インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 お久しぶりです。十ヵ月ぶりの更新です、すみません。リアルがゴタついてたので……何に手を付けても疎らで集中できてなかったせいです


 大雑把なあらすじ

 《ソードアート・オリジン》に現れた未完アインクラッド。浮遊城が完成するとSAOで最後に崩壊したようにオリジンも崩壊する事になるため、完成を阻止すべくキリト達が突入

 途中、負に呑まれたティアを相手するべくキリトは離脱。後にティアは消滅した筈のホロウキリトの助けもあり負から解放されて帰還

 一方キリカ達は、進軍中にキリカとユウキがSAO時代に立ち返って心意を発現。負の瞋恚に呑まれたモンスター達への特攻を得る

 上記の様子を見てアリスが人界を思い返し、右目の封印で痛みに苦しむ。そこでキリトとティアが合流すると、敬神(パイエティ)モジュールによる思考誘導が発動し、アリスがキリトに斬りかかり、心意と瞋恚をぶつけ合って地盤崩壊。二人はどこかへ放り出されキリカ達と離れ離れになる

 キリトとアリスの事は心配だが多分戻ってくるだろうと考え、キリカとプレミア達は《アインクラッド崩壊シミュレーションモジュール》の停止を優先する←今ココ


視点:プレミア

字数:約五千

 ボス戦に入る前のやり取りが中心です

 ちなみに非プレイヤー型AINPCキャラの主観では、自分や相手のHPゲージ、名前などは見えてません。自分の体力は『体を構成する魔力が減った』とかスタミナ的な概念での把握で一貫させています

 ではどうぞ




第四十七章 ~"闇"からの(しるべ)

 

 

 キリトがアリスと共に居なくなった後、私達はアリスの代わりにティアをキリカのパーティーに加え、いよいよ先へ進むことになった。

 

 正直なところ、アリスに一体何が起きていたのか、彼女に関してキリトが知った事が何かを私はよく分かっていない。だからなぜあの二人が争うことになったのかも分からない。

 だが、分かる事はある。

 アリスは、彼女なりに戦っていたのだと思う。自分にはまだ理解できないところで打ち克とうとしていたのだと。キリトはそれに巻き込まれた形だったけど、それに力を貸すために戦ったのだ。”闇”に囚われたティアを助け出そうとしたように。

 

 それが分かるくらい、私は自分で思った以上に冷静さを保てていた。

 

 もちろん最初は戸惑った。アリスの変容ぶりはあまりに唐突だったからだ。

 けれどその戸惑いを、キリカの言葉が打ち消した。

 だから落ち着けた。双子だというティアを本当に助け出したのだ――だから、キリトの事を信じられた。キリカが信じるキリトを信じた。

 リーフェやキズメル達も、私達よりキリトとの付き合いが長いユウキ達も、キリカの言葉で落ち着きを取り戻したように見えた。流石はこの”れいど”を率いる”りーだー”だと笑みが零れる。

 

 ――そうして私達は最奥へと足を踏み入れた。

 

 元々最奥へ近づくにつれ、吹き抜けだらけだった部分も穴が無くなり、風は吹かず、光も届かないようになっていた。それはまるで洞窟を介して地面を潜るような感覚だった。

 最奥は、正に地面の底――地底と評したくなる暗さだった。

 しかし、見える。

 光源は石だ。明るいところではよく分からなかったが、暗闇の中では、あの青黒い石材は僅かながらの光源となっていた。更にそれらには青白い線が走り、何かの紋様を形作っているように見えた。それは広間の床全域に渡って刻まれている。天井や壁のそこかしこにも紋様があった。

 床と壁は繋がっておらず、外周部には空いている穴からは白い粒子が噴き出している。

 思ったより光源が多く、ある程度時間が経つとそれなりに見えるようになってきた。

 

 その広間の中央に、件の少女がいた。

 

 黒髪、青服の少女。出で立ちは自分や以前のティアと変わらない。だからその少女が自分達と同じである事がすぐに分かった。

 自分とティアの出生について、かなり噛み砕かれた形で説明は受けている。”ここ”と同じ場所があと四つあり、《聖石の女神》や《聖大樹の巫女》の役割を担う少女が、自分達の他にあと六人いることも。

 そのうちの一人が六つ集まった聖石に祈りを捧げ、浮遊城を再臨させたことも。

 それら全てが”もじゅーる”というものが仕組んだものであることも。

 

 ――祈りを捧げた巫女は、”闇”に囚われていることも。

 

 その巫女にとって、救いの手は差し伸べられなかった。自分にはキリカが、ティアにはキリトがいたが、彼女には無かった。

 彼女の可能性は、冒険者の手によって(とざ)された。

 それ故の怨みと共鳴し、”闇”に囚われた事を、無知ながらに私も把握した。

 

 ――――複雑な視線を向ける中、”闇”が形を成し始めた。

 

 三人目となる巫女を覆うように、囲うように、包むようにそれが具現化していく。

 それの全体像としてはまるで鳥かごだった。吊るす部分は無いが、その周囲を茨の王冠のようなものがグルグルと回っている。

 闇の茨が茫然と立ち尽くす巫女を掬いあげ、囲いの中に入れた。

 その後、青い転移光を伴い、茨の鳥かごを守るように結晶体が複数出現する。青い球体の周囲に茨が周り、上下に大小の剣を付けたような奇妙な物体だった。更に左右には巨大な円錐型のランスが出現し、その穂先をこちらに向けた。

 

「キリカ……これが、”もじゅーる”というものなのですか……?」

 

 ティアの時とは別の意味で禍々しさがあった。

 それに身を竦ませていると、二刀を提げた彼が横目に視線を向けてきた。

 

「ああ。それで、あの巫女を何がなんでも保持したいらしい。形がそれを物語ってる」

「鳥かご、だよねぇ。どう見ても……」

「モジュールを作った奴の性根が透けて見えるようだぜ、ありゃぁ」

 

 キリカに続くように、アスナとクラインが言った。二人を含め、仲間の誰もが嫌悪感を前に出した表情をしている。

 ――その中で、一際苦痛の表情をティアが浮かべた。

 ぐっ、と呻きを上げて膝をついた。

 

「ティア、大丈夫――っ?」

 

 ですか、と。そう続けようとしたが出来なかった。

 私も膝をつくことになったからだった。

 

 ――自分のものではない何かが流れ込んでくる。

 

 脳裏に映る様々な光景。

 自分ではない誰かの視点。

 何れも別人のものだろう、()()に見た瞬間。

 胸中に入り込み、占拠する様々な感情。

 ――いずれも、自分のものではない。

 流れ込んできているのは経験したことが無いものばかりだった。それらをどう表現すべきかは分からない。分かる事は、自分のものでないということ。

 そして、おそらくはティアが”共感”したもの――”闇”を構成するものであるという事だ。

 

「か、は……っ」

 

 意志が塗り潰されるのを感じる。

 感情が上書きされるのを感じる。

 仲間への安堵は、■■(けいかい)に。

 記憶から感じる温かみは、■■(いかり)に。

 剣を握る意志は、世界への■■(うらみ)に。

 

 ――――これが、世界を取り巻くもの……!

 

 あまりの衝撃に声も出ない。

 伝わってくる全てが気分を害するものだった。

 人を騙して笑う者、魔獣の餌にして笑う者、囮にして自身は安全を確保する者、そして直接的に手に掛ける者。いずれも冒険者の姿だった。

 それらへの感情も、気分のいいものではなかった。

 

 ――――これが、ティアが抱いていたモノ。

 

 ――――これが、キリトが打ち克ったモノ。

 

 ”闇”がかつてのアインクラッドを取り巻いていた負であるとは聞いていた。ティアを取り込んだものには、この世界のものも含まれている事も聞いていた。

 それを、本当の意味でいま識った。

 

 

 

 ――自分やキリカの成り立ちも。

 

 

 

「そう、だったんですね……」

 

 そうして、私はようやく理解した。『プレミア』と名付けられた自身の全てを把握した。

 人でないモノ。

 造られたイノチ。

 人工の、知能。

 私に、名前が無かったのは。

 キリカと出会う前までの記憶が、無かったのは――

 

 

 

 ――――なら、”(それ)”を大切にするといい。”過去(思い出)”はそうして作っていけばいいんだ

 

 

 

 ――だからこそ、キリカは私にああ言ったのだ。

 私には寄る辺に足る過去が最初から無かった。

 その原因を、キリカはとっくに知っていて、そして『今』を大切にしなければどうなるかも知っていた。

 

「プレミア、ティアもしっかりしろ!」

 

 蹲っている私にキリカが声を掛けてくる。闇を払う輝きが、閉じた瞼の裏側まで届いて見えた。瞼を開き、顔を上げる。

 視界いっぱいに二刀を携える少年の背が広がった。その手が握る二刀から流れる光をその身に纏って、私達に伸びようとする闇から守ってくれていた。

 その背を見ると、体を縛り付ける重苦しさが取れていくように感じられた。

 

「ティアは……っ」

 

 立ち上がりながらティアの方に顔を向ける――いや、向けようとして、はたと気付いた。

 

 キリカと私の周囲の足元全てが薄暗い。

 

 原因は――頭上。

 

「二人とも、上!」

 

 そこで投げられるユウキの声。言われて頭上を振り仰げば、私を貫かんと青色の円錐型の頂点がギラリと凶悪な輝きを放って浮遊していた。

 咄嗟に飛び退こうと後ろに体を動かす。

 

 ――だが、思ったように足が動かず、尻餅をついてしまった。

 

 飛び退こうと地を蹴った時に、それを抑制する力を感じた。まるで張り付けられたように足が動かない感触。それは第二エリア《オルドローブ大森林》でそこかしこにあった沼地に足を取られた時の感触に近く感じた。

 これを『不覚』と言うのだろうなと、どこか他人事のように考える。

 足元が薄暗かったのは、円錐型のランスの影だけでなく、"闇"が全体に張り巡らされているからだろう。私達の身動きを取れないように"もじゅーる"とやらが展開したに違いない。

 キリカの光は、私を呑まんと迫る"闇"を払ってくれたけど、流石に対応しきれなかったらしい。

 ちら、と横目で仲間達を見れば、同じように尻餅をつくか、前のめりにつんのめって両手を突くなど、誰もが体勢を崩していた。例外は光を纏うキリカとユウキだけ。

 

「プレミアッ!」

「くっ……! 間、に、合、え――――ッ!」

 

 そうして、光を纏う二人が同時に動き出した。キリカはすぐ後ろにいた私を抱き上げ、その場から飛びのいた。

 ユウキはティアの下へ駆け出した。だがその表情に余裕は無く、今まで見た事無いくらい険しい面持ちだった。

 

 ――蹲っていたティアが、頭上を振り仰ぐ。

 

 同時、キィィン、と甲高い唸りと共に巨大な槍が落下を始めた。

 

「ティア……ッ!」

 

 堪らず、キリカの腕の中で彼女の名前を呼ぶ。

 

 届かないと理解していながら――それでも私は、手を伸ばした。

 

 

 

 ――直後、耳を劈く音と巨槍が弾かれた。

 

 

 

 ギャリィ!!! と聞いた事ないくらいのけたたましい音量。見た事無いくらい激しく散る、橙色の火花。ズン、と重い音を立てて大人になったティアの横に落ちる槍。

 それらが立て続けに起きて目を見開いた私は、ふと、さっきまでそこに居なかった筈の人影に気が付いた。

 

「キリト……?」

 

 その人物は、アリスと共にどこかに行ってしまったキリトと瓜二つだった。

 違いを探す方が速いくらいあまりに酷似している。

 強いて挙げるなら、キリトと違って胸鎧や手甲、足甲を装備していない事と、禍々しい魔剣や神々しい聖剣を持っていない事だろうか。両手に握られているのは片刃の黒と白の剣。その内、右手の黒い片刃剣で頭上から落ちる槍を叩き落としたようで、そちらの剣を振り抜いた姿勢だった。

 表情はギリギリ横顔が見える程度。それから読み取れるのは、"もじゅーる"に囚われている巫女を睨みつけている事だけだった。

 

「――ホロウ……?」

「なに……?!」

 

 しかしティアは違ったようだった。彼女は自身の前に立ち、槍を叩き落とした人物にそう問いかけた。

 それにキリカは今までで一番の驚きを見せた。目を瞠り、その黒い瞳を瓜二つのホロウと言うらしい少年へと向けている。その表情がどこか他の冒険者に向けていたものより険しく感じるのは気のせいだろうか。

 

「本当に、ホロウなのか?」

 

 疑問が幾つも湧き上がる中、同じように疑問を浮かべているらしいキリカが、ホロウに対しそう問いかけた。

 するとホロウと呼ばれた方が顔だけこちらを向け、キリトやキリカでは見た事がない『片頬をつり上げる』笑みを浮かべ、肩を竦める。

 その挙措に込められた意味を彼は正確に受け取ったようで、「マジか」と愕然と呟いた。

 

「けど、お前、なんで……」

 

 何かを続けようとしたキリカの言葉にホロウは答えず、視線を"もじゅーる"へと戻した。

 私達が倒すべき対象と定めたそれは二つの巨大な槍を呼び戻し、万全な攻撃態勢を見せていた。それを見て私やキリカ、ホロウの登場に呆気に取られていたティアやユウキ達も再度立ち上がり、武器を構える。

 

 そこで、あれ、と疑問が浮かんだ。

 

「足が、取られなくなりました」

 

 それは、自然と身動きを取れたことだった。立ち上がるのにも構えを取るのにも動くが、それがさっきは出来なかった。けれど今は出来る。

 何故出来るようになったのか。

 その答えが何であるかは、流石に私にも理解できていた。ティアの前に立つ少年へ顔を向ける。多分、私以外の仲間も同じように目を向けていた。

 

「俺は仮想世界(アインクラッド)に蔓延る"負"を抑え込む人柱。世界が変わろうとも役目は変わらない」

 

 そう言った彼は、「だが」と続け――吐き捨てるように言った。

 

 

 

「『死』への悲しみは、もう必要ない」

 

 

 

 ――ああ、優しい人なんだな。

 

 忌々しそうに、吐き捨てるように言ったホロウに私はそんな印象を抱いた。

 キリトよりどこか荒々しくて、キリカよりも感情的な瓜二つの少年が憎しみに身を焦がし、キリトと争った過去を私はさっき識った。どんな人なのかと掴み損ねていたが、なんて事は無い。

 進む道を違えど、その根底はきっと――そんなに違わない。

 この世界が。アイングラウンドが造り物で、私達も造られたイノチだけど――そんな私達にも命があると、ホロウも認めているのだ。キリトやキリカ、ユウキ達と同じように。

 私達が死ぬことをホロウも受け入れられないと。

 ――この世界に、『死』なんて必要ないと。

 その思いで、彼はティアを助けてくれたのだ。多分、キリトが彼女を助けようとしている時にも、一度。

 きっとこれを伝えたところでホロウは認めようとしないだろうけど――でも、きっとそうなのだと、私は思った。

 

 そう思っていると、ホロウが徐にキリカに視線を投げた。

 

「どうした、キリカ。お前がこのレイドのリーダーだろ? ――指揮を執ってくれ」

 

 好戦的で、どこか挑発的な笑みと共にホロウが言った。

 途端――クッ、とキリカが笑みを零した。堪えきれないと言わんばかりの笑み。

 

「――"闇"は任せていいんだな?」

「ああ、役目は全うする」

「分かった――――全員、"闇"の事は気にするな! "モジュール"破壊と巫女の救出に全力を傾けろ!!!」

 

 言葉少ないやり取り。交わされたのは、言葉以上の――根底での繋がりによる信頼か。

 それを羨みながら、彼の指示に『おー!』と声を上げ、駆け出した。

 

 






 はい、如何だったでしょうか

 展開に苦渋したのでワクワク感は薄かったでしょうね。次章の展開の妄想が捗り過ぎて、却ってSA:O編が疎かになるという本末転倒具合よ……


・Pray The Origin Midium
 翻訳すると《原初の巫女の祈り》
 プレミア、ティア、キズメル、リーフェ達からは見えていないが、プレイヤー達には見えている
 原作だと左右の槍は第二形態からだが、本作では"負"のクラウド・ブレインの影響で殺意が高くなっているので第一形態から出現している


・キリカ
 SA:O事変の解決に奔走するレイドのリーダー
 プレミアから最も信頼されており、それを分かっているのでキリカも優先的にプレミアを守ろうと動いている。その判断にはSAO時代の『死』へのトラウマが大いに関与している
 自身は違うが、プレミアやリーフェ達は死ねば終わりなのでデスゲームと大差ない意識のため
 ステータスがSA:O仕様なので実はあんまり余裕が無い


・ホロウ
 "闇"を抑え込む人柱になっていたAI
 オリジナルとの死闘後のためやや物腰が柔らかく、更に少し前向き。ティアを助けた目的には『死』に対する悲しみの感情をこれ以上発生させたくないからでもあった
 ステータスはSAO時代(ホロウ・エリア攻略後)のものを引き継いでいるのでかなり余裕がある
 イメージは『答えを得た後の錬鉄の英雄』


・プレミア
 "闇"を介し、ティアと同じように世界の真実を知ったAI
 アインクラッドとアイングラウンドでの出来事を知ったが、キリカという拠り所があったので闇落ちは回避した。居なかったら発狂エンドだったと思われる
 一番キリカの優しさに触れていたので、キリト、ホロウの根底の性格の一致に何となく気付いた(尚伝えると否定される)


・ティア
 キリカより先に、ホロウである事に気付いた大剣使いの大人巫女AI
 キリトが居ないので会得した心意に安定感が無い。しかし一度は自身の本音と向き合わせたホロウの助けもあり、画面外で持ち直している



 戦闘回は次話から……早めに出来るよう、インスピレーションを湧き立たせたいと思います

 でもSA:Oのラスボス、人型じゃないから描写が難しいんですよね……

 では次話にてお会いしましょう

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