インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは
本日四話目投稿だオラァッ!(無礼)
筆が乗ったからその勢いで書きました。でも短めなので幕間です
ちなみにややホラーチックです
視点:ティア(初!)
字数:約三千
ではどうぞ
私に”私”という自我が生まれた時の事はよく覚えている。
私には過去が無い。
名前も無い。
自分が何者か分からず、行く当てもなく彷徨っていた私が”私”という個を得たのは、武装した男から助けられた時の事だった。銀の髪と金の瞳、そして己よりも小さな体の剣士だった事をよく覚えている。
直前まで襲われていたというのに、なぜ無防備に、警戒もせずその剣士――後にキリトと知った――に付いて行ったのかは、今でも分からない。
ただ襲ってきた男とは違うというのは分かっていたから付いて行ったのだと思う。
「……あの出会いが無ければ……私は、どうなっていたのだろうか……」
《アインタウン》で鍛冶屋を営む女性から宛がわれた部屋で、窓の外の夜景を眺めながら、私はそう独りごちた。
分かり切った答えだった。まず間違いなく死んでいた。
ただ――今にして思えば、あのとき死んでいた方がよほどマシだったかもしれないとも思った。キリトに街まで送られ、別れた後は、思い出したくもない日々だった。冒険者達に命を狙われ、隠れ、恐れと共に剣を取って抗う日々を味わうのはもう二度と嫌だ。
再び助けられてから暫く経つ今も、私は人に、その陰に潜む狂気と死に怯えている。
そんな私には、分からなかった。
自分と瓜二つの少女――泣き黒子があるかないかだけが容姿の差異である、少女プレミア。彼女は己の意志で戦う覚悟を決め、少し前にキリト達と浮遊城へ戦いに行く準備のために出かけている。
なぜ戦う決意を持てるのか。
あの少女は、恐ろしくないのか。死の危険が。戦う事が。
人が……恐ろしくは、ないのか。
「う、ぁ……は、ぁ……っ」
脳裏に浮かぶ無数の人影。それを自覚するだけで、私は震え、竦んでしまう。冒険者達が私に向ける害意――殺意が、途方も無く恐ろしい。
もっとも恐ろしいのは、私を殺す事に対し、彼らはまるで遊びのように振る舞っていた事だ。『殺せばレアドロップがあるかも』などと、意味不明な事をにやけた顔で言い、躊躇なく肉厚の武器で四肢を、この命を刈り取ろうとしてきた。
冒険者は――人は、異常だ。
決して受け入れるべきでない存在なのだ。
彼らが口にしていた『エヌピーシ』や『エーアイ』という単語が、恐らく冒険者達とは異なる存在を指している事は理解できた。私や街の人々を指す事も。そして、そんな彼らを躊躇なく殺せるのが冒険者である事も理解していた。
私を助けてくれたのはキリトだけだ。
……けれど、そのキリトもまた、冒険者の一人なのだという。
私とは違う存在。私と違って、何度でも蘇るらしい存在。
――いつ、彼の刃がこちらを向くか分からない。
ないと思いたい。だって彼は、一度ならず二度までも私を助け出してくれた。絶望的な戦力差を覆して勝利し、守ってくれた。そんな彼が私を殺そうとなんてする筈がない。
そんな訳ない。
そんな訳ない。
そんな訳ない。
――――ホントウに?
どれだけ否定する思考を浮かべても、ほんのわずかな疑念が入り込んでしまう。その声に、不安でいっぱいな私は耳を傾けてしまう。
――――ホントウに、そうオモう?
脳裏に響く声。それは己のものだった。
私が発した訳ではないが、それでもその声は、確かに自分のものだった。その声が執拗に問うてくる。ホントウか、と。
惑わすように。
誘うように。
――――そんなツゴウのイいコトなんて、ナいよ
「うるさい……うるさい、うるさい!」
逃げるように、怯えるように、私は怒鳴った。開いた眼は一人だけの屋内を映している。自分以外に人影はない。誰もいない。
それでも――声は、止まない。
――――ミンナ、ウソつき
――――ダレも、ボクをマモってくれない
――――ダレも、ワタシをスクってなんてくれない
――――ミンナ、ミンナ、ミーンナ……アタシをウラギる
――――だから、コワそう?
――――オレタチをコワしたように
――――あのヒトタチを、コワしツくしちゃおう?
気付けば、部屋の明かりは消えていた。窓の外から入ってくる筈の月と星の明かりも消えていた。
いや、遮られた、と言うべきだ。
だって――部屋の中には、どこかから湧きだした不定形の闇に溢れていたのだから。
「やめて……来ないで……!」
私は恐怖した。冒険者達に殺されそうになった時とは別の、よく分からない恐怖を抱いた。ここから、この部屋から一秒でも早く出たかった。
扉に向かった私は、そこで絶望した。
扉があかない。
そんな筈がないと煩悶する。鍵は内側からしか掛からない筈なのに。鍵は開いている筈なのに。
ノブを回す。ガチャガチャと音が鳴るだけで、一向に扉が開く気配がなかった。
それまでとは打って変わって、しわがれ、罅割れ、低くなった声が耳朶を打った。真横から聞こえたそれにぞくりと背筋が凍る。体が凍る。
その隙にと、足が闇に沈んだ。
胴が闇に包まれた。
腕が。
肩が。
そして、首まで来て……
”私”という個は、闇に飲み込まれた。
――何もかもが闇に覆われた私の意識は、気絶する事を許されなかった。
脳裏に叩き込まれる知識のせいだ。
私が知る由の無い概念。私が知る筈のない人々の名前、顔、土地――それらが次から次へとひっきりなしに叩き込まれていく。
忘れる事は許されない。
そう言わんばかりの強烈な刷り込み。
気を喪えればどれほど楽だろうと思った。
ともすれば、いまならそう恐れる事無く死ねるのでないかとも思えた。
――脳裏に灼きつくのは過去の情景。
アイングラウンドに住まう人々が冒険者達の手で、あるいは連れ出された先で魔物に殺され、あげつらい、笑われ、絶命していく日々の回想。それが何人、何十人、何百人と積み重なる。
同じ町の同じ人間の別の死に方を見た。
別の街の見覚えのある誰かの死にざまを見た。
醜悪な笑みと共に殺される女性の最期を見た。
怯えながらも懸命に戦い散った勇敢な男の死を見た。
時間にしてどれくらいかは分からない。
けれど――その全てが、冒険者達によって引き起こされたものであるのは明白だった。
だから、私は自ずと理解した。
私を包んだ闇は、この大地で殺され、無念を重ねた人々の怨念だ。彼らは冒険者を憎んでいる。ただ健やかに暮らし、平穏に生き、冒険者達との共存を望んでいた中で裏切られた事を只管に憎んでいる。
だから求めた。終わらせられる人を。
――それが私だと教えられた。
巫女。聖大樹の巫女。聖石の女神。
私には、この世界を終わらせる力があると、そう識った。別の街でそれを為した結果があの天空の城なのだと念は教えてくれた。
けれど、まだ足りないのだと。
祈りを捧げた女神は一人だから足りないのだと。
あと一人、必要なのだと。
この世界を怨み、破壊し、淘汰し、新たな創成を行おうと決意できる女神が必要なのだと。
――それが私なのだと、彼らは言う。
どうか、敵を討って。
どうか、みんなを救って。
お願いします、女神様――
その思念が脳裏を駆け巡る。
――――気付けば、私は元の宿屋に戻っていた。
闇は無い。部屋の明かりは戻り、月明りも窓から入ってきていた。
それに頓着せず、私は部屋を出ようとする。
そして、その時に気が付いた。たまたま鏡台に映った私の姿はかつてと変わり、銀八に青い瞳へと変化していたのだ。
「――丁度いい」
その変化を、私は笑みと共に受け入れた。
これは決別だ。
弱かった私との。冒険者達となれ合っていた私との。
――でも、一つだけ、心残りがあった。
さらりと、片口の髪を払う。銀糸のような髪がはらりと舞った。
「すべてを終わらせる前に、せめて、あの人だけは……」
思い浮かべるのは、同じ髪色になった剣士。私を二度も救ってくれた他とは違う冒険者。
彼だけは、私にとっては”特別”だ。
僅かに頬を綻ばせる。
私の笑みは、ほんの少しだけ熱く感じた。
ずっと前にアンケートで取った難易度『ですげーむ』の理由その1です
・黒い闇
4サーバーで死んだNPC達の怨念
イメージとしては『聖杯の泥』
ホロウ(半トップダウン型)が怨念と共鳴出来たんだからそこから進歩したSA:OのAIも出来るでしょ理論
ぶっちゃけると『原典ホロリアDLC第三弾』に関わっている
・半壊アインクラッドの創成者
別サーバーの巫女
統一化時に消えてないのでナンバリング的にはプレミア、ティアとは異なる個体
・ティア
色々と覚醒した破壊巫女
ビジュアルが原典の白髪ティアにチェンジした
現状『怨念スリュムに憑依されたヴァフス』状態。怨念と自身の境遇もあって世界復讐を志すが、唯一自身を救ったキリトには特別感を抱いている
・キリト
ティアに唯一心を許されているプレイヤー
こいついっつもAIを誑かしてんな()
では、次話にてお会いしましょう