インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
約一ヵ月ぶりになります、お久しぶりです
リアルが忙しくて執筆に手間取りました……ユルシテ……ユルシテ……
視点:ストレア
字数:約五千
ではどうぞ
※法律や利権関係の話が出ますが、本作に於いての話なので実在の誰かを貶めるためのものではありません
※また今話に出る『ゲーム』は『大手ゲーム会社が制作・運営する月額有料制オンラインゲーム、あるいはコンシューマーゲーム』を主に指しています
※正直『無国籍』状態のクセして公的機関(総務省)と民間企業を同時に服務していいのかと思ったし、《BIA》として外国に出る時はその辺の法律どうなるんだとも思いましたが、《IS》ってその辺かなりガバガバなので『ふわっ』とスルーして下さい(今更)
八月も半ばに入り、リアル側ではお盆が近付いてきた。
聞くところによるとお盆の間は仕事が休みになる事があるらしい。盆休みというその期間は、亡くなった人があの世から帰ってくるのだという。無論無差別ではなく、自身の先祖にあたる人達の霊魂に限られる。だからその人達が帰って来られるよう”精霊馬”なるものを作るらしい。
「いやー、日本って伝統文化がホント多いよねー」
ネットの海から拾い上げたビジュアルデータから再現したきゅうりとナスを使った”精霊馬”を両手に乗せながら、アタシは感想を述べた。ユウレイやお化けを怖がる肝試し、百物語だけでなく、先祖の霊を迎え入れる伝統も共存している辺り、人間という生き物は不思議だなと思う。
そんなアタシに対し、配信を視聴している人達が次々とコメントを打っていく。
――アタシ達が動画配信者となってから今日で三日目
コメントはそれなりの賑わいを見せている。
同時視聴者数は約二千。他のバーチャル配信者よりは少ないが、活動を初めてまだ三日目であること、視聴者層の獲得基盤が整っていない現状ではむしろ多い方だろう。ここまで人が集まっているのも純正AIが配信をしている物珍しさ、それから現状唯一”安全だろう”と信頼されているALOの運営企業に所属しているという宣伝が効いているからだ。
ここからどれだけの人が固定視聴者になっていくかはアタシ達の実力次第となる。
新進気鋭とは言え一応企業勢なのでチャンネル登録者数や動画の視聴回数は気にした方がいいが、この活動を始めた理由――アタシ達や和人の事を理解してもらう機会を増やす事――を考えるうえで絶対ではない点はまだ救いだろうか。
もちろん手段は多い方がいいから全力でやっていくつもりだ。
「――さて、前置きはこれくらいでいいかな。じゃあ今日もフリーゲームのライブ配信……じゃ、なくて! 今日は自社案件! ALOのプレイ配信をしていくよ!」
企業に属する配信者として企業の支えになる活動は当然しなければならない。最近では広報活動としてアイドル登用だとか、和人と篠ノ之博士が所属している優位性からIS業界にも手を伸ばそうとしている《ユーミル》だが、この企業で一番に挙がってくるものはやはりあの妖精郷である。
開発こそ須郷率いる《レクト・プログレス》によるものだが、その実態はフライトエンジン以外がSAOのコピーゲームという代物。
その利権も須郷の悪行が知られてから喪われ、正式な契約の下、《ユーミル》へと移っている。
だからアタシがプレイ配信をしてもむしろ広報活動の一環になるため権利的に問題は起きない。
――あれ、オリジンの方はしないんだ?
そこで、そんなコメントが流れてきた。それに影響されてか同様のコメントが多数見られるようになっていく。
来るだろうなぁと思っていたそのコメントに、アタシは予想通りと考えつつ、苦笑を浮かべた。
「それはアタシも考えたんだけど、オリジンはねー、”上”から止められちゃったんだよね。お父さん……あ、茅場博士ね? あと篠ノ之博士と、セブンちゃんと、あと和人にも」
――天才組から総ストップっすか
――そーいやストレアちゃんの父親って一応茅場晶彦になるんだっけか、忘れてたぜ
――桐ヶ谷和人の義父の存在を考えるとややこしいな……w
――義弟が止めたなら辞めといた方がいいんだろーな
――ちなみになんて止められたんですか?
「オリジンは利権的に複雑でね。データの根本自体はお父さんに依存してるけど、《ソードアート・オリジン》っていうゲームの開発は政府直轄の製作チームが担当してて、でもゲームの運営・維持は《ユーミル》がやってて……って感じ」
ネット社会になれば情報の流出は避けられない。
そのせいか色々とスルーされているところが非常に多い今の世の中だが、もちろん突き詰めていけばグレーゾーンも黒になる。例えばALOの動画配信をしている人は沢山いるが、著作権をはじめとした様々な法律を考慮すれば、運営企業と契約を交わした配信者以外は訴えられればまず負ける。それを敢えてしないのはそういった配信が一種の広報になっていて得をしているからに他ならない。逆に言えば、企業にとってダメージになる配信を扱うほど訴えられる可能性は高くなる訳だ。
まぁ実際は訴えられる前に炎上して動画が消去されたり配信者を引退したりするパターンの方が多いようだが。
ちなみにガッチガチに権利と法で固めた社風が日本にそぐわない事もゲームプレイ配信が蔓延している理由の一つだろう。
ともあれ、アメリカに本社を構えている某企業のブランド関連のように、”訴えられれば負け”と言われているのはそういう事。
「アタシみたいな純正AIって人権が認められてないから、このチャンネルの配信って法律上はアタシ達の所有権を持ってる和人の配信って事になるの」
問題はここからなんだよねぇ、とアタシは溜息を吐いた。
製作チームとの契約を《ユーミル》経由で締結した場合、《ユーミル》に属する誰かが配信をしても問題はない。『人権を持つ和人の一所有物』という観点ならアタシの配信は法的には和人の配信になる。彼は年齢的に動画サイトを使ってはならないが、そこは保護者が名乗り出れば問題ない。
それに和人も《ユーミル》の一職員。
結果、問題は起き得ない。
――だが、その理屈が”今”は適用されない
《MMOトゥモロー》や《ユーミル》、総務省仮想課、《BIA》など各組織の職員として登録されている和人だが、男性IS操縦者としての立場から現在無国籍――つまり、日本国民としての人権が保証されていない状態にある。半ば有名無実の話だが、しかし厳密な話をするなら今の彼に人権は認められていないのだ。
ともあれ、配信関係で問題が起きた時――特に、それが法的に守られた企業や権利であった場合――《ユーミル》が擁護し切れない場合もあるという事。単純な話、アタシ達の場合はそのリスクが他の配信者よりも大きかった。
日本政府の肝入りらしきVRMMO《ソードアート・オリジン》は開発、運営の権利がごちゃごちゃしているせいで面倒な事になっている。万が一権利関係で問題があった場合を考慮し、触れないでおいた方がいいとストップを掛けられたのが簡単な総括だ。
ちなみに別チャンネルのオリジンの配信動画に
「つまり『ユーミル的にはいいんだけど肝心の配信者が問題』って事だね!」
ふんすと胸を張って言った途端、コメント欄の勢いが加速した。
――その纏め方でいいのかwww
――自ら問題児発言してるぞこの子……
――まあ実際扱いに困るっちゃ困るよね
――こうして世に顔を出せてるのも”上”が型破りな天才やら天災やら義弟やらだから……
――基本的人権を下敷きにした法的庇護が無いって辺りが純正AIという事実を実感させるな……
――しかし義弟も今は人権無い扱いなのか。すっかり忘れてたぞ
――そもそも人権の有無を考える事そのものが異常である
――今までふわっとしか考えてなかったけど、ストレアちゃんやユイちゃん達がこうして配信出来てるのも、所有権を持ってる和人が《ユーミル》にいて、そのトップに茅場晶彦と篠ノ之束がいて、その二人と親交が深いからなんだよな
――仮に義父や義母が所有権持ってたら配信自体出来なかったって訳か……
――↑コメを補足すると、『著作権フリー作品の配信以外がNG』って事だな
――それ殆どのゲーム配信ダメじゃねぇか!
――ホントは相手企業から許可を取った配信者以外(=殆どの配信者)も権利的にダメなんだよなぁ……
――収益=利益が発生しなくても映像の著作権があるし、音楽は担当した音楽チームや作曲者とか関係者が更に増えるし、ゲーム実況って実はかなり黒寄りのグレーゾーン。ゲーム会社の温情で実況出来てるのよね
――ホントそれ
――企業Vが有名なコンシューマーゲームの実況あまりしないのも、企業や利益で余計アウトゾーンに近いからなんだよな……
――今回の件、実は人権の有無ってあまり大きな問題ではないのでは?
「動画配信に限れば企業の法的庇護で大きくないけど、アタシ達としてはやっぱり大問題だよ。和人をはじめ他の人におんぶにだっこだし……アタシ達も人権が欲しいよー!」
――ブラックジョークにしか聞こえねぇなあ……
――むしろジョークでないといけない発言
――AIだから現状仕方ないとは言えなぁ……
アタシの叫びに、やや引き気味のコメントが目立つ。
だがその中でも『仕方ない』という発言が引っ掛かった。現状に対してそう思うのは思考の停止で、それこそが今の世の中の悪だ。
その末に、《廃棄孔》が生まれたのだから。
「まあアタシ達はまだ仕方ないで済ませられるけど和人に関してはダメだと思うんだよね。日本政府は早急に和人の人権を復権させるべき」
――お姉ちゃんだ……
――お姉ちゃん……
――やっぱストレアちゃんもブラコンなんだなぁ……
「……一応言っておくと、人権が実質無い状態が続いた最期が和人の負の側面だからね?」
何故だかブラコン判定をする安穏としたコメントを見て、アタシは呆れたように言った。
”負の側面”という言葉には色々な意味を含めている。人格分裂期のシロと廃棄孔はもちろん、今は亡きホロウ、それに《亡国事変》で衆目に晒された負の第二形態。最後は厳密には創世記Virusによる変異の成れの果てだが、無関係でもない。
やや迂遠的ではあるが、またホロウや廃棄孔を生み出すのかと警告しているのだ。
まあ今の和人は過去を超克しているので、それこそ直葉達が皆殺しに遭わなければそんな事にはならないだろうが……
――あ!
――そーいやそうじゃねーか!
――政府はやく認めろ! 地球がヤバいぞ!
――国会でぐだぐだ毎日やってる場合じゃねぇぞ!
過去を超克した事は知っている筈だが、それでも世界規模の危機に瀕した記憶が鮮明だからか危機感を抱いた人が現れる。
中には大げさな、と笑う人もいたが、アタシの配信を見に来るだけあって大半が危機感を募らせた。
あるいはホロウを想起し、そこからキリカを思い出したのか。
それでいい、と思考する。
和人とキリカはそれぞれが自分の道を歩み始めた。そんな彼らに必要なのは、昔と同じ目に遭わないための環境だ。
現実にいないアタシ達が和人に出来る事はとても少ない。
同じAIという存在になっても、成り立ちが違うキリカに寄り添う事も難しい。
それでも、彼らを害するモノを減らすのは、きっとアタシ達だからこそ出来る事。彼らに出来なくて、アタシ達に出来る方法もきっとあるに違いなかった。
そんな思惑を裡に秘め、アタシは笑った。
「さて、と! 長くなっちゃったけど、今度こそALOの配信プレイ始めるよ! リンク・スタート!」
本当は必要ないのに登録した音声コマンドでゲームを起動した後、アタシは虹色の輝きに包まれ、妖精郷へと旅立った。
初のALO配信という事もあり、転移門で行ける央都アルン、空都ラインの観光配信が主となった。
それから数日内はダウンロード版のALO購入数が増加したという。
うまく活動出来ているようだ、とアタシは会心の笑みを浮かべた。
・今話のまとめ
オリジンの実況配信は企業勢としても個人としても厳しいヨ!
AI組だけじゃなく和人も地味に人権無いヨ!(それでも活動出来ているのが和人の努力の証拠)
忘れられ気味な上の事実を周知させつつさっさと日本に帰属出来るよう世論操作中だヨ!(義弟の真似)
ストレアもやっぱり
《IS》の世界観や法律設定って凄く、自由です……(原作だと他国籍の空母に潜入してお咎めなしとかあったし今更ですが)
・ストレア
ユーミル所属AI-tuberNO.2
お姉さんな容姿にして天真爛漫な明るさが売りの新人V-tuber。恰好はSAO時代の衣装を流用している
SAO放映やらなんやらで世間的な知名度はそれなりにある方だがAI組だと実は最下位。感情表現が豊か、且つコミュニケーション力があるため、ムードメーカーとして視聴者からの人気を獲得していっている。主にライブ配信がメイン
SAO時代はキリカ&ホロウキリト製作過程の一環でキリトに近付いた経歴があるせいか弟二人に対してやや後ろめたさがあり、表面上から分かりにくい思慮を抱いている。それが滲み出た結果が『ブラコン』と呼ばれる所以だが本人は気付いておらず、視聴者も内心は知らず、すれ違い続けているこの内心を正確に把握しているのは和人、直葉、ユイの三人だけである
愛称は『ストレアちゃん』、『ストレア』
・ユイ
ユーミル所属AI-tuberNO.1
ストレア、キリカ、和人の義姉として広く知られる新人V-tuber
大人形態と子供形態という可変式のためか一部界隈で絶大な注目を浴びており、知名度に拍車が掛かっている。基本は大人形態で活動中
配信は録画した動画のコンスタントな投稿。AIの演算速度をフル活用した加速状態でプレイ、録画を繰り返しているため、活動開始から三日で撮り貯めは50を超える。平日は深夜0時、休日は正午と深夜0時の二回、毎日投稿をしていく方針。不意打ちにやや弱い。しかしリカバリー力に優れ、基本的に冷静でホラー展開で驚くことがないなど、サクサクプレイを好む層からの人気を徐々に得ている。また義弟の話題になるとポンになる事で有名……?
愛称は『ユイさん』
ストレアの内心を知る数少ない一人
・キリカ
ユーミル所属AI-tuberNO.3
ユイ、ストレアの義弟として知られる新人V-tuber
オリジナル・和人と違い、髪を一つに括った黒髪黒目の容姿。また黒の半袖シャツ、長ズボン姿とラフな格好をしている
現在オリジナル・和人の代行としてオリジンにダイブしっぱなしのため、初回の挨拶以降は一切活動していない。しかしオリジンの配信をしている他者の配信動画からプレミアと行動している姿が頻繁に目撃されており、知名度そのものはAI組トップ。むしろ『バグ対処中か』とオリジンプレイヤーでもトップクラスの認知度がある
ストレアの内心は知らないが、気に掛けられている事は察している