インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 現実側は幕間、つまりダイジェスト形式。あくまで《SA:O》側が主軸だからネ!

視点:マドカ

字数:約四千

 ではどうぞ




幕間之物語:(マド)(ねえ)編 ~叶ワヌ夢ト姉心~

 

 

日本標準時《2025年8月2日(土) PM10:30》

日本海上空

 

 

 ゴウゴウと風鳴りがする。

 マッハ1前後の速度、遷音速(せんおんそく)。ジェット旅客機の巡航速度と同等の速さのそれは、音の壁を貫き、衝撃波を発生させる。いま自分達の耳朶を打つ風の正体はそれだ。

 機内には自分を含め、六人が同乗している。織斑千冬、更識楯無、桐ヶ谷和人、ヴァフス、ヴァフス〔オルタ〕、そしてマドカ《自分》の合計六人。

 更に私達を載せて飛ぶ 遷音速輸送機の操縦者はかの天災、篠ノ之束である。

 ちなみにこの輸送機を開発したのも彼女だ。彼女が秘密裏に開発、所有していたこの輸送機は光学迷彩ふくめ種々様々なステルス性能を有しており、同レベルの看破性能がなければ見つけられない代物らしい。かつて世界を飛び回っている間に開発した技術なのだという。

 人知れず空を往く輸送機の目的地は、日本の隣国と呼ばれる事が多い南朝鮮、韓国。

 歴代の大統領の大半が任期終了後に裁判沙汰になっていたり、国家立て直しで助けられた日本に対する反日運動が盛んであったり、なにかと日本と因縁の強い国だ。国際法違反を指摘されても居直る姿勢を始め、外交問題を数多く抱えている国家として世界に知られる事になったのは近年の話。

 そんな国に行く理由は、もちろん旅行などではない。

 今日の午前中、IS委員会本部ビルを襲撃した下手人のイメージから読み取ったアジトが、捕虜となった私が提供したイメージマップとほぼ同一だったのが事の発端である。

 私がマップを提供した当時、和人達は《亡国機業》を潰す事よりも目的を知る事を優先していた。アジトを把握した上で攻めなかったのはそれが理由だった。私やスコール達を捕虜にした時点でそのアジトは破棄されただろうと判断していたからでもある。

 しかしその予想に反し、今回の襲撃者のアジトが同じで、つまり《亡国機業》の構成員だった事が判明。

 《亡国事変》から《亡国機業》の危険度も分かった今、秘密裏にでもアジトを襲撃する案が挙がり、可決された。

 つまり私達はその強襲部隊という事になる。

 和人は保有する戦力から危険視され、IS本部ビルからの外出は基本認められていないが、逆に言えば内部であれば監視がありながら自由を許されている。そしてその監視者には千冬と楯無がいる。二人の協力があり、首輪のビーコンも束によって細工されれば、アバター体と入れ替わる事は可能なのだ。いま本部ビルの寝台で寝ているのはアバター体である。

 また、ある程度平均的な体格の私達は顔を隠すなどで身バレを防げるが、和人ほどの小柄さだと誤魔化しが出来ない。そこを逆手に取り、いまの和人は《亡国事変》の最中に見せた大人の姿を取っている。

 対面に座る青年を改めて見詰める。

 背丈は百八十センチを超え、鋭い双眸と長い黒髪を持つ姿は、見れば見るほど血の繋がりをまざまざと感じさせる。少年が真っ当に成長すればきっとこんな姿になっただろう。

 無論、それは絵に描いた餅だ。ウィルスによる侵食が無かった頃が少年体であり、そこから自然成長する事はあり得ない。成長するという事は、つまりクリーチャーに変貌する事と同義になっているからだ。そうならないよう常にウィルスを制御する代償として身体の新陳代謝の多くは停滞気味。衰えはするし、そこから回復もするが、本当の意味での成長はあり得ないというのが実態らしい。

 

 ――分かってはいるが……少し、寂しいな

 

 不謹慎ながら、彼が成長する過程を見れない事が私には不満だった。

 和人が一夏であった頃。生まれたばかりから一歳になった頃までの一年間は、両親や他の姉弟の代わりに私が面倒を見ていた。訳あって生き別れになって、漸く最近再会したと思えばもう十二歳である。

 あの環境にいたのだ、ロクにアルバムなんて作れていないに違いない。

 だからせめて、漸く自由に生きられるようになった今、『ただのマドカ』としてではあるがこれから成長していく和人の成長記録代わりに写真を撮っていこうと思ったのだが、どうもそれは叶わぬ願いらしい。

 少しずつ大きくなっていく弟を見る事が楽しみだったのだが、現実は非情だ。

 

「ふぅ……」

「……マド姉、どうかしたか」

 

 ずっと見ていたからか、あるいはため息を吐いたからか、和人がこちらに話しかけてきた。

 姉呼びに反応したか千冬から微妙な視線を送られるが、それは無視した。

 

「いや……大きくなったなと思ってな」

「ん……まぁ、セフィロトのデータを流用してるからな。今の俺はセフィロトの色違いのようなものだし」

「そういう意味で言った訳じゃないんだが」

「ん?」

 

 私が本心から味方している事、大切に思っている事は分かっている和人も、流石にかつて面倒を見ていた頃の事までは察せないらしい。

 まあ無理もない、と私は苦笑した。

 仮に覚えがあっても、そもそも最近まで私の存在は意識になった筈だ。そうなると自然と私の姿を千冬と間違えたとしても不思議ではない。千冬の数年前の姿、と天災が言ったほどに私達は似ているのだ。

 

一夏(かずと)、お前は覚えていないだろうが、マドカと一緒に暮らしていた頃にお前の面倒を見ていたのはマドカだぞ」

 

 そこで、同じ姉として言わんとする事を察したか、千冬がそう言ってきた。

 すると和人が、そうなのか、と眼で問いかけてくる。

 

「……ああ、そうだ。生みの親は殆ど家にいないし、千冬も秋十も面倒見ないとなったら私が見るしかないだろう? だからだよ」

 

 そう、『仕方なくやったんだ』という体で明かす。どうにも《亡国機業》に居た頃が長いせいか随分と天邪鬼な言い方が定着してしまっていた。

 無論事実は異なる。

 生まれたばかりの弟が可愛くて、親が居ないのを良い事に率先して面倒を見ていただけだ。捻くれてない五歳の少女なんてそんなものである。

 尚、他の姉弟が無関心だったのは事実だ。

 

「それで余計、感慨深くてな。同時に少し寂しくもある」

「寂しい? なぜ」

「和人は今後、自然な成長が見込めないんだろう? かつて姉だった者としては、少しずつ大きくなっていくところを見たかったと思ってな……」

「マド姉……」

 

 和人の声は僅かに震えていた。気恥ずかしくなり、視線を逸らす。

 すると楯無が茶々を入れてきた。

 

「つまり、ぶっちゃけると?」

「こんな急に大きくなられたらつまらない」

「マド姉……」

 

 本音を晒した途端、和人の声が一気に落胆のそれになった。感動して損したと言わんばかりのジト目付きである。

 彼には悪いが、その落胆をつい最近私も味わったので抗議は受け付けない。

 

「君達、流石に気を緩め過ぎじゃないかい」

 

 そこで、この一連のやり取りを傍観していたヴァフスが話に入ってきた。氷の瞳には呆れの感情が含まれている。隣のヴァフス〔オルタ〕も同じ表情だ。

 彼女達は戦士気質、王気質で別れているらしいが、それでも根本的には同じ思考回路とは聞いている。生まれながらに強者である事、戦いを求めなければ生きられない過酷な環境にあったのだと。そんな境遇を生きた二人からすれば、私達の態度は目に余ったのかもしれない。

 

「まだ作戦開始まで時間がある。今から気を張っても、肝心な時に集中切れを起こしかねない。メリハリが大切だろう」

「それを君が言うのかい」

 

 和人の言葉を聞いて、オルタが呆れたように言った。お前はいつも気を張っているだろうと言わんばかりの態度だが、私もそれは同感だったので何も言わなかった。

 

「はは、これは痛いところを突かれたな……でも、これでも随分マシになった方だよ。気を張ってる状態があの頃は日常だったからな」

 

 苦笑を滲ませながら和人は虚空を見上げる。

 彼の言う”あの頃”が何なのかは、敢えて聞くまでもないほど明らかだ。そして当時は気を張らない方が非日常だったと言ったも同然だった。

 

「担当医から注意を受けて以降、意図的に気を抜いてるんだ。大目に見てもらえると助かるんだが」

「担当医? 誰だい、それ」

「ユイ姉」

「「ああ……」」

 

 名前を聞いて、二人の霜巨人が納得の声を上げた。現実世界に触れるようになってから様々な事を学び、理解していっている彼女達も、ユイ達がかつて人の心を癒す存在であった事は把握しているらしい。担当医というのが、俗に言う『精神科医』だとも分かったようだ。

 更に和人は言葉を続ける。

 

「それに、どこの軍隊もこういう感じだと思うよ。いつ死ぬか分からない以上、作戦開始前に会話するのは必然。禁止すれば士気低迷は確実だ」

「……そういうものかい?」

「そういうものだ。緊張も大切だけど、息が詰まる空間にずっと居るのは苦痛そのものだよ」

「……そうかい」

 

 そう、ヴァフス達は頷いた。

 しかし表情はやや曇っている。理屈は分かるが、感情的に理解・共感できないといったところか。

 『常に気を張る』事をかつての和人、またヴァフス達は日常としていた。その点で共通点がある筈だが、彼女達が共感出来ていないのは、経験談を持つ和人と違いヴァフス達の過去が実感が無い『作られた設定』のせいだと思う。

 眉根を寄せ、考え込む二人を見る和人の眼は温かい。

 かつての自身を重ねて見ているのかもしれない。

 

『皆、あと十分くらいで目的地に到着するよ! 準備よろしくね!』

 

 機内アナウンスが掛かり、到着予想時刻が告げられる。

 ――途端、和人の雰囲気が一変した。

 温かな顔つきから鋭い相貌に変わり、纏う雰囲気も鋭くなる。徐に席を立ち、機内後部に積んでいる兵装の中から自分のものを取り上げ、最終確認に入った。

 

「……変わりようが早いわね、和人君」

 

 『変貌』と書き換えられた扇子を見せつつ楯無が言う。

 それに対し、和人は片頬をつり上げ、言った。

 メリハリだ、と。

 

 






・アジト強襲(アサルト)部隊(チーム)
 リーダー
  篠ノ之束
 メンバー
  桐ヶ谷和人
  織斑千冬
  織斑マドカ
  更識楯無
  ヴァフス
  ヴァフス〔オルタ〕


・織斑万華(マドカ)
 血の繋がったブラコン
 愛称は『マド姉』。千冬の妹である事を公言しているため織斑家の側なのだが、それにも関わらず弟から姉として認められている点で、千冬に複雑な感情を向けられている。それを理解した上で無視し続けている辺り、マドカ自身、千冬には複雑な感情を抱えている
 まあIS学園襲撃時に二人きりでお話してましたものね……
 和人と裏で繋がっている日本政府上層部には織斑性で認知されているが、社会の表舞台にはまだ立っていない
 徐々に大きくなっている過程を撮れないのは残念だが、アルバムを作る事は諦めていなかったりする


・ヴァフス&オルタ
 霜巨人の将軍
 霜巨人の設定として『生まれながらに戦う事』を決められ、その通りの過去を作られ、それを基に思考しているが、実感を伴っていないので共感まで至らない
 『過去こんな事があった』と記憶し、認識しても、その結論を出す過程がすっぽり抜けているせいで今回は和人の話で考え込んだ
 また一つ、二人は成長した


 幕間は『和人が《SA:O》にいない理由』の描写が主なので、あくまで主軸は《SA:O》です


 では、次話にてお会いしましょう

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