インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは
ダイジェスト進行ですが許してください()
視点:藍子
字数:約一万
ではどうぞ
和人が逮捕されて一日半が経過した。
元来、警察は容疑者を起訴できるよう捜査し、その資料を見て検察は起訴して勝利できるか否かを判断し、確実に勝訴出来ると踏んでから起訴に踏み出るのが一般的な刑事裁判の在り方らしい。刑事事件に於ける裁判での有罪率は99.9%――そう言われるのは、起訴された時点で有罪が確実視されるほどの証拠が揃っているからとされる。
逆に言えば、被告人を有罪に持って行けるだけの証拠が無ければそもそも起訴されない。冤罪なのに有罪という誤審を生めば、それは法の無能さを露呈するからだ。
だから検察も起訴にあたって慎重になる。当然警察もそれが分かっているから徹底的に捜査し、容疑者が犯人かどうかを判断する。
しかし今回、警察は七色という証人、監視カメラの映像、ISコアの位置情報や起動ログ、そしてアミュスフィアとSA:Oサーバーのログという複数のアリバイがある和人を問答無用で逮捕した。弁護人達からすれば不十分な証拠で、未成年の少年をだ。
そんな警察を信用出来る筈も無く、八神探偵事務所は搦め手に出た。
彼の弁護を受け負って証拠集めに動いた弁護士の星野夫妻から受けた情報収集の依頼とは別に、検察に独自に働き掛けた事で、内々で不起訴になるよう仕向けたのだ。
警察――いや、和人を貶めようとする勢力は、これで手詰まりになったと言っていい。八神探偵が言うには警察に起訴する権限は法的に存在しない。それを持つ検察をこちらの味方に付けた以上、打てる手は非常に限られる。
検察側の翻意――すなわち、検事の身内の誘拐である。
その限られた手を許すほど更識も甘くなく、昨晩から楯無は部下に指示を出し、担当検事や星野夫妻達に密かに護衛を付けた。更には篠ノ之博士の情報網、《亡国機業》の乱入を想定して《BIA》の戦力投入も考えられており、今日一日限りの全力警戒態勢が取られている。
当然というべきか、その警護の範疇には和人と親しい私達も入っている。
生還者学園は土曜日も午前中だけ授業がある。そのため普段通り登校した私達は、群がるマスコミから逃げるように校門に入り、校舎で机に齧りつき、勉学に勤しむ。その間、学園の敷地ギリギリ外にはユイとストレアの二人が張り込んでいるらしい。らしい、というのは彼女らの姿を私達は見ておらず、楯無から聞いた話でしか知らないからだ。
二人は昨夜、学園の寮に住んでいる里香や詩乃、幸達を守るために寮の周囲を警護し、その足で学園に来る手筈になっていると聞いている。
正直、心強い限りだった。
ストレアは両手剣使いとして攻略組で戦った頼もしいタンクだし、ユイはキリトの技術を体感し、見て学んでいたオールラウンダー。彼女らの守りを抜くとなれば義姉・直葉並みの技量か、あるいは二人でカバーし切れない人数が必要だが、どちらもポンと用意できるほど簡単な事ではない。
だからこそ抱けた安心感は、私に昨日よりも穏やかな学園生活を送らせてくれた。
昨日は和人の裁判、無罪に出来るかの心配、そしてマスコミや学友達からの質問攻めに辟易し、強いストレスを感じ続けていた。思い返せば昨日受けた授業の内容は殆ど記憶に無い。それほど集中できていなかったのだ。
「失礼しました」
そう自己分析をしながら、私は教室から退室した。チラリと上を見れば『視聴覚室』のプレートが見える。
そして廊下を見れば、私を出待ちしていた妹や仲間達の姿があった。
「すみません、お待たせしました。思いの外カウンセリングが長引いてしまって」
「気にしなくていいわよ。多分、みんな同じくらい掛かってるしね」
頭を下げて謝罪すると、気風の良さを滲ませながら里香が笑った。
私達が集まっているのは、この生還者学園を直轄管理する日本政府の方からカウンセリングを受けるよう指示されたからだ。
この学校に通う生徒にはその思考、感情に危険性が無いかの確認のため、定期的なカウンセリングを義務付けられている。それが突発的に行われた理由は明かされていないが、和人と関わりの深い者だけが集められている事から分かるように、彼が容疑者にされている殺人事件に関係しているのは間違いない。
そして、今の私達は地味にこのカウンセリングの結果が危うかったりする。
何せ私達は警視庁――つまり、国家権力に対して不信感を抱いている。政府の役人にも裏で繋がっている人間がいるのではないかとも疑っている。
そんな私達の深層心理が影響し、危険判定を受けるのではないかという不安があった。
いや、もしかすると異常がない結果が出ても、異常ありとでっち上げられる可能性もある。
「姉ちゃん、難しい顔してるけど、何か不安な事でもあるの?」
その懸念を察したのか、木綿季が心配げな表情で問いかけてきた。
彼女は昨日の話し合いの後からずっと機嫌がよく、マスコミに対しても余裕の対応を見せていた。そんな彼女を不安にさせるような事を言ってもいいのかと、私は更に悩み始める。
「カウンセリングの結果が気になってるんじゃないかしら」
そこで、私の思考を読んだかのように言ったのは詩乃だった。眼鏡を掛けた黒髪の少女は冷静な面持ちで私をじっと見つめている。
「この学園の”上”は政府。そして和人を逮捕してるトコも、雑に言えば同じよ。だから結果を捏造されるんじゃないかって不安に思ってる。私達が揃って異常判定を受けたら、連鎖的に和人も異常判定扱いされる、それが起訴の証拠になりかねないと考えたから……そうじゃない?」
「……当たりです。流石に、証拠になる可能性までは考えてませんでしたが」
「ま、私も自分で言っててなんだけど、流石に無いとは思うわ。証拠と言うには不確実過ぎるもの」
そう言った後、彼女は「別の証拠の補強にはされるかもだけど」と付け加えた。
その場にいる私達は口を噤んだ。彼女の言わんとする事は、流石にそこまで言われれば察するにあまりあったからだ。
「だー! やめやめ、こんな湿っぽくなるのはこれで終わりにしようぜ! 先の事なんて俺達にゃ分からないんだからよ!」
空気がズーンと重くなった途端、一人の青年がその空気を払拭するように声を上げた。それは《月夜の黒猫団》のムードメーカー担当を自称する短剣使い
「博士会長サンがアリバイのカメラ映像をメディアに出してくれたんだし、ネットの意見も和人擁護に逆転し始めてんだ。もう勝ったも同然だろ? 何かあった時はそん時に考えればいいし、今は和人が帰ってきた時のお祝いでも考えようぜ!」
そう彼が言うと、彼の左に立っていた糸目の青年
「お前なぁ、その考え方で取り返しつかなくなったの忘れてないか? 流石に行き当たりばったり過ぎるだろ」
「そうだぞ。少しはあの時の事を教訓に、慎重になってだな……」
哲樹に続き、そばかす男子の長棍使い
それに大毅が焦った表情になる。
「流石に忘れてねぇよ?! 俺はただ場を和ませようとしただけで……大体そうは言っても、俺達が出来る事って何かあるか?」
「考え続ける事だと思う」
大毅の問題提起に即座に応じたのは幸だった。振り返った大毅を見た後、胸の前で手を組みながら幸は言葉を続ける。
「実際、今の私達に出来る事は大毅の言う通り、和人の帰りを待つ事だとは思う。でもリスクは常に考えておくべきとも思う。あの世界に居た時みたいに」
「つってもなぁ……流石に気が滅入らねぇ?」
「後悔するよりマシだよ。特に、身近な人がずっと後悔し続けて、無茶するのを見てるよりも、ずっと」
「……すっげぇ耳が痛いんだけど」
大毅と幸の話を聞いていた黒猫団のリーダー・
「痛いのは、耳だけ?」
「…………心もです」
「よろしい」
頬を引きつらせながら答える啓太に、幸はうんうんと満面の笑みで頷く。
……彼女達の力関係が窺える光景だった。出会った頃の弱々しさと比べれば遥かに人間的に強くなった彼女を見て、私と木綿季は顔を見合わせ苦笑した。
下駄箱で靴に履き替えた私達は、真夏の炎天下へと足を踏み出した。容赦なく照り付ける陽光はアスファルトやレンガ詰めの地面を熱し、発生した熱気が私達に真夏の暑さをこれでもかと伝えてきた。
そんな私達を他所に、運動場やテニスコートなどでは活発に動き回る生徒の姿がちらほら見えた。
「いいなぁ……ボクも部活、やってみたい」
その光景を見て、隣を歩く双子の妹がポツリと漏らす。
こんな暑さの中でよくそう言えると思うが、彼女は元来暑さをものともせずはしゃぎ回る子だった事を思い出す。実際に外で遊び回っていたのはAIDSキャリアとして周囲に迫害され始めた小学五年生――今から六年以上も前のこと。デスゲームと発覚するまでの数時間のはしゃぎっぷりを思い返せば、彼女の反応はむしろ当然と言えた。
あるいは一女学生の憬れというのもあるかもしれない。
先輩と後輩の関係含め、女子の部活は色々ややこしい上にドロドロな裏側を持つと聞くが、意気投合する仲間がいれば華やかな青春にもなり得る。”青春”という甘美な響きに憬れを持ってしまうのは致し方ない事だ。
しかし、和人の仲間の誰一人として部活には所属していない。
生還者学園は野球部やテニス部、バスケ部など定番とも言える部活が数多存在するが、校則によりそれらへの所属を強制される事はない。元々社会復帰を前提としたセーフティネットなので勉学に力を入れる事が学生には求められているからだ。とは言え将来の方向性としてスポーツ選手もある訳で、そのために部活動の発足を承認された経緯があると、菊岡誠二郎の話を和人経由で聞かされている。スポーツを将来の生業とする人を除けば部活動はほぼ趣味の範疇とも言えるわけだ。
将来的には地域や全国試合への出場もあり得るが、現状は他校との交流も無く、ほぼ同好会レベルの範疇に収まっている。
つまり所属するにあたりかなり敷居が低い訳だが、それでも私達が所属していないのは、私達の
今でこそ更識家に私と木綿季、直葉は身を寄せなければならないが、入学当初は桐ヶ谷家から電車通学をしていた。身の安全という観点で所属しなかったわけではなかったのだ。
妹も抱く”青春”への憬れ。
それに勝る”理由”を私達は持っていた。
「でもユウ、部活に所属するとゲームをする時間が無くなるわよ?」
「そーなんだよねぇ……」
遠回しに、和人と会う時間が減るぞと伝えると、こちらを向いた妹が悩ましげな顔になった。
意図はともかく、発言だけは最早立派なゲーマーのそれである。花の女子高生と呼ばれるにはそぐいそうになかった。
そう考えていると、そうだ! と妹が声を上げた。
「ALOとかSA:Oで部活動をすればいいんじゃん!」
そう言って、名案でしょ! と言いたげにこちらを見てくる双子の妹。彼女のそれは発想の転換と言うべきか、二兎を得る机上の空論と言うべきか悩むものだったが、考えそのものは悪くないかもと思ってしまう私もいた。
恋をする青春を送っている身ではあるが、部活動というものには私も憬れを持っている。
それを体験できるかもと考え心を動かされないほど枯れてはいなかった。
「うーん……そうは言っても、何をどうやってするつもり? そもそもゲーム内で運動するならレベリングをする人の方が多い気が……」
そんな考えに一番なりそうな身内を見ながら言うと、彼女も思い当たる節があったのか、そっかーと言いながら視線を泳がせた。
「じゃあ手芸とかどう?」
そこで、話を聞いていた明日奈が話に参加してきた。彼女も惹かれるものを感じているのか興味津々な表情をしている。
「手芸って……裁縫ですか?」
「そう。SAOだと殆ど防具の耐久値回復にしか使ってなかったし、そもそも取ってる人が少なかったからね。木綿季も初体験でしょ?」
「ボクと姉ちゃんは殆どアシュレイさんのトコで仕立ててもらってたから、取る必要性低かったしね」
アインクラッドで最初に《裁縫》スキルを極めたカリスマお針子の名を上げながら妹が応じる。彼女の表情は前向きで、早速試してみようかという意気込みが見て取れた。
「帰ってダイブしたらさっそく道具と材料を揃えないと!」
「最初は市販の織物とか要らない衣類を再利用する形で練習したらいいと思うよ。あとキリカ君が最近プレミアちゃんとティアちゃんに教えてるらしいし、参加してみたらどうかな? コツとか教えてもらえるかもよ?」
「……前から思ってたけど、キリトとキリカってやっぱ女子力高いよね」
「あの子、ウチに来た頃から家事全般出来てましたからね……」
やや呆れるように木綿季が言うと、近くにいた直葉がやや遠い眼で言った。四つも年下の子供に炊事、洗濯、裁縫などで敗北を味わった記憶が蘇っているのだろう。それまでは赤ジャージ姿で過ごしていた彼女も和人が来てからは普段着も意識するようになったというから相当なショックだったらしい。
「裁縫ねー。鍛冶ばっかだったし、あたしもやってみようかしら」
「言われてみれば、わたしも調薬ばっかりだったかも……」
「オレっちもやったことないナー」
「じゃあみんなでする? 私は裁縫取ってたし、教えてあげられるよ」
女子力の話になったからか、別々で話していた女子もこちらに参加してきた。里香、珪子、朋の参加表明に対し、幸が応じる。
女子組の中で裁縫を取っていたのは明日奈と幸の二人だけだったので、彼女らを講師として、今日はSA:Oで裁縫教室を開く事になった。キリカ達といっしょにするかは後で相談するという。
その中に入っていない男子組は一先ずレベリングで時間を潰すつもりだそうだ。
「――ん? なんだろ、あれ」
取り留めもない、平和な会話をしながら正門への道を進んでいると、木綿季がふと声を上げた。
会話をしていた私達もつられて彼女が向く方を見ると、何台もの白いバンが正門を通り、校内に入ってくるところだった。何かの業者かと思いつつ道を開けるために脇に寄る。
その私達の前でバンが止まった。
スライドドアが勢いよく開く。
「死ねやぁあああッ!!!」
ドアが開き切るよりも早く、バンから男が飛び出してきた。手には肉厚の中華包丁が握られていて、それを大きく振りかぶりながら迫ってきていた。
大人数で固まっていたせいで躱す事が出来ないと判断した私は、肩に提げていたバッグを落とし、両手で男の腕を掴んで止めに掛かった。普段から直葉や更識家の人に鍛えられていたお陰かギリギリのところで凶刃が止まる。
「てめぇ、何してやがるッ!」
その隙にダッカーが男を突き飛ばした。続けてバンから降りて来た男に、突き飛ばした男がぶつかり、流れが途絶える。
そこで、漸く事態の異常さを把握した部活に励んでいた生徒の悲鳴が上がった。
「姉ちゃん、早くこっちに!」
「え、ええ!」
私は木綿季に手を引かれ、来た道を戻る形で襲撃者から逃げ始めた。
集団での学園襲撃。
およそ尋常とは思えないその暴挙に遭遇した私達は、仮想世界では無類の強さを誇る剣士だが、現実ではほぼ無力に等しい一般市民だ。武道の心得はあるが、それも鍛え始めて数ヶ月程度。凶器を持った大の大人に勝てると自惚れはしなかった。
奇襲にどうにか対応し、隙を突いて逃げ出すことに成功する。
その私達をバンから降りた男達が追い縋る。
その様子を肩越しに見ていた私は正門を通った更なる闖入者の姿に気付いた。それは中型バイク。それに二人乗りした者が、凄まじい勢いで止まったバンの横を過ぎ、男達も追い抜いた。
直後、ギャギャギャギャ! とけたたましいブレーキ音を立て、男達の壁になるようにバイクが止まる。
「生憎だけど、ここは通行止めだよ」
そう言ったのは運転手の男。バイクから降り、ヘルメットを外して露わになったその顔は、探偵をしている八神隆之だった。
「なんとか間に合ったな」
彼に続いて言ったのは、八神探偵に掴まる形で相乗りしていた小柄で華奢な子供。ヘルメットを外した子供はこちらを見て安堵の息を吐いた。
「か、和人君?! もう釈放してもらえたの?!」
その驚きを一番に表したのは明日奈だった。
彼が釈放される――つまり、不起訴にされる事は分かっていた。だが、彼の身動きを封じたい勢力は意地でもその状態を長引かせるだろうと予想し、彼の拘束は48時間ギリギリまで続くと考えていたので、これほど早く釈放されるとは予想外だったのだ。
それを含んだ驚きを、彼も分かっているのか苦笑を零した。
「八神さんのお陰でな。ただ――そのせいで、この騒ぎが起きた訳だけど」
そう言って、足を止めた襲撃者達へと向き直る和人。どうやらこの襲撃者は和人を嵌めた勢力の先鋒のようだ。
おそらく――喪ってもいい、捨て駒。
「しゃらくせぇ……! 纏めてぶっ殺してやらぁッ!!!」
そのリーダー格らしきガタイのいい男が怒鳴る。呼応するようにその仲間も叫び、駆け出した。彼らの手には包丁やバタフライナイフ、金属バット、パイプ棒などの種々様々な凶器が握られている。
それに対し、八神探偵も和人も素手。
流石に分が悪いのでは――と思っていると、彼らの横に二つの影が降り立った。
その影の主は、この学園のどこかで警護をしていると聞いていたユイとストレアだった。
「すみません、手間取ってしまいました」
「アタシ達が相手するから、二人はみんなを守ってあげて!」
そう言った後、ユイ達は男達に向かっていった。
見た目は女性そのものだが、その体はISと張り合えるスペックの機械の体。生身の男達が立ち迎える筈も無く、二分と掛からず気絶させられ、捕縛された。
八神探偵と和人の二人に守られていた私達は、通報して警察が来るまでの間、二人から諸々の事情を聴く事になった。どうにも和人は今回の襲撃者について知っている様子だったからだ。
「正直に言うと、俺が冤罪で拘束される事は予想していた事だった」
話し始めた彼は、いきなりそう切り出してきた。
とは言え、その内容に驚きはない。いきなり逮捕された事に私達も驚きはしたが、冤罪を掛けられ、身動きを封じられる事に意外性は無かったからだ。
「俺がデスゲームから生還した時、想定していた敵は《亡国機業》一つだった。けど色々な事件を経て政治的な部分にも踏み込むようになってからは、反VR派や反IS派の勢力の事も考えるようになった。俺の社会的立場や《亡国機業》への特記戦力としての効力を失わせる一手として冤罪は十分警戒していたよ。監視される事を容認していた理由の一つはそれだ」
そう言って、彼はこれまで色々な監視下に置かれていた状況は、意図していた事だったと話した。要するにアリバイ作りをしていた、と。
更識家に居候していた頃は敵が少なかった。だが《クラウド・ブレイン事変》以降はVR関係に名を挙げるようになり、IS学園襲撃事件後はIS関連にも関わり出した。彼がその都度拠点を変え、厳重な警備体制の下に身を置くようになったのは、それだけ自分を嵌めようとする敵への対抗手段を整えるため。そう聞いてはいたが、アリバイ作りも兼ねているとは初耳だった。
「今回の斬殺事件がかなり杜撰だったのは、俺のアリバイを崩す事がほぼ不可能だった事の裏返しだと思う。アバターに関して束博士が解説すれば一発で解明される事。客観的な証拠が揃ってる以上、俺が冤罪である事は明白だった。それに気付いて検察に働きかけてくれた八神さんのお陰で、俺は早々に解放された」
「桐ヶ谷君を拘束する理由はもう無くなった。それなのに拘束し続けようとするなら、そうしようとしてるヤツが内通者だ。検察からせっつかれて尚解放しないなら余計目立つ。その状況に根負けして、警察は彼を解放したんだ」
和人に続き、裏で動いていた探偵の青年も語る。探偵にとって彼の釈放は内通者を割り出す手段の一つだったが、それが思いのほかうまくいったようで、既に目星は付けているという。
そんな彼がバイクを操り、この学園まで来たのは、半ば偶然の事だったらしい。
八神さんはツテを辿って検事と共に警視庁を訪れ、和人の釈放を要求。長い話し合いの末に相手が根負けし、無事釈放。
その直後、方々を警戒していた束博士がISコア・ネットワークを介し、和人にも一報を入れた。武装した集団が各地で暴れており、その一つが生還者学園にも向かっている、と。
それを知った和人はバイクで来ていた八神探偵を頼り、ここまで直行したのだという。
「本音を言うと、【無銘】なり【黒椿】なり使って来たかったんだけどな……」
「《亡国機業》と繋がりがあれば無条件で使えるのは俺も知ってる。けど、連中が《亡国機業》と繋がってる証拠が出てくるか分からない以上、今後のために早まらない方がいいって俺が言ったんだ」
ISを使えばもっと早くに来れていた。それを止めたのは、探偵兼弁護士でもある八神さんのようだった。今回は法を悪用されているので明らかな物証が出てくるまで慎重になるべきだと和人を諫めたらしい。
実際は民間人をISで襲っている事態も彼のIS使用条件に含まれるのだが、現状分かっている範囲ではISを使った暴動は起きていないようだ。
「――けど、ここからが勝負どころだ」
しかし、彼はまるで、その事態が来ると確信しているかのように言った。その眼には爛々とした闘志――そして、それと等量の怒りが宿っていた。
「俺の戦う理由は、みんなを守ること。だからどうしても後手にならざるを得ない。初手は必ず敵のものだ」
そこまで言った彼は、でもここからは違う、と強く言う。
「完封だ。二度目は、もう許さない。そのためにしばらく俺は《亡国機業》と須郷信之の対応に動く。だから――――仮想世界の方は、任せた」
そう言った和人は、ヘルメットを被り、探偵が操るバイクに跨って去っていった。
その後、遅れて警察がやってきたが、そのほとんどはユイ達や学園に警備員が応じたので、私達は短時間で解放される。学園の正門を出たところで寮組の里香、幸らと別れた私と木綿季、直葉は、正門前に停まっていた更識家の送迎者に乗り込み、更識邸への帰路に就いた。
「ふぅ……」
車に乗り込み、発進したのを体で感じた私は静かに息を吐いた。
窓を見れば、門の前に屯していた情報誌や記者などのマスコミ達の姿が流れていっている。元を辿れば男性操縦者の和人の身内を保護し、警護するための居候と送迎という対応を、以前までは少し仰々しく感じていたのだが、今となってはあってよかったと本気で思う。でなければ間違いなくどこまでも追いかけられ、終いには桐ヶ谷家の前でずっと張り込まれていただろうから。
それを考えると、寮組のみんなの苦労が偲ばれる。昨日、今日の二日間という短さとは言え、流石に記者達のしつこさには辟易させられる。級友達にも押しかけているという話を耳にしているから猶更だ。
蔑称を付けられているのも頷ける話だった。
「明日奈さん、大丈夫でしょうか。彼女だけ電車通学ですし……」
そんな中、特に心配なのは二年来の友であり、姉でもある結城明日奈の事だ。彼女は仲間内で唯一の電車通学なのだ。本人は寮生活を切望したのだが、SAO事件の事で両親や兄がひどく心配していた事、それと入学当時、母親は明日奈を進学校に編入させる腹積もりだった事から寮入りは断念させられていた。
現在は実父・彰三氏、実兄・浩一郎氏から《レクト》の経営や苦労話について学ぶべく、納得した上で自宅からの電車通学を続けていると聞いている。
そんな彼女を逃す筈も無く、おそらく自宅前も含め、通学路の至るところに記者達は待ち構えている筈だ。それを延々と続けられて大丈夫かと私は心配だった。
「いやー、明日奈なら大丈夫だと思うよ」
心配に駆られる私とは対照的に、隣に座る木綿季は楽観的に考えているようだった。それはなぜかと疑問の視線を投げると、双子の妹は苦笑を浮かべながら語った。
「明日奈ってアインクラッドだと女性プレイヤー一の人気者だったもん。ファンクラブに詰め寄られてた時期もあったし、その時の経験でマスコミの対応は問題ないと思うんだ」
「……あぁ、あったわね、そんな事も」
もう遥か昔の事のように思えるが、今から一年近く前は全SAOプレイヤーの希望として《攻略組》は見られていて、階層突破後の《街開き》の時は英雄の如く祭り上げられていた。各ギルドリーダーが一番それを受けていたが、個人的なファンも数多く、それの筆頭が当時【閃光】の異名で知られたアスナだったのだ。
知名度で言えば妹のユウキも負けていない。実際、実力面で言えば女性最強は妹のものだった。リーファは須郷によってステータス改竄を受けていなかったので、傍から見ればユウキの方が絶対的に強かったのだ。無論、暗黙の了解的にリーファの方が強いと誰もが考えていたのだが。
しかし、ビジュアルの面から居れば、女性的な美しさを持っているのはアスナの方だった。それはつまり『男受け』という観点でファンの数は彼女の方が多かったという事である。
要するにユウキは、かつて数多の男に声を掛けられ、求婚も幾度となくされたらしい経験を活かし、記者をうまく捌くだろうと考えている訳だ。
言われてみれば、それもそうかも、と私も思った。
公言してはいないものの、半月前から和人と正式に交際を始めた私、木綿季、明日奈、直葉、詩乃、幸、朋、虹架、七色の中で精神的な変化が大きいのは明日奈だ。現実に戻ってからの彼女はどこか気弱だったが、交際し始めてから少しずつ攻略の鬼とも揶揄された【閃光】の頃に戻り始めているように感じた。未だ変化は小さいが、交際前後で比較すれば明らかだった。
今の彼女なら、記者を前に怯む事は無いだろう。むしろ『斬殺事件』について問いを投げてきた記者に対し冷笑を向けて黙らせるくらいするかもしれない。
――死への恐怖よりもずっと強い想いを持てたから。
その思いが、彼女をはじめ多くの仲間の根幹になっているのなら。
今回、襲撃者の最初の奇襲をどうにか止めて、パニックにならなかった私も、それを抱けているのだろうか。
流れ行く景色をぼうっと眺めながら、私は胸の裡に湧くあたたかなものに思いを馳せた。
本作生還者組は危険な状態に慣れ過ぎてるので、事件後も普通に世間話してそうなんですよね。プログレキリトの『非日常を日常にする』が形になった感じ
本作和人が現実でも仮想でも命張ってる状況に引きずられてるせいですねぇ!
・紺野藍子
奇襲をギリギリ防いだ少女
本作では桐ヶ谷家に引き取られて以降、直葉に師事する形で武道を学んでいる。原作でユウキ以上の才覚なら何とかなるでしょう(ふわっと理論)
かつて絶望し、ユウキに依存する理由となった『目の前に迫る死の恐怖』を自力で跳ね除けられた辺りが藍子の成長要素。ユウキ達が得た強さの理由をランも持てたのだ
・紺野木綿季
目の前で姉を殺されかけた妹
逆鱗に触れられて内心ガチギレているが、姉の安全を優先しているので抑え込んでいる。竹刀を持っていたら立ち向かっていたかもしれない
部活動に関しては《原典ホロリア》のサブイベが元ネタ
・桐ヶ谷直葉
その実力を発揮できなかった人
無手でもそれなりに出来るが、誰かを守りながらは慣れてないので普通に逃走した。八神・和人コンビが暴れていれば参加していたかもしれない
・八神隆之
お助け探偵キャラ
また国家規模の闇を嗅ぎ付けて動き回っている。その一環で、知り合いの検事と共に警視庁を訪れ、和人の釈放を迫った
和人と行動を共にする事で真実に近づけると確信しているので一緒に行動している
・桐ヶ谷和人
主人公
今回、様々な人に助けられ、約30時間で釈放された。冤罪で拘束された場合の展開を想定していたので監視カメラなど様々な記録媒体でアリバイ作り、証人作りをしていた
今回の策の杜撰さから相手の焦りぶりを察し、叩き潰すために動き出す
・襲撃者達
半グレ構成員
中華包丁とか持ってるけど別に《笑う棺桶》は関係ない。和人らも顔を見てノーリアクションなので元ラフコフ構成員ではない
タイミング的に《亡国機業》との関与を疑えるが、普通に反VR派や生還者学園を疎ましく思う高官の可能性もある。彼らを潰して回り、統率する奴を捕まえようとしているのが八神と和人の現状
『ジャッジアイズ』だと雑魚筆頭だけど、普通の学生からすると一人いるだけでも危険ですユイとストレアの方にもかなりの数いったけど数分で制圧され、藍子達側も制圧された
・キリカ
巫女二人の裁縫の先生
現状リアルで動くと冤罪が増えかねないのでアイングラウンドで女子力を伝授している
では、次話にてお会いしましょう