インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 サブタイで誰の事か分かるお話。

※メタ発言多めなので注意

※設定的に差別と捉えられる表現がありますが、決して特定個人を誹謗中傷する意図で書いた訳ではありません。ご了承ください。

字数:約八千

 ではどうぞ。




幕間之物語:実兄編 ~堕チタ(ニン)(ゲン)

 

 

 厚さ一センチにも満たないCDケースを開く。

 ディスクをデッキに入れ、読み込ませると、液晶が映像を再生させ始めた。金属的な光沢のあるタイトル、海原や空を舞う躍動的なオープニングを経て、本編が始まる。

 シリーズ物の最初を飾った第一話は、一人の少年が多数の少女達からじっと見つめられているシーンから始まった。その後、緑髪の教師が挨拶をする。

 幾度も見返したアニメ故に、脳裏にはこれから先の展開が鮮明に思い起こされる。教師の挨拶の後は、自己紹介の順番が回ってきた主人公が慌てふためき、失笑を貰い、更に無難な挨拶で締め括る。そこで『これで終わりじゃないよね?』的な空気と視線を受けて冷や汗を流す主人公が、過去の回想を始め、ストーリーの根幹が語られる――という内容だ。

 幾度となく目を通した作品故に、どの辺りでどのキャラクターがどんなセリフを口にするか、この設定はこうだったというのも、ほぼ思い出せるくらい見返していた。残念ながら二期で終わっており、それ以降の原作文庫は読む気が無かったのでどう完結したかは知らないが、二次界隈が豊富なので特に気にしなかった。

 

 

 

 それだけ嵌った作品の名は――――【インフィニット・ストラトス】

 

 

 

    *

 

 

 

 ぶぅんと低い音が液晶から上がっている。

 いくつかのボタンを押し、機器を起動すると、うぃぃぃんと冷却器のファンが回り始めた。予め入れていたディスクを読み込む音が耳朶を打つ。

 液晶に色が灯る。

 入力を求める表示。手元のコントローラーを操作すると、主人公の声と共にゲームスタート。

 白色の背景の中心で、奥から手前へと様々な色の棒線が走って見切れる。続いて青の円が一つ、二つと増えていき、最後は縦に並んだ五つの円が緑へと変色し、左右へと走り去る。それぞれには『触覚(Touch)』『視覚(Sight)』『味覚(Taste)』『聴覚(Hearing)』『嗅覚(Smell)』のローマ字フォントが書かれていた。

 続けて『言語(Language)』の選択肢。間を置かず『日本語(Japanese)』が選択される。

 その後、『Log in』の横にアカウントとパスワードを入力するウィンドウが表示される。それらは自動で入力されていくが、全て『*』で埋め尽くされている。

 そして、最後。キャラクター登録画面にて、確認事項のウィンドウが表示された。

 

『βテスト時に登録したデータが残っていますが、使用しますか?』

 

 その文面の下部には、登録されているデータのアバターネームがタブとして明滅していた。それがクリック音と共に一際強く明滅し、画面は暗転。

 そしてタイトルロゴが現れ、ゲームの中のゲームもスタートした。

 

 

 

 その作中作の名は――――【ソードアート・オンライン】

 

 

 

    *

 

 どれだけ時間が経ったのか。文庫を手にしていた時は日が昇って間もなかったというのに、気付けば日は傾き、夜が訪れようとしていた。そう気付くと、ぐぅ、と腹の虫が鳴り、空腹感を今更ながらに自覚する。

 なにか口にするべく立ち上がる。

 何時間も座っていた影響だろう。尻は痛く、腰もガチガチに固まっていて、立ち上がる時には膝が鳴っていた。長時間同じ姿勢だった事と長年の運動不足が原因だ。

 運動しなければな、と行いもしない健康への懸念を思案しながら、戸棚に詰め込んでいるインスタントラーメンを取り出す。食事を全て通販で取り寄せていく中で行きついたそれは栄養面的に悪いと分かってはいたが、作る手間や後片付けの手軽さを優先してしまっていた。

 ポッドからお湯を注ぎ、これまた通販で購入した割り箸を用意し、再びテレビ画面の前に座る。

 そこで、こんこん、とノック音。

 

『――兄さん、話がある』

 

 部屋の外から声がした。

 血の繋がった弟の声だ。それは確かに自分の聴覚を刺激したが、敢えて無視し、コントローラーを握る。

 だが弟はこちらにお構いなしに扉越しに話しかけてくる。その語調は強く、こちらを詰るに近い。

 

『うるせぇよ! いま忙しいんだ、話しかけんな!』

 

 強く怒鳴る。それであちらも怒鳴り声を上げてくるが、扉は内側からロックしているのでこちらに来ようにも来れない。ドンドンと叩く振動は苛立たしいが無視してイヤホンジャックを耳に嵌める。

 床を震わせる音は暫くして無くなった。

 やっと行ったかと、腹立ち紛れに息を吐く。

 そこで鼻孔を擽る匂いに気付く。見ればお湯を入れたインスタントラーメンはとっくに出来上がりの時間を過ぎ、伸び始めていた。

 せっかくのメシが心情的にも品質的にもマズくなった事に、また苛立ちの息を吐いた。

 

    *

 

 人生をやり直したいと慢性的に考えていた。

 常に抱いていたそれがふと頭を擡げる感覚。考えないよう娯楽に逃避していたが、現実と僅かに向き合った時に、その思考が()ぎっていた。

 それがまた惨めで、イヤになった。叶う訳が無いと空しくもなった。

 その苛立ちと諦観がイヤで、また娯楽へと逃避する毎日。

 

 ――そうなったキッカケは忘れられない。

 

 四年制大学に通ってからの就活の時、不景気による就職氷河期に直面し、自分はあらゆる企業の面接を受けては不採用のお祈り文書を返される日々を送り、心身共に疲弊していった。内定を貰えないまま大学を卒業し、実家に帰ってからも面接を受け続けた結果、足を運んだ企業数は三桁に上った。

 その分だけ履歴書を書いたし、その分だけスーツに袖を通した。

 しかし、ただの一度もその努力が実る事は無かった。

 自身には売り出せる特徴が無かった。履歴書に書ける資格の欄は白紙。卒業した学校はそれなりのランクだったが、殊更取り上げるものでもなく評価対象外だっただろう。成績、内申点も可もなく不可もなしだった。

 少し資格を取っていたり、表彰された経歴があれば、そちらをすぐ優先されるくらい平凡な人間。競争率の高い就活でそのステータスは厳しかった。当然、毎度の如く選考から撥ねられた。

 それでも、なにくそと抗っていたのは意地だったのだろう。

 家は教育のために兄弟にそれぞれ一つは学習塾へ通わせられる程度の収入があり、貧しくは無かった。父母も優しかった。物質的に、精神的に恵まれていたと言えるだろう。だからこそ意地でも就活を続けていた。

 

 ――その心が折れたのは、弟がアッサリと就職した時だ。

 

 就職氷河期は西暦1993年から十年間を指して言われる単語だ。自分は1970年後半に生まれ、ストレートで高校、大学を卒業したため、24歳だった時は正に真っ只中である。

 弟は四つ年下で、自身と同じように四年制大学までストレートで卒業した。

 そして弟が卒業した頃、景気が一時的に回復し、就職率が良くなった時期があった。それでも不景気の影響はあるので競争率は依然高かったのだが――弟は、大企業の内定を一発で取り付けていたのだ。

 弟の報告を聞いて以降、就活に対する意欲は一気に喪われ、数年間費やした気力の反動故か引きこもりになった。数々のゲーム、アニメを漁り、豊富になった食文化に没頭し、徐々に人として腐っていった。そのせいで目は悪くなって度のキツい眼鏡をかけ、体は脂肪を蓄えた醜悪な姿になる。

 これではダメだと思っても、変えられない。

 変えるだけの気力が湧かない。

 ――変わろうとしたところで、もう遅いと諦観していた。

 一度も働いた事がない四十代の男など誰も雇わないだろう。かつてに比べればまだ就職率は良いとは言え、職歴、年齢如何(いかん)によっては弾かれるとはよく聞く。手に職を付けていればまだしもそれ系の資格は一切取っていなかった。

 就職できるステータスを何一つ持っていない身ではもう無理だろうと諦めていたのだ。

 もしも、ほんの数年遅く生まれていれば。

 もしも、専門学校に通っていれば。

 もしも、先を見据えて何らかの資格を取りに動いていれば。

 ――全てが後の祭りだった。

 学生時代はバブル真っ盛り。このまま楽に就職できるだろうと安穏と構え、遊び惚けていた過去。しかしバブルは大学生時代に終焉を迎え、経済が低迷を始めていたのだと後で知った。銀行が倒産したニュースでようやく危機感を覚えたが、その時点ではもう手遅れだ。

 失った時間は取り戻せない。

 新しくやり直そうにも、もう無駄だ。

 そんな喪失感と諦観――絶望が、娯楽へと逃避させる原動力。

 死ねば楽になれるか、とか。人生をやり直せるか、とか。そう考えた事もあったが、自殺するだけの勢いを持てず、ダラダラと娯楽に耽溺し生きていた。

 

 

 

『――死んでくれ、兄さん』

 

 

 

 その日々は唐突に終わりを告げた。

 ある日、金属バットを携えた弟が扉を打ち壊し、押し入ってきた。そして開口一番そう言ってきた。弟の表情は真剣で、狂った訳でない事を瞬間的に理解する。

 咄嗟に死にたくないと、そう思って後退した。

 だがゲームのために座る鈍重な肉塊となった自身と、健康に気を使って運動を続けて立ちはだかる弟では、そもそもの素地が違った。それは瞬発力であり、動体視力であり、反応速度だった。

 空を裂く音と共に、ギラリと輝く刃物――ハサミが飛んできた。

 弟が持っていたものはバットだけではなかったのだと気付いたのは、喉にそれが刺さり、痛みが走った瞬間だ。呼吸が乱れ、喉から口内へ鉄の味がする液体が逆流する。吸い込めば、気道に入って()せた。しかし咽せるという事は肺の空気を出し入れする事だ。咽せても咽せても血が気道に入り、また口内に逆流してを繰り返す。

 声を出すこともままならず横に倒れる。

 横転した視界で弟を見上げる。弟の目が、その時は冷酷なものに見えた。

 

『僕も、父さんと母さんも、もうウンザリなんだ。でもこれで解放される。さよなら、兄さん』

 

 冷酷に。冷淡に。弟はそう告げて、部屋を去った。

 そのときビニール手袋をしている事に気付き、指紋対策までしっかりされているなら計画的犯行で、ハサミを使ったのは自殺に見せかけるためかと把握する。

 自分は弟だけでなく父母にも見限られたのだと理解した。

 

 

 ――イヤだ

 

 ――イヤだ、死にたくない

 

 ――こんな、こんなのあんまりだ

 

 ――俺は悪くない

 

 ――あんなに就活頑張ったのに落ちたんだぞ、百社以上受けに行ってダメだったんだ。一発で受かったお前にその苦しみは分からないだろ

 

 ――悪いのは俺じゃない、社会が悪いんだ

 

 ――なのになんで、なんで俺が死ななきゃいけないんだよ

 

 ――不況だった経済社会が悪い。

 

 ――学歴社会だった企業が悪い。

 

 ――資格持ちを優遇する企業が悪い。

 

 ――実際の能力を見ないで不合格にする企業が悪い。

 

 ――悪いのは、俺じゃない!!!

 

 

 

 血を流し、苦しい中、思考に挙がったのは死への恐怖だった。

 それに、世の中に対する不満と恨みつらみが続く。

 そして最後に、点けっぱなしのゲームと、積み立てていたDVDディスクケースを見ながら意識が遠のく。

 

 

 

 ――それが《■■■■(とあるニンゲン)》の最期だった。

 

 

 

    *

 

 ある偉い人が言ったらしい。『終わりは始まりである(創造の前に破壊あり)』と。

 死した魂が輪廻の輪に入り、新たな命として転生する輪廻転生という概念は、正にその通りと言えるだろう。異例を挙げるなら前世を覚えている事だろうが。

 厳密に言えば、思い出したというのが正しい。

 思い出した時期はハイハイし始めた頃だ。あまりの情報量に高熱を出してぶっ倒れたので両親と姉はたいそう心配したそうで、自我が覚醒したのは小児科で診られている時だったからよく覚えている。

 まだ満足に動けない体で出来る事は思考を回す事に尽きた。

 前世を鑑み、相応の学歴、背景が無ければまともに仕事にあり付けないと判断を下すのはそう遠くなかった。しかし二十一世紀に入ってからは高卒でも昇給可能など、学歴社会が終わりを告げていたのを鑑みるに、大学に行かないで就職するのも手かとも悩む。

 だが――二十年ほども娯楽に耽溺していた精神を引き継いだせいか、まともに勉強する事はもちろん、真っ当に働く事にもやる気は起きない。

 むしろ平成の末になってから台頭したライトノベルというジャンルに没頭した身なので、楽して偉くなりたい気持ちが強く、まともに努力する事が馬鹿らしくなってしまっていた。無論それは百を超える就活面接の無駄骨具合が色濃く記憶に残っていたからでもあるだろう。

 

 そんな自分に、()は味方したのかもしれない。

 

 産まれた家の姓は織斑。姉の名は千冬、一つ上の姉が円華(マドカ)

 ひどく覚えのある符合に期待を覚えた。それは生前、最も好んだ文庫の片割れに登場する主人公の姉、および敵キャラと同姓同名だったからだ。

 一般的な家庭で生まれ、育っている時点で原作となる文庫の設定から既に乖離しているが、そんな事は気にするだけ無駄だと割り切る。数多の創作小説によりその辺の設定は大なり小なり――そもそも原典からして――乖離している事は多かった。

 その手のものを読み込んでいた自分にとって大切なのは、織斑千冬の弟である事――それに尽きた。

 織斑千冬。《インフィニット・ストラトス》という作品に登場するパワードスーツ操縦者に於ける世界最強にして、男性唯一の操縦者になった者の姉。

 世界で唯一、女性にしか動かせないとされるパワードスーツ《IS》を動かせる可能性を自分は秘めているのだと期待に胸を膨らませた。姉の同級生で《IS》を発明する天災がいること、その道場に通っている事を把握し、符合の数が多くなるにつれて期待は更に高まっていく。

 

 ――しかしそれ故に、後に生まれた子供の存在が邪魔で仕方なかった。

 

 自身の名前は《秋十》と名付けられた。季節と漢数字の組み合わせはよくあるものだが、作品の主役の名前《一夏》でない事が不安を煽る。

 そしてその不安が的中したのだ。

 都合四人目となる子供を産むのは母体の方が保たなかったらしく、四番目は体外受精、更に人工胎盤から生み出された。無論それは話に聞いただけで、見に行った事は一度もない。その四番目が男である時点でイヤな予感はしていたが、名前が《一夏》であった事から予感が確信に変わった。

 

 

 ――コイツは危険だ

 

 ――いつか、俺を排除しに来る

 

 

 まだ乳飲み子であった幼い四番目がいつか自分を排除して主役の座を奪うに違いないと予測し、とにかくどうにかして死なせようとした。

 一夏が一歳になり、母乳が不要になってから暫く後、両親が円華と共に行方を晦ました。蒸発だ。姉はたいそう惑乱したが、弟の前で混乱しては不安を煽ると気を使ったのか傍目には落ち着いているように見えた。無論前世含めれば年上の自分にはわかりやすく動揺していたのは筒抜けだが。

 生活するには金が必要だが、それを他者に無心するほど厚かましくなれなかった千冬は、中学生ながら新聞配達などの肉体系のバイトを始め、どうにか生活費、学費諸々を工面し始めた。

 その一年後、一夏が二歳の時にISが発表され、千冬が日本代表操縦者として名を売り、金を稼ぎ始める。

 とにかく千冬は忙しく、家に帰って来ないのもザラだった。つまり家に自分と一夏の二人きりが多いという事だ。とは言え一夏が小学生になるまでは篠ノ之家に預けられる事が多かったので、一番狙いやすい年齢で狙えなかったのだが。

 一番最初に考え付いたのが栄養失調であっただけに、篠ノ之家に預けられるのは想定外だった。よくある創作だと千冬は自分一人で弟を育てようとしていたからまさか人を頼るとは思わなかったのだ。

 しかしそれは、小説の千冬と実際の千冬のバックボーンが完全に違う点にあるだろうと納得し、流す事にした。

 あと出来る事と言えば精神を追い詰め、自殺に追い込む方法。栄養失調に追い込めない以上はこれがベスト。

 次点で第二回モンド・グロッソで他殺される事。これは一夏覚醒のフラグがあったから、敢えて自分も誘拐されるリスクを冒し、ギリギリまで引っ張ってから逃走した。

 その後は千冬の追及を避け、悠々自適な日々を送っていた。

 茅場晶彦の名を聞いてこの世界が二作品のクロスオーバー物だと知り、アインクラッドに行く夢もあったが、ベータも本製品も当たらなかった時点で諦め、ALOのテスター募集に応募した。当選したのは運がよかったと言える。

 

 当時のALOの運営《レクト・プログレス》の総責任者・須郷信之に接触されたのはその時だ。

 

 それが《ソードアート・オンライン》側のキャラクターと初めての接触だった。

 あの作品は二次小説、アニメ二期、ゲームはGGO舞台作品《フェイタル・バレット》までで、原作は読んでいないが須郷がどんな男でどんな末路を辿るかは知っていた。

 しかし、だからこそ須郷が検挙される際、巻き込まれるか否かの境界線も分かっていた。

 ALOのテストプレイに積極的に参加し、将来的に《レクト》入社しやすいようコネを作っておく。それでいて、須郷の研究には関わらないよう程度に距離を保つ。学生、テスターという立場のため、幸い研究への誘いは掛からず、それどころかβテスト終了後も適用されるスーパーアカウントを使わせてくれるという優遇ぶりだった。

 しかしSAOに巻き込まれる事になるとは流石に誤算だったが。

 

 ――そこで、まさか一夏が生きているとも、《キリト》になっているとも思わなかった。

 

 原典で数千人を結果的に救った英雄。ネットゲームでは彼を冠した名前を付ける者が続出し、二刀流を志したり、上下を黒一色で統一する服装のアバターが増えるなど、ある種の社会現象にもなった存在に、あの一夏がなっている。

 なんという悪夢だ、と思った。

 しかし、同時にチャンスでもあった。

 【黒の剣士】が英雄視されるようになったのはデスゲームをクリアしたからに他ならない。無論原典だとリアルバレがされていたわけではないので、ごく一部の限られた人間にしか知られていないが、しかしその経歴は確かに【黒の剣士】の魅力となっている。その因縁は血生臭いものもあるが、同時に数多のファンを持つ(ヒロ)(イン)達との出会いがあった。

 作品の、そして登場人物達のファンとして、彼女達を手に入れたいという欲求が膨れ上がった。

 

 そして《一夏(キリト)》に戦いを挑み、敗北した。

 

 血を分けた弟に、殺された。

 前世と同じようにまた弟に殺されたのだ。前世より運動神経も知識も高く、相手はまだまだ子供だというのに敗北を喫した事実は受け容れ難いものだった。

 幸いにもデスゲームの死者は、最初期に《ナーヴギア》を外された者だけに抑えられたので、自分も生還した訳だが――そこから先は、あまりにも知識の流れと違い過ぎて困惑した。

 所々は知識と同じ展開だ。しかしその展開を経た後、追加で起きた戦いに関してはまったくの想定外ばかり。

 更に想定外なのは、一夏を自殺に追い込もうとネットを使い煽りに煽ったアンチ風潮が鳴りを潜め始め、称賛する声が上がり始めた事。今更巻き返そうとしても動かぬ事実が世界に広まっているせいで焼け石に水。獣の危険性と剣を執る絶対的な理由が広まっているせいで、下手な中傷も意味が無い。

 ISコアが体に埋め込まれている事も。

 その装備が鍵を武器にして戦う作品の敵組織と同じ事も。

 更識楯無と天災を味方に付け、あろうことか姉・千冬と和解している事も。

 二つ目の専用機が作られている事も。

 

 全てが想定外。

 

 自分の知る()()から乖離している。ドイツの代表候補生が追放され、直後に天災が身柄を確保し、一夏の護衛に据えた時点でそう認めざるを得なかった。

 

 

 ――もう見てるだけじゃ、待ってるだけじゃダメだ

 

 ――このままだともう軌道修正が出来なくなる

 

 

 その危惧に合わせるように、七月に入ってからの全国一斉の男性のIS適正検査。当然の如く自分は引っかかり、一夏と対峙する事が決まった。

 幸いにも倉持技研から専用機【白式】を提供する話が舞い込んできたため、有難くそれを受け、苦戦したが原作同様の形態に変化した。

 それで……

 

 

 

 ――――それから……どう、なったんだったか……?

 

 

 

 思考が、凍った。

 

 






※今話の内容は和人達が把握したデータではなく、秋十のバックボーンが主です


・織斑秋十
 娯楽と欲望に忠実過ぎる男。
 前世『大人になって初めて挫折した&弟に対してコンプレックス絶大なSAO&ISオタク引きパラサイト』。しかもリアルで言う『パラサイト』と呼ばれる部類の中でも、フリーターや非正規雇用労働者でもなく、親の年金+弟の収入で自堕落に生活していた最悪な部類。個人的に『ワーストパラサイト』と考えている。
 類義語に『パラサイトシングル』があるが、これは働いている人が給料を家に入れず、自分のためだけに使っていながら、親元で暮らし、食事風呂などの基本的生活条件を親に依存している事を指すので、まったくの別物。

 前世弟に対するコンプレックス、また前世で殺された瞬間の記憶から『弟』という存在そのものを忌避しており、死にたくないから排除したいと無意識に思考し、それを後押しするように欲求が表に出ている。一夏が丁度『四つ下の弟』と前世の自分を殺した『弟』と年齢差が合致しているせいで余計助長されている。更にSAOでキリトと死闘を繰り広げているので『このままだと殺される』という恐怖心は確固たるものとなっており、なにがなんでも排除したい一心だが、欲望も共存しているせいで傍からはかなり下心があるようにしか見えないある意味不憫な存在。
 とはいえ、秋十が前世の事実を語らなくとも一夏/和人に真っ当に接していたら最低でも現在の千冬レベルの対応にはなっていた訳で、この恐怖には晒されなくて済んだのだから完全な自業自得である(無情)


・原作知識
IS:アニメ二期、原作七巻相当の二次小説
SAO:アニメ二期、および《マザーズ・ロザリオ》編までの二次小説、《フェイタル・バレット》までのゲーム展開(原作九巻以降・アリシゼーション編はCMやPVとかでだけ把握してる程度)


 タグに『転生』とある時点で丸分かりでしたね()










???「馬鹿は死んでも直らないってか? これじゃあ前世の弟も、()()折り損のくたびれもうけって訳だ」(ツクテーン)











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