インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは。
視点:ヒースクリフ
字数:約五千
ではどうぞ。
協定世界時、カリフォルニア州サクラメント時間《二〇二五年 七月九日 二一時四〇分》
米国カリフォルニア州サクラメント市《製薬会社スペクトル》本社ビル地下研究所。
スペクトル・ビルの地下には敷地範囲内全域に渡る巨大な研究施設が広がっていた。
その広大なフロアのところどころには争った形跡があり、動かなくなった奴らや、噛まれて奴らとなった特殊部隊装備の屈強な男達が徘徊する地獄の様相を呈している。
そこら中に血が飛び散っている凄惨な有り様を見たうら若い少女達は、しかし文句をまったく零さなかった。ホラーバイオレンスジャンルに馴れている訳でもなく、現実の死体や血の海を見て弱音を吐かないのは、それ以上に彼女達の心の炎を滾らせる要素があるからに他ならない。言わずもがな、彼女らの想い人《桐ヶ谷和人》の存在だ。彼だけは引っ掛かれでもしたら奴らと化してしまいかねないので、今だけは彼を前に出さないよう全員の士気が高くなっている。闘争に血道を捧げるヴァフス、オルタすらもが今だけは彼を守るべく左右に立って警戒する程だ。
この場にはいないキリカやユイ、ストレアのような自身が作り出したAIの存在も考えると、現状は非常に興味深いものなのではと研究者としての心が疼く。
菊岡誠二郎が主導する《例の計画》は
確かに現存するAIは、従来のトップダウン型とは思えないほどの適応能力を示しているし、キリカはトップダウン型とボトムアップ型の融合タイプとすら言える。
しかし彼女達には致命的な欠陥がある。
ヴァフスがいい例だが、彼女は基本的に《己の闘争心》や《強さへの飢え》を基に行動しており、そのためなら主と認めるキリトであろうと切り掛かる凶暴な側面を持つ。無論、彼と戦う時は必ず申し出る礼儀もあるが、重要なのは『主と認める』という点にある。万人を守るための兵士を得たいのに、ヴァフスは特定個人しか護らないのだ。彼が頼み込めば話は別だろうが、彼ありきの話が採用される筈もない。それはユイ達も同様だ。彼女達は彼や直葉などの家族、またその仲間を守るためであれば剣を振るうだろう。だがそれ以外の者の為に振るうかは定かではない。
参戦を拒否するのならまだいい。
菊岡誠二郎がキリカ達を不採用にしたのは『和人の敵』という固定観念を構築しているが故だ。かつて彼を貶めていた現状を看過した政府や国民を根本的に信じていないため、下手すればこちらに銃口を向けて来る可能性が否めないのである。確実に安全と言えない限り採用できないからこそ《STL》を用いた実験はこれからも続けられる。
その研究が国のため、ひいては直葉達のためになると考え、彼も敢えて深く追及はせず研究に参加していた。拷問や私事で利用する事はあるが、そのデータを提供しているから菊岡達もとやかくは言わない。
そんな『ギブアンドテイク』の関係にある彼らを見ていると、奇妙な感覚に襲われる事があった。そしてそれが私を、みんなを衝き動かすものでもあった。
私は信じているのだ、あらゆる関係、あらゆる縛りを超越する力の存在を。
彼に影響を受けて自己改革を果たしたユイやヴァフス達を、そして今の凄惨な状況に立ち上がった少女達を見ていると、そう思わざるを得なかった。
*
地下へと進入し、呻き声を上げながら迫って来る“奴ら”を時に斬り、時に潰していくと、新手の敵に出くわした。
二足歩行の生物だが、体色は緑、かつ爬虫類のような表皮を持つ獣だった。両手の爪はクロー装備のように肥大化している。それが進行方向にある部屋から何体も出て来ていた。
その光景に、斧使いのタンク・エギルが呻きを上げた。
「オイオイ、マジかよ。ありゃハンターじゃねぇか」
「知っているのかね?」
「ゾンビゲームで出て来る強Mob級だ。まさか現実でまんま出てくるなんてな……」
彼に問うと、そんな答えが返って来た。
なるほど、フィールドボスクラスではないが、その取り巻きのMob程度に位置する雑魚キャラだった訳だ。無論現実の力関係で言えばおそらく人間側が負けるので油断は禁物。私達は良いが、和人だけは生身の人間だ。いくらバリアがあると言ってもどこで破られるか分かったものではない。
「和人、気を付けろよ、コイツは跳躍力と敏捷力が高い筈だ。爪で首を狙われたら一発だぞ!」
「ああ。だがエギルが護ってくれるだろう?」
「……おうよ! 任せときな!」
エネルギーボウガンを連結させ、長大な弓として構えていた少年の言葉に、斧使いの巨漢がにやっと笑みを零した。やる気十分の様だ。
「私を忘れてもらっては困るよ」
「ヒースクリフは最強の盾だ。守りに関して一番信頼してるよ」
「……そうか」
純粋に声を掛けられてなかったので言ったのだが、リップサービスまで貰ってしまった。守備に関しては鉄壁を誇った実績を持ち上げられている。
エギルの気持ちが分かった。なるほど、これはとても心地いい。
心が躍るようだ。
『ジャアアッ!!!』
「戦闘開始!」
新しい敵《ハンター》の雄叫びと、彼の号令が上がるのは同時だった。
ハンターが駆け寄って来る。後ろに通すまいとエギルと共に構えると、脇を過ぎるように紫の矢が飛翔した。彼が放ったものだ。遅れてシノンの蒼白い矢、レインの鋼鉄の剣が飛翔する。
ちょっとした刃の雨の様相だが、ハンター達は怯む事無く直進してくる。
「ぬぅんッ!」
「うおおおおッ!」
そこで、エギルと共にソードスキルを発動。
《神聖剣》重突進打撃技《ユニコーン・チャージ》で先頭左側のハンターを吹っ飛ばし、後続を巻き込む形で後退を強いる。その隣では、《両手斧》広範囲技《ワール・ウィンド》が唸りを上げ、一・二列目のハンターを纏めて両断した。そのまま後続に死体をぶつける事で大きく怯ませる。
そこでリーファ、ユウキ、クラインが前進。大きく怯んで足を止めたハンター達の緑色の皮膚を容易く斬り裂ていく。
『グシャァッ!』
その中で、横から割り込む形でユウキに噛み付く個体が現れた。反応し損ね、左腕を丸ごと噛み付かれる。動きが止まった彼女を、機を狙っていた個体が次々と襲った。
『ジャ……グ、グシャ……』
『グジャ……っ』
生身なら呆気なく食い千切られ、スプラッターもかくやの有り様になっていただろう。
しかしいまの体は
ハンターも強靭な顎を持っているのだろうが、さしものIS技術製超合金の体は噛み砕けないらしい。
そんな隙を逃さず、巨体には不向きなクロー、短剣、細剣使いの面々が攻め始める。
堪らずハンター達もユウキから口を離した。
「ハッ!」
直後、彼女はその場で回転し、周囲のハンターを纏めて斬り裂く。顔面を斬り裂いたようで床を転がって痛みに悶える個体が続出する。
回転斬りの間合いからギリギリ逃れていた個体が、仲間をやられたからか僅かに後退する。
瞬間、ユウキが飛び掛かった。黒剣だけでなく彼女の体も超スピードで動く。跳び上がり、速度そのままに切り付ける上段斬りは、《片手剣》単発技《ソニックリープ》だ。斬撃はハンターの体を深く斬り裂く。
「せやぁあああッ!!!」
着地してすぐ、ユウキが腰溜めに剣を構え、超速で振るった。《ホリゾンタル》による横薙ぎ一閃は大きくよろけていたハンターの首を綺麗に刎ねた。
ブシャァッ、とウィルスに汚染されているだろう血飛沫が上がり、紫紺の剣士が赤黒く濡れていく。
だが彼女はそのまま次の個体に斬り掛かった。戦いの最中だからか、汚れた事に頓着した様子は無い。その姿から感じるのはただ『敵を斬る』という強固な信念だけだ。
剣腕随一と目されるリーファに肩を並べる勢いでユウキも台頭してきているのだ。見ている限り、妖精郷で剣を握っている時よりも遥かに強い。
そしてそれは、なにもユウキだけに起きている事では無かった。
「ほら、どこ見てるんだヨ!」
情報屋を生業とし、斬撃・刺突属性の短剣と、斬撃・打撃属性が主のクロー・ナックルを使い分けていたアルゴが声を上げる。《体術》スキルを鍛えていた彼女の技術は依然健在であり、大の大人ほどもある巨体のハンターを翻弄しながら的確に急所を抉って行っている。
そうして目を眩ませた時、背後を取った彼女が大きく跳び上がる。その勢いのまま彼女の右拳が超速で振り抜かれる。ゴヅンッ! と重い響きが上がった。
《ナックル》奥義技《デッドリー・ブロウ》だった。
超強力な打撃を不意打ちで後頭部から受けたハンターは、堪らずよろめき、床に手を突く。
「アーちゃん、今ダ!」
「――はぁッ!」
アルゴの声に、紅白を血に染めた細剣使いの少女・アスナが攻撃で応じた。地下フロアを照らす僅かな灯りに反射した刀身が流れ星のように三度煌めく。
その後、一度引いた剣を、一瞬の溜めを挟んで強く突き出した。ドグシュッ、とハンターの頭部が貫通する。
《細剣》三連撃技《パラレル・スティング》から単発技《リニアー》への連続攻撃。
《
強烈な踏み込み音に反応し、残るハンターが狙いを定める。
「オイオイ、オレっちを忘れるなヨ」
直後、近場にいた個体の背後を取ったアルゴが逆手で短剣を振り下ろした。肉厚で大振りのそれはハンターの頭をかち割り、二撃目で首を刎ね飛ばす。
「――きひっ」
倒れた胴体の上で立ち上がったアルゴが笑声を上げた。
右手をナックルが包みつつ短剣を握り、左手は鈎爪を装備して、血濡れた茶色のフードの奥で深く笑みを作りながら、次の個体へと息を殺して近付き始めた。その個体は暴れているユウキやアスナ達に気を取られているから気付いていない。
「終わりダ」
『ギ――ッ?!』
飛び掛かった勢いで肉厚の短剣で頭をかち割りにいく。頭部を斬り付けられ怯んだハンターは、間を置かずリーファに首を刎ねられ、絶命した。
血飛沫が吹き上がり、少女達の肢体を赤く穢していく。
赤く、朱く――より紅く。
赤みが増していく様は、まるでより強力な個体である事を表わすカーソルを思わせる。敵を斬り、血を浴びる度に紅くなり、そして果てには《ダーククリムゾン》のように紅黒くなるのだろう。
ただ、彼のために。
――血の盟約。
かつて鋼鉄の城で築いた騎士団の由来に似たものを覚え、私は震えた。
《血盟騎士団》。
あの名前には命を預け合う戦友との固い絆の意味を込めている。肩を並べ、死線を潜り抜ける事で芽生える友情と信頼こそ、強大な力となる。そう思って私は名付けたのだ。そして事実、《血盟騎士団》は三十名ほどの中規模ながら、デスゲーム攻略の最大戦力へと成長した。
それと同じ事が、現実でも起きている。
いや――現実世界だとか、仮想世界だとか、そういう枠組みには収まらないものなのだ。
人の想いはどちらも変わらない。あの世界で想い、感じた事は、全て現実のそれと変わらないのだ。心は人それぞれのものであり、決して偽れないものなのだから。
だから彼女達はここにいる。彼を助ける為だけに、血に濡れながらも――たとえ生身の体ではないとしても――剣を執り、殺し合いの場に立っている。いま彼女らは、あの世界で真に命と心を賭し、己を救った少年のためと
――まるで、時が戻ったようにも思えた。
命を掛け、なりふり構わず全力で生きるべく、数多の戦場を掛け、階層を踏破し続けた日々の記憶が脳裏を走る。あの頃ほど『生きている』と感じた事は無かった。死を感じているからこそ、逆説的に生を認識していたからだ。
だが、いまは違う。
私はいま命を掛けていない。
だが誇りを懸けている。『血の盟約』という、彼との強固な繋がりを。だからこそ、いま私は生きていると感じる。
「――ハンター、残り三体!」
彼の声で意識が現実へと引き戻される。
周囲を見回せば、どうやら本当に残り三体のようだ。物陰に隠れている様子もない。そうしている間にユウキとリーファが挟み撃ちで一体討ち取った。
残る二体も、アルゴとサチによってすぐ討ち取られ、生体兵器らしい個体は全滅。
紅黒く血に濡れた少女達は勝利を祝いもせず周囲の警戒に当たっていった。
そして数分足らずで、生存者を発見する。
そこには《亡国機業》に与していた仇敵《ヴァサゴ・カザルス》がいた――――
・茅場晶彦
人の意思の力を信じる夢想家。
劇場版の『私は信じているのですよ。システムを超越する力の存在を』という台詞が茅場の心情を大体言い表している。本作ではシステムを超越する力を《瞋恚》という形で認識済みなので尚更和人に対する評価が高い。
更に和人から波及していっているところも茅場的に大興奮要素。
お蔭で茅場自身もしっかり染まってしまっているが、本人は大変幸せそうなのでモーマンタイでしょう()
・帆坂朋
ナックル、クロー、短剣を使い回していた情報屋。
地味に《体術》を鍛えていたので、敏捷性を活かした暗殺プレイが可能。今話では捕えられている間は翻弄しつつ不意打ち格闘、見失っている状態では背後から頭かち割りの暗殺行動を乱発した。
SAO時代であまり爽快な戦闘を経験していなかった反動かちょっと愉しんでいる節がある。
・紺野木綿季
覚醒した剣士。
いくら痛みが無いとはいえ、間近で巨大モンスターが噛み付きに来て動揺もしないのはかなり異常だが、ユウキはこれで平常運転になっている。
愛って怖いなぁ!(合言葉)
・桐ヶ谷和人
いつのまにか血の盟約を結んでいた主人公。
まあ命懸けで助けたため、いま助けられている事を考えればあながち間違っていない。
AI達の精神的支柱になっているため菊岡の計画にキリカ、ユイ達を使われる心配がなくなった。
今話ではエネルギーボウガンを連結、更に組み替えたエネルギーの矢を放つ長弓で援護している。
では、次話にてお会いしましょう。