のワイヤレスイヤホンが発売されていて、わざわざ《レクト》が試作品を作る程ではないと思う。
「そのオーグマーというのはどんな機能を持つんです?」
「拡張現実、AR機能です。ホログラムとか」
拡張現実。AR――《オーグメンテッド・リアリティ》。
それはVR――《ヴァーチャル・リアリティ》の変種の単語であり、技術の一つ。VRが『リアルな世界を作り出す技術』とすれば、ARは『現実に情報を追加する技術』。人間の視覚・聴覚などが得る”生の五感情報”に、”電子的な情報”を追加したそれは、
彼が耳から掛けているそれは、彼の視覚と聴覚に働き掛け、彼にだけホログラムを見せているのだという。
「ISが世に出てからAR技術はある程度進んだといえど、その恩恵を受けているのはIS関係企業や職種、あるいは上場企業が殆どですからね。それを憂いた重村教授という人が作り出したのがこの《オーグマー》です。《アミュスフィア》の製造、販売、流通を仕切っている《レクト》がコレの生産ラインも確保するべく動いて、俺はそのテスターとして依頼が来たんですよ」
「へー……」
なるほどなぁ、と納得を抱いた。
《レクト》と言えばアミュスフィアの生産を取り仕切っている上に、多くの電化製品の製造、販売も行っている大手電機メーカーだ。その《重村教授》というのがどんな人物か知らないが、民間で使われるようなアイデアの品を企業に売り込むというのは珍しくない。オーグマーもその一つなのだろう。
そこで、ふと気付く。
「……って、まさか昨夜の内に契約をしたんです?」
「はい。会食の時に《レクト》のCEOと親しくなって、その流れで」
「えぇ?!」
アッサリと頷かれ、こっちが驚かされた。一度の会食でピンポイントで親しくなるだけでなく、すぐ契約を受けるほど相手を信頼した彼の行動にも驚いた。
彼はもう少し人間不信のきらいがあると思っていたのだが……
「ほぇー……桐ヶ谷君、意外と社交的だったんですね。てっきり人見知りが激しいとばかり思ってました」
そう所感を告げると、どうしたことか彼はバツが悪そうに視線を反らした。あー……と分かりやすく”悩んでます”の呻きまでセットだ。
「《レクト》のCEOは、知り合いの親だったんです。【閃光】のアスナの父親」
閃光、と言われて少し考え込んだが、それほど苦労せず記憶から該当する人物を掘り起こした。【閃光】と言えばSAO時代のボス戦で陣頭指揮をよく取っていた紅白の騎士装の少女の二つ名だ。
となると、SAOをデスゲームにした真の黒幕《須郷信之》が婚約していたという『レクトCEOの長女』とやらは、その結城アスナ嬢の事か。
「そうだったんですか……なんというか、世間は狭いですね」
「いやまさかこのトーナメントの賓客として《レクト》のCEOが来てるとは……明日奈も来てたし……」
「《レクト》はIS学園に多額の出資をして下さってる
《レクト》はISに直接関わっていないが、出資の他に、機体の調整に使う機材の提供などで取引は少なくない。学園はもちろん、おそらく《倉持技研》を始めとするIS製造企業ともそれなりのパイプがある筈だ。
とはいえ、それも現場で関わっているからこそ把握している事実。
現場にいない人で知っているのは、よっぽどの物好きか、経済や株価の関係で把握している人くらいなものだろう。彼は現場の人間になったから知ったという事だ。
「まぁ、その娘さんが来られたのは初めてかもしれないですが」
「そりゃ去年の末頃までデスゲーム内でしたからね。それにIS学園は今年で創立三年目でしょう? 三年前の明日奈は高校受験の年だったらしいから、来てたかはかなり怪しいですね。進学先をここにしてたなら来てたかもですけど、そんな話は寡聞にして聞いた事ないし……」
「そうなんですか……」
絶大な信頼と信用を得ているだろう彼が知らないとなれば、本当に目指していなかったのかもしれない。もしくは彼の来歴を考えて敢えて伝えなかった可能性もあるが、そこは実際聞かなければわからないことだ。
だからそれ以上話が膨らむ事はなかった。
「それにしても……桐ヶ谷君、そんなに《依頼》を引き受けて、大丈夫なんです?」
そこでふと頭を擡げたのは、彼の仕事量についてだった。
トーナメントの司会・解説役は今だけの仕事だが、それ以外にも彼は複数の《依頼》を引き受けている。菊岡誠二郎から《STL》とVRMMO関係、元帥達からはIS方面の他、どうも自分が担当しているクラスの生徒・更識楯無とも何か契約を結んでいるらしい。ほぼ有名無実とは言え、枳殻七色の監視任務もあるし、彼女との共同研究だって課題としてある。
そもそも彼はまだ十二歳の子供。
既に義務教育課程を終えている七色女史と異なり、れっきとした学生そのものなのだ。生きるためとはいえ、勉学を疎かにする事はもちろん、仕事にかまけて休息をロクに取らず、それで体調を崩しても本末転倒。
学生の本分は勉強だ。
しかし、それ以前に、子供の本分は遊ぶ事だ。
彼には、特に後者が欠けている気がしてならない。休息も削っている現状はおよそ
「苦しかったり、辛かったりしたら、断ってもいいんですよ? 本来なら大人が率先してするべき事なんですから」
言い聞かせるように、優しくそう伝える。
教師歴は少ないが、それでも数年務めてきた経験で、なんとなくわかる事がある。少し後押ししないと自分を許せない子が偶にいるのだ。そうやって自分を追い詰めて、目標を達成できなかった事に自信を失い、学園を去っていく子を何人も見てきたから。
――桐ヶ谷君は、確かに強い子だ。
――でも本当は、とても弱い子なんだ。
彼は異例というか、とても型に当て嵌められない規格外さが目立つけれど、性格はそこまで突拍子も無い訳ではない。誰でも持つ弱さを持っていて、それを曝け出す事が怖くて、弱さを隠そうと必死に自分を鼓舞し、溜め込んでいる弱い子供なのだ。
ただ溜め込んでいる鬱屈とした
その果ての一つが、《ホロウ》という少年だった。
ずっと溜め込んでいた怒りと憎しみをぶつけようと癇癪を起こしていた。規模や目的を度外視すれば、彼の言動は癇癪そのもの。
それを、目の前の少年はずっと我慢し続けている。
その上でしたい事を我慢して、勉学と仕事に勤しみ、自分を殺し続けている。
それを続けていたら、それを看過していたら、壊れてしまうんじゃないかと心配になった。
「――――……そろそろ時間です。集中しましょう」
その懸念は煙に巻かれ、謎のまま話は切り上げられた。
まるで、その話は触れられたくない――そう言わんばかりの態度が、私の心を酷くざわめかせた。
***
日本標準時、二〇二五年六月二十二日、日曜日、午前十一時三十分。
協定世界時、カリフォルニア州サンディエゴ時間《同日、午前五時三十分》
米国カリフォルニア州サンディエゴ市。《グロージェン・ディフェンス・システムズ》本社ビル地下社員個人ルーム。
『――さん、果敢に距離を詰めていきます! 対する――さんは《焔備》の牽制射撃で応じますが、ほとんどが
『弾道予測と加速のタイミング、この二つが勝負の鍵になりそうですね』
1Kルームの薄暗い部屋を照らす光と共に、それなりの音量で二人分の音声が流れてくる。バックにはいくつもの歓声と声援のエコー。画面には二つのISの試合風景が映っており、下部には緑髪の女と白髪金瞳の子供が絶え間なく言葉を発する様子がズームアウトされた状態で映し出されている。
しばらくそれが続き、試合が終わった。
『次の試合に移ります。Aコーナーからは日本代表候補生、更識楯無さん、専用機は【
『対するBコーナーからはギリシャ代表候補生、フォルテ・サファイアさん、専用機は【コールド・ブラッド】です』
女と少年のアナウンスを受け、左右の発着場から二人の少女が飛び出してくる。
片や青色を基調とした鋭利かつ細身の装甲に水を纏わせる三叉槍の青髪、片や白に近い水色を基調に氷を連想させるクリスタルを散りばめた装甲を纏う三つ編みのボサボサ髪。前者が水使いの更識楯無、後者が氷使いのフォルテ・サファイアだ。
『水と氷の勝負、夢がありますねぇ。一見氷を使うフォルテ・サファイアさんに分がありそうですが、桐ヶ谷君はどう思いますか?』
『更識さんの【海神の淑女】は”水を使う”という触れ込みですが、厳密には水分を操作するという機能なので、個体の氷だろうと気体の湿気だろうと水分がある以上は関係ないでしょう。その気になれば氷も作れると思います。しかしそこはサファイアさんも同じだと思うので、機能的にはほぼ互角……手札の切り方、読み合いが勝敗に直結するでしょうね。第三世代兵装の所以たる”イメージ・インターフェイス”は操縦者の発想力がそのまま汎用性に直結する訳ですから』
『なるほど。では、どちらもほぼ同時期に代表候補生に抜擢されていますが、操縦技術に関してはどうでしょう』
『過去の試合の映像を見た限り、更識さんは絡め手上手、サファイアさんは守り上手の印象です。だからと言って攻めか守りのどちらか片方が苦手という訳でないのは代表候補生として専用機を貸与されている事からも明らかです。多少スケールダウンするとは言え、ある意味ではモンド・グロッソの試合に近しい状況と言えると思います』
『つまり?』
緑髪の女が首を傾げて問いかけた。
それに、白髪の少年が口を開く。
『「結果は見てのお楽しみ」というヤツです』
――一言一句、
くつくつと、喉の奥で笑う。
「あァ、和人。ホントお前ぇの言う通りだ」
空恐ろしいほど色白痩躯の子供が映る画面部分を指でなぞる。無機質な電板の感触と熱しか返ってこないが、そんなのは関係ない。そんなものに意味はない。
アイツは言った。モンド・グロッソの、スケールダウンだと。
――そうだ、正にその通りだぜ。
現場にいる観客は学園の生徒と職員、それから各国首脳陣と企業の上層部連中、そして部外者
であれば、彼は分かっている筈だ。
想定していない筈がない。
監視員の一人である更識楯無は生徒、そして代表候補生の立場として勝利し続けなければならない。だから共に居られないのは当然だ。
しかし――少年の近くに、実姉が居ないのは不可解な話だ。
危険だからと監視員を付けられるなら、まずあの解説の席に、監視員に選ばれた者以外を据えるのは土台不自然である。どうやら放送室の外に監視員の少女が居るらしいが、扉が閉じていては、万が一少年が乱心した時に対応できないだろう。安全だから――と言うなら、監視員をすべて外すのが道理と言える。外されていないなら、今の状況はおかしなものなのだ。
なのに、いま適任だろう実姉が居ないのは、おそらく――――
「さァて……一年ぶりに、暴れようじゃねェか」
口の端を吊り上げた俺は、そのままPCの電源を落とし、すぐベッドに向かった。
安物のベッドの枕元には古びた機器――《ナーヴギア》が鎮座している。デスゲーム事件が発覚してから日本政府が主体で回収したものだが、それは人を殺し得る性能を持つことを危険視し、《アミュスフィア》という安全な代替品が発売された経緯があるからだ。人を殺すプログラムを仕込まれていないゲームであれば、《ナーヴギア》も基本は無害なのである。
そして、俺がこれからダイブする先は、ゲームではない。つまり俺の脳をチンするためのプログラムなんて存在しない。
いや――――仮にあったとしても、俺は《ナーヴギア》を使い続けただろう。
《アミュスフィア》には無いバッテリーセルのお陰で処理能力が高いから、という理由もなくはない。しかしそれ以上に、”万が一に死ぬかもしれない”というスリルが、俺に程よい緊張感を与えてくれるのだ。
――俺は、破綻者なのだろう。
SAO時代では生きるため、死なないためと暗躍していた。だが同時に俺は、日本人同士が殺し合うのを見るためなら、ある程度自分の身を危険に晒す事も看過出来る部分がある。
いや、それどころか、アイツと殺し合えるのなら、その末に死ぬ事になっても……
「く、くく……イッツ・ショウ・タァーイム」
ところどころ塗装が剥げた古びたメットを被りながら、あの世界の常套句を口にした。
***
ペラ、と数枚一まとめにホチキス留めされた用紙を捲る。印刷された黒字のフォントを追っていき、記載されている内容を脳の記憶領野へ素早く刻み込む。
この作業をし始めて、早くも十年近い年月が経った。
送られてくる用紙に目を通し、記憶に叩き込み、それの通りに動く。文章にすればそれだけの事だが、『仕事』はそう生易しいものではなかった。命の危機などザラで、それを生き延びるための訓練も命懸けのもの。結果を出せなければトカゲよろしく尻尾切りされて、終わりだ。
文字通り、死に物狂いの十年だった。
「……はぁ。らしくないな」
頭を振り、眉間を揉み解す。
自分をして『らしくない』と自覚できる思考が浮かんだのは、これまでに比べてある程度の余裕が生まれたからだ。訓練のし始めに余裕なんてある訳なく、実戦に出るようになってからも必死だった。
今はその実戦にすらも慣れてしまった。
自分の能力、出来る事、得意な事――所謂『武器』を理解してから、届く仕事内容を見て難易度というものを推し量れるようになった。気を引き締める事に変わりはないが、緊張感の有無が違う。
いま手にしている資料の内容も、決して簡単なものではない。だが、難しいかと問われれば、否と答えられる程度のレベル――――
「ふ、ふ……程度、か。私も、染まったものだな……」
思わず自嘲の笑みが零れた。
この十年、生きるため、仕事だからと言い訳して、どれだけ手を汚してきた事か。犯罪に手を染める事は序の口で、命を奪う事だって多かった。表沙汰になった時、死刑も容易いだろうコトは想像に難くない。まあ国を跨いで行った悪事は何れもその国にとって他国に知られたくない部分と関係しているので、表沙汰になる事は万が一にもあり得ないのであるが……
『――オイ、エム』
――耳障りな
腰かけている椅子の前――仕事用として与えられたデスクの端から、それは聞こえてきた。連絡用にと各員のデスクに据えられた機器だ。電話と違い、強制的に通話が繋がる仕様な辺り、”表”と違ってプライバシーなど気にしない”裏”の気質が垣間見える。
その機器も、伝えるのは音声だけだ。テレビやカメラなどと違って映像までは伝わらない。
きっと映像まで伝わっていれば、通話相手は苛立ちのボルテージを更に上げていたに違いない。
「聞こえている。なんの用だ」
『そろそろ出る時間だから連絡してやったんだよ』
「ふん……別に頼んでいないが」
ぶっきらぼうに返せば、機器の向こうの相手がケッ、と口汚く吐き捨てた。
『オレだってしたくなかったよ。スコールがしろって言ってきたからしただけだ。じゃあな、遅れたら承知しねぇぞ』
そうして一方的に通話が切られる。
「……まったく。いったい、私の何が気に入らないんだか」
自分も、人好きされる態度や性格ではないと自覚している。無自覚の内に相手に不快感を与える事も当然あるだろう。だから敵意を向けられたり、一方的に嫌われたりしても、そこまで気にしないようにしている。
しかし理由がわからないと気にはなる。
往々にして問い質しても教えてくれないのだが……
――今は、どうでもいい。
通話相手が言っていた『時間』まで、残り三十分を切った。いい加減着替えを始めなければまたイヤミの一つや二つ言われ、今後延々と同じ事を言われ続ける苦行が増える。実害はないが、好き好んでそれを体験したいとも思わないため、私も動く事にした。
『仕事』について記載された紙を、デスク横のシュレッダーで紙屑へと変える。
クローゼットに入れておいたものに着替え、既に準備していたトランク類を持った自分は、デスクに近付く。
手を伸ばし、デスク端に立てかけていた写真立てを手に取った。
「因果なものだな」
日焼けし、少し変色した写真を見て、所感を漏らす。
「もう少しで会えるというのに、私は、素直に嬉しいと思えない……」
会いたいと、思っていた。けれど会えなかった。
これから会えると分かっている。でも、会いたいと思っていない。
気持ちが無くなったわけではない。心変わりしたわけでも、当然ない。どちらもあって、どちらも拒絶しているのだ。矛盾と葛藤が私の心を苛んでいた。
だが――私は、組織、抗えない。
抗った瞬間、体内に仕込まれた監視用ナノマシンが作動し、内側から私を殺すのだ。だから組織の意向、命令には服従しか出来ない。
生きるためには、奴隷になっていなければならないのだ。
そのために、自分が生きるために、私は……
「すまない……
肉親も、手に掛ける――――
【任務指令】
・内容
優先順位に従って下記に記す
1)ゴーレム試作Ⅰ型の護衛
2)織斑一夏の引き抜き、あるいは誘拐
3)各国首脳陣、企業上層部の殺害
4)織斑千冬の殺害、および【暮桜】の強奪
5)IS学園配備コアの強奪、あるいは破壊
6)各国候補生の専用機強奪、あるいはコアの破壊、および操縦者の殺害
――以上。
尚、ゴーレム試作Ⅰ型が破壊された時点で作戦を終了、順次帰投すること。
・作戦日時
日本標準時:2025.6.22.Sun 12:00:00~14:00:00
・投入メンバー
1)スコール・ミューゼル/【
2)オータム/【アラクネ】
3)織斑
・協力機関
1)グロージェン・ディフェンス・システムズ(Ally)
・一人のみ参加
・侵入経路:空路(メンバー同伴)
・ゴーレム試作Ⅰ型遠隔操作戦闘データ採集の協力
・使用機体:ゴーレム試作Ⅰ型(近・中距離型)
・ISコア・ネオ・ネットワーク経由で遠隔操作するため、各員最低一名は近場で待機すべし
2)女性利権団体残党(Not Ally)
・推定五十人前後
・侵入経路:陸路、海路
・所有武装:ハンドガン、アサルトライフル
・所有IS:【打鉄】、【ラファール・リヴァイブ】
・場の攪乱
・敵対した場合は殺害、殲滅を許可する
3)IS被害者の会過激派(Not Ally)
・推定二百人
・侵入経路:海路
・所有武装:アサルトライフル、スナイパーライフル
・所有兵器:大型潜水艇(詳細不明)
・場の攪乱
・敵対した場合は殺害、殲滅を許可する
4)
・推定三十人
・オペレート、ハッキングなどの支援メイン
・オーグマー
SAO劇場版《オーディナル・スケール》にて登場したAR機器。
ウェアラブル・マルチデバイスの一つ。これ一つで電子決算、地図検索、カロリー計算、ゲームなど様々な事が出来るとされる。劇場版ではAR版ゲーム《オーディナル・スケール》をプレイするために必要。
映画では不明だが、本作ではオーグマーの生産、販売を《レクト》が請け負う設定になった。その過程で明日奈と交流があり、VR関係の著名人・和人にデータ収集の依頼が舞い込み、引き受けたことで和人がコレを入手する。
・重村教授
茅場晶彦、須郷信之、比嘉タケル、神代凛子などVR技術に於ける著名人らが所属した研究室、大学の教授。この四人は重村ラボ出身。
映画では娘がSAOで死亡したため、SAOプレイヤーの記憶の断片をより集め、『他者が持つ《Yuna》のイメージ』で蘇生を試みていた。そんな大出力スキャニングを行えばみんな死ぬためキリト達により阻止される。
その時に立ちはだかったボスが本作SAO第百層裏ボスの女巨人。
要するに映画での悲運の悪役。
後日なんらかの形で色々補完されたらしいが、私は知らん(泣)
重村ユナが『他プレイヤーと同じ死亡』か『植物状態』かで映画について展開されるか決まるが、どっちにしろ和人の記憶が取られた時点で重村教授の悲願は成就してしまったりする()
・山田麻耶
生徒思いな教師。
ISにおける良心と言っても過言ではない。原作でも一夏達が無茶をする時、真っ先に心配するくらい生徒の事を特別扱いしていない。
なので和人に対しても、凄いとは思いつつ、それでも子供だからと捉えている。
捉え方の是非はともかく、本作に於いて『和人を純粋に子ども扱いする』稀有な人物であるのは確かである。
・ヴァサゴ・カルザス
破綻者。
生きたい、死にたくないと思いつつ、同時に命懸けのギリギリを愉しみたいとも思っている。和人と殺し合った末に死ぬなら悔いはないとすら言う。
もっと突き抜けたら更木剣八になるかもしれない()
・織斑円華
コードネーム:エム
一夏/和人のもう一人の実の姉。
秋十(高校一年)の一つ上のため、現在満十七歳。
一夏/和人が二歳の時に両親から捨てられた=マドカは連れ去られたため、彼女は”裏”の組織に所属して今年で十年になる。
SAO編《骨肉の争い》における千冬視点で、幼い一夏/和人の面倒を見ていたのはマドカだと明かされている。マドカも和人の事は大切にしていたが、組織に反抗的だったがためにナノマシンを注入され、死にたくなくて従っている。
よって和人に手を出す事を後ろめたく思っている。
なお姉に対してはガンスルーしている辺りお察し()である