インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは
今回も説明回なんだヨ(;´・ω・)
視点:フィリア、キリカ
字数:約一万一千
ではどうぞ
黒エルフ騎士キズメルの先導に従って濃霧の奥に翻る漆黒の旗に近付いていくと、あるところで霧が嘘のように晴れ、急激に視界がクリアになった。
それに驚いたプレミアに、キズメルは『森沈みのまじないだ』とどこか誇らしげに言う。どうやら道中で発生していた濃霧は、来る者を惑わせ、野営地に辿り着かせない罠として黒エルフが発生させていたものらしい。
ちなみにこれはSAO時代にもあったそうだ。
厳密に言えば、クエストを受けていなければ辿り着けないというファクターを、世界観に落とし込んだ話らしい。”まじない”というのは、魔法を喪ったエルフ達の血に残った魔力の残り香により辛うじて使える魔法の残滓らしい。無論SA:Oでは魔法が失われるSAOの設定は適用されてないので、キズメルは魔法やプレイヤーのスキルとして”まじない”と表現しただけだろうとの事だ。
そうして更に近付けば、切り立った山肌が露わになった。その一か所に幅五メートルほどの谷間が口を開けていて、左右に細長い柱が立つ。その天辺には目印になっていた黒地に角笛と片刃刀が染め抜かれた旗が微風にたなびいていた。
そして二本の柱の前には、キズメルよりやや重装備の黒エルフの衛兵の姿があった。細身の
「威圧感すっご……これ、SAOでも同じだったの……?」
まだ距離があるというのに重厚な気配を感じ取り、私はキリカにぽそっと話しかける。彼は神妙な顔で頷いた。
「ベータ版でもな。緊張したのは、キズメルを唯一生存させられたデスゲームの方だったが」
彼の答えに、さもありなんと頷く。
ベータ版では他のプレイヤーと一緒だっただろうが、デスゲームではソロで、連れ添っているのは既知の展開と違う生存したMob扱いのクエストNPCだ。ワンミスも許されない状況も加味すれば、未知の領域に対する緊張感は途轍もないものだったに違いない。
「……その点、プレミアは全然緊張してなさそうだ」
「あはは……まぁ、プレミアだしねぇ……」
すたすた進むキズメルの後を追うプレミアに緊張の色は見られない。緊迫感とは無縁そうな立ち振る舞いは既に慣れたものだ。心臓に剛毛が生えていそうな豪胆さは、時にこちらをヒヤリとさせる。
あれはまだ情緒が成長してないからか、それとも元の性格からなのか分からないが、もし後者だとすれば中々イイ性格の子になるに違いない。
そんな事を考えながら、衛兵たちの横を通り過ぎる。幸いじろりと訝しげに見られるだけで済んだ事にほっと息を吐きつつ、谷を更に進んでいく。
少しすると、谷は急激に広がり、直径二百メートルはあろうかという円形の空間に辿り着いた。そこに黒紫色の天幕が大小合わせて五十以上も張られ、優美な外見の黒エルフの戦士たちが行き交っていく様は中々壮観だ。
野営地と言うには天幕の数が多い気がしたが、おそらく非常事態故だろうと納得する。
黒エルフ達の流れに乗るように道を進んでいく最中、数多の武器を陳列している店の店主がよぉ! と声を上げた。
「キズメル、帰ってきたか。心配してたんだぜ。しかしなぜ人族を連れてるんだ?」
「部下が二人、妖魔にやられてしまってな……この者達がいなければ私も危うかったんだ。その礼をするために案内している」
「ほぉ、お前が危なかったと言うなら相当だ。しかし人族がねぇ……」
じろ、と武器屋の店主らしい男の黒エルフが値踏みの視線を向けてくる。私、プレミア、そしてキリカと見てふん、と鼻で笑う。
「強そうには見えないが? どいつもこいつも、まだガキじゃないか」
「ふふ。そう思えるのも仕方ないだろうが、なかなかどうして、かなりの腕利きだぞ。特にこのキリカは幼さ故に力は乏しいが、技巧の面では圧倒されたよ」
「なるほどねぇ」
微笑みながらキズメルが補足するも、武器屋の店主は半信半疑な様子だ。エルフ達がこちらを下に見る傾向にあるのはキズメルから教えてもらっていたので苛立ちは無い、この対応はむしろ穏便な方だとさえ思える。誅殺隊の所業を知っている身からすれば、生温くも思えた。
キリカもそれは同じらしく特にリアクションは無い。反応するだけ無駄だと思っているのか、陳列されている武器達をじっと見つめてやり過ごしていた。
「まあいい、キズメルがそこまで言うなら事実なんだろうよ。人族、機会があればウチの武器を買いに来な。損はさせねぇぜ」
「考えとくね」
代表して私が応じた後、おう、と軽く手を振った店主がまた店の業務に戻った。どうやら特に敵意を持って声を掛けてきたわけではないようだ。
「すまないな。あいつはよく考えずにものを言う事が多くて反感を買いやすいだけで、根は悪くないんだ。怒らないでやってくれ」
「キズメルが謝る事ないよ。強そうに見えないのは事実だしね」
「俺が子供なのもな」
「私も、強くないのは事実なので気にしていません」
三者三様に言葉を返す。プレミアの言葉に関してはどうかなー? と思いもしたが、そこで口を挟めば雰囲気ぶち壊しなので、言及を避けた。
ありがとう、と礼を返したキズメルがまた前を向き、司令官がいるという谷の奥の大天幕へと歩を進めた。
色々と急展開が続いたが、ダークエルフの野営地の司令官との面談は平穏な雰囲気の内に無事終了した。
司令官は石化させられた二人の犠牲を悼みつつもキズメルの生還、そして人族に呪いが効かない事実の発見と、協力の橋渡しを大いに喜んだ。キズメルの生還に貢献したとして結構多くのクエスト報酬と中々の性能の装備アイテムをくれた。アイテムはいくつかの選択肢から選べるという親切仕様で、私は敏捷補正のネックレス、プレミアは状態異常への耐性を微量増加させる指輪、キリカは【クイーンズナイト・レプカ】という女王から下賜される剣の模造品を貰った。
ちなみにキリカが貰った剣は司令官曰く、近衛騎士以上の地位ある騎士にしか所持すら許されないものだという。それを譲る事は、すなわちそれだけ黒エルフ族への貢献を期待している表れだとも語っていた。
本物の剣は女王自ら下賜するものに限定されるため、欲しければ黒エルフに協力し、女王にその貢献を認められる必要があるという。他種族が女王に謁見された例はないが、存亡の危機に協力したなら認められるだろうとのこと。
ちなみにSAOβ、デスゲームのキャンペーン・クエスト最終章で貰える報酬アイテムが、正にそのオリジナル【クイーンズナイトソード】だったとキリカは教えてくれた。欲しければ最後まで黒エルフを裏切るなという事だ。
最後に司令官から《妖魔王クエスト》第二幕を受けて、私達は大天幕を辞した。
谷あいの草地に戻ると、空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。現実時間も午後十一時に差し掛かろうとしており、緊張感あふれる空気から脱したと分かった途端、疲労感と共に眠気が私の意識を刈り取ろうとしてくる。
先頭を歩くキズメルが道の端で立ち止まり、実に自然な動作で大きく伸びをすると、こちらに向き直り、仄かに微笑みを浮かべた。
「キリカ、フィリア、プレミア、そなたらの助力に改めて礼を言おう。次の作戦からもよろしく頼む。それと、出来ればそなたらの仲間を呼ぶ事も頼んだ」
「ああ、声を掛けておくよ」
「ありがとう」
にこりと微笑んだキズメルは、こちらに手を差し出してきた。すかさずキリカが応じ、続けて私、プレミアとそれぞれ握手を交わす。
満足そうに頷いたキズメルは、再び口を開いた。
「それではここで解散としよう。作戦に出発する時刻はそなたらに任せる。一度人族の街まで戻りたいなら近くまでまじないで送り届けるが、この野営地の天幕で休んでも構わんよ」
「じゃあここで休んでいくよ」
彼女の問いにキリカが答える。
SAOでは天幕で休むことができると道中で聞いていたので異論はない。圏外なので即時ログアウト出来ず、しばらく待機状態のアバターが残ってしまうが、それはキリカがキープしてくれると言ってくれたので心配していなかった。ひょっとしたら宿屋と同じ判定で即時ログアウトできるかも、という希望も持っている。
クエストの度に数十分掛けてここまで移動してくるのが面倒だからでもある。
ログアウトする前に転移石がないか探してみようとも思う。インスタンスエリアらしいから、無駄な気がしなくもないが。
そんな事を考えていると、キリカの問いに頷いたキズメルがでは、と言葉を続ける。
「私の天幕に案内しよう。四人では少々手狭だが我慢してくれ」
「……キズメルの? 空いてる天幕って無いの?」
「うむ、予備が無いのだ。予備をありったけ使って対妖魔で派遣された騎士の分を用意しているからな」
「そういう事ね」
それなら仕方ないと納得し、素直に案内される。
持ち主は『四人では手狭』と言っていたが実際の天幕はもう数人増えても楽々横になれそうなほどの面積があった。床にはふかふかと柔らかい毛皮が贅沢に敷き詰められ、そのまま寝転がっても快適に眠れそうだ。壁代わりの布も分厚い織物で、外部の騒音をほぼシャットアウトしている。中央の柱の前には不思議な形のストーブが置かれ、オレンジ色の光と暖気を穏やかに放っていた。
近衛騎士でも上位に位置するらしいキズメルのための天幕だから、しっかり休息を取れるよう配慮されているのだろう。
予想以上の快適空間に踏み込んだ私は、天幕の中央付近まで近づくや、はーっと長いため息を吐きつつ座り込んだ。
「あーっ、疲れた! 肉体的じゃなくて精神的に疲れたよ!」
私が声を上げるのを横目に、剣と各種防具、ロングコートなどを武装解除していくキリカが苦笑した。
「はは、流石にエルフクエストは予想外だったからな」
「それもだけど、それ以外がさぁ……」
ごろんと仰向けになった私の言いたい事は解るようで、床に腰を下ろした彼がはは、とまた苦笑する。
プレミアはと言えば、初めてみるものに好奇心を駆られたか、純粋に暖を取りに行ったのかストーブの前に座っていた。火傷するなよ、わかりました、というキリカとのやり取りがなんとも微笑ましい。
そうしていると、野営地のどこかで物悲し気な角笛の音が響いた。SA:O内の時間で午後六時相当になった事を知らせる音だろう。
その音を聞いていると、天幕の入り口の垂れ布がサッと持ち上げられた。入ってきたのはこの家主たるキズメルだ。
「陣中ゆえ、大したもてなしも出来ぬがこの天幕は自由に使ってくれ。食堂ではいつでも食事を摂れるし、簡易的だが湯浴み用の天幕もある」
「湯浴み……お風呂かぁ」
一人の女として清潔感は大切にしたい気持ちはあるが、ログアフト不能だった頃ならともかく、今は現実で入浴できるので然して興味を引かれなかった。アスナ辺りならそれでも入ったかもしれないなぁと他人事のように考える。
その思考を知らないだろうキズメルは一つ頷き、左手で天幕の入り口方向を指し示す。
「食堂天幕の隣に湯浴み用の天幕がある。そちらもいつでも使えるぞ」
「そっか……プレミア、入ってきたら?」
「私ですか? そうですね……」
同じ天幕で寝泊まりする事になった手前、この世界の住人であるキズメルに向かって『お風呂入りません宣言』はし辛いので自分の返答は誤魔化しつつ、同じくこの世界の住人であるプレミアに入浴を薦める。
実際彼女は街の宿に備え付けられたお風呂を度々使用していたらしいので、入らないという答えは出さないだろう。
「今日はたくさん動きましたし、入ってきます」
「うん、そうするといいよ」
「キリカ、行きましょう」
――うん? と、続く言葉に内心で首を傾げる。
まさかと思って見やれば、あろうことかプレミアの手はキリトの手を掴み、引っ張ろうとしている。
「いやいやいやちょっとちょっとちょっと! 待ってプレミア、それはダメだよ!」
「俺もそれはダメだと思う」
「なぜですか?」
「普通、男女いっしょに風呂には入らない」
「そうですか……」
しゅん、と肩を落としたプレミアは、しかしそれ以上言い募る事はなく素直に手を放し、天幕の入り口の方へ歩き始めた。
まるで捨てられた子犬のような後ろ姿にそこはかとない罪悪感を覚えなくもないが、キリカも一応れっきとした男の子なので、公序良俗に反する行いを許すべきではない。
そのやり取りを苦笑して見守っていたキズメルは徐に天幕の奥の方に進んでいく。
「私は少し休ませてもらうよ。用があれば、いつでも声を掛けてくれ」
そう言いながらストーブの傍で立ち止まったキズメルが、左の肩当の留め具に嵌められた大きな宝石に触れた。
しゃららん、と不思議な音がしたと思った直後、金属鎧とマントとサーベルは光の粒子となって消滅した。光の下からはシルクと思しき光沢のあるぴったりとしたインナー一枚きり。黒い布地に包まれた肢体は、流石エルフとも言える予想以上のボリューム感がある。
ふと、私はキリカに話しかけた。
「キリトとキリカってさ、リーファといいストレアといい、あーいうスタイルのいいお姉さん全般に弱いの?」
「そーいうつもりは無いんだけどなぁ……」
私の問いに、キリカはどこか自信無さげに笑うだけだった。
世界に夜が訪れた。
現実側はとっくに日を跨いでおり、フィリアも疲労と眠気に負けてキズメルの天幕で寝落ちログアウトをかまして既に居ない。プレミアも流石にほぼ四半日戦い続けた疲れが出てきたようで、食事を摂るや否やすぐに夢の中へ誘われていた。
俺はと言えば、少なからずある疲労を押し、夜の静けさに包まれた野営地の端に赴いていた。そこに用があるというよりは、人目に付かない場所を求めての行為だ。
理由はもちろん、今日判明した諸々の事を報告するため。
報告相手は現実側の元自分――
幸い日を跨いでもまだ寝ていなかったらしく、セブンが組んだ試作アプリで連絡を取ってすぐにオリジナルと通話が始まった。
『キリカから連絡なんて珍しいな。何かあったのか?』
「ああ、色々と。プレミアがなぜ起動したのかも、もしかしたらわかったかもしれない」
『……本当か』
俺の言葉を聞いて、思った以上に真剣なものと理解したらしいオリジナルの顔が神妙なものになる。自分はこういう時、こんな表情をしていたのかと思考の片隅に浮かべつつ、俺は話を続けた。
まず二個目の聖石をフィリアの助力で手に入れられた話に始まり、キズメルとの出会い――あるいは、再会――について語った。その中で判明した事実、すなわちプレミアが着ている服が《聖大樹の巫女》のものである事を告げる。
更にキズメルの口から、伝奇本としてアインクラッドの話――《大地切断》の伝説が語られた事も付け加える。
『――なるほどな』
そこまで聞いたオリジナルは、俺が結論を言うよりも早く答えに行きついたようだった。
いや、それはある意味当然とも言えた。たとえ俺が”C”からのメッセージについて告げていなくとも、エルフ関連の知識で差はないのだ、状況証拠がここまで揃えば答えに行きつくのは必然である。
伝説の再現。
それすなわち――
『《SA:O》のカーディナル・システムは、アイングラウンドからアインクラッドを創成するつもりなのか』
あの浮遊城の再構築だ。
セブンからプレミアの本来の設定について聞いた時から、聖石の個数や設定からして、なんとなくキャンペーン・クエストの秘鍵に近いものを感じてはいた。
それが確信へと変わったのは、二個目を回収する道中で大樹に祈りを捧げ始めた事と、それを知らない筈のキズメルの口から《聖大樹の巫女》という単語が出て、それらが一本の線に繋がった時だ。プレミアは本来の役割を喪っていたのではなく、まるで混ざるかのように二つの役割を同時に担わされていた。
カーディナル・システムがそんな強硬手段に出たのは、一度正式に設定された事を、カーディナルの一存で変更する事は出来ないからだろう。アレは確かに人の手を借りず、マップやクエスト生成を行えるが、一度決まった事をひっくり返す事だけは認可されていない。それだけは”アップデート”という形でGM権限を持つ者がしなければならなかった。
だからカーディナルは、容姿と大雑把なクエスト概要しか用意されていなかった素体――プレミアを傀儡として選択した。
そしてアインクラッド創成の素地として、かつてSAOに存在した伝説を引用し、それを基にクエストを生成したのだ。この《妖魔王の侵略》という、キャンペーン紛いのクエストを。おそらくこのクエストの起動、ないしルート変更には《聖大樹の巫女の服》が設定されていて、その服を纏う者に報酬として聖石が渡るよう仕組まれている筈だ。そうすれば仮に同じクエストを他のプレイヤーが受けても聖石が他の者の手に渡ることはなく、一か所に集まりやすくなる。
――無論、単なる偶然という可能性も無くはない。
システムを参照した訳ではないから、これは単なる俺の推測であり、オリジナルの勘でもある。それが絶対正しいとは俺も思っていない。
だが――”C”からあのメッセージを受け取った俺には、この推測が的中する確信があった。
あの明らかにSAOを想起させ、この世界との関係性を匂わせる文章。それに符合するかの如く次々と明らかにされていくSAO時代の設定の名残。この二つがあるからこそ、俺は先の答えを確信した。
『……たしかに、カーディナルはSAOのホロウ・エリアのように一つのサーバーでもう一つ巨大なマップを生成する事はあった。SA:Oで同じ事が起きないとも言えないだろうが……それがアインクラッドだと、よく確信できたな』
半信半疑、というよりは決定打が足りないと言いたげなオリジナルの言葉。それに俺は、無理もない、と思って責めはしなかった。多分あのメッセージは自分にしか送られていないものなのだ。俺とてあのメッセージがなければ、未だに半信半疑で相談するか迷っていた。《大地切断》をはじめ、今回出てきた固有名詞はSAOの名残でしかないと考える事も出来るからだ。
だから俺はオリジナルにも確信してもらうべく、この世界が始まった日――プレミアと初めて出会い、直後にメッセージが届いた黄昏時の出来事を話した。
オリジナルも、流石にそのメッセージ――『I'm back to Aincrad.』――を聞いて驚きを露わにしたが、それならと同じように確信を持ってくれた。
「なぁ、オリジナル。多分この送信者の"C"って……」
『十中八九、カーディナルの"C"だろう。綴りも『Cardinal』だから合致する』
「やっぱり、かぁ……」
設定空白、名無しの少女――後のプレミア――と出会った時点からおそらくそうだろうなぁとは思っていたが、やはりそうらしい。
ならばなぜ俺に、という疑問が浮かぶ。
カーディナル・システムが《Kirito》というプレイヤーを特別視し、厚遇している事は周知の事実だ。だからこのメッセージをオリジナルに送ったのならまだ分かる。カーディナルが何かして欲しいという迂遠なメッセージなのだと。
だが何故俺に送ってきたのか、これが解らない。同時期にオリジナルもログインしていたというのになぜあちらにも送らなかったのか。
その疑問も明かすと、数秒沈思を挟んだ後、おそらくだがとオリジナルが切り出した。
『使ってるアカウントのせいだと思う。容姿が変わると分かりにくいからってみんなはALOアカウントをコンバートしてアバターを作成した。俺はSAOから引き継いだアカウントを削除したけど、キリカをはじめみんなはSAOからのデータをそのまま引き継いでる。アカウントIDは変わってない筈だから、SA:Oのカーディナルの目に留まったんじゃないか。キリカは須郷の手で作られたが、同時期にホロウを俺の代打としてカーディナルは用意していた。その辺のログがコピー・カーディナルにも残ってるんだろう』
オリジナルの予測に、なるほどな、と俺は頷く。
俺とホロウが作り出せたのはカーディナルによってストレアが派遣され、《Kirito》というプレイヤーのあらゆるデータを収集し、それを基にしているからだ。俺はカーディナルの意志を介在していないが、ホロウとほぼ同一存在であった事を鑑みれば第三プランとして見られていてもおかしくなかった。
結果的にオリジナルは生き残ったから使われなかったサブプラン。
それがいま、SAO時代のアカウントIDから特定され、適用されたのではないか……そうオリジナルは言ったのだ。
あり得ない話ではない。いや、むしろ十分あり得る事だ。それならオリジナルにはメッセージが届けられなかった事にも合点がいく。
ならばと、次に疑問となるのは……
「なぁ、オリジナル。多分コレは《グラウンドクエスト》に沿った内容だと思うんだが……もし大幅に改変された訳じゃないなら、SA:Oの製作陣は最初からアインクラッドを作り出すつもりでいた事にならないか?」
そう、アインクラッド創成はもしかしたら、製作陣が意図的に仕込んだものではないかという疑惑がある。
元々《グラウンドクエスト》の設定として六つの聖石は存在していた。お誂え向きとばかりに、SAOを彷彿とさせる街並みやモンスターも多数存在する。いくらカーディナルにクエスト自動生成機能があるとはいえ、エクスキャリバーの時のように崩壊ならともかく、新しい世界の創造のような大規模アップデートもかくやの事を一から構築し、反映しようとするだろうか。
一つの世界を一気に作り上げるくらいなら、ボスやアイテム、街を小出しにしていき、アイングラウンドを拡充させていく方に働く方がよっぽど”らしい”と思える。
それに何より、そう考えさせる要因があった。
「オリジナルの話だと、最近の茅場は凄くやる気に満ち溢れてるって話だし……」
夢に邁進している天災の如き様相の話をオリジナルはSA:O初日に口にしていた。あの男がそこまで意気込んでいるとなると、かつて素性がバレた時に語った《夢》を追い求めているのだと考えるのが自然だ。
そして同時期にリリースされたVRMMOは、茅場の《夢》を再現するためのような要素が散りばめられているSA:Oという世界。
この二つがまったく関係ないと考えるのは流石に無理がある。
『――……そうだな。キリカには、話しておこうか』
俺の問いに、やや悩む素振りを挟んだオリジナルが重い調子でそう言った。
言外に、その予想は当たっているという発言だ。
そしてオリジナルは、最近知った茅場の真意――本当の《夢》について語った。
幼い頃から夢想した浮遊城アインクラッド。
茅場はISの発表の中でも特に
アキトが語った『デスゲームの黒幕は茅場晶彦』という知識とズレたのは、おそらくそこ――篠ノ之束との出会いとの有無であろう事。
そして茅場はいま、その《夢》の実現のために動いている事。
宇宙進出の拠点として浮遊城を考えており、三次元的データ採取のためにSA:Oを候補にしていると聞いていた事。
――それらを、オリジナルは語った。
つまりオリジナルは知っていたのだ。SA:Oでいずれ、浮遊城が創成されるという事実を。
「ああ、だからアルゴとの配信で例の伝説について触れてたのか。夢を応援したいとか言ってたのも世間的な批判を和らげるためのポーズだったと」
『偽らざる本音でもあるけどな』
「……まぁ、気持ちは分かるよ」
ふっ、とふたり同時に苦笑する。
元が同じ俺達だ。あの世界に初めて降り立った時の感動は忘れられない。あの世界が、ただ普通に楽しめるゲームであったなら――幾度となく考えたものだ。おそらくそれはあの世界に囚われたすべてのプレイヤーが、前向き後ろ向き問わず考えた事に違いない。
ただのゲームであれば、これが現実だったならとも考えただろう。
デスゲームを経験した今も、あの世界がただのゲームであったならと考える時がある。
茅場の《夢》はそれらと同じなのだ。幼い頃からの夢想を現実にしようとしている。やろうとしている事のスケールが違うだけで、根本となる想いに違いはない。
だからこそ、俺もオリジナルも茅場の《夢》を応援したくなる。
かつて誰からも認められなかった自分の《夢》を、ただ一人認め、応援してくれた博士のように……
かつての忘れられない思い出を振り返っていた俺は、暫くして沈黙を破るように口を開いた。
「ちなみにその話、リー姉達にはしてるのか?」
なんとなく答えが予想できたが、一応聞くだけ聞いてみる。おそらくしてないだろうなぁと予想する俺の前で、オリジナルは思った通り、首を横に振った。
『みんな、SAOの事になると神経尖らせるからな。純粋に遊んで欲しかったから運営から告知されるまでは黙ってようと思ってた』
「……みんなで”安地”に集まった日に話せたんじゃないのか。何となくだが、気付いてたんだろう?」
いつから誰が呼び出したか、”安住の地”を略して”安地”と呼ぶようになった二十二層のホームを再現したところで集まった時の事を言及する。茅場に関する裏事情を把握していたオリジナルなら、プレミアという異常を知った時点でSAOデータに関する事に勘付いた筈だ。
そんな俺の言葉に、オリジナルがふっと苦笑を浮かべた。
『生憎と本当に気付いてなかったよ。当時はグラウンドクエストや聖石の女神についてセブンから聞いていなかったしな。キリカがメッセージについて話していれば、あるいは気付けたかもしれないが』
「む……」
お互い隠し事をしてただろうと、それ以上の言及を封じられてしまった。
俺達は互いに秘密にしていた事があり、そのせいでSA:Oカーディナルの思惑に気付くのが遅くなった。もしお互いが打ち明けていたなら予測だけでもすぐ気付けただろう。
だから言いっこなしだと、そう告げられたようなものだった。
『いずれにせよこれはみんなに話しておくべき事柄だ。そのとき一緒に怒られる事になる、「もっと早く言いなさい」ってな』
「……そうだな」
その未来がありありと予想出来て、俺達は同じように苦笑を漏らす。
ちょっとだけ怖くもあるが――でも、なんとなく楽しいような、そんなワクワク感が胸にはあった。
Q:つまりどういう事だってばよ?
A:《大地切断》のエピソード再現=《グラウンドクエスト》をカーディナルが早めた結果、設定が白紙だったプレミアを動かしはじめた
聖石クエストを最後まで進めるとアインクラッドが出現することがほぼ確定した
Q:アインクラッド創成って何かマズいの? 今の問題点は?
A:原作ALOに新生アインクラッドがいきなり実装された事に比べれば、死者数から比較してもまだマシレベル。アインクラッド製作者の茅場が黒幕でない点でもマシになってる
とは言えカーディナルがなぜそれを早めたのかは判明していない
プレミアが動き出した原因について分かった現状、キリカ達はそこを問題視している
・キリカ
カーディナルに目を付けられた人物
SAO時代に《Kirito》を参考に製作されたホロウとデータ基が同じで、アカウントIDが引き継がれていたのでコピー・カーディナルに目を付けられた
SAOで使われなかったサブプランとして運用されている形
『やっぱりカーディナルって信用ならん』と思っている
・キリト
カーディナルが特別視していた張本人
《クラウド・ブレイン事変》を契機にアカウントを変えていたため、SAOアカウントのIDと違い、カーディナルの目をすり抜けた。そのためメッセージが送られなかった模様
しかしプレイヤー名は同じなので、また目を付けられる可能性は非常に高かったりする
『
・フィリア
原作プログレアスナ枠のトレジャーハンター
エルフクエストを楽しんでいるが、次から次へと出てくるプレミアの謎設定で混乱してきている。それでも徐々に真実に近づいてきており、キリト、キリカを除くと現状SA:Oプレイヤーで最も真実に近い場所にいる
『結局プレミアって巫女なの? 女神なの?』と困惑している
・プレミア
巫女なのか女神なのかよくわからないNPC
キリトとキリカが情報共有した事によりなぜ動き出したかが判明した。色々と設定が混在しているが、大本は女神設定で、巫女設定は衣装をキーとしてクエストに別ルートが入るのだろうと推測されている
無論、本人は過去を覚えていないので、そうなのかー程度と思うだけ
『お風呂は気持ちよくて、ごはんは美味しくて最高です』と満足に夢の世界に旅立った
・キズメル
超強いダークエルフ近衛騎士
他種族でも認めた相手には対等に接したり、キリカ達に自身の天幕を提供したりと色々と柔軟な女性。同族からの信用も厚い
ちなみに体型はリーファ、ストレア並みにグラマラス
『もう一度キリカと手合わせしたいものだ……』と考えている
では、次話にてお会いしましょう