インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 待たせたな!

視点:束、和人、千冬

字数:約七千

 ではどうぞ。 


※今話は後書きありません




Chapter3:怨嗟の魔獣 5

 

 

日本標準時 2025年7月10日 18:05

国際IS委員会本部、会長室

 

 

 和人が電脳ダイブした瞬間を契機に作戦が開始されてから、私の目の前には合計三枚のディスプレイが表示されていた。一枚は【黒椿】を介した直撮りのリアル中継、一枚はそれを閲覧する委員会公式ホームページの中継動画、そして最後は新たに追加された電脳ダイブの監視ログだ。

 曲がりなりにもネットワークの一つなので如何なる手法であれ痕跡は残る。それを前提に逆探知を含んだ作戦を立てたのだから、むしろ残ってもらわなければ困ると言える。

 次善の策として義娘クロエにも声を掛けてあるが、果たして【黒鍵】がどこまで有効かは定かではない。

 

 現実で獣が吼えた時。

 

 電脳ダイブした和人と千冬は同じ場所に降り立っていた。

 どこまでも続く岩肌の大地と、星々が煌めき、星雲が漂う夜天の世界はどこか幻想的だ。同時に生の気配が薄く、不気味にすら感じられる。

 そこに降り立った二人は既に臨戦態勢にあった。和人はSAO時代の黒の外套姿で、手には一本に合わさった両刃剣が握られている。隣に並ぶ千冬も【暮桜】――鋼色に白の線を入れた【打鉄】のような見た目――を纏い、雪片を正眼に構えている。

 両者が見据える先は天の向こう。

 

 夜天には、一人の男が佇んでいた。

 

 セフィロト・プログラム。秋十を依り代に現界した時と同じ姿カタチの男性は、左手に身の丈を超える長刀を提げ、天から降り立った二人を悠然と迎え入れていた。

 その右手が持ち上げられると、男の背後に巨大な瓦礫、岩塊が出現。

 手が振り下ろされ、焼き直しのように複数の岩塊が二人に迫る。

 

一夏(かずと)!』

『俺に構うなッ! この程度、自力で何とかするッ!』

 

 一瞬、千冬が一緒に退避しようとする素振りを見せたが、和人はそれを拒否した。迫りくる数十メートル級の岩塊に真っ向から挑むなど、行動でもそれを示していた。

 無茶だ、と千冬が頬を引きつらせた。

 

『ハァッ!!!』

 

 しかし、その心配は杞憂であるとでも言うように、和人は岩塊を真っ二つに斬り裂いた。

 現実でも不可視の斬撃を飛ばして岩塊を斬り裂けるのだ。その経験は、彼に強固な自信を抱かせ、『出来るかどうか』という不安を吹き飛ばす。『出来る』という経験に基づいた確信があるからこそ瞋恚はより強固になる。

 現実世界で出来る事を仮想世界でもこなす、という本来とは真逆の現象が起きていた。

 一つ、二つ、三つと立ちはだかる岩塊、瓦礫群を次々斬り裂いたその先にセフィロトが待ち構えていた。全力で斬りかかった和人の剣を、セフィロトが長刀で受け止める。

 慣性を受け、二人が岩塊の空から上へと抜ける。

 その最中、セフィロトが酷薄に微笑んだ。

 

『お前への贈り物を考えていた。”絶望”を贈ろうか』

 

 そう言って、刃が弾かれ、両者の距離が開く。

 そこで、現実側では獣がクロエに斬りかかり、【白式】コアを取ろうとしていた。

 

『マズい。三つ目を移植する気だ!!!』

 

『『なに……?!』』

 

 私が張り上げた声はマイクを介して電脳ダイブ中の二人にも届いたらしい。二人の驚愕の声が上がり、同時に現実の空には無数の隕石が出現した。

 

 ――同時、電脳世界にも変化が訪れた。

 

 星雲が見える夜天を埋め尽くす数の隕石が姿を表したのだ。

 

『足掻いてみせろ』

 

 それを見上げたセフィロトが、唖然とする和人を見て薄く嗤う。

 

『そして全てに絶望し、”私”を受け入れろ』

 

 言外に、全て喪えと男が言った。

 

『――断るッ!』

 

 歯噛みし、吼えた和人が再度斬りかかった。千冬も途中で交わり、三人は踊るように軌跡を描きながら斬り結ぶ。

 正直、形勢は芳しくない。

 電脳世界にダイブした事で和人自身の戦力は大幅にアップしているのは確かだ。戦力的に、おそらく千冬と同等レベルにある。世界中どこを探してもあの二人ほどの実力者はそう居ない。

 しかし相手が悪過ぎる。

 ブリュンヒルデのデータと【無銘】やSAOのログから和人の技術の全てを知るセフィロトは、あの二人の手の内をほぼ全て知っている状態だ。とは言え、それはその参考元になった二人も同じこと。三人ともがお互いの手の内を知っているからこその千日手に陥ってしまっている。

 いわば拮抗状態。

 和人やリーファ達が参戦した時の圧倒ぶりから見れば大きな前進に違いないが、しかし流星群の存在がその喜びを打ち消して余りある。

 

「クソッ、他になにか出来る事は……!」

 

 出来る手はもう打った。

 三つ目のコアを移植し、メテオを多数生み出した獣に対し、新たに十三体のアバターを作り出す事で同じ手を使わせないようにもしている。予め控えてもらっていた事が功を奏し、現状は計二十六もの元攻略組プレイヤー達が一堂に会していた。新たにコアを移植されでもしない限りもうメテオは作られない。

 電脳ダイブさせられる者も限られている。

 作戦を説明している時、織斑千冬も参戦することを明かすか否かはギリギリまで迷った。なぜならVTシステム発動のトリガーはブリュンヒルデに対する強い憧憬だからだ。

 つまり電脳ダイブする者は、彼女に対する憧憬よりも更に強い想いを抱いている者でなければならない。無論、それに加えてIS操縦者であり、且つあの二人と同等レベルの実力者という条件もある。

 

「いっそあの小娘に……いや、でも……!」

 

 ふと、更識楯無をダイブさせる事も考慮したが、すぐに首を振る。

 あの娘も和人に懸想する一人。安易に千冬への憧憬を抱き、VTシステムを起動させるとは思えないが、実力面に不安がある。

 彼女単独の力は十分だ。問題は、和人と千冬双方と連携を取れるかという一点にある。

 連携の面ではあの二人もどっこいどっこいだが、お互いが『剣士』というスタイルであり、更にどちらも過去の戦闘ログを見合っているからか初めての連携とは思えないほど息が合っている。

 そこに『槍使い』という異物が紛れ、果たして今以上の戦力を叩き出せるかという不安があった。

 万が一綻びが生まれれば、そこから一気に突き崩される可能性すらある。

 電脳ダイブした者に敗北は許されない。

 『全ては私となる』という発言がそれを裏付けているのだ。その意識(フラクトライト)までもセフィロト・プログラムに冒され、上書きされる恐れがある。プログラムデータで意識を上書きする事は秋十に対して出来たことだ。ブリュンヒルデへの憧憬でVTシステムが起動するか、セフィロトに意識を上書きされるかすれば敵が増えてしまう以上、無暗に味方を投入しても木乃伊取りが木乃伊になるだけ。

 ぐるぐる、ぐるぐると思考が回る。

 そうして焦慮と混乱に当てられた私は、思わずあらぬ事を呟いていた。

 

「もしも、私のIS全てが協力出来たなら――――」

 

 それは、単純な思考だった。

 世界に467個存在するコアのどれかにセフィロト・プログラムが入り込んでいれば、コア・ネットワーク上のセフィロトを倒しても再アップロードされて意味がない。だから和人だけが影響を受けている今、全てを終わらせようと働きかけた。

 そこに、全てのコアの意志――――すなわち、瞋恚が和人に働きかけたなら、あるいは。

 そんなあらぬ希望が口から零れ出ていた。

 

 

 

『これで終わらせる』

 

 

 

 そのとき。

 少年の静かな声がきこえた。

 

 

 

***

 

 

????

 

 

 

 

 それは唐突だった。

 

 織斑千冬と二人でセフィロトと斬り結んでいた俺は、いつの間にか一人、どことも知れぬ草原の(ただ)(なか)に立っていた。

 唖然としていると、ざぁ、と風が吹いた。

 果ての見えない草原が風に揺れ、ざわめきを上げる。揺れる青草は月光を照り返している。どこまでも澄み渡る蒼穹の彼方にまん丸の満月が輝いていた。

 

「……心象世界か」

 

 思いのほか落ち着いた思考で、俺はそう結論を出した。

 これまでも幾度か訪れた世界だ。風景は毎回変わっていたが、得てして身体的苦痛から解放されていた事は共通している。いつの間にか迷い込んでいる事も含めて慣れてしまっていた。

 だとすれば、随分と平和的になったものだ。

 人格が分かれていた頃は世界が滅んだ世界(守護人格の世界)無人の摩天楼(シロの世界)血みどろの世界(獣の世界)とかなり物騒な風景ばかりだった。今の世界も無人ではあるが、月光に照らされた草原は平和の極みと言える。

 もしこの世界が、予想通り俺の心象世界だとすれば――

 

 

 

「ここは、”私達”の世界です」

 

 

 

 ふと、背後から声を投げかけられた。

 振り向けば、草原のただ中に一人の女性が大きな剣を自らの前に立て、その上に両手を預け、佇んでいた。白く輝く甲冑を纏い、目をバイザーで覆っている。

 その出で立ちは真の初代IS(【白騎士】)そのもの。

 そして、甲冑を纏う人物の容姿は、ブリュンヒルデそのものだ。声から威圧感こそ取れているが、代わりに神秘的なものを感じさせる雰囲気がある。透き通る声、という表現がピッタリだ。

 ――その存在を認識した俺は、この世界が何なのかをハッキリと理解した。

 俺の心象世界なら自分以外の存在は居ない。だからここは騎士が言う世界――つまり、【黒椿】か【白式】の世界で、この騎士はコアの人格。

 

「こうして会うのは初めてですね、マスター」

「ああ……アンタは、【白式】か」

 

 白色が基調だからと安易な予想を、白い騎士はかぶりを振って否定した。

 

「じゃあ、【黒椿】?」

 

 続けてもう一つのコアの名前で問う。

 

「――それは、私の名前だよ」

 

 すると、背後から少女の声がした。

 振り向けば、俺よりちょっと背が上――出会った時のユイくらい――の黒髪、白ワンピースの少女が立っていた。麦わら帽子の下から見える顔はどこか利発そうな印象を与えてくる。

 かつてのユイは透明感が前に出ていたが、こちらは快活な印象が先行している。

 

「あんたが【黒椿】、なのか」

「うん。一度コアが初期化されて、生まれたコアの人格」

「……コアの意志は、初期化される度に新しく生まれるのか」

「そう。統合される事もあるけど、残る事もあるの。まあ私はマスターに触れられた時に生まれたんだけどね」

「そうなのか」

 

 どうやらISコアは初期化の度に人格が生まれ、進化の過程で統合か共存かが決まるらしい。この分だと形態移行は含まれないのだろう。

 もしかしたら二次移行すれば少女姿の【黒椿】も大人の姿になるのかな、と割とどうでもいい事を考えていると、ユイによく似た姿の少女が背後の騎士を見た。

 

「彼女は初期化される前の”私”。名前は……マスターなら、分かるよね?」

 

 そう言われた俺は、再度正面を見る。

 白色の騎士は変わらず滞空し、こちらを静かに見つめてきている。バイザー越しでも分かるその眼差しはどこか優しさを感じる。

 面影のせいで違和感があるのはブリュンヒルデに失礼かもと考えつつ、俺は予想を口にした。

 

「……【白騎士】、なのか」

 

 その言葉に、今度こそ騎士の女性は頷いた。口元に微笑みが浮かんだ。

 姿を見た時から抱いていた印象が正鵠を射ていて、ほんの少し驚いた。【黒椿】に使われているコアが【白騎士】に使われていたものだった事の方が驚きだが。

 ――【黒椿】の少女の言葉を信じるならば。

 俺が機体に触れるまで、あらゆる操縦者達を拒んできた原因は【白騎士】の人格にあるという事になる。そこは気になるところなので理由を聞いてみたいが、今はそんな時ではないと思考を隅に追いやった。

 

「それで、何故俺を二人の世界に? いま現実で、電脳空間での戦いを知っているとすれば、猶更理由がわからないんだが」

「慌てなくても大丈夫だよ、マスター。この世界の時間は、一千倍くらいに加速してる。あっちの一秒はこっちの十五分くらいだから」

 

 どうやらISはSTLと同じように電脳空間の時間加速が出来るらしい。《ナーヴギア》などとは異なるアプローチでのフルダイブとは聞いていたが、よもやSTLと同じ、脳細胞を支える骨格《マイクロチューブル》内を走る光子《フラクトライト》を読み取り、反映させるタイプとは思わなかった。

 

「……あの電脳空間もそう出来たらいいんだが」

 

 【黒椿】に明かされた事実から、俺はそう切実に思った。

 

 

 

「出来るよ、それ」

 

 

 

「――なに?」

 

 そう、あっけらかんと少女が頷いて、逆に俺は驚いた。無理だろうなと思っていただけに驚愕は大きい。【黒椿】の初期化前が【白騎士】だった事実を知った時よりも大きかった。

 

「コア・ネットワークは私達、ISコアが作り出すもの。コアの全てが協力すれば、演算速度の限り何万倍にも加速出来る。加速しなければ、マスターは相応の思考速度を得られる」

 

 言いながら、【黒椿】が俺と【白騎士】の間まで移動した。

 

「どうするかはマスターに任せるけど――一つだけ、条件があるから!」

 

 それから、ズビシ! と指を突き付けてくる。鼻先まで迫った指を見て僅かにたじろいだ俺を見て、【黒椿】は笑った。

 

「”私達(みんな)”で力を貸すんだから、絶対勝ってよ! マスター!!!」

 

 快活に【黒椿】が言った、その時。

 彼方まで広がる夜の草原に、所狭しと何百もの人影が現れた。口々に、思い思いの事を告げては光となり、俺の体に入っていく。それは【黒椿】も例外ではなく、薄紫の光となって胸へ溶けていった。

 最後まで残った【白騎士】も、仄かに光を放ち始める。

 その輪郭が朧げになっていく。

 

「我々の”力”を、貴方に預けます。そして”名”も」

「名……?」

「そう。”名”を知るのと知らぬとでは自ずと出せる力に差が生まれますから」

 

 言われ、そうだな、と納得する。

 具体的に例を挙げての説明は難しいが、感覚的には、【白騎士】が言わんとする事は理解できた。自己暗示を含めた瞋恚は詠唱する事でイメージを固めるから、そちらの方がより近いと言える。

 どんどん体を薄れさせていきながら、【白騎士】が言葉を紡ぐ。

 

「其れは、全てを統べる者。善を敷き、悪を従え、この世全てを担う者。名を――」

 

 

 

王理絶征(おうりぜっせい)

 

 

 

 光へと解け、胸に溶け込んだ瞬間、その声が流れてきた。

 直後、俺の視界は光に包まれた。

 

 

 

***

 

 

コア・ネットワーク電脳空間

 

 

「ふっ」

「くっ……!」

 

 こちらを見下す嘲笑と、私の歯噛む声と共に、刃を交わす。【暮桜】と共に機械的な日本刀・雪片も完全に再現されているものの、こちらの手を知られているせいでセフィロトには未だ一撃もクリーンヒットさせられていない。

 逆にあちらの攻撃も直撃は無いが、男の様子を見るに、まだまだ余裕を残している事は明らかだ。

 スラスターを吹かし、一度横を通り過ぎて距離を取る。

 そこから反転し、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を連続で行い、角度の微調整を行いつつ猛襲。勢いそのままに雪片を振るうが長刀で往なされてしまった。

 返礼とばかりに炎や瓦礫を飛ばされるが、その全てを半ば反射で斬って捨てる。

 山田先生との模擬試合でばら撒かれる弾幕と比べればサイズも弾数も劣るそれは、対処するのに然して苦労は感じない。むしろその防御行動で生まれる隙に何時食いつかれるかが緊張の素だ。

 いや、それだけではない。

 私はアミュスフィアを始めとするフルダイブは無いし、電脳ダイブも数度行っただけしかない。ましてや電脳空間での戦闘経験など無いに等しい。

 現実での剣道やIS戦闘と違った独特の感覚がどうしても私の剣筋を鈍らせる。思ったより飛びすぎたり、遠かったり、思っていたより動きにくかったりとどうにも感覚がチグハグだ。

 見て反応できているから何とかなっているが、そう悠長にもしていられない。

 流星群が大地に落ちるまでもう十分も無いだろう。

 私の胸中を焦りが塗り潰していくのが分かる。

 

 光が瞬いたのはその時だ。

 

 発生源は一夏(かずと)からだ。

 ほんの数瞬目を閉じていた少年は、次に目を開いた時、僅かに雰囲気を変じさせていた。その身から迸る青白い輝きがそうさせているのではない。

 かつて幾度となく見てきた決戦に於ける剣士の顔だ。

 追い詰められているこの逆境を前に尚屈さず、覚悟を固め、剣を振るわんとする姿だ。

 

 

 

「これで終わらせる」

 

 

 

 

 静かに。

 本当に静かに口にした後、猛速で空間を飛んだ。青白い輝きを放ちながら斬りかかる。セフィロトは、それを受け止める。

 その背後に狙いを定め、斬りかかろうと構えた。

 

 ――瞬間、光が弾けた。

 

 パァンッ! と乾いたものが割れる音。

 それは一夏(かずと)が持つ両刃剣が二本の片刃剣に分裂した音であり、空間に新たに現れた《ⅩⅢ》と呼ばれる武器群が展開された音でもあった。

 いずれも青白い光を纏っているそれらは、ごうごうと青の炎を(くゆ)らせ、姿を変えた。

 

 現れたのは、『()』だ。

 

 翡翠の長刀、紫紺の直剣など覚えのあるものから記憶に薄いものまで多種多様のそれらは展開された十三種の武器を上書きするように形を変え、この世界に現れた。

 まるで、彼に寄り添うかのように。

 一夏(かずと)が右手に持っている黒の片刃剣はギア型の鍔を持つ剣(エリュシデータ)に、白の片刃剣は翡翠の長剣(ダークリパルサー)へと形を変えていた。

 

 ――だが、変容はそれだけに留まらない。

 

 真の奇跡は更に上、私達の上空に存在した。

 剣士の光に照らされ、月光と星明りが薄れた夜天のそこかしこが徐々に輝きを強めていき、不意に星達が動き始めたのだ。星雲すらも動き、世界が早送りしているかの如く空が回り始める。

 色とりどりに輝く星々が光を細く、長く引いて、夜空に巨大な虹を描き、少年へと収束していく。

 少年は虹色の滝を一身に浴び、その全てを吸い切った。

 その身と展開された武器から立ち上る光は、虹色の炎へと変わっている。武器の色は元が何だったか分からないほど七色に輝いていた。

 

「お……おおおおおおおッ!!!」

 

 そして、少年が素早く斬りかかる。

 ――そうと認識したのは、虹色の軌跡が空を染めた後。

 気づいた時には、セフィロトの背後へ斬り抜けていた。一拍遅れる形で男が呻きを上げる。次いで振り返るが、その時点で少年は次の手に移っていた。

 虹の軌跡を残し、展開された武器を左手に次々と持ち替え、二撃、三撃と攻撃を重ねていく。

 そうして、展開された十三種の武器で攻撃を終えた。両手の武器で行っていたから都合二十六連撃。

 だが、まだ終わりではない。

 四方八方から滅多切りにし、児戯のお手玉の如く無防備な姿をさらすセフィロトを、頂点から見据える少年がいる。その手には残る最後の一本の武器が握られていた。

 

 かつて存在した、浮遊城で得た究極の剣。

 

 剣士としての道程の証。

 

 想いを託され、全てを救った英雄の証明。

 

 

 

「これで最後だ」
 

 

 

 

 二十七連撃目。

 七色の輝きを収束させたその一撃が、片翼の天使の心臓を貫いた。

 

 

 

 ――瞬間、膨大な輝きが世界を埋め尽くした。

 

 

 

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