インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは。
連続投稿、しかし導入なので字数は少ないのだ……
視点:キリカ
字数:約三千
ではどうぞ。
Prologue ~芽吹く命、息づく世界~
茜色に世界が染まる。
遠く遠く、
行き交う人。
飛び交う談笑。
世界はいま、活気に満ち溢れていた。
――その中で、一人の少女が目に留まる。
静謐な空気を纏った少女は、そこに居ないかのように誰からも意識されていない。ただ自分とだけ目が合っていた。
頭上に示される黄色の表示が彼女の素性を表している。
なればこそ、疑問があった。数十メートルの距離があり、会話もしていない自分を何故凝視しているのだろうか、という疑問だった。
ふと、少女が視線を切った。
踵を返そうとするその姿に思わず手を伸ばす。呼び止めようとして、名前を知らない事に気付いた。じっと少女を凝視する――――
その時、行き交う人が視界を遮った。
視界に割り込んできた人が立ち去るまでに要した時間は一秒。
そのたった一秒で、少女の姿は消えていた。
《SAO》、そして《ALO》と続いてきたフルダイブ技術の広がりは、やがて新たなゲームの誕生へと繋がっていく。
今から約二週間前の7月21日。あらゆるVRMMOプレイヤーだけでなく、世間を騒然とさせるゲームのベータテスター予約開始宣言が何の前触れもなく、突如として開始された。
そのゲームの名は【Sword Art:Origin】。
【Sword Art Online】と名前が似ているだけでなく、システムの根幹やオブジェクトグラフィックなど、様々なゲームデータが《SAO》からの移植とあって誰もが驚きを露にした。
最終的に二百余名の命が喪われたデスゲームに酷似した、三つ目のVRMMO。
当然のように世間からは批判の声が上がった。それを助長したのは、今や仮想世界と現実世界両方にとっての英雄・桐ヶ谷和人すらこの企画について一切認知していなかった点もあるだろう。《SAO事件》、《クラウド・ブレイン事変》、そして《ヴァフス事変》からなるVRMMOの現三大事件解決の立役者が知らなかったのは、世間にとって相応の不安の種になり得たのだ。本人はゲーム制作に過去関わった事がないから過剰な期待ではあるが、世間からすれば『居れば問題が起きても大事にはならない』という認識だった。
とは言え、それら批判に対する根回しはある程度終わっていた。
須郷などが画策した実験は出来ないと改めて安全性を打ち出された《アミュスフィア》の使用と政府機関――総務省仮想課――による運営会社《ユーミル》の監視。つまりその契約を介し、オリジンに和人も介入する事が報じられた。
更に続報で公開された開発協力には、SAOのデータを提供した《茅場晶彦》の他、《BIA》が現在唯一の公的機関の所属となる《枳殻七色》、プログラミングや運営調整などで《篠ノ之束》、デバックや問題発生時の対処要員として《桐ヶ谷和人》が名を連ねた。
最後にはフルダイブ技術の発展のため様々なデータを取るべく開発したと、オリジンの開発目的も大々的に発表。
そこに《茅場晶彦》も加わり、須郷信之によって残念な結果になったSAOを、続編という形ではあるが改めて作りたいという意志を表明した。
全体的に政府に対して批判的だった世間は、茅場の表明である程度鎮静化する。監督不行き届きとは言え、須郷の企みはあまりに狡猾で、今も世界を脅かすテロ組織《亡国機業》が関与していた事は《ⅩⅢ》やセフィロトの件から明らかなため、同情的な方に傾いたのだ。夢を追い求め、実現させた偉業への敬意や事件後の対応が良かったのもあるだろう。
潔白な茅場の開発全面協力、更に現在ALOの運営を続けている《ユーミル》職員や公的機関による監視、桐ヶ谷和人の介入などを知った世間は、一旦様子見となった。
何事も無ければ、悲惨な事になった初代の後継作を遊べる。
問題があればその時だ、という認識。
慎重派の人間は『クラウド・ブレイン=SAOサーバーが関与した例がある』と踏み留まるよう声を上げてもいたが、元来人間とは欲望に生きる生物である。大丈夫そうな要素――この場合は和人の存在と実績――があるからと己に言い訳してプレイする事は想像に難くなかった。
ベータテスター応募開始が21日で、終了が24日。
そしてテスト開始が8月1日。
話題性に富むからか応募期間をたった四日間にしたのは強気な判断だが、その俊敏性は、あまり長くすると計画に反対する人々の反発が強くなり、開発が頓挫する危険性を考慮したからだと思われる。
見方によっては、それはあの事件で亡くなった243名の死者を忘れたような判断だ。
《SAO事件》の最初期、《ナーヴギア》を外してしまった事で喪われた人々の事を慮るからこそSAOを思い起こさせる作品の開発に反対する声も少なくない。あの出来事が今もトラウマになっている人は多い。忠告を無視してでも助けようとするほど大切な家族を殺めてしまった遺族こそ、慙愧の念は強い。
そもそも事件終了から一年を待たずして酷似した作品を作り出す事が倫理的に外れている。
そんな企画を政府が推す、という事は。
裏でそうせざるを得ない事態が進行していると見るべきかもしれない。
そう考えている俺は、しかしそれを誰にも言っていない。オリジナルや茅場、七色、束博士達が何も言ってこないならむしろ触れない方がイレギュラーな事態を招かないと考えたためだ。
――それに、技術に罪はない。
忌むべきは須郷であって、茅場やVR技術ではない。
それを受け入れられないほど感情的で余裕のない人間は、オリジンの誕生を受け入れる者より少なかった。とある掲示板では『亡くなった人にトドメを刺したのは遺族達だろう』と醜い言い争いに発展し、オリジナルや茅場が制止の声を上げた事で一旦鎮静化した程だ。無論細々とアンチが湧くが、今はもう取り合われていない。
そうして世間の騒動が収まりを見せていく中、テスター応募開始と同時に茅場晶彦から全SAOプレイヤーに向けたメールが送られてきた。
それは全SAOプレイヤーへの謝罪も籠めたオリジン・ベータテストの招待状。スペックアップしたサーバーを用いてテスター2万という大きな枠を用意した中で、その半分を元SAOプレイヤーに確保した形だ。曰く、自身の監督不行き届きのせいでデスゲームとなり、純粋にSAOを楽しみにしてくれていたプレイヤーへの贖罪の気持ち、らしい。
応募締め切り後に《ユーミル》が発表した情報では、元SAOプレイヤー9000余りの内、招待状を返してきたのは2000にも満たなかったという。よって残りの18000余りが一般応募枠に使われる事になった。
SAOに夢を見て踏み込んだ者達も、ベータテストとは言えもう一度酷似した世界に踏み込むのは二の足を踏んだようだった。興味はあっても安全性などを確かめるため様子見を選択したのが全体の八割を超えるのだから相当な割合である。
では残る二割がどういった考えで応募したのか。
ただ楽しむためか、あるいは怖いもの見たさでか。
――俺達はどちらも違う。
二年を過ごしたあの世界は、俺達にとってもう一つの現実そのものだ。そこで出会った俺達の繋がりは今も連綿と続いている。
故に、俺達の中に、仮想世界に対する恐怖はない。
なぜなら――
原典ゲームのモノローグにちょこっと改変を加えたのが今話。
地味にゲームヒロインとキリカが立場的に近いというね……
キリトとキリカ、そしてホロウとか、ヒトの可能性満ち溢れすぎてる人物と接したらプレミアとティアとゼロは一体どうなるのだろうか(オマワリサーン)
メタ的に創造神カヤバーンが《大地切断》する気満々だから本作コンセプトの『過程』が重要になる新章。ホロリアといいトワイライトといいリコリスといいインテグラル・ファクターといい、公式はとてもいいネタを作ってくれたモンだ……!
では、次話にてお会いしましょう