インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 基本的に『幕間』でなければ仮想世界内の話と思ってくださればと思います

視点:キリカ

字数:約六千

 ではどうぞ




第十章 ~育まれる心~

 

 

日本標準時《2025年8月4日(月) AM11:30》

 

 

 ベータテスト開始から丸三日と十数時間が過ぎた。

 今日の気象設定は薄曇り。《SA:O(オリジン)》の舞台、アイングラウンドの気象は現実世界のそれに準じているため、午後からは徐々に晴れていく見通しとなっている。

 アインクラッド時代からそうだったが、仮想世界の気象の再現度は、四季を含めてやや生真面目過ぎるほどに忠実だ。冬は息が白むほど冷え込み、夏は毎日キッチリ暑い。気温の他にも雨や風、湿り気やホコリっぽさ、更には小虫の群れといったパラメータが無数に存在し、どれかが好条件ならどれかが悪い事が多い。アインクラッドでも五十五層の雪山など予め季節が決められている階層(エリア)を除き、階層毎に再現された気象が異なっていた。一層が雨なら、二層では曇り、ニ十層では快晴……といった具合だ。

 それに倣えばおそらく大陸ごとに気象が異なるだろう中、北東に位置する《はじまりの街》の今日の気象は薄曇り。

 忠実に再現された八月の熱気の中、フィールドに繰り出すには適した気候と言えるだろう。洞窟探索に行くのであれば尚良い筈だ。

 そんな今日、街を行くプレイヤーの数はそこそこ多い。学生が夏季休暇に入り、日中もログインしていられるようになったからだろう。

 尚、残念ながら生還者学園はまだ入っていない。更に言えば夏季休暇の期間も半月程度。他のプレイヤーに比べて時間的なハンデを負っているため、攻略に乗り出すとは言え、最前線を突っ走る事に固執してはいないようだった。

 それは常にログインしていられる俺も同じ。前線攻略よりはNPCの死亡阻止の方に注力しているから、フィールド攻略はあまり積極的ではなかった。フィールドに出るのもせいぜいクエストを受けた時くらいである。

 ……問題は、その”クエスト”にあるのだが。

 

「ありがとうございます……どうぞ」

 

 抑揚に乏しい声で、同い年くらいの少女が手を差し出した。合わされた両手には一枚の貨幣が載っている。

 一コル銅貨。

 それがクエストの報酬だ。少女を目的地まで護衛し、道中の敵Mobも討伐した上での対価としてはまったく見合っていない。

 それもその筈。このクエストは、ゲーム製作時の仮データとして作られていたゼロ番のダミー。登録されているダミークエストを呼び出すこの少女(NPC)は初期設定が全て『null』――すなわち、ゼロの値しか入れられていなかった存在。

 

「……ああ、ありがとう。プレミア」

 

 本来であれば運営に報告し、修正するよう働きかけるべき事態だが、それを黙認し、名前を付け、本人を保護している。

 保護しているのにも理由はある。報告して修正したとしてもなぜ初期設定もされていないNPCが動き出したのか分からないままで、根本的な解決にならないからだ。他のプレイヤーと接触して問題が大きくならないよう常にAI組の誰かが傍に居られるからこそ可能な措置。

 その役割を、言い出しっぺの俺は率先して引き受けていた。

 するとNPCの少女プレミアは俺にクエストを受けるよう催促してくる。ただ無言で傍にいてじっと見てくるだけだが、目は口程に物を言う。夜は仲間とフィールドやクエスト攻略に繰り出す傍ら、寝静まっている間や、イン率が下がる日中はプレミアのクエストをこなし続ける事が日課になっていた。

 今日もプレミアの無言の催促に応じ、フィールドに繰り出してきた次第である。

 ちなみにタイミングによっては二人で来るのだが、今日はユイとストレアも一緒に来ている。一応二人も同じプレイヤーアバターを使っているがプレミアは何故か俺にしかクエストを発注しないので、その分二人は俺より積極的にフィールド探索に出ており、既にレベルが二桁を超えていたりする。今のレベルは俺が4、ストレアが11、ユイが12だ。

 

「ふむ、今日はここがゴール地点なんですね」

「湖の近くかー、こんなとこもあったんだねぇ」

 

 言いながら直剣、両手剣を鞘に納めた二人が言う。

 二人が見ている林の向こうには湖面が見えた。

 以前は湖なんて近くに存在していないところがゴールだったのになぜ今回変わっているのかと言えば、ゴール地点は複数存在していたからだ。候補地は複数あり、その中からランダム抽選されているらしい。なぜ一つに絞られていないかは不明だが、テスト用のクエストだからかもしれない。

 受注時に決定されるのだろうゴールは、今回は湖の近くだったようだ。

 

「折角だし、お昼は湖がよく見えるトコで食べようよ! 今日はユイがお弁当作ってきてくれたんだよ!」

「食いしん坊さんが多いのでたくさん用意しましたよ」

 

 そう言ったユイがストレージから取り出したのは籐の籠だ。両手で抱えるほどもあるそれが、左右の手で一つずつ提げられる。

 

「おお……ユイのお弁当です……」

 

 それを見たプレミアが目を輝かせた。表情は乏しいままだが、やはり目は口程に物を言う。

 アイングラウンドのNPC達は地位や職業などが設定されており、時間に合わせたルーチンを行って日々を過ごしている。それは就寝だけでなく食事も含まれているのはこの目で確認してきた。

 そんな中、全てが未設定のプレミアは寝床はおろか食事ルーチン――好物や食事場所――も設定されていなかったため、俺達が保護し始めてから食事という行為を行い始めた。保護したのはこの世界が始まって二日目だが、それでも二日の断食は相当な空腹感を与えていたらしく、初めての食事にありついたプレミアの食いっぷりは中々のものだったと言える。

 その時に口にしたものは店売りや宿のものだったが、ユイが料理スキルを鍛えるために度々試作品を与えるためか、今ではすっかり義姉に餌付けされるようになっている。

 確かに味が良いのは認めるが、プレミアの嵌り具合は病みつきのそれに近い気がする……

 

「キリカ、行きましょう。ユイのお弁当が私達を待っています」

「分かったから、服を引っ張らないでくれ……」

 

 待ちきれないとばかりに袖を引く彼女に苦笑しながら、俺は湖へ歩を進めた。

 

 

 疎らな木々を抜けると、すぐそこには大きな湖が広がっていた。

 そこでレジャーシートを広げ、弁当のサンドイッチや数々のおかず類を堪能した後、食休みを兼ねてゆっくりしていると、徐々に湖面がキラキラと光始めた。

 ふと空を見上げれば、数分前は薄曇りだった空が少しずつ晴れていっていた。

 

「……だから再現が生真面目なんだよなぁ……」

 

 たしかに午後から晴れる予報は出ていたが、だとしても急に晴れ過ぎである。雲間が少しずつ開けていく過程をすっ飛ばしての快晴は演算による素直さが現れているように感じられた。

 そんな事を考えて情景を素直に受け取れない俺は、相当捻くれているのだろう。

 

「うっわ、晴れるとほんと綺麗だねー! ね、プレミアもそう思うでしょ?!」

「太陽の光が水面に反射して光っています」

「プレミアさん、それを”キレイ”と言うんですよ」

「なるほど……太陽の光が水面に反射して光っています。つまり、キレイです」

 

 左をユイに、右をストレアに挟まれながら、プレミアがまた一つ学習する。さっきは頬いっぱいになるほど食べ物を詰め込み、次は目の前の景色に対する情緒を育んでいる。

 背丈こそ俺より上だが、なんだか妹が出来た気分だ。

 ……すぐ追い抜かれそうな気がするけども。

 

「――あ、良い事を思いつきました」

 

 ふと、湖面や周囲に咲く花など、『キレイ』とはなにか語っていたユイが声を上げた。それからメニューを呼び出し、何やら操作を始める。

 そうしてオブジェクト化されたのは幾つかの布アイテムと糸、針だった。

 

「……《裁縫》スキルも取ってたのか?」

 

 俺の問いに、そうですよ、とユイが微笑む。

 この世界は武器スキル、エクストラスキルは一つずつスロット固定だが、厳密に言えば発動可能なスキルを指定する枠として機能しているだけで、熟練度はスロットから外していても保たれるという。それは生産職スキルも同様で、個別に用意されていクエストを達成すればスキルツリーに追加される仕組みになっていた。SAOの時と違い、スロット数の兼ね合いで悩む必要がないというのはとても喜ばしい限りである。

 《SA:O》の場合、ログインしていられる時間は限られ、更に生産職スキルを育てる時間はより短くなる。その点、AI組は常にログインしているからフィールドに出てさえいれば素材は集まる。

 多分クエスト攻略のついでに集まった素材でアイテムを生産し、その経験値もあってユイは特にレベルが高くなっているのだ。まあほぼ毎日料理を作り、武具の修理をしていれば経験値も貯まるだろう。

 これで鍛冶屋を開けばリズのライバルになる訳だが、幸いユイは個人的に仲間の装備を修理をするだけだから商売敵にならない。その事実にリズが胸をなでおろしていたのは秘密だ。

 ――閑話休題。

 恐らく仲間内で生産職スキルを最も有するユイは、布アイテムに糸を通した針を当て、裁縫作業を行い始めた。

 プレミアはその様子を興味深げに見ている。

 

「ユイ、それは何をしているのですか? サイホウとは一体何ですか?」

「裁縫というのは、こうして布と糸を使い、衣類を作る事を言います」

「ちなみに女子力アップには必須スキルだねー」

「ジョシリョク……」

「そう、女子力! それは炊事、洗濯、裁縫、掃除、更には気遣いとか包容力とか諸々で向上する見えざるステータスなのだ!」

「……」

 

 なんか変な事を吹き込み始めた。

 

「ちなみにキリカは女子力高めの筆頭だよ!」

 

 そしてなんか巻き込まれた。

 

「ジョシリョクとは、男性にも当てはまる……? 男性の場合はダンシリョクと言うのではないのですか?」

「ノー! 家庭的な事を指すから女子力が正解!」

「家庭的……つまり、キリカはジョシ……?」

「いや待てそれはおかしい」

 

 なぜか水色の瞳がぐるぐると回っているように見えてきた。明らかに混乱している。まぁ、男に女子力とか言われても、その定義をよく分かっていなければ混乱するのは仕方ない。

 しかし家事全般が得意なのは自他共に認めているからいいが、流石に性別を勘違いされると困る。

 

「出来ました」

 

 訂正を重ねようとしたが、ユイの声でそれは叶わなかった。

 まあ一度は否定したからいいだろうと視線を義姉に向ける。

 ほんの少し目を離していただけでユイの手元には複数の衣類があった。大半は布面積がかなり少ない。極めて短時間で完成させられたのはそのためだろう。

 

「……下着か?」

「形状は近いですけど違います。水着です。せっかくここまで来たのですし、泳ぐのもいいかと思いまして」

「へー! ねぇユイ、アタシのってどれ?」

「ストレアのはこの紫色のですよ」

「おー! クロスデザインのビキニだ!」

「プレミアさんのはこの水色のタンクトップ・ビキニです」

「おお……これが、ミズギ……今着ている服より軽装で、とても薄いのですね」

「水に入るので軽装でないと沈みますからね……あ、キリカのはこれです」

 

 最後に渡された水着は、真っ黒に白のラインが入ったトランクスタイプの水着とパーカーだった。なんだか別れる前のアシュレイとの約束で袖を通した水着を思い出す。

 受け取った後、俺はすぐ木々の茂みに入った。

 一度索敵スキルで周囲を警戒し、プレイヤーやMobの反応がない事を確認してから水着に着替える。一応護身として短剣を後ろ腰に忍ばせておく。圏外だから最低限これくらいの自衛策は講じておくべきだろうとの判断だ。

 索敵で引っ掛からなかった以上、湖にモンスターは存在しない。

 更にSAOのデータを源流としているなら水辺を泳ぐ事は原理上可能だ。《水泳》スキルを取らなくても環境に慣れさえすれば問題ない。そもそもあのスキルは重量のある武具を装備した状態で泳ぐ際の補正を前提にしたものなので、ほぼインナーだけの状態になれば関係なかったりする。波にあおられた時は頑張らなければ溺れるが。

 

「……そもそもユイ達って泳いだ事無くないか?」

 

 眉を寄せながら気付いた事を口にする。

 多分泳法は知識として知っている筈だ。俺を最初期からモニタリングしていたなら、泳いでいた時の様子も見ている。問題はそれを実際に出来るかどうかである。

 最初は泳ぐ練習から始めた方がいいかもしれない。

 

「キリカ、終わったよー!」

 

 思案していると、呼ばれた。

 茂みから出ると、三人とも水着に着替え、その肢体を陽光に晒していた。

 

「ふっふーん、ストレアお姉さんの魅力はどーかなー?」

 

 そう言いながら前かがみになり、胸元を強調するストレア。

 普段から大きく胸元を開いているストレアはイメージ通りと言うべきか、SAO時代の衣装の布面積を少なくしたような水着だった。斜めに掛かるように胸部を覆うデザインだからクロスデザインと彼女は言っていたのだろう。

 口にはしないが、見慣れた印象がある。

 

「これがミズギ……初めての体験です。全身がすーすーして涼しいです」

 

 そう言うプレミアは、水色ワンピースのような水着だった。

 裾にあしらわれているフリルはユイの《裁縫》スキルがそこそこの熟練度を持っている事の証左と言えよう。色合いといい意匠といい、普段の衣服を意識しているのは明白だ。

 やはりこちらも見慣れた印象。なんとなくだが、プレミアに配慮して敢えてユイがデザインを寄せた気がした。

 

「どうでしょうか」

 

 先の二人に反し、ユイの水着は普段の印象からかけ離れているものだった。

 そもそもの話、ユイは少女姿の時はワンピースだったが、大人の姿になってからはずっと黒のフード付きコートしか着ていない。だから肌を晒しているイメージが全くなかった。

 そのせいか、一番新鮮味があるように思える。

 形状はアシュレイの店で見た事がある三角トップのビキニ。黒い布地を薄紫のラインが囲っており、イメージカラー通りではあるのだが、ユイ本人のイメージにはそぐわない妖艶さがある。普段は分からないリーファやストレアに匹敵するスタイルの良さが余計際立っているように感じた。

 

「キリカ?」

「……ん」

 

 ほんの少し柳眉を下げて首を傾げる姿が妖艶さの中に純粋さが垣間見えて、ギャップを感じると同時に安心感も覚える。

 僅かに顔が熱くなった気がした。

 視線を泳がせる。

 

「……ふふ」

 

 無言で目を逸らしたのだが、しかし黒髪の義姉はうっすらと喜色を浮かべた。どうやら俺の反応はあちらの心を満たすものだったらしい。

 義姉に異性を感じて後ろ暗いと思った俺の内心を見透かされているようで居心地が悪かった。

 更に顔が熱くなる。

 それに比例してユイの、更にはストレアの表情の喜色が深まっていく。

 

「――っ……い、今なら周囲に何も居ないから、今の内に泳ぎの練習をするぞ! 三人とも泳いだ経験が無いんだからな!」

 

 悪循環(ドツボ)に嵌っているような気がした俺は強引に流れを断ち切って、ずんずんと一人先に湖に向かう。

 その後ろから、義姉二人の抑えられた笑いと、よく分かっていないらしいプレミアの疑問の声が聞こえてきた。

 真夏の太陽は熱い。

 けれどこの熱さは、別のものだった。

 

 






・ユイ(アダルトver.)
 妖艶無垢お姉さん
 原典ホロリアに於けるアスナポジ
 作中でストレア、リーファに次いで三番目にスタイルの抜群さを誇り、更にAI組で一番恋愛事情に踏み込んでいる一人
 つまりキリカの事を異性として認識している
 気が付けばイチャイチャし始めるんじゃないですかね(すっとぼけ)


・ストレア
 純粋魅惑お姉さん
 作中トップのスタイルの持ち主。男を誘うような装いをしているが、セリフこそ狙っているが服装は素だったりと、恋愛事情に踏み込んでいないためか現状ユイより純粋なきらいがある
 まあ原典でもお色気枠な割に行動が純粋なのでこんな感じでしょう(メメタァ)


・プレミア
 純粋無垢な少女
 現状だと末っ子のような立ち振る舞いだが、背丈はしっかりキリカ&キリトより上である
 まだまだ学びの途中

??「言葉の意味を教えてください」


・キリカ
 年頃な少年AI
 キリトより告白・恋愛イベントを経ていないので情緒が未熟。しかし感じる心はあるので、ユイから何かを感じ、戸惑っている
 完全に誑かされてるショタですね

??「おまわりさーん!!!」


 では、次話にてお会いしましょう








( *´艸`)<遂にR18の話を一つ投稿してしまったでござるよ……



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