インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷です。
視点:ヴァサゴ、和人、七色
字数:約八千
ではどうぞ。
協定世界時、カリフォルニア州サクラメント時間《二〇二五年 七月十日 零時》
米国カリフォルニア州サクラメント市《製薬会社スペクトル》本社ビル地下研究所地下四階、実験体実験室。
轟音が途絶え、吹き荒れていた闇が晴れたのを契機に、俺は翳していた腕を下ろした。
ほんの数秒前まで室内全体を白い蛍光灯で照らす清潔感溢れる部屋だったが、和人が放った一撃で無残にもボロボロになっていた。そこら中に大小無数の瓦礫が転がっているのは、天井に大穴が開いていたからだと遅れて気付く。
真上を見上げれば、半径五メートルほどの大穴が地上まで貫通していた。
「……おいおい、どーすんだコレ。サンプル回収難しくなったんじゃねぇ?」
呆れたように呟いたそれは、思わぬ所業に出た和人に対する問いだ。
地下三階や地上には無数のクリーチャーが存在する。いまの轟音を聞いて音の発生源である穴を目指してやって来る筈で、それらすべてを相手にしていたら弾薬や命が幾らあっても足りない事は火を見るより明らか。【無銘】や【黒椿】などで処理出来ると言ってもサンプル回収などが困難になった事は言うまでもない。
まあ、壊した隔壁を再構築したように、和人なら穴を塞げると知っているから焦りは無いが……
「いや、もうワクチンは必要ない」
しかし和人は、俺の問いにそんな返しをしてきた。思わずはぁ? と声を裏返す。
そんな俺達を他所に、ガブリエルが口を開いた。
「さっきの話が確かなら、和人の体には【K-Virus】も無効化するジェネシスウィルスの抗体がある。ならばわざわざ回収する必要もないという訳だな」
「あー、そういう事か」
ジェネシスウィルスというものが投与されている事は疑っていない。それがなければISコア移植に耐えられなかったというなら無い方が不自然だからだ。俺がかつて見た暴走形態がウィルスによるものだとするのも、VTシステムの姿を見た以上納得出来たからでもある。
抗原と抗体の結合には一定の法則性があるという。原子、分子レベルから物質を構築する【無銘】を応用すれば、ナノレベルの栄養素や抗体を構築する事も困難ではないと考えられる。
だからウィルスサンプルの回収も、ワクチン回収も最早不要。
《グロージェンDS》の依頼は失敗に終わってしまうが、ガブリエルが和人と交わした契約を使えば、ワクチン関係を優先的に回してもらう交渉はしやすい。ホームをアメリカに置くグロージェンにとってはウィルスサンプルを回収するより遥かに益となるだろう。
「だったらよ、さっさと此処を脱出しようぜ。長居してたら命が幾らあっても足りやしねぇ」
ならばこんな場所はさっさとオサラバした方が吉だ。俺とガブリエルの目的が無くなったなら長居する理由もない。
秋十に関しては和人が決める事なので知った事ではない。
「ヴァサゴの言う通りだな……それで、結局アキト・オリムラはどうする? 【白式】のコアはこの男に埋め込まれているようだが」
ガブリエルの当然の問い。
反応は無い。直前の様子から移植を察したが、その場合の対応を考慮していなかったせいで迷っていると見える。ああは言ったが、やはり本心ではどこかで見捨てる腹積もりだったのだろう。
「一先ず二人は先に避難場所に向かい、避難者の警護をしてもらう。穴を通って直接外に出よう。秋十に関しては……俺が、始末を付ける」
途中まで悩むように言っていたが、最後だけ、俺には決然とした意志を感じられた。
***
ガブリエルとヴァサゴを抱えて地上に出て程なく、この場に幾つもの影が空から降りて来た。【黒椿】の演算領域で維持されている【森羅の守護者】十三人とクロエ、ラウラだ。
「ああ、来てもらったところ悪いが、この二人を連れてすぐ引き返してくれ」
「何故です?」
「時間が無いから手短に話す」
二人を引き渡し、ホテルの警備に向かってもらった後、俺はクロエの問いに答えた。
とは言え俺の体にサクラメントのバイオハザードの原因となった【K-Virus】がある事、それが無毒化されている事など、オズウェルとの会話はテレビで知っていたようなので、伝える事は一つだけだった。
それは、下に残して来た秋十の事だ。
「国連やIS委員会が秋十の処遇をどうするか分からない。【白式】を埋め込まれ、ウィルスを投与されて、暴走しないとも限らない。暴走しても俺のように安定した例もある。その判断が下るまで見ている必要があるし、場合によっては処理する必要もあるだろう」
「それは、あたし達も居たらいけないの?」
確かに大穴を開けた事でジャミング・ミストは外に出て、みんなのハイパーセンサーも本調子に戻っているだろう。
俺がガブリエル達を連れて外に出る事を決めたのも、ここに高速で飛んでくるみんなの反応をキャッチ出来たからだ。そしてそれが分かったのは俺が大穴を開けてから。だからみんなも同行できる条件が整っている事を俺は知っているし、それをみんなも察している。
だが――俺は、首を横に振った。
当然、どうして、と更に問われる。少し視線がキツくなった。
「本音を言えば、居て欲しくはある。だがこれは秋十の本音を引き出すのに必要なんだ。人間は追い詰められた時にその本質が出る」
「そんな事、する必要も無いと思いますが」
クロエが静かに
そんな事は既に分かっている。分かっている事の為だけに、命を危険に晒す必要は無い――――そう言いたげな目をしていた。
内心では俺も同意だ。
転生者・秋十は、前世の記憶をSTLによって抹消されている。だがその思考回路や精神性まで改善された訳ではない。前世の知識・記憶を下敷きにしてきた思考回路はそう易々と変わらない。
秋十にとっては今も俺は『憎い弟』だし、みんなの事は『ヒロイン』でしかない。
仮令、なぜそう思うかを思い出せないとしても、その認識はそのままなのだ。
――そして、それを知っているのは俺達だけ。
世間は秋十の本質を知らない。
「俺達はイヤというほど知ってる。でも、世間は知らないだろう」
ヴァサゴにはああ言ったが、本当は秋十を助けたくなんてなかった。率先して見捨てるつもりもなかったが、場合によっては喜んで見捨てる気でいたのだ。
だが救出し、避難場所に向かった場合、そこには中継カメラがある。事情はどうあれ守れなかったのなら俺に向く非難は少なくないだろう。しかも俺と秋十に投与された“ジェネシスウィルス”に対する抗体があればゾンビ化する事もない。それは秋十を見捨てる公然とした理由を作れない事を意味していた。
もしここでそのまま救出すれば秋十を切り捨てるための理由が得られない。七十五層の時のように己の為なら他者を殺す行動も厭わない秋十を生かしてしまうのだ。
世間からすれば、コアを移植された事で何時でもISを使えるし、他者をクリーチャーにするウィルスを持つ者として俺も秋十も危険度で言えば変わらない。
だからこそ、そこに『人間性』というファクターを加える。
ネットの話として半信半疑のまま浮いている『七十五層事件』の言動、その根幹を為す秋十の人間性を白日の下に晒す。それが俺の狙いだった。
つまり、俺個人の感情で排除するのではない。
秋十が、自らの選択で、世界から拒絶されるのだ。
神童と他者に持て囃され、俺を見下し、自尊心を高め満たしていた奴にとってこれ以上ない屈辱であり、絶望となるに違いない。
勿論、暴走せず、己を律する可能性もある。それでも自衛できなかった点で秋十は俺より低い評価を与えられるだろう。以前の摸擬戦の事も、今回の拉致の事も含めて。
自制したとしても、俺にとっては復讐になる。
だが、これこそが最大の復讐になるだろう。
オズウェルからウィルスを秋十にも投与されたと聞いた瞬間、すぐ考え付いた復讐案の為だけに――怒りがあったのも事実だが――部屋の隅にあったカメラが壊れないよう窒素防壁で護りつつ大穴を開け、この状況を造り出したのだ。
「だから、一人で対峙させてくれ」
そう言って、俺は返答も聞かず踵を返し、出て来たばかりの穴へと戻る。
「ちょ、和人、待ちなさ――――」
すぐ追い掛けて来る気配がしたが、【無銘】の原子操作で穴を塞いだ。後で叱られる事間違いなしの強引な手だが仕方ない。
「――束博士、聞こえるか」
『聞こえるよ。秋十の事?』
「ああ、そうだ」
【無銘】の回線を開き、博士と通信する。
カメラがまだ各メディアの回線をジャックしたままである事を確認した後、国際IS委員会会長としての博士に聞く形で秋十の状態によって今後の処遇を決める流れに持ち込む。
俺の処遇に関しては、無毒化に関しては何らかのウィルスが投与されている事は把握していたらしい束博士により証言を得られたので、信ぴょう性があるとして、ワクチン作成のために協力する事を条件にこれまでと同様の生活を送れるよう約束を取り付けられた。
そして秋十に関しては暴走の可能性、また抗体が出来るか不明である点から良くて監視付きの軟禁。最悪『処理』の指示が下る可能性も示唆された。無毒化可能な抗体が完成済みである点から検体としても不要であるとして、
どうやらコアを介した操作を対策していない秋十をどこも保護したくないらしい。
恐らくだが、
――なんにせよ、これで最低限の備えは済んだ事になる。
通信を終えた俺は達成感すら感じる安堵の息を吐いた。
実のところ、みんなにその場に居て欲しくなかった理由は一つだけではない。
俺は秋十の言動を既に予測していた。
秋十の本質が世界に知られ、世界が、秋十の『始末』を下した時の絶望。そしてかつて見捨てた俺の手で殺される絶望。
それを見た時、俺は間違いなく嗤っている。
脳裏に計画が、そしてそれが実を結んだ果てが鮮明に浮かぶのだ。
『始末』の判断を下された後、カメラにも見られない場所で刃を振るい、憎い相手の命を絶つ。己を称賛していた世界に捨てられ、自らが棄てた“弟”に殺される事を予見し絶望する怨敵を殺す。
絶命した肉塊を前に、哄笑を上げる……
考えただけで嗤いが零れた。
***
二〇二五年七月十日金曜日、十七時。
IS学園地下、和人・七色居室用留置所。
画面は全てが闇に染まった。迸った闇の余波が室内の光源だった蛍光灯を全て割り、光を喰らったせいだった。唯一の情報源となったスピーカーは音割れした轟音だけ伝えて来る。
この分ではカメラも壊れているだろう。
そう思ったが、僅か数秒後、闇が晴れた。画面にはボロボロになった室内が映し出される。カメラの頑丈さと、一瞬で荒廃した様に
私は別に慄きはしない。オズウェルと名乗った男の発言に彼が怒る事も、怒った彼が力を振るえば世界を滅ぼす事も可能だと知っているからだ。
だが疑問を覚えた部分はあった。
彼が放った闇――虚月閃――は部屋の天井に向けられていた。そして闇が晴れた今、部屋には蛍光灯とは違う灯りが入り込んできている。
すなわち、月光。
あの一撃で地下から地上まで幾つもの隔壁や岩盤を貫いていたのだ。とは言え、それに驚きは無い。私はその意図に思考を巡らせていた。あんな大穴を開ければまるで外でわんさかいるらしいクリーチャーを誘っているようなものだ。彼はともかくヴァサゴ、ガブリエルというらしい二人は危ないだろう。
その二人をどうでもいいと思っているなら分かるが……
『二人とも、掴まってろ』
その矢先、彼が武装した大の大人二人を抱え、空を飛んだ。脱出するつもりらしい。
それから一、二分ほどですぐ戻って来た。あの二人はホテルに避難した人達の警備に付く話だと明日奈達から聞いたが、あまりに戻って来るのが速いのは、秋十も連れて行くつもりだからか。
しかし月明りが消えた事が気になる。
それに明日奈達もなぜ一緒に居ないのだろうか。彼女達なら、あれほどの異変だ、すぐ駆け付けて彼を守ろうとする筈だが……
――すぐに帰って来たが、秋十も連れて行く気か? ヤバいウィルスが入ってるって言ってなかったっけ
――助けた人間から感染していって、避難所が地獄と化すのはゾンビ物の定番だぞ
――和人もウィルスあるって話だし、だから帰らなかったとかじゃないか?
――でもそのウィルス、無毒化されてるっぽいこと言ってたが
――あいつ専門家じゃないんだぞ、信じるとかおまえ馬鹿か
――まあ無毒化されてなければ日本でバイオハザードが起きててもおかしくなかった訳だから、和人の場合は本当なんじゃね? 問題は秋十だろ
――このあとどうするつもりなんだろ
――『始末を付ける』って言ってたけど……
コメントの方も疑問に思ったか、凄い勢いで流れていく。
その中で『セブンちゃんはどう思いますか』と質問コメントが流れて来た。
「うーん……和人君の事だから、即刻斬るみたいな事はしないと思うわ。多分ウィルスで暴走しないかとか判断する為に残ったんじゃないかしら」
それに音声で返す。
――現在、あたしは『セブン放送局』のアカウントでライブ配信を行っていた。
PC画面には乗っ取られた放送局のカメラ映像とライブ配信中の枠の二つが映っており、カメラ映像を他の視聴者と一緒に見ているという体を作っているのだ。
あたしがこれをしているのは単に視聴数稼ぎではなく、一種の情報インフラのためだ。
彼の体にウィルスがあったとかとんでもない事実を曝露してくれたオズウェルのせいで、いま世界は混乱の渦中にある。特に彼が過ごしている日本は最大級の混乱と不安が渦巻いていると言えるだろう。こういう時にハッキリしていない事で不安要素を大きくして騒ぐ人間が出る事は必定。その出鼻を挫くために、敢えてあたしは配信をしていた。
なにしろあたしは和人と同じ生活空間で過ごしている人間だ。その人の声や話を聞いて、少しでも安心したい気持ちを持つのは人間の心理。
事実としてライブ配信の視聴数は時間を追うごとに加速度的に増えている。
とても迂遠で、好まれない方法ではあるが、これが後に彼の助けとなる事は間違いない。
彼にとって生活を脅かすのは風評被害や誹謗中傷。少しでも悪い要素があれば、彼を叩こうとする人間は必ず現れる。その人間を抑え込むなら、一度は時の人になった自分が音頭を取る事が有効的だと自負していた。
――帰って来たけど、動く気配が無いな
――そこに居るとさっきの轟音でタイラントとかまた来るぞ。飛んでた方がいいんじゃないか
「和人君ならどんなクリーチャーが相手でも問題無さげだけどねー……」
言いつつ、カメラの奥で地面に倒れている物体を見る。
ドロドロと血を流す肉塊は視聴者曰く『タイラント』と言い、生物兵器の代表格でフィクション作品でもラスボスになる事もしばしばだとか。それを特に怪我や疲労も無くケロリとしている時点で難敵でない事は想像に難くない。
『う、ぐゥ……ァあッ!』
ふと、椅子に座っている人物が身動ぎした。ガタガタと、小刻みに震え始める。呻き声も少しずつカメラが捉え始めた。
程なく彼を縛り付けていた金属の鎖がパキンッ、と音を立てて割れた。
ドサリと床に倒れ込んだ秋十が、ゆっくりと立ち上がる。ゆら、ゆらと左右に体を振っていて覚束ない足取りだ。
和人がゆっくりと、黒刀を正眼に構えた。
『秋十、俺の声が分かるか』
『一夏ァ……!』
『認識はしてるようだな。ならそのまま耐えろ、暴走したら『処理しろ』と国際IS委員会、及び国連から命じられている』
『なにィ……?!』
秋十が目を見開き、愕然とした。
――え、マジで?
――嘘じゃないのか?
――【白式】で、和人みたいに無毒化出来るんじゃないのか。それなのに世界で二人しか居ない男性操縦者を易々と手放すのか……
「……ワクチンなら、既に無毒化の過程で抗体を作ってる和人君が居る訳だし、男性操縦者の重要性って厳密に言えば『男性も使えるようにする研究』という部分に主軸があるから最悪一人いればいいのよ。IS委員会に保護されている和人君が研究に協力的だし、束博士は国家間の関係より宇宙進出を目的にしてるから、ぶっちゃけ男性も扱えるようになったら世界中纏めて使えるようになると言ってもいいわ。だから秋十君を保護した場合のリターンに対し、暴走や感染といったリスクの方が大きくなったのね」
男性操縦者としての価値は確かに稀少だ。
その稀少価値とは、特定の国で保護すればその国の男性だけISを使えるようになるというアドバンテージが見込まれているからで、それ以外は存在しない。『IS操縦者』という点で実力面は評価されているが、男性の彼らのどちらにそれを求めているかは言わずもがなだ。
和人はそこの会長である篠ノ之束や日本政府と裏でガッツリ繋がっているが、表向きは秋十共々NGO団体である国際IS委員会に保護されている形なので、研究データは委員会――つまり加盟国全て――に流れる事になっている。そして彼女の目的は宇宙進出。男性も使えるようになれば現在の宇宙飛行士にそのまま適用出来る訳で、彼女が国益を理由に特定の国には伝えない事はまずしない。そうなれば男性操縦者の価値というのは無いも同然になる。
だからこそ、和人は様々な方面で活動しているのだ。
和人が重要視されているのは男性操縦者だからではない。日本に蔓延る女尊男卑風潮を根絶する事、また《第四回モンド・グロッソ》の優勝で日本経済の復興の鍵になり得るファクターの《実力》だ。勿論、VRMMOの研究、問題解決にも協力的だから日本は歓迎している。男性操縦者でなくなっても彼は必要とされている。
反面、秋十には歓迎する要素が無い。
神童とは言え、和人に較べれば功績なんて無いも同然。実力も信頼性で劣っている。以前のタイマン勝負も完封されていて、恐らく日本を含め、世界のどの国も彼に実力面で期待していない。
秋十に期待されているのは『男性操縦者』としての価値だけなのだ。
男性が使えるようになれば、秋十に特別性なんて全くなくなる。そんな秋十が無毒化もまだな上にワクチンも未入手という状態で、多くの面で価値を認められ、無毒化も済んでい和人と並べた時、どちらを取るか迷う人がいるだろうか。
――仮にワクチンがあっても、暴走の危険性を抱えている以上は保護しなかっただろう。
和人は暴走を自ら封印し、且つ元帥達の前でその力を披露し、更には学園の生徒を助けてすら見せた。本人は暴走と言うが、アレは一つの『変身』だ。
果たしてあの状態に落ち着くまでどれだけの時を要するか。
考えれば考えるほど、秋十は実に不利な状態だ。
そして恐ろしいのは和人が秋十に対して基本干渉していないという事だ。彼は自ら苦難に立ち向かい、結果を叩き出している。以前の試合とて、『本当は二人は使えないのでは』と日本政府への疑いを晴らすための牽制だった。そうして互いの優劣を世間に知らしめる事はあっても、彼自身が秋十を貶めようと動いた事はないのだ。
――けれど、多分コレは違う。
最悪秋十の命を奪う事にもなる今回に限っては例外で、彼も動いた筈だ。
それも、恐らく奪う方向に。
あたしにはその確信があった。
――もし動いてないなら、命じられているとか、そういう事すら口にしない筈だもの。
それはただの憶測。
だけど、確信があった。かつて敵対したから気付ける小さな違和感。彼の本心を、内側に秘める黒い激情を知っているからこそ分かること。
彼は、秋十を殺そうとしている。
そしてそれを望んですらいる。
今の彼は――復讐を、望んでいる。
「――――」
そう気付いた時、あたしの胸中は少し複雑だった。
けれど彼を否定しようとは思わなかった。むしろ、STL内での二人のやり取りを知っているから、よく今も耐えているものだとすら思う。
すぐにでも首を刎ねたいだろうに。
すぐにでも、その
四肢を斬り落として達磨にし、
本当によく耐えている。
「……秋十クンは、耐えられるかしらね」
対外的には、暴走に対して。
胸中では、殺される瞬間に対して。
二重の意味を含ませたあたしの意識は、中継映像へと注がれていた。
はい、如何だったでしょうか。
IS学園辺りですら秋十が殆ど絡まなかったのは和人がわざと干渉しなかったから説。むしろこの方が『秋十どんだけダメな奴なんや……(呆)』感が出ると思いませんか。
七十五層は除くにしても、SAO時代の二十二層デュエルだけ和人の方(犠牲者の死を軽んじられた怒り)から突っ込んでますが……
和人としては『殺したいけどいま殺せないからあまり関わらない方向で』という感じですね。
それが今話で解禁された、そんなお話でした。
・桐ヶ谷和人
前提として、和人は秋十を『復讐対象』として認めており、何らかの形で復讐したいと常々考えている。これまで抑制していたのも『復讐に動いたら今の平和や未来を喪う』からでしかない。
そして今回復讐する事を決断したのは、本人も自覚しているが、『自分一人の感情』ではなく、『世界が危険且つ不要と認めた』という点で正当に動く理由が出来て、後押しされた事が一番の要因。世界が認めた=排除してもそれを理由に命を狙われない確約がある。
二番目の理由は、廃棄孔、ホロウを超克した当時と違い、秋十が『転生者』であり直葉達を『
個人と世界の利害が一致したから復讐する事を躊躇する必要性が無くなったんですね。
しっかり自分の立場は確保している辺り結構抜け目ないが、根本的には『ワクチン協力=みんなとの生活』という思考があるため《獣》との両立もしっかり取れてある意味安定している。
・枳殻七色
『昨日の敵は今日の友』という事で一度敵対した事があり、和人の『どう転んでもいい』というスタンスと『これだけは譲れない』というスタンスの両方を知っているので、ほんの僅かな違和感に勘付けた。
なので和人が人を殺そうとしていると理解した訳だが、特に拒否感は無い。
まあSTL内で二人のやり取りを観測し続けていた訳ですからね。
『秋十が耐えられる訳無い』と和人と同じ予想をしているのは『
・織斑秋十
暴走したら現実からもログアウトさせられる人物。
和人からはおろか、世界からすらも『弟がいるから危険なら要らないよ』と却下されるようになった男。
原作知識があって和人より圧倒的に有利だったのに、生還後も碌に動かなかったから『男性操縦者』としての価値しか持っていない(しかも和人もあるのでプラマイ0)ので生命の危機に晒されているが、結構自業自得なので仕方ない(無情)
マトモな人間性をしてれば情状酌量の余地があっただろうに……
希望になり得るのは『姉』だけだが、果たして。
・織斑千冬
日本代表IS操縦者。
シャルロット視点の情報によればアメリカに向かわされているのは代表候補までなので、千冬は現在もIS学園に留まっている。
《モンド・グロッソ》に向け政府からご機嫌取りされている千冬の意見が和人と束の通信時にも無かったという事は……
今頃中継を見て慌てているだけかもしれませんね()
では、次話にてお会いしましょう。