インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 三話目(実質二話目)だコラァ!(無礼)

視点:キリカ

字数:約二千

 前話のPrologueと合わせて一セットだけど敢えて分けたのは内容を鑑みての事だヨ!

 ではどうぞ。




Prologue ~正しい世界(ゲーム)

 

 

日本標準時 《2025年8月1日 PM5:30》

 

 

 夏の日差しが本気を出し始めた月始め。日が傾くも、まだ茜色には遠い夕方に《Sword Art:Origin》は始まりを告げた。

 それは奇しくも、前身である《Sword Art Online》がデスゲームとして変貌した時間だった。

 間違いなく意図的に合わせたのだろう時間は、創造主曰く、”やり直し”を意識したものだという。デスゲームとして始まったあの瞬間を塗り替えるように、今度は純粋な”ゲーム”としてのSAOを意識させようと考えた結果なのだと。

 それでいて、現実と同期して世界がまだ昼の明るさを保っているのもやはり同じなのだろう。

 まあ現実の気象情報を再現しているから必然的にまだ茜色の夕陽になっていないと、メタ的な視点から言えばそうなのだが、やはりそれは風情がない。

 そう思ってしまう程度には感傷に駆られる。

 

「帰って来ちゃったなぁ……」

 

 心境を表した嘆息が漏れる。

 どう控え目に見ても異常に近い行動だが、自らの意思でここに来た以上言い訳はできない。確かな恐れと共にそれ以上の好奇心を抱いたのは事実なのだ。

 その複雑な心境を含んだ息を吐きながら、俺は天を振り仰ぐ。

 かつてであれば第二層の大地となる天蓋が空を覆いつくし、大地の彼方には等間隔に外周に柱が並んでいたが、そのどちらも見当たらない。建造物の意匠は酷似しているし、ゲーム開始地点である大鐘楼広場や中心部にある漆黒のドームは記憶通りの形状だ。どこからどう見てもアインクラッドそのものである。

 しかし――ここは、アインクラッドではない。

 この世界にあるのは浮遊城ではない。浮遊城が創成されるよりも遥か以前の世界、どこまでも広がる広大な大地【アイングラウンド】なのだ。

 右手を振れば、ちりりんと懐かしい鈴の音と共に覚えのある半透明の()(けい)のメインメニュー・ウィンドウが呼び出される。左側に幾つも並ぶメニュータブの一番下に《Log Out》ボタンがしっかり存在していた。

 はぁ、と安堵の息。

 

「まぁ、流石に同じ轍は踏まないわな……」

 

 仮に同じことが繰り返されれば今度こそ茅場は業界から追い出されるだろう。なまじ政府機関の監視があるから、批判も尋常じゃなくなる事は目に見えている。

 地味にVR技術の存亡が掛かっている点だったから気になっていたが、杞憂に終わってくれたようだ。

 心配事が片付いた俺は、気を取り直し、自身の装いに目を向ける。

 左にメニュータブがぎっしりと並ぶメインメニュー・ウィンドウの右側には装備後の全身像を360度どこからでも見まわせるビューワー機能が付いた人型のシルエットが表示され、その周囲を自分のアイテムの装備状況を端的に示す装備フィギュアがぐるりと囲っている。俺が目を向けたのはその人型のシルエットだ。

 容姿はこれまでと同じ黒髪黒目、華奢で低身長のアバターだ。

 武器は初期装備の片手直剣(スモールソード)。防具は胸部を守るレザーアーマーとオープンフィンガーグローブ、衣類は黒地の半袖、革の長ズボン。

 どこからどう見てもオープニング・セレモニー直後からホルンカ村まで過去の自分がしていた装いそのもの。事前に告知された通り、装備グラフィックもSAOの流用なのは本当のようだ。

 

「……これじゃダメだな」

 

 そこで、自嘲を零す。

 デスゲームの事ばかり考えるだと気分が上がらない。それは命のやり取りを真剣にやるべきという強迫観念にも似た考えがあるからだ。

 しかし、オリジンはただの”ゲーム”である。

 SAOのベータテストと同じなのだ。誰も本当に”死ぬ”ことなんて無い、ただ楽しむ事だけが目的のゲームの世界なのだ。

 何時までも過去を引き摺っていては、茅場の思惑(気遣い)が台無しではないか。

 なによりせっかく楽しめる場に来ているのに楽しまないのは勿体無い。

 ――だから、これは最後の確認。

 俺は街の中心へ歩を向けた。周囲のプレイヤーが商店街や噴水広場など三々五々に散っていく中、何れの流れにも合流せず直進した先には、黒いドームが屹立する。黒光りする鉄柱と鉄板だけで組み上げられたそれは《黒鉄宮》だ。

 石畳を進んでいくと、人気がなくなり、昼間だというのに寒気を覚える。

 それが徐々に黒鉄宮から漂う冷気だけでない事を俺は理解していた。

 

 

一瞬、過去を幻視する。

 

 献花の束を持ち、夜闇に沈む黒鉄宮へ進む過去の己が視えた。

 それは瞬きの内に消えて、元の昼間の光景に戻る。

 人影も消えていた。

 

「……」

 

 無言のまま、歩みを再開する。

 日焼けしたレンガが、黒鉄宮の青白い石畳になってから冷気は一層強くなったように感じた。青みがかった篝火に照らされる内部に当然ながら人気はない。人影もない。

 そして、黒い石碑も無くなっていた。

 

「はぁぁぁ……」

 

 何もない、篝火に青く照らされるだけの空間である事を確認した俺は、今日一番の安堵の息を吐いた。よろよろと壁に手を突く。

 かつて、旧SAO黒鉄宮内部には《生命の碑》という石碑が存在した。黒一色のそれは囚われた全一万人のアバターネームがアルファベット順に並び、HP全損者の名前は黄色の二重線が横に引かれ、その横に端的な死亡原因が表示される。

 あの世界で『プレイヤーの死』を証明し、且つ『墓標』となる役割と担ったのがその石碑だったのだ。

 かく言う自分も一人で、時には仲間と共に墓参りをしたし、ボス攻略で死者が出た時はレイド参加者と希望者で簡単ながら葬儀も執り行った。把握している限り攻略組の全ての葬儀には出席しているから、三桁に上るくらいは死を見送っている事になる。

 元々ベータ版の黒鉄宮に『死に戻り』の場所として機能するだけだった。本製品版も、その予定だったのだ。

 そして《生命の碑》なんてものが無い今、ここは再び本来の役割を担うだろう。

 かつてのベータテストと同じ状態の黒鉄宮を見て、『もう”あの頃”とは違うんだ』という明確な実感を持てた。

 

「――さぁ、今度こそ”娯楽(ゲーム)”を楽しもう」

 

 今一度、心機一転して一歩を踏み出した。

 心境はSAOベータ(かつて)と同じ、わくわくに満ち溢れていた。

 

 






・黒鉄宮
 《はじまりの街》に存在する黒いドーム型の建造物
 デスゲームSAOには《生命の碑》が存在しており、キリト、キリカをはじめ全ての元SAOプレイヤーにとってトラウマオブジェクトそのもの
 《生命の碑》がないからと言って、デスゲームでないという証明は成り立たない
 しかし、元SAOプレイヤーにとっては何よりも安心できる証明となる
 まあSAOベータテスト含めて一度も黒鉄宮のお世話になった事無いんですけどね(ラディウス戦以外で死亡ゼロ)

 ちなみに原作ALOの新生アインクラッドには《剣士の碑》という各フロアボス討伐のリーダーの名前が刻まれる碑文が存在する(原作七巻、マザーズ・ロザリオにて登場)


・キリカの安堵
 あの世界でキリトの次に『人の死』を見てきたからトラウマがあってもおかしくないよねって
 忘れられてるかもですが、キリト&キリカが戦う理由には『守るため』だけでなく、黒猫団やリーファ・シノン誘拐をキッカケとした『喪う恐怖』もあるので……

 ――それらから解放された今、キリカが楽しまない理由はない

 尚、裏ではいろいろと進行中の模様(菊岡、カヤバーンを見つつ)


 では、次話にてお会いしましょう。

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