インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おひさしぶりです

 いつの間にかお気に入りが1200人突破してて驚きました。嬉しいです、ありがとうございます<m(__)m>

視点:ユイ

字数:約六千

 ではどうぞ






幕間之物語 ~Vの者~

 

 

二〇二五年八月五日(火)

 

 昨今、ネット界隈というのはある種の激戦区である。

 その最たるものは動画コンテンツの投稿者や配信者達だろう。自身のアカウントで投稿した動画に一人でも多く視聴者が来るよう創意工夫を凝らし、宣伝に力を入れなければすぐに廃れていく。日々コツコツと取り組んで数年経っても伸びない人は伸びないし、かと思えばふとした拍子に爆発的人気を誇る存在が現れたりもする。

 いっときはその爆発力、集客力や注目度にばかり傾倒し、『迷惑系』と名の付く配信者もいたが、それも今は昔の話。時々ニュースにはなるが、一発屋では続かないものである。

 だからこそ継続的に投稿を続け、且つ面白さを提供する配信者達に人は魅了される。

 チャンネル登録者数と一月あたりの総再生時間が一定以上であれば広告が付き、収益化されるシステムと、いわゆる『推し』とされるアイドル的な活動に目を付けた一部の活動に端を発し、今や『V-tuber』の存在はかなりの規模に膨れ上がっている。

 一時は巷を席巻した天才少女《七色・アルシャービン》もフルダイブ技術を使い、バーチャルアイドルとして活動していた程だ。

 

 ――そして今日、新たな『V-tuber』が爆誕した

 

 

 

私達の事である

 

 

 

「時間ですね――――はじめまして、AI桐ヶ谷家長女のユイです」

「次女のストレアだよー! よろしくぅ!」

「……長男のキリカだ」

 

 

――マジで配信始めやがったぞコイツら(笑)

 

――純然なAIらしいが、そう思えねぇ滑らかさだな

 

――AI桐ヶ谷家って、新しい一家形成されとるwww

 

――家系図大変そうだな

 

 

 大物配信者も最初は初心者。企業所属なら事前宣伝が聞いて同接数、登録者数にブーストが掛かるらしいが、私達にそんなものは実質ない。厳密にはALO運営企業《ユーミル》所属の『V-tuber』として数日前に宣伝され、配信を開始したが、他の企業と違い先駆者がいないため同接数は四人と企業勢としては少なめだ。開始直後から待機されていたのは、ネットの海からライブ予定の待機画面を見つけ出した猛者という事になる。

 まあALOは人気ではあるが、ゲームとは直接関係ない情報なので公式ホームページでも大々的にはされていない。だから最初はゼロ人スタートと思っていたので、来る人は来るのだなという印象を抱いた。

 ありがたいものである。

 

「今日から我々も配信者の仲間入りですよ。ちなみに私達は純粋なAIなので人権は勿論、戸籍も存在しません。このチャンネルアカウントも《ユーミル》社長の篠ノ之博士に作って頂きました」

「アタシ達はアカウントを間借りさせてもらってるって事だね。許可をもらってるから、怒られたりもしないよ!」

 

 

――サイトのAIに弾かれないかが心配だな(笑)

 

――いや、ワンチャン中に人が入っている可能性も……

 

――そーいや配信場所どこ?

 

 

 ススッ、と流れるコメントを見て、疑われてるなぁと思った。

 しかしそれも無理からぬもの。『V-tuber』勢にはAIとして売り出している人もいるが、それがロールプレイであり、中に人が入っている事実にあえて触れないのが暗黙の了解となっている。

 そんな中、純然AIが入り込んできたのだ。普通なら人間のロールプレイと思われ、疑問にも思われない。疑問に思われるだけまだマシなのだ。

 これを証明する手段が実質存在しないのが辛いところである。フルダイブ技術が確立されてから手軽にバーチャル配信者になれるようになった弊害だ。まぁ、私達の方が異例なのだが。

 一先ずその疑問には触れない事を決めた私は、配信場所を見回した。

 私達が初配信の場に選んだのは、先日和人が仲間内にのみ公開したワールド”安住の地”。杉林と広大な湖面を背景に立つログハウスの前に私達は居た。

 

「ここは和人が作ったVRワールドですよ。パソコンで例えるなら家族フォルダのようなものでしょうか。今回は記念の初配信という事で、想い出深いこの家を選んだんです」

「ここはねー、アインクラッド第二十二層でキリトが所有してたログハウスなんだよ。アタシとリーファ、シノンは暫く居候させてもらったし、アスナ達とお泊り会した事もあるんだ」

「オリジナルから別れる前の話だが、ヒースクリフやディアベル達を招いてパーティーをした事もあったな」

 

 

――パーティーした事あったんだ

 

――つーか招く側なのね

 

――お泊りのメンツ的に当時からハーレムだったのか……

 

 

「ん”ん”っ、ヒースクリフやディアベル達を招いたし!」

「男性陣をプッシュするねぇ」

「性別比だと明らかに女性が多かったですけどね」

 

 SAOの男女比的に男性の方が多い筈なのに、なぜか女性陣の多さが彼らの周りだと際立って見えるのは気のせいではないだろう。

 そうこうしていると、新しいアカウント名のコメントが流れ始め、同接数も増えていく。

 

「あ、いま新しく来られた方がいますね。はじめまして~」

「わ、わ! 一気に十人……や、三十人行ったよ?!」

 

 挨拶を返した直後、瞬く間に数字が増え、二桁に到達。かと思えば三十人を突破した。初配信でこの人数は中々の快挙ではないだろうか。

 なぜこの数まで増えたのかと考え、すぐに答えに行きついた。《ユーミル》の公式SNSアカウントから大々的に報じられていたのだ。ホームページはわざわざ見に行かなければならないが、SNSは更新されれば通知が来るよう設定している人が大半だという。そう考えればこの人数も納得がいく。

 スタート時点の人数が少なかったのは平日の真昼だからだろう。長期休暇の学生も、大半はVRMMOか他の配信者の動画に時間を費やしている筈だ。

 強豪の同業他社は多い。

 

「おお、もう五十人も……レイド一つ分の人数を超えたな」

「数字で見ると少ないかもだけど、アタシ達の配信にそれだけ集まってくれたと思うと嬉しいねぇ」

 

 

――初見です。おつー

 

――どうして三人は配信者デビューを?

 

――ユーミル所属って事は企業勢って事だよね?

 

 

 流れてくるコメントを見て、アカウント名を読み上げながらお礼を伝えていると、それに混ざって質問が送られてきた。丁度配信の話題にする予定だったからこれ幸いと取り上げる事にする。

 

「配信者になったのはですね、様々な事を知る手段として最適だと考えたからです」

 

 そう語り始めると、ストレアとキリカが口を閉じる。これは示し合わせていた事だから問題ない。

 

「私達にもある程度の基礎情報は存在しています。《メンタルヘルス・カウンセリング・プログラム》として活動するのに必要な知識、話術が予めインプットされています。しかし……私達は、知らない事が多い。私達が知る”世界”とは、SAO、ALO、SA:Oの仮想世界と和人が生きた現実世界のみ。リアルワールドの事を、私達は極めて狭い視野でしか知らないのです」

 

 《織斑一夏(きりがやかずと)》が虐げられた事は事実だ。彼を憎む者がいれば、彼が憎む者達がいるのもまた事実である。

 しかしそうではない者もいる。彼に同情的な人、尊敬の念を向ける人などがいると私達は知った。

 世界は彼の事を知り始めた。これから少しずつ、そういった人達は増えていくだろう。そうして徐々に彼の事が認められるようになっていった。空白だった情報が埋められていったから貶める隙が無くなった。

 

 ――次は私達が弱みになりかねない

 

 私はそう危惧を抱いた。

 私達に人権はない。

 人工知能についての論議で話題に上がるものの決着はつかずじまいの状況は、私達にとって良くないのだ。

 和人が言った通り、ヴァフスのように今後私達に影響されて成長するAI達は増えるだろう。しかしそれらすべてが善良になるとは思えない。キリカとホロウのように基が同じ存在でも善と悪に分かれるし、価値観によっては私と()()()()のように対極に位置する事もある。場合によってはAIが人に反旗を翻す事は十分あり得る話。

 SF映画で題材にされる程度には有名なそれを危惧し、私達を危険視する勢力がいるのも理解できる。その筆頭としてキリカがやり玉に挙げられる事も少なくない。私達の存在も、また。

 今はまだ和人の脅威度にばかり目が行っているから目立っていない。【森羅の守護者】の協力者である事も、多少は効果がある。

 だが、そこで止まっていては状況は悪くなるばかり。

 明確に私達を非難する声が上がった時、和人達が擁護しない訳がない。それを皮切りに彼らまで巻き込まれるのは絶対防がなければならない。手を打つ必要があった。

 キリカは私やストレア、プレミアなど同じAIに抱く同族意識を認め、前向きに生き始めた。ホロウは《キリト》としての意識だったのに対し、キリカは《キリカ》という新たな自我を確立し始めた。復讐鬼に堕ちるトリガーは同じだが、その対象が変わっているのである。

 それを人は知らない。

 だから、知ってもらいたい。

 動画は配信という『枠組』でズームアップされた状態で、少しでも私達の事を知ってもらいたい。

 

 ――それは、人々にとっても同じだろう

 

 誰しも『未知』を恐れる。未知だからこそ、それを他の情報で上塗りし、強固に信じ込む。一度そうなってしまうとまず修正は利かない。

 そうなる前に私達の事を伝える。『V-tuber』はガワに近いが、やらないだけマシである。

 勿論、現実に蔓延している無数の娯楽、人々の成長と共に世に送り出されたゲーム達を遊びたいという欲求もある。勉強のために数多くの配信者の動画を見たが、どれも面白そうだと思ったし、リスナー達とのやり取りも秀逸だった。それを感じたいという欲望があった事は否定しない。

 ――そんな懸念と欲望を知った篠ノ之博士が提案したのが『V-tuber』デビューだったという事だ

 《ユーミル》は今後事業拡大を目指していくつもりで、その一つとして『V-tuber』が含まれていたらしい。お互いの目的が一致したため援助という名目でアカウントを作ってくれたという訳だ。本来なら私達の所有権を持つ和人がアカウントを作るべきなのだが、13歳未満のアカウント作成は規約違反になるため出来なかった。

 閑話休題。

 

「そこで、私達の話を知った篠ノ之博士から提案を受けまして。条件を満たして収益化が通れば、自分達で好きなゲームを購入できますし、これはいいなと」

「フルダイブで顔を合わせて話すのもいいけど、こうやってコメントとやり取りするのも面白そうだしね!」

 

 

――なるほど、俺達との会話をご所望か

 

――思ったより平和的だな?

 

――フルダイブを敬遠してる人とも話せるし、いいアイデアじゃね?

 

――あの天災博士、最近まともな事しかしてねぇな……

 

 

 大部分隠したままだが、口にした事も真実のためか反応はそこそこ良さげである。それに内心でほっとする。第一段階としてここで反感を抱かせてしまえばとん挫する計画だったから安心も一入だ。

 

 

――これ、義弟達は知ってるの?

 

――収益化した時の口座ってどうすんのさ

 

 

 ずらずらと流れていく中で、質問がまた飛び込んできた。それを拾い上げる。

 

「あ、この事は皆さん知っていますよ。口座の方は義理のお母さまが和人に作っていた口座を、和人から譲り受けました。お祝いとして五万円も頂いてしまって……感謝しかありませんね」

 

 

エメラ――ええんやで( `ー´)ノ

 

エメラ――可愛い子供達のためだもの

 

 

「……こ、これは、お母さまのアカウント……!」

 

 

――まじか(笑)

 

――初回配信で親フラとかwww

 

――いやまぁ、口座とか諸々用意した一人なら見てるよなぁ!(笑)

 

 

「マジでお母さん見てるんだ?! ありがとー!」

「ぴーすぴーす」

 

 気付いたらしい二人もそれぞれ反応を返し始めた。

 しかしキリカはやや無表情のまま右手でピースサインを送るばかり。この子はもしや、無表情キャラでいくつもりだろうか?

 

 

ラビラビ――三人とも中々やるじゃーん?

 

ヒースクリフ――かつて手掛けた者として感慨深いな……

 

キリト――俺も今度ご祝儀を口座に振り込んどくかな

 

 

 ふと、見知ったアカウント名に目が留まった。同接数が百を超え、コメントの流れも加速していく中でもハッキリと見えた。

 

 

「あ、篠ノ之博士です」

「ヒースクリフもいる!」

「オリジナルも来てたのか」

 

 

――ふぁ?!

 

――マジか!

 

ラビラビ――そりゃ企業所属の配信者の初配信だもんねー、これも仕事の内じゃんよー

 

ヒースクリフ――娘のようなものだからな

 

キリト――二人に教えてもらったんだ

 

Klein――オレも見てるぜー!

 

A.G.M――俺もカミさんと見てるぞ

 

絶剣――ボクもー!

 

閃光――みんなでALOから見てるよー!

 

ドラゴンテイマー――頑張ってください!

 

マスタースミス――チャンネル登録したわよー!

 

――続々と仲間が駆けつけてるぞ

 

――仮想世界なら配信楽だし、こりゃ突発コラボあり得るかもしれんね

 

――なんだかんだ言ってユイさん達も有名人だし、ガチのAI-tuberって事で知れ渡るの早そうね

 

――時代は進化したなぁ……

 

Klein――ホントだぜ……

 

 

「皆さん……! ありがとうございます! これから少しずつ配信していきますから、良ければ私達に多くの事を教えてください!」

「それでは、またどこかでー!」

「ばいばい」

 

 短くはあったが、キリがいいと判断して別れの挨拶を告げ、配信を終えた。

 『もう?!』という反応があったが、グダグダと長引かせるのは良くないとして短めを予定していたのだ。色々と話すのはそういう機会を別に設けたり、もっと人が増えた時に少しずつしていけばいい。

 私達の命に、限りは無いのだ。

 

「さて……ではダウンロードしておいたゲームをプレイしてきます。私はフリーゲームを中心に撮り貯めていくので、ストレアはリアルタイムの配信の用意をお願いしますね」

「りょうかーい!」

「俺はSA:Oの様子を見てくる」

 

 そうして、私達は動き出した。

 

 

 

 

 

#AI桐ヶ谷家

#桐ヶ谷ユイ

#桐ヶ谷ストレア

#桐ヶ谷キリカ

 

【初配信】AI桐ヶ谷家のふれあい

 AI桐ヶ谷家

 905回視聴・2025/8/5   チャンネル登録者数 83人

 

 






Q:色々手段はあるのになぜ『V-tuber』?
A:
作中:AIの人権獲得(結果的に和人の弱点でなくなる)
   自分達の事を知ってもらい、脅威でないと思ってもらう
   純粋に遊びたい

メタ:キリカの情緒成長
   SA:OにAI組が複数いると困る()から


・桐ヶ谷ユイ
 AI家の長女
 大人ver.と子供ver.があり、今後は使い分けていく予定。主にフリーゲーム中心の撮り貯めスタイルでコンスタントに配信していく
 自前で加速できるからこその荒業
 衣装は少女だと白ワンピース、大人だと『千年の黄昏』登場の原典ヴァベル衣装(つまり際どい)なので、地味にセンシティブ枠だったり
 推し箱は『○○ライブ』


・桐ヶ谷ストレア
 AI家の次女
 SAOでの衣装を登用
 見た目はセンシティブ枠だが、実は結構純粋。天然ハチャメチャキャラで配信中心で活動予定
 感動ものに泣き、ホラーに笑い、ギャグに困惑するタイプ
 デビュー以前からコアなファンからは『わんこ』扱いされている
 推し箱は『〇じ〇〇じ』


・桐ヶ谷キリカ
 AI家の長男
 SAO前半期のコートを登用
 黒髪黒目で初見さんは『桐ヶ谷和人?』と勘違いすること間違いなしだが、あちらが髪を下ろしているのに対し、こちらは一つに結っているのと眼帯をしていないなど細部に違いがある
 無表情キャラでいく予定だが、現在はSA:Oやプレミアの件があるためしばらく配信活動には参加しない
 推しは『TOP4』


 では、次話にてお会いしましょう


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