インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは

視点:フィリア

字数:約八千

 説明回だヨ

 ではどうぞ




第二十章 ~アイングラウンドの森の民~

 

 

 《聖大樹の森》と呼ばれるらしい地帯で枯れ木の魔物《妖魔王の眷属》を倒し、(ダーク)エルフの騎士キズメルと知り合った私達は、彼女の先導の下、この森の南端に設営されている野営地へと案内してもらう事になった。

 石化した二人の黒エルフは置いていく事になったが、キズメルによれば元凶である妖魔王を討伐すれば石化の呪いは解けると見込まれているらしい。ただし現状は解呪手段がなく、そのせいで黒エルフは存亡の危機に晒されているのだと彼女は語った。

 ともあれ次の妖魔と遭遇する前に移動する事にした私達は、第二エリア全体に広がる森を南下していく。

 当然道中は様々なモンスターと遭遇するが、私とプレミアの活躍の機会はそう多くなかった。部下二人を喪った事に対する――というよりは、それを阻止できなかった己への――怒りを抱いているらしいキズメルと、そんな彼女と微妙な空気を醸し出しつつも友好的に接するキリカが、鎧袖一触のように蹴散らしていったからだ。

 キズメルもいちおう人型Mob扱いらしく、その頭上には【Kizmel:Dark Elven Royal Guard】のフォントが表示されている。モンスターの名前と同じ文字列をプレイヤーネームとして設定できないので、彼女がカーディナルに統括されたムービングオブジェクトの一種である事は間違いない。モンスター扱いか否かという違いがあるだけで、根本的にはプレミアや街に住まうNPC達と変わりない訳だ。

 SAO時代にも人型Mobは多数見てきたが、それらと同じと考えない方がいいだろう。

 プレイヤーがエルフのような人間とほぼ同一の姿を持つ人型Mobを相手に出来たのは、彼らに命を感じなかったからに他ならない。特定のワードにしか反応せず、また表出される言葉も一定な存在を、私達は同じ人間と認めなかった。

 ……いや、認める訳にはいかなかったとも言える。

 彼らにも命があると考え、殺める事に罪の意識を感じれば、Mobとして登場された時は為す術なく殺されるだけ。自分の死を求めていない限りその思考を認める事は無いだろう。

 それを認められたのはおそらくごく一部。キリトやキリカのように人を殺める事を覚悟し、罪を背負い、それでも正気を保っていられる人間だけだ。

 SAOは命を賭したゲームだった。ある種の現実とは言え――確かに、あの世界は《ゲーム》だったのだ。だから人型で、知性を持ち、社会を形成しているエルフや黒エルフを殺める事になっても、プレイヤーにとっては他のモンスターと同じようにしか見なくてよかった。『倒す』という表現がしっくりくる状況だったから。

 

 ――多分……これが、ユイちゃん達を惹かせた一因なんだろうなぁ……

 

 深い霧に包まれる森の中を、先導する黒エルフの騎士を追う形で進みながら、私はそう思考を巡らせた。視線は騎士と並んで歩く黒髪の少年に向けている。

 キズメルとの会話を見る限り、キリト/キリカが言う”黒エルフ”とはおそらくSAO時代の”キズメル”の事だと私は予想している。彼女に向けるキリカの視線がどこか寂寥感を伴っているのがその証拠だ。少し前までリーファ達に向けていた目に酷似していたからよく分かる。

 きっとSAO時代でも同じような会話をしたのだろう。

 だとすればキズメルは、その当時から凄まじい進化を遂げたSA:OのAIと同等の状態だった訳だ。情緒を持ち、モンスターには思えない振る舞いを見せる存在として彼と出会った。

 その結果、彼はキズメルを同じ”人”だと認めた…。

 NPCやMob――所謂AIという存在を、対等な存在として認め、接する事を決断した。きっとキズメルを殺す事になった時、彼女の死を悼む。同じ人が死んだときと同じように。

 デスゲームが始まったばかりで荒んでいた人々の状態と比べれば、とても穏やかで理性的なものである。しかもAI相手にも同じ人として接する。

 エラーを蓄積し、人々の負を受け続けていたユイ達が彼に目を留めるのも無理からぬ事だった。

 それはこのSA:Oに於いても顕著だろう。

 設定全空白だった少女プレミアが彼に殊更懐いているのも、数多のプレイヤー達の中でも特に自身に向ける優しさに惹かれたからに違いない。NPCだからと好き勝手にしようと考えたり、面白半分で接したりする手合いより心地いいと感じたのだ。

 しかし、それでプレイヤーを責めるのは酷なものがある。

 NPCに危害を加える輩は論外だが、興味本位や面白半分の者達は真っ当にゲームとして楽しんでいる。キリカは自身がAIになったので彼女らに対等に接するのはある意味必然。ならばキリトと同じ思考に至れというのも、他人への押し付けになるから望ましくない展開になるのは目に見えている。

 ユイ達がストリーマーとしてデビューしたのも、そんなAIの現状に一石を投じたいというキリト達の意志が関係している。

 今はまだAIだから、NPCだからとぞんざいな対応になる人もいるが、少しずつ対等なやり取りをする人が増えていけばいいと思う。

 四人パーティーの中で唯一の生身の人間である私はそう思考をまとめた。

 そうして歩くことおよそ十五分。深い霧の中で翻る何本もの黒い旗が視界に入ってきた。

 一番にプレミアが口を開く。

 

「キズメル、何か見えてきました。あそこが”やえいち”というところですか?」

「ああ、そうだ。本来はこの森の秘境に位置する《聖大樹》の守護、森の警邏、侵入者への対処のための(とん)(じょ)でしかなかったが、今はリュースラの民の精鋭が集まる砦に変わっている」

「つまり、あそこが落とされれば黒エルフ族は終わりな訳か……」

 

 濃くたゆたう霧から薄く見える旗を眺めながら、キリカが零す。それから彼は隣を歩くキズメルに顔を向けた。

 

「戦力はどれくらいなんだ?」

「数だけで言えば騎士三百といったところだ。砦の防備、警邏を欠かすわけにはいかんから、実働に割けるのは百に届くか否かだろう」

 

 歩きながら答えた彼女は、ちなみに、と更に続ける。

 

「妖魔一体を相手にする時は重戦士二人、軽戦士二人の四人一組が基本だ。それでも石化の呪いによる犠牲者が一人、二人は出る」

「ふーむ……つまり妖魔王討伐に動けるのは俺達プラス黒エルフパーティー二十五組になるのか。フルレイド三つ分とは言え、呪いがどうにもなぁ……」

 

 ガシガシとキリカが頭を掻く。これまで数多のボスと対峙してきた彼も、流石に一撃即死とも言える呪いは頭が痛い事案らしい。

 当たらなければどうという事は無い――そんな考えが浮かぶが、ことヴァーチャル・リアリティなSA:Oでそれは通用しない。多分それが可能なのはALOでのキリトみたく、理不尽なシステム外スキルやOSSを乱発したり、スキルコネクトを使って敵に動く隙を与えないくらいなもの。常人はもちろん、システムに動かされるNPCに同じ事は出来ない。

 つまり呪いを受けない人族が頼みの綱になるという訳だ。

 そうとなれば人族でも最大戦力の集めればいい訳だが――と、私は目だけを動かし、視界の右上を見た。リアル時間を示す時計は、午後十時を回ったところだった。

 最大戦力筆頭のキリトやリーファ、アスナ達は、セブンとレインのクエスト配信に付き合っている筈で、今からみんなを呼ぶには午後十時は些か遅い時間だ。明日は土曜日だがあまりに就寝が遅いのは生活リズムの観点からよろしくないのは、SAO時代ですっかり夜型だった自分がイヤというほど理解できている。

 このクエストの背景や黒エルフ達との顔合わせも考えると、実際の攻略は明日からになると見ていいだろう。

 

「あの、少し気になったのですが、どうして警邏や砦の守りの人が二百人もいるのですか?」

 

 そこで、二人の話を静かに聞いていたプレミアが疑問を呈した。その問いにキズメルとキリカが同時に足を止める。

 

「とても危機的状況にあるなら、全員で向かった方がいいのではないでしょうか。呪いも妖魔王を倒せば解けるという話ですし」

「それはそうだが、あくまで推測なのだ。我らを指揮する者はいたずらに犠牲者を出したくないと考えているのだよ」

 

 それに、と彼女は眉根を寄せる。

 

「我らリュースラの民の敵は、妖魔王だけではないからな」

「そうなのですか?」

「うむ……カレス・オーの民。人族はたしか、(フォレスト)エルフと呼んでいたか。彼らと我らは長らく相争う関係にある。妖魔王により黒エルフが存亡の危機に晒されている今、そこを狙って奴らが侵攻してくるとも限らん。そうなれば妖魔王とカレス・オーの民らを同時に相手取らなければならなくなるのだ」

 

 神妙な面持ちで語るキズメル。

 その話に、私はまた別の疑問が浮かんだ。

 

「でもその妖魔王って、聖大樹を狙ってるんでしょ? なら森エルフにとっても共通の敵になるんじゃ……」

 

 二本存在するらしい聖大樹にどんな違いがあるか不明だが、黒エルフが持つ欠点は森エルフにもあるという話から、おそらく大差ないと考えられる。それを狙う妖魔王が森エルフは襲わないとは考え難かった。

 伝説上の存在をテイムした可能性もあるが、それは流石にないと思いたい。

 私の予想が正しければ、この第二エリア・オルドローブ大森林は、アインクラッド第三層~第九層を参考にしたエリアだ。なら今進行しているクエスト【妖魔王の侵攻】は、第三層~第九層で展開された大型キャンペーン・クエストに近いものだと思う。()(けん)を六個集める展開はプレミアの聖石クエストの下敷きになり、残りのストーリーをここのクエストに引き継いだ――そう考えれば、このクエストのルートは黒エルフと森エルフそれぞれにあるという考えが浮かぶ。

 かなりのメタ読みだが、そう外れていないのではないかと私は思った。

 

「聖大樹に縛られていれば、だな」

 

 その疑問に答えたのは、”黒エルフ”から色々聞いているキリカだった。彼はやや遠い眼をしながら続ける。

 

「聖大樹の加護を受けているのが森エルフと黒エルフ。逆に、力を得ようと企てて聖大樹を傷つけ追放された存在……フォールン・エルフという種族もいるんだ」

「やはりその者達についても知っていたか……」

「フォールン・エルフ……」

 

 新たに出てきた種族名をオウム返しに呟く。

 彼が語っているのはSAO時代の知識だろうが、キズメルが重い表情になったのを見るにSA:Oにもいるらしい。

 だが私はその存在に会った覚えが無い。となると、キャンペーン・クエストでのみ登場するモンスターなのだろう。そういうタイプの敵はRPGでは少なくない。

 

「キリカ、その種族はどういったものなのでしょう。キズメル達と違うのですか?」

「俺が知っている限り、自然を傷つけられない禁忌はそのままだ。自然と親和性が高いのも同じ。そして、とにかく強い」

「なにそれ、良いとこどりのオンパレードじゃん」

 

 チートかそれは、と私は眉を顰める。今のところデメリットらしい話がないから余計そう思った。

 キリカも似た考えがあるのか、神妙な面持ちで頷く。

 そこで反論したのはキズメルだった。

 

「だがフォールン共は聖大樹を傷つける事を企てた一族として、黒エルフからも森エルフからも狙われる身だ。力を尊ぶ気質が他種族を全て見下す言動の根幹だから人族とも折り合いが悪いと聞く。我々は対話し、こうして道中を共にしているが、奴らは四面楚歌という訳だ」

「ふーん……」

 

 彼女の話を聞いて、それでも私は納得出来ないでいた。

 黒エルフと森エルフはそれぞれ争っている。だが、人族とは対話を試みる事で協力する事はある。

 フォールンにはそれがないと彼女は言うが、もし対話を試みたら話は違うのではないだろうか。

 

「……ま、SAOでは協力してたがな」

 

 そこでキリカがボソリと呟く。かなり小さなそれをキズメルは拾えなかったようだが、私には聞こえた。

 どうやらSAOでのクエストだと本当に対話していたらしい。

 

「フォールン共は更なる力を求め、聖大樹だけでなく、リュースラとカレス・オーの民の王都を狙っているとも聞く。この森はその通り道故、だからこそ警邏と防備を欠かすわけにはいかないのだ。わかったか、プレミア」

「はい。ありがとうございます、キズメル」

 

 そのやり取りで、そう言えばどうして砦の残りを妖魔王討伐に向けないのか、という問いに答えていたのだったと思い出す。

 要するに黒エルフにとって敵は三つ存在する訳だ。

 しかし……

 

「ねぇ、また疑問なんだけど、フォールンって聖大樹だけを狙ってるんじゃないの? なんで王都も対象になってるの?」

 

 疑問が解けたと思えばまた新たな疑問が浮かんだ。エルフを取り巻く状況について知らないせいなのだが、奇妙な点ではある。

 

「ああ、それは王都には《聖石》があって……」

「「聖石?!」」

 

 まあ王都だから曰く付きの宝物があって、それを狙ってるのかもなぁと考えていると、思わぬワードが飛び出てキリカとオウム返しに驚く。それから同時にプレミアへと振り向く。

 当の彼女は、懐から二つの石を取り出した。

 

「聖石とは、こういうものでしょうか?」

「なっ……?!」

 

 両手に一個ずつ握り締めた緑色の石を見て、キズメルがギョッと眼を剥いた。

 

「プレミア、そなた、何故それを……? いや、そもそもどこで……」

「どちらも洞窟で見つけました。一個目はリューストリア大草原、二個目はキズメルと会う前に」

「なんだと……」

 

 信じられないとばかりに愕然とする黒エルフの女騎士。

 それからふと、彼女の視線が石から外れた。

 

「待て……聖石、少女……それにその服の意匠……――――()()()()()()の服!」

「なに……?」

 

 なにかを思い出したらしいキズメルが声を上げると同時、キリカもまた、反応を示した。それに気づいた素振りもなく女騎士がプレミアに詰め寄る。

 

「プレミア、そなたは巫女だったのか?!」

「……すみません。私は、過去を覚えていないので」

 

 やや申し訳なさそうに謝るプレミア。彼女の様子と事情を知り、キズメルも落ち着きを取り戻したらしく間近だった距離を少し離す

 

「驚かせてすまない。プレミアが着ている服の意匠が幼い頃読んだ《遥か遠い世界の本》、《大地切断の章》に登場する巫女のものと同じだった事を思い出してな。つい動揺してしまった」

 

 彼女の弁明を聞き、むむ? となったのはSAO生還者である私とキリカだ。キズメルがプレミアと話しているのを他所に、私達は少し近付き、お互いにだけ聞こえる大きさで話し始める。

 

「ねぇ、いまキズメルが言ってたのって、多分アインクラッドの事だよね……」

「十中八九そうだと思う。SAO時代のキズメルもβ時代の俺の事を夢という形で引き継いでたし、このSA:Oのキズメルも同じ筈。元々キャンペーン・クエストの登場人物だから引き継ぎの影響も大きかったんだと思う」

「なるほどね……」

 

 要するに、ヴァフスに起きた事がキズメルにも起きているという訳だ。違いはキリトへの執着心で記録を残したのがヴァフスであるのに対し、キズメルは純粋にシステムの影響で引き継いでいるということ。

 しかし、なんだかややこしい上に、キナ臭くもなってきた。

 《大地切断》。

 MMOストリームでアルゴとキリトが登場したSA:Oベータテスト初日の配信で語られた伝説だ。争いを憂いた聖大樹の巫女二人が祈りを捧げ、大地を分割し、浮遊城として区画分けする事で争いを止めるというハイパーパワー技を語ったそれは、今ではSA:Oプレイヤーの多くが知る話である。

 聖大樹の巫女――このワードがSA:Oでも出たという事は、アインクラッドも少なからず関係してくる筈だ。聖石の女神であるはずのプレミアがなぜ巫女の服を着ているか引っ掛かるが、カーディナルが彼女を無理矢理起動させた真意と関係あるに違いない。

 さしあたって気になるのは、聖石を六つ集め切った時になるが起きるかだが……

 

「キリカ、秘鍵を六つ集め切ったらどうなったの?」

「九層の女王に謁見して、剣を貰って終了だ。鍵も《聖堂》という場所の門の鍵になるだけでそれ以上は起きなかった。そもそも黒エルフは、秘鍵を集めようとする森エルフ、フォールン・エルフを妨害する勢力だったから《聖堂》を開く事もなかったし……」

 

 記憶を漁りながらの彼の話に、また新たなワードが登場した。《聖堂》というのは初耳だ。

 

「聖堂って?」

「詳しくは知らない。ただそこの扉が開くと、黒エルフではアインクラッドに壊滅的な破局が訪れると信じられてた」

「……森エルフは?」

「アインクラッドの全ての層が大地に帰還し、エルフは大いなる魔法の力を取り戻せる」

 

 むむむ、とまた唸る。解釈によるだろうが、前者は浮遊城が崩壊する、後者は平和的に地上に帰還するという意味に取るのが自然だろう。『壊滅的な破局』が、よもや浮遊城という形の崩壊のみを示すだけで、平和に大地へ帰還する表現とはとても思えない。

 そして気になるのはフォールン・エルフ達だ。彼らもまた別の伝承を継承しているのだろうと思い、キリカに先を促す。

 

「フォールン・エルフはどうだったの?」

「会話で聞いただけだけど、基本は森エルフと同じだった。ただ、絶大な力を得られるニュアンスがあったかな……」

 

 むむむむ、とさらに唸る。

 さっきの話だと黒、森、そしてフォールンの三種族は互いに対立する三角関係にあると思っていたが、どうやら黒対森&フォールンのようだ。一時的に森とフォールンが結託し、黒が入手した秘鍵を奪いに来る場合もある訳だ。

 その後、森とフォールンで争うかもしれないが、ともあれ黒エルフは孤立状態に近かったらしい。

 もしそれがこの世界にも適用されているなら――――

 

「もしかして、妖魔をフォールンが復活させて、それに森エルフが乗っかってる可能性もある……?」

 

 まさかと思うが、あり得ない話ではない。妖魔王がなぜ蘇ったのか原因が分かっていないから幾らでも想像できてしまう。

 そしてキリカは、私の予想に苦い面持ちで頷いた。

 

「十分あり得る。似た考えを黒エルフの上層部も持って、それで防備を固めてるんじゃないかな……」

「じゃあ王都の聖石は、各階層の秘鍵の代わり?」

「おそらく。ベータでエリアを全て解放するとは思えないし、解放される範疇で回収出来るようカーディナルが書き換えてるんだと思う」

「うへぇ……」

 

 SAOのβテストと同じく、SA:Oβもエリア解放がどこまでかは告知されていない。広大な大地をどこまでも行く――それがキャッチコピー故に、敢えて制限していないのかもしれないが、それはそれで厄介だ。

 エリア二つ目の時点でベータ版のボリュームは凄いコトになっているが、正式版のエリア総数が非常に多いなら、二エリアは少ないと言えなくもない。

 秘鍵の代わりにしているなら、多分リューストリアとオルドローブの二エリアで集め切れてしまいそうだが……

 そこでふと、黒エルフの伝承の捉え方を思い出す。

 

「ねぇ、黒エルフって秘鍵が集まるのを妨害するって言ってたよね。じゃあこの世界でも聖石が集まらないようにしてるとかないかな」

 

 私の考えを聞いて、一瞬キョトンとしたキリカがすぐ真剣な面持ちで考え込む。数秒して、どうだろう、と微妙な答えを返してきた。

 

「あるかもしれないが、カーディナルの思惑が聖石を集めさせる事だとすれば、そこは都合よく書き換えそうだ。『本来の持ち主が持つべきだ』とか言ってプレミアに渡しそうだし」

「あー……」

 

 イヤに納得した。あり得るというか、プレミアの存在そのものがそうとしか考えられないせいで、そうとしか考えられない。

 それにしても、プレミアもほとほと謎な存在だ。聖石の女神の設定が空白かと思えばしっかりクエストは発生するし、服は聖大樹の巫女のもので別のクエストに関与するしと、随分ごちゃごちゃしている。

 本当に聖石を集めさせて何がしたいのかわからない。

 

「キリカ、フィリア、どうした。何か気になる事でもあったのか」

 

 プレミアとの話を終えたらしいキズメルがこちらに気付き、声を掛けてきた。詳細を語っても理解し難いだろうと判断した私達は適当にはぐらかし、先に進もうとプレミアとキズメルと促す。

 特に疑問を抱かなかったらしく、それ以上の追及もせずキズメルが先導を再開した。

 その後ろを付いていきながら、私はまた思考を回す。

 

 森エルフ側の聖石はどうやって入手するのだろうか、と。

 

 






・キャンペーン・クエスト
 第三~第九層で展開される大型連続クエスト
 各階層に一つずつ存在する《秘鍵》を、黒エルフと森エルフどちらに付くか選択し、入手していく。六つ集め切った時の展開は、原作では黒エルフ側だと剣を下賜されるだけで終わるが、森エルフ側ではどうなるか明らかにされていない
 堕:集めると大地に還り、強大な力を手に入れられる
 森:集めると大地に還り、魔法を取り戻せる
 黒:集めると城が崩壊し、全てが滅ぶ


・聖大樹の巫女
 SAO時代の伝説《大地切断》に登場する存在
 聖大樹と同様に二人いる、祈りを捧げると大地が割れて天空に城が構築されるなどの伝説が、アルゴとキリトによる配信で語られている
 今話でその巫女の服と同じものをプレミアが着ている事が判明した


・聖堂
 六つの《秘鍵》で扉を閉じられた場所
 聖大樹の巫女が祈りを捧げる場所ともされるが、詳細は原作でも明らかにされていない。この場に辿り着いた時に何が起きるかも不明
 キリト/キリカもその場所には踏み入った事がない


・聖石
 《秘鍵》の代わりに宛がわれたクエスト・キーアイテム
 全部で六つ集める必要があり、キリカ達は既に二つ集め終えている。黒エルフ、森エルフの王都にそれぞれ一つずつ安置されている事が判明した


・”キズメル”
 SAO時代のクエストでキリトと知り合った黒エルフ騎士
 SAOβテスト時代の記憶を《夢》という形で継承していた。通常のNPCより情緒に富み、NPCやAIと対等に接するキリトの基礎を築いた人物でもある
 ある意味ユイ達の先輩


・キズメル
 SA:Oでの黒エルフ騎士
 三つある近衛騎士談の一つ、エンジュ騎士団所属のエリート騎士。若干キリカへのデジャブがあるため、キリカが推測している通りSAO時代の記録を無自覚ながら引き継いでいる


・キリカ
 キャンペーン・クエストをソロでクリアしたプレイヤー
 ソロな上に一人だけ味方したエルフNPCを生存させた。エルフ族を取り巻く状況に深い造詣があるのは、クエストのストーリーを見聞きし、調べる事が楽しく、キズメルにねだったからという背景がある


・フィリア
 キャンペーン・クエストは挑戦していないプレイヤー
 フォールン・エルフなる存在も知らず、エルフの状況もほぼ知らないため、今回沢山の疑問があった一人
 原作プログレッシブのアスナ枠


・プレミア
 謎の少女
 本来は《聖石の女神》だが、なぜか《聖大樹の巫女》の服を纏っている事が判明。その真意はカーディナルにしかわからない


 では、次話にてお会いしましょう

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