インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

 筆が乗った。やったゼ

 でも次は分からんネ……(;´・ω・)

視点:セブン

字数:約一万

 ではどうぞ




幕間之物語:歌姫編 ~喪失ヲ怖レヌ者(ユウシャ)

 

 

 出発してから暫く経ち、バカンスに適したトゥーレ島が見えなくなった頃、あたし達は数体のモンスターと会敵した。名前を《オーシャングランサー》と言うそれは、初級ダンジョンならボス級の戦闘力を持つ《イビルグランサー》の亜種で、推奨種族熟練度は200前後とされている。

 つまり、スヴァルトエリアを攻略した面々なら雑魚同然。

 しかしモンスター達も固有魔法を使って来るため油断はできない。特に《グランサー》系は、一ツ目から放たれる《邪眼》なるカース系魔法攻撃が厄介だ。カース――いわゆる『呪い』――の状態になると、大幅な一時的ステータスダウンを強いられるのだが、それは割合ダウンなのである。オーシャングランサーは序盤クラスの敵なのでまだいいが、中盤クラス以上の敵と揃って出てこられるとたちまち戦況をひっくり返すジョーカーになり得る。そうでなくともステータス低下イコール戦闘時間の延長なので、武具の損耗も激しくなる。また配信的にも中弛みしてしまい取れ高的にも好ましくない。

 まあ別種の敵が居ないならその厄介さは発揮し切れないので、オーシャングランサー達はその数を一匹、また一匹と減らしていっているが。

 

「せぁあああッ!」

 

 最後の一匹となり、恐れを為したか逃げようとした瀕死のグランサー目掛け、アスナが青白い光を散らしながら突貫。強烈な刺突を弱点の一ツ目に叩き込まれたグランサーは、ピギィッ、という断末魔を最後に五体を爆散させた。

 コメントでは、『やはりバーサクヒーラー』と彼女を揶揄う趣旨のものが多数流れている。

 まあカース系魔法を使うだけあり、グランサー系Mobの魔法防御は高いらしいから剣で攻撃するのは間違いではない。

 ……そもそも支援特化のウンディーネが前衛に出る事が間違いである事は突っ込んではいけない。

 

「アスナさん、お疲れ様です」

「ランちゃんもお疲れー!」

 

 そんなツッコミ禁止のウンディーネ達がハイタッチを交わし、互いを労った。

 その傍らで剣を鞘に納めた紫紺の剣士ユウキが口を開く。

 

「うーん……ねぇセブン、結構飛んだ筈だけどまだ着きそうにないの?」

 

 MMOストリーム情報掲示板に載っていたクエストを知り、情報屋のアルゴからもマップ座標は買っているとは言え、海中にある建物を海上から探しても目印も無いのに見つかりっこない。だから座標の上空までは飛んでいく事を話し合っていた。

 そのマップデータを持っているあたしはメニューを開き、確認する。

 分かりやすく印を付けていた場所のほぼ直近であたし達の位置を示す光点は明滅していた。

 

「座標ではこの辺の筈だけど……」

「セブン、あそこではないか」

 

 あたしの言葉を聞いて周囲の海面を見回し始めた仲間達。その中で最初に声を上げたのはスメラギだった。彼のグローブに包まれた指が海面の一点を指し示している。その一か所だけが集中的に光を放っていて、明らかに太陽光の反射ではない光り方をしていた。

 方角的にも、凡その距離的にも目的地がそこだと判断し、あたしはみんなに頷き掛ける。

 

「それじゃあ、ウォーターブレッシングの魔法を掛けるね」

 

 そう言って、アスナが詠唱を始める。

 《ウォーターブレッシング》。直訳して水中呼吸となるそれは、水中探索の際には必須の支援魔法として広く知られているものだ。必須級故に全種族が習得可能だが、ウンディーネのそれは水属性である事、更に支援系統である事から最終的な効果時間は他の種族の倍以上とされる。

 尚、効果範囲はパーティーメンバーのみ。

 つまりアスナと別パーティーのあたし、スメラギ、キリトは範囲外だが、そこは同じウンディーネのスメラギが同じ魔法を使って対処してくれた。彼もまたウンディーネながら前衛というちぐはぐなビルド構成だが、あたしやキリトが使うよりは効果時間が長い。

 十人全員に支援魔法が掛かった事を確認したあたしは、クエストを持ってきたリーダーとして先頭を切って海に直進した。

 ぐんぐんと海面が迫り、あたしは反射的に目を瞑った。

 ――直後、ざぼん、と音を立てて潜水する

 全身を水が覆った。

 聴覚を刺激するくぐもった音。耳の中に水が入っているのに、それでも確かに、後を追ってきた仲間達が潜水する音をしっかりと捉えた。お風呂の中で聞くのとは違い、その音はどこかハッキリしている。

 これが仮想世界ならではの音質。

 世界、つまりシステムが作り出す音はくぐもって聞こえて、プレイヤーの立てる音は空気中のそれと同じになるよう最適化されているらしい。そのちぐはぐさがなんとなく気持ち悪く思えた。

 奇妙な心地になりながら眼を開く。

 《ウォーターブレッシング》には水中呼吸だけでなく水中での暗視補正もあるらしく、海中の様子は思ったよりもハッキリと見えた。配信映像もあたしの視覚補整と同期しているのかしっかり撮れている。

 一言で言えば、新鮮だった。

 頭上から帯となって降り注ぐ太陽光を、水中の魚群の鱗が乱反射させる。それで照らされる水中は地上では見れない世界を醸し出している。小さな魚の種類も思ったより多い。

 その小さな魚を狙って、より大きな魚が近づいて……

 

「セブン、モンスターだ!」

「ッ?!」

 

 スメラギの注意で、大きな魚がモンスターである事に気付く。ふと見ればその魚――《アビスシャーク》というサメモンスター――の視線はあたしに固定されていた。

 気付かれた、と判断したのか、サメの遊泳速度が一気に上がる。

 驚いたあたしは慌てて口を開けた。

 開けてしまった。

 

「――――ッ?!」

 

 途端、口の中いっぱいに海水が入ってくる。耳の穴、鼻や口の中に感じる水の感覚は不快だが、現実のそれと違って痛みや苦しさはない。しかしその水を異物と誤認したあたしの喉は震え、嘔吐反射を起こしてしまった。

 ごぼっ、と無数の気泡が口や鼻から溢れ出す。肺から空気が出ていく。抜けた分を取り戻そうと反射的に息を吸って、また水で嘔吐反射が出る。

 あたしは混乱して水中で藻掻く。

 槍で防御するなんて、とても出来そうじゃなかった。

 

「ディスチャージ!」

 

 その時、ズヴァッ! と水を切り裂いた闇に、アビスシャークが呑み込まれた。黒い背景に浮かぶサメのHPバーが物凄い勢いで削れていく。

 一瞬遅れてガシャァンッ! とモンスターが倒れる時のSEが水中に響いた。キラキラと光が四散する。

 

「落ち着け、セブン」

 

 その光を背にするように、銀髪の少年が降りてきた。

 

「ゆっくり呼吸を繰り返すんだ。深呼吸が、水中呼吸のコツだ」

「ん……」

 

 言われた通り、あたしはゆっくり呼吸を繰り返した。喉の奥が苦しい感じはあったが、落ち着いて呼吸を繰り返すと嘔吐反射は鳴りを潜め、次第に苦しさが薄れていった。

 十回ほど呼吸を繰り返せば、あたしはなんとかえづく事なく呼吸できるようになっていた。

 

「あ、ありがとう……すっごく苦しかったわ……」

「最初は水の感覚のせいでそうなるよ」

「……キリト君もなった事あるの?」

「嘔吐反射が出ないよう水中呼吸出来るようになるまで小一時間は掛かったかな……」

 

 視線を反らして言う彼の目はどこか遠い。

 彼の後ろで、あったなぁ、と腕を組むリーファが頷いている辺り、実際それくらい掛かったらしい。あたしと出会う前に水中ダンジョンに挑もうと特訓した時の事だろう。

 なんとなく居た堪れなくなって視線を反らすと、丁度コメント欄が視界に入った。

 

 

 ――いきなり溺れ初めてびっくりしたけど、そうか、嘔吐反射か。普通水と空気を吸うなんてしないもんな

 

 ――水中呼吸ってファンタジーじゃザラだけど、こういう落とし穴もあるんだな

 

 ――運動系の人ほど反射出やすそうね

 

 ――というよりは、感覚派かそうでないかが分かれ目な気がするな。感覚派だと順応が速いだろうし

 

 ――じゃあセブンちゃんは感覚派じゃないってコトか

 

 ――義弟よりはって付くだろうな

 

 ――小一時間は流石に掛かり過ぎな気もするが

 

 ――システム外スキルの作成といい、ALOでの行動を見る限りバリバリの理屈派でしょうね。時間が掛かったのはそのせいもあるかと

 

 ――セブンちゃんの場合、義弟の存在感で落ち着いた可能性も無きにしも非ず

 

 ――というより最初は咽てなかったし、驚いたのが一番の原因では?

 

 ――サメは驚くよなぁ……

 

 ――ダーダン♪ ダーダン♪(例の重低音)

 

 ――ヤメロォ!!!

 

 

 途中から話が脱線して有名なサメ映画のBGMに移っていった。正直、さっきのは醜態だったから助かった。間違いなく切り抜かれるだろうけどそこは諦めた。

 気を取り直し、あたしは咳払いをした。

 

「みんな、ごめんなさい。油断しちゃってたわ。気を取り直して行きましょう」

 

 そう言ってみんなを促してから、あたしはマップが示す座標へと泳ぎ始めた。

 その間にもコメントは流れていく。徐々に薄暗くなっていく海中を見て、『サメ……』『サメ……』と仄暗さを感じる文が流れるが、同時に岩肌に張り付く海藻などに言及したものも少なくなかった。

 それを流し見ながら泳ぐこと暫く、あたし達は海底に聳える神殿に辿り着いた。

 

 

 神殿に辿り着いたあたし達は、神殿の入り口に佇むNPCの老人《Nerakk》からクエストを受注した。

 クエスト名『深海の略奪者』というそれは、老人が古い友人へと用意した土産物を、神殿を根城にする盗賊たちに奪われたので、それを取り返してほしい――という内容だった。土産物は一抱えするほどの巨大な真珠だという。

 レイドでも参加できるクエストという事は事前に把握していたあたし達は、十人でそのクエストを受注し、神殿へと進入した。

 水中という事もあり、道中は種々様々な水棲モンスターと会敵。中には神殿のトラップやギミックで出てくるものも居て、不意に襲い掛かられることもあったが、不人気クエストというのも納得の弱さでこちらの陣営はびくともしない。

 ――とは言え、だ

 水中戦闘では地上と異なって近接武器の振りが遅くなるため、加速分のダメージを得られないデメリットがある。これが曲者だった。満足に武器を振るえないこちらに対し、あちらは水棲である事を十全に活かして素早く泳ぐため、思ったように攻撃を当てられない。

 ならば魔法となったが、炎は水中なので使用不可、雷も感電ダメージでデメリットしかないので実質禁止。氷も同じ。風は前衛が吹き飛ばされるので禁止。地属性は問題無いが、相手は実質宙に浮いているような相手なので壁や床から突き出る土槍がなかなか当たらない。

 そんな風に手古摺る中、一際輝いたのがキリトの自作魔法――もとい魔術だった。

 彼の魔術も先述の属性は使えないが、彼は聖、闇属性を好んでいたようで、お構いなしに極太の光線をぶっぱし、ものの数秒でモンスター達を撃滅していく。前衛は彼の詠唱が完了するまでの壁、余裕があれば一、二体を間引く立ち回りになっていた。

 今もまた、三匹はいたコバンザメ風の小型モンスターが纏めて闇の光線に呑まれ、爆散した。

 

 

 ――義弟の魔法強過ぎワロタwww

 

 

 その光景を見続けたからか、そんなコメントが目に付いた。

 あの魔法……いや、オリジナル・スペルスキルは喰らった事がある。規模こそ違うが、アレはスヴァルト最後のエリア、ラストダンジョンの入り口で立ちはだかった彼がオーディン軍と《シャムロック》、セブンクラスタ全軍を壊滅させる時に使った魔術だ。

 ボスすら一瞬で溶かすあの破壊力はプレイヤーに許されるレベルではない。しかし彼が実際に行使しているとなれば、万人にも使えるものである事は確かだ。

 

「ねぇ、キリト君」

「ん?」

「あまりスキルについて詮索しちゃいけないのは解ってるんだけどさ。前から気になってたんだけど、あたしを止める時や、さっき使ったのって魔法じゃないよね。あのオリジナル・スペルスキル、どういう理屈であんなダメージ出てるの?」

「あ、それボクも気になってた」

「私も。一時期作ろうと思ったけど、上手く出来なかったんだよねぇ」

 

 私の問いにユウキとアスナが同調した。既に知っているものと思っていたが、どうやら知らなかったらしい。特にアスナは作ろうとして失敗したから余計気になっているようだ。

 この問いに、あぁ、とキリトが胡乱な声を発した。

 彼の視線は私達を映すカメラを一瞬見た。あまり大勢に広めたくないから教えてくれないかも……と思ったが、この予想に反し、彼は話を始めた。

 

「細かく分ければ色々あるけど、俺の自作魔法には大きく二つ特徴がある。一つ目は毒の属性を有する事だ」

「毒? 毒が、ボスにも効くの?」

「効くぞ。デバフアイコンが一瞬で消えるせいであまり知られてないけど毒のダメージは入ってる。あまり知られてないのは毒の性質が特殊なせいだ」

 

 それはシステム面の話だからか、彼はとても詳細に語ってくれるようで、あたし達は思わず聞きの体制に入った。

 

「一般的に知られてる毒は、固定ダメージと割合ダメージの分け方をされる。でも実はもう一つの分け方がある。それは武器に付与されたタイプか、スキルや魔法で付与されるタイプかだ」

「どっちも同じじゃないの?」

「SAOやALOでは違う種類だな」

 

 あたしの問いに、彼は否定を返す。

 彼曰く、武器タイプの毒は割合ダメージの毒、スキルや魔法タイプは固定ダメージの毒らしい。SAOでもALOでもそこは共通しているとの事だ。

 

「割合ダメージはHP量が多いほど効果が大きくなる。自然、強いモンスターにこそ真価を発揮する。けど毒属性を持つ武器は攻撃力、耐久値などが低いから使われない事が多い。毒に耐性を持ってるモンスターも強くなるに従って増えるしな。これが武器に付与された毒。俺は物理毒って呼んでる」

「そうよね……じゃあ、もう片方は?」

「魔法毒って呼んでる。強い敵になるほど効果は小さくなる反面、確実に掛かるよう設定されてるらしい。闇魔法に《ポイズン》の魔法があるけど、アレはボスや邪神Mobにも効くからな」

「へぇぇ……」

 

 思わず感嘆の息を漏らす。

 魔法スキルを鍛えてるので存在は知っていたが、状態異常魔法は死に魔法として扱われていたため効率重視で一度も使った事は無かった。一般的にボスにはスタンや特殊ダウン以外効かないとされていたから使う人が少なかったのがそう言われていた要因だろう。

 少しずつ理解していると、あたしとキリトに並ぶようにケットシーの弓使いシノンが泳いできた。

 

「一つ目の特徴は分かったわ。なら、二つ目はなに?」

「代償魔法である事だ」

「え……?」

 

 二つ目の特徴に、あたしは困惑の声を発した。

 代償魔法の存在は知っている。代表的なのは闇魔法最上位に位置する自爆魔法で、アレは通常の数倍にもなるペナルティを背負う反面、威力や効果範囲が他を絶するレベルに至っている。使い手が強いほど効果が高まる半面、代償も大きくなるというデメリットを持つ魔法。それが代償魔法だ。

 しかしキリトの魔術は幾度となく使われている。パッと見、MP以外の代償を支払っているようには見えない。

 

「その代償って……?」

「色々あるけど、攻撃魔術ならまず威力だな。俺の魔術は全て1ヒットにつき1ダメージしか相手に与えられない」

「えっ?!」

 

 素直に驚愕する。あんなエゲつないHPの減り方をするのに、1ダメージしか出せないなんて嘘にしか思えなかった。

 

 

 ――『1ダメージしか与えられない』?!

 

 ――ウッソだぁ?!

 

 ――……まさか

 

 ――あー、これはアレかな

 

 ――地獄の業火に……か?

 

 

 しかし、視聴者の中には察しの付いた人がいるらしく、匂わせるコメントが散見される。もちろんあたしには何かわからない。

 

「その代わり、威力を極限まで下げた代償として秒間ヒット数を底上げしてる。1フレーム、1ドットにつき1ヒットだな。あと『レベル1毒』、『与ダメージ1%分MP吸収』の追加効果は確定で、ものによってはHP吸収も付けてる」

「……あー、ナルホドそういう事ね……」

 

 そこであたしも理解した。コメント欄の内容までは分からないが、とりあえず彼の魔術がなぜあんなトンデモ火力を叩き出せたかは分かった。

 彼の魔術はまず、相手の図体が大きいほどヒット数が指数関数的に増加する。1ドット単位のヒット数が秒間60発。極太光線で放つから、光線の面積と放射時間も乗算されていく。魔法一つフルヒットでウン百万のヒット数を稼げる計算だ。

 更にさっき教えてもらった『()()(ダメ)』の特性。ボスにすら通用するそれは、『()()(ダメ)』と同じく3秒に1回のダメージ判定を出す状態異常だ。しかも状態異常に掛かっている間に更に掛かると、一つ上のレベルの状態異常に掛かってしまう。

 ミソは状態異常レベルが上がった時、ダメージ判定の時間がリセットされ、また1秒目から始まるという事。先のヒット数を鑑みれば、一秒の内にレベル一~十までの毒ダメージが纏めて出る可能性もある。レベル十が最大レベルだが、そこから更に状態異常に掛かっても同じように1秒目から始まるらしいので、カウンターストップは存在しない。万に届きかねないダメージを秒間幾度となく叩き出すとなれば、瞬間火力はウン十万を突破する。魔法フルヒット時の合計毒ダメージは、恐らくヒット数と並ぶほどだろう。

 つまりヒット数+毒ダメージの合計は一千万を超えかねないという事。もちろん毒は確率なので安定性に欠けるが、ヒット数だけでも規格外である。

 

「そんなぶっ壊れ魔法だったのね……」

 

 そりゃあ低レベル単騎でヨツンヘイムに進入し、ヴァフスやスリュムを単独で倒してのける訳である。

 

 

 ――ぶっ壊れすぎで草。俺も真似よ

 

 ――こりゃあALOインフレ時代突入ですわ……

 

 ――前衛職涙目だなwww

 

 

 コメント欄では、キリトの真似をしようという内容と、ナーフはよ、と求める内容が多かった。確かに大衆が知るべきではない情報だったかもしれない。

 だがこれを明かしたという事は、相応の使いにくさがある筈だ。

 そして、それが代償魔法と言った二つ目の特徴にあるのは間違いない。

 

「他に代償にしてる事はあるの?」

「さっきの《ブラスター》系なら制約として『種族熟練度一定値以下』、『装備一定ランク以下』、『装備制限』、『デュエル使用不可』、『大会使用不可』。代償として『全自己バフ解除』、『使用する度に現在の総獲得経験値の1割消費』、『獲得経験値-100%』、あと『ユルド無獲得』を付けてる」

『うわぁ』

 

 あたしの呻きが、何人かと重なった。コメント欄も『うわぁ』やサジェスチョンマーク一色だ。

 特に代償が思ったより大きい。自身のレベルが高いほど総経験値量も多いので、使う度に数十レベル下がる事もあり得る。自爆魔法のデスペナでさえ下がっても10である事を考えると――1上げるのも苦労するのだが――とんでもない下がり方だ。PKした場合、相手プレイヤーの総経験値量の1割を得られるが、代償により半分に減っているのも大きい痛手になる。

 そのデメリットを緩和するためか、制約で低レベルを自ら課したかもしれないが、強い装備と高いレベルが無ければ高難易度に赴けないのが常のMMORPGに於いてそれはかなりの縛りだ。

 よくヨツンヘイムに行けたと言うべきか、だからこそヨツンヘイムを低レベル攻略したのかと言うべきか。努力するところを少し間違えている気がした。

 

「も、物凄いデメリットね、それ……」

「元々対《シャムロック》前提で作った魔術だ。それにレベルが下がっても問題ない装備やスキル構成にしてたから、デメリットは相対的に小さかったんだ」

「な、なるほど……」

 

 言われてみれば、とあたしは当時の彼の装備を思い返す。

 最終エリアで鎬を削った時はSAO時代の装備を使っていたが、それ以前はALOで集めた中級装備。種族熟練度もあまり高くないという話は当時から耳にしていた。それを維持するだけ――と考えれば、なるほど、確かに相対的にデメリットは小さい。

 明らかに推奨レベルに足りないままダンジョン攻略をしなければならない、という点に目を瞑ればだが。

 

「ならあたしやオーディンに向けて使った魔術はどうなの?」

「《ブラスター・フルバースト》か。アレはさっきの制約プラス『装備固定』『HP99%消費』『MP100%消費』『全経験値消費』、『経験値ゼロ』の代償だな」

「うっわ……」

 

 今度こそあたしは絶句した。

 《ブラスター・フルバースト》とは、聞けば与ダメージの1%分のHP、MP回収効果と毒を付与する上、装備判定の武器全てからレーザーを射出する自作魔法で、ヒット数などの性質上使えばまず勝てるほどの力を持つようだ。反面、使った後は強制的に種族熟練度は1に固定されてしまうというとんでもないデメリットを背負う。

 その強さがあればどんなモンスターにも勝てると思えるが、厄介なのは、経験値を消費する魔術はその性質上、必要量を満たしていないと使えない点にあるという。

 使える状況を整えるだけでなく、使った後の問題の解決策も必須だと彼は語った。

 

「キリト君はどうやって対処したの?」

「分身魔法だよ。あの魔法は『使った時点』の術者のステータスを反映するからな。【闇のユグドラシル】内部で戦った俺の強さはそこまで変わらなかっただろう? フルバーストで足りなくなった代償分はあの分身を使って稼いでたんだ」

「へー!」

 

 彼の分身――当時は偽キリトと言われていた――に煮え湯を飲まされた経験があるあたしは、それでも素直に感心する。彼が使うまで脚光を浴びなかった闇、幻惑の複合魔法の意外な使い道と言えよう。

 これは経験値を代償にする魔法の使える幅が広がる発見ではないだろうか。

 

 

 ――こんなのマトモに使えるヤツおりゅ?

 

 ――使える人は使えるんじゃね。かなーり限定的というか、使えば最後なものだけど

 

 ――自爆魔法よりよっぽど自爆魔法だな

 

 ――正に『この一撃に全てを懸ける』だな……

 

 ――《ファイナルエクスプロージョン》作ってそう()

 

 ――当時の義弟の立場を考えると本当に全てを懸けてそうだからなぁ……

 

 ――どのラインからどんな代償がいるのか分かりさえすればコンスタントなものにグレードダウン出来そうだが

 

 

 視聴者の人達もさっきまで『自分も』と息まいていたのが嘘のように唖然としているようだ。最新のコメントは、それでも諦め切れないような意志を滲ませている。

 

「……ここまで聞いておいてなんだけど、これ、本当に教えてよかったの? 配信中だったのに」

「知られてないだけで俺より凄いOSSを作ってる人がたくさん居る。俺のやり方が知られたって、そういう人達には通用しないよ……それに、俺みたいな代償魔法の使い方は多分、他の人にとって安易に使えるものじゃない」

「それは、どうして?」

 

 水中の回廊を歩きながら問う。前を歩く仲間も、意識をこちらに向けているのが分かった。

 

「――”これは、ゲームであっても遊びではない”」

 

 九人の視線と、何万人の視聴者に見られる中、キリトがそう言った。

 息を呑む。

 それは浮遊城を創造した天才がかの世界を表した言葉。期せずしてデスゲームをも象徴してしまったフレーズだった。

 

「この世界を遊べている人なら、レベル、経験値、アイテムが増えていく喜びと同じくらい、それを喪う事を恐れる。だからきっと使えない。俺のは、培ってきた全てを捨てるものだから」

 

 だけど、と言葉が区切られた。

 彼の目は虚空を見つめている。神殿の外、薄暗い海中の彼方――――おそらくは、天空へと向けられている。

 

「俺にとって、もう仮想(ヴァーチャル)だとか現実(リアル)だとか関係無い。どちらも俺にとっては現実だ。だから使える」

「それは……普通、逆ではないか? お前の(げん)に沿うなら、遊びでないからこそ使える事になるが……」

 

 困惑したようにスメラギが問うた。私も、同じ疑問を抱いていた。視聴者たちもそう。

 だけど、彼は頭を振った。

 

「だからこそ、だよ。遊びでは数値が重要になる。強くなりたい――そう欲求するゲーマーにとって、その妨げになる事は何よりもイヤな事だ。けど、以前本気だったスメラギなら分かる筈だ。自分が使えなくなる代償を背負ってでもセブンにOSSを差し出した一人なんだから」

「……」

 

 キリトの言葉に、青髪の青年は黙り込んだ。心当たりがあるのだろう。

 あたしにも、今の喩えで言わんとする事が理解できた。この人の為なら自身が弱くなっても、喩え全てを喪ってもいいと、そういう人だけが使える力だと言っているのだ。

 つまり、強さを追い求めている人こそが恐れる”力”。

 利己的な人には決して使えない、利他的な”力”。

 

「――まるで、キミそのものね」

 

 思わず口からついて出た言葉は、何よりも自分の心境を反映していた。どこか呆れつつ、感心して。尊敬して。

 

「俺が本気で作ったものだからな!」

 

 それに、彼は誇らしげに応えていた。

 

 






 そんな訳で、スヴァルト攻略時のキリトの頭おかしいレーザー砲の解説でした()


水中呼吸(ウォーターブレッシング)
 《エクストラエディション》で登場
 直葉/リーファがカナヅチ設定になった一期と二期の間のアニメ。アニメでは海に潜ってすぐリーファが戸惑って溺れそうになり、アスナが手を取って落ち着かせる一幕があった
 本作では『水の感覚があるのに呼吸できる』という嘔吐反射待ったなしの感覚で慌てふためいた感じになった
 深く考えてはいけない(戒め)


・リーファのカナヅチ設定
 本作では『幼い頃から祖父の剣に魅入られた剣狂い』なのでオミットされました(無情)


・セブンのカナヅチ設定
 実は《ロスト・ソング》にて公式て泳げない設定が存在する(サブイベ参照)
 サブイベ後にはスメラギのメールで『浮き輪が無いと泳げない』という事実も発覚
 なのでリーファからオミットされた設定を持ってきていた訳ではないのだ


・毒について
 原典ゲーム《ロスト・ソング》や《千年の黄昏》だとマジでボスに効く状態異常
 毒魔法《ポイズン》も存在し、キリト、フィリア、ユウキなどが使える
 効果時間は解除される度に短くなって、三回目以降は三秒ほどで解ける。しかし耐性が上がった訳ではないため《ポイズン》を三~四回当てると確定で掛かる(ヒット毎に状態異常値が加算され、一定以上でデバフ付与)
 ダメージは多分コンマ数パーセントの割合ダメージ
 本作では武器付与タイプが割合(完全防御の場合あり)、スキル付与タイプが固定(掛かりやすい)設定。SAO時代のキリトが闘技場クリアボーナス装備で無効化してたのは前者のタイプ。なのでソードスキルによる毒付与は実は貫通した


・キリトの魔術(OSS)
 もとい、代償魔法
 レベルが下がるのは当たり前
 得るものが少ないのも当たり前
 強者(強くなりたい欲求に正直な者)には決して使えず、弱者で在り続ける事が大前提として存在する究極のジャイアントキリング

 すべての攻撃魔法は1ダメージしか与えられないが、
『秒間60ヒット(フレーム数)×着弾面積(ドット数)×攻撃時間』
         +
『毒レベル1~10固定ダメ×掛かった回数』
 ――分のダメージが毎秒叩き出される脅威の破壊力を秘める、また『すべてのステータスを上昇&各リジェネ&自動蘇生』などあらゆる制約に縛られた条件下でのみ発動できる支援魔法も存在する

 ――姉の影がない、彼だけの”力”


・ブラスター系魔術
 キリトの基本的な属性OSS
 『ジェネレート・○○・エレメント』の○○が各属性に対応。保持可能。保持した状態から『ディスチャージ』と唱える事で魔法球から極太レーザーを数秒放つ。キリトは聖、闇属性を好んでいる
 フルヒットで数千万のダメージが出る。毒は確率だが、雑魚、ボス問わず最低保証はウン百万ダメージ
 相手は死ぬ
 ――毒ダメージでHPは0に出来ないので、1まで減った時にヒットしなければ死なないが、まず死ぬ(無慈悲)

 ヴァフス事変で使わなかったのは、ヴァフスを満足させなければ堂々巡りの可能性があったため


・キリト
 勇者
 どこまでも利他的な人間
 だからこそ、自分だけの”力”を手に入れた
 だからこそ、守りたいものを護れた

 ――たとえ、もう喪う事のない世界でも

 手を抜く理由にはならないのだ


・セブン
 歌姫
 茅場、直葉、木綿季などの仲間達に続く、キリトガチ恋勢にして超絶ファンの一人
 非SAO生還者。だからキリトのコトを全ては解らない。解らないから、知ろうとする


・リーファ達
 SAO生還者組
 キリトの想いを知る者達
 キリトに想いを向ける者達
 どちらの世界でも只管全力な姿を喜んでいる


・視聴者達
 空気の浮き沈みが急過ぎて付いていけない
 付いていけてるのはセブンクラスタ古参勢のみ


 では、次話にてお会いしましょう

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