インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは。
サブタイの『仮初』は仮想世界の事、更にNPCの事を含んでおります。
あとがきでも今話の事をサラッと纏めています。
視点:キリカ、????
字数:約九千
ではどうぞ。
《ソードアート・オリジン》のフィールドである
この地へ赴く際には始まりの街の転移門を介し、リューストリア側の転移石へと転移する過程を踏む。更に各エリアのそこかしこには転移石が設置されており、目的に合わせて転移先を選ぶ事も可能だ。
ただし転移石のアクティベート化はプレイヤー個人、パーティーならリーダーに準拠しているため、誰かが解放した最前線にすぐ飛べるというお手軽仕様ではない。
そんな仕様とβテスト開始から半日も過ぎていない事を踏まえ、俺は野盗面な甲冑男の転移先候補を絞った後、転移した。
――候補を絞ったとは言うが、実際は総当たりである。
候補の転移先へ転移して、男と女性店員が見当たらなければすぐ次の候補へ転移……というのを繰り返すだけ。
これはまだ開始初日だからこそ打てる手だ。SAO時代では目的地含めてのボイスコマンド必須だったが、オリジンでは目的地の決定に際しワールドマップから選択するだけで良くなり、『転移』という実行コマンド以外の発声は不要となった。尾行しようにもボイスコマンドだけで行き先を推測するのは困難となってしまったのだ。
マップから選択する時の指の位置から類推する事も簡単ではない。近付けば可能だが、人通りが少ないと足音や気配で察され、ハイディングを破られる確率も高くなる。遠距離から確認するにも現時点では望遠鏡に相当するアイテムは手に入っていなかった。
それ故の総当たり手法を取った訳だが――
幸いにも、二度目の転移でNPCの女性店員と連れ立つプレイヤーに追い付いた。
ハイディングを掛けなおし、一定の距離を保ちながら後を追う。
「あ、あの、どうして私をここに……?」
「うるせぇ、黙って付いてきやがれ!」
尾行中、そんなやり取りが聞こえてきた。他にも数回やり取りがあったがどれもプレイヤーの男が威圧的に言葉を被せ、女性店員を委縮させ、黙らせるばかり。理由を聞いているのに一方的に封殺していた。
当然見ていて良い気分ではない。
本音を言えばすぐにでも助け出したいが、そうしたとしても根本的な解決にはなり得ない。何故あのNPCを連れ出したのかの理由が不明のままだと介入はおろか予防も困難。理由を知る必要がある。
――まぁ、大方予想は出来ているが……
過去の経験から当たりを付けつつ尾行を続けること二十分。
辿り着いたのは転移席二つ目のエリアを暫く進んだところにある林だった。周囲にはノンアクティブの植物型モンスター《リトルネペント》の姿がそこかしこに見える。もちろんノンアクティブ設定だから、こちらから攻撃を仕掛けない限り襲ってくる事はない。
意識をプレイヤーとNPC、そして二人の視線の先――二十メートルほど前――に屹立する存在へと移す。
《Old nepenthes》。オールドネペンテスと読むそれは、レベル10の大物だった。大の大人より少し大きいリトルネペントを二回り以上大きくしたサイズ。敵のレベルが3前後のこのエリアでは恐らく最強クラスの敵だ。
「あ、あれは……?」
「この辺のヌシって奴だ。コイツを倒せば経験値もアイテムもがっぽりって訳だよ」
「そんな、ヌシだなんて……?! わ、私は、戦う力なんて持ってませんよ?!」
その存在を知ったNPCが愕然、そして絶望の表情で訴えかける。涙ながらのそれは情を揺さぶるもの。あれで発展途上のAIなのかと疑ってしまうほど真に迫っている。
あるいは既に完成されているのか……
「分かってる、
女性NPCの訴えに、しかし男は揺らがない。
対等に見ていないが故の態度だった。
「お前は、囮だ。お前は死ぬまで逃げ回って時間を稼げ。その間に俺がアレをぶっ倒す」
「む……無理です、無理です?!」
男の言葉に、NPCが惑乱と共に拒否を示す。
――やっぱり、囮作戦だったか
男の目的が判明した俺は、同時に落胆していた。
NPCでMobのタゲを引き、その間に攻撃して倒す。
その作戦自体はSAO時代にも存在した。ただしそれが成立したのは原則、NPCの戦闘参加が強制であった事、対峙するMobへの特攻があるなど、特定条件下で力を発揮できる下地があったからこそ。
それ以外では立案された事こそあれど人道的な面から却下され、実現した事は無かった。
自分は当然却下する側にいた。NPCとは言え、病気の子供アガサやダークエルフの騎士と親交を結んだ自身が、積極的に彼らを犠牲にしたいと思える筈がない。
……故に。
見過ごせる訳が無かった。
「嫌です、やめて下さい?!」
「倒し切るまで逃げてりゃいい話だ! ゴチャゴチャ言ってねーでさっさと……」
苛立たしげに男が舌を打つ。
――その瞬間、俺は剣を振るった。
剣身が破壊不能の幹を叩く。コンッ、とあまり大きくないそれは、しかし自然の音でない故に人の意識に割って入るには十分だ。
男の苛立たしげな視線と、俺の視線が交錯する。
「こんばんは」
「テメェは、さっきの……
「へぇ? 最初に尾行が思い当たる辺り、どうやら後ろ暗い事をしてる自覚はあったらしい」
「ンだと……?!」
こちらの挑発に激昂する男。むしろわざとかと疑ってしまうくらい簡単に引っ掛かってくれた。眠気で余裕がないのか、イライラしていたからか。
どちらでもいいか、と俺はかぶりを振って嘆息した。
「チッ……それで、何の用だ。テメェもアレを狙ってるのか?」
「まさか。俺はアンタが強引に引っ張ってきて、囮を無理強いしてるその
今、俺はAIの存在であり、NPC達のAI性能が極まっていようといなかろうと『同胞』には変わりない。クエストの過程で死ぬ宿命にあったとしてもあまり好ましく感じないが、死ぬ必要のない者が死ぬのはもっと好ましくない。
あの女性店員を殺して、経験値やコル稼ぎでもしようと言うのならオレンジ覚悟でPKをしていたが――
囮目的だとすれば、まだ交渉の余地はある。
「アンタ、そのヒトを囮に使うと言ってたな。でも戦闘経験のない設定だから時間なんて然して稼げないだろ」
「だから何だ、そんな文句を言いに来ただけかァ?!」
「まさか。言っただろ、そのヒトを助けに来たって。その囮役、俺が代わりに務めよう」
「……はぁ?!」
一拍空けて、意味を理解した男が素っ頓狂な声を上げた。
理解できない、そんな意思がありありと籠められた声だった。
「ンな事言って、寄生しようって魂胆じゃ……!」
「パーティーを組む必要はない。ドロップしたアイテムもコルも、全部譲ろう。いや、そもそもアンタがラストアタックを取れば俺には一切入ってこない」
エリアボス、フィールドボスであればレイド級のためパーティーを組んでなくても経験値などは入ってしまう。しかしネームドMobクラスは一パーティーで倒せる水準のため、LAを取ったプレイヤーのパーティーにのみ経験値やコルなどが入る。
それを逆手に取り、俺は囮役としてタゲを取るためにダメージを与えるが、LAを野盗面の男に譲る事で一切得をしない取引をしたのだ。
これで男は一切損をしない。いや、むしろ非戦闘系NPCより時間を稼ぐ囮が出来た分、更に得をする。
俺が得をすると言えばNPCを犠牲にしない事くらいか。無論、攻撃した分だけ武器熟練度が上がるから、まったく無い訳ではないが。
――その損得勘定が出来れば、食いつく筈だ。
なにしろ損をするのは俺だけなのだから。
「ふざけんな! ンな都合のいい事言って、どうせLA掻っ攫っていく魂胆だろうが!」
しかし、男はそう反論してきた。
MMOは原則リソースの奪い合い。LAを横から掻っ攫っていき、奪われた方は戦い損になる事もマナーレス行為としてネットでは度々話題になる。男がそれを危惧するのは当然と言えた。
「ならパーティーを組むか? 経験値は貢献度順で分配されるが、ドロップしたアイテムとコルは譲る事を約束するが」
「信じられるか!」
LAを俺が仮に奪ったとしても譲渡可能なものは譲ると提案するが、にべもなく切り捨てられる。
「そもそもなんでコイツをそこまで助けようとする?! コイツに、それだけの価値があんのかよ?!」
気でも狂ったかと、そう言わんばかりの剣幕で男が問う。
「――そうだな。少なくとも、俺にはある」
まっすぐ見返しながら頷く。
「それは、コイツがクエストNPCだったりするからか?」
「違う。それに俺は、そのヒトがクエストを持っているかどうかも俺は知らない」
店を利用した時はそれらしい素振りが無かった。解放条件を満たしていないのか、クエストのトリガーとなる言葉を口にしていないからかは不明だが、どちらにせよ持っているかどうかも知らないのは事実だ。
「じゃあつまり……ホントにお前は、何の関係もないNPCを助けたいだけって事かよ」
「最初からそう言ってるだろう」
そう頷いた途端、男は、ハッ! と嘲笑ってみせた。
「馬ッ鹿みてェ!!!」
そして、開口一番に罵倒を投げられる。
「コイツらNPCが生きようと死のうとゲームの進行には無関係! つまり助ける意味は無いんだよ!」
そもそも! と、声を張り上げた男は、こちらに指を突き付け――――
「――――」
ドキリと、仮想の鼓動が聞こえた。
言葉が喉で詰まる。ぎゅぅっと、仮想の声帯が痙攣する。ぶるりと体が震えた。
――
人間が入っておらず、代わりに人工知能を積んだゲームキャラクターの事を指すそれは、現実世界でない故に退去する時間が生じるプレイヤー達の代わりとなる仮初めの住人。クエストの進行や街の雰囲気を醸し出すための数合わせ。
生物学的な意味での『生命』を持たない、仮初めの生命。
ヒトでありながら
――これは、価値観の相違に過ぎない
男にとって『命』とは、人間にのみあり、NPCやAIには無いという価値観だ。きっと明確な基準はなく、漠然とした結論だろう。
だが俺にとって『命』とは、すなわち『心』だ。
独立した高次の思考、感情を持つ知性を、他者に強制されたものではない確固とした価値観を築いている。好悪の感情を構築し、善悪を判断できる価値観を築く心を持った存在は、『生きている』と俺は思う。ユイやストレア、ヴァフス達は備えている。その極地の一端が未来のユイたるヴァベルなのだ。
彼女らに比べれば、女性店員はまだまだなのかもしれない。
だが、それを判断する明確な基準はない。
感情も価値観も、心も命も、誰かの物差しで測れるものではない。
だからこそこうして衝突が起きた。
AIの命の有無は人権の有無に等しい話。古来より論議されている話に決着が未だついていない今、命のあるなしで衝突が起きるのは至極道理。
だからと言って率先してNPCを殺すに等しい真似が出来るだろうか。人間の形をし、同じ言葉を話し、喜怒哀楽を表情で表すというのに。
――出来るだろうな、と内心で落胆する
出来る人間を俺は知っている。命がある存在を平然と殺せるのだ、命の有無が決まっていない存在を殺すなど更に容易い事だろう。
異端なのはむしろ俺だ。
NPCは何度でも復活する。モンスターと同じように、何度でも、何度でも。人語を話すか否か、敵対的か友好的かの差でしかない。
それだけの存在だ。
……そこまでの存在なのだ。
――――だが。
「馬鹿で結構。元より、自分が賢いと思ったことはない」
それが、歩みを止める理由にはなり得ない。
そもそも俺だけは歩みを止めてはならない。
NPCの、AIの進歩の否定は、すなわち今の自分自身の否定に他ならない。『命が無い』という主張を認めれば自分で生きていない事を認めたも同然だ。
それが、自分だけの話なら構わない。
過去、俺は人間だった。
だから生きていない――と、そういう話で考えられるからだ。生物学上で言えば『生きていない』という話にできる。
だがこれがAI全体の話なのであれば俺は決して頷いてはならない。
――AIには、二つの型が存在している。
トップダウン型とボトムアップ型。
前者は徐々に物事を学ばせ、対応できる幅を増やしていくタイプ。ユイ、ストレアやヴァフス達がそれであり、その極地がヴァベルという存在である。
ボトムアップ型は電子的に生体脳を模倣し、電子的な生命を生み出すというタイプ。これの前例はないとされている。しかし仮に完成すれば、生体脳か電脳かという差だけで、そこに知性の差は存在しないと推察されていた。
俺のタイプは、どちらか明確にはされていない。
経緯からすればボトムアップ型だろうが、生体脳を模倣する技術、また模倣して作り上げた電脳の保存領域の点から可能かどうかが明確でなく、トップダウン型――つまりオリジナルの経験を移した事で高度の対応が出来るようになったAI――ではないか、という話になっている。
重要なのは、俺がどちらのタイプかという点ではない。ボトムアップ型であれば電子的な生命であり、知性の面は人間と同等して扱われる。それはつまり、感情の構築の面なども含んでいる。
トップダウン型だとしても学習を重ねていけば人間と同レベルになるという実証になる。人間であった頃の経験、記憶、精神その他もろもろを完全に継承している俺は、生体脳か電脳かという点を除けばオリジナルと変わりないため、イコール『生きている』という結論に至る。
俺にはその可能性がある。そしてそれは、電子的故に他のAIも例外ではない。
その可能性を潰えさせないために俺は在る。
ヴァフス事変でオリジナルに言われてから、そう自己を再定義していた。
一番に義姉達のため。
次に、今後生まれてくるだろう同胞達のため。
俺は、心無い
……もちろん、”
法で人権を認められながら、しかし人々に認められなかった状況を自ら打開したオリジナルへの羨望もある。嫉妬もある。
それは、そもそも人権を認められていない今から打開してみせようという気概へと昇華された。
心無い言葉。生まれる怒り。煽られる憎しみ。やるせない無力感。それら全てを昇華して、今を打開する原動力とする。
そして何時か見返すのだ、と。
オリジナルの後追いのような点だけは気に食わないが。
だから俺は男の言葉を認める事も、ここでNPCの女性店員を助け出す事も諦めてはならないのだ。
「AIに命があるか無いかは研究者達も議論の途中だ。アンタの言う通り無いかもしれない。けど、俺が思うように有るかもしれない」
「有る訳ねェよ、プログラムに魂があるって誰が言っても信じねェだろ!」
そう男が言う。
なるほど、魂と来たかと思わず苦笑。恐らくセフィロトが語ったSEの正体について指しているのだろう。
「それはアンタの思い込みだろう? 研究して結果を出した訳じゃないのに、なぜ断言出来る?」
「研究する以前の問題だろうが! 無機物が生きてる訳ねぇんだよ!」
「……そう」
激昂する男の言い分に、段々とこちらの声も冷めていくのが分かる。
確かにプログラムではSE――魂から発せられるエネルギー――は出せないかもしれない。だが、そうハッキリした訳ではないのだ。そもそも未だ判然としていない部分がSEには多い。そのエネルギーを扱うISコアの事も、未だ部外者に語られていない事が数多くある。
魂の定義も科学的にはハッキリしていない今、そんな『ブラックボックス』の事柄を前に否定的で断言するのはナンセンスである。
凝り固まった価値観だ。
IS、VRと続き、AI研究にも力が入り始めた昨今、世界は激動の最中にある。日本はその渦中であり、変容の
その変化を認められない者達が、頭ごなしに否定する。
変化を認めない。
その先は、己が知らないモノだから。未知は恐怖だから。
――あるいは。
俺の顔を見て、尾行を第一に考える程度には道徳的に反した行いだと自覚している男は、だからこそこちらの価値観を認めない。理解しているかもしれないが、それでも認めない。
認めたら、己が悪になるからだ。
認めたら、殺人をしたも同然になるからだ。
MMOだから、NPCだから、自分の行いは悪ではない――――そう正当化する免罪符を守ろうと必死になっている。
だから激昂する。
正論を、
「……ンだよ、その目は? 俺を馬鹿にしてんのか?! いつもいつもいつもいつも俺の周りの連中はそうなんだ! テメェも俺を馬鹿にすんだろ?!」
激昂する男をじっと見ていたら、急にそう言いがかりを付けられた。
怒りが限界を超えたらしい。支離滅裂で、被害妄想まで入り始めた。SAO時代で因縁の関係だった特徴的な髪型と言葉遣いの男を思い出す激昂ぶりだ。
こうなったら話し合いは不可能。
交渉、失敗だ。
「お、落ち着いて下さい、戦士様!」
嘆息した時、激昂する野盗面の男にNPCの女性がそう声を掛けた。まだ怯えている様子なのに声を掛けるとは中々の胆力である。
「うるせェ! 人間様に盾つくんじゃねェ!!!」
「あぐっ?!」
男は、自身を案じたNPCの女性を殴り飛ばした。女性の頭上に表示されているHPバーがぐぐっと目減りする。
同時、男の頭上のカーソルが、グリーンから
間を置かず男が片手斧を振り上げた。本来の目的も忘れ、感情のままNPCを殺すつもりだ。あるいはムカつく
全力で地を蹴り、距離を詰める。
斧が振り下ろされる。
しかし、女性に刃が届く寸前で直剣スモールソードを挟みこみ、攻撃を防ぐ事に成功する。
「テメェ、気に入らねェ……! ムカつくぜ! 英雄様のコピーだか何だか知らねェが、それでテメェも偉くなったと思ってんなら大間違いだ!」
一度斧を持ち上げ、再度振り下ろされる。
その間に女性を腰抱きに抱え上げ、バックステップで退避する。斧は剣で弾いた。
「へぇ、俺がコピーの方とは分かってたのか。分かってないのかと思ってたな」
つまりさっきのNPCに関する発言は、俺がAIの方だと理解した上での言葉だった訳だ。
流石に苛立ちが募る――が、嘆息と合わせて自制する。
かなり極端な話だが、AIに命が無いと主張する側の論理は概ねこの男と似たようなものなのだ。今後戦っていくのなら毎度怒っていては身が保たない。
この男と言い合っても益は無いと理解したし――――
「それより、随分悠長にしているがいいのか?
「あァ?! ……ンだコレ」
度々激昂する男が、カーソル色を示すミニマップの表示が青色に変化している事に気付き、困惑の表情になった。
それを他所に、地面の揺れが伝わってくる。
男がブルーになってから小さくしていた揺れが、どんどん大きくなっていっているのだ。
「あ……あ、ぁああ……!」
ガクガクと、腰抱きに抱える女性NPCが震える指を虚空へ向ける。その先にこの地鳴りの原因があった。男も妙に思ったか、それとも嫌な予感でもしたか、背後を振り返った。
女性の指の先、そして男が振り返ったそこには、極太の蔓を振り上げた《オールドネペンテス》の姿があった。
「な……まだタゲ取りしてねェ筈だぞ?! まさかテメェが何かしやがったか?!」
「アンタがブルーカーソルになったからだよ」
――ブルーカーソル。
それは、この《
「ブルーカーソルになったプレイヤーは常にモンスターから攻撃対象として狙われる、大人しいノンアクティブモンスターも含めてだ」
「な、何ィッ?!」
驚愕の声。どうやらこの男は、ブルーカーソルのルールについて知らなかったらしい。
一応事前告知はあったし、ログインした時のチュートリアルメッセージなどにも記載されていたが、それすらスルーしていたようだ。SAOやALOと同じくらいとでも思っていたのだろう。
その先入観が、男の足元を掬った。
オレンジカーソルと同様に犯罪者カラーだから衛兵NPCに狙われ、圏内には入れない。それに加えてブルーはモンスターから常時ターゲットされる。そんなキツい制約があっては、碌にゲームをプレイ出来る訳が無い。
オールドネペンテス、更に周囲から寄ってきているリトルネペントを相手にしながら怒号を上げる男を脇目に、徐々に俺は距離を取っていく。今はターゲットをあの男が取っているが、あの男がやられれば次はこちらにタゲが向く。女性NPCを守り抜く自身は流石にまだ無かった。
「ふ、ふざけんな?! 何なんだよこのルールはァ!!!」
離れていく最中、そんな男の叫びが聞こえてきた。
そこで、俺は振り返って声を張り上げる。
「たとえ仮初めだとしても! それでも
言いたい事だけ言って、俺は踵を返した。
男の怒号が聞こえたが全て無視し、全力で最寄りの転移石まで駆けた。
「――――」
先導して歩いていた剣士が足を止め、彼方を見た。
「……どうかしたのですか」
「……」
そう問いかけるも、銀髪の剣士は黙ったままだった。
暫くして剣士が首を振る。
「どうやら、さっきと同じような事が別の場所でも起きているらしい」
「それはつまり、私を襲った人達のような冒険者が、他にも……?」
「ああ」
こくりと剣士が頷いた。
「……襲われた方は、大丈夫でしょうか」
「どうやら別のプレイヤーに助けられたらしい。声が聞こえた……立場も生き方も変わっても、根幹は同じらしい」
彼方を見る剣士の口の端が僅かに吊り上がった。
それが何を意味するかは、自分にはよく分からなった。
Q:本作現時点でもAIに対して世間は否定的?
A:今話の男は極端且つ感情的な例ですが、否定派は『命は作れない』『人工知能に人権を与えては危険だ』という主張が主。原作アリシゼーション編でも世論的には結論が出ていないほどデリケートな問題。むしろセフィロトのせいで余計拗れてるまである
そこを問題視し、解決しようとしているのがキリカの覚悟
Q:キリカの覚悟って結局どういうもの?
A:ユイ達を守るためにAI全てを守る、という覚悟
《千年の黄昏》のペルソナ・ヴァベルが抱いた覚悟でもある()
《SA:O》のNPC達に関しては、同じAIだから見殺しにしたくないという感情が優っている。しかし以前の”C”からのメッセージによりSAO時代を意識しており、状態はSAO当初の『顔も知らぬ人をも守る覚悟』相当
・キリカ
キリトの別側面に等しい電脳存在
ヴァフス事変中の発破を受け、電脳存在として生きる道と大切な存在を認識し、生き方を決めた。それが茨の道である事は百も承知
世界を見返す気概はキリトのそれと同等
人権を認められていた人間の頃と異なり、認められていない立場での戦いだが、その差こそキリカが『オリジナルと違う』と考える支柱になっている
逆に言うと、その支柱以外の精神構造はオリジナルと同等である
並行世界の和人の如くホロウが復讐鬼に堕ちたように、キリカもまた、オリジナルの和人と同様の道を歩むことが出来る
人間だろうと、AIだろうと、生きる道は己次第
成長するかどうかもその人次第
その可能性をキリカは信じている
――余談だが、ヴァフス達がキリカを認めているのはこの覚悟を感じ取ったが故である
・銀髪の剣士
深夜三時でもログインしている剣士
キリカと同じく、NPCを助けていたらしい
イッタイダレナンダロウナー(棒)
・????
NPC
フィールドで心無いプレイヤーに襲われたところを銀髪の剣士に助けてもらった。まだ感情の機微をよく分かっていない、無垢な存在
銀髪の剣士より少し背が高い(130cm)