インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは
筆が乗ったけど滑ってる感も否めないんだゼ(血反吐)
途中までややこしい事この上ないオリジナル要素ばかりなので『メンドくせぇ!』な方は後書きのまとめを見てネ
視点:ユイ
字数:約一万二千
ではどうぞ
「――と、これからプレミアに教えていく戦闘スタイルは見てもらった通りだ。なんとなく解ったか?」
「はい。素早く攻撃、のちに離脱……とにかく躱す事ですね」
「そうだ。自衛手段はなにも相手の撃退ばかりじゃないからな、隙を見れば逃げるのも手だ。プレミアの場合は隙を作るために攻撃すると考えた方がいい」
「なるほど……わかりました」
キリカとユイの試合後、弟子になったプレミアを彼は指導していた。
とは言え流石に実演は終わりのようだ。既に数時間掛けて素振りをしていたからか、疲労も考慮し、今日は休む方針らしい。プレミアに積まれている人工知能は余程高性能らしく、人間と同じように悩み、成長する他に、精神的疲労までも再現しているようだ。
なんとなくだが、キリカとプレミアに共通点を見出した気がする。
ひょっとするとこの世界のNPC達に積まれているAIは、大本はキリカのそれなのではないか。MHCPもキリカも、そしてこの世界のAIも、全て同じカーディナル・システムによって動かされるプログラム。性別やバックボーンなどを除けば、後に残るのは情報処理能力や学習したログデータという画一的なデータのみ。それらを反映させ、トップダウン型の完成系に至ったのがオリジンに住まう彼らなのではないか。
そんな考えが浮かんだ。
――……それだけは、無いですね
そう独り
かつて私は、キリトからキリカが産まれた経緯――すなわち、キリト個人の精神までモニタリングされていた意図を、『生体兵器』という彼の自虐から『兵士の量産』と考えた事がある。セフィロト計画を鑑みるにあながち的外れではなかっただろう。そもそも《亡国機業》が意図した事かは不明だが。
その計画を、果たして他が考えないと言えるだろうか。
兵士を育てる側からすれば《キリカ》という存在は喉から手が出るほどの逸材の筈だ。アバターを用意する手間と資金こそあれ、それさえクリアすれば、教導なしの強力な兵士が味方になる。その実力は《桐ヶ谷和人》によって実証済みだ。更にAIはコピーが可能。アバターを用意した分だけ兵士が出来るという事になる。
もちろん『自己同一性』という避け得ない問題があるから一筋縄ではない。仮に私が複製されれば、『家族を守るため』という唯一の例外を除き互いに消去しようと潰し合いを始めるだろう。
キリカもそれは同じだ。キリトを前に自我を保てているのは、『人間』と『AI』という立場の差を自覚していたからに他ならない。同じ『AIのキリカ』が他に存在すれば潰し合いを始めるだろう。
――だからこそ、画一的なログのみの共有はあり得る
間違ってはならないのは、兵士を求める者達が真に欲するものは『戦力』であり、『個人』ではない事だ。目的を達せるだけの能力を備えていれば誰でもいいし、何でもいい。
その能力を備えるのは、経験だ。
AI達にとっては『ログ』である。
『Aの場合はBをする』というパターンを無数に積み重ねた結果のログを共有するだけなら支障はない。仮に私とストレアがキリカのログを受け取っても、それは『記憶』ではなく、『記録』という扱いになる。自身の過去でないから『自己同一性』の崩壊には繋がり得ない。
そして『記録』を受け取ったAIは、理論上は同等の技量と性能を発揮するようになるだろう。
ならば猶更キリカのログが反映されたとは考えられない。
仮に反映されていれば、この世界のAI達はより強く、あるいは狂気的な様を見せる筈だ。プレミアはカーディナルに統合されているログデータを受け取っていないのかもしれないが、それ以外のNPC達にもその兆候が見られない以上、キリカを参考にされた可能性は無いに等しい。
そもそも『見知らぬ人物の記録』を受け取り、その経験と技術を十全に発揮出来る存在はいないだろう。人間なら困惑するだろうし、AIにしても『どのように行うか』のシークエンスや処理方法が分からず、手間取る筈だ。さっきの私の失敗のように、実際に経験し、自ら蓄積させたログがなければ汎化させられないのである。
つまりオリジンのAIの高性能ぶりは純粋にプログラマーの腕が良かったからに違いない。
そう考える方が精神衛生的にもいい。
――――ピピピッ、ピピピッ
ふと、軽快な電子音が耳朶を打った。視界端にはコールを示すベルマークが明滅している。
はて? と私は首を傾げた。
このベルマークは外部からの着信を知らせるアイコンだ。着信――つまり、電話である。携帯電話など所有していない私には無縁のアイコンが明滅していたのだ。
「この音ってユイちゃんからよね? ユイちゃんって電話持ってない筈だし、アプリ通話かしら」
最近はアプリ通話などもあるので無くはないと考えたのだろう、リズベットが驚きながら問いかけてきた。その可能性があったか、とチャットアプリの存在を思い出しつつ、私はベルマークをタップする。
すると、ぶん、と音を立てて白いホログラムウィンドウが表示された。
『やっほー、ユイちゃん! プリヴィエート!』
「な、七色さん?!」
ウィンドウの中央にはテレビ通話のように人の顔が映し出されていた。茶髪の幼い少女は、国際IS委員会本部ビルで寝泊まりしている枳殻七色だ。
しかし私が驚いたのはそこではない。
チャットアプリによる通話にもテレビ通話はあるし、アミュスフィアを介した会話時にも利用はできる。だがこのテレビ通話機能はゲームプレイ中には使用できないという欠点があった。普段使いのチャットアプリは携帯端末による利用を前提としていて、ゲーム内からの使用には対応していなかったのだ。
だからALOで利用する時は通話のみだった。オリジンに於いても同じだろうと踏んでいたが、その予想を覆されたために私は驚いたのである。
それは仲間達も同じだったが、その反応を心待ちにしていたらしい七色が、にんまりを朗らかな笑みを浮かべる。
『ふふ、驚いてくれたようね。これは和人君と一緒に作った新しいチャットアプリなのよ♪』
「な、なるほど。だから映像付きなんですね……」
『そうよ。緊急時にVRの中と外で連絡を取り合えるようにって、和人君と突貫で作ったの。とは言えまだ開発初期段階だから制約も多いんだけどね。今後オリジンのアップデートの状況に応じて調整しなきゃいけないし、やる事は山積みなの』
どうやらこのアプリは、オリジンがSAOのようにログアウト不可などの異常事態に陥った時用に作られたもののようだ。話を聞けば、和人が請け負っていたテスターの仕事の一つだったらしい。一応初日の段階で連絡を取り合えるようにはなっていたそうだ。
「なるほどね。だから最近、夜もログインしてなかったんだ」
話を聞いていると、レインがホログラムに近付いた。
『まぁね、和人君も忙しくなってるから、せめてアプリ製作くらいはあたしでやっつけないとって気合入れてたの。あ、もちろん
『久しぶりだな』
七色の話を聞いてか、ひょこりと横から青年が顔を覗かせた。髪色こそ茶髪で眼鏡を掛けているなど細かな違いはあるが、顔の造形を見れば、ウンディーネ最強と謳われる剣士スメラギと重なって見える。どうやら彼も七色と同様、リアルの容姿をアバターに反映していたらしい。
和人はALOでフレンド登録をしたらしいが、《クラウド・ブレイン事変》以降、私達は一度も顔を合わせていなかった。
「お久しぶりです。三ヵ月ぶり、ですかね」
『それくらいになるな。とは言え、お前達の活躍はよく耳にするから、それほど久しく感じないのだが』
暴れているな、と遠回しに呆れられているような物言いに苦笑する。本当に暴れているのは義弟の方なのだが、後を追っている私達も同じようなものと言われているような気がした。
「住良木さん、七色はしっかり寝てますか? ご飯も栄養が偏ってないか心配なんですが」
『ああ、そこはしっかり俺も気を付けている。今でこそ不定期になったが、元々アイドルとして活動していたセブンのマネージャーとして動いていたからな、注意はしているさ。むしろ和人の心配をすべきだろう』
『そうなのよ!』
神妙な面持ちで住良木が言った直後、七色が大きく同意した。
『最近の和人君ってば全然休んでないの! 日中も実験、仕事に訓練漬けだし、夜は”アレ”でしょ? いくら細胞活性をコアで出来るからって休息が足りなさ過ぎるのよ。政府も《BIA》ももうちょっと和人君の負担を軽くしてあげるべきなんだけど……』
勢いのあった言葉が尻すぼみになった後、はぁ、と七色が深いため息を吐く。そこはかとない哀愁漂う様子に私達は思わず顔を見合わせた。
これは何かあったようだ。
いち早く思い至ったらしいユウキがひょこ、と顔を出す。
「ねぇ、何かあったの?」
『うーん……まぁ、あったと言えばあったのかなぁ……』
彼女の答えは要領の得ないものだった。感覚としては、問題というほどではない、むしろ喜ぶべきなのだろうが素直に喜べない……という様子だ。
『亜空間潜航技術――って、言っても解らないわよね……えっと、ヴァベルが篠ノ之博士に伝えた理論が確立されて、それを和人君が使えるようになったの。具体的に言うと、瞬間移動とかワープとか、そういう事が出来るようになったわ』
「ワープ?!」
「瞬間移動だぁ?!」
ユウキとクラインが驚愕の声を上げる。
声こそ上げていないが、驚いているのは私達とて同じだ。
亜空間潜航技術。その単語自体は聞いた事ないが、ニュアンスとして解らなくはない。おそらく物理的な距離をゼロに等しいように、AからB地点へ瞬時に移動する技術なのだろう。研究が進めば広大な宇宙を一気に進む技術として重宝されるはずだ。
つまり博士は、宇宙に飛び立つ夢を現実のものへと一歩近づけた事になる。
飛び立つまでの障害が依然として多いのはなんという皮肉かと思わなくもない。
「……しかし、それほど喜ばしい事があるのに、浮かない顔ですね」
正しく快挙と言うべき進歩である。たとえ未来から齎されたものであろうと、対外的には篠ノ之束が確立させたものだから問題ない。
その快挙を喜べない理由に、和人が絡んでいるらしい。
今度はいったい何をやらかしたんだろうかあの子は。
『ワープするには最低でもコア三つ分の演算能力が必要。更に座標固定の問題……まあこれは演算処理が学習すればいい話なんだけど、まだ数十メートル範囲内の短距離転移が安全面の限界。ここまではいいのよ』
七色はそう区切った。
話を聞いた限りでは和人が単独で転移を実行できる事になるが、そこは問題無いらしい。あるいは問題だとしても些末、ないし本題が大問題過ぎて霞むほどのようだ。
私達は意識を集中させた。
『問題はここからでね……亜空間に潜航中は、こちらとあちらとで物理的には干渉出来ないの。ただ一つの例外を除いてね』
「その例外とは……?」
『エネルギー攻撃よ』
端的に、天才少女が言った。
『厳密には、《零落白夜》みたいにSEそのものを使う攻撃』
《零落白夜》とは『SEを攻撃用に用いた攻撃』の代名詞。本来であれば織斑千冬が駆る【暮桜】にのみ赦された能力だが、その理論・技術を転用された護身武器、また兵装を和人は用いる。また和人を守る【森羅の守護者】の幾人かも同様の性質の兵装を扱っている。今は理論さえ解れば転用可能な単一仕様能力として知られる事になったものだ。
しかし亜空間潜航に関しては現状和人だけが単独で行使できる。
亜空間にいる間は攻撃を受けない。だが潜っている側の和人は、こちら側に攻撃できるのだという。
なるほど、確かに問題だ。
――……でも、大問題ではないですね
試合の上ではアンフェアだろうが、そもそもワープを禁じられると思うので問題外になるだろう。彼が《亡国機業》側なら解るがそうではない。
この程度では頭を悩ませるほどではない気がする。
「なるほど……しかし、それの何が問題なのでしょう?」
『ん、それ自体は問題じゃないの。SEであれば干渉可能という前提が大事なのよ……それでね……』
それから彼女は語り出す。
亜空間潜航中、SEを用いた攻撃であれば和人は干渉可能である事が分かった。しかしこちら側の攻撃はSEを用いても届かなかったらしい。解析したところによれば、亜空間の『距離』はゼロにして無限であるため、入口のA点と出口のB点以外に攻撃しても彼の体に当たらないのだという。そこにいるようで実はいない、という状態になるらしい。
要するに潜航中の彼を捉える事は不可能。観測も不可能。
――そう思われた
だが、試験時に亜空間から浮上する時のアンカーが輝く前に和人を補足し、楯無が注意を促すという一幕があった。入口と出口による補足しか不可能と思われたのに、潜航中の彼を捉えたのだ。
楯無によれば、彼女が駆るISが知らせてきたという。
なのでハイパーセンサーを含めてログを検証したところ、確かに彼を補足できていたらしい。
『ここからは推察になるんだけど……亜空間は、アストラル界なんだと思う』
「アストラル界……?」
『セフィロトはSEの事を、星を
「あの世、という事でしょうか?」
ぱっと考え付いたのは、魂が行きつくとされる
それに近いわ、と七色が肯定した事で怖がる人がさらに増えた。
『そもそもアストラルっていうのは『星の』とか、『星の世界の』って言うの。そしてアストラル界は、人の感情を司るアストラル体がいるとされる高次元の世界……ね、なんだかSEと似てるって思わない?』
「……まぁ、なんとなくは……」
『ちなみに神智学の分類なんだけど、情緒体とか
「つまりオカルトなんですね」
随分非科学的な話だなと思ったが、やはり非科学的な学問だったらしい。
『それでね、神智学では《アストラル・ライト》っていう宇宙に万遍なく存在するエネルギーの話が出てくるの、超能力を使うのに必要なんだとか。神学だとアストラル光はエーテルとも言われるらしいんだけど……』
神学、神智学という眉唾ものの学説ではあるが、それでも笑えないのはSEという現実に存在するエネルギーとの相似性があったからだ。
そもそも彼女がなぜVR技術といっさい関係無い学問を知っていたか。
それは、”感情”とエネルギー関連で和人が独自に調べた中にあったかららしい。この話も和人から聞いたものだと彼女は言う。
SEは現在でも詳細不明のエネルギーとして扱われている。人の魂が作り出すものだとしても、その原理はやはり不明だ。だが現実として和人の意志に呼応して賛成されているのは確かである。そこで彼は未知のものとして、科学ではなくオカルト面から思考を始めたらしい。
曰く、論理と科学は天才達がしてくれるから、との事だ。
そこでネットを皮切りに探し回って見つけたのが神智学、そして《アストラル・ライト》なのだという。
それを知った当時の彼は知識の一つとして覚えただけだったらしいが、ワープの試験をした今日、物理的不干渉ながら潜航側が一方的にSEによって干渉できた事、また楯無が補足だけは出来た点から神智学の話を思い出した。SEとはつまり、宇宙に存在する《アストラル・ライト》のことではないか、と。
ちなみにアストラル体が”感情の体”なら、”魂の体”はエーテル体と言うらしい。更にエーテルは第五元素として扱われ、中世キリスト教的宇宙観に於いては天界を構成する物質として扱われるという。
尚、この知識は全てワープ試験後に和人が彼女に語った事らしい。
「……中二病フルスロットルだなぁ、アイツ……」
その話を聞いて、呆れたようにクラインが言った。苦笑なのは微笑ましさがあるからか。
口にしないが、彼以外もどこか微笑ましくも苦笑を禁じ得ない、という面持ちである。
サブカルチャーに手を出しているのは知っていたが、まさかあのリアリズムな和人がそこまでオカルトに傾倒するとは思わなかった。他者に話している辺りがその本気具合を感じさせる。
「なるほど。つまりあの子がそういう話をしてきて困るっていう感じですか」
『違うわ』
「ん、では調べ物ばかりして休まなくなったとか……?」
『それも違うの』
立て続けに否定を返される。はて、と私は首を傾げ、義姉や仲間達を見た。だが誰もかれも分からないようで首を横に振る。
「ではいったい何に困っているのですか?」
「……は?」
思わず唖然とした。
神智学だとかでエネルギーのオカルト的解釈の話をしていたと思えば、いきなり訳が分からない訓練の話を聞かされた。話題の振れ幅についていけなかった。
その困惑は七色も同じなのか、特に指摘はしてこなかった。
『あたしはよく知らないんだけど、日本のサブカルチャーとかだと、気を察知して先読みするとかあるらしいじゃない? あれを大真面目にし始めてさ……』
「あー……まぁ、バトル漫画にゃありがちだけどよ……所謂『気を読む』ってヤツは……」
言わんとする事がなんとなくわかったのか、侍の青年が胡乱げに言う。
私もネットを見て回り、また織斑秋十の単一仕様能力から掲示板で盛り上がっていたのを契機に知ったサブカルチャーから、『気を読む』というのが何を言わんとするかは理解している。件の作品では完全催眠の説明の折、六つ目の感覚として取り上げられていた。クラインが思い浮かべているものもそれに類似したものに違いない。
サブカルチャーで言う『気』や『霊力』に、彼はSEや《アストラル・ライト》を当て嵌めたという事だろう。人が生きている限り魂を炉心とし、感情という薪によって生まれるエネルギーから相手を読み取ろうと考えたのだ。
なるほど、視覚、聴覚による危険察知に頼れない状況では有用だろう。
だが――――如何せん、非現実的にして非科学的過ぎやしないだろうか。
エネルギー兵装の熱量から導き出す予測と違い、彼が読み取ろうとしているのは人の思考であり、行動である。幾らなんでも無謀だ。
その辺は和人自身も解ってるだろうが……
「まぁ、やる前から諦めない辺りはあの子らしいですが……」
『しかも出来なさそうで出来始めちゃってるからタチが悪いのよねぇ』
「あ、出来始めてるんですね……」
つまり幸か不幸か彼の理論は間違っていなかった訳だ。第六の感覚を養う事は前代未聞だから手探りだろうに、それをやれているのは流石である。
今日から始めたばかりの訓練だろうに偶然で片づけられない回数の成功があるという事は、おそらく第六の感覚はある程度育っていたのだろう。キッカケがあるとすればサクラメントでの一件に違いない。セフィロト戦時は絶大なエネルギー反応があったというし、あの一件からコアを三つも宿す事になり、彼の体はより一層SEとの親和性が高くなっている。
「……もしかすると彼は、違和感を覚えていたのかもしれませんね」
ふと、そんな考えが浮かんだ。
明確な時期は解らないが、訓練を始めるほどの強い確信があった点からするに、彼にだけ解る言語化出来ない違和感があった筈だ。その違和感を説明できる論理を見出したのが今日なのではないだろうか。
だとすればその違和感を元に訓練する訳だから、初日から成功体験が起きても不思議ではない。
そう話すと七色と住良木を含め、みんなが黙り込んだ。
『なるほど、彼にしか解らない感覚かー……それは十分あり得そうね。でも水臭いわねっ。そういう事は逐一相談してくれればいいのにっ』
「まぁ、和人君だからねー」
一人で考え、一人で予想し、答えまで導いた事に不満を示す彼女に朗らかな声を掛けたのはアスナだった。仕方ないなぁと言わんばかりの苦笑が顔に浮かんでいる。
言わんとする事は解る。
彼は確信を持てるまで誰かに相談する事が無い。確信も無しに相談する時はよっぽど切羽詰まった時か、現実になる公算の大きいマズい事態の時くらいだろう。
つまりそのどちらでもなければ彼は結論が出た時にのみ話をする訳だ。
今回はそのパターンだった。なぜなら彼にとって、その問題は彼自身のものに等しかったから。
あるいは――
「きっと彼にとっては新しい技術みたいな捉え方だったんだと思う。システム外スキルを確立させる時みたいにね」
研究者気質だからね、と栗色の細剣使いが微笑む。
――数多くのシステム外スキルを確立させた時、私はまだ彼と出会っていなかった
どことも知れぬ闇の中からずっと彼の動向を見続けていた。だから私は知っている、余人に知られない影で空恐ろしいほどの反復練習を行っていた姿を。仲間には理論と結果を教えているだけで、そこに至るまでの道程は一切話していなかった。
《
それが今、リアルで起きているだけの事。
「ひょっとすると義務感じゃなくて、探求心で訓練してるかもね。SAOにいた頃からそんなきらいはあったし」
そう語ったのはユウキだ。
彼女はAI組を除けば仲間内で《剣技連携》を会得した猛者の一人。レインも片手でのみ出来るというがほぼ偶然で、セブンと対峙した時から使えた試しは無いらしい。翻って彼女は二刀による左右交互の片手剣技を放てるようSAO時代から猛特訓してモノにした経歴がある。
それ故、新たな技術開発をする少年の実力を尊敬している一人だ。
「うー、なんかウズウズしてきた……ねぇ、今も訓練してるんだよね?」
『え? え、ええ、してる筈だけど』
「ならボクも参加してくる!」
そう宣言したユウキは、言うが早いかさっさと闘技場を後にした。その速さたるや風の如し。一番に告白した思い切りの良さは健在のようだ。
「……あたしも様子を見に行ってきます」
彼女に続くようにリーファも動き出した。師として実力が気になっているのか、あるいは義姉として体調を慮っての事か。
もう今日はオリジンからログアウトする話をしていた仲間達も続々と後に続く。もちろん、純粋に休むために別れた人も多かった。
そうして残ったのは私とストレア、キリカ、プレミアのAI四人組と通話中の七色、住良木の六人。
『ユウキちゃん達は相変わらずねぇ』
「だからこそ信頼を得たのでしょう」
『違いないわ』
くす、と苦笑を交わす。
視界の端ではキリカがやや居心地悪そうに視線を泳がせていた。そんな彼に凭れる形でプレミアが眠りについている。彼女にとって難解というか、ほぼ無関係の話をされている間に疲労から眠りに落ちてしまったようだ。
生物学的な行動を自然と取っている辺り、やはり彼女らに積まれているAIは高性能である。
『さて……その子が、件のNPCなのよね?』
私の意識が逸れたのを見てか、七色達の視線もプレミアに向いた。
話は和人から聞いているだろうが、こうしてプレミアの様子を確認するのは初めてだ。まあ彼女の事は公式HPにも取り上げられているので既に知っているだろう。
『一応その子のアバターを元に探りを入れたところ、分かった事が幾つかあるわ。その子はね、正式版で実装予定のメインストーリーとも言える《グラウンドクエスト》で、重要な役割を担ってるNPC……《聖石の女神》なの』
《グラウンドクエスト》。
それは現段階では開発途中であり、このβテストには実装されていない大型連続クエストの名称だという。ALOの《グランドクエスト》に近い扱いらしい。
登場予定のNPCもバックボーンや衣装は決まっており、残るはクエストの大筋や関連フィールド、Mobの設置などらしいが、一朝一夕で終えられる量ではない。クエストが実装されない事からそのNPCも未稼働の枠に入れられていた。
厳密に言えば、《聖石》を六つ揃え、救世の勇者が石の力で目覚めさせるまで、女神は【祈りの神殿】で眠りについている……という設定らしい。その場所は既に完成しており、解放されていない転移門の先にフィールド自体は実装済みなのだという。
だが、どういう訳かその未稼働のNPCが稼働している。
――この時点で既に矛盾が存在する
七色はプレミアの元となった存在を《聖石の女神》と呼称した。バックボーンも衣装も、既に決定されていると。
しかし現に彼女の設定は全て『Null』である。聞くところによれば、衣装も本来は北欧風のトーガを纏ったものだったそうだ。
つまりシステム的に彼女の設定が改竄されているのである。
「やっぱりカーディナル・システムの介入でしょうか……」
『可能性としてはそれが一番高いわね。茅場博士の話だと、既に彼の手を離れたに等しい状態らしいし』
まぁ、それはそうだろうと思う。デスゲームの大部分が生還できたのは和人のお陰だが、その選択を用意したのはカーディナル自身だ。ホロウやキリカの存在経緯を鑑みればカーディナルは既に人の手を離れていると言える。
作り手を含めて誰にもわからない代物――ブラックボックスになっているのだ。
『実を言うと、あたしがオリジンの運営側にいるのはカーディナル・システムが関係してるの。《クラウド・ブレイン事変》を始めとして色々とイレギュラーな事が起きてるから謎を解明するべきだっていう話が”上”で挙がっててね。【黒椿】にカーディナル・システムを万全な状態で反映できるようにっていうあたしなりの思惑もあったから、その話に乗らせてもらったのよ』
聞けば、【黒椿】でソードスキルを扱えるようになったのは、その大部分が茅場晶彦の協力によるところが大きいらしい。それは仕方ないのだが、そんな彼でも分からない動き方をするのは困りものだと彼女は考えたらしい。
カーディナル・システムはそれでもこの大規模な仮想世界の維持を担う中核だ。そんなものがどんどん未解明な部分を増やしていっているのは大問題。
現実問題として既にプレミアというイレギュラーが発生しているのがその証左。
彼女も一研究者として奔走させられているようだ。
『それで、二つ目の話なんだけどね。どうも最近オリジンに接続されてるアミュスフィアに1%程度の処理落ちが起きてるようなの』
「処理落ち、ですか?」
はて、と首を傾げる。
エフェクトが多重で発生したり、プレイヤーとMobが一定範囲内で固まっていたりすればそれくらいすると思うのだが。
その疑問を察したように、住良木が口を開いた。
『高負荷が掛かっていない状況でも常に発生しているんだ。これがALO側でも起きているならハードの問題と片づけられるが……』
「オリジン側だけという事か」
『ああ。おそらくだが、AIのお前達にも処理落ちの弊害は起きるだろう。人間には分からない程度の誤差だがお前達なら分かるかもな』
たしかにオリジンを統括するカーディナルに異常があるなら、そこにログインしている私達もなにか異変を感じられてもおかしくない。アミュスフィアこそ使っていないが、サーバーにインしている際のデータ通信の過程はみんなと同じなのだ。
だが生憎と私にラグのような覚えは無かった。
「心当たりは無いですね……二人は?」
「アタシは無いかなー」
「……多分、ある」
ストレアは無いと言った。反面、キリカは曖昧ではあるが、あると言う。
ふむ、と私は顎に指を添えて思索に耽った。
同じAIである私達の間で認識に差は生まれるのか、という点なら、あるという答えが出る。電脳生命になったのは同じだが、私達は純正トップダウン型であるのに対し、彼はボトムアップ型の可能性を秘めた存在だ。学習を積み重ねていくにつれて性能を上げるボトムアップ型の特性を持っているとすれば、彼の演算速度が私を上回ってもおかしくない。
同じAIだとしても、”個体差”はあるのだ。
だから疑うことなく、私は問いを投げた。
「何時ですか?」
「ユイ姉とデュエルしてた時だ。《シューティングスター》で突っ込んできた時、俺からはユイ姉が数瞬止まって見えてた。だから反応が遅れたんだ」
「ああ……」
あの時か、とすぐに当たりを付ける。
言われてみればあれほど単調な突進攻撃、なぜ往なすのではなく、真っ向から防いだのかと今更ながら疑問になった。彼の反応速度と経験であれば往なすくらいは出来たに違いない。
それが説得力となり、処理落ちは実際にあるのだと理解する。
ではその処理落ちを観測した少女はどう思うのだろうと、ホログラムに目を向けた。
『処理落ちが始まったのは初日の夕方だけど……いや、逆に考えれば、さっき起きた事と共通点が……? 原因となるものが近くにいて、カーディナルの演算が追い付かなかった……?』
当の少女は難しい顔で考え込んでいた。ブツブツと呟きが聞こえてくる。どうやら処理落ち自体は初日から起きていた事らしい。
原因となるものもなんとなく分かる。十中八九プレミアだろう。
ではカーディナル・システムは、大量のアミュスフィアに僅かながら処理落ちを起こす演算を、プレミアの何で行っているのか。そこが分からないから”謎の処理落ち”として問題になっている。
ウンウンと唸っていた彼女は、程なく深いため息と共に思索に耽るのを辞めた。
『ここで唸ってても仕方ないわね……ま、こっちの問題はあたし達に任せてちょうだい。キリカ君達はプレミアちゃんの保護・観察をお願いね』
「……ああ」
『ちょっと、そんな不安そうな顔しないでよ。大丈夫、この問題はきっちり解決してみせるわ。もしここでカーディナルをはじめとしたフルダイブ技術に問題があると分かれば最悪この先の歴史から消滅してしまう。そうならないよう今ここで解明する事があたし達研究者に課せられた使命だし、あたし個人も無くなるのはイヤだからね』
にっ、と七色が口の端を吊り上げる。自信の籠った不敵な笑みだ。
『じゃ、そういう訳でそろそろ切るわね。みんな、ダスヴィダーニャ!』
『ではな』
軽快な挨拶と、端的な挨拶を告げられた後、通話は切れた。
一度は和人と矛を交えた彼女も今では改心し、一研究者として真っ当に働いているようだ。そんな姿に私は尊敬の念を抱く。
「すぅ……すぅ……」
「……今日はもう休みましょうか」
「はーい!」
すっかり熟睡してしまった少女を背負い、義妹と義弟を促す。
「……ああ」
なぜか、義弟の返事が重かったのが気になった。
ダラダラと長く続けるのは私の悪いクセ()
信じられるか、これでもSAO編の頃よりは少ないんだぜ……?(震)
Q:なぜ神智学とかオカルトと結び付けた?
A:”感情”で増幅するエネルギーとかいう眉唾物に信憑性を持たせるため
和人の訓練開始の理由付け
BLEACHの霊圧・ドラゴンボールの気など、機械でなくとも観測可能なエネルギーの例として取り上げやすくするため
Q:つまり亜空間とは何ぞや
A:本来物質的な肉体を持つ生者では入れない高次元の世界
要するに『尸魂界=霊的世界』
Q:亜空間潜航技術は、つまりどういうこと?
A:トンネル
A~Bまでの道を繋ぐ。なので真の意味で亜空間に入り込む訳ではない
入口・出口はBLEACHの『穿界門』、通路は『断界』のイメージ。より厳密に言えばルキア奪還のため尸魂界に乗り込むべく使用された『霊子変換機付き穿界門』のようなもの
Q:亜空間からSEで干渉可能なのはなぜ?
A:全ての物質・生命にはSEが宿っているから
BLEACHの悪霊・虚が、霊が見えていない人にも影響を与えるなどのイメージ
逆が出来ない理由は前・今話参照
Q:SEは結局どういうもの? ライフストリーム(星の命)ではないの?
A:『幕間之物語:世論編』後書きより抜粋
・シールドエネルギーとは、つまり?
BLEACHの霊圧
ドラゴンボールの気
ナルトのチャクラ(九尾)
FFⅦのライフストリーム=魔晄
『魂』という炉があって、そこから発生してるモノが霊圧であり、気であり、星の命=魔晄であり、本作ISに於ける『シールドエネルギー』
あまりに出力が強いと更木の斬魄刀然り、ベジータのファイナルエクスプロージョン然り、漫画版超のブルー悟空フルパワー然り、その身が保たなくて傷ついていく
上記はあくまで『生者』や『星』に限定されており、宇宙に関しては触れられていない。今話によって亜空間を含め、宇宙空間にもSEは漂っている――という話
宇宙空間に空気(酸素や窒素など)の代わりに充満してるよ、という認識でおけ
Q:和人の訓練の意味とは?
A:ベジット「目で追うから俺の動きに付いて来れないんだ」
亜空間から浮上してから目視で状況確認では遅いので五感以外の感覚(SEを感じる力)を養う事を決めた
これの頭がおかしい点はコアに頼らないで行うというところである
この知覚に習熟すればハイパーセンサー無しでISの位置把握、相手のコンディション把握などを行えるようになる(つまり《亡国機業》製コアの在処も把握できる)
つまり純粋ブウのように感じさえすれば宇宙の果てでもワープで追って来るようになる
習得した時点で地球上で逃げ場なしである
Q:セブンの話はつまり?
A:総括すると”やっぱカーディナルがおかしいわ”
それ以外が全然わかってない
せめてキリカが”C”のメッセージについて話していればなー(すっとぼけ)
では、次話にてお会いしましょう
ちなみに名無しNPCがプレミアと名付けられてから和人が直接対面した事はありません