インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは。

 こちらは本作の『幕間之物語』に位置する裏シナリオです。該当時間帯、別の人がなにをしていたかを描写します(誰をどれだけするかはヒミツです)

視点:束

字数:約五千

 ではどうぞ。







Chapter1:無間の剣士 2・裏

 

 

 日本時間、《二〇二五年 七月十日 十四時三〇頃》

 東京都市ヶ谷、国際IS委員会本部会長室。

 

 

 今年の頭頃から自身がトップとなり、腐り切った内部を刷新し、本格的に宇宙航行用に向けてISの研究の舵を取り始めた私は、日中の大半を沖合の孤島に設置した研究所か、このIS委員会本部、そしてALO運営企業《ユーミル》の運営に費やしている。最近は日本の命運を背負った少年の専用機の調整と近付く《モンド・グロッソ》の準備、それと並行して《亡国機業》への対策・対応の纏めなど、忙しさに拍車がかかる毎日だった。

 そんな中、臨海学校初日だけでも解放されたのは相当なリフレッシュになったのは間違いなく、私はより一層頑張ろうと気合を入れていた。

 織斑秋十が誘拐される事に関しては計画済みで、いつでも素早く対応出来るよう備えはしておいた。各国首脳陣には予め内通者の事を指摘しておく事で尻尾を掴んですぐ《亡国機業》の殲滅に乗り出せるようにもした。

 ヴァベルより齎された“平行世界”に於いて、《亡国機業》との決戦はまだ一年以上の猶予がある。

 しかし彼はそれを良しとはしなかった。力を蓄える時間を捨てでもあの組織を壊滅に追いやった方がいいと、そう判断した。

 それには転生者・秋十というイレギュラーな存在が関わっている。転生者としてではなく、《織斑》という血族の一員である事が問題なのだ。

 第二回モンド・グロッソでの誘拐の手引き、更には失踪していた織斑(まど)()が所属していたテロ組織というだけでかなりの関係がある。和人にコアを移植した事を考えれば、男性操縦者である秋十を狙わない理由は無い。

 あの男の存在が世に知られた時点で“平行世界”と同じ歴史を歩む事は無くなったと言えよう。

 それを逆手に取り、誘拐出来るよう敢えて学園の主戦力を空にする計画を提案したのは和人だ。彼の課題は彼と七色のもので、私や茅場、比嘉などは興味本位で口出ししただけだったから、本当は臨海学校についていく必要など無かった。

 

 ――それは、彼らしからぬ性急さとも思える。

 

 相手のどんな手にも対応出来るよう時間を掛けて入念に用意する。それが彼の基本スタンスの筈で、仕掛けるなら相手の出方を待つのではなく、奇襲という形で一気に仕掛ける方が彼らしく思えた。

 対外的にアジトの場所を暴く理由付け――例えば、秋十に発信機を忍ばせていたとか――が必要だと彼は語った。

 だが、それは余分なものの筈だ。

 なぜなら、《亡国機業》に深く食い込んでいた実働部隊の三人を捕え、反抗的な二人に関しては()()に掛け、あらゆる情報を引き出し終えているからだ。円華に至っては協力的な事もあってより詳細かつ具体的な情報を提供して来ている。アジトの場所など、上に上げてないだけでとっくに判明しているのだ。加えて“平行世界”の知識があったお蔭で予備のアジトなども全て特定し終えている。

 円華の事を敢えて伏せているから、世界はいまも三人共が黙秘していると考えている。彼相手に黙秘を貫けると捉えている。それを利用し、電子世界の切り札ヴァベルのように、彼女を現実世界の切り札にしたいから敢えて伏せるとも語った。

 それは、私には奇妙に思えてならなかった。

 理由としてはしっかりしている。円華を切り札にしたい事も、敢えてアジトの情報を上げていないのも、全ては潜り込んでいるスパイから《亡国機業》に情報が流れるのを警戒しての事だ。彼の言葉を、誰も疑問に思っていない様子だった。

 

 だけど――やっぱり、思った通りだった。

 

 壺井遼太郎だったか。デスゲームで彼にとても親身だった兄貴分の侍が電話を掛けてきて初めてアメリカで何が起きているかを初めて知った。

 私は織斑秋十と【白式】の奪還を含めた《亡国機業殲滅作戦》について各国首脳と話し合い、その後は休んでいたのでニュースを見ておらず、最初は何のことかまったく分からなかった。中継の事を教えられて事態を知ったのだ。

 

 ――これだ、と思ったのはその時だ。

 

「君は、気付いてたんだね」

 

 少しの罪悪感を覚えながら、小さく呟く。

 ――彼にも、誰にも言わなかった秘密があった。

 それは【無銘】にまつわる全て。

 コアは人体にとって有害だ。そもそもあんなものを体に埋め込み、無事であるわけがない。肉体は確実に拒絶反応を起こし、そのまま死に至る。あらゆる非人道的な研究所を回って来た私はその結果を幾度も目にしてきた。

 ……だから、彼を精密検査する前から異常を察知出来た。

 結果として、彼はコアを埋め込まれても生きている。絶対死ぬ筈の過程を踏んだのにだ。

 なら生きられる何らかの外的要因があったと考えるのは必然。

 その場合、真っ先に考えるのは人体改造だ。

 人体改造にも種類がある。筋肉を強固なものにする薬剤を打つなど生物学・薬学を基礎とする分野の改造が多いが、骨組織を金属に変えるなど整形外科分野のものも多い。彼の場合は前者の方だった。体を内側から変化させるもの――すなわち、薬剤の投与をまず疑った。頻繁に血液データを求めて採血し、検査する。更にところどころの皮膚も採取。もし中毒性があるか、摂取しなければ体組織が崩壊する類のものを投与されていた時、すぐ分かるように小まめにした。

 それが功を奏し、私は異常の具体的な部分に気が付いた。

 

『……なに、コレ』

 

 異常は血液と皮膚、両方に現れた。

 血液データではノルアドレナリンなど、ストレス・ホルモンとして知られる興奮系ホルモンの分泌量が異常値を示していた。最初期から常人の数百倍。ノルアドレナリンは血圧・心拍数増加を誘発し、更に注意力・衝動性の抑制が出来なくなる興奮作用を示す為、これが高値だと危険な状態と言える。

 だが、血圧も心拍数も正常値。あろうことか会話のやり取りも至極真面で、どう見ても興奮しているようには見えなかった。

 その齟齬こそが異常の一端。

 皮膚の方も同じくらいの異常を見せた。部位によって細胞の遺伝子配列が異なったのである。彼由来のものと、そうでないナニカの遺伝子が混ざっていて、しかも日によって入れ替わる異質さを見せた。

 採血と皮膚採取だけでそれだけの異常が分かった私はその原因が遺伝子変異の改造だと当たりを付け、裏で研究を続けた。

 そして、変異した遺伝子細胞から答えを見出した。生命の最小単位である細胞やその生体膜である細胞膜も持たず、小器官もなく、そして自己増殖することも無い構造物を発見したのだ。

 それは生物として議論を呼ぶ感染性の構造体《ウィルス》だった。

 遺伝子配列は見た事の無い型で、それに対する抗体もまた初めて見るものだった。ウィルスに感染した細胞は変異し、筋肉などが強固なものになる特性を示した。更にどれだけ破壊しても復活する疑似不死性まで備えている始末。化学・医学が発展した現代に於ける新種と知った時はどうしたものかと頭を抱えた。

 しかし幸い、発見した抗原(ウィルス)は抗体が表面にびっしりと張り付いて無毒化されていたので、日常生活を送る上で誰かに感染させる事はなかった。彼の体はウィルスにより変異し切っているが、原因のウィルスは完全に無毒化されていたという訳だ。

 

 その完璧な無毒化状態を見た時、私は全てを理解した。

 

 ISコアだ、コアがウィルスの抗体を作り、制御していると。

 抗原と抗体の結合を操作する事は可能だ。ナトリウムイオンなどのプラス、マイナスイオンで体内の荷電などを操作し、水素結合、静電気力、ファンデルワールス力、疎水結合などの引力を発生させ、安定して結合させる。原子操作能力を持つISにとって体内の電荷操作は基本性能だから簡単に為せてしまえる。

 つまり組織はウィルスで遺伝子レベルで肉体改造を施し、変異したところで【無銘】を埋め込んでウィルスの抗体を原子レベルで生成させ、無毒化したのだ。一部分から徐々に馴染んでは変え、馴染んでは変えを繰り返し、全身の細胞変異のデータを【無銘】に記録させようとした。そうする事で無暗にウィルスをばら撒かず、純粋な身体能力と、強力なISの力を持ち、状況に応じて人間体と異形体とを使い分ける『生体兵器』が完成する……

 そこまで理解した時、なんて悍ましいのだろうと嫌悪を抱いた。

 同時に、私はなんてものを作ってしまったんだ、という罪悪感にも見舞われた。

 

 ――これが、私の罪なんだ。

 

 目に見えないレベルから起きている事実に、私は打ちひしがれた。

 そして秘匿する事にしたのだ。ウィルスは無毒化されている。ISでも身体強化が出来る言えば、彼はウィルスについて知る必要が無いと考えた。

 幼い彼は、私の言う事を信じてくれた。

 また、罪悪感に苛まれた。

 当時は《暴走形態》と言っていた状態がウィルスに犯された末路なのだと気付いて、また苛まれる。

 普段の姿は人間体として留めておくために【無銘】が常に細胞を通常のものに置換していて、私が採取出来た変異細胞は鍛錬で出来た傷を治しているものだったのだと分かった時は、もうこの子は成長できないのだと知り、涙した。

 

 

 ――それに、君は自分で気付いたんだ。

 

 

 背が伸びない事を聞いて来た時に吐いた嘘。女性のホルモンバランスに近付けているからなどとと少し勉強すれば気付く嘘を、どうか気付かないでと願いながら吐いた記憶が蘇る。

 その違和感に彼は気付いてしまった。

 確信ではないだろう。半信半疑のレベルだと思うが、それでも危惧するには十分で、彼は性急に感じても《亡国機業》を潰す事にしたのだ。

 そして情報があるのに秋十を囮にする手間を掛けたのは、おそらくオータムやスコールが引き抜きに来ていた理由から、目的を推し量る為だろう。男性操縦者を求めていたのか、それとも自分じゃないとダメなのかと。結果的に秋十で釣れたから『男性操縦者』で求めていた事が分かる。コアを埋め込むか、ウィルスの実験体かは不明だが、『ウィルスとISの融合生体兵器』の成功例とも言える彼を参考に着手しそうな気はする。

 世界に顔を出してまで秋十を誘拐したのは《織斑》という血縁を重視しているからか。

 確かに遺伝的にあの二人は近いから成功率は高くなりやすいだろうが……

 

「【K-Virus】、か」

 

 【黒椿】と【無銘】を介し、手元に来るログには、先月の学年別トーナメントのパーティーに出席していた《グロージェン・ディフェンス・システムズ》のスペクトル急襲チームのリーダー《ガブリエル・ミラー》と、その仲間三人の生き残りとの会話が記録されている。とは言え、ガブリエルがIS学園のパーティーで和人と顔見知りイコール重役だったと発覚した直後、《ヴァサゴ・カザルス》の手で残る二人は処理されてしまったが。どうやら知られないようにしていた事らしい。

 覚悟を決めて戦場に向かった少女達が抗議したが、和人によって制止され渋々引き下がる様子を見つつ呟いたウィルスの名前は、急襲チームの二人が射殺された後、情報共有で出てきたものだ。

 ガブリエル達は“上”からの指示でそのウィルスのサンプルの回収を命じられ、サクラメントの《製薬会社スクリプト》本社ビルに乗り込んでいたらしい。和人達が言う“奴ら”の存在は知らなかったようで、生き残りも今であと二人だけだという。

 

「K……K、ね……」

 

 その頭文字は何を意味しているのだろうか。

 安直に考えるなら《Kirito》か《Killer》だろう。彼を参考に研究し直された改良型なら後者の意味もあるような気はするが、シリーズものとして前者を採用している場合もある。

 どちらにせよ、サクラメントの現状からヤバいウィルスというのは確かだ。

 仮に彼に投与されたウィルスだとすれば、細胞を高速で変異させ、肉体を強靭に作り替え、途轍もない再生力による不死性を獲得するだろう。更にノルアドレナリンの過剰分泌で理性を失い、大量のエネルギーを変異した細胞が求める事から食物を求める。人を襲うのは、街中でもっとも動き回る生命体だからか。そうして感染はどんどん広がっていく。そんなゾンビ映画やゲームもかくやのウィルスが、とうとう現実のものとして誕生してしまった訳だ。直接投与された訳ではない二次感染でそれだけの被害が出ているのだから、ウィルスが兵器転用を前提としたものなら成功と言えるのだろう。

 そして、そんな危険なものを回収しろと命じたのは、いったいどこの誰なのか。

 ここ最近連続する失態を揉み消そうとする合衆国政府か。あるいはヴァサゴの縁を介し、間接的に《亡国機業》がウィルスを手元に戻そうとしているのか。

 前者なら中継された時点で最早意味を為さない。

 後者なら敵対関係になる。あんなものを人の手に渡してはならないと躍起になり、殺し合いへと発展するだろう。

 

「――束さんは、出来る事をしていよう」

 

 敵対するか共闘するかを判断するのは現場にいる彼らがする事だ。

 思考の片隅に懸念を残しながら、私は一両日ぶりになる国際回線をコールした。

 

 







・桐ヶ谷和人
 ???ウィルス感染者。
 現在サクラメントで蔓延しているウィルスや、ガブリエル達が回収目標にしている【K-Virus】と同じものかは不明。
 ウィルス自体は【無銘】が一から原子操作で構成した抗体により完全無毒化されているので、粘膜接触・血液付着などしても他者にウィルスが感染する事はない。つまり営める(重要) まあ無毒化されてないと今頃埼玉県が地図から消えてたでしょうからね……
 ISとバイオテクノロジーによる生体兵器化の成功例。ウィルスによって変異した細胞により、強靭な肉体、劇的な再生能力、瀕死に陥った場合のリミッター解除能力を有する。《負の第二形態》はリミッター解除状態。

 ――つまり組織の目的は《制御可能な量産型超速再生持ち完全虚化》を開発するって事だヨ!

 やべぇ(真顔)
 そういう訳で『潰さなきゃ(使命感)』となったが、自身を狙う目的をより正確に把握する為、私怨込みで秋十を囮にした。


・ガブリエル・ミラー
 《グロージェンDS》の重役会員兼最高作戦指揮者。
 和人が『あんた、グロージェンDSのガブリエルか?』と聞いて身バレした。ヴァサゴ以外に重役会員である事を知られたため仲間だった二人が射殺されたが、特に感慨を抱いていない。
 だって目の前に極上の獲物()がいるんだもの……


・篠ノ之束
 実は全てを知っていた天災。
 和人に教えなかったのは真実が酷過ぎたが故。
 最初は本当に気付かなかったが、体の精密検査を繰り返す内に細胞変異などの異常から真実に辿り着いてしまった。ISが生体兵器化のキッカケの一つになっている事実に打ちのめされ、『自身の罪の象徴』とも言うべき少年の実態を明らかにしていくほど罪の意識に苛まれている。
 この事から束は和人に対し、無償かつ最大限の助力を使命として誓っている。
 内心『秋十は適合せずグール化すればいいのにな』と思っているのはナイショ()


 では、次話にてお会いしましょう。

(ΦωΦ)フフフ…
 13日0時に予約投稿したのでまたよろしくですゾ……

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