インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。

視点:桐ヶ谷和人、山田先生、織斑秋十(初!)

字数:約八千

 ではどうぞ。




再演 ~骨肉の闘争・後編~

 

 

 空を翔ける。

 視界/脳裏を黒と灰が飛び交う。

 軌跡が交わる度に火花が散る。

 剣音が響いて、鎬を削る。

 

「おらぁッ!」

「――!」

 

 鈍色の刃が振り下ろされる。握る黒刀を翳し、受け止める。衝撃に抗うのではなく、それに乗るように後退する。壁に沿うよう横に慣性を働かせ続ける。

 

「ちょこまかと――!」

 

 苛立ちの声が耳朶を打つ。

 後退するこちらに追い縋り、未だ()もなき鋼の大刀が振るわれる。機械的な拵えと刀身のそれは頑丈かつ重厚だ。敵機のパワーも相俟って受け止める腕に振動が伝わる。

 だが――痺れは、ない。

 防ぐ。捌く。往なす。躱す。連続でただただ繰り返す。

 極力攻撃はしない。反撃もしない。出来ないのではない。

 今はただ、時間稼ぎが目的だ。

 

「お前、やる気あんのか?!」

 

 怒号が上がる。相当苛立っているようだ。

 気持ちは分からないでもない。競技場アリーナの観客席は無人だが、これが通常の試合であれば、のらりくらりと防ぐだけの俺にはブーイングの嵐だろう。それを得意としている専用機持ちも居ないではないが、俺に持たれているイメージではないため関係ない。

 だからと言って、共感するつもりはない。

 

最適化(フィッティング)も済んでいない状態のお前が人に『やる気』どうこう言える立場かよ」

 

 そこで、アリーナの壁に着地する。そのまま思考だけでPICを制御。斜め後方に働かせていた慣性を前方に切り替え、着地時の反動を増幅させる。

 折り曲げた膝を、勢いよく伸ばす。

 真っ向から相手と刃を交わす。慣性の衝突が刃を介し、両腕に伝わった。【白式】の重量も含んだそれは、【黒椿】のアシストでどうにか耐え切り、拮抗に持ち込み、抑え込む。

 

 年上の男の顔が眼前に広がる。

 

 黒髪、黒目。余分な肉がない端正な顔立ち。人受けはするだろう面貌。

 目つきは織斑千冬を思わせる鋭さを滲ませている。戦意と敵意を宿した瞳はギラリと暴力的な光が宿っているが、そこに嘲弄が混じっているせいで、純度が落ちている。

 口元は歪んでいる。昂揚と、苛立ちか。やはり嘲弄が見え隠れしているが、おそらく本質を知っているが故の受け取り方だろう。

 そう、ハイパーセンサーはイヤというほど仔細に情報を伝えてきた。

 

 

 

 瞬間、頭蓋の奥で蠢くなにか。

 

 

 

「ちっ……!」

 

 よくないモノだと理解している俺は、相手の力を往なし、距離を取った。未だセンサーが捉えてはいるが、物理的に距離を取ったからか蠢きはすぐに和らぐ。

 だが、未だ蟠っている。

 

 ――この戦いで一つ、どうしようもない問題があった。

 

 それは、俺の復讐心――廃棄孔としての衝動だ。

 様々な制約を自らに課し、剣一本で戦う秋十と条件を揃えたのは、世間に俺と秋十の相対的な評価を克明にするため。純粋な剣の技量でどちらが上かハッキリさせるために出来る限り差を排除した。

 無論それは互いに同じ機体――たとえば【打鉄】など――を使った方がより確実だろうが、今回は専用機のお披露目も兼ねているから無理な話だった。だが、仮に訓練機を使ったとしても、復讐衝動ばかりは避け得ない問題である。

 もしその衝動に理性が負ければ、俺は【無銘】の力も使い、秋十を殺すだろう。

 それを――決して、現実のものにしてはならない。

 だからと言って、それだけで押し留められるほど生半可な負でもない。確かに廃棄孔と戦い、超克はした。だがアレは現在進行形のものまで呑み下せるという証左にならない。あの戦いは過去を顧みた上で、未来を定めた戦いである。

 これは、現在の戦いだ。

 憎んでいる敵と対峙した時、俺は衝動に抗い続けなければならない。

 最大の敵は自分自身だった。

 

 ――早く、最適化を終えろ……!

 

 電光掲示板に表示された経過時間は十分ほど。最適化をISに任せている場合は最長三十分を要するため、長ければあと二十分掛かる。

 幸い制限時間は一時間もある。

 肉体的な制限時間も数時間まで延長出来ているから問題になり得ない。

 だが、衝動は時間を追うごとに強くなっている。

 

 ――憎い。

 

 ――殺せ。

 

 ――喉笛を掻き切れ。

 

 ――四肢を引き裂け。

 

 ――心臓を抉り出せ。

 

 ――頭蓋を踏み砕け。

 

 

 

 ――――ヤツを殺せッ!!!!!!

 

 

 

 一際強く、大きく、衝動の声が強く響いた。

 目元に熱を帯びる。おそらく、バイザーで隠れている双眸はまた変化している。おそらくは防衛本能が働いている。しかし視覚野に直接情報を叩き込むハイパーセンサーがある限り、視覚情報を遮断する事は不可能だ。だからと言ってバイザーを外せばISの速度に反応し切れない可能性がある。

 敗北は、死に直結する。

 ここで負けてもすぐモルモットになる訳ではない。だが――政府の支援を受けられなくなれば、未来は遠のく。

 

「ガラ空きだぜっ!」

「――」

 

 意識の(かん)(げき)を突かれる。翼から盛大に炎を吹かし、鈍色の機体が飛んでくる。

 刃が振るわれる。

 黒刀を翳し、受け流した。

 

      ***

 

「わぁ……凄いですねぇ、織斑くん。ISの操縦もまだ二回目なのにあんなに動けてます」

 

 競技場管制室のリアルタイムモニターで試合を見ていた私は、素直に感心した。

 織斑秋十は、桐ヶ谷和人がISを動かした事が世界に広まったその日の内に、予め備えていた日本政府により身柄を保護されていた。それからISの適性検査を受け、起動出来ると判明してからは機動訓練をしたものの、時間や場所、警備の都合で一度しか出来ていない。

 一度きりの訓練で、彼は基本的な歩行、飛行動作は出来ていた。

 ISは操縦者のイメージを読み取り、その通りに動くよう調整されているため、ALOでの飛行や戦闘経験が活きているのだろうとは和人から聞いている。

 それでも、一般的に何度も訓練を繰り返してブレのない飛行が出来るようになるのに、彼は二度目の搭乗でそれを行い、更には戦闘までこなしている。

 《神童》という呼び名は伊達ではないのだろう。

 

「……山田先生には、どっちが優勢に見えますか?」

 

 観戦していると、一緒にモニターを眺めていたIS学園生徒会長の少女が聞いてきた。

 

「桐ヶ谷君ですね」

「なぜ?」

「だって彼は瞬時加速(イグニッション・ブースト)()使ってませんから」

 

 思い浮かぶのは、初めて操縦するという【打鉄】を以て、個別連装瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を使った少年の姿だ。世界でも片手で数えられるくらい使い手の少ない超高等技術はさすがにインパクトが強かった。

 そんな技術を使えるのなら、単発の瞬時加速くらいは使えて当然。

 ……まぁ、【黒椿】の下のスペックが高すぎるせいで、瞬時加速を使うと壁に激突してしまうリスクがあるため使用を控えている可能性もあるのだが。

 聞くところによれば【黒椿】は通常加速の平均値が、第二、第三世代機の瞬時加速と同等という話だったか。

 どのみち瞬時加速相当のスピードを彼が見せていない時点で余力がある事は明確だ。

 ――なぜ、余力を残しているのか。

 さっきから碌に反撃もせず、回避と往なしで防御行動を続けている。彼の機体性能と実力であればISは素人な青年をすぐ下せるはず。そうしないという事は、何かを狙っているのだ。

 

「時間稼ぎ、ですね」

 

 楯無がぱんっ、と扇子を開いた。『時間稼ぎ』と達筆な筆文字で書かれている。横目でそれを見た後、彼女の視線を追う。

 視線の先には、両機のパラメータが表示されたモニターがあった。

 【黒椿】、【白式】、その両方がSE残量100%。展開中の武器も剣一本。

 【黒椿】には単一仕様能力の項目で『未使用』と表記されている。

 そして、【白式】には状態の項目で『最適化中』の表記がある。

 彼はコア・ネットワークを介し、敵機の情報を読み取り、模倣する事が出来る。衛星放送には回していないその情報を彼は読み取ったのだろう。だから時間稼ぎをしている。実の兄を真っ向から全力で下すために、【白式】が一次移行するのを待っている。SEをまったく削っていないのは万全な状態で仕切り直すためか。相手に攻撃しないだけでなく、被弾もゼロに抑えようとし、事実今はノーダメージで通せている彼の技量には舌を巻く。

 

『付いて来れるかぁっ?!』

 

 だが――技量が高いのは、秋十もだった。

 彼が右手で持つ鈍色の大刀が(けぶ)る。高性能のカメラでも捉えきれない速さ。まるで刃が分身したかのように、一息の内に二度、四度と振るわれ始めた。

 

『舐めんな――――ッ!』

 

 その剣戟に、黒は応じた。

 陽光を反射する斬閃が立て続けに生じる。アリーナの空のそこかしこを飛び交いながら灰と黒が交錯し、火花が散る。

 それでも、どちらもSEに減りはない。

 【白式】の攻撃が通っていない。全撃、捌かれている。

 【黒椿】の攻撃はない。時間を稼ぐことに徹している。

 そんな応酬が幾重と交わされ――

 

『ちっ……』

 

 唐突に、終わった。

 二人の距離が開く。開けたのは当然、秋十の方だ。数十秒もの息もつかぬ猛攻の代償として呼吸が速い。酸素供給が追い付いていない。

 ――彼と戦った経緯は聞いていた。

 一瞬で八回攻撃できる反応速度。それは途轍もないアドバンテージだろうが、現実世界では不可能に近い。肉体が、骨が、関節が、その速度を保てない。現実の体には『疲労』というものが存在するからだ。どれだけ脳から信号を発しても、体を動かす筋肉が疲れきっていては動く筈がない。

 そして、筋肉を動かすのに必要なのは酸素である。

 秋十の筋持久力は既に限界に近い。ISの操縦者保護機能により生身より回復は速いだろうが、もはや万全とは言い難いだろう。

 対して、同じ速度で黒刀を振るっていた和人の方は、まだ余裕がありそうな佇まいだ。正眼に構えられた刀身に震えはない。

 

『――ここまでだな』

 

 (くう)に立つ少年が、静かに口火を切った。

 

『はっ……はっ……なにが、だよ……!』

『その機体が一次移行するまでもう少し時間を稼ぐつもりだった。お互い一次(ファースト)形態(・フォーム)同士で戦った方がいいと思ったが、その様子だと形態移行したところで大して変わらないだろう』

『なっ……』

 

 涼しい表情で和人が言う。

 秋十は愕然の表情を浮かべ、次いで怒りのそれになった。

 

『SAOで一度勝ったからって舐めんな! アレは奇跡だ、そう何度も奇跡は起きねぇよ!』

『……そうか』

 

 青年の怒りの声に、少年は小さく嘆息した。

 ――直後、幾つかの事象が立て続けに起こった。

 まず、少年の姿が煙った。その場から掻き消えるようにいなくなったと思えば、次は甲高い音が響き渡る。その後、青年の背後に少年が現れる。

 

『……あ?』

 

 ハイパーセンサーでも捉えきれなかったのか、あるいは呼吸苦で脳の反応が遅れたのか、秋十が反応を示したのは数秒の間を置いた後の事。すぐに振り返って大刀を正眼に構える。

 そこで、異変に気付く。

 

 大刀の刀身が半ばから先が無かった。

 

『は……な、ん――?!』

 

 驚きに唖然とする秋十の目が、無銘の大刀と少年とを行き来する。そこで私は少年の左手に無くなっていた大刀の刀身が収まっている事に気付いた。

 あの一瞬で彼は距離を詰め、斬鉄で大刀を叩き折り、折れた刀身を手に背後に回ったのだ。

 ――なんて速度……

 他を凌駕する、とは聞いていた。だがせいぜい数割増しとか、持っても二倍程度だろうと思っていたが――今のは、そんなものではない。カメラにも映らなかったから、瞬時加速だとしても現行機の十倍以上の速度を叩き出した筈だ。

 【無銘】も設計思想からおかしかったが、天災謹製なだけあり【黒椿】も同等の常軌の逸し方だ。

 一番逸脱しているのは、双方を使いこなす少年だろうが。

 

『――奇跡は一度と言ったな』

 

 折れた刀身を放り捨てた少年が口を開いた。

 カメラ越しで、目も見えないというのに、どこか威圧感を覚えるその姿。私は世界最強の影を見た。

 ――少年の姿がまた煙った。

 直後、轟音。

 発生源は地面。空に浮いていた鈍色の機体が、アリーナの地面に叩き付けられていた。速度も相俟って途方もない衝撃だったようで、マックスだったSEがみるみる減少していく。

 半分の300を下回り、200、100を切り――――

 

 そして、0になる。

 

 

 

『じゃあ、二度目はなんだ』

 

 

 

 一瞬で、決着が着いた。

 

      ***

 

 ――嘘だろ。

 

 ――なんだよ、これ。

 

 ――どうなってるんだ、いったい。

 

 思考が()()に乱れる。理解が追い付かない。

 許容し難い現状が理解できない。

 現実で自分が出せる最速の四連撃を往なされた事はまだ分かる。あっちもISを使ってるんだ。身体能力の差はISのパワーアシストが埋めてくれる。それにアイツは、()()()()()()()()()()()()《二刀流》を習得する反応速度の持ち主だ。こっちの剣に合わせる事くらい訳ないはずだ。

 だが――だが。

 

 今のはおかしいだろう。

 

 ハイパーセンサーは使っていた。光速は流石に無理だが、音速程度なら普通に見える性能だ。そうでなければISを用いた試合なんて成立しない。

 その上で、俺の反応速度があっても見えなかった。

 気付けば地面に叩き付けられていた。シールドバリアーを貫通し、機体そのものに大ダメージを与えられた事を突き付けられる。絶対防御も発動し、SEは完全に底を尽いた。

 

 ――俺は、負けたのか……?

 

 ――一夏(アイツ)に……?

 

 鈍い思考で応えに行きつく。途端、奥歯を食いしばり、手をキツく握りしめても尚冷めやらぬ怒りが湧いてきた。

 

 ――そんな事、あってはならない。

 

 ――アイツは《出来損ない》だ。

 

 

 

 ――【白式】を手に入れた()()()が負けるなんて、あってはならない――――!

 

 

 

 一瞬で頭に血が上る。

 感情が猛り狂う。

 全身に力が入る。

 ――その時、眼前に一枚のウィンドウが表示された。

 

【フォーマット及びフィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください。】

 

 同時、そんな声と共に、意識に直接データが送られてくる。

 

「――ハハッ」

 

 笑いが込みあがってきた。

 まだツキに見放された訳ではないようだと考えながら、ためらわず『確認』と書かれたボタンをタップ。すると更なる膨大なデータが流れ込み、整理されていく。

 刹那、【白式】が高周波めいた音を上げ、光の粒子に弾けて消えた。間を置かず、再度形を成して体を包む。

 PICで浮いた俺は全身を3Dモデルで確認した。

 新しく形成されたIS装甲は鈍色から純白を基調に青いラインを走らせたものに模様替えしていた。形状も、さっきのものよりスラスターウィングが大きくなり、より洗練されたものへと変化している。他の装甲も最初の工業的な凹凸は消え、滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的な、どこか中世の鎧を思わせるデザインへと変わっている。地面に叩きつけられた時に出来た傷や汚れも真っ新になり、削られたSEも全回復している。

 なにより変わったのは、手に持つ武器だ。

 ――近接特化ブレード・【雪片(ゆきひら)()(がた)】。

 半ばで折られた大刀から打って変わり、こちらも白を基調とした刀身だ。鎬に僅かに溝があり、そこから呼応するように光が漏れ出ている。機械的なそれは間違いなくIS装備として作られた武器である証明だ。

 【雪片】の銘も実の姉が振るっている専用IS唯一の装備。それの後継品という意味で、弐型。

 当然と言うべきか、機体の情報に目を向ければ、武器を使って発動する単一仕様能力もしっかり発現している。

 

「いいね、最っ高のタイミングじゃねぇか! 【白式】最高だぜ!」

 

 ――これで、【白式】は正真正銘、俺のものだ。

 

「……それが、【白式】の一次形態か」

 

 ヤツは俺を見下ろしていたが、徐々に高度を下げ、地面に足を着いた。

 

「そうだ! そして、ここから先は――俺のターンだッ!」

 

 右手で弐型の柄を握り締める。応えるように低い機械音の唸りが上がる。出力が上がり、エネルギーがその密度を上げていく。

 すると刀身が左右に分かれ、中央の空間を青白いエネルギーが埋め尽くす。エネルギーの刀身だ。

 これなら刀身を折られてしまう心配もない。しかもこの刃には実体がないから物理的な防御も出来ない。理由は知らないが、ヤツは黒刀しか使ってない今は好都合。

 さっきみたいに防御しようとすれば、その上から食い破ってやる――!

 

「いきなり随分強気な発現だな。さっきの速度に付いて来れてなかったように見えるが」

「ハッ! そりゃこっちは形態移行がまだだったからな! だがもう通用しねぇ、同じ奇跡は二度起きねぇ! 俺と【白式】なら――お前を、倒せる! 行くぜ!!!」

 

 俺の意思に応え、【白式】の巨大なウィングから炎が噴き出す。初期状態の時と比べて雲泥の加速で空を翔ける。

 同時、ヤツも距離を詰めてきた。

 弐型を振るう。

 

 非実体の刃は、青白い軌跡を虚空に刻んだ。

 

 躱された――そうと認識した時、掛かったとほくそ笑む。

 その場でくるりと回る。

 

「そうだよな。お前なら、俺の背後を取るだろうさ」

 

 思った通り、ヤツは背後に回っていた。

 七十五層の時も、そしてさっきも、俺に奇襲を仕掛ける時は決まって背後からだった。しかもその時だけ矢鱈スピードが跳ね上がる。

 それを逆手に取ったのだ。

 

「お前を斬るぜ――――」

 

 弐型が強く光を放ち、一回り大きいエネルギー状の刃を形成した。

 

 【《■■■■》を使用可能。エネルギー転換率九〇%オーバー】

 

 その情報を、俺は聞くのではなく、理解していた。世界自体を把握できるようなクリアーな五感と、集中力が数十倍にも跳ね上がったような高解像度の意識。

 そしてなにより、全身から沸き立つような力を感じた。

 

 ――頼むぜ、【白式】! 俺に応えろ!

 

 意思に呼応し、弐型から放たれる光が更に強くなり、靄のように吹き上がる。

 

 

 

(げつ)()(てん)(しょう)ッ!!!」

 

 

 

 そう叫び、眼前に立つヤツ目掛けて振り下ろした。

 弐型の刃の切っ先から青白いエネルギーが放出される。それは三日月型をしていて、大地を抉りながら突き進んだ。

 ――《月牙天衝》の性質は《零落白夜》と同一だ。

 使えばSEを消費する。だがシールドバリアーを無効化し、強制的に絶対防御を発生させるため相手のSEを大幅に削ぐ。それが《零落白夜》の能力だ。

 《月牙天衝》はその性質を受け継ぎつつ、刃先から高密度のエネルギーを飛ばし、斬撃そのものを巨大化させる事で、リーチの短さと範囲の狭さという本家の難点を解消した単一仕様能力になる。高密度故に生半可な装甲は切り裂くし、エネルギー防御は論外なのが《零落白夜》を更に発展させた能力だ。

 これを受ければ、たとえ世界最強だろうとタダでは済まないだろう。

 しかしまともにやり合うつもりはないのか、ヤツは横に跳んで躱した。

 

「甘ぇよ!」

 

 その頭上に高速で移動し、再度《月牙天衝》を放った。SEが僅かに削れる。

 地面に衝突した青白い斬撃は波濤となって地面を流れ、暫くそこに留まった。それを避けるようにヤツが空に留まる。

 

「そこだ! 月牙――天衝!!!」

 

 三度、月牙を放つ。一際大きな斬撃が飛んだ。

 

 

 

「――――はっ」

 

 

 

 それは、ヤツが一笑しながら軽く振った手で、弾き飛ばされてしまった。

 

「なん、だと……」

 

 バリア無効化能力の斬撃を、どうやって。いくら籠手をしているからと言っても、高密度のエネルギーは容易にISの装甲なら大半は斬れる筈なのに、なぜ。

 疑問が一気に噴き出す。

 終始『どうやって』と思考が回る。

 ――そんな隙を、ヤツが逃す筈もない。

 わざとなのか、ギリギリ見えるが逃げられない速度で距離を詰めてきた。黒刀が振り下ろされる。慌てて刀身を戻しながら弐型を翳し、刃を止める。ぎゃぁん、と甲高い金属音を上げ、火花が散った。

 (せめ)ぐ二刀。

 

 

 

 徐に、ヤツが黒刀に左手を翳した。

 

 

 

「――()(げつ)(せん)

 

 

 

「な、ん――――?!」

 

 黒刀の刃が漆黒に輝き、闇が世界を引き裂いた。

 

 その後、ブザーが木霊した。

 

 






 ちょっと秋十の勝ち目無さすぎんよ~。
 やっぱ出来レースなだけあったね()


・《月牙天衝》
 高密度のエネルギーを切っ先から放出し、斬撃を巨大化して飛ばす能力。
 要は飛ぶ《零落白夜》。
 生半可な装甲は切り裂くしエネルギー防御なんて論外だが、逆に言えば『生半可じゃない装甲』であれば防御は可能。【黒椿】の装甲はIS装着束をしてかすり傷をなんとか付けられるレベルの硬さだからコレを弾けた。
 つまり和人にはほぼ意味を為さない。


・虚月閃
 学園襲撃事件の際、《亡国機業》の三人を吹っ飛ばしていた黒い波濤。
 高密度のエネルギーを切っ先から放出し、斬撃を巨大化する能力。要は黒い《月牙天衝》。
 使用にあたって【無銘】を使わなければならず、それは和人視点の『黒刀以外使わない』という制約に反するが――その前提は、秋十が単一仕様能力を使えない事(一次形態でワンオフ発現は異例のため) それが崩れて《月牙天衝》を使い始めたので、『自分の方が上手いし強いぞ』と言外のマウントを取るべく使った。
 あくまで『()()の条件』だからネ(卑劣)


Q:なんで和人は最初から叩き潰さなかったの?
A:条件を対等にするべく時間稼ぎに徹していたためです。息切れしてからは諦めて即潰しましたが。


Q:もっと和人は無双出来たんじゃないの?
A:自身に制約を課していた事と衝動を抑えるのに必死だったのです。なお、それくらいでも秋十をほぼ完封出来ている模様。


Q:なんで【白式】のワンオフが《月牙天衝》?
A:原作【白式】は【白騎士】=【暮桜】のコアを使ってた事、束の手が加えられて意図的に《零落白夜》が発現しました。しかし本作では【暮桜】は現役、束も手を加えないので、別のものが発現する要因があります。
 それでも原作より発展した能力なのは、《零落白夜》の弱点を把握し、それを【白式】が読み取ったからです。
 ――何故弱点を把握していたかは、ヒミツ()


・桐ヶ谷和人
 最大の敵は自分自身(哲学)
 復讐衝動に抗いつつ最後までノーダメージで秋十を下した。相対的に秋十の実力は和人にとって片手間レベルという事になる。試合中口数が少なめだったのはそれどころじゃなかったから。
 束が本気出し過ぎて【黒椿】の性能がエラい事になっている。


・織斑秋十
 覚醒ヒャッハーから即潰された男。
 どこぞの『鎖結と魄睡をやられる直前の死神代行』と『ボス格すまぬ』の要素で前振りしつつ盛大にやり返された。機体性能の差もあるけど純粋に詰めが甘い(辛辣)
 敵の前で呆けてるとか脳みそユルいって言われても仕方ないぜ?(by白一護)
 そのせいで敗北してるけど出来レースだからね、しょうがないネ。


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